※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。
株式会社フリースタイル(証券コード528A)は、2026年2月25日の上場申請(申請受付)、3月11日の上場承認を経て、2026年3月26日に東京証券取引所のTOKYO PRO Market(TPM)に上場しました。愛知県名古屋市中区に本店を置き、SES(システムエンジニアリングサービス)を中心とする「ITソリューション事業」と、Nintendo Switch向けタイトル「オバケイドロ!」などを手がける「ゲーム事業」を営む会社です。担当J-Adviserは名南M&A株式会社です。本記事では、上場に際して公表された「発行者情報」(全90ページ)を読み、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできるポイントを整理します。
結論からいえば、フリースタイルの発行者情報は「創業者が株式の100%を保有したまま、公募・売出しを行わずにTPMへ上場する」形と、「監査を受けた財務諸表が1期分(と中間期)で足りるTPMの開示の組み立て」を具体的に学べる事例です。株主は代表取締役1名のみで、第三者割当や株式の移動はなく、上場前に行った資本政策は株式分割・単元株制度の導入と第1回新株予約権の付与だけです。一方で、取締役会と監査役2名による機関設計、管理本部による2名体制の内部監査、代表者による債務保証などの関連当事者取引、J-Adviser契約の解除条項の詳細な開示など、規模の小さい会社がTPMで求められる体制を考えるうえでの材料が揃っています。
この記事の見出し
フリースタイルとTOKYO PRO Market上場の概要
まず基本情報です。フリースタイルは、2006年9月に愛知県清須市で、ソフトウエア開発及び派遣事業を目的として資本金30万円で設立されました。代表取締役の青野豪淑氏が有志とともに設立した会社で、2010年2月に本社を名古屋市中区錦へ移しています。決算期は3月で、発行者情報に掲載された最近事業年度は第19期(2024年4月1日〜2025年3月31日)、直近の中間会計期間は第20期中間(2025年4月1日〜9月30日)です。子会社はなく、財務諸表は単体のみです。
従業員数は2026年1月31日現在で275名(ほかに臨時従業員の年間平均71名)、平均年齢30.8歳、平均勤続年数4.0年と記載されています。セグメント別ではITソリューション事業221名、ゲーム事業34名、全社(共通)20名です。平均年齢が30歳台前半であることは、未経験者や若手を採用して社内で育てるという同社の事業の特徴とも整合しています。
上場の手続面では、発行者情報の表紙に、当社は上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことから、「特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例」(以下「特例」)第110条第3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表する旨が記載されています。つまり、上場時に新株の発行や株式の売出しは行っていません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社フリースタイル(FREE STYLE,Inc.) |
| 証券コード | 528A |
| 市場 | TOKYO PRO Market(東京証券取引所) |
| 申請受付日 | 2026年2月25日(発行者情報の公表日) |
| 上場承認日 | 2026年3月11日 |
| 上場日 | 2026年3月26日 |
| 担当J-Adviser | 名南M&A株式会社 |
| 上場時の書類 | 発行者情報(特例第110条第3項に基づき公表) |
| 公募・売出し | なし(特定投資家向け取得勧誘等を実施せず) |
| 本店 | 愛知県名古屋市中区錦一丁目5番13号 |
| 設立 | 2006年9月(愛知県清須市) |
| 決算期 | 3月 |
| 事業 | ITソリューション事業(SES中心)、ゲーム事業、その他 |
| 従業員数 | 275名(臨時71名)、平均年齢30.8歳(2026年1月31日現在) |
| 監査 | 第19期:監査法人コスモスの監査/第20期中間:同法人の中間監査 |
申請受付から上場承認までは暦日で14日、上場承認から上場日までは暦日で15日でした。TPMでは、上場申請から原則として10営業日後に上場が承認される仕組みであり、同社の日程もこの枠組みに沿ったものです。ただし、上場申請の前には担当J-Adviserによる調査と東証への意向表明があるため、準備期間全体がこれほど短いわけではない点に注意が必要です。
図1 新株予約権の付与から上場日までの主な日付。発行者情報及びJPXの新規上場会社情報による
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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
上場準備会社にとって最も関心があるのは「なぜ一般市場ではなくTPMなのか」という点でしょう。ただし、フリースタイルの発行者情報には、上場の目的やTPMを選んだ理由についての記載は見当たりませんでした。そのため本記事では、同社の理由を推測することはせず、一般論としてTPMの特徴を整理します。
TPMには、株主数・流通株式・利益の額といった形式基準(数値基準)がありません。JPXはTPMの概要として「柔軟なガバナンス設計による上場も可能」と説明しています。また、上場前の監査期間は「最近1年間」とされ、一般市場の新規上場で求められる直前2期の監査と比べて、準備の負担を抑えやすい設計です。一方で、投資家は特定投資家等に限られ、一般投資家は取引所で買付けを行うことができません(保有株式の売却は可能です)。
なお、東京証券取引所は2026年4月3日、TPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直すとともに、新規上場時に「上場目的」(なぜTPMに上場するのか、どう活用するのか)を検討・開示するよう要請する「上場目的の開示のお願い」を公表しました。これは規程上の義務ではなく東証からの要請です。フリースタイルの上場(2026年3月)はこの要請の公表前であり、発行者情報にも上場目的の項目はありません。これからTPM上場を目指す会社は、上場目的を言語化し、J-Adviserの事前確認を受ける前提で準備を進めることになります。
TOKYO PRO Marketの上場の仕組み
ここからは、フリースタイルの発行者情報の記載に即して、TPMの上場の仕組みを確認します。制度の説明は、JPXが公表している資料(TPM概要、上場基準、2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編など)で確認できる範囲にとどめています。
J-Adviserが上場適格性を調査・確認する
TPMには形式基準がない代わりに、東証が資格を認定した「J-Adviser」が上場適格性を調査・確認する仕組みが採られています。上場適格性要件は、企業としての相応性、事業の公正かつ忠実な遂行、企業の規模や成熟度等に応じたコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の整備・機能、企業内容等の開示を適正に行える体制、反社会的勢力との関係を有しないことその他公益又は投資者保護の観点から必要な事項、の5項目です。担当J-Adviserは調査の結果を踏まえて「上場適格性に係る宣誓書」を作成し、東証も意向表明の後に面談を行います。「TPMには上場審査がない」という理解は誤りです。
フリースタイルの発行者情報の冒頭にある「投資者に対する注意事項」にも、TPMの上場会社は特例に従ってJ-Adviserを選任する必要があり、J-Adviserの役割には上場適格性要件に関する助言及び指導、上場申請手続のマネジメントが含まれる旨が書かれています。同社の担当J-Adviserは、名古屋市中村区に本店を置く名南M&A株式会社です。
また、運転資本についての記載も上場適格性と関係します。同社は「上場予定日(2026年3月26日)から12か月間の当社の運転資本は、自己資本及び借入による資金調達が可能であることから十分に確保されております」と記載しています。JPXのガイドブックでも、上場予定日から12か月間の運転資金の確保は「企業としての相応性」の確認項目に挙げられています。
図2 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する
特定証券情報と発行者情報
TPMに上場する株式は「特定投資家向け有価証券」であり、有価証券届出書や有価証券報告書ではなく、金融商品取引法27条の31以下に定める「特定証券情報」と「発行者情報」による開示が行われます。上場時に特定投資家向け取得勧誘等(いわゆるプロ私募・特定投資家私売出し)を行う場合には特定証券情報を公表しますが、フリースタイルのように勧誘を行わない場合には、特例第110条第3項に基づいて「発行者情報に相当する情報」を公表します。このため、同社の上場時の書類の表紙は「発行者情報」となっています。
上場後は、事業年度と中間会計期間のそれぞれについて、期末日から3か月以内に発行者情報を作成・公表します。年次の書類を「有価証券報告書」、中間の書類を「半期報告書」と呼ばないよう注意してください。また、発行者情報の冒頭には、公表時の役員が、重要な事項について虚偽の情報があった場合などに、金融商品取引法27条の34で準用する22条に基づいて損害賠償責任を負う旨が記載されています。プロ向けの簡素な開示であっても、記載内容に対する役員の責任は軽くありません。
図3 金融商品取引法27条の31と、発行者情報表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」をもとに整理。当社は上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行っていない
監査は「最近1年間」
TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」です。フリースタイルの主要な経営指標等の推移の注記には、特例第110条第5項の規定に基づき、第19期の財務諸表については監査法人コスモスの監査を受けているが、第17期及び第18期の財務諸表については当該監査を受けていない旨が明記されています。第20期中間会計期間の中間財務諸表についても、同法人の中間監査を受けています。
JPXのガイドブックでは、特定証券情報等に含める財務書類について、監査法人による無限定適正意見(中間財務諸表等については有用な情報を表示している旨の意見等)が記載された監査報告書等が必要とされています。監査期間が短いことは「監査が不要」という意味ではありません。監査法人の選定と、監査を受けられる決算体制づくりは、TPMでも最初に取り組むべき課題です。監査法人の選定時期の考え方は監査法人はいつまでに決めるかで解説しています。
特定投資家向けの市場であること
TPMは金融商品取引法上の「特定取引所金融商品市場」で、買付けができるのは特定投資家等(適格機関投資家、上場会社、資本金5億円以上の株式会社等のほか、要件を満たして特定投資家へ移行した個人など)と非居住者です。一般投資家は取引所で買付けができませんが、保有している株式を売却することはできます。フリースタイルの発行者情報の「投資者に対する注意事項」でも、TPMは特定投資家等を対象とした市場であり、その上場会社は高い投資リスクを含んでいる場合があること、投資者は自らの責任で投資を行う必要があることが記載されています。
一般市場(グロース・スタンダード)との違い
TPMとグロース市場・スタンダード市場(一般市場)を比較する際の主な違いを、JPXの公表資料に基づいて整理します。形式基準の有無だけでなく、上場適格性を確認する主体、開示書類、監査期間、上場を維持する前提となる契約などが異なります。
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場(グロース・スタンダード) |
|---|---|---|
| 市場の位置づけ | 特定取引所金融商品市場(特定投資家等向け) | 一般投資家も売買できる市場 |
| 買付けできる投資家 | 特定投資家等・非居住者(一般投資家は買付け不可、売却は可) | 制限なし |
| 形式基準(数値基準) | なし | 株主数・流通株式などの数値基準あり |
| 上場適格性の確認 | 担当J-Adviserが調査・確認(東証も面談) | 取引所の上場審査(主幹事証券の引受審査も行われる) |
| 上場申請から承認 | 原則10営業日(申請前に意向表明が必要) | 取引所の審査期間を経て承認 |
| 上場前の監査期間 | 最近1年間 | 直前2期(一般的な取扱い) |
| 開示書類 | 特定証券情報・発行者情報(年次・中間、各期末後3か月以内) | 有価証券届出書・有価証券報告書・半期報告書 |
| 四半期開示 | 任意 | 取引所規則上の四半期決算短信 |
| 内部統制報告書 | 任意 | 提出が必要 |
| 会計基準・言語 | 日本基準・米国基準・IFRS等/英語又は日本語 | 日本語での開示が基本 |
| CGコード | JPXの適用対象の記載なし | スタンダードは全原則、グロースは基本原則 |
| 上場維持の前提 | J-Adviser契約の維持 | J-Adviser契約は不要 |
表のとおり、TPMは一般市場よりも上場時の負担を抑えた設計です。ただし、企業の規模や成熟度等に応じたガバナンス・内部管理体制の整備と運用、適時開示の義務は変わりません。TPMの上場会社にも決定事実・発生事実・決算情報などの適時開示義務があり、担当J-Adviserの異動も適時開示の対象です。一般市場の上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)で整理していますので、比較の参考にしてください。
事業内容と収益モデル
フリースタイルは、社会との接点を持ちづらい若者に対して「仕事」と「成長の機会」を提供することを目的として設立された会社です。コーポレートミッションに「すべての人の成長と可能性を引き出せる場所をつくる」、経営理念に「いつからでもコンティニュー」を掲げ、未経験者を積極的に採用し、社内の教育・研修プログラムで実践的なスキルを身につけさせたうえで、顧客企業に人材を提供しています。
発行者情報は、設立当初はヘルプデスク業務やサーバー監視などの基礎的な業務が中心だったものの、現在は要件定義や設計などの上流工程にも参画していること、技術力を高めたエンジニアによってゲーム事業が立ち上げられたことを説明しています。ITソリューション事業で技術を磨いた人材が、ハイレベルな開発案件やゲーム事業で創造性の高い業務に従事する「社内での人材成長と循環の仕組み」が、同社の特徴として記載されています。
図4 未経験者を採用して社内で教育し、SES・派遣で顧客に提供する。技術を磨いた人材が上流工程やゲーム事業に従事する循環を特徴として記載している(発行者情報「事業の内容」をもとに作成)
ITソリューション事業:SESと派遣
ITソリューション事業は、主にシステム開発ベンダーやSIerを顧客とするSES型の人材提供サービスです。派遣先の業種は製造、インフラ、通信関連が中心で、原則として同社が直接雇用した社員を派遣しています。業務内容に応じて、同社の社員又は外部の協力企業の中から適切なスキルを持つ人材を選定し、顧客先に常駐させます。主要なサービスとして、業務系アプリ開発、生産管理・顧客管理などの業務系システム、車載系・ECU開発などの組み込み制御、カーナビ実機検証などの検証業務、データセンター監視・PCキッティングなどの運用業務が挙げられています。
顧客との契約形態は2種類です。準委任契約では顧客企業が業務内容を指定し、同社が選定した要員が技術支援を提供して工数ベースで請求します。派遣契約では顧客の指揮命令の下で同社の社員が業務を遂行し、就業時間に基づいて請求します。発行者情報の注記では、SESを「エンジニアが顧客企業に常駐し、設計・開発・保守等の業務を準委任契約に基づいて提供する技術支援サービス」と定義し、労働者派遣契約と異なり業務の指揮命令は所属元企業が行う、と説明しています。
上場準備の観点では、この契約形態の区別が重要です。準委任契約で常駐させているにもかかわらず実態として顧客が指揮命令を行っていると、いわゆる偽装請負の問題になり得ます。同社は2015年1月に労働者派遣事業の許可を取得しており、事業等のリスクでも労働者派遣法の許可と欠格事由、許可の更新に触れています。許認可がどこまで確認されるかはIPOで許認可はどこまで見られるかもあわせてご覧ください。
図5 ITソリューション事業は準委任契約(SES)と派遣契約、ゲーム事業の受託開発は請負契約が中心。発行者情報「事業の内容」と「収益及び費用の計上基準」をもとに作成
ゲーム事業:受託開発と自社IP
ゲーム事業は、ゲームベンダーから開発案件を受託して要件定義から保守まで一貫して提供する受託開発部門と、自社IPを開発する自社開発部門で構成されています。自社開発では、2019年8月にNintendo Switch向けにオリジナルIP「オバケイドロ!」をリリースし、累計販売本数20万本を突破したと記載されています。2025年10月には続編の「オバケイドロ2」をリリースしました。受託開発では、他社IPのスマートフォンゲーム「18TRIP」の開発を受託しています。
その他の事業は、新規サービスの市場調査から開発・営業・販売までを担う「システム開発事業」と、非IT業種への人材派遣を行う「派遣事業」です。発行者情報は、これらを今後の事業多角化と人材活用の幅の拡大を視野に入れた取組みと位置づけています。
収益の内訳と主要顧客
収益認識関係の注記では、顧客との契約から生じる収益が「SES」「受託開発」「ゲーム販売」「その他」に分解されています。第19期はSESが1,378,554千円(うちITソリューション事業1,360,884千円、ゲーム事業17,670千円)、受託開発が332,651千円、ゲーム販売が35,125千円、その他が1,119千円で、売上高1,747,451千円の大部分をSESが占めています。受託開発は第18期の204,226千円から第19期の332,651千円へ増加しました。
主要な販売先として、株式会社リベル・エンタテインメントが記載されています。同社向けの売上高は第18期229,900千円(総販売実績の15.8%)、第19期303,756千円(17.4%)、第20期中間137,457千円(15.7%)で、いずれもゲーム事業に計上されています。事業等のリスクでは、同社のゲーム事業の売上高に占める構成比が当中間会計期間に約82.2%であり、1社への依存度が高い状況にあることが開示されています。
図6 収益認識関係注記「顧客との契約から生じる収益を分解した情報」より。SESにはゲーム事業のSES(第19期17,670千円)を含む
| セグメント | 第18期 売上高 | 第19期 売上高 | 第19期 セグメント損益 | 第20期中間 売上高 | 第20期中間 セグメント損益 |
|---|---|---|---|---|---|
| ITソリューション事業 | 1,165,454 | 1,360,884 | 299,208 | 706,182 | 147,719 |
| ゲーム事業 | 266,558 | 385,446 | 49,968 | 167,087 | 45,137 |
| その他 | 21,001 | 1,119 | △8,696 | 5,033 | △13,858 |
| 調整額(全社費用) | - | - | △286,027 | - | △172,005 |
| 合計(営業利益) | 1,453,014 | 1,747,451 | 54,452 | 878,304 | 6,993 |
(単位:千円。セグメント情報等の注記より)。ITソリューション事業の主要KPIとしては「離職率の低下等」が挙げられ、広告媒体を活用した採用活動、社内研修・資格取得奨励制度、顧客先常駐社員との定期的な1on1面談やメンタルケアの導入に取り組んでいると記載されています。人材そのものが商品となるSES事業では、採用数と定着率が売上に直結します。受注実績については、受注管理を案件ごとに行っており、統計データを網羅的に集計するシステムが未整備のため記載を省略する、と書かれている点も実務上の参考になります。
沿革と上場までの道のり
沿革を見ると、同社は設立から20年近くをかけて現在の事業構成になっています。2014年12月にスマートフォン向けアプリ「マホウノトビラ」をリリースし、2015年1月に労働者派遣事業の許可、2015年6月にプライバシーマークの認証を取得しました。2016年9月には、ゲーム開発・システム開発部門のセキュリティー確保と物理的スペースの確保を目的に「オフィスオオモリ」事務所を開設しています。
2021年5月には初の飲食事業「旨酒楽食まるく」を名古屋市中区丸の内に開店しましたが、2024年3月に閉店し飲食事業を終了しました。また、2023年1月にUX(ユーザーエクスペリエンス)デザイン構築を中心とするデザイン総合支援事業を営む株式会社B.C.Membersを株式取得により子会社化し、2024年4月に事業の効率化を目的として吸収合併しています。この合併に伴い、第19期の損益計算書には特別損失として抱合せ株式消滅差損4,290千円が計上されています。2023年4月に東京オフィス、2025年10月に大阪オフィスを開設し、商圏の拡大を進めています。
上場準備との関係で見ると、子会社の取得と吸収合併、新規事業からの撤退がいずれも上場の数年前に完了しており、上場時点では子会社のない単体の会社として、ITソリューション・ゲーム・その他の3区分で事業を説明できる状態になっています。グループ構成や事業の整理を上場前に終えておくことは、開示とガバナンスを簡素にするうえで有効です。
図7 2006年の設立から2026年のTOKYO PRO Market上場までの流れ(発行者情報「沿革」より)
業績の推移と読み方
主要な経営指標等の推移は次のとおりです。第17期・第18期は監査を受けていない数値、第19期は監査を受けた数値、第20期中間は中間監査を受けた数値であることに留意して読む必要があります。
| 項目(千円) | 第17期(2023年3月期) | 第18期(2024年3月期) | 第19期(2025年3月期) | 第20期中間(2025年9月期) |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,215,974 | 1,453,014 | 1,747,451 | 878,304 |
| 経常利益 | 54,129 | 40,291 | 56,118 | 10,422 |
| 当期(中間)純利益 | 36,999 | 32,504 | 37,092 | 7,104 |
| 純資産額 | 204,919 | 239,241 | 276,641 | 284,841 |
| 総資産額 | 760,303 | 764,290 | 813,750 | 802,571 |
| 自己資本比率(%) | 27.0 | 31.3 | 34.0 | 35.5 |
| 営業活動によるCF | 90,723 | 82,270 | 47,022 | △27,971 |
| 現金及び現金同等物の残高 | 386,859 | 369,426 | 404,393 | 183,632 |
| 従業員数(名) | 193(72) | 216(74) | 238(4) | 269(4) |
売上高は第17期の1,215,974千円から第19期の1,747,451千円まで増加し、第19期は前年同期比20.2%の増収でした。各期とも経常利益・当期純利益は黒字で、第19期の経常利益は56,118千円(前年同期比39.2%増)、当期純利益は37,092千円(同14.1%増)です。一方、営業利益は第18期59,904千円から第19期54,452千円へ9.1%減少しました。発行者情報は、ITソリューション事業の人件費の増加と、ゲーム事業の受託開発や新規タイトル開発に伴う外注費の増加を挙げています。経常利益が増えた理由としては、回収不能のおそれのある売掛債権等が発生しなかったことから貸倒引当金繰入額が減少したことが説明されています(第18期の営業外費用に貸倒引当金繰入額21,954千円)。
第20期中間の営業利益は6,993千円でした。中間財務諸表の作成初年度のため前年同期との比較は行われていません。セグメント別に見ると、ITソリューション事業のセグメント利益147,719千円とゲーム事業の45,137千円に対し、その他の損失13,858千円と、各セグメントに配分していない全社費用172,005千円を差し引いた結果です。事業等のリスクでは、原価の相当部分が人件費や賃貸料などの固定費で構成されているため、売上の小幅な減少でも営業利益に大きな影響を及ぼすと開示されています。
図8 主要な経営指標等の推移より。第17期・第18期は監査法人の監査を受けていない数値、第19期は監査法人コスモスの監査を受けた数値。第20期中間(2025年9月期)は売上高878,304千円、経常利益10,422千円、中間純利益7,104千円
図9 中間会計期間のセグメント情報より。各セグメントに配分していない全社費用(調整額)を差し引いて営業利益6,993千円となる
キャッシュ・フローでは、第20期中間に投資活動による支出が161,446千円となり、主な要因は無形固定資産の取得による支出150,405千円です。中間貸借対照表ではソフトウエア仮勘定が195,051千円まで増加しており、第19期の附属明細表ではソフトウエア仮勘定の増加25,819千円の内容が「新規ゲーム」と記載されています。中間期の現金及び現金同等物は183,632千円まで減少しました。
その後の資金手当てについては、中間財務諸表の重要な後発事象として、株式会社三井住友銀行からの借入280,000千円(2025年10月15日実行)、株式会社百五銀行からの借入20,000千円(2026年1月26日実行)、同行を引受先とする社債100,000千円(2026年1月26日発行)が記載されています。いずれも無担保で、財務制限条項はありません。TPM上場に際して資金調達を行っていない同社にとって、成長投資の資金は自己資本と金融機関からの借入・社債でまかなう構成であることが読み取れます。
図10 中間キャッシュ・フロー計算書より。投資活動の支出の主因は無形固定資産の取得による支出150,405千円。ほかに現金及び現金同等物に係る換算差額△64千円がある
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資本政策と株主構成
フリースタイルの株主構成は非常にシンプルです。第四部「株主の状況」によると、株主は代表取締役の青野豪淑氏1名で、所有株式数は1,000,000株、株式総数に対する割合は100.00%です。所有者別状況でも個人1名・10,000単元となっています。第四部の「特別利害関係者等の株式等の移動状況」と「第三者割当等の概況」はいずれも「該当事項はありません」です。ベンチャーキャピタル等の外部株主や従業員持株会は記載されておらず、自己株式もありません。
一般市場では、株主数や流通株式に関する形式基準を満たすために、上場時の公募・売出しによって株主を増やすことが前提になります。これに対してTPMには数値基準がないため、創業者が全株式を保有したままでも上場できます。ただし、上場後に株式を流通させたい、あるいは将来一般市場への上場を目指したいという場合には、株主構成をどう広げていくかを別途検討する必要があります。資本政策の基本は上場準備の資本政策で解説しています。
図11 第四部「株主の状況」と新株予約権等の状況より。比率は発行済株式総数1,000,000株に対するもので、潜在株式の比率は筆者の計算
株式分割と単元株制度の導入
上場の準備として、2025年6月27日付で普通株式1株につき100株の割合で株式分割を行い、発行済株式総数は10,000株から1,000,000株になりました。同日付で定款を変更し、発行可能株式総数を3,990,000株増加させて4,000,000株とし、100株を1単元とする単元株制度を導入しています。重要な後発事象の注記では、目的を「投資単位を適切な水準に調整するため」と説明しています。資本金は10,000千円のままで、資本準備金はありません。
株式分割を行うと、過年度の1株当たり情報との比較が難しくなります。同社は、株式分割が期首に行われたと仮定して1株当たり純資産額と1株当たり当期純利益金額を算定しています。発行可能株式総数は、上場後の新株予約権の行使や将来の資金調達の余地を考えて設定します。公開会社の発行可能株式総数は発行済株式総数の4倍を超えることができないという会社法の規律(会社法113条3項)もあり、同社の4,000,000株は発行済株式1,000,000株のちょうど4倍です。
図12 発行者情報「沿革」「株式等の状況」「重要な後発事象」より。上場時に新株の発行や株式の売出しは行っていない
第1回新株予約権(ストック・オプション)
2025年3月19日の取締役会決議に基づき、第1回新株予約権250個を発行しています(付与日2025年3月24日)。付与対象者は当社取締役2名、当社監査役1名、当社従業員13名です。株式分割後の目的株式数は25,000株(1個当たり100株)、行使価額は680円(分割前68,000円)、行使期間は2027年3月20日から2035年3月18日までです。行使の条件として、株式上場の日以降に行使できること、発行時に取締役・監査役・執行役員・従業員であった者は行使時にもその地位にあること(取締役会が正当な理由があると認めた場合を除く)、相続人による行使は認めないことが定められています。
潜在株式25,000株は、発行済株式1,000,000株の2.5%にあたります(筆者の計算)。会計処理は、付与日時点で未公開株式であったため、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値を見積る方法で算定され、中間期の注記では単位当たりの本源的価値が0円であるため費用計上していないと記載されています。未上場会社のストック・オプションは本源的価値による評価が認められていますが、上場後に付与するものは公正な評価単価による算定が原則になる点も押さえておきましょう。
付与対象に監査役が含まれている点は、上場準備の実務で検討が必要な論点です。監査役に業績連動の要素を持つ報酬を与えることは、監査役の独立性との関係で慎重な検討を要するとされることが多いため、自社で設計する際は付与の目的と説明の仕方を整理しておくとよいでしょう。ストック・オプションの税務上の要件については税制適格ストックオプションで解説しています(同社の新株予約権が税制適格の要件を満たすかどうかは、発行者情報には記載されていません)。
図13 新株予約権等の状況、ストック・オプション等関係注記より。行使価額と目的株式数は株式分割後の数値
コーポレート・ガバナンス
機関設計は、取締役会と監査役で構成されています。取締役会は取締役4名(代表取締役、取締役副社長2名、常務取締役)で、定例取締役会を毎月1回、必要に応じて臨時取締役会を開催し、経営に関する重要事項を決定しています。監査役は2名で、常勤監査役1名と非常勤の社外監査役1名です。発行者情報は「監査役制度を採用しており、監査役は2名で構成されております」と記載しており、監査役会や監査等委員会の記載はありません。会計監査は監査法人コスモスで、業務を執行した公認会計士は2名(継続監査年数はいずれも7年以内)、補助者は公認会計士4名、その他5名です。
役員は男性5名・女性1名(女性比率16.7%)です。取締役の任期は2年、監査役の任期は4年で、いずれも2025年6月27日開催の定時株主総会から起算されています。常務取締役の加藤直人氏は2024年3月に当社監査役に就任し、2025年6月に常務取締役に就任しています。また、常勤監査役の北垣ほのか氏は2013年に当社に入社し、2025年6月に常勤監査役に就任しました。社外監査役の下田泰弘氏は監査法人での勤務経験があり、現在は税理士法人の代表社員です。上場前の1年ほどの間に監査役の構成が入れ替わっていることがわかります。
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(発行者情報より) | 所有株式数 |
|---|---|---|---|
| 代表取締役 | 青野 豪淑 | 2006年9月 当社設立 代表取締役 | 1,000,000株 |
| 取締役副社長 | 田中 克功 | 2014年4月 当社入社、2024年3月 取締役副社長 | - |
| 取締役副社長 | 松田 富雄 | 2020年6月 当社入社、2024年3月 取締役副社長 | - |
| 常務取締役 | 加藤 直人 | 2024年3月 当社監査役、2025年6月 常務取締役 | - |
| 常勤監査役 | 北垣 ほのか | 2013年2月 当社入社、2025年6月 常勤監査役 | - |
| 監査役(社外) | 下田 泰弘 | 監査法人勤務を経て税理士法人代表社員、2025年6月 当社監査役 | - |
社外取締役は選任していません。発行者情報は、社外取締役の重要性は認識しているものの、経営規模・体制を総合的に勘案するとガバナンスは適正に構築・運用されていることを踏まえて社外取締役を設置しておらず、今後、経営における社外取締役の役割について議論と検証を重ね、必要性があると判断する場合には具体的な検討を行う、と説明しています。社外監査役の下田氏については、当社との間に人的関係、資本的関係又は取引関係その他の利害関係はないとしています。
TPMには一般市場のような機関設計の形式要件はなく、JPXは「柔軟なガバナンス設計による上場も可能」と説明しています。ただし、上場適格性要件では企業の規模や成熟度等に応じたガバナンス・内部管理体制の整備・機能が求められ、J-Adviserは取締役の員数・役割・適格性や、株主総会・取締役会等の開催状況を調査します。社外取締役を置かない場合は、同社のように「なぜ置かないのか」「今後どうするのか」を説明できるようにしておくことが大切です。一般市場の場合の考え方は社外取締役は何人必要かで整理しています。
役員報酬は、2025年3月期に取締役3名へ56,988千円、監査役(社外監査役を除く)1名へ7,992千円、合計64,980千円で、すべて基本報酬です。損益計算書の販売費及び一般管理費では、役員報酬が第18期36,161千円から第19期64,980千円に増えています。定款では、取締役の定数を5名以内、取締役の選任決議の定足数を議決権の3分の1以上とし、累積投票によらないこと、株主総会の特別決議の定足数を3分の1以上に緩和すること、取締役会決議による自己株式の取得と中間配当、取締役・監査役の責任免除を定めており、社外監査役とは責任限定契約を締結しています。
図14 コーポレート・ガバナンスの状況等より作成。取締役会は取締役4名、監査役は2名(うち社外監査役1名)。社外取締役は選任していない
関連当事者との取引
関連当事者情報の注記には、代表取締役の青野豪淑氏(議決権の被所有割合100%)による債務保証が記載されています。第19期は、銀行借入に対する債務被保証82,078千円、信用保証機関の保証に対する債務被保証108,051千円、事務所の不動産賃貸借契約に対する債務被保証9,812千円(年間賃借料)で、いずれも保証料の支払いは行っていません。第18期には、代表取締役の配偶者に建物及び車両運搬具を21,772千円で売却しており、売却価額は市場価額等を勘案し交渉により決定したと記載されています(第18期末に未収入金として計上され、第19期のキャッシュ・フロー計算書に有形固定資産の売却による収入21,772千円が計上されています)。
代表者による債務保証は中小企業では一般的ですが、一般市場の上場審査では、上場までに解消するか、解消できない場合は合理性を説明することが求められます。TPMでも、上場適格性要件の「事業を公正かつ忠実に遂行していること」として関連当事者取引の牽制がJ-Adviserの確認対象になります。発行者情報には、これらの債務保証の解消予定についての記載はありません。代表者個人との取引の整理の仕方は社長個人と会社の取引はどう解消するかで解説しています。
図15 関連当事者情報の注記より。代表取締役による債務保証の取引金額は、銀行借入の期末残高又は年間賃借料。保証料の支払いは行っていない
内部監査・内部統制
内部監査は、管理本部を主管部署とし、内部監査責任者と内部監査担当者の2名体制で実施しています。各部の監査結果と改善点は、内部監査担当者から代表取締役に報告書として提出されます。監査役は、内部監査担当者から監査の実施状況について随時報告を受けるとともに、代表取締役及び監査法人と定期的に意見交換を行い、取締役会以外の場でも課題・改善事項を共有して監査役監査の実効性を高めるとしています。
内部統制システムについては、職務権限規程の遵守により業務を合理的に分担し、特定の組織や担当者に業務や権限が集中することを回避して内部牽制機能が働くよう努めていると記載されています。リスク管理は管理本部が主管部署として情報を一元化し、必要に応じて税理士、社会保険労務士等の専門家から助言を受ける体制です。対処すべき課題の4番目にも「コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の強化」が掲げられています。
実務上の論点は、内部監査の主管部署である管理本部自身の業務を誰が監査するか、つまり自己監査の回避です。発行者情報にはこの点の記載がありません。一般市場の上場準備では、管理部門の監査を他部門の担当者が行う、相互監査にするといった手当てを説明することが一般的です。TPMでも内部管理体制はJ-Adviserの確認対象ですので、少人数の会社ほど、この設計を早めに決めておくとよいでしょう。詳しくは内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)と監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)をご覧ください。なお、TPMでは内部統制報告書の提出は任意です。
図16 内部監査及び監査役の状況より。監査役は内部監査担当者から随時報告を受け、代表取締役・監査法人と定期的に意見交換を行うと記載されている
会計・開示の論点
収益認識:期間か、一時点か
同社は第19期の期首から「収益認識に関する会計基準」を適用しています。重要な会計方針では、派遣・SES(技術者派遣)は、労働力を契約期間にわたって顧客に提供するもので成果物を完成させる責任を有しないことから、一定の期間にわたり履行義務を充足すると判断し、契約期間にわたって収益を認識しています。受託開発の請負契約は、成果物を完成させる責任を有することから、顧客の検収が完了した時点で収益を認識し、ソフトウエアの運用保守業務は契約期間にわたって認識します。自社プロダクトのパッケージ販売は、顧客が購入しソフトウエアを利用できる状態になった時点で認識しています。
SES中心の会社では、準委任・派遣・請負という契約形態の違いが、そのまま収益認識の時点の違いになります。請負契約を検収基準で処理する場合は、検収書の入手と期末日前後の検収のタイミングの管理が監査上の重要な論点になります。残存履行義務については、当初に予想される契約期間が1年を超える重要な契約がないため、実務上の便法を適用して記載を省略しています。収益認識の論点は上場審査で問われる収益認識で詳しく解説しています。
図17 重要な会計方針「収益及び費用の計上基準」より。収益認識会計基準は第19期の期首から適用している
重要な会計上の見積りと特徴的な注記
重要な会計上の見積りとして、繰延税金資産の回収可能性(第19期末14,853千円)が挙げられています。「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)の会社分類に基づき、将来の課税所得を見積って回収可能性を判断しています。そのほか、市場販売目的のソフトウエアは見込販売期間3年、自社利用のソフトウエアは見込利用可能期間5年の定額法で償却すること、原価計算は個別原価計算による実際原価計算であることが記載されています。第19期の売上原価明細書では、労務費779,582千円(59.0%)、外注費473,817千円(35.9%)が大半を占めています。
未適用の会計基準等として、新しいリース会計基準(企業会計基準第34号)を2028年3月期の期首から適用予定で、影響額は評価中としています。事務所を賃借している会社では、使用権資産とリース負債の計上が財務諸表に与える影響を早めに把握しておく必要があります。また、長期貸付金に対しては個別に貸倒引当金が計上されており(第19期末、1年内返済予定を含む長期貸付金22,643千円に対し19,943千円)、第18期の営業外費用に計上された貸倒引当金繰入額21,954千円との関係も注記から読み取れます。
監査法人と監査報酬
監査法人コスモスに対する最近事業年度の監査証明業務に基づく報酬は12,000千円で、非監査業務に基づく報酬はありません。監査報酬は、事業規模・業務の特性等に基づいた監査日数を勘案して決定しているとされています。TPMの上場時は1期分の監査で足りますが、上場後も年次の監査と中間の監査(又はレビュー)が続くため、監査対応の工数を継続的に確保できる経理体制が前提になります。
事業等のリスクとJ-Adviser契約
事業等のリスクは、環境要因(経済活動全般の動向、SES事業の競合と価格競争、技術革新)、事業活動(人材の確保・育成、協力会社の確保、特定取引先への依存、代表者への依存、固定費の多い収益構造、情報セキュリティ)、その他(労働者派遣法等の法的規制、自然災害等)に分けて記載されています。代表者への依存については、取締役会やその他の会議体で役員・幹部社員への情報共有や権限移譲を進め、幹部研修を行うなど、特定の人物に依存しない体制の構築を進めていると説明しています。
TPMの発行者情報に特徴的なのが、「担当J-Adviserとの契約の解除に関する事項について」です。同社は、特例第102条によりTPM上場会社はJ-Adviser契約を締結する義務があること、名南M&Aとの契約で求められる義務(特例上の義務の履行と協力、取締役会資料・株主総会資料・経営管理資料等の遅滞のない提出、指導・助言に従うこと)を記載しています。義務の不履行や契約違反があった場合、相手方は相当の期間(特段の事情のない限り1か月)を定めて書面で催告し、期間内に是正されなければ契約を解除できます。また、書面による合意又は1か月前以上の書面通知により、いつでも契約を解約できる旨の定めもあります。
さらに、債務超過、銀行取引の停止、破産手続等、事業活動の停止、不適当な合併等、支配株主との取引の健全性の毀損、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、法令違反、株式の譲渡制限、反社会的勢力の関与など、催告なしで契約を解除できる事由が①から⑲までの番号を付して列挙されています(このうち④は、再建計画の開示を行った場合には原則として解除を行わない旨の例外規定です)。催告期間中に是正できない場合や、代わりの担当J-Adviserを確保できない場合は、TPMの上場廃止につながる可能性があると明記されています。TPMでは、J-Adviser契約の維持そのものが上場を続ける前提になることを、上場準備の段階から理解しておく必要があります。
図18 事業等のリスク「担当J-Adviserとの契約の解除に関する事項について」より。J-Adviser契約はTPMの上場を維持する前提になる
一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆
フリースタイルの発行者情報には、将来の一般市場への上場(市場の変更等)についての記載はありません。そのため、同社の方針については触れず、一般論として、TPMから一般市場を目指す会社にとっての示唆を整理します。
まず、TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMを申請により上場廃止したうえで一般市場に新規上場する手続として扱われています(2025年12月にTPMからグロース市場へ移ったAlbaLinkの例)。東証の2025年11月の資料では、TPMから一般市場への上場審査は非上場企業と同様に一から確認が行われ、相応の負担があるとの現状認識が示されており、2026年4月の資料ではTPMの実績を勘案した一般市場上場審査の効率化や開示様式の共通化・簡素化を「26年秋めど」に予定すると公表されています(本記事執筆時点で実施済みかどうかは確認できていません)。
TPMの1期監査・創業者100%保有という形は、一般市場の要件とは大きく異なります。一般市場を将来の選択肢に入れるのであれば、直前2期の監査を受けられる会計体制、流通株式の基準を満たす株主構成、社外役員を含む機関設計、関連当事者取引の整理などを、TPM上場後の早い段階から計画しておくことが有効です。準備状況の点検にはショートレビューが役立ちます。
上場準備会社が学べること
フリースタイルの発行者情報から、上場準備会社が実務に生かせるポイントを7つにまとめます。
- 上場目的を先に言語化する。形式基準のないTPMでは、何のために上場するのかが準備の軸になります。2026年4月以降は上場目的の開示が東証から要請されています。
- 監査を受ける1期を決める。同社は第19期の1期分の監査と第20期の中間監査で上場しました。監査法人の選定と決算体制の整備は最初の課題です。
- 株主構成と資本政策を目的に合わせる。創業者100%保有のままでも上場できますが、株式の流通や将来の一般市場上場を考えるなら別途の計画が必要です。
- 株式分割・単元株・発行可能株式総数を一体で設計する。同社は1:100の分割、単元100株、発行可能株式総数4,000,000株を同日に整えています。
- 契約形態ごとに収益認識を整理する。準委任・派遣・請負の違いは、法令遵守と収益認識の両面に影響します。
- 小規模でも内部監査の独立性を説明できるようにする。2名体制の内部監査では、自己監査の回避策を決めておくことが重要です。
- J-Adviser契約を上場維持の前提として理解する。資料提出義務や解除事由を把握し、J-Adviserと継続的に協働できる体制を作ります。
- TPMに上場する目的と、上場後の活用方法を説明できるか
- 上場前の最近1年間について、監査法人の監査を受けられる決算体制があるか
- 上場後も年次・中間の発行者情報を期末後3か月以内に公表できるか
- 株主構成・新株予約権・株式分割など、資本政策を目的に合わせて設計しているか
- 代表者による債務保証や役員との取引について、解消方針又は合理性を説明できるか
- 内部監査の担当者が自分の部署を監査しない仕組み(自己監査の回避)があるか
よくある質問
TPMには株主数や流通株式といった形式基準(数値基準)がないため、フリースタイルのように株主1名のままで上場した例があります。ただし、担当J-Adviserによる上場適格性の調査は行われ、ガバナンスや内部管理体制、開示体制などが確認されます。
JPXの資料では上場前の監査期間は「最近1年間」とされています。フリースタイルは第19期の財務諸表について監査法人の監査を、第20期中間について中間監査を受けており、第17期・第18期は監査を受けていない旨を明記しています。
上場に際して特定投資家向け取得勧誘等(いわゆるプロ私募など)を行わない場合は、特例第110条第3項に基づき「発行者情報に相当する情報」を公表するためです。勧誘を行う場合は特定証券情報を公表します。
催告期間中に是正できない場合や、代わりの担当J-Adviserを確保できない場合は、上場廃止につながる可能性があります。フリースタイルの発行者情報では、催告なしで契約を解除できる事由も①から⑲までの番号を付して開示されています。
最初の一歩は「上場の目的」と「監査を受ける1年」を決めること
TPMは準備の負担を抑えやすい市場ですが、それは何も準備しなくてよいという意味ではありません。最初に、なぜTPMに上場するのかという目的を決め、その目的に合った株主構成とガバナンスの形を描くこと、そして監査を受ける1年間を特定して、監査法人と決算体制を整えることから始めましょう。上場準備全体の流れはIPO準備 完全ガイドで確認できます。
まとめ
株式会社フリースタイルは、2026年2月25日の申請受付、3月11日の上場承認を経て、2026年3月26日にTOKYO PRO Marketに上場しました。担当J-Adviserは名南M&Aで、上場に際して公募・売出しを行わず、特例第110条第3項に基づき発行者情報に相当する情報を公表しています。書類からは、創業者が100%を保有したままの上場、1期分の監査と中間監査、株式分割・単元株制度・新株予約権による上場前の資本政策、取締役4名と監査役2名による機関設計、2名体制の内部監査、代表者による債務保証、契約形態ごとに異なる収益認識、そしてJ-Adviser契約の解除条項の詳細な開示を読み取ることができます。
TPMは形式基準がない分、自社の目的と体制を自ら説明する力が問われる市場です。上場準備会社の方は、本記事のチェックリストを使って、自社の準備状況を確認してみてください。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「フリースタイル 発行者情報」(2026年2月25日公表)
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 新規上場会社情報」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 概要」
- 日本取引所グループ「特定投資家制度の概要」
- 日本取引所グループ「J-Adviser制度」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 上場基準」
- 日本取引所グループ「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」
- 東京証券取引所「TOKYO PRO Marketの今後の方向性」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「上場目的の開示のお願い」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「プロマーケットの今後の方向性について」(2025年11月13日)
- 日本取引所グループ「AlbaLink株式会社のグロース市場への新規上場」関連公表(2025年11月11日)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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