IFRSの棚卸資産の注記|評価減の戻入と分類の設計

棚卸資産の注記そのものは日本基準と大きく変わりません。会計方針、分類ごとの帳簿価額、費用として認識した金額、評価減の金額といった内容です。

実務で違いが出るのは、評価減の戻入があり得るという点です。理由が解消した場合に戻し入れるため、評価減の理由を品目ごとに記録しておく必要があります。

この記事では、注記に書くこと、評価減の管理、分類の設計、費用として認識した額、上場準備での準備を整理します。

この記事でわかること

  • 棚卸資産の注記に書く6つの項目
  • 日本基準との主な違いと、評価減の戻入
  • 評価減の理由を記録しておくべき理由
  • 分類の区分を事業の実態に合わせる考え方
  • 費用として認識した額が果たす役割
  • 評価減の基準を社内で定めるときの注意点
評価減と戻入をどう扱うか期末の棚卸資産を評価する正味実現可能価額が原価を下回るか差額を評価減として費用に計上はいいいえ前期に評価減した資産の価値が回復したか評価減を戻し入れるはいいいえ通常の営業過程で販売できない在庫か個別に評価して開示するはいいいえ取得原価のまま計上を続ける

図 棚卸資産の評価減と戻入の判定

📌 結論 評価減の戻入があるかが分かれ目

棚卸資産の注記そのものは、日本基準と大きく変わりません。会計方針、分類ごとの帳簿価額、費用として認識した金額、評価減の金額といった内容です。

実務で違いが出るのは、評価減の戻入があり得るという点です。日本基準では、いったん切り下げた簿価は原則として戻しませんが、IFRSでは評価減の理由が解消した場合に戻し入れます。この処理のためには、評価減をした理由を品目ごとに記録しておく必要があります。

棚卸資産の注記に書くこと項目内容実務での論点会計方針原価の算定方法と評価の方法個別法・先入先出法・加重平均法分類ごとの帳簿価額商品・製品・仕掛品・原材料など自社の実態に合う区分にする費用として認識した売上原価に含まれる棚卸資産の額機能別表示の場合の補足になる評価減の額当期に認識した評価減費用のどの科目に含めたか評価減の戻入戻し入れた額と理由日本基準と扱いが違う担保に供した額借入の担保となっている棚卸資産契約の内容も併せて示す

評価減の戻入があり得る点が、日本基準との大きな違い

🧭 評価減の管理

評価減は、正味実現可能価額が帳簿価額を下回る場合に計上します。正味実現可能価額とは、通常の事業の過程での見積売価から、完成までの見積原価と販売に要する見積費用を差し引いた金額です。

日本基準との主な違い論点IFRS日本基準後入先出法認められない認められない評価の基準正味実現可能価額まで切り下げる正味売却価額まで切り下げる評価減の戻入事情が解消すれば戻し入れる原則として戻し入れないトレーディング目的公正価値で測定する場合がある限定的

戻入の処理があるため、評価減の理由と解消の記録が要る

評価減の理由には、市場価格の下落、陳腐化、破損、需要の減少といったものがあります。このうち市場価格の下落は、価格が回復すれば理由が解消します。陳腐化や破損は解消しません。したがって、理由ごとに扱いが変わります。

評価減とその戻入を管理する4段階期末に品目ごとの正味実現可能価額を見積もる帳簿価額を上回る部分について評価減を計上する評価減の理由を品目ごとに記録する翌期以降、理由が解消したかを確かめ戻入を判断する

評価減の理由を記録していないと、戻入の判断ができない

実務では、評価減の計算を一括で行い、理由を記録していないことがあります。この状態だと、翌期に戻入が必要かどうかを判断できません。品目ごと、または評価減の類型ごとに理由を記録する運用にしておきます。

📊 分類の設計

分類ごとの帳簿価額を示す際、どういう区分にするかは会社が決めます。商品、製品、仕掛品、原材料、貯蔵品という区分が一般的ですが、事業の実態に合わせて変えられます。

たとえば、受注生産が中心の会社では、案件ごとの仕掛品が重要になります。小売業では、店舗と物流センターの在庫を分けることに意味があるかもしれません。読み手が事業を理解できる区分を選びます。

区分は年度をまたいで継続します。区分を変えると比較可能性が損なわれるため、変える場合は前年度の数値も組み替えて示します。

📊 記載例

棚卸資産の注記の例です。内訳、費用として認識した金額、評価減の3つを示します。

設例 棚卸資産の注記

(1)内訳

棚卸資産の内訳(単位:百万円)
区分 前期末 当期末
商品及び製品 1,620 1,840
仕掛品 380 420
原材料及び貯蔵品 590 660
合計 2,590 2,920

(2)費用として認識した棚卸資産の金額

当連結会計年度に費用として認識した棚卸資産の金額は24,900百万円であり、売上原価に含まれております。

(3)評価減

評価減と戻入れ(単位:百万円)
項目 前期 当期
正味実現可能価額への切下げによる評価減 64 78
過年度の評価減の戻入れ △14

戻入れは、販売価格が回復したことによるものであります。

会社名と数値は架空です。評価減の戻入れは、日本基準の洗替法とは異なり、切下げの原因が解消した場合に限られます。戻し入れた理由まで書きます。

評価減の金額と戻入れの金額は、いずれも売上原価の内訳として示すのが一般的です。金額が小さい場合でも、戻入れがあった事実は記載します。

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📁 実際の開示事例

棚卸資産の注記で、評価減の金額を独立して示している例です。

実際の開示事例 味の素株式会社(証券コード2802)

10.棚卸資産

棚卸資産の内訳は、以下のとおりです。

棚卸資産の内訳(単位:百万円)
区分 前連結会計年度 当連結会計年度
商品及び製品 161,416 174,812
仕掛品 39,027 48,644
原材料及び貯蔵品 86,508 95,175
合計 286,952 318,632

期中に費用に認識した棚卸資産の金額は、前連結会計年度967,999百万円、当連結会計年度974,818百万円です。

期中に認識した棚卸資産の評価減の金額は以下のとおりであり、上記の期中に費用に認識した棚卸資産の金額に含まれております。

評価減(単位:百万円)
項目 前連結会計年度 当連結会計年度
評価減 3,206 3,905

出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 10.棚卸資産

▶ 読み方 注目したいのは、費用として認識した棚卸資産の総額と、そのうち評価減がいくらかを分けて示している点です。日本基準では評価減は売上原価に含めて表示されるだけのことが多く、金額が外から見えません。IFRSでは両方を注記するため、原価率の変動が販売数量によるものか評価減によるものかを読み手が判断できます。上場準備の段階では、この2つの数値を毎期集計できる仕組みを作っておく必要があります。

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🗂 費用として認識した額

当期に費用として認識した棚卸資産の金額を示します。これは通常、売上原価に含まれる棚卸資産の払出額に相当します。

費用を機能別に分類している会社では、売上原価の内訳が本体からは見えません。この注記が、売上原価のうちどれだけが棚卸資産の払出しによるものかを示す役割を果たします。

この金額の集計には、原価計算の仕組みが関わります。標準原価を使っている場合の差異の扱い、間接費の配賦、期末の原価差異の調整といった要素を踏まえて、注記に示す金額を確定します。

⚖️ 上場準備での準備

棚卸資産の注記で準備が要るのは、評価減の管理と、分類ごとの集計です。どちらも在庫の管理システムの設計に依存します。

評価減については、品目ごとの滞留期間、直近の販売実績、市場価格といったデータが必要になります。これらがシステムから取り出せないと、期末のたびに手作業で集計することになります。

また、評価減の基準を社内で定めておくことも重要です。滞留期間に応じた一定の率で評価減を行うという基準を設けている会社もありますが、その基準が正味実現可能価額の考え方と整合しているかを確かめておきます。基準があること自体は良いのですが、実態と乖離していれば、その基準を使い続けることが問題になります。

❓ よくある質問

Q. 棚卸資産の注記は日本基準と大きく違いますか

A. 注記の項目そのものは大きく変わりません。実務で違うのは、評価減の戻入があり得る点です。

Q. 評価減の戻入とは何ですか

A. 評価減をした理由が解消した場合に、簿価を戻し入れる処理です。日本基準では原則として行いません。

Q. 戻入の判断はどうしますか

A. 評価減の理由が解消したかを確かめます。市場価格の下落は回復すれば解消しますが、陳腐化や破損は解消しません。

Q. 理由の記録がないとどうなりますか

A. 翌期に戻入が必要かを判断できません。品目ごと、または評価減の類型ごとに理由を記録する運用にします。

Q. 分類の区分は決まっていますか

A. 会社が決められます。商品、製品、仕掛品、原材料が一般的ですが、事業の実態に合わせて変えられます。

Q. 区分を変えてもよいですか

A. 比較可能性が損なわれるため、変える場合は前年度の数値も組み替えて示します。

Q. 費用として認識した額とは何ですか

A. 当期に費用となった棚卸資産の金額で、通常は売上原価に含まれる払出額に相当します。機能別表示の場合の補足になります。

Q. 滞留期間に応じた評価減の基準を使ってよいですか

A. 基準があること自体は問題ありません。ただしその基準が正味実現可能価額の考え方と整合しているかを確かめます。

📄 まとめ

棚卸資産の注記で日本基準と違うのは、評価減の戻入があり得る点です。

戻入の判断には評価減の理由が必要です。品目ごとに理由を記録する運用にします。

分類は事業の実態に合わせて決められますが、年度をまたいで継続します。

費用として認識した額は、機能別表示の会社で売上原価の内訳を示す役割を果たします。

滞留期間による評価減の基準を使う場合も、正味実現可能価額の考え方と整合しているかを確かめます。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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