IFRSの無形資産とのれんの注記|開発費の資産化と減損

無形資産の注記で日本基準と最も違うのが、のれんの扱いです。日本基準では一定の期間で償却しますが、IFRSでは償却せず毎期減損テストを行います。

もう1つの大きな違いが開発費です。日本基準では発生時に費用としますが、IFRSでは開発段階の支出について一定の要件を満たした場合に資産として計上します。

この記事では、無形資産の区分、開発費の資産化、注記に書くこと、のれんの減損テスト、上場準備での準備を整理します。

この記事でわかること

  • 無形資産の3つの区分と償却の有無
  • のれんを償却しないことが業績に与える影響
  • 開発費を資産化する6つの要件
  • 要件を満たした日の特定がなぜ重要か
  • のれんの減損テストで注記に示す主要な仮定
  • 企業結合で取得した無形資産の識別
開発費を資産に計上できるか研究開発に関する支出が生じた研究の段階の支出か発生時に費用として処理するはいいいえ完成させる意図や技術上の実行可能性など6つの要件をすべて満たすか開発費として資産に計上するはいいいえのれんや耐用年数を確定できない無形資産があるか毎期減損テストを行うはいいいえ要件を満たさないため費用として処理する

図 開発費の資産計上とのれんの取扱いの判定

📌 結論 のれんを償却しないことが最大の違い

無形資産の注記で日本基準と最も違うのが、のれんの扱いです。日本基準ではのれんを一定の期間で償却しますが、IFRSでは償却せず、毎期減損テストを行います。

この違いにより、のれんを多く抱える会社では、日本基準からの移行によって利益が増えることがあります。一方で、減損が生じたときの影響は一度に大きくなります。この構造を理解したうえで、減損テストに使う情報を整えておくことが実務の中心になります。

無形資産の区分と扱い区分償却耐用年数を確定できるソフトウェア・顧客関係・技術耐用年数にわたって償却する耐用年数を確定できない商標権の一部・一定のライセンス償却せず毎期減損テストを行うのれん企業結合で生じた超過額償却せず毎期減損テストを行う

のれんを償却しない点が、日本基準との最大の違い

🧭 開発費の資産化

もう1つの大きな違いが、開発費の扱いです。日本基準では研究開発費を発生時に費用として処理しますが、IFRSでは開発段階の支出について、一定の要件を満たした場合に資産として計上することが求められます。

開発費の資産化の要件要件確かめること技術上の実行可能性完成させて使用または売却できるか意図完成させて使用または売却する意図があるか能力使用または売却する能力があるか将来の便益便益を生み出す方法を示せるか資源完成させるための資源を確保できるか支出の測定開発期間中の支出を信頼性をもって測定できるか

6つすべてを満たしたときから資産化する

要件は6つあり、すべてを満たしたときから資産化します。技術上の実行可能性、完成させる意図、使用または売却する能力、将来の便益を生み出す方法、必要な資源の確保、そして支出を信頼性をもって測定できることです。

研究開発費の処理を4段階で判定する活動が研究段階か開発段階かを区分する研究段階の支出は発生時に費用とする開発段階の支出は6つの要件を確かめる要件を満たした日以降の支出を資産化する

要件を満たした日を特定できないと資産化できない

実務で難しいのが、要件を満たした日の特定です。この日以降の支出だけが資産化の対象になるため、日を特定できないと資産化ができません。開発のプロジェクトについて、段階ごとの承認や成果物の記録を残しておく必要があります。

また、支出をプロジェクト単位で集計する仕組みも必要です。人件費、外注費、材料費といった支出を、プロジェクトごとに区分して記録していないと、資産化する金額を計算できません。

📊 記載例

無形資産とのれんの注記の例です。のれんは償却しないため、増減の内容と減損テストの結果を示します。

設例 のれんおよび無形資産

(1)のれんの増減

のれんの増減(単位:百万円)
項目 金額
期首残高 4,250
企業結合による増加
減損損失
為替換算差額 38
期末残高 4,288

(2)のれんの配分

資金生成単位への配分(単位:百万円)
配分先 金額
報告セグメントA 3,900
報告セグメントB 388
合計 4,288

(3)無形資産の内訳

無形資産の内訳(単位:百万円)
区分 帳簿価額 償却年数
ソフトウェア 620 5年
顧客関連資産 840 10年
商標権 210 15年
開発費 180 3年

顧客関連資産および商標権は、企業結合により取得したものであります。

(4)研究開発費

当連結会計年度に費用として認識した研究開発費は940百万円であります。

会社名と数値は架空です。のれんは資金生成単位のグループへの配分額まで示します。配分を示さないと、減損テストの単位が読み手に伝わりません。

開発費のうち資産計上した金額と、費用処理した研究開発費の金額は、いずれも記載します。この2つが並ぶことで、開発活動のどこまでを資産としたのかが伝わります。

📁 実際の開示事例

のれんの減損テストについて、主要な仮定と、割引率が何ポイント上がると減損に至るかまで示している例です。

実際の開示事例 味の素株式会社(証券コード2802)

14.非金融資産の減損 (3) のれん及び耐用年数を確定できない無形資産の減損テスト

のれんの減損テストは、資産の回収可能価額を使用価値により算定しております。使用価値の算定に当たっては、割引キャッシュ・フロー予測を用いております。

使用価値の算定に当たっては、経営者が承認した事業計画に基づいております。当該事業計画は、業界の将来の見通しに関する経営者の評価と過去の実績を反映したものであり、外部情報及び内部情報に基づき作成しております。

資金生成単位ごとの主要な仮定(当連結会計年度)
資金生成単位 事業計画の期間 成長率 税引前割引率 回収可能価額が帳簿価額を上回る額
味の素フーズ・ノースアメリカ社 5年間 3.0パーセント 12.0パーセント 44,407百万円
コーヒー類(日本) 3年間 1.9パーセント 7.4パーセント 156,932百万円

味の素フーズ・ノースアメリカ社について、仮に割引率が3.1パーセント上昇した場合、減損損失が発生する可能性があります。

出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 14.非金融資産の減損

▶ 読み方 のれんは償却しないため、毎期この減損テストの結果を注記します。書くべきことは、資金生成単位、使用価値か公正価値か、事業計画の年数、成長率、割引率、そして回収可能価額が帳簿価額をどれだけ上回っているかです。この例では、割引率が何ポイント上昇すると減損に至るかまで示しています。余裕が小さい単位ほど、この感応度の記載が求められます。事業計画の年数が単位ごとに5年と3年で違う点にも注目してください。

開発費の資産化やのれんの管理を整えたい場合

要件の判定から集計の仕組みまで、適用開始を見据えて設計します。IFRSの導入支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。

お問い合わせはこちら前の記事 IFRSの有形固定資産の注記料金の目安を見る

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。

初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら

📊 注記に書くこと

無形資産についても、有形固定資産と同様に種類ごとの増減表を示します。取得原価と償却累計額の期首から期末までの動き、取得、企業結合による増加、処分、償却、減損といった変動です。

耐用年数を確定できない無形資産については、その金額と、なぜ確定できないと判断したのかの理由を示します。この判断は毎期見直し、確定できるようになった場合は償却を開始します。

研究開発費として当期に費用処理した金額も開示します。資産化した金額とは別に、費用となった総額を示すことで、研究開発への投資の規模が伝わります。

🗂 のれんの減損テスト

のれんは償却しないため、毎期減損テストを行います。テストでは、のれんを配分した資金生成単位について、回収可能価額を算定し、帳簿価額と比較します。

注記では、資金生成単位ごとののれんの帳簿価額、回収可能価額の算定方法、算定に用いた主要な仮定、そして仮定が変わった場合の影響を示します。この注記は分量が多くなりがちで、見積りの注記とも重なります。

主要な仮定としては、将来の事業計画の期間、その後の成長率、割引率が挙げられます。これらの数値を具体的に示すことが求められ、抽象的な記載では足りません。

⚖️ 上場準備での準備

上場準備の段階でIFRSを適用する会社では、無形資産に関する準備が重くなることがあります。特に、企業結合を行っている会社では、取得した無形資産の識別と評価が必要になります。

日本基準では、のれんに含めていた顧客関係や技術といった要素を、IFRSでは個別の無形資産として認識することがあります。この識別と評価には、外部の専門家の関与が必要になる場合が多く、時間もかかります。

また、開発費の資産化については、プロジェクトの管理の仕組みを整えることが前提になります。要件を満たした日の記録、プロジェクト別の支出の集計、資産化した後の償却期間の設定といった運用を、適用開始の前に作っておきます。後から遡って作ることは困難です。

❓ よくある質問

Q. のれんは償却しないのですか

A. IFRSでは償却せず、毎期減損テストを行います。日本基準からの移行で利益が増えることがある一方、減損の影響は一度に大きくなります。

Q. 開発費は資産になりますか

A. 開発段階の支出について、6つの要件をすべて満たした場合に資産として計上します。研究段階の支出は発生時に費用です。

Q. 要件を満たした日はなぜ重要ですか

A. その日以降の支出だけが資産化の対象になるためです。日を特定できないと資産化ができません。

Q. プロジェクト別の集計は必要ですか

A. 必要です。人件費、外注費、材料費をプロジェクトごとに区分して記録していないと、資産化する金額を計算できません。

Q. 耐用年数を確定できない無形資産とは何ですか

A. 更新が見込まれる商標権やライセンスなどです。金額と、なぜ確定できないと判断したのかの理由を示します。

Q. のれんの減損テストで何を注記しますか

A. 資金生成単位ごとの帳簿価額、回収可能価額の算定方法、主要な仮定、仮定が変わった場合の影響です。

Q. 主要な仮定はどこまで書きますか

A. 事業計画の期間、その後の成長率、割引率といった数値を具体的に示します。抽象的な記載では足りません。

Q. 企業結合をしているとどうなりますか

A. 日本基準でのれんに含めていた顧客関係や技術を、個別の無形資産として認識することがあります。識別と評価に時間がかかります。

📄 まとめ

IFRSではのれんを償却せず、毎期減損テストを行います。これが日本基準との最大の違いです。

開発費は6つの要件をすべて満たした日以降の支出を資産化します。日の特定と支出の集計が前提になります。

注記では種類ごとの増減表を示し、耐用年数を確定できない資産はその理由も書きます。

のれんの減損テストでは、事業計画の期間、成長率、割引率といった主要な仮定を具体的に示します。

企業結合を行っている会社では、取得した無形資産の識別と評価に時間がかかります。早めに着手します。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

IPO支援に強い、公認会計士 IPO支援に強い、公認会計士

ベンチャー・スタートアップ企業の
経営管理支援・IPO支援

お問い合わせ

書くより話すほうが早いときは、お電話でも承ります TEL 03-6820-0406