※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。
2026年4月24日、北九州市に本社を置くIT企業の寶結株式会社(英文社名 Houyou Inc.)が、東京証券取引所のTOKYO PRO Market(以下「TPM」)に上場しました。上場に際して特定投資家向け取得勧誘等(一般市場の公募・売出しに当たる勧誘)は行わず、「発行者情報」を公表しての上場です。本記事では、JPXの新規上場会社情報に掲載された同社の発行者情報を読み、上場準備の実務で参考になる点を公認会計士の視点で整理します。
結論からいえば、寶結のケースは「売上高8億円規模・従業員39名のIT企業が、直前1期の監査と担当J-Adviserの調査を経て、資金調達を伴わずにTPMへ上場した例」です。上場直前の事業譲受(のれん142百万円)、販売先・仕入先の集中、代表者と代表者が代表社員を務める合同会社で発行済株式の9割超を持つ株主構成、上場前のストック・オプション(SO)付与と株式移動など、規模の小さい会社がTPMを使うときに論点になりやすい項目がそろっています。
この記事の見出し
寶結はどんな会社で、いつTPMに上場したのか
寶結は2014年12月にHouyou株式会社として北九州市で設立され、2021年9月に現在の商号に変更しました。事業は情報サービス事業の単一セグメントで、自治体や大手企業向けのシステムエンジニアリングサービス(SES)・受託開発、業務運営を担う「BOPサービス」、学校や自治体のネットワーク整備・端末キッティングを担う「ネットワークサービス」を組み合わせて提供しています。決算期は8月で、上場時点の直前事業年度は第11期(2025年8月期)です。
上場の手続面では、2026年4月3日に新規上場の申請が受け付けられ(同日に発行者情報を公表)、4月17日に上場承認、4月24日に上場しました。担当J-Adviserはフィリップ証券株式会社です。申請受付から上場承認までは10営業日で、TPMで「原則として上場申請から10営業日後に上場承認」とされている流れどおりの日程です。
図1 発行者情報の記載とJPXの新規上場会社情報(申請受付日・上場承認日・上場日)をもとに作成
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 寶結株式会社(Houyou Inc.)、証券コード562A |
| 市場 | 東京証券取引所 TOKYO PRO Market |
| 上場日 | 2026年4月24日 |
| 上場承認日 | 2026年4月17日 |
| 申請受付日 | 2026年4月3日(発行者情報の公表日) |
| 担当J-Adviser | フィリップ証券株式会社 |
| 上場時の開示書類 | 発行者情報(特例110条3項。特定投資家向け取得勧誘等なし) |
| 本店 | 福岡県北九州市小倉北区 |
| 設立 | 2014年12月 |
| 決算期 | 8月(第11期=2025年8月期) |
| 事業 | 情報サービス事業(DX事業部門・インフラ事業部門) |
| 従業員 | 39名(臨時21名)、平均年齢38.6歳(2026年2月28日現在) |
| 監査 | 如水監査法人(第11期の財務諸表) |
従業員は39名(ほかに臨時雇用者21名)で、DX事業部門28名、インフラ事業部門6名、営業・管理の全社共通5名という構成です。平均勤続年数は3.0年、平均年間給与は4,428千円と記載されています。子会社・関連会社はなく、財務諸表は単体のみです。
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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
寶結の発行者情報には、「上場目的」や「TPMを選んだ理由」を独立した項目として説明する記載はありません。関連する記載として、「対処すべき課題」の「経営基盤の強化と上場対応」で、慢性的な人材不足への対応として上場による信用力を活用した採用力の強化を図ること、社外取締役の登用や取締役会の監督機能の強化、内部統制システムの高度化を進めること、TPM上場後は担当J-Adviserとの緊密な連携体制を構築し、プロ投資家向けの専門性・深度あるIR体制を確立することが述べられています。本記事では、これ以上に同社の選択理由を推測することは控えます。
一般論として、TPMには一般市場と異なる特徴があります。形式基準(株主数・流通株式・利益の額などの数値基準)がなく、上場時に資金調達を行わない上場も可能です。東証は2026年4月から、新規上場時に「なぜTPMに上場するのか・どう活用するのか」という上場目的を検討・開示するよう要請しています(規程上の義務ではなく「お願い」です)。東証が公表した2026年6月15時点の集計では、上場目的の上位は社内体制強化・営業力強化・採用力強化で、「増資」を挙げた会社は1割程度にとどまります。寶結の課題の記載(採用力、ガバナンス、IR)も、こうした活用のされ方と方向は重なります。
これからTPMを検討する会社は、「何のために上場するのか」を社内で言語化し、上場後に実現状況を評価できる形にしておくことが求められる流れにあります。上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。
TPMの上場の仕組みは一般市場とどう違うのか
TPMは、2008年の金融商品取引法改正で導入された「プロ向け市場制度」に基づく市場で、法令上は「特定取引所金融商品市場」に当たります。株式を買い付けられるのは特定投資家(適格機関投資家など)や一定の要件を満たして特定投資家に移行した個人等で、一般投資家は取引所で買付けができません(保有株式の売却は可能です)。発行者情報の表紙にも「TOKYO PRO Marketは、特定投資家等を対象とした市場であり、その上場会社は、高い投資リスクを含んでいる場合があります」との注意事項が記載されています。
上場審査の中心になるのが担当J-Adviserです。TPMには数値の形式基準がない代わりに、担当J-Adviserが「企業としての相応性」「事業の公正・忠実な遂行」「ガバナンス・内部管理体制」「適正な開示を行える体制」「反社会的勢力との関係がないこと等」の5つの上場適格性要件を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成します。東証も意向表明の後に面談を行うため、「審査がない市場」ではありません。
図2 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する
寶結の発行者情報には、上場適格性要件の「企業としての相応性」に対応する記載として、「上場予定日(2026年4月24日)から12か月間の運転資本は、自己資金及び借入による資金調達が可能であることから十分であると認識しております」という一文があります。上場時に資金調達をしない会社でも、上場後1年間の資金繰りに問題がないことを説明できるようにしておく必要がある、ということです。
開示書類の名称にも注意が必要です。上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行う会社は「特定証券情報」を公表しますが、寶結は勧誘を行わないため、特例110条3項により「発行者情報に相当する情報」を公表しています。表紙の書類名が「発行者情報」になっているのはこのためです。上場後は、年次と中間の発行者情報を各期末後3か月以内に公表します(一般市場の有価証券報告書・半期報告書とは別の書類です)。
図3 金融商品取引法27条の31と、発行者情報表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成
監査についても一般市場と違いがあります。TPMの新規上場で求められる監査期間は「最近1年間」です。寶結は第11期(2025年8月期)の財務諸表について如水監査法人の監査を受けており、主要な経営指標の注記で「第9期及び第10期の財務諸表については、当該監査を受けておりません」と明記しています。一般市場の新規上場では直前2期の監査が求められるため、監査法人との契約時期の考え方が変わります(監査法人はいつまでに決めるか)。
一般市場(グロース・スタンダード)との比較
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場(グロース・スタンダード) |
|---|---|---|
| 買付けができる投資家 | 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、売却は可能) | 一般投資家を含む |
| 形式基準 | なし(数値基準がない) | 株主数・流通株式等の形式基準あり |
| 上場適格性の調査 | 担当J-Adviserが調査・確認、東証が面談 | 東証の上場審査 |
| 申請から承認まで | 原則として申請から10営業日後に承認 | 一般市場の審査日程による |
| 新規上場時の監査期間 | 最近1年間 | 直前2期 |
| 開示書類 | 特定証券情報・発行者情報 | 有価証券届出書・有価証券報告書等 |
| 四半期開示 | 任意 | 四半期決算短信(取引所規則) |
| 内部統制報告書 | 任意 | 提出が必要 |
| 会計基準 | 日本基準・米国基準・IFRS等 | 日本基準・米国基準・IFRS等 |
| 上場維持の前提 | 担当J-Adviserとの契約の維持 | J-Adviser制度なし |
表のTPM欄は、JPXのTPM概要ページと上場ガイドブック(TPM編)の記載に基づいています。なお、一般市場の会社に適用されるコーポレートガバナンス・コードや実質審査基準を、そのままTPMの会社に当てはめて考えないよう注意が必要です。
事業内容と収益モデル:「三位一体モデル」とは
寶結は、事業を「DX事業部門(エンジニアリングサービス/BOPサービス)」と「インフラ事業部門(ネットワークサービス)」の2事業部門3サービスで説明しています。同社の特徴として挙げられているのが「三位一体モデル」です。BOPサービスが現場業務の運営を通じて課題と運用データを把握し、その知見をエンジニアリングサービスの要件定義・設計に反映し、構築した仕組みをネットワークサービスが現場環境に実装して安定稼働を担う。運用から得られたデータと改善知見はBOPサービスへ還流し、KPIに基づく改善を続ける、という循環です。
図4 発行者情報「事業の内容」をもとに作成。BOPはBusiness Operation Provider(業務の実行・運営)
2025年8月期の売上高819,736千円のうち、DX事業部門が76.1%(623百万円)、インフラ事業部門が23.9%(196百万円)です。サービス別では、準委任契約による人員提供が中心のSESが40.2%と最も大きく、次いで端末のキッティング(機器設定・保管・配送)が20.3%、コミュニティ運営・コワーキング施設運営が12.6%、常駐ヘルプデスクが10.9%と続きます。
図5 発行者情報「事業の内容」の全社売上高に対する割合。DX事業部門76.1%(エンジニアリング48.7%、BOP27.4%)、インフラ事業部門23.9%
どのような契約形態で稼いでいるのか
収益モデルの説明は、サービスごとに契約形態まで書かれています。エンジニアリングサービスは請負契約(受託開発)、準委任契約(人月単位)、保守の月額契約など。BOPサービスはマネージド(定額)契約を基本に、準委任契約、業務委託契約、EC運営などのトランザクション連動型、コワーキング拠点の指定管理料及び自主事業収益を組み合わせています。北九州市の創業支援施設「COMPASS小倉」は、同社が参画する共同事業体が指定管理業務を受託している施設です。
インフラ事業部門は、機器販売(フロー型)、構築・施工(プロジェクト型)、保守(ストック型)の三層構造と説明され、GIGAスクール構想に伴う約3万台規模の端末キッティングなどの実績が挙げられています。上場準備の観点では、このように「どの契約で、いつ、どう収益になるか」を事業説明の段階から整理しておくと、後で見る収益認識の会計方針や事業等のリスクと一貫した説明になります(上場審査で問われる収益認識)。
沿革と上場までの道のり
沿革を見ると、創業時のシステム開発から、2016年のコワーキング運営、2018年のCOMPASS小倉の指定管理やネットワーク事業、一燈株式会社のSES部門の譲受と、事業を段階的に広げてきたことが分かります。許認可等としては、電気通信事業の届出(2018年1月)、労働者派遣事業の許可(2018年9月)、プライバシーマーク(2021年12月)、有料職業紹介の免許(2023年4月)が記載されています。
上場準備の動きとしては、2024年11月に公認会計士の社外監査役が就任し、2025年7月に安川情報システム(現 YE DIGITAL)の経理部長などを経た原英明氏が取締役(管理統括)に就任、2025年8月にSOの付与と株式移動、同年9月に事業譲受と本社移転、11月に株式分割と単元株制度の導入を行っています。いずれも上場の1年前後の短い期間に集中しています。
図6 発行者情報「沿革」「株式等の状況」から主な項目を抜粋
事業等のリスクでは、労働者派遣事業の許可の有効期限が2026年8月31日であることも表で示されています。許認可の一覧と有効期限は、上場準備の段階で台帳化しておきたい項目です(IPOで許認可はどこまで見られるか)。
業績はどう推移しているか
| 項目(千円) | 第9期 2023年8月期 | 第10期 2024年8月期 | 第11期 2025年8月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 524,995 | 718,702 | 819,736 |
| 経常利益 | 19,799 | 15,564 | 51,851 |
| 当期純利益 | 793 | 9,665 | 37,903 |
| 純資産額 | 42,496 | 52,161 | 90,064 |
| 総資産額 | 257,468 | 556,829 | 443,599 |
| 自己資本比率 | 16.5% | 9.4% | 20.3% |
| 営業活動によるCF | - | 8,298 | 42,389 |
| 従業員数(臨時) | 25(13) | 30(9) | 30(20) |
売上高は3期で524,995千円から819,736千円へ増加し、第11期は経常利益51,851千円、当期純利益37,903千円と利益水準が上がりました。会社は増益の理由として、売上の増加に加え、高付加価値案件比率の上昇、原価管理の徹底、社内稼働の適正化による生産性向上を挙げています。売上総利益率は前期19.4%から23.4%に、営業利益率は1.6%から6.3%に改善しています(本記事の計算)。
なお、第9期はキャッシュ・フロー計算書を作成しておらず、第9期・第10期の数値は監査を受けていません。TPMでは直前1期の監査で上場できますが、過去の数値の位置づけを開示上明確にしておくことは、一般市場と同様に大切です。
図7 発行者情報「主要な経営指標等の推移」より。百万円未満四捨五入。第9期・第10期は監査を受けていない数値
第11期の損益の流れを見ると、売上総利益191,756千円から販管費139,947千円を差し引いた営業利益が51,809千円です。営業外では補助金収入1,900千円などがあり、特別損失として本社移転に伴う減損損失1,035千円を計上しています。法人税等合計は12,912千円で、税効果会計適用後の負担率は25.41%(賃上げ促進税制による税額控除の影響△5.81%を含む)と記載されています。
図8 損益計算書より。経常利益には補助金収入1,900千円等の営業外損益を含む
受注高と受注残高から何が読めるか
| 事業部門 | 受注高(千円) | 前年同期比 | 受注残高(千円) | 前年同期比 | 売上高(千円) |
|---|---|---|---|---|---|
| DX事業部門 | 663,105 | 134.9% | 221,851 | 121.6% | 623,733 |
| インフラ事業部門 | 531,708 | 165.2% | 369,915 | 1,081.3% | 196,003 |
| 合計 | 1,194,813 | 146.9% | 591,767 | 273.1% | 819,736 |
インフラ事業部門は、前期の大型工事の反動で売上高が前期比34.2%減となった一方、受注高は65.2%増え、受注残高は369,915千円(前期比1,081.3%)に積み上がっています。会社は「次期以降の案件パイプラインを拡充」と説明しています。案件の大小で年度ごとの売上が振れやすい事業では、売上高だけでなく受注高・受注残高を開示して説明することが、業績の見通しを伝えるうえで有効です。
季節性についても記載があります。主要顧客である地方自治体や3月決算の民間企業の年度末に発注・検収が集中するため、8月決算の同社では第3四半期・第4四半期の業績が相対的に高く、第1・第2四半期が低くなる傾向があるとされています。TPMでは四半期開示は任意ですが、中間の発行者情報では上期の数値が出るため、季節性の説明は上場後の開示でも重要になります。
販売先と仕入先の集中
販売実績の注記では、第11期の総販売実績に対する割合として、テックユニオン株式会社23.1%、北九州市17.2%、株式会社ドーワテクノス12.6%が示されています。前期は株式会社YE DIGITAL Kyushuが38.9%を占めていましたが、第11期は10%未満となり記載が省略されています。上位顧客の顔ぶれが1年で一部入れ替わっていることが分かります。
さらに事業等のリスクでは、インフラ事業部門の機器調達で特定の仕入先に発注が集中することがあるとして、ドーワテクノスからの仕入高が2024年8月期に279,315千円(仕入総額の99.5%)、2025年8月期に63,348千円(同54.5%)、2026年8月期も約2億円(概ね80%程度)となる見込みであることまで数値で記載しています。同社は代替調達が可能な市場環境にあると説明しつつ、納期遅延や価格変動が個別案件の採算に影響し得ることをリスクとして示しています。
図9 発行者情報「販売実績」「事業等のリスク」より。2026年8月期の仕入比率は会社の見込み
顧客・仕入先の集中そのものが上場の妨げになるわけではありませんが、依存度の数値、取引が続く理由、代替手段、条件変更時の影響を説明できることが求められます。リスクの書き方を「依存している」で終わらせず、金額と割合、見込みまで示している点は参考になります。
上場直前の事業譲受とのれんをどう開示しているか
寶結は2025年8月21日の取締役会で、株式会社ネクストコミュニケーションからEC運営事業・ファンクラブ事務局運営事業・イベント会場シリアルコード予約システム事業を譲り受けることを決議し、8月29日に事業譲渡契約を締結、9月1日に譲り受けました。譲渡対象には顧客契約、営業用資産(機器・在庫・システム等)、営業権、関連従業員等が含まれ、対価は現金1億30百万円です。発行者情報では「経営上の重要な契約等」と、財務諸表の「重要な後発事象」の両方で説明されています。
後発事象の注記によると、取得原価は130,000千円、主要な取得関連費用(アドバイザリー費用等)は12,035千円、発生したのれんは142,035千円で、5年間の定額法で償却するとされています。のれんの発生原因は「今後の事業展開によって期待される将来の超過収益力」です。第11期末の純資産は90,064千円ですから、上場日を含む第12期(2026年8月期)に、それを上回る金額ののれんを計上することになります(本記事の比較)。
図10 発行者情報「経営上の重要な契約等」「重要な後発事象」より。条件付取得対価・減額保証の「一定水準」の具体的な数値は記載されていない
契約条件にも特徴があります。譲受日から3年以内に終了する事業年度に当該事業の売上総利益が一定水準を超えた場合には条件付取得対価(アーンアウト対価)を追加で支払い、2年以内に終了する各事業年度に売上高・売上総利益が一定水準を下回った場合には取得対価を減額する保証条項が付いています。「一定水準」の具体的な数値は開示されていません。
上場準備の実務では、申請直前期や申請期のM&Aは、事業計画・予算への織り込み、PMI(統合)の体制、のれんの減損兆候の判定、条件付取得対価の会計処理など、確認すべき事項を一気に増やします。寶結は対処すべき課題でM&A対象の選定にあたってデューデリジェンス(財務・税務・法務・労務)とPMI計画の策定・実行を徹底すると述べ、事業等のリスクでも「のれんの減損損失の発生やガバナンス不全等」の可能性を挙げています。上場前後のM&Aを検討している会社は、IPO審査でのれんの減損リスクはどう見られるかもあわせて確認してください。
なお、第11期末の貸借対照表には前渡金143,000千円が計上されており、附属明細の「主な資産及び負債の内容」では相手先が株式会社ネクストコミュニケーションと示されています。キャッシュ・フロー計算書の投資活動には「事業譲受による支出」138,830千円が計上されています。期末日と譲受日(効力発生日)がずれる取引では、期末時点の資産・キャッシュ・フローの表示と、翌期の企業結合の会計処理が分かれる点も押さえておきたいところです。
資本政策と株主構成
発行者情報の「株主の状況」によると、上位株主は代表取締役社長の福岡広大氏(558,000株、44.29%)と、同氏が代表社員を務める合同会社国生(540,000株、42.86%)です。比率はSOの潜在株式60,000株を含む1,260,000株に対する割合で、発行済株式1,200,000株に対しては両者で91.5%になります(本記事の計算)。関連当事者の注記でも、福岡氏の議決権の被所有割合は直接46.5%、間接45.0%と記載されています(2025年8月期)。
このほか、社外取締役の那珂通雅氏が代表取締役社長を務めるボードウォーク・キャピタル株式会社が36,000株(2.86%)、那珂氏本人と元監査役を含む個人5名が各12,000株(0.95%)を保有しています。所有者別状況では株主数は9名(その他の法人2名、個人7名)です。VC(ベンチャーキャピタル)の名前はなく、種類株式も発行していません。
図11 発行者情報 第三部「株主の状況」より。比率は新株予約権の潜在株式60,000株を含む1,260,000株に対する割合(取締役3名・従業員10名は本記事で合算)
TPMには株主数や流通株式比率の形式基準がないため、このように創業者が大半を保有したまま上場することも可能です。一方で、一般市場の新規上場には株主数や流通株式に関する形式基準があります。将来一般市場を目指す場合には、どの時点でどのように株主を広げるかを資本政策として別途設計する必要があります(上場準備の資本政策)。
上場までの資本政策の時系列
資本金は2021年12月1日に、定時株主総会決議によりその他利益剰余金8,000千円を資本金に振り替えて10,000千円となりました。その後は増資を行っておらず、2025年11月28日に1株を3株に分割して発行済株式総数を400,000株から1,200,000株とし、同日に100株を1単元とする単元株制度を導入しています。分割の目的は「投資単位当たりの金額を引き下げることにより、当社株式の流動性向上と投資単位の適正化を図ること」とされています。
図12 発行者情報「発行済株式総数、資本金等の推移」「新株予約権等の状況」「株式公開情報」より
SOの付与と株式移動の価格はどう決めたか
2025年8月29日の臨時株主総会決議に基づき、8月31日に第1回新株予約権(SO)20,000個(分割後の目的株式数60,000株)を取締役3名と従業員10名に付与しています。行使価額は1株180円(分割後60円)、行使期間は2027年8月30日から2035年8月29日まで、行使時に当社の取締役・監査役・従業員の地位にあることなどが条件です。発行価格は「修正簿価純資産価額法を参考として」決定したとされ、財務諸表の注記では、付与時に未公開企業であったため公正な評価単価を単位当たりの本源的価値で算定し、その基礎となる株式価値は純資産価額方式等の結果を総合的に勘案して決定したと記載されています。SOに係る費用計上額はありません。
同じ8月31日には、福岡氏から2名(美濃部直樹氏・山下亮氏)への株式移動(分割前で2,000株と4,000株、いずれも1株180円)も行われています。移動理由は「取引先との関係性強化等」、価格は「純資産価額方式に基づき算出した価格を参考として、当事者間での協議の上、決定した価格」です。SOの行使価額と株式移動の価格が同じ日付・同じ水準で、それぞれ算定の考え方が開示されています。上場前の株価算定の考え方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかで整理しています。
TPMでも求められる継続所有の確約と移動の記録
発行者情報の第三部「株式公開情報」には、TPMの特例に基づくルールも記載されています。特例115条・同施行規則107条により、新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して1年前から上場日の前日までに第三者割当等による新株予約権の割当てを行っている場合、割当てを受けた者は担当J-Adviserに対して、原則として上場日以後6か月を経過する日(その日に割当てから1年を経過していない場合は1年を経過する日)まで所有することなどを確約します。寶結の直前事業年度の末日は2025年8月31日で、同日に割り当てたSOがこの対象として記載されています。
また、特例115条・同施行規則106条により、直前事業年度の末日の2年前から上場日の前日までの特別利害関係者等の株式等の移動は、上場日から5年間記録を保存することとされ、福岡氏からの2件の移動が開示されています。一般市場の新規上場における継続所有の確約と考え方は似ていますが、根拠となるのはTPMの特例です(一般市場の確約は上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)を参照)。
図13 発行者情報 第三部「第三者割当等の概況」の注記をもとに作成。日付の終期は本記事での計算による目安
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら / IPO支援を見る
コーポレート・ガバナンスの体制
寶結は監査役設置会社です。取締役会は5名(うち社外取締役1名)で、定例取締役会を毎月1回開催し、第11期は13回開催して各取締役の出席率は100%でした。監査役は2名でいずれも社外監査役、監査役の協議を目的に「監査役協議会」を設置しています。監査役会は置いておらず、常勤監査役についての記載もありません。TPMでは一般市場のような機関設計の形式要件はなく、「企業の規模や成熟度等に応じて」ガバナンスと内部管理体制が整備・機能していることが上場適格性として求められます。
図14 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」をもとに作成
| 役職 | 氏名 | 主な経歴・属性 |
|---|---|---|
| 代表取締役社長兼営業本部長 | 福岡 広大 | 2014年12月に当社を設立。合同会社国生の代表社員 |
| 取締役 技術開発室長 | 中森 陽介 | ㈱一燈取締役を経て2018年入社、2021年取締役 |
| 取締役 IT事業本部長 | 福岡 広兵 | 2017年入社、2021年取締役。代表取締役社長の二親等内の親族 |
| 取締役 管理統括 管理本部長 | 原 英明 | 安川情報システム経理部長等を経て2023年入社、2025年7月取締役 |
| 社外取締役 | 那珂 通雅 | 証券会社の経営経験。複数の上場会社等の取締役 |
| 社外監査役 | 浦川 晃司 | 公認会計士(2024年11月就任) |
| 社外監査役 | 加茂野 秀一 | 北九州市産業経済局長・危機管理監等(2025年10月就任) |
役員構成で目を引くのは、代表取締役社長の二親等内の親族が取締役に就いている点と、管理部門の責任者を2023年に外部から迎え、2025年7月に取締役としている点です。事業等のリスクでは「特定の経営者への依存」を挙げ、対処すべき課題で「経営体制の複線化と組織的意思決定の強化」(経営幹部層の育成・登用、意思決定プロセスの体系化、役割と権限の明確化)を掲げています。オーナー色の強い会社がTPMに上場する場合、こうした課題を自ら言語化しておくことが、J-Adviserの調査でも上場後の説明でも役立ちます(IPO審査の「機関設計」とは)。
社外役員の独立性については、独自の基準・方針は定めていないものの、東京証券取引所の独立役員の独立性に関する判断基準を参考にしていると記載されています。社外取締役の那珂氏は当社株式を保有していますが、それ以外の利害関係はないとされています。会社法427条1項に基づく責任限定契約を社外取締役・社外監査役と締結しています。
役員報酬と代表者による債務保証の解消
第11期の役員報酬は、取締役(社外を除く)3名に18,000千円(固定報酬16,350千円、賞与1,650千円)、社外役員1名に1,800千円、合計19,800千円です。報酬限度額は2025年11月27日の第11期定時株主総会で、取締役年額100,000千円以内、監査役年額10,000千円以内と決議されています。
関連当事者との取引としては、銀行借入に対する代表取締役社長の債務保証が開示されています。期末借入金残高ベースで第10期65,230千円、第11期51,982千円で、保証料の支払はありません。注記には「当該債務保証契約は、2026年4月3日時点において全て解除されております」と記載されており、申請時点までに解消したことが分かります。代表者保証の解除は金融機関との交渉に時間がかかることが多いため、早めに着手したい項目です(社長個人と会社の取引はどう解消するか)。
内部監査・内部統制はどのような体制か
内部監査は、代表取締役社長直下の内部監査室(担当者1名)が、年度監査計画に基づいて本社以下全部署を監査する体制です。監査終了後は速やかに監査報告書を作成し、必要があれば改善事項の指摘・指導を行うとされています。監査役2名は監査役協議会を構成し、うち1名は公認会計士として財務・会計に関する相当程度の知見を有していると記載されています。監査役・内部監査室・監査法人は相互に連絡を取り合い、課題・改善事項を共有しているとされています。
図15 発行者情報「内部監査及び監査役の状況」「会計監査」をもとに作成
内部監査担当者が1名の場合、その担当者の所属部署を誰がどう監査するか(自己監査の回避)を決めておくのが通常の論点ですが、寶結の発行者情報にはこの点の記載はありません。少人数で上場準備を進める会社は、規程上の手当てと運用の記録を残しておくことをおすすめします(内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査))。
内部統制システムについては、業務分掌規程・職務権限規程による権限の分散、経営会議(常勤取締役及び関係部門責任者等)によるコンプライアンス推進と月次の予算・実績管理、各本部長を部門のコンプライアンス担当とする体制、代表取締役社長を本部長とする危機管理対策本部、反社会的勢力の排除体制などが説明されています。TPMでは内部統制報告書の提出は任意ですが、同社は「財務報告の信頼性を確保する観点から、財務報告に係る内部統制の整備・運用を推進」すると記載しています。
会計・開示の論点
財務諸表は財務諸表等規則に基づき作成され、特例110条6項で認められた会計基準のうち日本の会計基準に準拠しています。会計監査は如水監査法人が特例110条5項に基づいて行い、業務を執行した公認会計士は2名、継続監査年数は1年以内、補助者は公認会計士4名・その他1名です。監査報酬は監査証明業務6,650千円で、非監査業務の報酬はありません。
収益認識:3つの区分と認識の時点
収益は「受注制作のソフトウェア開発」「サービス等の役務提供」「情報機器等の販売」に区分されています。受注制作のソフトウェア開発は一定の期間にわたり、見積総原価に対する期末までの実際発生原価の割合で進捗度を測って収益を認識します。役務提供も一定の期間にわたり認識し、情報機器等の販売は引渡しが完了し検収を受けた時点で認識します。第11期の内訳は、受注制作のソフトウェア開発31,314千円、役務提供621,235千円、情報機器等の販売167,185千円です。
損失が見込まれる受注契約については受注損失引当金9,822千円を計上し、対応する仕掛品12,622千円と相殺せずに両建てで表示しています。原価総額の見積りが収益と引当金の両方に影響する構造なので、案件ごとの見積総原価の管理(見直しのタイミング、承認、実績との比較)が内部統制上の重要なポイントになります。
図16 財務諸表注記「重要な会計方針」「収益認識関係」より。金額は第10期→第11期(千円)
その他の注記で目にとまる点
重要な会計上の見積りとしては繰延税金資産の回収可能性(17,720千円)が挙げられています。2025年7月17日の取締役会で本社移転を決議したことにより旧本社の建物が遊休資産となり、帳簿価額の全額1,035千円を減損損失として計上しています。また、新しいリース会計基準を2028年8月期の期首から適用する予定で、影響額は評価中とされています。
契約負債(前受金)は期首129千円から期末7,283千円に増え、1年を超える契約の残存履行義務に配分した取引価格は149,904千円(1年以内33,493千円、1年超116,411千円)で、主にインフラ事業部門の機器保守に関するものと説明されています。売掛金の回収状況では、回収率87.1%、滞留期間109日という数値も開示されています。
| 項目 | 第11期の記載 | 上場準備でのポイント |
|---|---|---|
| 監査 | 如水監査法人、継続監査年数1年以内、報酬6,650千円 | TPMは最近1年間の監査。未監査期の表示を明確に |
| 収益認識 | 受注制作は原価比例、機器販売は検収時点 | 見積総原価の管理と見直しの記録 |
| 受注損失引当金 | 9,822千円(仕掛品と両建て表示) | 赤字案件の早期把握の仕組み |
| 繰延税金資産 | 17,720千円(重要な見積り) | 課税所得の見積りと事業計画の整合 |
| 後発事象 | 事業譲受(のれん142,035千円)、株式分割 | 翌期の企業結合会計と減損判定の準備 |
事業等のリスクとJ-Adviser契約
事業等のリスクは、事業環境(経済状況、技術革新、競合、季節変動)、事業遂行(プロジェクト管理、サービス品質・システムトラブル、知的財産権、法的規制)、組織・経営基盤(人材、特定の経営者への依存、特定の取引先への依存、M&A、内部管理体制、配当未実施)、その他(自然災害、ESG)に分けて記載されています。対処すべき課題では、生成AIの普及によって従来型のSI/SESビジネスの収益性が低下するリスクや、人員依存型モデルの限界にも触れています。
TPMに特有の項目が「担当J-Adviserとの契約の解除について」です。J-Adviser契約は新規上場と上場維持の前提となる契約で、契約が解除され、他の担当J-Adviserを確保できない場合は上場廃止になります。寶結の発行者情報には、フィリップ証券が即日無催告で解除できる事由として、債務超過(上場後3年間に終了する事業年度に債務超過となった場合を除き、1年以内に解消できないとき等)、銀行取引の停止、破産手続等、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、株主の権利の不当な制限、反社会的勢力の関与などが列挙されています。公表日現在、解除条項に該当する事象は生じていないとされています。
図17 発行者情報「事業等のリスク(担当J-Adviserとの契約の解除について)」をもとに作成
J-Adviserは一般市場の主幹事証券とは別の概念で、上場前の上場適格性の調査・確認に加え、上場後も適時開示の助言・指導や上場維持要件への適合状況の調査を担います。上場後の開示体制は、J-Adviserとの役割分担を前提に組み立てることになります(IPOの適時開示体制)。
一般市場へのステップアップを考える会社への示唆
寶結の発行者情報には、将来の一般市場への上場や市場の移行についての記載はありません。そのため、ここでは同社の方針ではなく、TPMを一般市場上場への助走の場と考える会社に向けた一般的な注意点を整理します。
まず、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMを申請により上場廃止したうえで一般市場に新規上場する扱いです(2025年12月にTPMからグロース市場へ移ったAlbaLinkの例)。一般市場の新規上場では直前2期の監査や形式基準への適合が必要になり、東証の2025年11月の資料では、TPMから一般市場への上場審査は「非上場企業の審査と同様、一から確認が行われており、相応の負担」と説明されています。東証は2026年4月に、TPMでの実績を勘案した一般市場の上場審査の効率化や開示様式の共通化・簡素化を「26年秋めど」に行う予定と公表していますが、本記事の執筆時点で実施済みであることは確認できていません。
寶結のように直前1期の監査で上場した会社が一般市場を目指す場合は、監査を受けた期の積み上げ、株主の拡大、内部統制報告制度への対応などを、TPM上場後の計画に組み込む必要があります。グロース市場を念頭に置く場合はグロース市場事前チェックリストも参考になります。
上場準備会社が寶結の事例から学べること
図18 本記事で取り上げた論点のまとめ
1. 資金調達をしない上場という選択肢。寶結は特定投資家向け取得勧誘等を行わず、発行者情報を公表して上場しました。その分、上場後12か月の運転資本が十分であることを自己資金と借入で説明しています。
2. 監査は直前1期、未監査期は明記。TPMは最近1年間の監査で上場できますが、未監査の期があることを注記で明示しています。
3. 上場直前のM&Aは条件まで開示。事業譲受の対価、取得関連費用、のれんの金額と償却期間、アーンアウトと減額保証の存在を、重要な契約と後発事象の両方で説明しています。
4. 集中リスクは数値と見込みで示す。販売先の比率だけでなく、仕入先の集中度を3期分(見込みを含む)で示しています。
5. SO・株式移動の価格の根拠を残す。同日に行ったSO付与と株式移動について、純資産価額方式等を参考にした価格決定の考え方を開示しています。
6. 少人数の管理体制でも役割を明確に。内部監査1名、社外監査役2名の体制で、三様監査の連携や公認会計士の監査役の起用を説明しています。
7. 代表者保証は申請までに解除。銀行借入に対する代表者の債務保証を、発行者情報の公表日までにすべて解除しています。
上場準備のチェックリスト
- TPMに上場する目的(採用、信用力、ガバナンス、資金調達など)を社内で言語化し、上場後に実現状況を評価できる形にしたか
- 担当J-Adviserの調査(上場適格性の5要件)に向けて、上場後12か月の運転資本の見通しを説明できるか
- 監査を受ける期(最近1年間)と、未監査の期の数値の扱いを監査法人と確認したか
- 販売先・仕入先の集中度を金額と割合で把握し、代替手段とあわせて説明できるか
- 上場前後のM&Aについて、のれんの金額、償却期間、条件付取得対価、PMIの体制を整理したか
- SO付与や株式移動の価格の算定根拠と、継続所有の確約・移動の記録保存の対象を確認したか
よくある質問
できます。寶結は上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行わず、特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表して上場しました。この場合、表紙の書類名は「特定証券情報」ではなく「発行者情報」になります。
新規上場時に求められる監査期間は最近1年間です。寶結は第11期(2025年8月期)のみ如水監査法人の監査を受け、第9期・第10期は監査を受けていないことを明記しています。一般市場の新規上場では直前2期の監査が求められます。
TPMには株主数や流通株式比率などの形式基準がないため、寶結のように代表者と代表者が代表社員を務める合同会社で発行済株式の9割超を保有したまま上場した例があります。ただし、一般市場を目指す場合は別途形式基準を満たす必要があります。
J-Adviser契約は上場維持の前提です。契約が解除され、他の担当J-Adviserを確保できない場合は上場廃止になります。寶結の発行者情報には、債務超過や発行者情報等の提出遅延など、即日無催告で解除できる事由が具体的に列挙されています。
最初の一歩は「上場目的」と「直前1期」の逆算から
TPMを検討する会社が最初に取り組みたいのは、上場目的を言語化したうえで、監査を受ける事業年度と担当J-Adviserの調査期間から上場時期を逆算することです。寶結のように申請直前期にM&AやSOの付与、株式分割が重なる場合は、それぞれの開示と会計処理の準備期間も見込んでおく必要があります。自社の現状を把握するには、まずショートレビューで課題を洗い出すのが近道です。
まとめ
寶結は、北九州市を拠点に自治体DX、BOP、ネットワーク整備を組み合わせて事業を展開するIT企業で、2026年4月24日にTOKYO PRO Marketへ上場しました。特定投資家向け取得勧誘等を行わず、直前1期の監査を受けた発行者情報で上場しており、申請受付から上場承認までは10営業日でした。
発行者情報からは、上場直前の事業譲受(のれん142,035千円、アーンアウトと減額保証付き)、販売先・仕入先の集中、代表者と代表者が代表社員を務める合同会社で9割超を保有する株主構成、同日に行われたSOの付与と株式移動、少人数の監査体制と代表者保証の解除など、規模の小さい会社がTPMを使う際の論点を具体的に読み取ることができます。TPMを検討する会社にとっては、形式基準がないからこそ「何を、どの水準で説明できるか」を自社で整えておくことが大切だといえます。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「寶結 発行者情報」(2026年4月3日公表)
- 日本取引所グループ「新規上場会社情報(TOKYO PRO Market)」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 概要」
- 日本取引所グループ「特定投資家制度の概要」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 上場基準」
- 日本取引所グループ「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」
- 東京証券取引所「TOKYO PRO Marketの今後の方向性」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「上場目的の開示状況」(2026年6月15日時点)
- 東京証券取引所「プロマーケットの今後の方向性について」(2025年11月13日)
- 日本取引所グループ ニュース(2025年11月11日、AlbaLinkのTPM上場廃止とグロース市場への新規上場)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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