IFRSの注記では、重要性のある会計方針を開示することが求められます。すべての方針を網羅的に書くのではなく、利用者にとって意味のある方針を選ぶという考え方です。
実務では、他社の記載を参考にした結果、自社では発生していない取引の方針まで書かれていることがあります。誤りではありませんが、重要な方針が埋もれます。
この記事では、注記に書く区分、重要性の判断、判断の開示、新基準と未適用の基準、記載の見直しを整理します。
- 会計方針の注記に書く6つの区分とよくある不足
- 重要性を判断する4段階の考え方
- 金額が小さくても書く価値がある方針
- 方針を選ぶ際の判断をどう書くか
- 当期から適用した基準と未適用の基準の記載
- 評価中という記載だけで終わらせない書き方
図 重要な会計方針として記載するかの判定
📌 結論 重要性のある方針を選んで書く
IFRSの注記では、重要性のある会計方針を開示することが求められます。すべての方針を網羅的に書くのではなく、財務諸表の利用者にとって意味のある方針を選ぶという考え方です。
実務では、他社の記載を参考にして方針を並べた結果、自社では発生していない取引の方針まで書かれているという状態がよく見られます。書かれていること自体は誤りではありませんが、重要な方針が埋もれてしまいます。
方針の羅列ではなく、自社の取引に即した記述にする
🧭 重要性をどう判断するか
重要性の判断は、金額の大きさだけでは決まりません。その方針が財務諸表の数値に影響するか、影響する場合にどのくらいの金額か、そしてその情報が利用者の判断を変え得るかという順で考えます。
重要でないと判断した理由も記録に残す
金額が小さくても、選択の余地がある方針であれば書く価値があります。同じ取引について複数の処理が認められている場合、どちらを選んだかは利用者にとって意味のある情報になるためです。
逆に、基準の定めをそのまま適用しており、選択の余地も判断も入っていない方針は、書く意味が薄くなります。ただし、その項目の金額が大きければ、読み手の理解のために記載することもあります。
選択の余地がなく金額も小さいものは省ける
📊 判断の開示
会計方針の注記で日本基準と大きく違うのが、方針を選ぶ際に行った判断を開示することです。単に採用した方針を書くのではなく、なぜその方針を選んだのかという判断の内容を説明します。
典型的なのが、収益認識における本人と代理人の判定、リースに該当するかどうかの判定、子会社に該当するかどうかの支配の判定といった論点です。これらは、判断の結果によって財務諸表の姿が大きく変わります。
書き方としては、判断の対象となった取引の内容、判断にあたって考慮した要素、そして結論を並べます。結論だけを書いても、読み手はなぜそうなるのかが分かりません。
📊 記載例
作成の基礎と、重要性がある会計方針の記載例です。準拠性に関する記述は定型文ですが、必ず入れます。
(1)準拠性に関する記述
当社グループの連結財務諸表は、国際財務報告基準に準拠して作成しております。
(2)測定の基礎
連結財務諸表は、公正価値で測定する金融商品などを除き、取得原価を基礎として作成しております。
(3)機能通貨および表示通貨
連結財務諸表は、当社の機能通貨である日本円を表示通貨としており、百万円未満を四捨五入して表示しております。
(4)会計方針として記載する項目の例
| 分類 | 記載する内容の例 |
|---|---|
| 連結の基礎 | 支配の判断、決算日の差異の扱い、内部取引の消去 |
| 収益 | 履行義務の内容、支配の移転時点、変動対価の見積方法 |
| 棚卸資産 | 評価方法(先入先出法など)、正味実現可能価額の算定 |
| 有形固定資産 | 測定モデル、耐用年数、減価償却方法 |
| 金融商品 | 区分の判定方法、公正価値の算定方法、認識の中止 |
会社名と数値は架空です。準拠性の記述は、すべての要求事項に準拠している場合にのみ、この形で書きます。一部でも準拠していない場合はこの記述は使えません。
会計方針は、金額の大きさだけでなく、その方針を知らなければ数値の意味が分からなくなるかどうかで載せるかを決めます。標準的な処理をそのまま書き写した方針は、削る候補になります。
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📁 実際の開示事例
準拠性の記述と、収益の会計方針の実例です。変動対価の見積方法まで具体的に書いています。
2.作成の基礎 (1) 連結財務諸表がIFRS会計基準に準拠している旨
当社グループの連結財務諸表は、国際会計基準審議会によって公表されたIFRS会計基準に準拠して作成しております。当社グループは、連結財務諸表規則第1条の2に掲げる指定国際会計基準特定会社の要件を満たしていることから、同第312条の規定を適用しております。
(2) 機能通貨及び表示通貨
当社グループの各社の個別財務諸表は、それぞれの機能通貨で作成されております。当社グループの各社は主として現地通貨を機能通貨としておりますが、その会社の活動する経済環境が主に現地通貨以外である場合は、現地通貨以外を機能通貨としております。
当社グループの連結財務諸表は、当社の機能通貨である日本円を表示通貨としており、単位を百万円としております。また、百万円未満の端数は切り捨てております。
(収益に関する会計方針の例 27.売上高より)
当社はこれらの顧客との販売契約において、受注した製品を引き渡す義務を負っております。これらの履行義務を充足する通常の時点は主に物品の引渡時です。また、支払期限は顧客との個別契約に基づきますが、市場慣行に整合した支払期限となっており、約束した対価の金額に重要な金融要素は含まれておりません。
出典:味の素株式会社(証券コード2802)「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月12日提出)連結財務諸表注記 2.作成の基礎、3.重要性がある会計方針
▶ 読み方 準拠性の記述で、根拠となる規則の条番号まで挙げているのが特徴です。日本の会社がIFRSを任意適用する場合、連結財務諸表規則の指定国際会計基準特定会社の要件を満たす必要があり、その事実をここで示しています。機能通貨の記載では、グループ各社が現地通貨を機能通貨とする原則と、そうでない場合の扱いの両方を書いています。収益の方針では、履行義務の内容、支配が移転する時点、重要な金融要素の有無という3点が押さえられており、この型はそのまま使えます。
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🗂 新基準と未適用の基準
当期から適用した新しい基準がある場合は、その内容と、財務諸表に与えた影響を書きます。影響がなかった場合も、その旨を記載するのが通例です。何も書かないと、適用を検討したのかどうかが分かりません。
公表されているが未適用の基準についても、将来の影響を書きます。ここでよくあるのが、影響を評価中であるという記載だけで終わっているケースです。適用の時期が近い基準については、影響の見込みをできる範囲で示すことが期待されます。
評価中と書き続けている状態は、準備が進んでいないという印象を与えます。少なくとも、どの範囲に影響し得るか、いつまでに評価を終える予定かを書いておくと、状況が伝わります。
⚖️ 記載の見直し
会計方針の注記は、一度作るとそのまま毎年使われがちです。事業が変わっても記載が変わらず、実態と離れていくということが起きます。
年に一度、記載を見直します。新しく始めた事業に関する方針が抜けていないか、やめた事業の方針が残っていないか、金額の重要性が変わった項目がないかを確かめます。
また、記載の分量も見直します。IFRSの注記は長くなりがちですが、重要でない方針を削ることで、重要な方針が読まれやすくなります。削る判断をした項目については、削った理由を記録に残しておけば、監査法人との協議でも説明ができます。
❓ よくある質問
A. 重要性のあるものを選んで書きます。自社で発生していない取引の方針まで書くと、重要な方針が埋もれます。
A. 数値への影響、金額の大きさ、利用者の判断を変え得るかの順で考えます。重要でないと判断した理由も記録に残します。
A. 選択の余地がある方針は、金額が小さくても書く価値があります。どちらを選んだかが利用者にとって意味を持っためです。
A. 方針を選ぶ際に行った判断の内容を説明することです。本人と代理人の判定、リース該当性、支配の判定といった論点が典型です。
A. 対象となった取引の内容、考慮した要素、結論の順に並べます。結論だけでは読み手がなぜそうなるのか分かりません。
A. 影響がなかった旨を記載するのが通例です。何も書かないと適用を検討したのかどうかが分かりません。
A. 適用の時期が近い基準については、影響の見込みをできる範囲で示すことが期待されます。どの範囲に影響し得るか、いつまでに評価を終えるかを書きます。
A. 年に一度見直します。新しい事業の方針が抜けていないか、やめた事業の方針が残っていないか、重要性が変わった項目がないかを確かめます。
📄 まとめ
会計方針は網羅ではなく、重要性のあるものを選んで書きます。
重要性は金額だけで決まりません。選択の余地がある方針は、金額が小さくても書く価値があります。
IFRSでは方針を選ぶ際の判断まで開示します。対象、考慮した要素、結論の順に書きます。
新基準は影響がない場合もその旨を書きます。未適用の基準は評価中で終わらせず、範囲と時期を示します。
年に一度、記載を見直します。重要でない方針を削ると、重要な方針が読まれやすくなります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の制度設計や運用にあたっては、監査法人および主幹事証券会社にご確認ください。
全体像と適用の準備
- 注記の全体像と構成の決め方
- 任意適用の準備と初度適用
- 会計方針の注記(この記事)
- 見積りの不確実性の注記
- 会計方針の変更と誤謬の訂正
財務諸表の表示
資産の注記
負債と損益の注記
金融商品とリスクの注記
グループと開示の枠組み
📚 参考(公的な一次情報)
- 金融商品取引法(e-Gov法令検索) 24条の4の4
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(e-Gov法令検索)
- 会社法(e-Gov法令検索)