引当金として計上するには、現在の債務の存在、流出の可能性が高いこと、金額を信頼性をもって見積もれることの3つを満たす必要があります。
いずれかを満たさない場合は、引当金として計上せず偶発負債として注記します。引当金の検討は同時に偶発負債の検討でもあります。
この記事では、3つの要件、現在の債務の判断、注記に書くこと、偶発負債の扱い、上場準備での整理を扱います。
- 引当金の認識の3要件と、満たさない場合の扱い
- 推定的な債務という考え方
- 将来の営業損失に引当金を計上しない理由
- 引当金の注記に書く5つの項目
- 支出の時期の見込みが抜けやすいこと
- 訴訟に関する注記で開示を省略できる場合
図 引当金と偶発負債の書き分けの判定
📌 結論 3つの要件で引当金か偶発負債かが決まる
引当金として計上するには、3つの要件をすべて満たす必要があります。過去の事象から生じた現在の債務があること、その債務の決済に経済的便益の流出が生じる可能性が高いこと、そして金額を信頼性をもって見積もれることです。
いずれかを満たさない場合は、引当金として計上せず、偶発負債として注記します。したがって、引当金の検討は同時に偶発負債の検討でもあります。
3つすべてを満たしたときに引当金として計上する
🧭 現在の債務があるか
最初の要件が、現在の債務の存在です。ここでいう債務には、法的な債務だけでなく、推定的な債務も含まれます。過去の慣行や公表した方針によって、他者に対して一定の責任を果たすという期待を生じさせている場合が該当します。
たとえば、法的な義務がなくても、製品の不具合について過去に無償で対応してきた実績があれば、推定的な債務が生じている可能性があります。この判断は、過去の対応の記録と、社外への表明の内容から行います。
一方、将来の営業損失に対しては引当金を計上しません。将来発生する損失は、過去の事象から生じた現在の債務ではないためです。この点は日本基準と同じ考え方です。
📊 注記に書くこと
引当金については、種類ごとの増減表を示します。期首残高、当期の繰入、取崩、戻入、そして期末残高という動きです。あわせて、債務の内容、支出の時期の見込み、金額や時期に関する不確実性を説明します。
増減表と、支出の時期の見込みが中心
支出の時期の見込みは、実務でよく抜ける項目です。引当金の金額だけを示しても、いつ資金が流出するのかが分からないと、読み手は流動性の判断ができません。1年以内か1年超かの区分だけでも示すと有用です。
また、保険による回収など、第三者から補填を受けることが見込まれる場合は、その金額も示します。この場合、資産と負債を相殺せず、それぞれ計上します。
📊 記載例
引当金の注記の例です。区分ごとに期首から期末までの増減を示します。
| 項目 | 製品保証引当金 | 資産除去債務 | 訴訟損失引当金 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 期首残高 | 180 | 240 | - | 420 |
| 期中増加額 | 120 | 18 | 80 | 218 |
| 時の経過による調整額 | - | 2 | - | 2 |
| 期中減少額(目的使用) | △96 | - | - | △96 |
| 期中減少額(戻入れ) | △12 | - | - | △12 |
| 期末残高 | 192 | 260 | 80 | 532 |
| 区分 | 金額 |
|---|---|
| 流動負債 | 272 |
| 非流動負債 | 260 |
| 合計 | 532 |
訴訟損失引当金は、当連結会計年度に提起された損害賠償請求訴訟に備えたものであり、支出の時期は現時点で確定しておりません。
会社名と数値は架空です。目的使用による減少と戻入れによる減少は分けて示します。戻入れの金額が大きい場合、当初の見積りの精度が問われます。
偶発負債は引当金ではないため、この表には入れず、文章で説明します。発生の可能性が高くない義務は、金額を示さずに内容だけを記載します。
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📁 実際の開示事例
引当金を種類別に分け、増減を目的使用と戻入に分けて示している例です。
22.引当金(当連結会計年度)
引当金の増減(単位:百万円) 項目 賦課引当金 環境対策引当金 訴訟損失引当金 資産除去債務 その他 合計 期首残高 3,460 1,062 2,010 1,258 989 8,782 期中増加額(引当) 3,664 78 1,048 2,514 2,526 9,833 期中増加額(時の経過) - - - 1 - 1 期中減少額(目的使用) △3,472 △25 △1,753 △6 △514 △5,772 期中減少額(戻入) △22 - △234 △141 △100 △498 為替換算差額 60 85 575 9 80 811 期末残高 3,690 1,201 1,647 3,636 2,999 13,175
計上区分(単位:百万円) 区分 前連結会計年度 当連結会計年度 流動負債 4,514 6,362 非流動負債 4,267 6,812 合計 8,782 13,175 (2) 環境対策引当金 土壌改良工事等の環境対策を目的とした支出に備えるため、今後発生すると見込まれる金額を計上しております。経済的便益の流出が予想される時期は、主に当連結会計年度末より1年を経過した後の時期です。
出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 22.引当金
▶ 読み方 目的使用による減少と戻入による減少を別の行にしている点が要点です。戻入が多いと当初の見積りが過大だったことになるため、この2つを分けることで見積りの精度が外から見えます。もうひとつ、引当金ごとに経済的便益の流出時期を文章で説明しています。金額の表だけでは、いつ現金が出ていくのかが分かりません。流動と非流動の内訳を示すのも同じ目的です。
要件の判定から注記の記載まで、監査法人との協議を見据えて整理します。IFRSの導入支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
🗂 偶発負債の注記
偶発負債は、財政状態計算書には計上せず、注記で示します。示すのは、その内容、財務的な影響の見積り、不確実性の内容、そして補填を受ける可能性です。
偶発資産は、流入がほぼ確実になるまで認識しない
流出の可能性がほとんどない場合は、注記も不要です。したがって、すべての潜在的な債務を書く必要はありません。可能性の程度によって、計上、注記、記載不要の3段階に分かれます。
訴訟については、注記の書き方に注意が必要です。会社の見通しを詳しく書くことが、訴訟の相手方に不利な情報を与える場合があります。基準にも、そうした場合に開示を省略できる規定があり、その場合はその旨と理由を示します。
⚖️ 上場準備での整理
上場準備の会社では、引当金と偶発負債の洗い出しが審査の準備とも重なります。訴訟、労務に関する紛争、製品の不具合、環境に関する義務、契約上の保証といった事項を網羅的に把握しておく必要があります。
把握の方法としては、法務部門や外部の弁護士への確認、各部門への照会、契約書の確認といった手続を組み合わせます。この確認を決算のたびに行う仕組みにしておくと、注記の作成が安定します。
また、引当金の見積りの根拠を記録に残します。過去の実績にもとづく率を使っているのか、個別の案件ごとに見積もっているのか、外部の専門家の意見を得ているのかを明らかにしておきます。この記録は、監査でも審査でも求められます。
❓ よくある質問
A. 現在の債務があること、流出の可能性が高いこと、金額を信頼性をもって見積もれることの3つです。すべてを満たすと計上します。
A. 引当金として計上せず、偶発負債として注記します。流出の可能性がほとんどない場合は注記も不要です。
A. 推定的な債務が生じている場合は該当し得ます。過去の慣行や公表した方針で、責任を果たすという期待を生じさせている場合です。
A. なりません。過去の事象から生じた現在の債務ではないためです。
A. 支出の時期の見込みです。金額だけでは、いつ資金が流出するのかが分からず、流動性の判断ができません。
A. 補填が見込まれる金額を示します。資産と負債を相殺せず、それぞれ計上します。
A. 相手方に不利な情報を与える場合には、開示を省略できる規定があります。その場合はその旨と理由を示します。
A. 訴訟、労務の紛争、製品の不具合、環境の義務、契約上の保証を網羅的に把握します。決算のたびに確認する仕組みにします。
📄 まとめ
引当金は3つの要件をすべて満たしたときに計上します。満たさない場合は偶発負債として注記します。
現在の債務には推定的な債務も含まれます。過去の対応の記録と社外への表明が判断の材料になります。
注記では増減表に加えて、支出の時期の見込みを示します。金額だけでは流動性の判断ができません。
訴訟については、相手方に不利な情報を与える場合に開示を省略できる規定があります。
上場準備では、潜在的な債務を網羅的に把握する仕組みを作り、見積りの根拠を記録に残します。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
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金融商品とリスクの注記
グループと開示の枠組み
📚 参考(公的な一次情報)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 金融商品取引法(e-Gov法令検索) 24条の4の4
- 会社法(e-Gov法令検索)