会計方針の変更と誤謬の訂正|IFRSでの区分と注記

会計方針の変更、見積りの変更、誤謬の訂正は、いずれも過年度の数値に関わりますが扱いが違います。最も大きな違いは、過去に遡って処理をやり直すかどうかです。

方針の変更と誤謬の訂正は原則として遡及し、比較情報を修正します。見積りの変更は遡及せず、当期以降に反映します。

この記事では、3つの区分の違い、判定の手順、迷いやすい場面、注記に書くこと、上場準備での注意点を整理します。

この記事でわかること

  • 3つの変更の扱いの違いと、注記で書くこと
  • 区分を判定する4段階の考え方
  • 新しい情報による変更と、誤りによる訂正の分かれ目
  • 減価償却方法の変更がなぜ見積りの変更なのか
  • 自発的な会計方針の変更で説明が求められること
  • 上場準備で過去の処理を見直す場面の扱い
変更か訂正かをどう区分するか会計処理を変えることになった過去の財務諸表に情報の見落としや誤りがあったか誤謬の訂正として遡及修正するはいいいえ基準の新設や改訂によるものか会計方針の変更として遡及適用はいいいえ新しい情報により見積りの前提が変わったか見積りの変更として将来に反映はいいいえより適切な表示のための自発的な変更として遡及適用する

図 会計方針の変更と誤謬の訂正と見積りの変更の区分

📌 結論 遡及するかどうかが分かれ目

会計方針の変更、会計上の見積りの変更、誤謬の訂正は、いずれも過年度の数値に関わる論点ですが、扱いが違います。最も大きな違いは、過去に遡って処理をやり直すかどうかです。

会計方針の変更と誤謬の訂正は、原則として遡及します。過去の財務諸表を新しい方針や正しい処理で作り直し、比較情報を修正します。一方、見積りの変更は遡及せず、当期以降の数値に反映します。

3つの変更の扱いの違い区分どう処理するか注記で書くこと会計方針の変更原則として遡及して適用する変更の内容と理由・遡及した影響額会計上の見積りの変更将来に向けて適用する変更の内容と当期以降への影響誤謬の訂正遡及して修正する誤謬の内容と修正した金額

遡及するかどうかが最大の違い。区分を誤ると数値が変わる

🧭 どう区分するか

区分の判定では、なぜ変更するのかを確かめます。処理の対象となる事実が変わったのか、新しい情報が得られたのか、それとも過去の処理が誤っていたのかという点です。

区分を判定する4段階処理の対象となる事実が変わったのかを確かめる新しい情報が得られたことによる変更かを確かめる過去の情報を誤って用いていたのかを確かめる区分を決め、遡及の要否を判断する

新しい情報によるものは見積りの変更、誤りは誤謬の訂正

新しい情報が得られたことによる変更は、見積りの変更です。過去の見積りが当時の情報にもとづいて合理的であったなら、それが後から変わっても誤りではありません。

一方、当時入手できたはずの情報を用いていなかった場合は誤謬になります。集計を誤っていた、計算式が間違っていた、適用すべき基準を適用していなかったといったケースです。

区分に迷いやすい場面場面区分考え方耐用年数を短縮した見積りの変更使用の見込みが変わった減価償却方法を変えた見積りの変更として扱う消費のパターンの見積りの変更収益の認識時点を変えた方針の変更か誤謬か従来の処理が誤りだったかで分かれる引当金の計算方法を変えた見積りの変更算定の技法の変更にあたる過去の集計漏れが判明した誤謬の訂正入手できた情報を用いていなかった

従来の処理が当時の情報で妥当だったかどうかが分かれ目

📊 迷いやすい場面

実務で迷いやすいのが、減価償却の方法の変更です。方法そのものは会計方針のように見えますが、資産の経済的便益の消費のパターンをどう見込むかという見積りの問題として扱われます。したがって遡及せず、当期以降に反映します。

収益の認識時点の変更も迷います。従来の処理が当時の基準の適用として妥当だったのであれば方針の変更、そもそも基準の適用を誤っていたのであれば誤謬になります。この判定は監査法人と協議して決めます。

区分を誤ると、財務諸表の数値そのものが変わります。誤謬として遡及すべきものを見積りの変更として当期に反映すると、当期の損益が過大または過小になります。

📊 記載例

新しい基準を適用したときの注記の例です。適用の方法と、適用による影響額を示します。

設例 新基準の適用による影響

当社グループは、当連結会計年度より新たに公表された基準を適用しております。

適用にあたっては、経過措置に従い、適用による累積的影響を適用開始日の利益剰余金の期首残高で認識する方法を採用しております。したがって、比較年度の数値は修正しておりません。

適用による影響額(単位:百万円)
科目 増減
利益剰余金(期首) △184
営業債権及びその他の債権 △204
繰延税金資産 20

当連結会計年度の損益に与える影響は軽微であります。

会社名と数値は架空です。遡及適用したのか、累積的影響を期首で認識したのかを最初に述べ、そのうえで科目ごとの影響額を示します。

会計方針の変更と、見積りの変更、誤謬の訂正は、いずれも似た書き方になりますが、比較年度を修正するかどうかが異なります。どれに当たるのかを最初に明示してください。

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📁 実際の開示事例

まだ適用していない新基準について、適用時期と概要を示している例です。会計方針の変更が将来に起きることを予告する開示です。

実際の開示事例 味の素株式会社(証券コード2802)

4.会計方針及び開示における変更

(1) 新IFRS会計基準適用の影響 重要な事項はありません。

(2) 表示方法の変更 該当事項はありません。

6.未適用の公表済み基準書及び解釈指針

連結財務諸表の承認日までに新設又は改訂が公表された基準書及び解釈指針のうち、当社グループが早期適用していない主なものは、以下のとおりです。

未適用の基準書
基準書 強制適用時期(以降開始年度) 当社グループの適用時期
IFRS第18号 財務諸表における表示及び開示 2027年1月1日 2028年3月期

(新設・改訂の概要)

財務諸表における表示及び開示に関する現行の会計基準であるIAS第1号を置き換える新基準であり、主として純損益計算書の財務業績に関する表示及び開示に関する新たな規定を設定するものです。あわせてIAS第7号キャッシュ・フロー計算書の改訂が行われております。

なお、上記の適用による影響は検討中であります。

出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 4.会計方針及び開示における変更、6.未適用の公表済み基準書及び解釈指針

▶ 読み方 当期に変更がない場合でも、重要な事項はありませんと明記します。省略ではなく、検討した結果ないと書くのが実務です。もうひとつ重要なのが、まだ適用していない新基準の開示です。基準名、強制適用の時期、自社が適用する年度、内容の概要、そして影響の見積りの4点を示します。影響がまだ分からない場合は検討中と書きますが、適用時期が近づくにつれて具体的な記載が求められるようになります。表示に関する新基準は損益計算書の小計の定義に関わるため、独自の小計を使っている会社ほど影響が大きくなります。

変更の区分と注記の書き方で迷う場合

区分の判定から遡及の処理まで、監査法人との協議を見据えて整理します。IFRSの導入支援と上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。

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🗂 注記に書くこと

会計方針を変更した場合は、変更の内容、変更した理由、そして遡及適用による影響額を書きます。影響額は、比較年度の各項目についてどれだけ変わったかを示します。

基準の改正にともなう変更であれば、その基準の名称と適用の時期を書きます。自発的な変更であれば、なぜ新しい方針のほうが適切なのかを説明します。自発的な変更は、より目的に適合し信頼性の高い情報をもたらす場合に限られるため、その理由の説明が重要になります。

見積りを変更した場合は、変更の内容と、当期の損益への影響額を書きます。将来の期間にも影響する場合は、その旨と、実務的に可能であれば金額も示します。

誤謬を訂正した場合は、誤謬の内容、遡及して修正した各期の各項目の金額、そして期首残高への影響を書きます。この注記は、過年度の数値を訂正したことを利用者に伝えるものであり、丁寧に書きます。

⚖️ 上場準備での注意点

上場準備の過程では、過去の会計処理を見直す機会が多くあります。監査法人の監査を受けるようになって、これまでの処理が基準に沿っていなかったことが分かるという場面です。

この場合、誤謬として遡及修正することになります。修正の金額が大きいと、成長の実績が変わり、上場のスケジュールにも影響します。したがって、監査を受け始める前の段階で、主要な会計処理が基準に沿っているかを確かめておくことが望まれます。

また、上場準備の途中で会計方針を変更する場合は、変更の理由を説明できることが必要です。利益を出すために方針を変えたと見られない形にするには、変更が事業の実態に即していることと、より適切な情報をもたらすことを説明できる必要があります。この説明は、審査でも問われます。

❓ よくある質問

Q. 3つの違いは何ですか

A. 遡及するかどうかです。方針の変更と誤謬の訂正は原則として遡及し、見積りの変更は当期以降に反映します。

Q. 区分はどう判定しますか

A. なぜ変更するのかを確かめます。事実が変わったのか、新しい情報が得られたのか、過去の処理が誤っていたのかという点です。

Q. 過去の見積りが外れたら誤謬ですか

A. 当時の情報にもとづいて合理的であったなら誤りではなく、見積りの変更になります。

Q. 減価償却の方法を変えたらどうなりますか

A. 経済的便益の消費のパターンの見積りの変更として扱われます。遡及せず当期以降に反映します。

Q. 収益の認識時点を変えた場合は

A. 従来の処理が当時の基準の適用として妥当だったなら方針の変更、基準の適用を誤っていたなら誤謬です。監査法人と協議して決めます。

Q. 自発的に方針を変更できますか

A. より目的に適合し信頼性の高い情報をもたらす場合に限られます。なぜ新しい方針のほうが適切なのかの説明が求められます。

Q. 誤謬の注記では何を書きますか

A. 誤謬の内容、遡及して修正した各期の各項目の金額、期首残高への影響です。過年度の数値を訂正したことを伝える注記なので丁寧に書きます。

Q. 上場準備で過去の処理の誤りが見つかったら

A. 誤謬として遡及修正することになります。金額が大きいと成長の実績が変わり、スケジュールにも影響します。

📄 まとめ

3つの区分の分かれ目は、遡及するかどうかです。区分を誤ると財務諸表の数値そのものが変わります。

新しい情報による変更は見積りの変更、当時入手できた情報を用いていなかった場合は誤謬になります。

減価償却方法の変更は見積りの変更として扱い、遡及しません。

自発的な方針の変更では、なぜ新しい方針のほうが適切なのかの説明が求められます。

上場準備では、監査を受け始める前に主要な処理が基準に沿っているかを確かめておくと、遡及修正の影響を避けられます。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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