※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。
※本記事は、株式会社PRO HOLDINGSが東京証券取引所に提出・公表した「発行者情報」(2026年6月5日公表)及び「訂正発行者情報」(2026年6月19日公表)の公開情報と、日本取引所グループ(JPX)が公表しているTOKYO PRO Marketの制度資料に基づき、上場準備の実務解説を目的として作成したものです。投資の勧誘を目的とするものではありません。
株式会社PRO HOLDINGS(証券コード594A)は、2026年6月5日に上場申請が受け付けられ、6月19日に上場承認を受けて、2026年7月9日に東京証券取引所のプロ向け市場であるTOKYO PRO Market(TPM)に上場しました。担当J-Adviserはフィリップ証券株式会社です。広島県福山市に本店を置く純粋持株会社で、消防用設備や電気通信設備の工事を手がける株式会社プロテックなど3社を傘下に持ち、「建設業」「防犯監視カメラの製造・販売」「介護・子育て支援」の3つの事業を展開しています。本記事では、同社が上場時に公表した書類を読み、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が参考にできるポイントを整理します。
結論からいえば、PRO HOLDINGSの事例は「創業40年超のオーナー企業グループが、上場の約2年9か月前に持株会社体制を整え、種類株式の整理と株式分割を済ませたうえで、公募・売出しを行わずに直前1期の監査でTPMに上場した事例」です。持株会社化と株式交換、A種・B種種類株式の普通株式への変更、取締役3名と社外監査役1名のコンパクトな機関設計、代表取締役からの土地購入と役員借入金の返済といった関連当事者取引の整理、工事契約の収益認識など、オーナー企業がTPM上場を検討する際にそのまま参考にできる論点が並んでいます。
この記事の見出し
PRO HOLDINGSとTOKYO PRO Market上場の概要
まず、会社と上場の基本情報を確認します。同社の決算期は10月で、上場時の書類には第3期(2023年11月1日〜2024年10月31日)と第4期(2024年11月1日〜2025年10月31日)の連結経営指標等が掲載されています。連結財務諸表を作成しているのは第3期からで、連結子会社は株式会社プロテック、株式会社プロセキュリティ、株式会社プロエイドの3社です。3社とも議決権の100%を当社が所有し、すべて特定子会社とされています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社PRO HOLDINGS(PRO HOLDINGS Co., Ltd) |
| 証券コード | 594A |
| 市場 | TOKYO PRO Market(東京証券取引所) |
| 申請受付日 | 2026年6月5日 |
| 上場承認日 | 2026年6月19日 |
| 上場日 | 2026年7月9日 |
| 担当J-Adviser | フィリップ証券株式会社 |
| 上場時の公表書類 | 発行者情報(2026年6月5日公表)、訂正発行者情報(2026年6月19日公表) |
| 公募・売出し | なし(特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を実施しない) |
| 本店所在地 | 広島県福山市南蔵王町六丁目18番40号 |
| 設立 | 2021年11月(グループの前身は1981年4月創業の山陽プロテック) |
| 代表者 | 代表取締役 永井 健三 |
| 決算期 | 10月 |
| 事業 | 建設業(電気・電気通信・消防・環境・防犯)事業、製造業(防犯監視カメラ製造・販売)事業、介護・子育て支援事業 |
| 従業員数 | 連結291名、当社単体11名(2026年5月31日現在) |
| 監査法人 | ひかり監査法人 |
上場までの日程を並べると次のとおりです。監査の対象となった第4期の期末が2025年10月31日、2026年3月に株式分割の決議と臨時株主総会、4月11日に株式分割の効力発生、6月5日に申請受付と発行者情報の公表、6月19日に上場承認と訂正発行者情報の公表、7月9日に上場という流れでした。
図1 発行者情報・訂正発行者情報とJPXの新規上場会社情報をもとに作成。申請受付日から上場承認日までは土日を除くと10営業日です
従業員は連結で291名で、セグメント別には建設業事業59名、製造業事業34名、介護・子育て支援事業186名、全社(共通)12名です。人数でみると介護・子育て支援事業が最も多く、事業の性格が異なる3つの事業を一つのグループで運営していることがわかります。持株会社である当社単体の従業員は11名で、平均年齢37.0歳、平均勤続年数3.0年(グループでの勤続を通算)、平均年間給与4,670,170円です。労働組合は結成されていません。
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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
上場準備会社にとって最も気になるのは「なぜ一般市場ではなくTPMだったのか」という点でしょう。ただし、同社の発行者情報には、TPMを選んだ理由や上場の目的を説明した記載は見当たりません。表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」に、2026年7月9日にTPMへ上場する予定であることと、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことが書かれているのみです。そのため本記事では、同社がTPMを選んだ理由は推測せず、TPMという市場の一般的な特徴と、書類から読み取れる事実を整理するにとどめます。
JPXの説明によれば、TPMには株主数・流通株式・利益の額といった形式基準(数値基準)がなく、柔軟なガバナンス設計による上場も可能とされています。上場前の監査期間は「最近1年間」で、開示言語は英語又は日本語を選べます。一方で、TPMは特定投資家等を対象とした市場であり、一般投資家は取引所で株式を買い付けることができません(保有株式の売却は可能です)。
東証は2026年4月3日に、TPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直し、新規上場する会社に対して「上場目的」(なぜTPMに上場するのか、どう活用するのか)を検討・開示するよう要請しています。これは東証からの「お願い」であり、規程上の義務ではありません。同社の発行者情報(2026年6月5日公表)の中には上場目的の記載はありませんが、上場目的の開示は書類とは別に適時開示(TDnet)で行う仕組みとされているため、TPM上場を検討する会社は、書類の作成とは別に上場目的を言語化しておく必要があります。
上場時の公表書類が「発行者情報」になっている点も確認しておきます。TPMでは、上場に際して特定投資家向け取得勧誘等(いわゆるプロ私募)を行う場合は特定証券情報を公表しますが、同社のようにそれを行わない場合は、特例第110条第3項に基づいて「発行者情報に相当する情報」を公表します。同社の書類の表紙も「発行者情報」です。
図2 同社は上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を実施しないため、特例第110条第3項により「発行者情報に相当する情報」を公表しています(表紙の記載より)
書類から読み取れる事実として、同社の株主は個人3名のみで、ベンチャーキャピタルや事業会社の株主はいません。新株予約権やストック・オプションも発行していません。上場に際して株式の募集・売出しも行っていません。一般市場の新規上場であれば、株主数や流通株式の形式基準を満たすために公募・売出しが必要になるのが通常ですが、TPMには形式基準がないため、このような株主構成のままでも上場が可能です。この点は資本政策の節で詳しく見ます。
TPMの上場の仕組みを同社の記載で確認する
形式基準はなく、担当J-Adviserが上場適格性を確認する
TPMには一般市場のような形式基準がありません。その代わりに、東証から資格認証を受けた担当J-Adviserが、上場適格性要件への適合性を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成します。上場適格性要件は、企業としての相応性、事業の公正・忠実な遂行、企業の規模や成熟度等に応じたコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制、適正な開示を行える体制、反社会的勢力との関係がないことその他公益又は投資者保護の観点から必要な事項、の5つです。
手続の流れは、J-Adviser契約の締結と調査のあと、上場申請日の30営業日程度前までに東証へ意向表明を行い、東証の面談を経て上場申請に進みます。東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認します。同社の場合、申請受付日(2026年6月5日)から上場承認日(6月19日)までは、土日を除くと10営業日にあたります。「TPMには審査がない」と誤解されることがありますが、形式基準がないだけで、J-Adviserの調査と東証の面談がある点に注意が必要です。
同社の発行者情報には、上場適格性要件の一つである「企業としての相応性」に関連して、運転資本についての記載があります。「上場予定日から12か月間の運転資本は、自己資本及び借入による資金調達が可能であることから、十分である」と判断している旨です。JPXのガイドブックでも、上場予定日から12か月間の運転資金の確保が適格性の確認項目の一つとして挙げられています。上場時に資金調達を行わない会社では、手元資金と借入の枠で運転資金をどう確保するかを説明できるようにしておく必要があります。
図3 JPXの上場ガイドブック(TOKYO PRO Market編)の説明をもとに作成。日付はPRO HOLDINGSの申請受付日・上場承認日・上場日です
J-Adviser契約は「上場維持の前提」
同社は「事業等のリスク」の最後の項目(17)に「担当J-Adviserとの契約の解除」を掲げ、フィリップ証券との契約が「TOKYO PRO Marketにおける当社株式の新規上場及び上場維持の前提となる契約」であり、契約を解除し、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合には上場廃止になると説明しています。そのうえで、契約の解除条項を①から⑳まで具体的に開示しています。このうち④は、③(破産・再生・更生手続等)に該当しても再建計画を開示した場合には原則として解除しないとする例外規定で、解除事由ではありません。
解除条項には、債務超過の状態から一定期間内に脱却できない場合、銀行取引の停止、破産・再生・更生手続、事業活動の停止、不適当な合併等、支配株主との取引の健全性の毀損、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載や監査報告書の不適正意見等、重大な法令違反、株式の譲渡制限、完全子会社化、株主の権利の不当な制限、反社会的勢力の関与などが並んでいます。これらに該当すると、J-Adviserは契約を即日無催告で解除できるとされています。
図4 同社の「事業等のリスク(17)担当J-Adviserとの契約の解除」をもとに作成。発行者情報の開示日現在、解除条項に該当する事象は生じていないとされています
このほか、契約違反があった場合には相当の期間(特段の事情がない限り1ヶ月)を定めて書面で是正を催告し、是正されなければ解除できること、当事者の合意でいつでも解除できること、1ヶ月前の書面通知で解除できること、解除する場合はJ-Adviserがあらかじめ東証に通知することも記載されています。発行者情報の開示日現在、解除条項に該当する事象は生じていないとされています。
上場準備会社にとってのポイントは、J-Adviser契約の解除条項が、事実上TPMの上場維持の条件として機能するということです。特に債務超過、提出遅延、虚偽記載、監査意見の各項目は、管理部門の体制と直結します。TPMでは上場後も、年次と中間の発行者情報をそれぞれ期末後3か月以内に公表し、財務書類には監査証明(中間は中間監査又はレビューの意見・結論)を付ける必要があります。持株会社の管理部門が子会社3社の決算を集約し、連結で期限内に開示できる体制が、上場維持の土台になります。
監査は直前1期だけで上場している
同社の発行者情報に掲載された主要な経営指標等は第3期と第4期の2期分ですが、注記には、特例第110条第5項に基づき第4期の連結財務諸表についてひかり監査法人の監査を受けている一方、第3期の連結財務諸表は当該監査を受けていない旨が書かれています。TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」とされているため、直前の1期について監査を受ければ上場に進めるという建付けです。
図5 主要な経営指標等の注記より。第4期の連結財務諸表のみ特例第110条第5項に基づく監査を受け、第3期は当該監査を受けていません
一般市場の新規上場では、直前2期分の財務諸表について監査を受けることを前提に準備を進めるのが通常です。監査期間が1年で足りることは、TPMの準備期間を短くできる要因の一つです。その一方で、監査を受けていない期の数値は、監査済みの期と同じ確からしさで読めるわけではありません。本記事で第3期の数値に触れる場合も、監査を受けていない数値であることに留意してください。また、同社のように持株会社を設立して間もない会社では、連結財務諸表を作成し始めた最初の期が比較情報になる点にも注意が必要です。監査法人の選定時期の考え方は監査法人はいつまでに決めるかも参考になります。
一般市場(グロース・スタンダード)との違い
ここで、TPMと一般市場(グロース市場・スタンダード市場)の主な違いを整理しておきます。同社のように「株主3名のまま、公募・売出しを行わず、監査1期で上場する」という選択は、TPMの制度があってはじめて可能になるものです。
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場(グロース・スタンダード) |
|---|---|---|
| 買い付けできる投資家 | 特定投資家等(一般投資家は買付け不可。保有株式の売却は可能) | 一般投資家を含む |
| 形式基準 | なし(株主数・流通株式・利益の額などの数値基準がない) | 株主数・流通株式などの形式基準がある |
| 上場の可否の確認 | 担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認。東証も意向表明後に面談 | 主幹事証券の引受審査と東証の上場審査 |
| 申請から承認まで | 原則として上場申請から10営業日後に承認 | 東証の上場審査を経て承認 |
| 上場前の監査期間 | 最近1年間 | 直前2期 |
| 上場時の書類 | 特定証券情報(勧誘を行わない場合は発行者情報に相当する情報) | 有価証券届出書、新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)等 |
| 上場後の定期開示 | 発行者情報(年次・中間、各期末後3か月以内) | 有価証券報告書・半期報告書 |
| 四半期の開示 | 任意 | 取引所規則に基づく四半期決算短信 |
| 内部統制報告書 | 任意 | 提出が必要 |
| 会計基準 | 日本基準・米国基準・IFRS等(同社は日本基準) | 日本基準・米国基準・IFRS等 |
| 上場維持の前提 | 担当J-Adviserとの契約の維持 | 上場維持基準への適合 |
表のとおり、TPMは「準備の負担を抑えて上場できる」反面、買い付けできる投資家が特定投資家等に限られます。同社は上場時に特定投資家向けの勧誘も行っていないため、上場に伴う資金調達は行われていません。なお、コーポレートガバナンス・コードについては、JPXのコードのページで適用対象として示されているのはプライム・スタンダード・グロースの各市場です。TPM上場会社への適用関係は本記事では断定しませんが、一般市場の基準をそのままTPMの会社に当てはめて考えないよう注意が必要です。TPMの上場を検討する際は、上場によって何を実現したいのか(信用力、採用、取引先との関係、将来の一般市場への準備など)を先に整理しておくことが大切です。
事業内容と収益モデル
同社グループは『人と自然を大切に、安全・安心・快適・循環を創造』する企業活動を基本理念としています。代表取締役の永井健三氏は、1981年4月に「人々の生命と財産を守る」ことを企業理念として前身の山陽プロテックを創業し、消防用機器設備や防犯システム等を提案してきたと説明されています。当社は、その事業会社群の経営指導を行う持株会社です。
事業は3つのセグメントに分かれています。1つ目の「建設業(電気・電気通信・消防・環境・防犯)事業」は、プロテックとプロセキュリティが担います。プロテックは広島県・岡山県・山口県・島根県・鳥取県を中心に、消防用設備、弱電・電気通信設備、太陽光発電設備、水事業におけるシステムエンジニアリング、公共施設における設備工事の各分野で、企画設計から施工、保守・管理運営までを一貫して提供しています。プロセキュリティは広島県・岡山県を中心に、比較的小規模な顧客をターゲットとして消防用設備と弱電・電気通信設備を扱っています。
2つ目の「製造業(防犯監視カメラ製造・販売)事業」は、プロテックのカメラ事業部が担います。録画一体型の街頭防犯カメラ「安視ん君」シリーズ、ネットワークカメラ「FuLSupo」、遠隔放送監視カメラ「安視んボイス」などを自社で開発し、販売代理店を通じて全国の市町村や企業に提供しています。3つ目の「介護・子育て支援事業」は、プロエイドが広島県福山市で、介護・訪問看護、保育、学童(放課後等デイサービス)のサービスを一体的に運営するもので、事業所は12か所です。
図6 「事業の内容」「関係会社の状況」より。連結子会社3社はいずれも議決権100%で、関係内容は役員の兼任と経営指導。主要顧客の金額は第4期(訂正発行者情報を反映)
グループの組み立てで目を引くのは、持株会社である当社自身が土地を保有している点です。主要な設備の状況では、当社がプロテックの本社用地、カメラ工場「福山 techno factory」の建物・土地、プロエイドの介護・保育施設の用地などを保有していると記載されています。事業会社は子会社、不動産の一部は持株会社という役割分担です。持株会社体制では、こうした資産の持ち方とグループ内の取引(賃貸借など)の条件も、上場準備で整理しておくべき論点になります。
売上高の内訳は、収益認識関係注記の「顧客との契約から生じる収益を分解した情報」で確認できます。第4期は建設関連1,144,187千円、太陽光発電関連988,150千円、製造業882,512千円、介護393,161千円、保育179,093千円、学童146,400千円などで、合計3,736,023千円です。第3期と比べると、太陽光発電関連が507,351千円から988,150千円へほぼ倍増し、建設関連は1,459,098千円から1,144,187千円に減っています。
図7 収益認識関係注記「顧客との契約から生じる収益を分解した情報」より。介護・子育て支援事業の「その他」(第3期1,246千円、第4期2,518千円)は省略。第3期は監査を受けていない数値です
太陽光発電設備の分野について、発行者情報では、京セラの太陽光事業のフランチャイジーとして設計・施工から定期点検までを行うことに加え、「耕作放棄地・荒廃農地の有効活用」として、プロテックが当該農地を取得し、太陽光発電所を建設のうえ、地区の電力会社へ発電所を販売していると記載されています。販売実績の主な相手先には中国電力株式会社があり、同社向けの売上は第3期234,567千円(総販売実績の7.0%)から第4期726,408千円(同19.4%)へ増えています。
もう一つの主要な相手先が、訂正発行者情報で追加された広島県国民健康保険団体連合会です。第3期586,436千円(17.7%)、第4期572,574千円(17.3%)で、関連するセグメントは介護・子育て支援事業とされています。当初の発行者情報には中国電力のみが記載されていましたが、上場承認日と同じ6月19日に公表された訂正発行者情報で、販売実績とセグメント情報の「主要な顧客ごとの情報」に追加されました。上場準備では、総販売実績の10%以上を占める相手先を漏れなく把握し、本文と注記の両方に整合的に記載することが求められます。
沿革と上場までの道のり
同社グループの歴史は、1981年4月に広島県福山市で創業した山陽プロテックに始まります。1986年11月に法人化して株式会社プロテックを設立し、1987年1月には防犯セキュリティ分野に参入するためセキュリティハウス福山を創業しました(1991年2月に法人化、1995年11月に株式会社セキュリティに商号変更、2024年4月に現在の株式会社プロセキュリティに商号変更)。
その後、2009年12月に環境事業部を創設して京セラソーラーコーポレーションとFC加盟契約を結び、太陽光発電事業に参入しました。2014年5月には「安視ん君」の組立工場・倉庫を開設し、2015年2月に「録画一体型防犯用監視カメラ」の特許を取得しています。2015年11月には介護・子育て支援を目的に株式会社プロエイドを設立しました。建設業の許可も、一般建設業許可(1990年)から特定建設業許可、さらに国土交通大臣許可(2021年9月の電気・通信、2023年6月の消防)へと段階的に広げています。
図8 「沿革」より。創業は1981年4月、持株会社である当社の設立は2021年11月です
上場に向けた体制づくりで大きな節目となったのが、持株会社化です。発行者情報によれば、2021年11月に「事業拡大とガバナンス強化に向けたホールディングス化を見据え」当社を設立し、2023年10月に、プロテックを株式交換により、セキュリティ(現プロセキュリティ)とプロエイドを株式譲渡により完全子会社化して、当社を持株会社とする現在の体制になりました。上場日(2026年7月9日)から逆算すると、持株会社体制が整ったのは上場の約2年9か月前、第3期(連結初年度)の開始直前にあたります。
上場準備の観点では、グループ再編のタイミングが監査対象期や連結財務諸表の作成開始時期と密接に関係する点が重要です。同社は持株会社体制の下で第3期から連結財務諸表を作成し、第4期について監査を受けて上場しています。再編を監査対象期の途中で行うと、比較情報や連結範囲の説明が複雑になります。持株会社化を検討している会社は、上場スケジュールと再編の時期を合わせて計画することをおすすめします(参考:IPO準備の全体像(N-3期〜N期))。
業績の推移と読み方
次に業績です。連結の主要な経営指標等は次のとおりです。第3期は特例第110条第5項に基づく監査を受けていない数値です。
| 項目 | 第3期(2024年10月期) | 第4期(2025年10月期) |
|---|---|---|
| 売上高 | 3,308,563千円 | 3,736,023千円 |
| 営業利益 | 535,662千円 | 550,538千円 |
| 経常利益 | 558,346千円 | 574,859千円 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 373,991千円 | 398,401千円 |
| 純資産額 | 1,146,157千円 | 1,545,025千円 |
| 総資産額 | 2,543,141千円 | 3,406,980千円 |
| 自己資本比率 | 45.1% | 45.3% |
| 自己資本利益率 | 39.0% | 29.6% |
| 1株当たり純資産額(分割後) | 111.01円 | 149.50円 |
| 1株当たり当期純利益(分割後) | 36.22円 | 38.56円 |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 396,047千円 | 294,118千円 |
| 従業員数 | 267名 | 293名 |
第4期の売上高は前期比12.9%増、営業利益は2.8%増、経常利益は3.0%増、親会社株主に帰属する当期純利益は6.5%増です。売上総利益率は第3期の約43.5%から第4期の約42.7%へわずかに下がり、販売費及び一般管理費は905,095千円から1,043,309千円に増えています。売上の伸びに比べて営業利益の伸びが小さいのは、主に販管費の増加によるものと読めます。また、セグメント利益の合計は545,829千円から611,517千円に増えていますが、各セグメントに配分していない全社費用(調整額)が△10,166千円から△60,978千円に増えています。全社費用の内訳についての説明は発行者情報にはありません。
図9 セグメント情報より(百万円未満四捨五入)。セグメント利益は営業利益ベースで、全社費用(第3期△10百万円、第4期△61百万円)は含みません。第3期は監査を受けていない数値です
セグメント別に見ると、収益性の違いがはっきりしています。第4期のセグメント利益率(セグメント利益÷セグメント売上高。内部売上高を含む)を計算すると、建設業事業が約12.8%、製造業事業が約34.9%、介護・子育て支援事業が約4.0%です。製造業事業は売上高882,512千円と3事業で2番目の規模ですが、セグメント利益は308,419千円と最も大きくなっています。損益計算書でも、完成工事総利益率(約22.7%)に対して、カメラ製造・販売や介護等を含む兼業事業の総利益率(約69.2%)が高くなっています。
第4期の売上高から当期純利益までの流れは次の図のとおりです。営業外収益には補助金収入10,924千円や保険金等収入20,927千円、営業外費用には支払利息23,245千円が含まれ、特別損益はありません。法人税等合計は176,457千円で、税効果会計適用後の負担率は30.7%です。
図10 連結損益計算書より(百万円未満四捨五入のため合計が一致しない場合があります)。営業外損益は営業外収益50,864千円から営業外費用26,543千円を差し引いた純額。特別損益はありません
キャッシュ・フローを見ると、第4期は営業活動で294,118千円を獲得する一方、有形固定資産の取得で556,426千円を支出し、長期借入れ486,000千円やセール・アンド・リースバック84,326千円などで財務活動から506,157千円を得ています。設備投資は全体で581百万円で、建設業事業179百万円(機械装置中心)、製造業事業156百万円(新工場用の建物・土地中心)、介護・子育て支援事業245百万円(新事業所用の土地中心)と説明されています。貸借対照表では土地が58,230千円から501,323千円に、長期借入金が313,732千円から675,254千円に増えました。
図11 連結キャッシュ・フロー計算書より(百万円未満四捨五入)。第4期は有形固定資産の取得556百万円を、長期借入れ486百万円などで賄っています。第3期は監査を受けていない数値です
このほか、2025年10月31日現在の重要な設備の新設計画として、プロエイドの「NODOKAグループホーム」(投資予定総額161,100千円、借入金で調達、2025年12月着手・2026年7月完了予定)が記載されています。上場時に資金調達を行わない会社では、設備投資を借入で賄う場合の返済計画と、上場後12か月の運転資本の見通しを、整合的に説明できることが重要です(参考:IPO審査の「事業計画の合理性」)。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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資本政策と株主構成
株主は個人3名、上場前に種類株式を普通株式へ
同社の株主は、発行者情報の記載時点で個人3名です。代表取締役の二親等内の血族である池田ゆかり氏と永井あや氏がそれぞれ4,923,600株(47.64%)、代表取締役の永井健三氏が487,200株(4.71%)を所有しています。3名とも特別利害関係者等に該当します。新株予約権、ストック・オプション、自己株式はいずれも「該当事項はありません」とされています。
図12 第四部「株主の状況」より。株主は個人3名のみで、新株予約権・ストック・オプション・自己株式・第三者割当はいずれも該当なしです
| 株主 | 所有株式数 | 割合 | 発行者との関係等 |
|---|---|---|---|
| 池田ゆかり氏 | 4,923,600株 | 47.64% | 大株主上位10名、代表取締役の二親等内の血族 |
| 永井あや氏 | 4,923,600株 | 47.64% | 大株主上位10名、代表取締役の二親等内の血族 |
| 永井健三氏 | 487,200株 | 4.71% | 代表取締役 |
| 計 | 10,334,400株 | 100.00% | - |
株式の推移を見ると、上場前に株式の整備が段階的に行われています。2023年10月30日、プロテックを株式交換で完全子会社化したことにより発行済株式総数が増加し、普通株式103,246株、A種種類株式49株、B種種類株式49株となりました。その後、2025年1月28日の定時株主総会と普通種類株主総会、A種種類株主総会、B種種類株主総会の決議により、A種・B種種類株式に関する定款の定めを廃止し、同日付で各49株を普通株式に変更しています。種類株式の権利の内容は発行者情報に記載されていません。
さらに、2026年3月26日の臨時株主総会で単元株制度(1単元100株)を導入し、発行可能株式総数を410,000株に増やしました。また、3月18日の取締役会決議に基づき、4月11日付で1株を100株に分割し、発行済株式総数は10,334,400株、発行可能株式総数は41,000,000株となっています。株式分割の目的は「株式単位当たりの金額の引下げを行うことで株式の流動性を高めること」と説明されています。資本金は1,000千円のままで、増資は行われていません。
図13 「発行済株式総数、資本金等の推移」「重要な後発事象」より。資本金は1,000千円のまま変わっていません
上場準備会社にとってのポイントは、種類株式を上場前に普通株式へ一本化しておく手続です。同社は定款変更と各種類株主総会の決議を経て、上場申請の約1年4か月前に整理を終えています。種類株式の整理の考え方は種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかで解説しています。また、株式分割と単元株制度の導入は、上場時の株式の単位を整えるための典型的な手順です。
特別利害関係者等の株式移動と第三者割当
第四部「株式公開情報」の「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、2025年1月28日のA種種類株式・B種種類株式の普通株式への転換(それぞれ49株、分割前の株数)の2件が記載されています。価格の欄は「―」です。第三者割当等による株式等の発行は「該当事項はありません」とされています。
この欄の注記には、特例第115条及び同施行規則第106条の規定により、上場日から5年間、新規上場申請日の直前事業年度の末日の2年前(2023年11月1日)から上場日の前日までの期間における特別利害関係者等の株式等の譲受け・譲渡の状況の記録を保存するものとされている旨が書かれています。TPMでも、上場前の株式の動きは記録・開示の対象になります。親族間での株式の移動や相続・贈与対策による移動を予定しているオーナー企業は、上場前の期間に行う移動が記載対象になることを前提に、価格と理由を説明できるように準備しておく必要があります(参考:上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約))。
なお、創業者一族が株式のほぼすべてを保有したまま上場している点は、形式基準のないTPMならではの資本政策です。一般市場を将来目指す場合には、株主数や流通株式の基準を満たすために株式の放出が必要になるため、どの段階で誰に株式を持ってもらうのかを早い段階で検討しておく必要があります(参考:創業者の持株比率はどこまで下げてよいか)。
コーポレート・ガバナンス
取締役3名と社外監査役1名のコンパクトな機関設計
同社の機関設計は、取締役会と監査役を置く形です。取締役会は3名の取締役で構成され、毎月の定時取締役会のほか、必要に応じて臨時取締役会を開催しています。監査役は1名で、社外監査役です。社外取締役は選任していません。役員は男性4名で、女性の役員はいません。
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(発行者情報の記載から) |
|---|---|---|
| 代表取締役社長 | 永井 健三 | 1981年4月に山陽プロテックを創業。プロテック・プロエイドの代表取締役を兼任。2021年11月の当社設立時から代表取締役。所有株式487千株 |
| 取締役 総務部長 | 渡辺 桂二 | 1992年3月にプロテック入社。2021年11月から当社取締役、2025年1月からプロテック取締役 |
| 取締役 管理統括部長 | 稲葉 紳文 | 1998年4月にプロテック入社。プロエイド・プロテック・プロセキュリティの取締役を兼任。2021年11月から当社取締役 |
| 監査役(社外) | 山本 恭介 | 監査法人・税理士法人の勤務を経て2019年9月に公認会計士登録。2025年1月から当社監査役 |
図14 「コーポレート・ガバナンスの状況等」より作成。取締役3名・社外監査役1名の構成で、社外取締役は選任していません
取締役の任期は2026年3月26日の臨時株主総会終結の時から2027年10月期に係る定時株主総会終結の時まで、監査役の任期は同じく2029年10月期に係る定時株主総会終結の時までとされています。定款では取締役を7名以内、監査役を3名以内と定めています。取締役の選任決議は議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その過半数で行い、累積投票によらないこと、株主総会の特別決議の定足数を3分の1以上に緩和していることも記載されています。
監査役は、取締役会への出席、取締役からの職務執行状況の報告、重要書類の閲覧、重要財産の調査、各事業所の実地調査などにより経営を監視し、内部監査室や監査法人とも定期的に情報・意見交換を行っているとされています。社外監査役の独立性に関する基準や方針は特に定めていないものの、選任に際しては十分な独立性が確保できることを前提に判断しており、山本氏と当社との間に人的関係・資本的関係又は取引関係その他の利害関係はないと記載されています。
TPMでは、一般市場のような機関設計の形式要件はなく、柔軟な設計が可能とされています。一方で、上場適格性要件として「企業の規模や成熟度等に応じて」ガバナンスと内部管理体制が整備・運用されていることが求められ、担当J-Adviserが取締役の員数や役割、取締役会等の開催状況などを確認します。同社のように取締役3名の全員が社内出身者である場合、監査役1名がどこまで監視機能を果たせるかが体制の要になります。公認会計士を監査役に迎えている点は、会計・開示面の監視を意識した人選と見ることができます。監査役に求められる知識については監査役に会計の知識は必要か、一般市場での社外取締役の考え方は社外取締役は何人必要かも参考にしてください。
役員報酬と会社法上の定款規定
2025年10月期の役員報酬の総額は48,500千円です。内訳は、取締役(社外役員を除く)が47,000千円(固定報酬のみ、対象4名)、社外役員が1,500千円(同2名)です。対象人数には、2025年1月28日付で辞任した取締役1名と社外役員1名が含まれています。業績連動報酬や退職慰労金の支給はありません。
定款には、会社法第426条第1項に基づく取締役会決議による取締役・監査役の責任免除、第427条第1項に基づく責任限定契約(業務執行取締役等でない取締役及び監査役との間で締結済み)、第454条第5項に基づく取締役会決議による中間配当(毎年4月30日基準日)の定めがあります。配当政策は年1回の期末配当を基本方針としつつ、当事業年度は無配で、事業等のリスクでは創業以来配当を実施していないと説明しています。
代表取締役からの土地購入と役員借入金の返済
関連当事者との取引は、上場準備で特に整理が求められる項目です。同社の関連当事者情報には、第4期に当社が代表取締役の永井健三氏から土地を212,644千円で、代表取締役の配偶者である永井京子氏から土地を79,138千円で購入した取引が記載されています。取引条件は「不動産鑑定評価額並びに近隣の取引事例を参考に、双方協議のうえ、合理的に決定」とされています。前期には当社と関連当事者との取引はありません。
連結子会社と代表取締役との取引としては、第3期に資金の借入31,000千円、返済12,000千円、地代家賃の支払10,932千円があり、第3期末の役員借入金は30,096千円でした。第4期にはこの30,096千円を全額返済しており、連結貸借対照表の役員借入金も第4期末にはゼロになっています。借入利率は市場金利を勘案して合理的に決定し、地代家賃は近隣の賃貸料を参考に決定したと記載されています。
図15 関連当事者情報より(単位:千円)。左は第4期の当社と役員等の取引、右は連結子会社と代表取締役の取引です
オーナー企業の上場準備では、代表者個人が所有する不動産を会社が賃借している、代表者から資金を借りているといった取引が珍しくありません。こうした取引は、取引の必要性と条件の妥当性を説明できるようにするか、上場前に解消するかを検討することになります。同社は、不動産鑑定評価等を参考に価格を決めて土地を取得し、役員借入金を返済しています。価格の決め方を記録に残しておくことは、取引の公正性を説明するうえで重要です。取引の解消の進め方は社長個人と会社の取引はどう解消するか、注記の書き方は関連当事者との取引の注記の記載例で解説しています。
内部監査・内部統制
同社は内部監査室を設けています。発行者情報によれば、内部監査室は代表取締役の指示により、法令を遵守し社内規程及びマニュアルに従って効率的に業務が遂行されているかを検証・評価し助言することで業務改善を図るため、全ての部門及び支店を対象に、相互牽制の体制を維持しつつ内部監査を実施しています。監査の実施にあたっては監査役と随時情報交換を行い、監査内容、監査結果及び改善状況は代表取締役及び取締役会に随時報告されています。
一方で、内部監査室の人数や、内部監査担当者が他部門と兼務しているかどうか、内部監査室自体を誰が監査するかといった具体的な体制は、発行者情報には書かれていません。持株会社の単体従業員が11名という規模を考えると、内部監査の担当者をどう確保し、自己監査をどう避けるかは、多くの上場準備会社と共通する論点です。体制の作り方は内部監査の人数と体制や内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)を参考にしてください。
図16 「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載より作成。内部監査の担当者数や兼務の状況は発行者情報に記載がありません
内部監査以外では、全社的なコンプライアンスの推進を目的とした「リスク・コンプライアンス委員会」が置かれています。主に取締役で構成され、内部通報への対応と調査、クレーム・事故・労務状況に関する報告の受領、コンプライアンス違反の再発防止策の検討、従業員への教育・研修などを担い、原則として四半期ごとに開催するとされています。介護・子育て支援事業では利用者の事故や感染症、建設業事業では労務や安全の問題が起こり得るため、こうした情報をグループ横断で吸い上げる仕組みは重要です(参考:内部通報体制は上場審査でどこまで見られるか)。
内部統制システムについては、職務権限規程の遵守により業務を合理的に分担し、特定の組織や担当者に業務や権限が集中しないようにしていると記載されています。リスク管理規程、コンプライアンス規程、内部監査規程等を定め、必要に応じて弁護士等の複数の専門家から助言を受ける体制もとっています。TPMでは内部統制報告書の提出は任意ですが、上場適格性要件として内部管理体制の整備・運用は求められます。
会計・開示の論点
3つの事業で異なる収益認識
同社の収益認識は、セグメントごとに異なります。建設業事業は、工事の進捗に伴い履行義務が充足されるとして一定の期間にわたり収益を認識し、進捗度は予想される工事原価に占める期末日までの発生原価の割合(インプット法)で測定しています。工期がごく短い工事は代替的な取扱いを適用し、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識します。製造業事業は、製品を出荷した時点で物理的引渡しと所有権の移転が完了すると判断して収益を認識し、介護・子育て支援事業はサービス提供日に収益を計上しています。
図17 連結財務諸表の注記「重要な収益及び費用の計上基準」「重要な会計上の見積り」より作成
重要な会計上の見積りとして開示されているのは、「一定の期間にわたり充足される履行義務について認識した収益」で、第4期は391,472千円(前期653,587千円)です。工事収益総額は請負契約に基づき、工事原価総額は工事案件ごとの実行予算に基づいて見積もり、着手後も実行予算と実際発生額を継続的に比較して適時に見直すとされています。設計変更や追加契約、資材・外注費の市況変動などがあれば、翌期の財務諸表に影響する可能性があると説明しています。工事進行に応じた収益認識は、実行予算の精度と見直しの記録が監査で重視される領域です(参考:上場審査で問われる収益認識)。
| 項目 | 第3期末 | 第4期末 |
|---|---|---|
| 契約資産 | 59,368千円 | 108,486千円 |
| 契約負債(未成工事受入金・前受金のうち) | 176,980千円 | 197,613千円 |
| 残存履行義務に配分した取引価格 | 1,055,302千円 | 1,101,870千円 |
| うち1年以内に収益認識見込み | 454,320千円 | 528,640千円 |
| 長期借入金(1年内返済予定を含む) | 358,216千円 | 761,474千円 |
| リース債務(1年内返済予定を含む) | 291,631千円 | 364,628千円 |
リース、税効果、その他の注記
リース関係では、借主として所有権移転ファイナンス・リースにより主に太陽光発電設備を保有しているほか、貸主としてのファイナンス・リース(リース債権70,299千円)もあります。キャッシュ・フロー計算書にはセール・アンド・リースバックによる収入(第4期84,326千円)が計上されています。未適用の会計基準として「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)が挙げられ、2028年10月期の期首から適用予定、影響額は評価中とされています。リース取引の多い会社では、新リース会計基準への対応も上場後の決算体制の課題になります。
税効果会計では、繰延税金資産に税務上の繰越欠損金32,631千円(法定実効税率を乗じた額)が含まれ、将来の課税所得の見込みにより回収可能と判断して評価性引当額を認識していません。防衛特別法人税の創設に伴い、2026年11月1日に開始する連結会計年度以降に解消が見込まれる一時差異等について法定実効税率が34.1%から34.9%に変更される見込みで、影響は軽微とされています。このほか、法人税等会計基準(2022年改正)の適用による会計方針の変更(影響なし)、資産除去債務の重要性がないための記載省略、担保資産(建物・土地等122,609千円)なども開示されています。
会計監査はひかり監査法人が担い、2025年10月期の監査業務を執行した公認会計士は2名(いずれも継続監査年数7年以内)、補助者は公認会計士4名です。監査証明業務に基づく報酬は当社分11,700千円で、連結子会社分と非監査業務の報酬はありません。監査報酬の決定方針は定めていないものの、監査法人の見積書の内容を吟味し、監査役の同意を得て決定しているとされています。
事業等のリスクと上場で問われやすい点
同社は事業等のリスクとして17項目を挙げています。主なものを整理すると次のとおりです。
| リスク項目 | 発行者情報の記載の要点 |
|---|---|
| 特定の顧客への依存 | 中国電力向けが建設業事業の売上高構成比30%以上。複数の優良顧客の確保を目指す |
| 海外からの部品調達・為替 | カメラ部品は主に中国から調達し、仕入高の17.6%がXIAMEN MILESIGHT IOT CO.,LTD.。輸入は主に米ドル建て |
| 人材の確保 | 電気工事士・消防設備士等の資格者、介護保険法・児童福祉法に基づく人員基準 |
| 法的規制・制度改定 | 建設業法の許可、介護保険法・児童福祉法・子ども・子育て支援法の指定・認可。介護報酬は3年ごとに改定 |
| 顧客の安全管理 | 介護・保育の利用者の事故、感染症、食中毒 |
| 資金繰り | 主として銀行借入で手元資金を確保 |
| 担当J-Adviserとの契約の解除 | 契約を解除し他のJ-Adviserを確保できない場合は上場廃止 |
図18 販売実績(訂正発行者情報を反映)と「事業等のリスク(5)」より。売上の割合は連結売上高に対する比率、仕入の割合は第4期の仕入高に対する比率です
上場準備の観点で特に注目したいのは、取引先の集中です。対処すべき課題の第1項目に「特定顧客依存からの脱却」を掲げ、リスク情報でも中国電力との契約が継続的に締結できなかった場合には「重大な影響が及ぶ可能性」があると明記しています。介護・子育て支援事業では、広島県国民健康保険団体連合会向けが総販売実績の17.3%を占めています。依存度の高い取引先がある場合は、その事実と影響、対応方針を率直に開示することが求められます。
また、許認可が事業の前提になっている点も重要です。同社は建設業許可(国土交通大臣許可・知事許可)のほか、介護・保育の各種指定・認可を受けており、リスク情報には許認可の名称、監督官庁、主な取消事由を表で示しています。許認可の管理は、上場審査でも上場後の内部管理でも重視される項目です(参考:IPOで許認可はどこまで見られるか)。
一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆
同社の発行者情報には、一般市場への市場変更や新規上場についての記載はありません。ここでは同社の方針には触れず、TPM上場後に一般市場を目指す会社一般にとっての示唆を、制度面から整理します。
まず、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMの申請による上場廃止と一般市場への新規上場として扱われます(2025年のAlbaLinkの事例)。東証は2026年4月に、TPMでの実績を勘案した一般市場上場審査の効率化や開示様式の共通化・簡素化を「2026年秋めど」に行う予定と公表していますが、本記事の執筆時点(2026年10月7日)で実施状況は確認できていません。
| 項目 | TPM上場時点の状況(同社の例) | 一般市場の新規上場で追加的に準備すること |
|---|---|---|
| 監査 | 直前1期(第4期)の監査 | 直前2期の監査 |
| 株主構成 | 個人3名(創業者一族) | 形式基準(株主数・流通株式等)を満たすための公募・売出し等 |
| 機関設計 | 取締役3名・社外監査役1名 | 独立役員の確保など一般市場の上場規則・CGコードへの対応 |
| 内部統制 | 職務権限規程、内部監査室の相互牽制 | 内部統制報告制度(J-SOX)への対応 |
| 開示 | 年次・中間の発行者情報 | 有価証券届出書・Ⅰの部、有価証券報告書・半期報告書、四半期決算短信 |
TPMで上場会社としての開示や適時開示の運用を経験しておくことは、一般市場を目指す場合の準備にもなります。ただし、上の表のとおり、監査期間、株主構成、機関設計、内部統制報告制度などは一般市場の基準で改めて整える必要があります。同社のように株主が創業者一族に限られる会社では、一般市場を目指す段階で資本政策を一から組み立て直すことになるため、TPM上場の時点で将来の方向性を整理しておくことが大切です(参考:上場準備の資本政策)。
上場準備会社が学べること
- 持株会社化は監査対象期から逆算する:同社は持株会社体制を整えた直後の期から連結財務諸表を作成し、その翌期の監査で上場している。
- 種類株式は上場前に一本化する:定款変更と各種類株主総会の決議で、上場申請の約1年4か月前に普通株式へ変更している。
- 株式分割と単元株制度で株式の単位を整える:1株を100株に分割し、1単元100株とする手順を上場の数か月前に完了している。
- 勧誘の有無で公表書類が変わる:特定投資家向け取得勧誘等を行わない場合、上場時の書類は発行者情報に相当する情報になる。
- 少人数の取締役会では監査役の人選が要になる:取締役3名が社内出身の場合、会計の専門性を持つ監査役が監視機能の中心になる。
- 関連当事者取引は価格の根拠を残して整理する:代表者からの土地購入は鑑定評価等を参考に価格を決め、役員借入金は返済している。
- 主要な取引先は漏れなく開示する:販売実績10%以上の相手先は、本文と注記の両方で整合的に記載する。
- J-Adviser契約の解除条項を管理する:提出遅延、虚偽記載、監査意見、債務超過は上場維持に直結する。
- 上場の目的と、TPMを選ぶ理由を言語化している
- 持株会社化などの再編の時期を、監査を受ける事業年度から逆算して決めている
- 種類株式・株式分割・単元株制度など、上場時の株式の整備の手順を決めている
- 代表者との不動産取引や借入など、関連当事者取引の整理方針と価格の根拠がある
- 内部監査の担当者が自部門を監査しない体制になっている
- 年次・中間の発行者情報を期末後3か月以内に連結で公表できる決算・開示体制がある
よくある質問
TPMでは特定投資家向け取得勧誘等により資金調達を行うことができますが、PRO HOLDINGSは上場に際して特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を実施しておらず、上場時の資金調達は行っていません。同社の運転資本は、自己資本と借入による資金調達が可能であることから上場予定日から12か月間は十分と判断されています。
TPMには株主数や流通株式などの形式基準がありません。同社も個人株主3名のまま上場しています。ただし、上場適格性要件を担当J-Adviserが確認し、特別利害関係者等の株式の移動も記録・開示の対象になります。
TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」とされています。同社も第4期の連結財務諸表についてのみ監査法人の監査を受けており、第3期は監査を受けていない旨が記載されています。
市場区分の変更ではなく、TPMの上場廃止と一般市場への新規上場として扱われます。東証はTPM実績を勘案した審査の効率化を予定と公表していますが、実施状況は最新の公表資料で確認が必要です。
最初の一歩は「グループの形」と「監査を受ける1年」を決めること
グループ会社を持つオーナー企業がTPM上場を検討する場合は、まず上場の目的を整理し、どの会社を上場会社とするのか(持株会社を設けるのか)と、どの事業年度から監査を受けるのかを決めることから始めるとよいでしょう。そのうえでJ-Adviser候補と相談し、上場適格性要件に照らして、ガバナンス、関連当事者取引、内部監査、開示体制、運転資金の見通しを一つずつ確認していきます。現状の課題を洗い出す方法としてはショートレビューとはも参考にしてください。
まとめ
株式会社PRO HOLDINGSは、2026年6月5日の申請受付、6月19日の上場承認を経て、2026年7月9日にTOKYO PRO Marketに上場しました。担当J-Adviserはフィリップ証券で、上場に際して公募・売出しを行わず、特例第110条第3項に基づき発行者情報に相当する情報を公表しています。書類からは、2021年の持株会社設立と2023年の株式交換等による3社の完全子会社化、A種・B種種類株式の普通株式への変更と1対100の株式分割、直前1期のみの監査、建設業・防犯監視カメラ・介護子育て支援の3事業の収益構造、創業者一族3名による株主構成、取締役3名と社外監査役1名の機関設計、代表取締役からの土地購入と役員借入金の返済といった論点を読み取ることができます。
TPMは形式基準がない分、自社の目的と体制を自ら説明する力が問われる市場です。上場準備会社の方は、本記事のチェックリストを使って、自社の準備状況を確認してみてください。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「PRO HOLDINGS 発行者情報」(2026年6月5日公表)
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「PRO HOLDINGS 訂正発行者情報」(2026年6月19日公表)
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 新規上場会社情報」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 概要」
- 日本取引所グループ「特定投資家制度の概要」
- 日本取引所グループ「J-Adviser制度」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 上場基準」
- 日本取引所グループ「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」
- 東京証券取引所「TOKYO PRO Marketの今後の方向性」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「上場目的の開示のお願い」(2026年4月3日)
- 日本取引所グループ「上場廃止の決定:(株)AlbaLink」(2025年11月11日)
- 日本取引所グループ「コーポレートガバナンス・コード」
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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