キャッシュ・フロー計算書の注記|区分の選択と負債の変動

キャッシュ・フロー計算書は営業、投資、財務の3つに区分して表示します。区分の考え方は日本基準と共通ですが、一部の項目でIFRSでは区分を選択できます。

また、IFRSでは財務活動から生じる負債の変動を示す調整表が求められます。現金による変動と非現金による変動を分けて示すものです。

この記事では、区分で迷う項目、負債の変動の注記、現金及び現金同等物の範囲、作成の実務を整理します。

この記事でわかること

  • 区分を選択できる項目と、選んだ後の継続
  • リース料の支払を元本と利息に分ける区分
  • 財務活動から生じる負債の変動の注記の作り方
  • 非現金の変動として示す5つの要因
  • 使用が制限されている現金の開示
  • 間接法でIFRS特有の調整項目
キャッシュ・フロー計算書をどう作るか営業活動の区分の表示方法を決める主要な収入と支出を総額で示したいか直接法で作成するはいいいえ損益から調整して示すほうが実務に合うか間接法で作成するはいいいえ利息や配当金の受払があるか区分を決めて継続して適用するはいいいえ財務活動に係る負債の変動を注記で示す

図 キャッシュ・フロー計算書の作り方の判定

📌 結論 選択できる区分は方針を決める

キャッシュ・フロー計算書は、営業活動、投資活動、財務活動の3つに区分して表示します。この区分の考え方は日本基準と共通ですが、一部の項目についてIFRSでは区分を選択できるという違いがあります。

受取利息と受取配当金を営業活動に含めるか投資活動に含めるか、支払利息を営業活動に含めるか財務活動に含めるかといった選択です。どちらを選んでも構いませんが、選択したら継続して適用します。

区分で迷いやすい項目項目区分の考え方注意点受取利息と受取配当金営業か投資かを選べる選択したら継続する支払利息営業か財務かを選べるリースの利息部分も同じ扱いに支払配当金財務か営業かを選べる財務が一般的法人所得税原則として営業投資や財務に紐づく部分は分けるリース料の支払元本は財務、利息は選択短期と少額リースは営業子会社の取得と売却投資支配獲得時の現金の増減で示す

選択できる項目は、方針を決めて継続して適用する

🧭 区分の判断

実務では、日本基準での表示に合わせて、受取利息と受取配当金を投資活動、支払利息を財務活動とする会社と、すべてを営業活動に含める会社があります。前者は資金の調達と運用の姿が見えやすく、後者は営業活動のキャッシュ・フローが事業の成果を包括的に表します。

リースについては、リース料の支払のうち元本部分を財務活動に区分します。利息部分は支払利息と同じ扱いにします。短期リースと少額リースの支払は営業活動になります。この区分は、リース負債の残高の動きと整合させる必要があります。

法人所得税の支払は原則として営業活動ですが、投資活動や財務活動に明確に紐づく部分があれば、その区分に含めます。子会社の売却にともなう税金といった場面が該当します。

📊 財務活動から生じる負債の変動

IFRSで求められる注記のうち、日本基準にないものの1つが、財務活動から生じる負債の変動を示す調整表です。借入金やリース負債について、期首から期末までの変動を、現金による変動と非現金による変動に分けて示します。

財務活動から生じる負債の変動の注記を作る5段階対象となる負債の範囲を決める期首残高と期末残高を並べる現金の増減による変動を示す非現金の変動を種類ごとに示す期首から期末への調整表として組み立てる

新規のリース契約は非現金の変動として示す

この注記が求められる理由は、キャッシュ・フロー計算書の財務活動の区分だけでは、負債の残高の変動が説明できないためです。新規のリース契約を結ぶと、現金は動いていないのにリース負債が増えます。為替の変動でも外貨建借入金の残高が変わります。

非現金の変動の例変動の要因どんな取引か新規のリース使用権資産とリース負債の計上為替の換算外貨建借入金の期末換算公正価値の変動デリバティブを含む負債の評価企業結合取得した子会社の借入金の引継ぎ資本への振替転換社債の株式への転換

現金が動いていないのに残高が変わる要因を示す

作成にあたっては、対象となる負債の範囲を決めます。借入金、社債、リース負債が中心ですが、ヘッジに使っているデリバティブを含めることもあります。範囲を決めたら、その範囲を継続します。

📊 記載例

財務活動から生じた負債の変動を示す注記の例です。キャッシュ・フローを伴う変動と伴わない変動を分けます。

設例 財務活動から生じた負債の変動

財務活動から生じた負債の変動(単位:百万円)
区分 期首残高 キャッシュ・フローを伴う変動 新規契約による増加 為替変動 期末残高
短期借入金 2,000 △500 1,500
長期借入金 4,800 △600 4,200
リース負債 1,240 △320 410 12 1,342
合計 8,040 △1,420 410 12 7,042

会社名と数値は架空です。新規のリース契約は現金の支出を伴わないため、この表がないと借入金の増減とキャッシュ・フロー計算書が結びつきません。

この注記は、財務活動によるキャッシュ・フローの金額と、財政状態計算書の負債の増減が一致しない理由を説明するためのものです。リース負債がある会社では必ず必要になります。

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📁 実際の開示事例

財務活動から生じた負債の変動を、現金の動きを伴うものと伴わないものに分けて示している例です。

実際の開示事例 味の素株式会社(証券コード2802)

21.キャッシュ・フロー情報(当連結会計年度)

財務活動から生じる負債の変動は、以下のとおりです。

財務活動から生じる負債の変動(単位:百万円)
区分 期首残高 キャッシュ・フローから生じる変動 為替換算差額 使用権資産の取得 その他 期末残高
短期借入金 5,923 284 141 6,350
長期借入金 220,029 △8,531 △991 210,505
社債 229,402 △25,000 98 204,501
リース負債 40,707 △9,630 △3,837 34,076 61,315

(注)1年内返済及び償還予定の残高を含んでおります。

出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 21.キャッシュ・フロー情報

▶ 読み方 列がキャッシュ・フローから生じる変動と、非資金取引から生じる変動に分かれています。リース負債の行を見ると、現金の支出は9,630百万円の減少なのに、新規契約で34,076百万円が増えて期末残高はむしろ増加しています。この表がないと、キャッシュ・フロー計算書の財務活動の金額と財政状態計算書の負債の増減が結びつきません。リース負債を持つ会社では必ず作ることになる注記です。

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🗂 現金及び現金同等物

現金及び現金同等物の範囲についても注記で示します。何を現金同等物としているか、財政状態計算書のどの科目と対応するかという内容です。

また、使用が制限されている現金がある場合は、その金額と制限の内容を開示します。海外子会社で送金の規制がある資金、担保に差し入れている預金、特定の目的にしか使えない資金といったものが該当します。

この情報は、財政状態計算書の現金の金額が、すべて自由に使えるわけではないことを示すものです。上場準備の会社では、借入の条件として一定額の預金の維持が求められている場合があり、その情報も対象になります。

⚖️ 作成の実務

キャッシュ・フロー計算書の作成には、間接法と直接法があります。IFRSでは直接法が推奨されていますが、実務では間接法が多く使われます。日本基準と同じ選択です。

間接法で作成する場合、当期純損益から出発して非現金項目を調整します。IFRSでは、日本基準にはない調整項目が出てきます。使用権資産の減価償却、その他の包括利益に関わる項目の影響、資本取引として処理した持分の変動といった項目です。

作成の準備としては、これらの調整項目を洗い出し、集計できる形にしておきます。特にリースについては、契約の新規締結、条件変更、解約といった動きを追える仕組みが必要になります。契約の管理を表計算で行っている状態では、件数が増えたときに追いつかなくなります。

❓ よくある質問

Q. 受取利息はどの区分に入れますか

A. 営業活動か投資活動かを選べます。どちらでも構いませんが、選択したら継続して適用します。

Q. 支払利息はどうしますか

A. 営業活動か財務活動かを選べます。リースの利息部分も同じ扱いにそろえます。

Q. リース料の支払はどう区分しますか

A. 元本部分は財務活動、利息部分は支払利息と同じ扱いです。短期リースと少額リースの支払は営業活動になります。

Q. 負債の変動の注記はなぜ必要ですか

A. 財務活動の区分だけでは負債の残高の変動が説明できないためです。新規のリースや為替の変動で、現金が動かずに残高が変わります。

Q. 非現金の変動には何がありますか

A. 新規のリース、為替の換算、公正価値の変動、企業結合による引継ぎ、転換社債の株式への転換などです。

Q. 現金及び現金同等物の範囲も書きますか

A. 何を現金同等物としているか、財政状態計算書のどの科目と対応するかを注記で示します。

Q. 使用が制限された現金はどう扱いますか

A. 金額と制限の内容を開示します。送金規制のある資金、担保に差し入れた預金、借入条件で維持を求められる預金などが該当します。

Q. 間接法で日本基準と違う調整はありますか

A. 使用権資産の減価償却、その他の包括利益に関わる項目、資本取引として処理した持分の変動などが出てきます。

📄 まとめ

区分を選択できる項目は、方針を決めて継続して適用します。リースの利息部分は支払利息と扱いをそろえます。

財務活動から生じる負債の変動の調整表は、日本基準にない注記です。現金と非現金の変動を分けて示します。

新規のリース契約は非現金の変動として示します。契約の動きを追える仕組みが前提になります。

現金及び現金同等物の範囲と、使用が制限されている現金の情報も開示します。

間接法ではIFRS特有の調整項目が出ます。集計できる形に整えてから決算に入ります。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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