カドーのTOKYO PRO Market上場|取得勧誘による資金調達と在庫・財務制限条項【特定証券情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

2026年9月25日、空気清浄機・加湿器・ふとん乾燥機などの家電ブランド「cado」を展開する株式会社カドー(東京都港区)が、東京証券取引所のTOKYO PRO Market(以下「TPM」)に上場しました。TPMの新規上場は、上場に際して投資家への勧誘を行わない会社が多いなかで、カドーは「特定投資家向け取得勧誘」により最大112,400株の新株を発行し、発行価格2,680円で資金を調達する形をとりました。本記事では、JPXの新規上場会社情報に掲載された同社の特定証券情報(訂正特定証券情報2回を含む)を読み、上場準備の実務で参考になる点を公認会計士の視点で整理します。

結論からいえば、カドーのケースは「売上高約29億円・従業員二十数名のファブレス家電メーカーが、直前1期の監査と担当J-Adviserの調査を経て、引受けなしの取得勧誘で資金を調達しながらTPMに上場した例」です。ブックビルディング方式に準拠した価格決定、在庫の積み増しと財務制限条項、補助金収入を含む経常利益、社長の債務保証の解消、四条投資事業組合からの株式移動と6回分のストック・オプション(SO)など、上場準備で論点になりやすい項目が具体的に書かれています。

カドーはどんな会社で、いつTPMに上場したのか

カドーは2011年6月、東京都港区新橋で「株式会社エクレア」として設立されました(資本金3,000千円)。翌月にデザイン会社として設立された(旧)株式会社カドーを2014年7月に株式交換で完全子会社化し、同年8月に現在の社名に変更しています。現在は自社ブランド「cado」の家電商品を企画開発・仕入・販売するファブレスメーカー(自社工場を持たず、外部の製造工場に生産を委託する会社)です。事業は「cado事業」の単一セグメントで、決算期は12月です。

グループは当社と香港の連結子会社の2社で、2026年7月31日現在の従業員数は連結24名(ほかに臨時雇用者3名)です。

上場の手続面では、2026年8月19日に新規上場の申請が受け付けられ(同日に特定証券情報を公表)、9月2日に上場承認、9月25日に上場しました。担当J-Adviserは株式会社ジャパンインベストメントアドバイザーです。申請受付から上場承認までは10営業日で、TPMで「原則として上場申請から10営業日後に上場承認」とされている流れどおりです。承認後に取得勧誘の手続が続いた点が、勧誘を行わない会社との違いです。

カドーの上場までの日程(2026年)8月19日申請受付・特定証券情報公表9月2日上場承認9月3日仮条件決定2,600〜2,680円9月4日〜8日需要の申告(ブックランナー)9月10日発行価格決定2,680円9月11日〜15日申込期間9月18日払込期日9月25日TPM上場(株式受渡期日)申請受付から上場承認まで10営業日。承認後に価格決定・申込・払込を経て上場(本記事で整理)

図1 特定証券情報・訂正特定証券情報(2回)の記載と、JPXの新規上場会社情報(申請受付日・上場承認日・上場日)をもとに作成

項目 内容
会社名 株式会社カドー(証券コード628A)
市場 東京証券取引所 TOKYO PRO Market
上場日 2026年9月25日
上場承認日 2026年9月2日
申請受付日 2026年8月19日(特定証券情報の公表日)
担当J-Adviser 株式会社ジャパンインベストメントアドバイザー
上場時の勧誘 株主割当によらない特定投資家向け取得勧誘(112,400株以内、発行価格2,680円、引受けなし)
設立 2011年6月(株式会社エクレアとして設立)
本店 東京都港区白金台
事業 空気清浄機・加湿器・美容機器・除菌消臭器・ふとん乾燥機等の企画開発・仕入・販売(cado事業の単一セグメント)
決算期 12月(直前事業年度は第15期=2025年12月期)
従業員数 連結24名・臨時3名(2026年7月31日現在)
監査法人 誠栄有限責任監査法人(第15期の監査、第16期中間の期中レビュー)

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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか

カドーの特定証券情報には、「上場目的」や「TPMを選んだ理由」をまとまった形で説明する記載はありません。そのため、本記事では同社がTPMを選んだ理由を推測することは控えます。読み取れるのは、取得勧誘の実施とその手取金の使途などです。

手取金の使途は次の表のとおりで、発行価格2,680円で112,400株を発行した場合の差引手取概算額279,232千円を、マーケティング費用と金型投資に充てる計画です。充当時期までは安全性の高い金融商品等で運用する方針と記載されています。

使途 予定金額(千円) 2026年12月期 2027年12月期
マーケティング費用 180,000 90,000 90,000
金型投資 97,000 - 97,000
運転資金 2,232 2,232 -
合計(差引手取概算額) 279,232 92,232 187,000

一般論として、TPMには形式基準(株主数・流通株式・利益の額などの数値基準)がなく、上場時に資金調達を行わない上場も可能です。東証は2026年4月から、新規上場時に「なぜTPMに上場するのか・どう活用するのか」という上場目的を検討・開示するよう要請しています(規程上の義務ではなく「お願い」です)。東証が公表した2026年6月15日時点の集計では、上場目的の上位は社内体制強化・営業力強化・採用力強化で、「増資」を挙げた会社は1割程度にとどまります。カドーのように上場時に新株を発行して資金を得るケースは、TPMでは少数派に当たります。

TPMを検討する会社は、「何のために上場するのか」を社内で言語化し、資金調達を伴うのであれば使途と時期まで計画に落とし込んでおくことが求められます。上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。

TPMの上場の仕組みは一般市場とどう違うのか

TPMは、2008年の金融商品取引法改正で導入された「プロ向け市場制度」に基づく市場で、法令上は「特定取引所金融商品市場」に当たります。株式を買い付けられるのは特定投資家(適格機関投資家など)や、一定の要件を満たして特定投資家に移行した個人等で、一般投資家は取引所で買付けができません(保有株式の売却は可能です)。

上場審査の中心になるのが担当J-Adviserです。TPMには数値の形式基準がない代わりに、担当J-Adviserが「企業としての相応性」「事業の公正・忠実な遂行」「ガバナンス・内部管理体制」「適正な開示を行える体制」「反社会的勢力との関係がないこと等」の5つの上場適格性要件を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成します。東証も意向表明の後に面談を行うため、「審査がない市場」ではありません。

TOKYO PRO Marketの上場手続と上場適格性要件J-Adviser契約・調査意向表明申請の約30営業日前まで上場申請特定証券情報等を公表上場承認原則申請から10営業日後上場日担当J-Adviser(J-QS)が上場適格性を調査・確認し「上場適格性に係る宣誓書」を作成東証も意向表明後に面談を行う(「審査がない市場」ではない)上場適格性要件(5項目)企業としての相応性事業の公正・忠実な遂行ガバナンス・内部管理体制適正な開示を行える体制反社会的勢力との関係なし等

図2 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する

カドーの特定証券情報には、上場適格性要件の「企業としての相応性」に対応する記載として、上場予定日(2026年9月25日)から12か月間の運転資本は「自己資本及び借入金による資金調達が可能であることから十分である」との一文があります。

開示書類の名称にも注意が必要です。上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行う会社は、金融商品取引法27条の31に基づき「特定証券情報」を公表します。カドーは取得勧誘を行うため、表紙の書類名が「特定証券情報」になっています。勧誘を行わない会社は表紙が「発行者情報」になります。上場後はどちらも年次と中間の発行者情報を各期末後3か月以内に公表します。

上場時の開示書類はどう決まるか(カドーのケース)上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行うかカドー:行う株主割当によらない取得勧誘(112,400株以内)→「特定証券情報」を公表行わない場合特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表行う行わない

図3 金融商品取引法27条の31と、特定証券情報表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成

監査についても一般市場と違いがあります。TPMの新規上場で求められる監査期間は「最近1年間」です。カドーは第15期(2025年12月期)の連結財務諸表について誠栄有限責任監査法人の監査を受け、第16期中間連結財務諸表については同監査法人の期中レビューを受けています。主要な経営指標等の注記では「第14期の連結財務諸表については、当該監査を受けておりません」と明記されています。一般市場の新規上場では直前2期の監査が求められるため、監査法人との契約時期の考え方が変わります(監査法人はいつまでに決めるか)。

特定投資家向け取得勧誘はどう進んだか

カドーの取得勧誘は、日本証券業協会の規則に定めるブックビルディング方式に準拠して発行価格を決める方法で行われました。ブックランナーはJIA証券株式会社で、需要の申告の受付等を担っています。一方で「本取得勧誘において、株式の引受けは実施いたしません」と記載されており、引受手数料は発生しません。

価格は3段階で決まりました。8月19日の特定証券情報では想定公開価格2,680円で見込額を示し、9月3日の取締役会で仮条件(2,600円〜2,680円)と会社法上の払込金額である発行価額(2,210円)を決定、9月10日に発行価格を2,680円に決定しています。9月10日付の訂正特定証券情報によると、申告された総需要株式数は新株式発行数を超過し、需要は仮条件の上限価格に集中していました。資本組入額は資本金等増加限度額の2分の1で、1株当たり1,340円です。ブックビルディングの一般的な仕組みはブックビルディングとはで解説しています。

発行価格はどう決まったか(ブックビルディング方式に準拠)8月19日想定公開価格2,680円9月3日 取締役会仮条件 2,600〜2,680円発行価額 2,210円を決定9月10日発行価格 2,680円(仮条件の上限)需要の申告:総需要株式数は新株式発行数を超過価格ごとの分布は仮条件の上限価格に集中→ 市場状況・価格変動リスク等も勘案して決定1株当たり金額発行価格2,680円(投資家が支払う額)発行価額2,210円(会社法上の払込金額)資本組入額1,340円(増加限度額の1/2)払込金額の総額 301,232,000円(2,680円×112,400株)− 発行諸費用 22,000,000円= 差引手取概算額 279,232,000円(資本金・資本準備金に各150,616,000円)

図4 特定証券情報(8月19日)、訂正特定証券情報(9月3日・9月10日)の記載をもとに作成。株式の引受けは実施せず、JIA証券株式会社がブックランナーとして需要の申告を受け付けた

発行数は「申込のあった株式数」が発行される上限付きの設計で、特定証券情報には最終的な発行数の記載はありません。112,400株をすべて発行した場合、上場時の発行済株式総数は1,655,920株(本記事の計算)です。

一般市場(グロース・スタンダード)との比較

項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード)
買付けができる投資家 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、売却は可能) 一般投資家を含む
形式基準 なし(数値基準がない) 株主数・流通株式等の形式基準あり
上場適格性の調査 担当J-Adviserが調査・確認、東証が面談 東証の上場審査
申請から承認まで 原則として申請から10営業日後に承認 一般市場の審査日程による
新規上場時の監査期間 最近1年間 直前2期
開示書類 特定証券情報・発行者情報 有価証券届出書・有価証券報告書等
四半期開示 任意 四半期決算短信(取引所規則)
内部統制報告書 任意 金融商品取引法に基づき提出
会計基準 日本基準・米国基準・IFRS等 日本基準・米国基準・IFRS等
開示言語 英語又は日本語 日本語(有価証券報告書等)
上場維持の前提 担当J-Adviserとの契約の維持 J-Adviser制度なし

表のTPM欄はJPXのTPM概要ページと上場ガイドブック(TPM編)に基づいています。一般市場のコーポレートガバナンス・コードや実質審査基準を、そのままTPMの会社に当てはめて考えないよう注意が必要です。TPMで問われるのは担当J-Adviserが確認する上場適格性要件であり、ガバナンスや内部管理体制も「企業の規模や成熟度等に応じて」整備・機能しているかが見られます。

事業内容と収益モデル:ファブレスの家電ブランド「cado」

カドーは、企画・デザイン・試作・金型手配・量産決定・検査といった商品化のプロセスを自社で管理し、生産は外部の製造委託先に任せています。空気清浄機・加湿器・除湿機は中国の協力会社に、美容機器・除菌消臭器・ふとん乾燥機は日本企業を通じて中国の協力会社に製造を委託し、アロマ関連商品は主に国内のOEM先に委託しています。量産後の発注は香港子会社が代行しています。

販売は、家電量販店・代理店・オンラインショップ向けの卸売と、自社オンラインストアやモール型ECでの直販(小売)の2本立てです。海外は現地の販売代理店を通じた卸売のみとされています。販売後は、保証期間(原則1年、自社オンラインストアでの購入は2年)内の無償修理と有償修理の体制を持っています。

カドーのファブレス型ビジネスモデル(商品とお金の流れ)cado InternationalHong Kong Limited(発注業務を代行)カドー(当社)企画・デザイン・仕入・販売製造委託先(主に中国)CTK:空気清浄機・加湿器等IBIS:美容機器・ふとん乾燥機卸売家電量販店・代理店・オンラインショップ小売(直販)自社オンラインストア・モール型ECアフターサービス:無償修理(保証1年、自社EC購入は2年)エンドユーザー(海外は卸売のみ)発注商品発注委託

図5 特定証券情報「事業の内容」「重要な契約等」「関係会社の状況」をもとに作成。単一セグメント(cado事業)。自社工場は持たず、量産後の発注は香港子会社が代行する

重要な契約として、CTK TECHNOLOGY(SHENZHEN)CO.,LTD.(空気清浄機・加湿器・除湿機等)と株式会社IBIS(美容機器・ふとん乾燥機)との商品製造委託・供給基本契約が開示されています。事業等のリスクでは、ふとん乾燥機や加湿器等の主力商品を特定の2社に製造委託しており、2025年12月期の仕入金額の86.8%を占めると記載されています。

品目別の売上構成(2025年12月期、連結)睡眠・健康関連商品(ふとん乾燥機等)46.0%(1,341,154千円)加湿器28.7%(838,110千円)除菌消臭器12.7%(370,015千円)その他(除湿機・アロマ等)5.5%(161,511千円)空気清浄機5.5%(160,932千円)美容機器1.6%(45,940千円)加湿器は前期比212.6%、睡眠・健康関連商品は同135.6%。美容機器は同44.4%

図6 特定証券情報「販売実績」「収益認識関係」の金額から本記事で構成比を計算。売上高合計2,917,665千円。売上高の10%以上を占める販売先はない

品目 販売実績(千円) 前期比 仕入実績(千円) 前期比
空気清浄機 160,932 111.7% 61,805 123.1%
加湿器 838,110 212.6% 527,101 198.1%
美容機器 45,940 44.4% 16,267 49.6%
除菌消臭器 370,015 119.1% 217,402 77.2%
睡眠・健康関連商品 1,341,154 135.6% 807,551 190.3%
その他 161,511 53.3% 67,095 45.7%
合計 2,917,665 130.0% 1,697,224 141.2%

2025年12月期は、ふとん乾燥機「FOEHN」と2025年11月発売のオートクリーン加湿器「STEM500H」を中心に販売を伸ばし、自社ECやモール型ECの売上が大きく伸長したと説明されています。売上高の10%以上を占める販売先はなく、地域別では日本が大半を占めます(収益認識の全体像は収益認識基準 完全ガイドを参照)。

沿革と上場までの道のり

カドーの沿革は、商品ラインの拡大と組織再編の歴史でもあります。2012年12月に空気清浄機の販売を始め、2013年11月に加湿器、2016年6月に除湿機、2018年12月にヘアドライヤーへと商品を広げました。2018年4月には韓国SKグループのSK Networks Co.,Ltd.との合弁で美容家電の子会社を設立し、2021年12月にこれを吸収合併しています。2023年12月にはふとん乾燥機「FOEHN」、2025年11月にはオートクリーン加湿器「STEM500H」を発売しました。

上場直前期には、デザイン子会社アエテ株式会社を2026年1月1日付で吸収合併し(共通支配下の取引)、2026年8月7日に1株を40株とする株式分割と単元株制度(100株)の採用を行っています。

カドーの沿革(主な出来事)2011年6月㈱エクレア(現当社)設立2012年12月空気清浄機販売開始2014年香港子会社設立・社名をカドーに2018年4月SK Networksと合弁会社設立2021年12月合弁会社を吸収合併2023年12月ふとん乾燥機「FOEHN」2025年11月加湿器「STEM500H」2026年1月子会社アエテを吸収合併2026年8月株式分割(1株→40株)2026年9月25日TPM上場設立から上場まで約15年。主力は空気清浄機から加湿器・ふとん乾燥機へ広がった

図7 特定証券情報「沿革」「重要な後発事象」から主な項目を抜粋

業績の推移と読み方

主要な経営指標等は第14期(2024年12月期)から第16期中間(2026年6月中間期)まで記載され、監査済みは第15期のみです。

売上高と利益の推移(連結)売上高(百万円)07501,5002,2503,0002024/122025/122026/6中間期営業利益経常利益2024/12142,263125,7192025/12221,848272,4702026/6中間15,6643,530(単位:千円)2025年12月期:売上高 前期比30.0%増経常利益 同116.7%増中間期は売上が減る季節(第2・第3四半期)を含むため、通期の半分を大きく下回る2,2442,9181,123

図8 特定証券情報「主要な経営指標等の推移」より。第15期(2025年12月期)は監査済み、第14期(2024年12月期)は監査を受けていない数値、第16期中間は期中レビュー済み。中間期は6か月の数値

項目(千円) 2024年12月期 2025年12月期 2026年6月中間期
売上高 2,244,266 2,917,665 1,123,460
営業利益 142,263 221,848 15,664
経常利益 125,719 272,470 3,530
親会社株主に帰属する当期(中間)純利益 141,331 227,602 5,080
純資産額 573,568 801,525 807,964
総資産額 1,556,100 2,177,828 1,796,854
自己資本比率 36.9% 36.8% 45.0%
営業活動によるCF 299,497 △148,962 169,550
現金及び現金同等物 508,641 714,855 685,027

2025年12月期は売上高が前期比30.0%増、営業利益が55.9%増でした。売上総利益率は44.8%から50.1%に上がり(本記事の計算)、販売費及び一般管理費は863,326千円から1,240,439千円に増えています。このうち広告宣伝費は181,743千円から307,665千円に増えています。

2026年6月中間期は、売上高1,123,460千円、経常利益3,530千円です。同社は、主力の空気清浄機・加湿器が冬から春に売れ、夏を含む第2・第3四半期は売上が減る傾向にあると説明しており、「特定の四半期の業績のみによって通期の業績見通しを判断することは困難な可能性がある」と記載しています。

経常利益が倍増した中身を分解する

経常利益は125,719千円から272,470千円へ116.7%増えました。営業利益の増加(79,585千円)に加え、営業外収益に補助金収入60,250千円が計上されていることが大きく影響しています(補助金の内容は特定証券情報に記載がありません)。前期にあった為替差損7,398千円が当期は為替差益3,424千円に変わったことも寄与しています。

経常利益はなぜ倍増したのか(2024年12月期→2025年12月期)2024年125,719営業利益増+79,585補助金収入+60,250その他収益増+3,867営業外費用減+3,0492025年272,470経常利益の増加146,751千円のうち、60,250千円は営業外収益の補助金収入

図9 特定証券情報の連結損益計算書から本記事で増減を計算(千円)。補助金収入の内容は特定証券情報に記載がない

上場準備では、利益の増加が本業によるものか、一時的な収益によるものかを分けて説明できることが重要です。

利益が出ても営業CFがマイナスになった理由

2025年12月期の営業活動によるキャッシュ・フローは148,962千円の支出でした。税金等調整前当期純利益254,186千円を計上した一方で、売上増加に伴う売上債権の増加121,195千円、「新機種商品の翌期以降の販売を見据えた」棚卸資産の増加285,949千円、買掛金の減少68,606千円、法人税等の支払53,041千円などで資金が減っています。資金は短期借入れ(926,386千円)と長期借入れ(180,000千円)で手当てされ、期末の短期借入金は622,500千円になりました。

利益が出ても営業CFがマイナスになった理由(2025年12月期)税金等調整前当期純利益254,186減価償却費35,488売上債権の増加△121,195棚卸資産の増加△285,949買掛金の減少△68,606法人税等の支払額△53,041その他(未払金の増加等)90,155営業活動によるCF△148,962棚卸資産の増加は「新機種商品の翌期以降の販売を見据えた」もの(特定証券情報の説明)資金は短期借入で手当て短期借入れ 926,386短期返済 △607,500長期借入れ 180,000長期返済 △91,588

図10 特定証券情報の連結キャッシュ・フロー計算書より(千円)。「その他」は営業CFから表の各項目を差し引いた残りとして本記事で計算(未払金の増加42,463千円、減損損失11,354千円、製品保証引当金の増加13,151千円などを含む)

在庫は借入条件にも影響しています。カドーは取引銀行3行と当座貸越契約・貸出コミットメント契約を結んでおり、2025年12月期末の極度額600,000千円はすべて実行済みでした。また、商品及び製品666,142千円などを借入金の担保に供しています。貸出コミットメント契約には財務制限条項が付されており、2025年12月期末に「棚卸資産回転期間3か月以下」の条項に抵触しましたが、金融機関と協議して2026年5月28日付で条項を変更し、抵触は解消したと記載されています。

貸出コミットメント契約の財務制限条項(単体ベース)① 純資産前年同期比75%以上を維持② 営業損益損失としない③ 棚卸資産回転期間3か月以下(棚卸資産÷平均月商)変更後の③1.4か月以下平均月商=11月・12月の売上高合計÷22025年12月期末に③に抵触→ 金融機関と協議して条項を変更→ 抵触は解消(特定証券情報の記載)在庫水準が借入条件に直結することを示す例2026年5月28日変更

図11 特定証券情報「連結貸借対照表関係」注記より。2025年12月期末に③に抵触したが、金融機関と協議し2026年5月28日付で条項を変更し、抵触は解消したと記載されている

2026年6月中間期には、売上債権の回収(350,557千円の減少)で営業CFは169,550千円の収入に転じ、短期借入金は450,000千円に減っています。

資本政策と株主構成:事業会社と投資事業組合が並ぶ株主

特定証券情報の公表日現在、発行済株式総数は1,543,520株、株主数は41名(2026年8月8日現在の所有者別状況)です。所有者別では「その他の法人」が52.88%と最も多く、金融機関・金融商品取引業者の保有はありません。自己株式や種類株式はありません。

「株主の状況」(潜在株式を含む1,758,720株に対する割合)を見ると、代表取締役社長の古賀宣行氏が11.63%、取締役副社長の鈴木健氏が10.56%で、両氏を合わせると2割強です。続いて四条4号投資事業有限責任組合(8.07%)、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(7.96%)、シンガポールのRUIJING FINANCIAL MANAGEMENT PTE.LTD.(6.82%)、ケイマン諸島のASEAN China Investment III L.P.(5.34%)などが並びます。事業等のリスクでは、ベンチャーキャピタル等が所有する株式が410,120株(発行済株式総数の26.6%)あり、上場後に売却される可能性があると記載されています。

株主の状況(潜在株式を含む1,758,720株に対する割合)古賀 宣行(代表取締役社長)11.63%鈴木 健(取締役副社長)10.56%四条4号投資事業有限責任組合8.07%カルチュア・コンビニエンス・クラブ㈱7.96%RUIJING FINANCIAL MANAGEMENT6.82%ASEAN China Investment III L.P.5.34%㈱フェローテック4.55%CBC㈱4.55%四条5号投資事業有限責任組合4.26%加賀電子㈱4.09%その他の株主・新株予約権者32.17%VC等の所有は410,120株、発行済株式総数1,543,520株の26.6%(事業等のリスクの記載)

図12 特定証券情報「株主の状況」より(特定投資家向け取得勧誘の前の時点)。比率は新株予約権の潜在株式215,200株を含む。「その他」は上位10名以外の合計を本記事で計算。四条4号〜6号の各組合は社外取締役田村信氏が業務執行組合員を務める

なお、これらの比率は取得勧誘の前の時点の記載です。上場時には取得勧誘で発行された株式が加わるため、上場時点の持株比率とは異なります。

資本政策はどのような順番で進められたか

資本金の推移を見ると、2023年4月に欠損てん補のための無償減資(資本金221,484千円の減少)を行い、2024年3月には製造委託先でもある株式会社IBISに第三者割当で200株(1株100,000円、総額20,000千円)を発行しています。

2025年3月には、四条3号〜6号の各投資事業有限責任組合から、事業会社や個人に計5,793株(分割前)が1株100,000円で移動しました。移動理由は「IPO時の持分比率を低減させるため」と記載されています。2025年4月と12月には第14回〜第16回の新株予約権を発行し、2026年8月の株式分割(1:40)を経て、9月の取得勧誘に至っています。

上場までの資本政策の流れ2023年4月欠損てん補の無償減資2024年3月IBISへ第三者割当200株・@10万円(@2,500円)2025年3月四条組合から株式移動5,793株@10万円2025年4月・12月第14〜16回新株予約権行使価額@10万円2026年8月株式分割1:40単元株100株2026年9月 特定投資家向け取得勧誘:最大112,400株 × 発行価格2,680円(引受けなし・ブックビルディング方式に準拠)株式移動・第三者割当・新株予約権はいずれも分割後換算で1株2,500円。取得勧誘の発行価格は2,680円

図13 特定証券情報「発行済株式総数、資本金等の推移」「株式公開情報」「新株予約権等の状況」より。株数・価格は2026年8月の株式分割前の数値(括弧内は分割後換算、本記事で計算)

上場前の株式移動と価格の決め方

株式公開情報では、移動や発行の価格の決め方が説明されています。2024年12月の四条5号組合から個人への移動(200株)は「直近に実施した第三者割当増資時の株価を参考に当事者間で合意」した価格、2025年3月の移動は「ディスカウント・キャッシュ・フロー法を基に算定された価格を参考に当事者間の合意の上決定」した価格です。IBISへの第三者割当もDCF法による算定価格を参考に決めています。いずれも分割前1株100,000円で、分割後に換算すると2,500円となり、第14回〜第16回新株予約権の行使価額(分割後2,500円)とも一致します。取得勧誘の発行価格2,680円との差は7.2%です(本記事の計算)。

価格の根拠をそろえておく実務は、未上場株式の株価算定はどの方法を使うかで解説しています。

ストック・オプション6回分の設計

公表日前月末(2026年7月末)時点で残っている新株予約権は第9回・第11回・第12回・第14回・第15回・第16回の6回分で、目的となる株式数の合計は215,200株、発行済株式総数の13.9%です。第15回は社外協力者1名(経営コンサルティング会社の株式会社ラルク)向けで、「株式上場前は本新株予約権の行使はできない」との条件が付いています。

会計面では、付与日時点で未上場であったため、公正な評価単価を単位当たりの本源的価値で見積もっており、SOに係る費用計上額は「該当事項はありません」とされています。

ストック・オプション(新株予約権)の残高(2026年7月末、分割後換算)回決議対象者(付与時)株数行使価額第9回2019年3月取締役・監査役・従業員等81,0001,317円第11回2021年3月従業員・子会社従業員3,0001,844円第12回2021年8月従業員5,0001,844円第14回2025年4月取締役・監査役・従業員等100,6002,500円第15回2025年4月社外協力者1名18,0002,500円第16回2025年12月従業員・子会社従業員7,6002,500円合計--215,200-第15回は社外協力者(経営コンサルティング会社)向けで、「株式上場前は行使できない」条件付き第14〜16回は2025年1月1日以後の割当てのため、継続所有等の確約の対象

図14 特定証券情報「新株予約権等の状況」「ストックオプション制度の内容」より。株数・行使価額は2026年8月の株式分割(1:40)による調整後。合計215,200株は発行済株式総数1,543,520株の13.9%

継続所有等の確約にも触れておきます。TPMでも、新規上場申請日の直前事業年度の末日の1年前の日(カドーの場合は2025年1月1日)から上場日の前日までに第三者割当や新株予約権の割当てを行った場合、割当先に一定期間の所有等を担当J-Adviserへ確約させる仕組みがあります(特例115条・同施行規則107条)。カドーは第14回〜第16回の新株予約権について確約を行っている一方、2024年3月のIBISへの第三者割当は期間前のため確約欄が「-」です。確約の考え方は上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)も参考にしてください。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。

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コーポレート・ガバナンス:監査役会設置会社と社外役員5名

カドーは監査役会設置会社で、取締役会は取締役6名(うち社外取締役3名)、監査役会は常勤監査役1名と非常勤監査役2名(うち社外監査役2名)で構成され、いずれも原則として毎月1回開催されています。ほかに社長の諮問機関であるグループ経営会議(毎月1回)と、社長を委員長とするリスク・コンプライアンス管理委員会(四半期に1回)があります。

カドーのコーポレート・ガバナンス体制株主総会取締役会(毎月1回)取締役6名(うち社外3名)監査役会(毎月1回)監査役3名(常勤1名・社外2名)代表取締役社長グループ経営会議(毎月1回・諮問機関)リスク・コンプライアンス管理委員会(四半期1回)管理部(内部監査担当)会計監査人誠栄有限責任監査法人内部監査担当者は内部監査計画に基づき全部門・全子会社を監査し、代表取締役社長に直接報告

図15 特定証券情報「コーポレート・ガバナンスの状況」の体制図と説明をもとに作成。人数は特定証券情報公表日時点

役職 氏名 主な経歴(抜粋) 所有株式数
代表取締役社長 古賀 宣行 ソニー出身。2012年から代表取締役社長 164,600株
取締役副社長 鈴木 健 2011年に(旧)カドーを設立 145,800株
取締役副社長 西山 朋文 ソニー出身。香港子会社Director -
社外取締役 干川 量也 当社設立時の代表取締役社長 -
社外取締役 田村 信 株式会社四条代表取締役 -
社外取締役 香山 哲 複数社の取締役を歴任 -
常勤監査役 金子 敏 当社管理部長等を経て就任 8,000株
社外監査役 椿 勲 公認会計士・税理士 -
社外監査役 中町 昭人 弁護士 -

取締役の任期は2026年12月期に係る定時株主総会終結時までとされています。機関設計の選び方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で整理しています。TPMには一般市場のような機関設計の形式要件はなく、柔軟な設計が可能とされていますが、カドーは一般市場の会社と同様の監査役会設置会社を選んでいます。

社外役員と会社の関係はどう開示されているか

社外役員の状況では、各人と会社との関係が具体的に書かれています。社外取締役の田村信氏は、業務執行組合員を務める四条4号・5号・6号の各投資事業有限責任組合が当社株式を計237,000株所有しているほかは利害関係がないと記載されています。社外監査役の中町昭人氏は、同氏がパートナーを務める法律事務所と当社が法律顧問契約を結んでいるものの、同氏は顧問業務に関与していないとされています。

TPMの会社にコーポレートガバナンス・コードの独立社外取締役の原則がそのまま適用されるわけではありませんが、社外役員の「関係」を一つずつ開示する作業は、どの市場でも投資者の判断材料になります。関係の内容と期待する役割をセットで説明できるよう準備しておくのが実務的です(社外取締役は何人必要か)。

役員報酬と関連当事者取引

役員報酬は、株主総会で取締役年額300,000千円以内、監査役年額50,000千円以内の限度額が決議され、2022年3月の取締役会で「取締役報酬決定の基本方針」を定めています。社内取締役の報酬は本来「基本報酬」と「業績連動報酬」で構成するものの、上場までは基本報酬のみとし、業績連動報酬は上場後に採用時期を検討するとしています。2025年12月期の報酬総額は、取締役(社外を除く)3名59,422千円、監査役(社外を除く)1名7,500千円、社外役員5名11,400千円で、すべて固定報酬です。

関連当事者との取引としては、古賀社長による当社の銀行借入に対する債務保証(2025年12月期の取引金額479,820千円、保証料の支払なし)と、本社等の賃貸借契約に対する債務保証が開示されています。銀行借入の債務保証は特定証券情報の公表日現在ですべて解消し、賃貸借契約の保証も2025年12月期末に解消したと記載されています。経営者による個人保証の解消は上場準備の定番の論点で、社長個人と会社の取引はどう解消するかで詳しく解説しています。

内部監査・内部統制:管理部が担う内部監査

カドーの内部監査は「管理部(内部監査担当)」が担っています。内部監査担当者が内部監査計画を策定し、全部門・全子会社を対象に業務監査を行い、結果を代表取締役社長に直接報告します。改善事項があれば対象部門に改善を求め、必要に応じてフォローアップ監査を実施する流れです。常勤監査役は内部監査担当者・会計監査人と定期的に情報交換しています。

管理部は経理・与信・資金繰りなどの業務も担う部署です(与信管理や資金繰り計画の作成は管理部が行うと記載されています)。特定証券情報には、管理部自体を誰が監査するかの記載はありませんが、一般論として、内部監査の担当部署が自部署の業務を監査すると自己監査になるため、他部署の担当者が管理部を監査する等の手当てが求められます(内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避))。

監査役監査・内部監査・会計監査の連携(三様監査)の一般的な考え方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で解説しています。

会計・開示の論点:在庫・保証・繰延税金資産

カドーの連結財務諸表は日本基準で作成されています。TPMでは日本基準・米国基準・IFRS等を採用できますが、同社は特例110条6項で認められた会計基準のうち「我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」に準拠していると記載しています。

収益認識は、商品を引き渡す一時点で履行義務が充足されるとし、国内取引は出荷時から顧客への支配の移転までが通常の期間であることから、原則として出荷時に収益を認識しています。輸出取引は輸出条件に従い顧客が支配を獲得する時点で認識し、値引・割戻を控除した金額で収益を表示しています。契約負債(商品の引渡前に受け取った対価)は2025年12月期末で687千円と小さく、2026年6月末は26,199千円です。出荷基準を使う場合の注意点は上場審査で問われる収益認識で解説しています。

商品販売の収益認識と、在庫・保証にかかわる会計上の見積り製造委託先から仕入・在庫出荷(国内取引)顧客が商品の支配を獲得国内取引:出荷から支配移転までが通常の期間のため、原則として出荷時に収益を認識輸出取引:輸出条件に従い顧客が支配を獲得する時点で認識。値引・割戻は控除して表示棚卸資産の評価商品及び製品 755,021滞留・回転期間が一定以上は個別に簿価切下げ製品保証引当金50,436保証期間内の販売済み製品に過去の実績率で計上繰延税金資産118,598将来の課税所得の見積り(繰越欠損金あり)棚卸資産評価損(売上原価に含む):2024年12月期 67,570千円 → 2025年12月期 3,737千円固定資産の減損:2,233千円 → 11,354千円(当期は主に委託先工場の金型等)

図16 特定証券情報「重要な収益及び費用の計上基準」「重要な引当金の計上基準」「重要な会計上の見積り」より(金額は2025年12月期末、千円)

重要な会計上の見積りとして開示されているのは、棚卸資産の評価、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性の3項目です。棚卸資産は、滞留期間や回転期間が一定以上のものを個別に販売計画・実績に基づいて切り下げる方法で、売上原価に含まれる評価損は2024年12月期67,570千円、2025年12月期3,737千円でした。減損損失は主に「製造委託先工場」にある工具、器具及び備品(金型等)で、ファブレスであっても金型という固定資産を委託先に置いて持っている点が特徴です。

製品保証引当金は、保証期間内の販売済み製品について過去の実績率に基づくアフターサービス費用を計上するもので、2025年12月期末は50,436千円です。繰延税金資産は118,598千円で、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額を差し引いたうえで計上しています。2024年12月期は評価性引当額の取崩しにより法人税等合計がマイナス(△17,845千円)となり、当期純利益141,331千円が経常利益125,719千円を上回っています。

監査法人と監査報酬

項目 内容
監査法人 誠栄有限責任監査法人
監査の対象 第15期(2025年12月期)連結財務諸表の監査、第16期中間連結財務諸表の期中レビュー
根拠(会社の記載) 特例110条5項
監査証明業務に基づく報酬 13,000千円(最近連結会計年度、発行者)
非監査業務に基づく報酬 なし
報酬の決定方針 人員数・監査日数等を勘案し、監査役会の同意を得て決定

TPMでは監査期間が最近1年間で足りる一方、比較情報として前期の数値も開示されます。カドーは第14期の数値が未監査であることを明記しており、読み手にとって監査済みの範囲が明確です。監査法人の選定時期は監査法人はいつまでに決めるかも参考になります。

事業等のリスクと上場後に問われる点

事業等のリスクは22項目が挙げられ、多くの項目に「発生可能性」「発生する可能性のある時期」「影響度」が付されています。影響度「大」とされているのは、競合、新商品の企画開発、在庫管理、物流、為替相場の変動、知的財産権、製造物責任・訴訟、品質管理で、いずれも家電メーカーとしての事業そのものに関わるリスクです。

事業等のリスク(抜粋)と会社自身の評価主なリスク(特定証券情報の見出し)発生可能性影響度競合中大新商品の企画開発中大在庫管理中大物流中大為替相場の変動中大知的財産権中大品質管理中大製造物責任・訴訟低大季節変動中中仕入先への依存(2社で86.8%)低中特定人物への依存(社長)中中J-Adviserとの契約--影響度「大」は事業そのもの(商品・在庫・調達・為替)に集中している

図17 特定証券情報「事業等のリスク」より22項目のうち12項目を抜粋。発生可能性・影響度は会社の記載(J-Adviser契約の項目には評価の記載なし)

法令・規制のリスクでは電気用品安全法、景品表示法、製造物責任法などが列挙されています。

担当J-Adviserとの契約はTPM上場の前提

事業等のリスクの最後には、担当J-Adviserとの契約に関する記載があります。カドーは、特例102条の定めによりJ-Adviser契約を締結する義務があると説明し、契約の主な内容を次のように記載しています。

項目 特定証券情報の記載(要旨)
契約上の当社の義務 上場適格性要件を継続的に満たすこと、適時適切な開示に努めること、上場会社の義務を履行すること
義務違反の場合 相当の期間(特段の事情のない限り1か月)を定めて書面で催告し、是正されなければ解除できる
合意・通知による解除 合意によりいつでも解除でき、1か月前の書面通知でも解除できる
即日無催告解除 債務超過、銀行取引の停止、破産手続等、事業活動の停止、虚偽記載・不適正意見、反社会的勢力の関与など17項目(このほか、破産手続等に該当しても再建計画を開示した場合は原則として解除しない旨の定めがある)
上場への影響 代わりの担当J-Adviserを確保できない場合、上場廃止につながる可能性がある

J-Adviser契約は上場維持の前提であり、契約が解除され、必要な期間内に別のJ-Adviserと契約できなければ上場廃止となります。

一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆

カドーの特定証券情報には、将来の一般市場への上場(市場の変更)についての記載はありません。そのため、同社の今後の方針について本記事で推測することはしません。

一般論として、TPMから一般市場(グロース・スタンダード等)へ移る場合は、市場区分の変更ではなく、TPMの申請による上場廃止と一般市場への新規上場という扱いになります(2025年12月にTPMからグロース市場へ移ったAlbaLinkの例)。東証は2026年4月に、「26年秋めど」にTPMでの実績を勘案した一般市場の上場審査の効率化や開示様式の共通化・簡素化を予定していると公表しています(本記事の執筆時点で実施状況は確認できていません)。

一般市場を視野に入れる場合は、直前2期の監査、形式基準を満たす公募・売出しの設計、四半期決算短信や内部統制報告書への対応を早めに準備する必要があります。グロース市場の準備項目はグロース市場事前チェックリストで確認できます。

上場準備会社が学べること

カドーの特定証券情報から、上場準備の実務で参考になる点を8つに整理します。いずれも同社の記載事実を出発点にした一般的な示唆です。

カドーのケースから上場準備会社が学べること① TPMでも資金調達はできる取得勧誘・価格決定の段取りを先に設計② 監査は1期でも、比較情報の未監査期を説明できるように③ 在庫と借入条件をセットで管理財務制限条項の判定日を把握④ 経常利益の中身を分解する補助金など一時的な収益の識別⑤ 社長の個人保証は上場前に解消関連当事者取引として開示される⑥ 株式移動・SOの価格根拠をそろえるDCF法の評価と取得勧誘価格⑦ 社外役員の独立性は関係の開示から株主組合・顧問契約・SO保有⑧ ファブレスの品質・委託先管理仕入先2社依存と製品保証

図18 本記事のまとめ。特定証券情報の記載事実をもとに、上場準備の実務上の示唆として整理したもの

1. TPMでも資金調達はできる。段取りは承認後に集中する

カドーは、上場承認の翌日に仮条件を決め、需要の申告、発行価格の決定、申込み・払込みを経て上場日を迎えました。取得勧誘を行う場合は、ブックランナーの選定、発行諸費用(同社の概算は22,000千円)、払込口座など、承認後の約3週間で動く実務を事前に設計しておくことが必要です。

2. 監査は1期でも、未監査の比較情報の位置づけを明確に

TPMの監査期間は最近1年間ですが、特定証券情報には前期の数値も並びます。カドーのように「第14期は監査を受けていない」と明記しておくと、読み手が監査済みの範囲を誤解しません。

3. 在庫と借入条件をセットで管理する

新商品の販売に備えて在庫を積んだ結果、営業CFがマイナスになり、財務制限条項(棚卸資産回転期間)にも抵触しました。季節性のある商品を扱う会社は、期末在庫の水準を資金繰りと借入契約の両面から管理し、条項の変更が必要なら早めに金融機関と協議しておくことが大切です。

4. 経常利益の中身を分解して説明する

2025年12月期の経常利益の増加146,751千円のうち、60,250千円は補助金収入でした。本業による増加と営業外の要因を分けて説明できるようにしておくことが大切です。

5. 経営者の個人保証は上場前に解消する

社長による借入金の債務保証は、関連当事者取引として金額とともに開示されます。カドーは公表日までに銀行借入の保証をすべて解消しています。金融機関との交渉には時間がかかるため、早めの計画が必要です。

6. 株式移動・第三者割当・SOの価格根拠をそろえる

カドーでは、株式移動・第三者割当・新株予約権の価格がいずれもDCF法の評価を参考にした1株100,000円(分割後2,500円)でそろっており、取得勧誘の発行価格2,680円との関係も読み取りやすくなっています。上場準備の資本政策もあわせて確認してください。

7. 社外役員の「関係」を一つずつ開示する

株主組合の業務執行組合員、法律顧問契約先のパートナー、創業時の社長など、社外役員と会社の関係はさまざまです。カドーのように関係の内容と期待する役割を具体的に書くことで、ガバナンス体制の説明に一貫性が生まれます。

8. ファブレスこそ委託先管理と品質保証の体制が問われる

主力商品の製造を2社に集中して委託し、仕入金額の86.8%を占めるという記載は、委託先管理が事業の根幹であることを示しています。品質管理と製品保証引当金の見積りをつなぐ仕組みが、開示の信頼性にもつながります。

  • TPMに上場する目的と、資金調達の有無・使途・時期を言語化しているか
  • 取得勧誘を行う場合、ブックランナー・発行諸費用・払込までの日程を設計しているか
  • 監査対象期(最近1年間)と未監査期の位置づけを監査法人と確認しているか
  • 借入契約の財務制限条項と、期末在庫・運転資金の見込みを管理しているか
  • 経営者の個人保証など関連当事者取引の解消計画があるか
  • 株式移動・第三者割当・SOの価格根拠と確約の要否を整理しているか

よくある質問

Q1. TPMでも上場時に資金調達はできますか?

できます。カドーは上場に際して株主割当によらない特定投資家向け取得勧誘を行い、最大112,400株を発行価格2,680円で発行する形で資金を調達しました。この場合、表紙の書類名は「特定証券情報」になります。

Q2. TPMの上場前には何期分の監査が必要ですか?

TPMで求められる監査期間は最近1年間です。カドーも第15期(2025年12月期)の連結財務諸表のみ監査を受けており、第14期は監査を受けていないことが明記されています。中間期は期中レビューを受けています。監査そのものが不要になるわけではありません。

Q3. 一般投資家はTPMの株式を買えますか?

一般投資家は取引所でTPM銘柄の買付けができません。買付けができるのは特定投資家等です。ただし、一般投資家が保有している株式を売却することは可能です。

Q4. 担当J-Adviserとの契約が終わるとどうなりますか?

J-Adviser契約は上場維持の前提です。契約が解除され、代わりの担当J-Adviserを確保できない場合は上場廃止につながります。カドーの特定証券情報にも、契約の解除条項と上場廃止の可能性が記載されています。

最初の一歩は「上場目的」と「資金計画」の逆算から

TPM上場を検討するなら、まず「なぜ上場するのか」と「上場時に資金を調達するのか」を決め、そこから監査対象期、担当J-Adviserとの契約時期、取得勧誘の要否を逆算するのが近道です。監査法人によるショートレビューで課題を洗い出すことも有効です(ショートレビューとは)。

まとめ

カドーは、ファブレスの家電ブランドとして売上高約29億円まで成長した会社が、担当J-Adviserの調査と直前1期の監査を経て、特定投資家向け取得勧誘による資金調達を伴ってTPMに上場した例です。特定証券情報からは、価格決定の流れ、在庫と財務制限条項の関係、社長の債務保証の解消、DCF法でそろえた上場前の取引価格などを具体的に読み取ることができます。

TPMは形式基準がない一方で、上場適格性要件の確認と開示の正確さは変わらず求められます。取得勧誘を伴う上場を考える会社は、カドーの訂正特定証券情報までを通して読むと、承認後の実務の流れがよくわかります。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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