IFRSの包括利益計算書では2つの選択があります。1計算書方式か2計算書方式かという様式の選択と、費用を性質別に分類するか機能別に分類するかという選択です。
どちらも会社が選べますが、一度決めたら継続します。適用開始の準備段階で決めておかないと、システムの設定や集計の仕組みが固まりません。
この記事では、2つの様式、費用の分類、営業損益の表示、重要な収益費用項目、上場準備での整備を扱います。
- 1計算書方式と2計算書方式の違いと使い分け
- 費用の性質別分類と機能別分類の選び方
- 機能別を選んだ場合に必要になる注記
- 営業損益を表示するときに決めること
- 重要な収益費用項目として区分するものの例
- 両方の軸で費用を集計できる仕組みの設計
図 包括利益計算書の様式と費用分類の選び方
📌 結論 様式と費用の分類を先に決める
IFRSの包括利益計算書では、2つの選択があります。1つは、当期純損益とその他の包括利益を1つの計算書にまとめるか、2つに分けるかという様式の選択。もう1つは、費用を性質別に分類するか機能別に分類するかという選択です。
どちらも会社が選べますが、一度決めたら継続します。適用開始の準備段階で決めておかないと、システムの設定や集計の仕組みが固まりません。
どちらでもよいが、一度決めたら継続する
🧭 費用の分類
費用の分類には、性質別と機能別の2つがあります。性質別は、材料費、従業員給付費用、減価償却費といった費用の性質で分ける方法です。機能別は、売上原価、販売費、一般管理費といった機能で分ける方法です。
機能別を選んだ場合は、性質別の情報を注記で示す
日本基準に慣れた会社は機能別を選ぶことが多くなります。ただし機能別を選んだ場合、費用の性質別の情報を注記で示すことが求められます。減価償却費と従業員給付費用については、特に開示が求められる項目です。
この注記のために、費用を機能別に集計しながら性質別の情報も取り出せる仕組みが必要になります。勘定科目の設計と、部門やプロジェクトへの集計の仕組みを、この2つの軸で取り出せるように整えておきます。
📊 営業損益の表示
IFRSでは、営業損益という区分の表示が必ずしも求められているわけではありません。ただし、日本の投資家にとっては馴染みのある指標であり、多くの会社が表示しています。
営業損益を表示する場合、その定義を明確にしておく
表示する場合に論点になるのが、どの項目を営業損益に含めるかです。持分法による投資損益、為替差損益、固定資産の売却損益、減損損失といった項目をどこに置くかで、営業損益の金額が変わります。
この判断は会社が行いますが、判断の基準を明確にし、継続して適用します。年度によって含める項目が変わると、比較可能性が損なわれます。営業損益の定義を注記で説明している会社もあります。
📊 記載例
費用を機能別に分類した場合の、包括利益計算書の表示例です。機能別を選んだ場合は、性質別の内訳を注記で示します。
| 科目 | 金額 |
|---|---|
| 売上収益 | 38,400 |
| 売上原価 | △24,900 |
| 売上総利益 | 13,500 |
| 販売費及び一般管理費 | △9,800 |
| その他の収益 | 120 |
| その他の費用 | △240 |
| 営業利益 | 3,580 |
| 金融収益 | 45 |
| 金融費用 | △180 |
| 持分法による投資利益 | 62 |
| 税引前利益 | 3,507 |
| 法人所得税費用 | △1,120 |
| 当期利益 | 2,387 |
会社名と数値は架空です。営業利益はIFRSが定義する小計ではないため、何を含めて何を除いたのかを会計方針で説明します。
機能別に分類した場合、従業員給付費用と減価償却費および償却費については、性質別の金額を注記で開示します。原価管理の仕組みが機能別に組まれていない会社では、この注記の作成に手間がかかります。
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📁 実際の開示事例
実際の連結損益計算書です。事業利益という独自の小計を設けている点に注目してください。
連結損益計算書(単位:百万円) 科目 注記 前連結会計年度 当連結会計年度 売上高 7,27 1,530,556 1,583,719 売上原価 - △979,792 △986,570 売上総利益 - 550,764 597,148 持分法による損益 7,17 6,314 8,113 販売費 28 △211,976 △225,349 研究開発費 29 △30,921 △32,108 一般管理費 30 △154,878 △166,640 事業利益 7 159,302 181,163 その他の営業収益 32 4,936 48,589 その他の営業費用 33 △50,269 △30,339 営業利益 - 113,968 199,412 金融収益 34 8,792 9,020 金融費用 35 △14,431 △12,318 税引前当期利益 - 108,330 196,115 法人所得税 18 △27,556 △51,054 当期利益 - 80,773 145,060 当期利益の帰属 親会社の所有者 - 70,272 134,675 当期利益の帰属 非支配持分 - 10,501 10,385
出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結損益計算書
▶ 読み方 費用を機能別に分類し、販売費、研究開発費、一般管理費を独立の科目にしています。日本基準の販売費及び一般管理費を3つに割った形です。最大の特徴は事業利益という小計で、IFRSが定義する小計ではありません。その他の営業収益と費用を除いた、経常的な事業の成果を示すために会社が独自に設けたものです。実際、当期はその他の営業収益が48,589百万円と大きく、営業利益は事業利益より大きくなっています。独自の小計を置く場合は、何を含めて何を除いたのかを会計方針で説明する必要があります。
様式と費用分類の選択から集計の仕組みまで、適用開始を見据えて整理します。IFRSの導入支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
🗂 重要な収益費用項目
金額や性質から重要な収益費用項目については、その内容と金額を別に開示します。棚卸資産の評価減、固定資産の減損損失、リストラクチャリングの費用、訴訟の解決による損益といった項目が該当します。
これらを本体に区分表示するか、注記で示すかは会社の判断です。金額が大きく、その期の業績を理解するうえで重要であれば、本体に表示したほうが伝わります。
重要かどうかの判断では、金額の大きさだけでなく、繰り返し発生するものかどうかも考えます。一度限りの事象による損益は、金額が中程度でも、業績の傾向を理解するうえで区分する意味があります。
⚖️ 上場準備での整備
包括利益計算書の作成で準備が要るのは、費用の集計の仕組みです。機能別に表示しながら性質別の注記を作るには、両方の軸で集計できる状態が必要になります。
具体的には、勘定科目の体系を性質別に設計し、部門やコストセンターの体系で機能別に集約できるようにします。この設計は会計システムの導入時に決まるため、上場準備でシステムを入れ替える機会があれば、そこで整えておきます。
また、営業損益の定義も早い段階で決めます。投資家向けの説明資料や中期計画で使う指標と、財務諸表の営業損益がずれていると、説明が複雑になります。どの指標を軸に説明するかを決めたうえで、財務諸表の表示を設計すると、開示全体の整合が取れます。
❓ よくある質問
A. どちらでも構いません。全体を一覧できるのが1計算書方式、当期純損益が明確になるのが2計算書方式です。一度決めたら継続します。
A. 会社が選べます。日本基準に慣れた会社は機能別を選ぶことが多くなります。
A. 費用の性質別の情報を注記で示すことが求められます。減価償却費と従業員給付費用は特に開示が求められる項目です。
A. 勘定科目の体系を性質別に設計し、部門やコストセンターで機能別に集約できるようにします。会計システムの設計に関わります。
A. 必ずしも求められていませんが、日本の投資家に馴染みがあるため多くの会社が表示しています。
A. 持分法投資損益、為替差損益、固定資産の売却損益、減損損失などの扱いで金額が変わります。基準を明確にし継続して適用します。
A. 棚卸資産の評価減、減損損失、リストラクチャリング費用、訴訟の解決による損益などです。金額と性質から判断します。
A. 会社の判断です。金額が大きくその期の業績の理解に重要であれば、本体に表示したほうが伝わります。
📄 まとめ
包括利益計算書では、様式と費用の分類という2つの選択を先に決めます。
機能別を選ぶと性質別の注記が必要になります。両方の軸で集計できる仕組みが前提です。
営業損益を表示する場合は、含める項目の基準を明確にし、年度をまたいで継続します。
重要な収益費用項目は、金額だけでなく繰り返し発生するかどうかも考えて区分します。
費用の集計の仕組みは会計システムの設計に関わります。上場準備で入れ替える機会に整えておきます。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
財務諸表の表示
- 財政状態計算書の表示
- 包括利益計算書の様式(この記事)
- その他の包括利益の注記
- 持分変動計算書の注記
- キャッシュ・フロー計算書の注記
資産の注記
負債と損益の注記
金融商品とリスクの注記
グループと開示の枠組み
📚 参考(公的な一次情報)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 金融商品取引法(e-Gov法令検索) 24条の4の4
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)