IFRSの法人所得税の注記|税率差異と回収可能性

法人所得税の注記で最も読まれるのが、税率差異の説明です。法定実効税率と実際の負担率の差が、どういう要因で生じたのかを示します。

もう1つの中心が、繰延税金資産の回収可能性です。IFRSには日本基準のような会社の分類がなく、将来の課税所得が生じる可能性を個別に判断します。

この記事では、注記の項目、差異の分解、回収可能性の判断、一時差異の内訳、子会社の未分配利益を整理します。

この記事でわかること

  • 法人所得税の注記に書く7つの項目
  • 税率差異を要因ごとに分解する手順
  • その他の項目が大きく残る場合の意味
  • 繰延税金資産の回収可能性を判断する5つの要素
  • 日本基準の会社分類がIFRSにはないこと
  • 子会社の未分配利益に係る税金の扱い
繰延税金資産を計上するか一時差異と税務上の繰越欠損金を集計する将来加算一時差異があるか繰延税金負債を計上するはいいいえ将来の課税所得が生じる可能性が高いかその範囲で繰延税金資産を計上するはいいいえ子会社への投資に係る差異で解消の時期を支配できるか繰延税金を計上しないはいいいえ回収可能性が認められず、繰延税金資産を計上しない

図 繰延税金資産を計上するかの判定

📌 結論 税率差異の説明が中心

法人所得税の注記で最も読まれるのが、税率差異の説明です。法定実効税率と、実際の税金費用の負担率との差が、どういう要因で生じたのかを示します。

差の要因としては、交際費などの永久差異、税額控除、繰延税金資産の未認識、税率の変更、海外子会社との税率の違い、過年度の税金の調整といったものがあります。これらを項目ごとに示すことで、税負担の構造が伝わります。

法人所得税の注記に書くこと項目内容税金費用の内訳当期税金と繰延税金の区分税率差異の説明法定実効税率と実際の負担率の差の要因繰延税金の内訳一時差異等の発生原因別の金額繰延税金資産の回収可能性未認識の繰越欠損金や一時差異の額期限のある繰越欠損金失効する時期ごとの金額その他の包括利益の税効果項目ごとの税額未分配利益に係る税金子会社の未分配利益に対する負債

税率差異の説明が、注記のなかで最も読まれる部分

🧭 差異の分解

税率差異の分解は、実務では検算の役割も果たします。税引前利益に法定実効税率を乗じた金額と、実際の税金費用の差を、要因ごとに説明できなければ、どこかに計算の誤りがある可能性があります。

税率差異の注記を作る4段階法定実効税率を確定する税引前利益に法定実効税率を乗じた金額を出す実際の税金費用との差を要因ごとに分解する重要な要因を項目として示す

差の分解ができないと、計算の誤りに気づけない

分解した結果、その他という項目が大きく残る場合は、要因の把握が不十分ということです。金額の大きい要因は個別に示し、その他に含める金額は小さく抑えます。

連結では、子会社ごとに適用される税率が違うため、その差も要因として現れます。海外子会社がある会社では、この項目が大きくなることがあります。

📊 繰延税金資産の回収可能性

繰延税金資産は、将来の課税所得と相殺できる範囲で認識します。この判断が実務では最も難しい部分になります。

回収可能性の判断で見る要素要素確かめること将来の課税所得事業計画にもとづく見込み一時差異の解消将来加算一時差異との相殺タックス・プランニング実行可能で確実な計画があるか過去の実績近年に損失が続いていないか欠損金の期限解消の見込みが期限内に収まるか

近年に損失が続いている場合は、説得力のある証拠が要る

日本基準では、会社の分類に応じた回収可能性の判断の指針がありますが、IFRSにはそうした分類がありません。将来の課税所得が生じる可能性が高いかどうかを、個別に判断します。

近年に損失が続いている会社では、将来の課税所得が生じるという判断に説得力のある証拠が求められます。事業計画があるというだけでは足りず、なぜ損失から利益に転じるのかを説明できる必要があります。

認識しなかった繰越欠損金や一時差異については、その金額を注記で示します。また、期限のある繰越欠損金については、失効する時期ごとの金額も示します。

📊 記載例

法人所得税の注記の例です。税率差異の調整と、繰延税金の内訳を示します。

設例 法人所得税

(1)税率差異の調整

法定実効税率と平均実際負担税率の差異(単位:パーセント)
項目 当期
法定実効税率 30.6
交際費等永久に損金に算入されない項目 0.8
受取配当金等永久に益金に算入されない項目 △0.3
住民税均等割 0.2
未認識の繰延税金資産の増減 1.4
海外子会社の税率差異 △1.2
その他 0.4
平均実際負担税率 31.9

(2)繰延税金資産および負債の発生原因別の内訳

繰延税金の内訳(単位:百万円)
項目 金額
繰延税金資産 未払費用 104
繰延税金資産 棚卸資産の未実現利益 86
繰延税金資産 繰越欠損金 240
繰延税金資産 退職給付に係る負債 190
繰延税金資産 その他 120
繰延税金資産 合計 740
繰延税金負債 その他の包括利益を通じて公正価値で測定する金融資産 △58
繰延税金負債 無形資産 △310
繰延税金負債 合計 △368

会社名と数値は架空です。差異の項目は、率が小さくても性質が異なるものは分けて示します。

繰越欠損金に係る繰延税金資産を計上した場合、その回収可能性の判断根拠を文章で説明します。上場準備会社では過去に欠損があることが多く、この説明が注記の要になります。

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📁 実際の開示事例

税率差異の調整表の例です。海外子会社が多い会社の典型的な差異項目が並びます。

実際の開示事例 味の素株式会社(証券コード2802)

18.法人所得税 (6) 法定実効税率と実際負担税率の調整

法定実効税率と実際負担税率との差異について、原因となった主要な項目の内訳は、以下のとおりです。実際負担税率は税引前利益に対する税金費用の負担割合を表示しております。

税率差異の調整(単位:パーセント)
項目 前連結会計年度 当連結会計年度
法定実効税率 30.6 30.6
持分法による損益 △1.8 △1.3
在外営業活動体の適用税率との差異 △7.9 △4.6
永久に損金又は益金に算入されない項目 3.2 1.0
法人税額の特別控除等 △3.3 △2.5
未認識の繰延税金資産及び負債の増減 1.8 0.4
外国子会社からの配当に係る源泉税等 6.7 2.7
その他 △4.0 △0.3
実際負担税率 25.4 26.0

当社は、主に法人税、住民税及び損金算入される事業税を課されており、これらを基礎として法定実効税率を計算しております。ただし、在外営業活動体はその所在地における法人税等が課されております。

出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 18.法人所得税

▶ 読み方 法定実効税率30.6パーセントから実際の負担税率26.0パーセントまで、どの要因で何ポイント動いたかを1行ずつ示しています。海外子会社を持つ会社では、在外営業活動体の税率差異と、外国子会社からの配当に係る源泉税が大きな項目になります。上場準備会社では、未認識の繰延税金資産の増減が最も大きな差異になることが多く、この行の説明を求められます。差異の合計が実際負担税率に一致することを必ず検算してください。

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🗂 一時差異の内訳

繰延税金資産と負債について、発生原因別の内訳を示します。減価償却の差、引当金、未実現利益の消去、繰越欠損金、資産の評価差額といった区分です。

この内訳は、期首から期末への変動も含めて示すと、動きが分かります。損益に計上した分、その他の包括利益に計上した分、企業結合による増減、為替換算による変動といった要因を分けます。

集計の実務では、その他の包括利益に関わる税効果を切り出す作業が負担になります。全体の繰延税金の計算から、その他の包括利益に対応する部分を分けて把握する仕組みを、決算の手続に組み込んでおきます。

⚖️ 子会社の未分配利益

子会社の未分配利益について、将来の配当に係る税金の負債を認識する場合があります。親会社が配当の時期を支配でき、予測可能な将来に配当しない場合は認識しないという例外がありますが、その判断の根拠が必要です。

海外子会社がある会社では、この論点が出てきます。配当を受け取る際に源泉税が課される国の子会社では、未分配利益に対する税金の負債を認識するかどうかで、繰延税金負債の金額が変わります。

注記では、負債を認識していない一時差異の合計額を示します。この情報は、将来の配当政策と税負担の関係を読み手に伝えるものです。上場準備の段階で海外子会社を持つ会社は、この論点を早めに整理しておきます。

❓ よくある質問

Q. 税率差異の説明では何を書きますか

A. 法定実効税率と実際の負担率の差を、永久差異、税額控除、未認識の繰延税金資産、税率の変更、海外子会社の税率差などの要因に分けて示します。

Q. 分解の意味は開示だけですか

A. 検算の役割も果たします。差を要因ごとに説明できなければ、どこかに計算の誤りがある可能性があります。

Q. その他の項目が大きくても問題ないですか

A. 要因の把握が不十分ということです。金額の大きい要因は個別に示し、その他に含める金額は小さく抑えます。

Q. 繰延税金資産の回収可能性はどう判断しますか

A. 将来の課税所得が生じる可能性が高いかを個別に判断します。IFRSには日本基準のような会社の分類がありません。

Q. 損失が続いている場合はどうなりますか

A. 説得力のある証拠が求められます。事業計画があるというだけでは足りず、なぜ損失から利益に転じるのかを説明できる必要があります。

Q. 認識しなかった分も開示しますか

A. 認識しなかった繰越欠損金や一時差異の金額を示します。期限のある繰越欠損金は失効する時期ごとの金額も示します。

Q. その他の包括利益の税効果はどう集計しますか

A. 全体の繰延税金の計算から、その他の包括利益に対応する部分を切り出します。決算の手続に組み込んでおきます。

Q. 子会社の未分配利益に税金の負債が要りますか

A. 配当の時期を支配でき、予測可能な将来に配当しない場合は認識しない例外があります。判断の根拠が必要です。

📄 まとめ

税率差異の説明が注記の中心です。要因ごとに分解できることが、開示にも検算にも役立ちます。

その他の項目が大きく残るのは、要因の把握が不十分なサインです。

繰延税金資産の回収可能性は個別に判断します。日本基準のような会社の分類はありません。

認識しなかった繰越欠損金や一時差異は、金額と失効時期を注記で示します。

海外子会社を持つ会社では、未分配利益に係る税金の扱いを早めに整理しておきます。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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