マークスライフのTOKYO PRO Market上場|事故物件の買取再販と1期監査【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。

※本記事は、マークスライフ株式会社が東京証券取引所に提出・公表した「発行者情報」(2026年3月27日公表)の公開情報と、日本取引所グループ(JPX)が公表しているTOKYO PRO Marketの制度資料に基づき、上場準備の実務解説を目的として作成したものです。投資の勧誘を目的とするものではありません。

マークスライフ株式会社(証券コード561A)は、2026年3月27日に上場申請が受け付けられ、4月10日に上場承認を受けて、2026年5月7日に東京証券取引所のプロ向け市場であるTOKYO PRO Market(TPM)に上場しました。担当J-Adviserはフィリップ証券株式会社です。2010年3月に横浜市で設立された不動産会社で、いわゆる「事故物件」を扱う「成仏不動産」や、再建築不可物件などの再生を手がける「負動産の総合病院」といったサービスを入口に、不動産の買取再販を中核とする事業を展開しています。本記事では、同社が上場時に公表した書類を読み、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が参考にできるポイントを整理します。

結論からいえば、マークスライフの事例は「公募・売出しを行わず、直前1期だけ監査を受けて、急成長中の買取再販会社がTPMに上場した事例」として、監査対象期の決め方、借入と在庫に依存するビジネスの開示、取締役5名と監査役1名というコンパクトな機関設計、内部監査2名の相互牽制、上場を行使条件とするストック・オプションの設計を学べる事例です。同社は上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を実施しないため、特定証券情報ではなく「発行者情報に相当する情報」を公表しています。この違いも含め、TPM上場の実務を具体的に見ていきます。

マークスライフとTOKYO PRO Market上場の概要

まず、会社と上場の基本情報を確認します。同社の決算期は10月で、上場時の書類には第16期(2024年11月1日〜2025年10月31日)の財務諸表が掲載されています。子会社はなく、財務諸表は単体のみです。事業は「不動産関連事業」の単一セグメントとされています。

項目 内容
会社名 マークスライフ株式会社(MarksLife Co.,Ltd.)
証券コード 561A
市場 TOKYO PRO Market(東京証券取引所)
申請受付日 2026年3月27日
上場承認日 2026年4月10日
上場日 2026年5月7日
担当J-Adviser フィリップ証券株式会社
上場時の公表書類 発行者情報(2026年3月27日公表)
公募・売出し なし(特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を実施しない)
本店所在地 東京都中央区日本橋本石町三丁目1番2号
設立 2010年3月(株式会社横浜中央不動産として設立)
代表者 代表取締役社長 花原 浩二
決算期 10月
事業 不動産の買取再販を中核とする不動産関連事業(単一セグメント)
従業員数 161名(臨時雇用者21名、2026年2月28日現在)
監査法人 監査法人コスモス
許認可 宅地建物取引業免許 国土交通大臣免許(1)第10129号

上場までの日程を並べると次のとおりです。第16期の期末が2025年10月31日、定時株主総会が2026年1月30日で、3月27日に申請受付と発行者情報の公表、4月10日に上場承認、5月7日に上場という流れでした。

マークスライフの上場までの日程2025年10月31日第16期末(監査対象期)2026年1月30日定時株主総会2026年3月27日申請受付・発行者情報公表2026年4月10日上場承認2026年5月7日TPM上場申請受付から上場承認まで14日、上場承認から上場日まで27日(いずれも暦日)特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等は実施せずに上場(上場時の公表書類は発行者情報)

図1 監査対象となった第16期の期末から上場日までの流れ。日付は発行者情報及びJPXの新規上場会社情報による

従業員161名の平均年齢は35.6歳、平均勤続年数は1.6年、平均年間給与は10,252千円です。従業員数は第14期末54名、第15期末84名、第16期末128名と増えており、発行者情報では「事業拡大に伴う採用数の増加」によるものと説明されています。平均勤続年数の短さは、この採用の急増と表裏の関係にあるといえます。労働組合は結成されていません。

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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか

上場準備会社にとって最も気になるのは「なぜ一般市場ではなくTPMだったのか」という点でしょう。ただし、同社の発行者情報には、TPMを選んだ理由や上場の目的を説明した記載は見当たりません。表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」に、2026年5月7日にTPMへ上場する予定であること、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことが書かれているのみです。そのため本記事では、同社がTPMを選んだ理由は推測せず、TPMという市場の一般的な特徴と、書類から読み取れる事実を整理するにとどめます。

JPXの説明によれば、TPMには株主数・流通株式・利益の額といった形式基準(数値基準)がなく、柔軟なガバナンス設計による上場も可能とされています。上場前の監査期間は「最近1年間」で、開示言語は英語又は日本語を選べます。一方で、TPMは特定投資家等を対象とした市場であり、一般投資家は取引所で株式を買い付けることができません(保有株式の売却は可能です)。

なお、東証は2026年4月3日に、TPMに新規上場する会社に対して「上場目的」(なぜTPMに上場するのか、どう活用するのか)を検討・開示するよう要請する方針を公表しました。これは東証からの「お願い」であり、規程上の義務ではありません。同社の発行者情報はこの公表より前の2026年3月27日付であり、書類の中に上場目的の記載はありません。これからTPM上場を検討する会社は、上場目的を言語化しておくことが実務上ますます重要になると考えられます。

上場時の公表書類が「発行者情報」になっている点も確認しておきます。TPMでは、上場に際して特定投資家向け取得勧誘等(いわゆるプロ私募)を行う場合は特定証券情報を公表しますが、同社のようにそれを行わない場合は、特例第110条第3項に基づいて「発行者情報に相当する情報」を公表します。同社の書類の表紙も「発行者情報」です。

上場時の開示書類はどう決まるか(マークスライフのケース)上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行うか行う場合特定証券情報を提供・公表(金融商品取引法27条の31)当社:行わない特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表上場後は年次・中間の発行者情報を、各期末後3か月以内に公表(年2回)財務書類には監査証明が必要(中間は中間監査又はレビューの意見・結論)行う行わない

図2 金融商品取引法27条の31と、発行者情報表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成

書類から読み取れる事実として、同社が付与しているストック・オプション(第1回・第2回新株予約権)の行使条件には、当社普通株式が「いずれかの金融商品取引所(東京プロマーケットを除く)に上場すること」が含まれています。つまり、TPMに上場しただけではストック・オプションを行使できない設計です。ただし、発行者情報には一般市場への市場変更や新規上場の計画についての記載はなく、本記事でも同社の今後の方針は推測しません。この行使条件については、資本政策の節で詳しく見ます。

TPMの上場の仕組みを同社の記載で確認する

形式基準はなく、担当J-Adviserが上場適格性を確認する

TPMには一般市場のような形式基準がありません。その代わりに、東証から資格認証を受けた担当J-Adviserが、上場適格性要件への適合性を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成します。上場適格性要件は、企業としての相応性、事業の公正・忠実な遂行、企業の規模や成熟度等に応じたコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制、適正な開示を行える体制、反社会的勢力との関係がないことその他公益又は投資者保護の観点から必要な事項、の5つです。

手続の流れは、J-Adviser契約の締結と調査のあと、上場申請日の30営業日程度前までに東証へ意向表明を行い、東証の面談を経て上場申請に進みます。東証は原則として上場申請から10営業日後に上場を承認します。同社の場合、申請受付日(2026年3月27日)から上場承認日(4月10日)までは、土日を除くと10営業日にあたります。「TPMには審査がない」と誤解されることがありますが、形式基準がないだけで、J-Adviserの調査と東証の面談がある点に注意が必要です。

TOKYO PRO Marketの上場手続と上場適格性要件J-Adviser契約・調査意向表明申請の約30営業日前まで上場申請特定証券情報等を公表上場承認原則申請から10営業日後上場日担当J-Adviser(J-QS)が上場適格性を調査・確認し「上場適格性に係る宣誓書」を作成東証も意向表明後に面談を行う(「審査がない市場」ではない)上場適格性要件(5項目)企業としての相応性事業の公正・忠実な遂行ガバナンス・内部管理体制適正な開示を行える体制反社会的勢力との関係なし等

図3 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する

J-Adviser契約は「上場維持の前提」

同社は「事業等のリスク」の最後の項目に「J-Adviserとの契約について」を掲げ、担当J-Adviserであるフィリップ証券との契約が「新規上場及び上場維持の前提となる契約」であり、契約を解除し、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合には上場廃止になると説明しています。そのうえで、契約の解除条項を①から⑳まで具体的に開示しています。

解除条項には、債務超過の状態から一定期間内に脱却できない場合、銀行取引の停止、破産・再生・更生手続、事業活動の停止、不適当な合併等、支配株主との取引の健全性の毀損、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載や監査報告書の不適正意見等、重大な法令違反、株式の譲渡制限、完全子会社化、株主の権利の不当な制限、反社会的勢力の関与などが並んでいます。これらに該当すると、J-Adviserは契約を即日無催告で解除できるとされています。

担当J-Adviser契約が終了する経路と上場廃止の関係マークスライフ(TPM上場会社)フィリップ証券(担当J-Adviser)契約が終了する主な経路即日無催告解除解除条項①〜⑳に該当債務超過・銀行取引停止虚偽記載・不適正意見 等催告による解除義務違反の是正を書面で催告相当の期間(特段の事情なければ1か月)合意解除・通知解除合意でいつでも解除可1か月前の書面通知で解除可契約を解除し、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合はTPMから上場廃止解除する場合、J-Adviserは特段の事情がない限りあらかじめ東証に通知担当J-Adviser契約

図4 発行者情報「事業等のリスク(13)J-Adviserとの契約について」をもとに作成。解除条項は①〜⑳まであり、図はその一部を示したもの

このほか、契約違反があった場合には相当の期間(特段の事情がない限り1か月)を定めて書面で是正を催告し、是正されなければ解除できること、当事者の合意でいつでも解除できること、1か月前の書面通知で解除できることも記載されています。発行者情報の公表日現在、解除条項に該当する事象は生じていないとされています。

上場準備会社にとってのポイントは、J-Adviser契約の解除条項が、事実上TPMの上場維持の条件として機能するということです。特に債務超過、提出遅延、虚偽記載、監査意見の各項目は、管理部門の体制と直結します。TPMでは上場後も、年次と中間の発行者情報をそれぞれ期末後3か月以内に公表し、財務書類には監査証明(中間は中間監査又はレビューの意見・結論)を付ける必要があります。決算と監査のスケジュールを確実に回せる体制が、上場維持の土台になります。

監査は直前1期だけで上場している

同社の発行者情報に掲載された主要な経営指標等は第14期から第16期までの3期分ですが、注記には、特例第110条第5項に基づき第16期の財務諸表について監査法人コスモスの監査を受けている一方、第14期と第15期の財務諸表は当該監査を受けていない旨が書かれています。TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」とされているため、直前の1期について監査を受ければ上場に進めるという建付けです。

上場前の3期と監査の対象期間第14期2022/11〜2023/10監査を受けていない経常損失 92百万円第15期2023/11〜2024/10監査を受けていない経常利益 178百万円第16期2024/11〜2025/10監査法人コスモスの監査経常利益 571百万円特例110条5項に基づき、直前の第16期の財務諸表について監査を受けて上場TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」とされている(JPX「TOKYO PRO Market 概要」)

図5 発行者情報「主要な経営指標等の推移」の注記をもとに作成。第14期・第15期の数値は監査を受けていない

一般市場の新規上場では、直前2期分の財務諸表について監査を受けることを前提に準備を進めるのが通常です。監査期間が1年で足りることは、TPMの準備期間を短くできる要因の一つです。その一方で、監査を受けていない期の数値は、監査済みの期と同じ確からしさで読めるわけではありません。本記事で第14期・第15期の数値に触れる場合も、監査を受けていない数値であることに留意してください。監査法人の選定時期の考え方は監査法人はいつまでに決めるかも参考になります。

一般市場(グロース・スタンダード)との違い

ここで、TPMと一般市場(グロース市場・スタンダード市場)の主な違いを整理しておきます。同社のように「公募・売出しを行わず、監査1期で上場する」という選択は、TPMの制度があってはじめて可能になるものです。

項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード)
買い付けできる投資家 特定投資家等(一般投資家は買付け不可。保有株式の売却は可能) 一般投資家を含む
形式基準 なし(株主数・流通株式・利益の額などの数値基準がない) 株主数・流通株式などの形式基準がある
上場の可否の確認 担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認。東証も意向表明後に面談 主幹事証券の引受審査と東証の上場審査
申請から承認まで 原則として上場申請から10営業日後に承認 東証の上場審査を経て承認
上場前の監査期間 最近1年間 直前2期
上場時の書類 特定証券情報(勧誘を行わない場合は発行者情報に相当する情報) 有価証券届出書、新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)等
上場後の定期開示 発行者情報(年次・中間、各期末後3か月以内) 有価証券報告書・半期報告書
四半期の開示 任意 取引所規則に基づく四半期決算短信
内部統制報告書 任意 提出が必要
上場維持の前提 担当J-Adviserとの契約の維持 上場維持基準への適合
コーポレートガバナンス・コード JPXのコードのページでは、適用対象としてプライム・スタンダード・グロースの各市場が示されている グロースは基本原則、スタンダードは全原則

表のとおり、TPMは「準備の負担を抑えて上場できる」反面、買い付けできる投資家が特定投資家等に限られます。同社は上場時に特定投資家向けの勧誘も行っていないため、上場に伴う資金調達は行われていません。TPMの上場を検討する際は、上場によって何を実現したいのか(信用力、採用、取引先との関係、将来の一般市場への準備など)を先に整理しておくことが大切です。

事業内容と収益モデル

同社は「世のために。人のために。」という企業理念のもと、「不動産の可能性を追求し世の中の困りごとを解決する」をビジョンに掲げています。発行者情報では、空き家、耕作放棄地、後継者不在による事業承継問題などの社会課題に対して、不動産の買取再販事業を中核として課題解決型のサービスを提供する「ライフソリューション企業」と自社を説明しています。

ビジネスの組み立ては、「入口」となる複数のサービスで案件を受け入れ、リノベーションや特殊清掃、遺品整理といった付加価値を加えて不動産の価値を高め、買取再販につなげるというものです。販売面では、自社の「富動産市場」をはじめとする複数のプラットフォームを活用した出口戦略を持つとされています。

マークスライフの事業モデル(入口・付加価値・出口)入口(案件の受け入れ)成仏不動産(事故物件)負動産の総合病院(再建築不可等)中立不動産(離婚時の売却)じつまど(実家の相談窓口)マークスライフ不動産の買取再販(中核)―付加価値の提供―リノベーション特殊清掃・遺品整理ご供養・バリューアップ出口(販売)富動産市場(物件情報のPF)売買仲介・一般の買主への販売海外不動産(海外の目線)第16期の売上高:不動産売買 7,433百万円/不動産仲介 405百万円/その他 56百万円

図6 発行者情報「事業の内容」をもとに作成。各サービスの開始時期は「沿革」による

入口となる主なサービスは次のとおりです。

  • 成仏不動産:室内で人が亡くなった不動産、いわゆる事故物件の買取り・売買仲介。「事故物件取引の正常化」を掲げ、相談から清掃、ご供養、バリューアップ、販売、データ収集までをワンストップで対応します。
  • 負動産の総合病院 -再建築不可救急隊-:借地権、底地権付不動産、狭小宅地、再建築不可物件など、市場相場より安く取引される不動産を「負動産」と位置づけ、弁護士・司法書士・土地家屋調査士・建築士等と専門チームを組んで問題解決を図るサービスです。
  • 中立不動産:離婚時の不動産売却について、提携先の不動産鑑定士と共同で中立な立場で査定し、買取りや売買仲介を行います。
  • 実家の相談窓口じつまど:親の介護・実家の片付け・相続などの「実家問題」を一元的に扱う窓口です。金融機関、保険会社、葬祭事業者、介護事業者などとの企業提携を通じて紹介を受けます。
  • 富動産市場・海外不動産:事故物件や空き家、築古物件などに価値を見出す人に向けて物件情報を発信するプラットフォームと、海外の目線から日本の不動産の価値を見出すサービスです。

売上高の内訳を見ると、第16期は不動産売買事業が7,432,987千円、不動産仲介事業が405,170千円、その他が56,010千円で、合計7,894,168千円です。売上の大半は物件を自社で仕入れて販売する買取再販によるもので、総販売実績の10%以上を占める販売先はありません。顧客は物件ごとに異なる個人等であり、特定の取引先に依存しない構造です。

サービス区分別の売上高(単位:百万円)不動産売買事業前年同期比 165.2%第15期 4,499第16期 7,433不動産仲介事業前年同期比 189.0%第15期 214第16期 405その他前年同期比 133.0%第15期 42第16期 56売上高合計:第15期 4,755百万円 → 第16期 7,894百万円(前年同期比66.0%増)

図7 発行者情報「販売実績」「収益認識関係」をもとに作成(百万円未満四捨五入)。前年同期比は発行者情報の記載

上場準備の観点で押さえておきたいのは、買取再販モデルでは「売上=物件の引渡し」であり、売上の源泉は仕入れた在庫(販売用不動産)だという点です。仕入には資金が必要で、その多くを金融機関からの借入で賄います。後で見るように、同社の財務諸表や事業等のリスクは、この「仕入・借入・在庫・販売」の循環を前提に読むと理解しやすくなります。また、同社は宅地建物取引業者として国土交通大臣免許を受けて事業を行っており、免許の有効期間は2022年3月30日から2027年3月29日までです。許認可が事業の前提になるビジネスでは、免許の更新管理と法令遵守の体制が上場審査でも重視されます(参考:IPOで許認可はどこまで見られるか)。

沿革と上場までの道のり

同社は2010年3月に、神奈川県横浜市中区で不動産買取り再販事業を目的とした株式会社横浜中央不動産として設立されました。その後、商号を株式会社NIKKEI MARKS(2016年8月)、株式会社MARKS(2021年1月)、株式会社マークス不動産(2022年11月)、マークスライフ株式会社(2024年5月)と変更しています。現在の代表取締役社長である花原浩二氏は、2016年10月に代表取締役社長に就任しています。

沿革の主な出来事2010年3月横浜市中区で株式会社横浜中央不動産を設立(買取再販)2016年8月株式会社NIKKEI MARKSへ商号変更(同年10月 花原氏が代表取締役社長)2019年4月事故物件を扱う「成仏不動産」を開始2020年4月「負動産の総合病院 -再建築不可救急隊-」を開始2021年10月「正しい買取」を開始、さいたま支店を開設2022年11月株式会社マークス不動産へ商号変更、東京都中央区へ本店移転2024年2月離婚時の不動産売却に対応する「中立不動産」を開始2024年5月マークスライフ株式会社へ商号変更、「富動産市場」を開始2025年6月「じつまど」を開始、札幌支店を開設2026年5月7日TOKYO PRO Marketに上場

図8 発行者情報「沿革」「役員の状況」及びJPXの新規上場会社情報をもとに作成。支店開設は一部のみ記載

サービスの面では、2019年4月の「成仏不動産」を皮切りに、2020年4月の「負動産の総合病院 -再建築不可救急隊-」、2024年2月の「中立不動産」、2024年5月の「富動産市場」、2025年6月の「じつまど」と、入口となるサービスを順に増やしてきました。拠点の面では、2019年11月の東京オフィス開設以降、さいたま、大阪、福岡、千葉、浜松、神奈川大和、静岡、名古屋、仙台、高崎、新宿、札幌、熊本、広島と支店網を広げています。第16期末時点の主要な設備の表には、本社・東京本店のほか15の拠点が記載されており、本社及び各支店の建物はいずれも賃貸物件(年間賃借料83,100千円)です。

支店の開設と人員の増加が続く会社では、拠点ごとの業務の標準化、権限の設定、内部監査の往査計画が追いつかなくなりがちです。同社が「対処すべき課題」の筆頭に「内部管理体制の強化」を挙げているのも、この成長スピードを踏まえたものと読めます。

業績の推移と読み方

主要な経営指標等の推移は次のとおりです。前述のとおり、監査を受けているのは第16期のみです。

項目(単位:千円) 第14期(2023年10月期) 第15期(2024年10月期) 第16期(2025年10月期)
売上高 2,308,135 4,755,220 7,894,168
経常利益又は経常損失(△) △92,504 177,668 570,603
当期純利益又は当期純損失(△) △60,222 93,919 352,863
純資産額 △21,447 239,295 592,158
総資産額 1,400,381 1,951,132 3,611,749
自己資本比率 △1.5% 12.3% 16.4%
自己資本利益率 ― 86.3% 84.9%
営業活動によるキャッシュ・フロー △764,800 △20,909 106,524
従業員数(臨時) 54名(14名) 84名(16名) 128名(18名)
監査 受けていない 受けていない 監査法人コスモス

3期で売上高は約3.4倍になり、第14期の経常損失92,504千円から、第16期には経常利益570,603千円に転じています。第14期末は純資産がマイナス21,447千円の債務超過でしたが、第15期の第三者割当増資と利益の計上で解消し、第16期末の純資産は592,158千円です。

売上高と利益の推移(単位:百万円)02,0004,0006,0008,000第14期(2023年10月期)第15期(2024年10月期)第16期(2025年10月期)2,3084,7557,894経常利益当期純利益純資産△93△60△2117894239571353592

図9 発行者情報「主要な経営指標等の推移」をもとに作成(百万円未満四捨五入)。第14期・第15期は監査を受けていない数値

第16期の損益を、売上高から当期純利益まで分解すると次のようになります。売上原価は5,236,907千円です。売上原価明細書では、当期総費用5,934,808千円の97.4%を物件取得費が占めています。販売費及び一般管理費は1,998,788千円で、主な費目は給料手当470,842千円、賞与引当金繰入291,644千円、租税公課206,537千円です。営業利益は658,472千円(前年同期比186.7%増)でした。

第16期(2025年10月期)の売上高から当期純利益まで(単位:百万円)売上高7,894売上原価-5,237販管費-1,999営業利益658営業外損益-88特別損益-6法人税等-211当期純利益353

図10 発行者情報の損益計算書をもとに作成(百万円未満四捨五入)。営業外損益は営業外収益9百万円と営業外費用97百万円(支払利息51百万円、融資手数料42百万円等)の純額

営業外費用97,247千円のうち、支払利息が50,943千円、融資手数料が41,537千円を占めます。借入で仕入を行うモデルでは、金融費用が営業利益と経常利益の差として表れます。特別損失には、元従業員による不正行為に係る「不正関連損失」3,292千円が含まれています(第15期は24,359千円)。この点は内部監査の節で改めて触れます。

キャッシュ・フローを見ると、利益と資金の動きのずれが分かります。第16期の営業キャッシュ・フローは106,524千円のプラスですが、税引前当期純利益564,318千円に比べると小さく、販売用不動産の増加656,384千円が資金を吸収しています。投資キャッシュ・フローは支店開設等で126,303千円のマイナス、財務キャッシュ・フローは短期借入金の純増加586,649千円などで739,873千円のプラスでした。

キャッシュ・フローの推移(単位:百万円)区分第14期第15期第16期営業CF△765△21107投資CF29△42△126財務CF741267740期末の現金同等物1623671,087第16期:税引前当期純利益564百万円に対し、販売用不動産の増加656百万円が営業CFを押し下げ

図11 発行者情報「主要な経営指標等の推移」をもとに作成(百万円未満四捨五入)。△はマイナス

第14期は営業キャッシュ・フローが764,800千円のマイナスで、財務キャッシュ・フロー741,162千円のプラスで補っていました。成長期の買取再販会社では、仕入を増やすほど在庫が積み上がり、営業キャッシュ・フローがマイナスになりやすいという特徴があります。上場準備では、損益計画だけでなく、仕入計画と借入計画を連動させた資金繰り計画を作り、説明できるようにしておくことが重要です。

在庫(販売用不動産)と借入の関係(第16期末、単位:百万円)棚卸資産販売用不動産 1,710仕掛販売用不動産 325合計 2,035担保に供している資産1,694担保付債務 1,485有利子負債 2,120短期借入金 1,137長期借入金 949(1年内返済分を含む)リース債務 34代表取締役社長による銀行借入の債務保証(保証料の支払なし)保証を受けている借入の残高:第15期末 563 → 第16期末 95有利子負債比率 358.1%、総資産 3,612、純資産 592(発行者情報の記載)

図12 発行者情報の貸借対照表、担保資産の注記、借入金等明細表、関連当事者情報、事業等のリスクをもとに作成(百万円未満四捨五入)

第16期末の貸借対照表では、販売用不動産1,710,278千円と仕掛販売用不動産324,949千円を合わせた棚卸資産が2,035,227千円あり、これに対する有利子負債は2,120,483千円です。担保に供している資産は1,693,973千円(うち販売用不動産1,400,927千円、仕掛販売用不動産285,543千円)、担保付債務は1,484,603千円で、在庫を担保に借入を行う構造が読み取れます。短期借入金の主な借入先には全宅ファイナンス、武蔵野銀行、千葉銀行、七十七銀行、蒲郡信用金庫が、長期借入金の主な借入先にはセゾンファンデックス、日本政策金融公庫、七十七銀行、神奈川銀行、北陸銀行が記載されています。

同社は「事業等のリスク」で、有利子負債残高2,120,483千円、有利子負債比率358.1%と記載したうえで、特定の金融機関に依存せず、プロジェクトごとに物件収支計画の妥当性を分析して借入を行っていると説明しています。また「対処すべき課題」では、定期的に金融機関へ業績説明を行い良好な関係を維持することを挙げています。借入依存度の高い会社が上場を目指す場合、こうした資金調達の方針と管理の仕組みを、数字とあわせて説明できることが求められます。

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資本政策と株主構成

創業者側で6割超、その他の法人株主が中心

発行者情報記載時点の発行済株式総数は1,126,000株で、自己株式はありません。大株主の状況(新株予約権による潜在株式61,200株を含む株式総数1,187,200株に対する割合)を見ると、代表取締役社長の資産管理会社である株式会社BOXが38.66%、花原浩二氏個人が23.42%で、合計62.08%(737,000株)を創業者側で保有しています。続いて株式会社FMS(9.10%)、株式会社スマイル(3.37%)、明治安田生命保険相互会社(3.37%)などの法人株主が並びます。

大株主の状況(発行者情報記載時点、潜在株式を含む)株式会社BOX(資産管理会社)38.66%花原 浩二(代表取締役社長)23.42%株式会社FMS9.10%株式会社スマイル3.37%明治安田生命保険相互会社3.37%株式会社サイバーアシスト2.19%株式会社エスエヌジー1.68%株式会社VIDA Corporation1.68%笹尾 里枝(専務取締役)1.16%太田 猛也1.01%その他81名14.35%株式会社BOXと花原浩二氏の合計 62.08%(737,000株)

図13 割合は新株予約権による潜在株式61,200株を含む株式総数1,187,200株に対するもの。発行者情報「株主の状況」をもとに作成

所有者別状況(2026年2月28日現在)では、株主数は43名で、その他の法人16名が67.8%、個人その他27名が32.2%を保有しています。金融機関、金融商品取引業者、外国法人等の区分には株主がいません。ベンチャーキャピタルの記載も見当たらず、事業会社や取引先、役職員が株主の中心という構成です。株主構成を設計するうえでの考え方は上場準備の資本政策で解説しています。

株式分割と第三者割当の経緯

発行済株式総数、資本金等の推移を見ると、同社は2023年3月(45株)、2023年7月(42株、主な割当先は従業員)、2024年2月(88株)に第三者割当増資を行い、2024年6月28日に1株を1,000株とする株式分割を行いました。さらに2024年7月30日の臨時株主総会で単元株式数を100株とする単元株制度を採用し、2024年8月2日に51,000株の第三者割当増資を行って、発行済株式総数は1,126,000株、資本金は220,000千円となっています。

発行価格は、2023年の2回が1株1,111,111円(分割後に換算すると約1,111円)、2024年2月が1株1,200,000円(同1,200円)、2024年8月が1株1,200円でした。2024年の発行価格は、DCF法、純資産方式及び類似会社比準方式により算出した価格を総合的に勘案して決定したと記載されています。

株式の発行・移動価格の推移(株式分割後の1株当たり、単位:円)07501,5002,2503,0002023年3月・7月2024年2月・7月・8月2025年10月・11月1,1111,2002,500第三者割当第三者割当・SO行使価額株式の移動(譲渡)価格の算定:DCF法・純資産方式・類似会社比準方式等を総合的に勘案(発行者情報の記載)

図14 発行者情報「発行済株式総数、資本金等の推移」「第三者割当等の概況」「特別利害関係者等の株式等の移動状況」をもとに作成。2024年6月28日の1:1,000の株式分割前の価格は1,000で割って表示。退職に伴う従業員からの移動(1株1,111円)等は含めていない

特別利害関係者等の株式移動

第三部「株式公開情報」には、特別利害関係者等の株式等の移動状況が記載されています。TPMでも、特例第115条及び同施行規則第106条により、上場日から5年間、一定の期間(同社の場合は2022年11月1日から上場日の前日まで)の特別利害関係者等による株式の譲受け・譲渡の状況に係る記録を保存するものとされています。

移動年月日 移動前所有者 移動後所有者 株数 単価 理由
2024年4月30日 花原 浩二(代表取締役) NIKKEI PARTNERS(取引先)ほか2者 計9株(分割前) 1,200,000円 所有者の事情
2024年10月31日 従業員 花原 浩二 1,000株 1,111円 退職による
2025年3月4日 プレグロ(取引先) サイバーアシスト(大株主) 2,000株 ― 所有者の事情
2025年9月1日 従業員 笹尾 里枝(取締役) 2,000株 1,111円 退職による
2025年10月31日 FMS(大株主) 明治安田生命保険相互会社 40,000株 2,500円 所有者の事情
2025年11月5日 花原 浩二 恒和建装(取引先) 10,000株 2,500円 所有者の事情

移動価格は、DCF法と純資産方式等により算出した価格を総合的に勘案して当事者間で協議のうえ決定したとされています(2025年3月4日の移動は当事者間の協議による価格で、単価の記載は「―」)。退職した従業員の株式を役員が1,111円で引き取る一方、2025年10月以降の生命保険会社や取引先への移動は1株2,500円で行われており、同じ時期でも取引の性格によって価格が異なります。上場前の株式移動では、価格の決め方と理由を説明できるように記録を残しておくことが重要です(参考:未上場株式の株価算定はどの方法を使うか)。

なお、第三者割当等の概況では、各割当の「保有期間等に関する確約」欄が「―」となっています。TPMでも、新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して1年前より後に第三者割当等を行った場合には、割当を受けた者に継続所有等の確約を求める規定があり、同社の書類にもその内容が記載されています。同社の直前事業年度の末日は2025年10月31日であり、記載されている株式の割当(2024年2月・8月)と新株予約権の割当(2024年7月)はいずれもその1年前より前に行われています。

ストック・オプションは「TPM以外への上場」が行使条件

同社は2024年6月28日の臨時株主総会決議に基づき、2回のストック・オプション(新株予約権)を2024年7月12日に付与しています。第1回は取締役2名、従業員70名、社外協力者1名を対象とする当初648個(64,800株)で、2026年2月28日現在は612個(61,200株)です。第2回は当社の顧問1名を対象とする10個(1,000株)です。行使価額はいずれも1,200円で、2024年8月の第三者割当増資の発行価格と同額です。

2回のストック・オプションの内容と行使条件第1回新株予約権(2024年7月12日付与)取締役2名・従業員70名・社外協力者1名612個(61,200株)※当初648個行使価額 1,200円行使期間 2026/6/29〜2034/6/28第2回新株予約権(2024年7月12日付与)当社の顧問1名10個(1,000株)行使価額 1,200円行使期間 2024/7/12〜2034/7/11共通の行使条件:当社普通株式が「金融商品取引所(東京プロマーケットを除く)」に上場すること権利行使時も役職員等の地位を有すること(取締役会が正当な理由を認めた場合等の例外あり)第2回のみの条件:行使価額を下回る価格での株式発行・取引・上場後の終値・第三者評価額が生じた場合は残存する全部を行使できない会計処理:未公開企業のため本源的価値で算定ストック・オプションの費用計上額はなし新株予約権の残高24千円(第2回)

図15 発行者情報「新株予約権等の状況」「ストック・オプション等関係」「第三者割当等の概況」をもとに作成。第1回の個数・株式数は2026年2月28日現在

特徴的なのは、両方の新株予約権に「当社普通株式がいずれかの金融商品取引所(東京プロマーケットを除く)に上場することを条件とする」という行使条件が付いていることです。TPMへの上場だけでは行使できないため、役職員にとっては、TPM上場後も行使の機会は来ていないことになります。第1回の行使期間は2026年6月29日からですが、この条件を満たさない限り行使できません。

第2回には、行使価額を下回る価格での株式の発行や取引、上場後の終値、第三者評価機関による評価額が生じた場合に残存するすべての新株予約権を行使できなくなる条件も付いています。会計上は、付与時点で未公開企業であったため本源的価値により評価しており、ストック・オプションに係る費用計上額はありません。株式の評価は第三者評価機関がモンテカルロ・シミュレーションで算出した価格を基礎としたと記載されています。ストック・オプションの注記の書き方はストック・オプションの注記の記載例も参考にしてください。

コーポレート・ガバナンス

取締役5名と監査役1名のコンパクトな機関設計

同社の取締役会は取締役5名で構成され、毎月1回の定時取締役会のほか、必要に応じて臨時取締役会を開催しています。監査役制度を採用しており、監査役は社外監査役1名です。会計監査は監査法人コスモスが行っています。このほか、リスクマネジメント及びコンプライアンスの内部統制機能を強化するため、3か月に1回開催するリスクマネジメント・コンプライアンス委員会を設置しています。

マークスライフの機関設計株主総会取締役会(毎月1回)取締役5名(社外取締役なし)監査役(1名)社外監査役・公認会計士代表取締役社長内部監査管理統括本部(2名)会計監査人監査法人コスモスリスクマネジメント・コンプライアンス委員会3か月に1回開催選任選任監査選定・監督報告連携

図16 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに作成

役職 氏名 主な経歴(発行者情報の記載から抜粋)
代表取締役社長 花原 浩二 1999年大和ハウス工業入社、2016年10月当社代表取締役社長
専務取締役 笹尾 里枝 スターツコーポレーション等を経て2019年入社、2022年取締役、2026年1月専務取締役
取締役 営業統括本部長 下田 啓人 ビックカメラ、一条工務店を経て2021年入社、2025年1月取締役
取締役 管理統括本部長 宮本 洋輔 有限責任あずさ監査法人等を経て2023年入社、2025年1月取締役
取締役 鈴木 成知 神奈川銀行を経て2021年入社、2023年5月取締役
監査役(社外) 柳 昭駒 新日本監査法人等を経て2019年柳公認会計士事務所代表、2023年5月当社監査役

社外取締役は選任されておらず、発行者情報には「経営機能の牽制強化と意思決定プロセスの透明性を担保するため適任者が見つかり次第、選任する予定」と記載されています。社外監査役の柳昭駒氏は公認会計士で、財務・会計の専門知識に基づく監査・監督を担うとされています。社外監査役の独立性に関する基準や方針は特に定めていないものの、取引関係等を考慮して選任しているとの説明です。

TPMでは、JPXの説明上「柔軟なガバナンス設計による上場も可能」とされ、一般市場のような機関設計の形式要件は示されていません。一方、上場適格性要件として「企業の規模や成熟度等に応じて」ガバナンスと内部管理体制が整備・機能していることが求められます。将来一般市場を目指す会社であれば、独立役員の確保や監査役会・監査等委員会の設置など、一般市場で求められる体制とのギャップを早めに把握しておくとよいでしょう(参考:IPO審査の「機関設計」とは、社外取締役は何人必要か)。

役員報酬と代表者による債務保証

2025年10月期の役員報酬の総額は72,899千円で、取締役(社外取締役を除く)5名に基本報酬70,149千円、社外役員1名に2,749千円が支給されています。賞与、退職慰労金、ストック・オプションとしての報酬はありません。

関連当事者との取引としては、代表取締役社長の花原浩二氏が、同社の一部の銀行借入について債務保証を行っている取引が記載されています。保証を受けている銀行借入の期末残高は第15期末563,156千円、第16期末94,710千円で、保証料の支払いは行っていません。金額は1年で大きく減っています。代表者による債務保証は、上場準備の過程で解消や縮小が論点になりやすい取引です(参考:社長個人と会社の取引はどう解消するか)。同社は、関連当事者取引について取引条件の適正性等に留意し、取締役会の決議を必要とする方針を示しています。

内部監査・内部統制

同社の内部監査は管理統括本部を主幹部署とし、2名で構成されています。管理統括本部自体の監査は代表取締役社長が指名する者が実施し、相互に牽制する体制をとっています。年度の初めに立案した監査計画に基づいて監査を行い、代表取締役社長に内部監査報告書と改善指示書を提出し、改善指示を受けた部門は改善状況を代表取締役社長に報告する流れです。

内部監査の相互牽制と三様監査代表取締役社長内部監査担当管理統括本部(2名)代表取締役社長が指名する者各部門(管理統括本部以外)管理統括本部三様監査監査役(社外1名)内部監査担当者監査法人コスモス内部監査担当者・監査役・監査法人が相互に連携し、情報交換を行う指名報告書・改善指示書監査監査

図17 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」「内部監査及び監査役の状況」をもとに作成

内部監査の担当者が自部門を監査しない(自己監査を避ける)ための工夫として、主幹部署の監査を別の者に担当させる方法は、少人数の会社でよく用いられます(参考:内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避))。また同社は、内部監査担当者、監査役及び監査法人が相互に連携して情報交換を行い、三様監査を実効性のあるものとしていると記載しています(参考:監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査))。

内部統制の面では、職務権限規程の遵守により業務を合理的に分担し、特定の組織や担当者に業務や権限が集中することを避けているとされています。リスクマネジメントは管理統括本部が主管部署として情報を一元化し、コンプライアンスは管理統括本部を管掌する取締役が中心となって推進しています。

損益計算書には、元従業員による不正行為に係る「不正関連損失」が第15期に24,359千円、第16期に3,292千円計上されており、第16期のキャッシュ・フロー計算書には不正関連損失の支払額27,018千円が記載されています。発行者情報には不正の具体的な内容は書かれていませんが、上場準備の過程で不正が判明した場合には、事実関係の調査、会計処理、再発防止策の整備と運用を、J-Adviserや監査法人に説明できる形で整理しておくことが欠かせません(参考:不適切会計が発覚したら)。同社が「対処すべき課題」で内部管理体制とコンプライアンス経営の強化を挙げ、定期的なコンプライアンス研修を行っていると記載している点も、あわせて読んでおきたいところです。

会計・開示の論点

同社の財務諸表は日本の会計基準に準拠して作成されています。TPMでは日本基準のほか米国会計基準や国際会計基準等も認められていますが、同社は日本基準を採用しています。収益認識の方法は、不動産売買事業(主に中古戸建住宅の買取再販)では物件の引渡し時点、不動産仲介事業(売買仲介・賃貸仲介)では媒介により成立した売買契約又は賃貸借契約に係る物件が引き渡される時点で、いずれも一時点で収益を認識しています。

収益認識の時点と重要な会計上の見積り不動産売買事業(買取再販)仕入・リノベーション不動産売買契約物件の引渡し=収益認識不動産仲介事業(売買・賃貸)媒介契約売買/賃貸借契約の成立物件の引渡し=収益認識重要な会計上の見積り販売用不動産等の評価第16期末 2,035百万円正味売却価額=販売見込額−販売経費等見込額収益性低下時は簿価を切下げ繰延税金資産の回収可能性第16期末 103百万円事業計画が基礎主要な仮定:営業担当者数、一人当たり単価、新規顧客の獲得

図18 発行者情報「重要な会計方針(収益及び費用の計上基準)」「重要な会計上の見積り」をもとに作成

買取再販の会社では、引渡しの時期が決算日の前後どちらになるかで、期間の売上と利益が大きく動きます。引渡しの事実を確認する証憑(引渡確認書や決済の記録など)と、決算期末前後の取引の確認手続を整えておくことが、上場準備の実務上のポイントです(参考:上場審査で問われる収益認識)。

重要な会計上の見積りとしては、販売用不動産及び仕掛販売用不動産の評価と、繰延税金資産の回収可能性の2つが挙げられています。販売用不動産等は、期末の正味売却価額(不動産市況や近隣の販売状況を勘案した販売見込額から、物件ごとの販売経費等見込額を差し引いた額)が取得原価を下回る場合に簿価を切り下げており、第16期の売上原価には棚卸資産評価損16,143千円が含まれています。繰延税金資産は102,560千円で、回収可能性の判断の基礎となる事業計画の主要な仮定として、営業担当者数の推移、営業担当一人当たりの単価、新規顧客の獲得等に基づく売上予測が示されています。

このほか、控除対象外消費税等のうち繰延消費税等を長期前払費用に計上して5年間で均等償却していること、長期未収入金31,385千円に同額の貸倒引当金を計上していること、新しいリース会計基準を2028年10月期の期首から適用予定で影響額は評価中であることなどが記載されています。監査法人コスモスに対する監査証明業務の報酬は19,265千円で、非監査業務の報酬はありません。監査を執行した公認会計士は2名、補助者は公認会計士16名その他4名です。

事業等のリスクと上場で問われやすい点

同社は事業等のリスクとして13項目を挙げています。主なものを整理すると次のとおりです。

リスク 発行者情報の記載の要点
景気動向・不動産市況 景気、金利、地価、税制等による購買意欲・需要の変化が業績に影響
有利子負債への依存と資金調達 有利子負債2,120,483千円、有利子負債比率358.1%。借入が困難になる場合やリファイナンスできない場合の影響
在庫リスク 販売が計画どおりに進まない場合の在庫の滞留、評価損の計上
法的規制 宅地建物取引業法等。免許の取消し等があった場合の事業への重大な影響
契約不適合責任 仕入物件・販売物件に重大な契約不適合があった場合の追加費用や信用の失墜
特定人物への依存 代表取締役社長花原浩二氏への過度な依存を避ける体制づくり
人材の確保・育成 専門知識を持つ人材の採用と教育研修
J-Adviserとの契約 契約を解除し他の担当J-Adviserを確保できない場合は上場廃止

このうち「有利子負債への依存」「在庫リスク」「法的規制」は、買取再販のビジネスモデルそのものに由来するリスクです。上場準備では、リスクを列挙するだけでなく、それぞれに対する社内の管理の仕組み(仕入の承認基準、物件ごとの収支管理、在庫の滞留管理、宅建業法の遵守体制など)を説明できるようにしておくことが大切です。

一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆

同社の発行者情報には、一般市場への市場変更や新規上場についての記載はありません。ここでは同社の方針には触れず、TPM上場後に一般市場を目指す会社一般にとっての示唆を、制度面から整理します。

まず、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMの申請による上場廃止と一般市場への新規上場として扱われます(2025年のAlbaLinkの事例)。東証は2026年4月に、TPMでの実績を勘案した一般市場上場審査の効率化や開示様式の共通化・簡素化を「2026年秋めど」に行う予定と公表していますが、本記事の執筆時点(2026年10月7日)で実施状況は確認できていません。

項目 TPM上場時点で求められたこと(同社の例) 一般市場の新規上場で追加的に準備すること
監査 直前1期(第16期)の監査 直前2期の監査
機関設計 取締役5名・社外監査役1名 独立役員の確保など一般市場の上場規則・CGコードへの対応
内部統制 職務権限規程、内部監査2名の相互牽制 内部統制報告制度(J-SOX)への対応
開示 年次・中間の発行者情報 有価証券届出書・Ⅰの部、有価証券報告書・半期報告書、四半期決算短信
株式 上場時の資金調達なし 形式基準(株主数・流通株式等)を満たすための公募・売出し等

同社のように、ストック・オプションの行使条件を「TPMを除く金融商品取引所への上場」としておく設計は、役職員のインセンティブを一般市場への上場と結び付ける方法の一つです。TPM上場を検討する会社は、TPM上場を到達点とするのか、一般市場への準備段階と位置づけるのかによって、資本政策やストック・オプションの条件、監査期間の取り方が変わってきます。早い段階で方針を整理しておくことをおすすめします。

上場準備会社が学べること

  1. 勧誘の有無で公表書類が変わる:特定投資家向け取得勧誘等を行わない場合、上場時の書類は発行者情報に相当する情報になる。
  2. 監査対象期を逆算して決める:TPMの監査期間は最近1年間。どの期から監査を受けるかで上場時期が決まる。
  3. 借入と在庫のモデルは資金繰りの説明が鍵:利益が出ていても在庫の増加で営業CFは小さくなる。仕入・借入・販売を連動させた計画が必要。
  4. 少人数でも自己監査を避ける:内部監査の主幹部署を別の者が監査する相互牽制の仕組みを作る。
  5. 不正が判明したら調査と再発防止を記録する:損失の計上だけでなく、原因と対策を説明できる形にする。
  6. 代表者の債務保証は縮小・解消の計画を持つ:同社では、代表者の保証を受けている借入の残高が1年で563百万円から95百万円に減っている。
  7. 株式移動の価格と理由を記録する:退職者からの引取りと取引先への譲渡で価格が異なる場合も、算定方法を説明できるようにする。
  8. J-Adviser契約の解除条項を管理する:提出遅延、虚偽記載、監査意見、債務超過は上場維持に直結する。
  • 上場の目的と、TPMを選ぶ理由を言語化している
  • 監査を受ける事業年度と監査法人を決め、スケジュールを逆算している
  • 仕入・借入・在庫・販売を連動させた資金繰り計画がある
  • 内部監査の担当者が自部門を監査しない体制になっている
  • 代表者の債務保証や関連当事者取引の整理方針を決めている
  • 年次・中間の発行者情報を期末後3か月以内に公表できる決算・開示体制がある

よくある質問

Q1. TPMに上場すると、資金調達はできるのですか。

TPMでは特定投資家向け取得勧誘等により資金調達を行うことができますが、マークスライフは上場に際して特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を実施しておらず、上場時の資金調達は行っていません。TPM上場の目的は会社によって異なります。

Q2. 監査は1期分だけで本当に上場できるのですか。

TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」とされています。同社も第16期の財務諸表についてのみ監査法人の監査を受けており、第14期・第15期は監査を受けていない旨が記載されています。

Q3. 社外取締役がいなくてもTPMに上場できるのですか。

同社は社外取締役を選任せずに上場しており、適任者が見つかり次第選任する予定と記載しています。TPMは柔軟なガバナンス設計が可能とされていますが、上場適格性要件として規模や成熟度等に応じた体制の整備・運用が求められ、担当J-Adviserが確認します。

Q4. TPM上場後に一般市場へ移るのは簡単ですか。

市場区分の変更ではなく、TPMの上場廃止と一般市場への新規上場として扱われます。東証はTPM実績を勘案した審査の効率化を予定と公表していますが、実施状況は最新の公表資料で確認が必要です。

最初の一歩は「上場の目的」と「監査を受ける1年」を決めること

TPM上場を検討する会社は、まず上場の目的を整理し、どの事業年度から監査を受けるかを決めることから始めるとよいでしょう。そのうえでJ-Adviser候補と相談し、上場適格性要件に照らして、ガバナンス、内部監査、開示体制、反社会的勢力の確認、運転資金の見通しを一つずつ確認していきます。現状の課題を洗い出す方法としてはショートレビューとはも参考にしてください。

まとめ

マークスライフ株式会社は、2026年3月27日の申請受付、4月10日の上場承認を経て、2026年5月7日にTOKYO PRO Marketに上場しました。担当J-Adviserはフィリップ証券で、上場に際して公募・売出しを行わず、特例第110条第3項に基づき発行者情報に相当する情報を公表しています。書類からは、直前1期のみの監査、3期で約3.4倍に伸びた売上高と借入・在庫に依存する買取再販モデル、創業者側が6割超を保有する株主構成、TPM以外への上場を行使条件とするストック・オプション、取締役5名と社外監査役1名の機関設計、内部監査2名の相互牽制、そして不正関連損失や代表者の債務保証といった論点を読み取ることができます。

TPMは形式基準がない分、自社の目的と体制を自ら説明する力が問われる市場です。上場準備会社の方は、本記事のチェックリストを使って、自社の準備状況を確認してみてください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

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本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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