IFRSの財政状態計算書は、最低限表示すべき項目が定められているだけで、日本基準の様式のように細かく決まっているわけではありません。会社が構成を決められます。
この自由度を使って、本体は簡潔にまとめ、内訳は注記で示すという設計をとる会社が多くあります。本体で全体像をつかみ、詳細は注記で見るという構造です。
この記事では、表示の考え方、流動と非流動の区分、本体と注記の使い分け、第3の財政状態計算書、資本の表示を整理します。
- 財政状態計算書の表示で日本基準と違う6つの点
- 流動と非流動を区分する4つの観点
- 営業循環過程が12か月を超える場合の扱い
- 本体か注記のいずれかで示す6つの情報
- 第3の財政状態計算書が必要になる場面
- 資本の表示と株式に関する情報
図 財政状態計算書の表示区分の判定
📌 結論 本体は簡潔に、内訳は注記に
IFRSの財政状態計算書は、最低限表示すべき項目が定められているだけで、日本基準の様式のように細かく決まっているわけではありません。会社が自社の実態に合わせて構成を決められます。
この自由度を使って、本体は簡潔にまとめ、内訳は注記で示すという設計をとる会社が多くあります。本体を見れば全体像がつかめ、詳細を知りたい読み手は注記を見るという構造です。
本体をすつきりさせて、内訳を注記に置くという設計ができる
🧭 流動と非流動の区分
資産と負債は、流動と非流動に区分して表示するのが原則です。区分の判定は、営業循環過程での実現、売買目的での保有、報告期間後12か月以内の実現、決済を延期する権利という観点から行います。
本体に置くか注記に置くかは会社が選べる
実務で論点になるのが、営業循環過程が12か月を超える場合です。建設業のように工期が長い事業では、12か月を超えて実現する資産でも、営業循環過程のなかにあれば流動資産に区分します。
もう1つが、借入金の区分です。報告期間後12か月以内に返済期限が来る借入金は流動負債になりますが、決済を延期する無条件の権利がある場合は非流動になります。財務制限条項に抵触している借入金の扱いは、期末時点の状況で判断するため、注意が必要です。
営業循環過程が12か月を超える場合は、循環過程が基準になる
📊 本体と注記の使い分け
有形固定資産の種類別の内訳、棚卸資産の区分、資本の各項目の内訳といった情報は、本体か注記のいずれかで示すことになっています。どちらに置くかは会社の判断です。
本体に置くと一覧性が高まりますが、項目数が増えて全体像が見えにくくなります。注記に置くと本体は簡潔になりますが、読み手は注記を参照する必要があります。
実務では、金額の大きい項目や事業の特徴を表す項目は本体に、それ以外は注記にという分け方が使われます。この判断も一度決めたら継続します。
📊 記載例
財政状態計算書の表示区分の例です。流動と非流動に分けて表示する形式が一般的です。
| 区分 | 主な科目 |
|---|---|
| 流動資産 | 現金及び現金同等物、営業債権及びその他の債権、棚卸資産、その他の流動資産 |
| 非流動資産 | 有形固定資産、使用権資産、のれん、無形資産、持分法で会計処理されている投資、その他の金融資産、繰延税金資産 |
| 区分 | 主な科目 |
|---|---|
| 流動負債 | 営業債務及びその他の債務、社債及び借入金、リース負債、未払法人所得税、引当金、その他の流動負債 |
| 非流動負債 | 社債及び借入金、リース負債、退職給付に係る負債、引当金、繰延税金負債 |
| 資本 | 資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式、その他の資本の構成要素、非支配持分 |
会社名は架空です。日本基準の様式と異なり、資産と負債の並びは流動性の低い順でも高い順でも構いませんが、期をまたいで統一します。
科目をどこまで細分するかは会社の判断です。財政状態計算書の本表を簡潔にし、内訳を注記へ送る構成が、IFRSでは一般的です。
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📁 実際の開示事例
実際の連結財政状態計算書です。科目ごとに参照する注記番号を付けている点に注目してください。
連結財政状態計算書 資産の部(単位:百万円) 科目 注記 前連結会計年度 当連結会計年度 現金及び現金同等物 8,38 164,776 106,693 売上債権及びその他の債権 9,38 174,136 194,221 その他の金融資産 38 17,990 46,670 棚卸資産 10 286,952 318,632 未収法人所得税 - 12,533 7,656 その他の流動資産 - 27,600 30,294 小計 - 683,989 704,170 売却目的保有に分類される処分グループに係る資産 11 17,308 - 流動資産合計 - 701,298 704,170 有形固定資産 12 581,330 647,381 無形資産 13 92,168 92,231 のれん 13 117,940 124,051 持分法で会計処理される投資 17 129,645 138,571 長期金融資産 38 45,823 54,675 繰延税金資産 18 10,198 13,844 その他の非流動資産 - 42,727 37,419 非流動資産合計 - 1,019,833 1,108,176 資産合計 - 1,721,131 1,812,346
出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財政状態計算書
▶ 読み方 科目の数を絞り、内訳は注記に送る構成です。1つの科目に複数の注記番号が付いているところがあり、たとえば売上債権には9と38が付いています。9で内訳を、38で金融商品としての区分と公正価値を説明するという分担です。のれんを無形資産と分けて独立の科目にしている点も、償却しないのれんの残高を読み手が把握しやすくするための工夫です。売却目的保有に分類した資産を流動資産の小計の外に置いている点にも注目してください。
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🗂 第3の財政状態計算書
会計方針を遡及適用した場合、遡及修正した場合、または表示科目を組み替えた場合で、その影響が重要であるときは、比較年度の期首時点の財政状態計算書も表示することが求められます。これを第3の財政状態計算書と呼びます。
通常は当期末と前期末の2時点ですが、この場合は前期首を加えた3時点になります。初度適用の年度や、大きな会計方針の変更があった年度に必要になります。
作成には、前期首時点の残高をあらためて算定する作業が必要です。初度適用の準備では、移行日の残高を作る作業がこれに相当します。この作業を見込んで日程を組んでおかないと、決算の時期に間に合いません。
⚖️ 資本の表示
資本の部の表示は、日本基準と考え方が違う部分があります。IFRSでは、親会社の所有者に帰属する持分と非支配持分を区分して表示します。日本基準の少数株主持分と近い考え方ですが、位置づけが異なります。
また、その他の包括利益累計額の内訳を、項目ごとに表示または注記します。為替換算差額、金融資産の評価差額、キャッシュ・フロー・ヘッジの評価差額といった区分です。
株式に関する情報も求められます。授権株式数、発行済株式数、1株当たりの額面金額または無額面である旨、自己株式の数といった内容です。これらは本体か注記のいずれかで示します。株式報酬制度や新株予約権がある会社では、潜在株式の情報も併せて整理しておきます。
❓ よくある質問
A. 最低限表示すべき項目が定められているだけで、細かい様式はありません。会社が実態に合わせて構成を決められます。
A. 会社の判断です。金額の大きい項目や事業の特徴を表す項目は本体に、それ以外は注記にという分け方が実務ではよく使われます。
A. 営業循環過程での実現、売買目的での保有、12か月以内の実現、決済を延期する権利という観点から判定します。
A. 営業循環過程のなかにあれば、12か月を超えて実現する資産でも流動資産に区分します。
A. 決済を延期する無条件の権利があるかどうかです。財務制限条項に抵触している借入金は、期末時点の状況で判断します。
A. 会計方針の遡及適用、遡及修正、表示科目の組替えがあり、その影響が重要である場合です。初度適用の年度も該当します。
A. 親会社の所有者に帰属する持分と非支配持分を区分して表示します。その他の包括利益累計額の内訳も項目ごとに示します。
A. 授権株式数、発行済株式数、1株当たりの額面金額または無額面である旨、自己株式の数などです。本体か注記のいずれかで示します。
📄 まとめ
IFRSの財政状態計算書は様式が細かく定められていません。本体を簡潔にし、内訳を注記に置く設計ができます。
流動と非流動の区分は4つの観点で判定します。営業循環過程が12か月を超える場合は循環過程が基準になります。
本体か注記かの配分は会社が決めますが、一度決めたら継続します。
遡及適用や組替えの影響が重要な場合は、第3の財政状態計算書が必要になります。
資本では、親会社の所有者に帰属する持分と非支配持分を区分し、その他の包括利益累計額の内訳も示します。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
財務諸表の表示
- 財政状態計算書の表示(この記事)
- 包括利益計算書の様式
- その他の包括利益の注記
- 持分変動計算書の注記
- キャッシュ・フロー計算書の注記
資産の注記
負債と損益の注記
金融商品とリスクの注記
グループと開示の枠組み
📚 参考(公的な一次情報)
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 金融商品取引法(e-Gov法令検索) 24条の4の4
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)