GMSグループの持株会社化|共同株式移転によるテクニカル上場と統合ガバナンス【Ⅰの部から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

GMSグループ株式会社(証券コード544A)は、射出成形機の専業メーカーである日精樹脂工業株式会社と、射出成形機・ダイカストマシンを手がけるTOYOイノベックス株式会社が、共同株式移転によって設立した共同持株会社です。2026年3月2日に東京証券取引所から上場承認を受け、設立登記日と同じ2026年4月1日に東証プライム市場に上場しました。公募や売出しを伴う通常の新規上場(IPO)ではなく、上場廃止となる既上場会社の株主に引き続き上場株式を持ってもらうための、いわゆる「テクニカル上場」です。本記事では、両社が東京証券取引所に提出した「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」(全103ページ、2026年3月2日提出)を読み、持株会社化とテクニカル上場の実務を整理します。

結論からいえば、GMSグループのⅠの部は「独立した上場会社2社が、株式移転で持株会社をつくり、約4か月半で新会社の上場まで進める手順」と「統合後のガバナンス・内部監査・株式報酬をどう設計して引き継ぐか」を学ぶのに適した事例です。株式移転計画の条項、株式移転比率の算定と公正性の担保、旧会社の上場廃止と新会社の上場の日程、監査等委員会設置会社への移行、ストック・オプションと譲渡制限付株式の引継ぎなど、将来ホールディングス化や経営統合を検討する上場準備会社・上場会社にとって、具体的な検討項目が並んでいます。

この記事の論点を自社と比べられる「GMSグループのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)」を、記事の後半で無料でお渡ししています。

GMSグループはどんな会社で、いつ、どの市場に上場したのか

GMSグループは、Ⅰの部の提出日(2026年3月2日)の時点では、まだ設立されていない会社でした。表紙には、本報告書は設立予定日である2026年4月1日現在の状況について説明する「事前提出書類」であり、特に必要のある場合を除いて予定・見込みである旨の表現は使用していない、という注記があります。提出会社として表紙に名前が載っているのも、上場申請会社であるGMSグループではなく、日精樹脂工業とTOYOイノベックスの2社です。通常のIPOのⅠの部とは、ここから性格が大きく異なります。

新会社の事業内容は「射出成形機・関連商品、ダイカストマシン及び周辺自動機・関連商品の製造、販売等を行う会社の経営管理及びこれに附帯又は関連する業務」で、自らは事業を営まない純粋持株会社です。本店は東京都千代田区丸の内二丁目の三菱ビル8階、決算期は3月31日、資本金は3億円です。代表者は代表取締役会長兼CEOの依田穂積氏(日精樹脂工業の代表取締役社長)、代表取締役社長兼COOは田畑禎章氏(TOYOイノベックスの代表取締役社長)です。連結の純資産と総資産は「現時点では確定しておりません」と記載されています。

社名の「GMS」は『Global Molding Solutions』の頭文字で、Ⅰの部は両社が目指す姿を「成形イノベーションで、顧客の新たな価値創造に貢献する、グローバル・リーディング・グループ」と説明しています。上場市場は東証プライム市場で、上場承認日は2026年3月2日、上場日は2026年4月1日です。日精樹脂工業は東京証券取引所と名古屋証券取引所に、TOYOイノベックスは東京証券取引所に上場していましたが、いずれも2026年3月30日に上場廃止となる日程が示されています。

項目 内容
会社名 GMSグループ株式会社(GMS Group Co., Ltd.)
証券コード 544A
市場 東京証券取引所 プライム市場
上場承認日 2026年3月2日(Ⅰの部の提出日)
上場日 2026年4月1日(共同持株会社の設立登記日)
上場の形態 共同株式移転による持株会社の設立に伴うテクニカル上場(公募・売出しなし)
完全子会社 日精樹脂工業株式会社(長野県埴科郡坂城町)、TOYOイノベックス株式会社(兵庫県明石市)
事業内容 射出成形機・ダイカストマシン等の製造・販売を行う会社の経営管理
本店 東京都千代田区丸の内二丁目5番2号 三菱ビル8階
決算期 3月31日(最初の事業年度は設立日から2027年3月31日まで)
資本金 300百万円(資本準備金75百万円)
発行済株式数(予定) 普通株式75,805,530株(単元株式数100株)
機関設計 監査等委員会設置会社(取締役8名、うち社外取締役4名)
会計監査人 太陽有限責任監査法人

まず全体像を図で確認しておきます。株式移転では、両社の株主が持っていた株式がすべて新会社に移り、その対価として両社の株主に新会社の株式が割り当てられます。その結果、両社は新会社の100%子会社となり、両社の株主は新会社の株主になります。

共同株式移転による経営統合のスキーム日精樹脂工業の株主TOYOイノベックスの株主日精樹脂工業東証・名証TOYOイノベックス東証株式移転両社の株主(2:1.51の比率で新会社株式を割当て)GMSグループ株式会社東証プライム市場に上場(2026/4/1)日精樹脂工業TOYOイノベックス完全子会社(100%)統合前(2026年3月30日に上場廃止)統合後(2026年4月1日〜)

図1 両社の株主は株式移転比率(日精樹脂工業1株に2株、TOYOイノベックス1株に1.51株)に応じて新会社の株式を受け取り、両社は新会社の完全子会社になる(Ⅰの部「組織再編成の概要」をもとに作成)

上場準備の観点から見ると、テクニカル上場は「すでに上場している会社の株主の流動性を途切れさせないための手続」です。上場審査の形式的な手続は通常の新規上場と同じく上場申請とⅠの部の提出を伴いますが、公募・売出しを行わないため、ブックビルディングや引受審査といったIPO固有の工程は登場しません。一方で、株式移転計画の作成、株主総会の特別決議、反対株主の株式買取請求への対応、新株予約権の引継ぎ、上場廃止と上場の日程調整など、組織再編特有の論点が数多くあります。Ⅰの部の構成と通常のIPOとの違いは、Ⅰの部とⅡの部は何が違うかもあわせてご覧ください。

自社に当てはめるとどうなるか、個別にお答えします

IPO支援:ショートレビュー、資本政策、内部管理体制、Ⅰの部の作成、審査対応まで。初回のご相談は無料、オンラインにも対応しています。
IPO支援の内容を見る / 相談内容を送る

なぜ2社は持株会社のもとで統合することにしたのか

持株会社化を伴う組織再編では、Ⅰの部の冒頭に「組織再編成の目的等」が置かれ、なぜその再編を行うのかが説明されます。GMSグループのⅠの部では、両社の事業展開の状況、経営統合の背景、互いをベストパートナーと判断した理由、目指す姿、想定するシナジー効果の順に整理されています。

日精樹脂工業は1947年の創業で、経営理念に「世界の日精 プラスチックをとおして人間社会を豊かにする」を掲げる射出成形機関連のみを手がける専業メーカーです。2025年3月期の海外売上高比率は66.8%で、日本、中国、タイ、米国、イタリアの5か国に製造拠点を持ち、インドにも新工場の建設を予定していると記載されています。2025年6月には第五次中期経営計画(2025年度〜2027年度)を公表しています。

TOYOイノベックスは1925年の創業で、射出成形機に加え、アルミニウム等を原料として鋳造するダイカストマシンの製造・販売も手がけています。2025年3月期の売上高の構成は射出成形機関連が73.2%、ダイカストマシン関連が26.8%で、海外売上高比率は69.5%、製造拠点は日本と中国の2か国です。2024年4月に中期経営計画2026(2024年度〜2026年度)を発表しています。

経営統合の背景としてⅠの部が挙げるのは、地政学リスクの高まりに伴う需要の低迷やコストの高騰、アジア系企業の台頭によるグローバルでの競争激化、技能労働者不足や環境保全に資する製品への要求の高まり、インド等の新興市場やEV・PHV等の新たな成長市場の勃興、サポート体制における即時対応力強化の必要性の5点です。両社は協議の中で「従来のやり方だけでは成長や生き残りに限界がある」との共通認識に達し、単独では実現できない取り組みが可能になると判断したと説明されています。

同業どうしの統合で「補完関係」をどう説明しているか

同業の2社が統合する場合、製品が重なっていれば「共食い(カニバリゼーション)」が起き、期待したシナジーが出にくくなります。Ⅰの部はこの点を正面から取り上げ、両社の射出成形機をサイズ(型締トン数)と駆動方式(電気・ハイブリッド・油圧)で整理した表を掲げたうえで、一部重複の整理は必要だが多くの分野で補完関係にあると説明しています。整理表では、日精樹脂工業は電気・ハイブリッド・油圧の各方式に製品を持ち、TOYOイノベックスは電気式に製品を持っています。また、ダイカストマシンは日精樹脂工業が取り扱っておらず、この分野では完全に補完関係にあると記載されています。

両社の製品の補完関係(駆動方式別の取扱い)製品・駆動方式日精樹脂工業(N)TOYOイノベックス(T)射出成形機(電気)取扱いあり取扱いあり射出成形機(ハイブリッド)取扱いあり―射出成形機(油圧)取扱いあり―ダイカストマシン―取扱いあり

図2 Ⅰの部の整理表では、日精樹脂工業(N)は電気・ハイブリッド・油圧の各方式、TOYOイノベックス(T)は電気式の射出成形機を手がけ、ダイカストマシンはTOYOイノベックスのみが扱う。表はサイズ(型締トン数)別にも整理されている(Ⅰの部「組織再編成の目的等」をもとに作成)

想定するシナジー効果は、バリューチェーン別に5つに分けて記載されています。設計技術・開発では制御系技術の内製化・統合や機械系部品の共有化、機種の絞り込み、欧州リサイクル基準(DfR)への適合、調達では共同・集中購買や海外調達先の拡大、製造では製造拠点の統合・相互利用や検査工程の自動化、販売ではマーケティング機能の強化やクロスセル、サービスではサービス拠点・人材の相互利用やサービス部品の共通化による在庫削減です。

注目したいのは、後述する株式移転比率の算定において、両社の算定機関がDCF法の前提とした事業計画に「本経営統合によるシナジー効果は織り込んでおりません」と明記されている点です。シナジーは統合の理由として説明しつつ、統合比率の算定ではシナジーを除いた単独の計画で評価する。この切り分けは、統合の合理性を説明する場面と、株主間の公平を確保する場面とで、使う数字の性格を分けている例として参考になります。

想定するシナジー効果(バリューチェーン別)設計技術・開発制御系技術の内製化・統合部品の共有化機種の絞り込みDfRへの対応調達共同・集中購買海外調達先の拡大・強化調達管理の合理化製造製造拠点の統合・相互利用検査工程の自動化販売マーケティング機能の強化クロスセルラインナップの充実サービス拠点・人材の相互利用サービス部品の共通化在庫削減

図3 Ⅰの部はシナジー効果をバリューチェーンの5段階に分けて整理している。株式移転比率の算定(DCF法)の前提とした事業計画には、シナジー効果は織り込まれていない(Ⅰの部「組織再編成の目的等」をもとに作成)

完全子会社となる2社はどんな事業を営んでいるのか

持株会社そのものは新設会社のため、Ⅰの部の「事業の内容」は、完全子会社となる両社の事業の内容を記載する形になっています。日精樹脂工業グループは、日精樹脂工業と連結子会社23社、非連結子会社5社で構成され、射出成形機と周辺機器、部品、金型等の製造販売を主な事業としています。セグメントは「日本」「欧米地域」「アジア地域」の地域別で、日本では日精樹脂工業が製造または仕入れを行い、国内ユーザーと主に海外販売子会社に販売しています。欧米地域では米国のNISSEI AMERICA,INC.が射出成形機を製造し、イタリアのNEGRI BOSSI S.P.A.が同社ブランドの射出成形機と周辺機器を製造・販売しています。アジア地域では中国(太倉・海塩)とタイの子会社が製造を担っています。

TOYOイノベックスグループは、TOYOイノベックスと連結子会社10社、関連会社1社、関連会社の子会社1社で構成され、射出成形機とダイカストマシンの製造販売を主な事業としています。経営上の意思決定と経営成績の評価は単一セグメントで行われています。中国の東洋機械(常熟)有限公司がTOYOイノベックスの技術指導に基づいて製造販売を行い、マレーシア、タイ、中国、台湾、ベトナム、インドネシアなどの子会社が保守サービス・据付工事と販売支援を担っています。持分法適用関連会社としてスイスのGM-Injection AG(議決権所有割合30.2%)があります。

従業員数(2025年3月31日現在)は、日精樹脂工業の連結が1,268名(ほかに臨時従業員の年間平均120名)、単体が466名で、単体の平均年齢は46.4歳、平均勤続年数は19.2年です。TOYOイノベックスの連結は756名、単体は528名で、単体の平均年齢は43.30歳、平均勤続年数は14.18年です。持株会社自体の従業員数は「新設会社ですので、未定です」と記載されています。

項目 日精樹脂工業 TOYOイノベックス
創業 1947年 1925年
主な製品 射出成形機・周辺機器・部品・金型等 射出成形機、ダイカストマシン
グループ構成 連結子会社23社、非連結子会社5社 連結子会社10社、関連会社1社、関連会社の子会社1社
セグメント 日本・欧米地域・アジア地域 単一セグメント
海外売上高比率(2025年3月期) 66.8% 69.5%
従業員数(連結、2025年3月末) 1,268名(臨時120名) 756名
機関設計(統合前) 監査等委員会設置会社 監査役会設置会社
上場市場(統合前) 東証・名証 東証

この表のとおり、統合前の両社は機関設計も異なっていました。日精樹脂工業は監査等委員会設置会社、TOYOイノベックスは監査役会設置会社です。後述するとおり、新会社は監査等委員会設置会社を採用しています。グループ再編の際に、どちらの会社の仕組みに寄せるのか、あるいは新しい仕組みを設計するのかは、上場準備会社がホールディングス化を検討する際にも必ず論点になります。

持株会社化の手続はどのような順番で進んだのか

Ⅰの部の「沿革」は、新設会社であるため3行しかありません。2025年11月14日に両社が株式移転により共同で持株会社を設立することに合意して経営統合契約を締結し、株式移転計画書を共同で作成したこと、2026年1月30日の両社の臨時株主総会で決議する予定であること、2026年4月1日に当社を設立し東証プライム市場に上場する予定であることです。両社それぞれの沿革は、両社の有価証券報告書を参照するよう記載されています。

より詳しい日程は「組織再編成に関する手続」に記載されています。株式移転は、会社法上、株式移転計画の作成、事前備置書類の備置、株主総会の特別決議による承認、反対株主の株式買取請求の手続、設立登記という流れで進みます。上場会社どうしの統合では、これに取引所の手続(最終売買日、上場廃止日、新会社の上場日)が重なります。

経営統合の手続と日程2025年11月14日経営統合契約の締結・株式移転計画の作成(両社取締役会)2025年11月20日臨時株主総会の基準日公告2025年12月5日臨時株主総会の基準日2026年1月15日事前備置書類の備置開始(両社本店)2026年1月30日臨時株主総会で株式移転計画を承認(両社)2026年3月27日両社株式の最終売買日(東証・名証)2026年3月30日両社株式の上場廃止2026年4月1日GMSグループ設立登記・東証プライム市場に上場

図4 取締役会での計画作成から設立・上場まで約4か月半。事前備置書類の備置は2026年1月15日からの予定と記載されている(Ⅰの部「組織再編成に関する手続」をもとに作成)

取締役会での計画作成(2025年11月14日)から設立・上場(2026年4月1日)まで、約4か月半の工程です。臨時株主総会の基準日(2025年12月5日)の2週間以上前に基準日公告(2025年11月20日)を行い、臨時株主総会(2026年1月30日)に先立って事前備置書類を両社の本店に備え置いています(2026年1月15日からの予定)。事前備置書類としてⅠの部が挙げるのは、会社法第803条第1項と会社法施行規則第206条に基づく、①株式移転計画、②株式移転比率や新会社の資本金・準備金の額の定めの相当性に関する事項、③新株予約権の定めの相当性に関する事項、④相手方の最終事業年度の計算書類等、⑤相手方の最終事業年度末日後に生じた重要な財産の処分等、⑥自社の最終事業年度末日後に生じた重要な財産の処分等、を記載した書面です。

反対株主の株式買取請求(会社法第806条)についても、手続が具体的に書かれています。株主総会に先立って反対の意思を会社に通知し、かつ株主総会で反対したうえで、総会決議の日から2週間以内に会社が行う通知または公告の日から20日以内に、買取請求に係る株式数を明らかにして請求する必要があります。株式移転計画では、買取請求に応じて取得した自己株式も含めて、両社が保有する自己株式を実務上消却可能な範囲で消却することが定められています。

株式移転計画には何が書かれているか

Ⅰの部には「株式移転計画書(写し)」と新会社の定款の全文が掲載されています。持株会社化を検討する会社にとっては、計画書のひな型として読める部分です。主な条項を整理すると次のとおりです。

条項 主な内容
第2条 商号(GMSグループ株式会社)、本店所在地、発行可能株式総数230,000,000株、定款
第3条 設立時取締役4名、設立時監査等委員である取締役4名(全員社外)、設立時会計監査人(太陽有限責任監査法人)
第4条 株式移転比率:日精樹脂工業1株に2株、TOYOイノベックス1株に1.51株。端数は会社法第234条で処理
第5条 日精樹脂工業の第1回〜第15回新株予約権1個につき、新会社の新株予約権2個を交付
第6条 資本金300百万円、資本準備金75百万円、利益準備金0円、残りは資本剰余金
第7条 統合前の配当の上限(日精樹脂工業1株21円、TOYOイノベックス1株17.5円、基準日2026年3月31日)
第8条・第9条 成立日2026年4月1日、承認株主総会2026年1月30日(協議により変更可)
第10条 新会社株式が成立日に東証プライム市場に上場されるよう協力。株主名簿管理人は三菱UFJ信託銀行
第11条 両社の自己株式(買取請求により取得するものを含む)の消却
第12条〜第14条 成立日までの善管注意義務による業務運営、重大事由の通知、承認が得られない場合の失効、条件変更・中止

上場準備の観点で特に参考になるのは、第7条の配当の取扱いと第10条の上場の条項です。統合の公表から効力発生までの間に一方の会社が大きな配当を行うと、株式移転比率の前提が崩れます。そのため、統合前に行うことのできる配当の上限を計画の中で決め、それ以外の基準日の配当決議を禁止しています。また、第10条で新会社の株式が成立日に上場されるよう両社が協力することを定め、上場を計画上の前提として位置づけています。

旧会社の上場廃止と新会社の上場はどうつながるのか

テクニカル上場の要は、旧会社の上場廃止と新会社の上場の間をできるだけ短くすることです。Ⅰの部によれば、両社の東京証券取引所での最終売買日(日精樹脂工業は名古屋証券取引所も)は2026年3月27日、上場廃止日は2026年3月30日、新会社の設立登記日と上場日は2026年4月1日の予定です。両社は新会社の完全子会社になるため、新会社の上場に先立って上場廃止となります。最終売買日から新会社の上場日までの間は、市場でどちらの株式も売買できない期間となります。なお、上場日と上場廃止の期日は、東京証券取引所と名古屋証券取引所の各規則により決定されると記載されています。

旧会社の上場廃止と新会社の上場の関係2026年3月27日両社株式の最終売買日2026年3月30日両社株式の上場廃止2026年4月1日新会社の設立・上場日精樹脂工業・TOYOイノベックス株式の売買(3月27日まで)GMSグループ株式の売買単元未満株式は売却できないが、買取請求・買増請求が可能(定款・会社法)

図5 両社は新会社の完全子会社となるため、新会社の上場に先立って上場廃止となる。上場日と上場廃止日は取引所の規則により決定されると記載されている(Ⅰの部をもとに作成)

株主にとってのもう一つの論点は、単元未満株式です。新会社の単元株式数は100株で、株式移転比率の関係で100株未満の新会社株式しか受け取れない株主も出てきます。Ⅰの部は、単元未満株式は取引所で売却できないものの、会社法第192条第1項に基づく買取請求と、同第194条第1項と新会社の定款に基づく買増請求ができると説明しています。日精樹脂工業の定款には買増請求の規定がなかったため、「組織再編成対象会社の発行有価証券と組織再編成によって発行される有価証券との相違」として、この点が記載されています。株主の権利がどう変わるかを、条文のレベルで比較して開示している点は、持株会社化の開示実務として押さえておきたいところです。

上場準備中の会社が将来ホールディングス化を予定している場合、上場前に持株会社をつくるのか、上場後に株式移転でテクニカル上場を行うのかによって、手続と審査の内容は大きく変わります。全体のスケジュールのどこで組織再編を行うかは、上場スケジュールはどこで遅れるかで解説している「遅れやすいポイント」とあわせて早めに検討しておくことをおすすめします。

株式移転比率2対1.51はどのように決まったのか

株式移転比率は、日精樹脂工業の普通株式1株に対して新会社の普通株式2株、TOYOイノベックスの普通株式1株に対して新会社の普通株式1.51株です。新会社が交付する新株式数は75,805,530株(予定)で、日精樹脂工業の発行済株式総数22,272,000株と、TOYOイノベックスの発行済株式総数20,703,000株(いずれも2025年9月30日時点)に基づいて算出されています(22,272,000株×2+20,703,000株×1.51=75,805,530株)。ただし、両社は効力発生までに自己株式のうち実務上消却可能な範囲を消却する予定のため、実際の新株式数は変動しうると注記されています。

比率の決定にあたり、日精樹脂工業はSMBC日興証券株式会社を、TOYOイノベックスは山田コンサルティンググループ株式会社を、それぞれ両社から独立したファイナンシャル・アドバイザー及び第三者算定機関として選定し、2025年11月13日付で株式移転比率に関する算定書を取得しました。両社は算定結果と法務アドバイザーの助言を参考に、相手方に実施したデュー・ディリジェンスの結果等を踏まえて、財務の状況、資産の状況、将来の見通し、株価の動向等を総合的に勘案して交渉・協議を重ね、2025年11月14日の両社取締役会で比率を決定しています。

市場株価法とDCF法の結果はどう示されているか

両社は上場会社で市場株価が存在するため、両算定機関とも市場株価法を採用し、将来の事業活動の状況を評価に反映する目的でDCF法を併用しています。市場株価法は2025年11月13日を算定基準日とし、基準日の終値と、基準日から遡る過去1か月間、3か月間、6か月間の終値単純平均値を用いています。算定結果は、日精樹脂工業1株に新会社株式2株を割り当てる場合のTOYOイノベックス1株あたりの割当株数として示されています。

株式移転比率の算定結果と合意した比率SMBC日興・市場株価法1.49〜1.54SMBC日興・DCF法1.01〜3.19山田コンサル・市場株価法1.47〜1.64山田コンサル・DCF法1.20〜2.541.01.52.02.53.0合意した比率:1.51(TOYOイノベックス1株あたり)

図6 日精樹脂工業の普通株式1株に新会社株式2株を割り当てる場合に、TOYOイノベックスの普通株式1株に割り当てる株数の算定結果。市場株価法の算定基準日は2025年11月13日(Ⅰの部「割当ての内容及びその算定根拠」をもとに作成)

SMBC日興証券の算定結果は市場株価法で1.49〜1.54、DCF法で1.01〜3.19、山田コンサルの算定結果は市場株価法で1.47〜1.64、DCF法で1.20〜2.54です。合意した1.51は、両算定機関の市場株価法のレンジの中にあり、DCF法のレンジにも含まれます。DCF法のレンジが広いのは、将来の事業計画に大きな増減益が見込まれる年度が含まれているためで、Ⅰの部はその内容も説明しています。たとえば日精樹脂工業の2026年3月期の営業利益は在庫の評価減などの影響を仮定して大幅な減益を見込み、2027年3月期以降は大型機や専用機など付加価値の高い商品の販売を伸ばして大幅な増益を見込んでいます。TOYOイノベックスについては、2026年3月期に市況回復と大型ダイカストマシンの部品先行手配による短納期化等で大幅な増益を見込んでいます。

また、両算定機関は、提供を受けた資料や公開情報が正確かつ完全であることを前提とし、独自にその正確性・完全性を検証していないこと、資産・負債について独自の評価・鑑定を行っていないことを明記しています。こうした前提条件の記載は株式価値算定書に一般的に付されるものですが、統合比率の妥当性を判断する取締役会としては、算定の前提となる事業計画をどの程度検証したかが問われる部分です。未上場会社の株価算定方法の考え方は、未上場株式の株価算定はどの方法を使うかで整理しています。

公正性を担保するための措置と、講じなかった措置

Ⅰの部は、両社の間に資本関係等は存在せず、本株式移転は独立した当事者間で実施されるものであると説明したうえで、各社が講じた公正性担保措置を記載しています。いずれの会社も、独立した第三者算定機関からの株式移転比率算定書の取得と、独立した法律事務所からの助言(日精樹脂工業は日比谷中田法律事務所、TOYOイノベックスは大江橋法律事務所)の2つを講じています。

株式移転比率の公正性を担保するための措置日精樹脂工業TOYOイノベックスFA・第三者算定機関SMBC日興証券法務アドバイザー日比谷中田法律事務所フェアネス・オピニオン:取得せずFA・第三者算定機関山田コンサルティンググループ法務アドバイザー大江橋法律事務所フェアネス・オピニオン:取得せず2025年11月14日 両社の取締役会で株式移転比率を決定・合意算定書の取得日:2025年11月13日(両算定機関とも両社の関連当事者に該当せず)

図7 両社はそれぞれ独立したファイナンシャル・アドバイザー兼第三者算定機関と法務アドバイザーを起用し、相互のデュー・ディリジェンスの結果等も踏まえて交渉した。両社間には資本関係等がなく、利益相反を回避するための特別な措置は講じていない(Ⅰの部をもとに作成)

一方で、両社とも、株式移転比率が財務的見地から妥当または公正である旨の意見書(フェアネス・オピニオン)は取得していないと明記しています。また、両社の間には特段の利益相反関係は生じないことから、利益相反を回避するための特別な措置は講じていないと記載しています。親子会社間の統合や支配株主が関与する再編であれば、特別委員会の設置などの利益相反回避措置が重視されますが、独立当事者間の統合では、何を講じ、何を講じなかったかを理由とともに開示することが基本になります。

法務アドバイザーの独立性の説明も具体的です。両法律事務所はそれぞれの会社と顧問契約を締結していますが、多数の依頼者にサービスを提供する法律事務所であること、直近事業年度に支払った対価が少額であること(TOYOイノベックスは社外役員の独立性の基準を下回る少額であることを明示)、本経営統合の成立等を条件とする成功報酬が含まれていないことの3点を挙げて、独立性に問題はないと判断しています。顧問弁護士を組織再編のアドバイザーに起用する場合の説明の仕方として参考になります。

新設会社の業績はⅠの部でどのように示されているか

通常のIPOのⅠの部では、上場申請会社自身の5期分の主要な経営指標等と、監査を受けた財務諸表が中心になります。しかしGMSグループは新設会社のため、「当社は新設会社ですので、本報告書提出日現在において財務情報はありません」と記載されています。その代わりに「統合財務情報」として、完全子会社となる両社の最近5連結会計年度の主要な経営指標等が掲載されています。

日精樹脂工業(連結、百万円) 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 41,604 48,731 52,205 47,068 47,493
経常利益 1,070 2,940 2,995 321 343
親会社株主に帰属する当期純利益 598 2,680 2,225 △502 76
純資産額 33,851 36,938 40,053 39,789 41,896
総資産額 64,364 68,852 78,035 83,608 86,479
自己資本比率(%) 52.0 52.9 50.9 47.2 48.6
営業活動によるキャッシュ・フロー 4,693 1,619 △4,155 △8,222 △3,824
TOYOイノベックス(連結、百万円) 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 24,870 33,273 35,298 28,842 27,024
経常利益 △101 1,970 1,538 △64 △427
親会社株主に帰属する当期純利益 △244 1,277 648 △1,293 △845
純資産額 18,130 19,595 19,985 18,584 17,657
総資産額 28,578 31,141 31,901 30,062 30,100
自己資本比率(%) 62.4 62.0 61.5 60.3 56.8
営業活動によるキャッシュ・フロー 3,778 △550 256 552 △1,344

売上高は、両社とも2023年3月期がピークです(日精樹脂工業52,205百万円、TOYOイノベックス35,298百万円)。2025年3月期は日精樹脂工業が47,493百万円、TOYOイノベックスが27,024百万円となっています。

統合前の両社の連結売上高の推移(百万円)015,00030,00045,00060,0002021年3月期2022年3月期2023年3月期2024年3月期2025年3月期日精樹脂工業TOYOイノベックス

図8 両社とも2023年3月期をピークに売上高が減少している。数値はⅠの部「統合財務情報」に掲載された両社の連結経営指標(各社の有価証券報告書の数値)による

利益面では、日精樹脂工業は5期とも経常利益を計上していますが、2024年3月期・2025年3月期の経常利益は321百万円・343百万円と、2022年3月期・2023年3月期(2,940百万円・2,995百万円)から大きく減少し、2024年3月期は親会社株主に帰属する当期純損失502百万円を計上しています。TOYOイノベックスは、2022年3月期・2023年3月期は経常利益を計上していますが、2021年3月期、2024年3月期、2025年3月期は経常損失で、親会社株主に帰属する当期純損益も同じ3期が損失です。日精樹脂工業の営業活動によるキャッシュ・フローは2023年3月期から3期連続でマイナスとなっており、同じ期間の財務活動によるキャッシュ・フローはプラスです。

両社の経常利益と当期純利益(連結、百万円)項目2021/32022/32023/32024/32025/3日精 経常利益1,0702,9402,995321343日精 当期純利益5982,6802,225△50276TOYO 経常利益△1011,9701,538△64△427TOYO 当期純利益△2441,277648△1,293△845

図9 当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。赤色は損失。TOYOイノベックスの2021年3月期・2022年3月期は誤謬の訂正による遡及処理後の数値と注記されている(Ⅰの部「統合財務情報」をもとに作成)

TOYOイノベックスの指標には、2021年3月期・2022年3月期の数値が誤謬の訂正による遡及処理後の数値であり、過年度の決算訂正を行って2023年7月31日に訂正報告書を提出した旨の注記があります。また、収益認識に関する会計基準等を2022年3月期の期首から適用していることも注記されています。過年度の数値を訂正した場合に、どの期の数値が遡及処理後なのかを指標の注記で明示する方法は、過年度の会計処理の誤りへの対応として過年度の会計処理に誤りが見つかったときで解説している内容と対応します。

「単純合算」の数値をどう読むか

Ⅰの部は、両社の最近連結会計年度(2025年3月期)の売上高、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益を単純に合算した数値も示しています。売上高74,517百万円、経常利益△84百万円、親会社株主に帰属する当期純利益△769百万円です。そのうえで、これらは単純な合算値に過ぎず、監査法人の監査証明を受けていない記載であること、それ以外の指標は単純な合算が困難で、合算するとかえって投資家の判断を誤らせるおそれがあるため合算していないことを明記しています。

2025年3月期の単純合算(百万円)日精樹脂47,493TOYO+27,024単純合算74,517売上高日精樹脂343TOYO-427単純合算-84経常利益

図10 Ⅰの部は両社の最近連結会計年度の売上高・経常利益・親会社株主に帰属する当期純利益を単純合算して示している。監査証明を受けていない数値であり、その他の指標は合算していない

この注記の書き方は、新設会社の開示を考えるうえで重要です。単純合算は、両社間の取引の消去や、企業結合の会計処理(取得原価の配分やのれんの計上など)を反映したものではありません。一般に、企業結合後の連結貸借対照表では、被取得企業の資産・負債が時価で受け入れられるなど、単純な足し算とは異なる数字になります。開示する数字の性格(監査済みか、加工したものか)と限界を併記する姿勢は、IPO審査の「企業内容等の開示の適正性」の観点からも参考になります。

なお、Ⅰの部の第四部「特別情報」の財務諸表も、新会社が決算期を迎えていないため該当事項なしとなっています。両社の経営者による分析(MD&A)、経営方針、研究開発活動、設備の状況なども、新設会社として「該当事項はありません」としたうえで、両社の有価証券報告書と半期報告書を参照する形になっています。既上場会社の継続開示書類を参照先として使えるのは、テクニカル上場ならではの構成です。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。

初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら / IPO支援を見る

資本構成と株主構成はどう引き継がれるのか

通常のIPOでは、資本政策の章で第三者割当増資、株式分割、種類株式の転換、ストック・オプションの発行履歴などを追いかけます。テクニカル上場の場合、新会社の株主構成は、統合前の両社の株主構成と株式移転比率によってほぼ自動的に決まります。GMSグループのⅠの部の「株式等の状況」も、その前提で書かれています。

新会社の発行可能株式総数は230,000,000株、発行済株式数は75,805,530株(予定)で、種類株式発行会社ではありません。単元株式数は100株です。株式移転計画で定めた資本金は300百万円、資本準備金は75百万円、利益準備金は0円で、それ以外の部分は会社計算規則第52条第1項に定める株主資本変動額から資本金と資本準備金を差し引いた額を資本剰余金とする、と定められています。株式移転で新会社をつくる場合、株主資本の総額は会計処理(受け入れる子会社株式の評価)によって決まり、そのうち資本金と準備金にいくら配分するかを計画で定めます。資本金を必要以上に大きくしない設計は、持株会社化の実務でよく見られるものです。

自己株式は消却し、新会社は自己株式を持たない

株式移転計画第11条は、両社が本成立日までに、保有する自己株式(株式買取請求に応じて取得するものを含む)のうち実務上消却可能な範囲の株式を消却すると定めています。2025年9月30日現在の自己株式は、日精樹脂工業が3,035,600株(発行済株式総数に対する割合13.63%)、TOYOイノベックスが224,500株(同1.08%)です。Ⅰの部は、新会社は本株式移転により設立されるため、2026年4月1日時点で自己株式を保有しないと記載しています。

株式移転の効力発生時に子会社が自己株式を持っていると、その自己株式にも新会社株式が割り当てられ、子会社が親会社株式を保有する状態になります。事前に自己株式を消却しておくことで、こうした状態を避けることができます。大株主の状況の算出でも、両社が2025年12月5日時点で保有する自己株式(日精樹脂工業3,035,655株、TOYOイノベックス224,781株)を新株式交付の対象から除外していると注記されています。

想定される大株主の状況

新会社には提出日時点で株主がいないため、大株主の状況は、両社の2025年12月5日時点の株主の状況に株式移転比率を勘案した「2026年4月1日時点で想定される」ものとして記載されています。上位10名の合計は24,786千株、比率は35.72%です。筆頭株主は清原達郎氏(7.77%)で、(有)アオキエージェンシー(5.44%)、日精樹脂工業取引先持株会(4.66%)が続きます。事業会社では(株)日本製鋼所とUBEマシナリー(株)が各3.15%、金融機関では八十二銀行が2.74%です。代表取締役会長兼CEOの依田穂積氏は1.79%で第8位です。

想定される大株主の状況(2026年4月1日時点の予定)清原達郎7.77%(有)アオキエージェンシー5.44%日精樹脂工業取引先持株会4.66%日本マスタートラスト信託銀行(信託口)4.34%(株)日本製鋼所3.15%UBEマシナリー(株)3.15%八十二銀行2.74%依田穂積(代表取締役会長兼CEO)1.79%(株)マルカ1.35%(株)山善1.31%上位10名の合計:24,786千株(35.72%)

図11 両社の2025年12月5日時点の株主の状況に株式移転比率を勘案して算出した想定値で、実際の比率は基準時までの株式数や自己株式の消却数により変動しうる(Ⅰの部「大株主の状況」をもとに作成)

この比率は想定値であり、上場時点で確定した比率ではない点に注意が必要です。基準時までの株式の移動や、実際に消却される自己株式の数によって変動しうると注記されています。また、Ⅰの部には、金融商品取引法第24条の7第1項に規定する親会社等はないと記載されています。両社の所有者別状況(2025年9月30日現在)を見ると、株主数は日精樹脂工業が15,594人、TOYOイノベックスが21,123人で、いずれも個人その他の所有株式数の割合が最も大きく(58.28%、69.42%)、個人株主の多い2社の統合であることがわかります。テクニカル上場は、こうした多数の既存株主に上場株式の流動性を引き続き提供する仕組みでもあります。流通株式の考え方は流通株式数の数え方で解説しています。

ストック・オプションと譲渡制限付株式の引継ぎ

組織再編で見落とされやすいのが、既存の株式報酬の取扱いです。日精樹脂工業は、2011年から2025年まで毎年、取締役向けの新株予約権(第1回〜第15回)を発行していました。いずれも行使時の払込金額は1株あたり1円、新株予約権1個あたりの目的となる株式は100株で、取締役の地位を喪失した日の翌日から10日間に限り行使できる、いわゆる株式報酬型のストック・オプションです。行使期間は付与日の翌日から35年間に設定されています。

株式移転計画第5条は、基準時に残っている日精樹脂工業の各新株予約権1個につき、新会社の新株予約権2個を交付すると定めています。株式移転比率(1株につき2株)に合わせて個数を2倍にする設計です。新会社の新株予約権は付与日が2026年4月1日、行使期間の満了日は元の新株予約権と同じで、行使条件は「本持株会社又はグループ会社のいずれにおいても取締役の地位を喪失した日の翌日から10日間」に置き換えられています。持株会社と子会社のいずれかで取締役を続けている間は行使できない、グループ全体で地位の喪失を判定する文言になっている点がポイントです。

新株予約権と譲渡制限付株式の引継ぎ日精樹脂工業第1回〜第15回新株予約権1個につき2個を交付(株式移転計画第5条)GMSグループ第1回〜第15回新株予約権行使条件:当社又はグループ会社のいずれの取締役の地位も喪失した日の翌日から10日間に限り行使TOYOイノベックス譲渡制限付株式割当契約上の地位を承継(定款附則第3条)GMSグループ(2026年4月1日)新会社の譲渡制限付株式の枠:金銭報酬債権 年間100百万円以内・377,500株以内(定款附則第2条)

図12 日精樹脂工業の株式報酬型ストック・オプション(行使時払込金額1株1円)は新会社の新株予約権に置き換えられ、TOYOイノベックスの譲渡制限付株式は割当契約上の地位を新会社が承継する(Ⅰの部「株式移転計画」「定款附則」をもとに作成)

また、日精樹脂工業の新株予約権の発行要項には、株式移転時に再編対象会社の新株予約権を交付する条件があらかじめ定められていました。株式移転計画の定めがこの条件に合致するため、会社法第808条第1項の規定により新株予約権買取請求権は発生しないと記載されています。上場前にストック・オプションを発行する会社は、将来の組織再編に備えて、発行要項に組織再編時の取扱いを入れておくことが重要です。ストック・オプションの開示についてはストック・オプションの注記の記載例も参考になります。

TOYOイノベックスは新株予約権を発行していませんでしたが、2021年5月26日に制定した譲渡制限付株式報酬規程に基づき、取締役に譲渡制限付株式を交付していました。新会社の定款附則第3条は、2026年4月1日をもって、TOYOイノベックスと各取締役との間の譲渡制限付株式割当契約における契約上の地位と権利義務を新会社が承継すると定めています。さらに附則第2条で、新会社の取締役(監査等委員である取締役を除く)に対する譲渡制限付株式の付与のための金銭報酬債権を年間100百万円以内、株式数を377,500株以内とする枠を設けています。

配当政策

配当政策は、中長期的な企業価値の向上と、配当及び自己株式の取得を通じた株主への利益還元を重要な経営課題と位置付け、配当は安定的に実施していく方針と記載されています。期末配当の基準日は3月31日、中間配当の基準日は9月30日で、定款で剰余金の配当等を取締役会の決議で定めることができるとしています(株主総会決議による配当を排除するものではないと明記)。統合前の最後の配当は、前述のとおり株式移転計画第7条で両社ごとに上限が定められています。

統合後のガバナンス体制はどう設計されたのか

新会社の機関設計は、取締役会、監査等委員会、会計監査人を置く監査等委員会設置会社です。Ⅰの部は採用の理由として、取締役会の諮問機関として委員の過半数を社外取締役とする指名報酬委員会を設置し、人事と報酬に関する意思決定の透明性を確保すること等により、実効性のあるガバナンス体制を構築することを挙げています。会計監査人は太陽有限責任監査法人で、株式移転計画の段階で設立時会計監査人として定められています。

取締役会は、監査等委員以外の取締役4名と監査等委員である取締役4名の計8名で構成され、監査等委員4名は全員が社外取締役です。取締役会はグループ全体の経営に関する基本的事項や重要な業務執行の決定と、各取締役の業務執行の監督を担い、業務執行に係る事項の決定やグループ経営計画・戦略の執行状況の管理は経営会議が担う設計ですが、経営会議をはじめとする各種会議・委員会は「今後設置していく予定」と記載されています。定款では、会社法第399条の13第6項に基づき、取締役会の決議によって重要な業務執行の決定の全部または一部を取締役に委任できる旨を定めています。

GMSグループの機関設計(監査等委員会設置会社)株主総会取締役会(8名、うち社外4名)監査等委員以外4名・監査等委員4名監査等委員会(4名)全員が社外取締役選任選任指名報酬委員会委員の過半数が社外答申代表取締役会長CEO・社長COO選定・監督会計監査人太陽有限責任監査法人連携経営会議(予定)完全子会社:日精樹脂工業(監査等委員会設置会社)TOYOイノベックス(監査役会設置会社)グループ経営管理

図13 取締役会の諮問機関として委員の過半数を社外取締役とする指名報酬委員会を設置し、経営会議などの会議体は今後設置していく予定と記載されている。会計監査人は太陽有限責任監査法人(Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの状況等」をもとに作成)

監査等委員会設置会社では、監査等委員である取締役が取締役会で議決権を持ち、監査等委員会は監査等委員以外の取締役の人事と報酬について株主総会で意見を述べることができます。Ⅰの部も、監査等委員会が取締役会における議決権の行使と、監査等委員でない取締役の人事・報酬に関する意見陳述権の行使を通じて業務執行を監督すると説明しています。監査役会設置会社との比較は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で詳しく解説しています。

取締役8名の顔ぶれ:両社の出身者をどう配置したか

役員一覧によると、2026年4月1日に就任予定の役員は男性6名・女性2名(女性比率25%)です。業務執行を担う取締役は、代表取締役会長兼CEOの依田穂積氏(日精樹脂工業の代表取締役社長)、代表取締役社長兼COOの田畑禎章氏(TOYOイノベックスの代表取締役社長)、取締役の今井昭彦氏(日精樹脂工業の常務取締役。内部監査室、経営企画部、人事部、総務部、コンプライアンス、リスク管理の担当)、取締役の酒井雅人氏(TOYOイノベックスの執行役員経営企画室長兼経理部長)の4名で、両社から2名ずつという構成です。

監査等委員である社外取締役は、スティーヴン ブルース ムーア氏(MLT ANALYTICS社CEO、日精樹脂工業の取締役)、西田治子氏(日精樹脂工業の取締役(監査等委員))、佐和周氏(公認会計士・税理士、TOYOイノベックスの監査役)、横澤靖子氏(弁護士)の4名です。Ⅰの部は4名とも当社との人的関係、資本的関係又は取引関係その他の利害関係はないと記載し、それぞれの知見(プラスチック産業のグローバルな知見、企業経営・ガバナンス、企業会計と国際税務・海外子会社管理支援、企業法務・コンプライアンス)を選任の理由として説明しています。

取締役会の構成(2026年4月1日就任予定)業務執行を担う取締役(監査等委員以外)監査等委員である取締役(全員社外)依田 穂積代表取締役会長兼CEO日精樹脂工業 出身田畑 禎章代表取締役社長兼COOTOYOイノベックス 出身今井 昭彦取締役日精樹脂工業 出身酒井 雅人取締役TOYOイノベックス 出身S.B.ムーア社外(監査等委員)日精樹脂工業 取締役西田 治子社外(監査等委員)日精樹脂工業 監査等委員佐和 周社外(監査等委員)TOYO 監査役・会計士横澤 靖子社外(監査等委員)弁護士日精樹脂工業出身TOYOイノベックス出身社外取締役

図14 男性6名・女性2名(女性比率25%)。社外取締役の現職・前職欄はⅠの部の略歴による(「役員の状況」をもとに作成)。ムーア氏はスティーヴン ブルース ムーア氏

プライム市場に上場する会社には、コーポレートガバナンス・コードの全原則(プライム市場向けの原則を含む)が適用されます。プライム市場の上場会社は、独立社外取締役を少なくとも3分の1以上選任すべきとされ(原則4-10。2026年7月改訂前は原則4-8)、指名委員会・報酬委員会についても構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とすべきとされています(原則4-7。2026年7月改訂前は補充原則4-10①)。GMSグループの取締役8名のうち社外取締役は4名で、指名報酬委員会は委員の過半数を社外取締役とする設計です。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要かで整理しています。

また、両社の取締役・監査役を務めていた社外役員を新会社の監査等委員に充てている点も特徴です。統合直後は、両社の事業や内部統制の実情を知る人材が監督側にいることで、監査の立ち上がりを早めることができます。一方で、新会社の監査等委員会は全員が社外取締役で、Ⅰの部には常勤の監査等委員の記載がありません。日常的な情報収集を誰がどのように担うのかは、統合後の監査体制の運用で詰めていく部分になります。

役員報酬:設立時の枠は定款附則で定める

役員の報酬等の額またはその算定方法の決定に関する方針は「今後策定する予定」と記載されています。報酬等は株主総会の決議で限度額を定めたうえで、監査等委員以外の取締役については取締役会で、監査等委員である取締役については監査等委員会の協議で具体的な額を決定する予定です。新会社には設立時点で株主総会決議がないため、設立日から最初の定時株主総会までの報酬枠は定款附則で定められています。監査等委員以外の取締役の金銭報酬は年額300百万円以内、監査等委員である取締役は年額70百万円以内、これとは別枠で譲渡制限付株式の付与のための金銭報酬債権が年間100百万円以内(株式数377,500株以内)です。

設立時の役員報酬の枠と決定の流れ株主総会(設立時は定款附則)で限度額を定める監査等委員以外の取締役金銭報酬年額300百万円以内譲渡制限付株式金銭報酬債権 年間100百万円377,500株以内監査等委員である取締役年額70百万円以内個別の額:取締役会で決定(監査等委員以外)監査等委員会の協議で決定取締役会の諮問機関として指名報酬委員会を設置予定(人事・報酬の透明性確保)

図15 報酬の決定方針は今後策定予定。設立日から最初の定時株主総会までの報酬枠は定款附則で定められている(Ⅰの部「役員の報酬等」「定款」をもとに作成)

報酬の決定方針の開示は、有価証券報告書の記載事項として開示府令で求められているものです。持株会社化のように会社が新しく生まれる場面では、最初の定時株主総会までの報酬をどの機関がどう決めるかを、定款附則と株式移転計画であらかじめ固めておく必要があります。なお、新会社は新設会社のため、関連当事者との取引に関する記載はⅠの部にありません。

内部監査・内部統制は統合後どうつながるのか

新会社の監査の状況について、Ⅰの部は「当社につきましては、新設会社であるため、該当事項はありません」としたうえで、完全子会社となる両社の監査の状況を記載しています。持株会社の内部監査部門の名称や人数は記載されていません。社外取締役による監督・監査と内部監査、監査等委員会監査、会計監査との相互連携についても、社外取締役が過半数を占める監査等委員会において内部監査、会計監査及び内部統制部門とそれぞれの監査計画・監査結果を報告・共有し、相互に連携する予定であり、新設会社のため詳細は未定と記載されています。

日精樹脂工業の体制

日精樹脂工業は監査等委員会設置会社で、監査等委員会は常勤監査等委員1名と社外取締役2名の3名で構成されています。監査等委員会室を設置してスタッフを配置し、スタッフの独立性を確保するため、その異動・評価等は監査等委員会と事前に協議することとしています。監査等委員会は取締役会に合わせて月次で開催され、最近事業年度の開催回数は18回、出席率は半田芳直常勤監査等委員100%、成澤一之監査等委員94.4%、西田治子監査等委員100%です。監査等委員である取締役の候補者は、社内取締役3名と社外取締役4名で構成する指名委員会で議論したうえで取締役会で決定しています。

内部監査は内部監査室(室員3名)が担い、グループ全体の業務執行と内部統制の適正性・効率性を監査しています。原則として毎月1回、代表取締役、役付取締役、常勤監査等委員が出席する内部監査報告会を開催して監査結果と監査状況を報告し、その内容を取締役会に報告する体制です。監査等委員会、内部監査室、会計監査人は、監査方針・監査計画・監査内容について随時連携する「一体となった監査体制」と記載されています。

TOYOイノベックスの体制

TOYOイノベックスは監査役会設置会社で、監査役は3名、うち2名が独立役員である社外監査役です。監査役会は原則月1回開催され、最近事業年度は13回開催されました。監査役会は「重要な子会社を含めグループ全体の内部統制が有効に機能しているかについて検証する」ことを重点項目とし、グループ内部統制担当部門や子会社代表者からのヒアリング、監査室による海外子会社監査結果のヒアリング、会計監査人からの海外子会社監査結果の聴取などを実施しています。監査役会の実効性については、各監査役へのアンケートをもとに意見交換を行ったと記載されています。

内部監査は監査室所属の2名が担当し、監査計画と監査結果を代表取締役社長と監査役会に適宜報告するとともに、取締役会には年2回直接報告しています。2025年4月から監査室員を1名増員(兼務)したことも記載されています。

完全子会社2社の監査体制と持株会社の体制日精樹脂工業TOYOイノベックス監査等委員会:3名(常勤1名・社外2名)開催18回、監査等委員会室を設置監査役会:3名(うち社外監査役2名)開催13回、グループ内部統制を重点項目に内部監査室:3名原則毎月の内部監査報告会、取締役会へ報告監査室:2名(2025年4月から1名増員・兼務)取締役会へ年2回直接報告会計監査人・監査等委員会・内部監査室が随時連携する一体的な監査体制監査室が監査役・会計監査人と適時に打ち合わせ・情報交換GMSグループ:監査等委員会(4名全員社外)内部監査部門・会計監査人(太陽有限責任監査法人)と連携持株会社の内部監査部門の名称・人数はⅠの部に記載がない

図16 両社の監査の状況は各社の最近事業年度の記載。持株会社では社外取締役が過半数を占める監査等委員会において、内部監査・会計監査・内部統制部門と監査計画・結果を共有する予定で、詳細は未定と記載されている(Ⅰの部「監査の状況」をもとに作成)

持株会社化の後は、持株会社の内部監査部門が、子会社2社とその海外子会社を含めたグループ全体を監査対象とすることになります。両社の内部監査の報告ルート(日精樹脂工業は毎月の報告会と取締役会への報告、TOYOイノベックスは取締役会への年2回の直接報告)や、監査等委員会・監査役会との連携の仕方はそれぞれ異なります。統合後にどちらの運用を基準にするのか、子会社の内部監査部門と持株会社の内部監査部門の役割分担をどうするのかは、Ⅰの部では「詳細は未定」とされている部分です。内部監査の報告先の考え方は内部監査の報告先は社長だけでよいのか、三様監査の連携は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で解説しています。

また、日精樹脂工業の取締役である今井昭彦氏は、内部監査室の担当であると同時に経営企画部、人事部、総務部などの担当も務めており、新会社の取締役にも就任します。内部監査の担当役員が業務部門も担当する場合、その部門の監査をどのように独立性を保って行うかは、内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)で解説している自己監査の回避の論点と共通します。

会計・開示の論点:新設持株会社の財務報告をどう考えるか

GMSグループのⅠの部の「経理の状況」は、「当社は新設会社ですので、該当事項はありません」とし、両社の有価証券報告書と半期報告書を参照する形になっています。株式移転に関する会計処理(どちらの会社を取得企業とするか、のれんの金額など)は、Ⅰの部には記載されていません。そのため、以下は一般的な会計の考え方の整理です。

企業結合に関する会計基準では、独立した会社どうしが共同株式移転によって持株会社を設立する場合、一般に「取得」に該当し、完全子会社となる会社のいずれかを取得企業として決定します。取得企業の決定にあたっては、対価として交付される株式の議決権比率などの要素を総合的に勘案します。持株会社の連結財務諸表では、取得企業の資産・負債は帳簿価額で引き継がれ、被取得企業の資産・負債は企業結合日の時価を基礎として受け入れられ、取得原価との差額がのれん(または負ののれん)となります。持株会社の個別財務諸表では、取得企業の株式は取得企業の株主資本の帳簿価額を基礎に、被取得企業の株式は取得原価(時価を基礎)で計上するのが基本的な考え方です。のれんが生じた場合の上場審査上の見方はIPO審査でのれんの減損リスクはどう見られるかで整理しています。

比較項目 通常のIPO GMSグループ(テクニカル上場)
公募・売出し あり(ブックビルディング等) なし
Ⅰの部の冒頭 企業情報(会社の概況) 組織再編成に関する情報(目的、契約、割当ての算定根拠、手続)
財務情報 上場申請会社の監査済み財務諸表 新設会社のため財務情報なし。両社の経営指標と単純合算値(監査証明なし)
MD&A・設備・研究開発 上場申請会社について記載 該当なし。両社の有価証券報告書・半期報告書を参照
株主構成 資本政策の結果 株式移転比率で決まる想定値(2026年4月1日時点の予定)
ストック・オプション 上場前の発行履歴 既存の新株予約権を新会社の新株予約権に置き換え
監査の状況 上場申請会社の体制 新設会社のため該当なし。両社の体制を記載

開示の面では、書類の作り方そのものが学びになります。提出日に存在しない会社の書類であるため、予定の表現をどこまで使うかを冒頭で宣言し、確定していない数値(連結純資産・総資産)は「確定しておりません」、決まっていない体制は「今後設置していく予定」「未定」と書き分けています。また、当社の参考情報として、有価証券届出書(組織再編・上場)と訂正届出書を関東財務局に提出していることが記載されています。両社が提出した有価証券報告書、半期報告書、臨時報告書、訂正報告書も一覧で示されています(日精樹脂工業は第69期の有価証券報告書の訂正報告書を2025年7月4日に提出)。

事業等のリスクには何が書かれているか

事業等のリスクは、(1)経営統合に関するリスク、(2)日精樹脂工業の事業等のリスク、(3)TOYOイノベックスの事業等のリスク、の3部構成です。新会社は設立後に両社の完全親会社となるため、両社の事業等のリスクが新会社の事業等のリスクとなりうる、という整理です。経営統合に関するリスクとしては、株主総会で承認が得られないリスク、経営統合契約で定めた内容が変更となるリスク、経済情勢の急激な悪化や金融市場の混乱等により予定どおりに経営統合が進まないリスク、期待されるシナジー効果が十分に発揮されないリスクの4つが挙げられています。

事業等のリスクの構成経営統合に関するリスク日精樹脂工業のリスクTOYOイノベックスのリスク株主総会で承認が得られないリスク経営統合契約の内容が変更となるリスク経済情勢の悪化等で予定どおり進まないリスクシナジー効果が十分に発揮されないリスク射出成形機への依存(売上高の約7割)自然災害・感染症気候変動・プラ規制為替(海外売上高比率は概ね7割)海外市場・製品の欠陥資金調達地政学・安全保障輸出管理競争激化・部品調達難原材料・輸送費の上昇労働人口の減少環境・人権固定資産の減損特定業界への依存海外売上高比率69.5%

図17 新会社は設立後、両社の事業等のリスクを引き継ぐ形となるため、経営統合に関するリスクに加えて両社のリスクが記載されている(Ⅰの部「事業等のリスク」をもとに作成)

日精樹脂工業のリスクでは、連結売上高に占める射出成形機の売上高の構成比が約7割と高い水準で推移していること、海外売上高比率が概ね7割程度であることによる為替変動の影響などが記載されています。TOYOイノベックスのリスクは13項目にわたり、製品の約70%を輸出していることによる地政学リスクと安全保障輸出管理、中国企業の台頭による競争激化、部品の調達難、固定資産の減損などが並びます。2024年度の海外売上高は18,787百万円、海外売上高比率は69.5%、中国の連結売上高に占める割合は23.1%で、海外取引は基本的に円建て契約としているため為替変動による財務への影響は軽微と説明されています。

プライム市場の上場審査では「企業の継続性及び収益性」などの観点が確認されます(IPOの実質審査基準とは)。テクニカル上場は既上場会社の実質的な存続を前提とする制度ですが、統合後の会社として、両社の業績の振れやリスクをどのように管理していくかを説明できることは変わらず重要です。

上場準備会社がGMSグループの事例から学べること

GMSグループはテクニカル上場の事例ですが、上場を目指す会社がグループ再編やホールディングス化、将来のM&A・経営統合を考えるうえで参考になる点が多くあります。主なものを6つに整理します。

GMSグループの事例から学べること1 手続の日程取締役会決議から上場まで約4か月半の工程を逆算2 比率の算定各社が別の算定機関を起用市場株価法とDCF法を併用3 機関設計統合を機に監査等委員会設置会社・社外4名へ4 株式報酬SOとRSを新会社へ引き継ぐ条項を計画・定款に5 開示の作法新設会社の制約と単純合算値の注記6 内部監査子会社2社の体制をグループ監査へ統合

図18 本記事で取り上げた論点の整理

1つ目は、手続の日程を逆算して組むことです。取締役会決議から設立・上場まで約4か月半の中に、基準日公告、基準日、事前備置、臨時株主総会、反対株主の買取請求、最終売買日、上場廃止日、設立登記と上場日が並びます。会社法の手続と取引所の手続を一つのスケジュール表で管理する必要があります。

2つ目は、比率の算定と公正性の説明です。各社が別々の算定機関を起用し、市場株価法とDCF法を併用し、DCF法の前提からシナジーを除き、事業計画の大きな増減益の理由まで開示しています。講じなかった措置(フェアネス・オピニオン、利益相反回避措置)についても理由とともに記載しています。

3つ目は、統合を機に機関設計を選び直していることです。監査等委員会設置会社と監査役会設置会社の2社が統合し、新会社は監査等委員会設置会社を採用して、社外取締役4名と、過半数を社外取締役とする指名報酬委員会を置く設計としました。

4つ目は、既存の株式報酬を引き継ぐ条項です。新株予約権は株式移転比率に合わせて個数を2倍にし、行使条件をグループ全体で判定する文言に改め、譲渡制限付株式は割当契約上の地位を承継しています。発行要項に組織再編時の取扱いを定めておいたことで、新株予約権買取請求権も発生していません。

5つ目は、新設会社の開示の作法です。予定の表現の使い方、未確定事項の書き分け、監査証明を受けていない単純合算値の注記など、確定していない情報をどう開示するかの具体例になっています。

6つ目は、内部監査の統合という課題です。子会社2社の内部監査の人数や報告ルートは異なり、持株会社の内部監査部門は「詳細は未定」とされています。グループ再編の前後で、内部監査の対象範囲と報告ルートをどう再設計するかを計画に入れておくことが大切です。内部監査の体制づくりは内部監査の人数と体制もご参照ください。

  • 持株会社化・組織再編を上場前に行うか、上場後に行うかを、上場スケジュールと合わせて検討している
  • 株式移転計画(交付株式、新株予約権、資本金・準備金、配当の上限、成立日)の論点を一覧にしている
  • 組織再編の比率算定で、算定機関・算定方法・前提となる事業計画の扱いを決めている
  • ストック・オプションの発行要項に、組織再編時の新株予約権の交付と行使条件の扱いを定めている
  • 統合・再編後の機関設計(監査等委員会設置会社など)と任意の指名・報酬委員会の設計を検討している
  • グループ全体を対象とする内部監査の体制(人数、報告先、子会社監査の分担)を計画している

よくある質問

Q1. テクニカル上場は通常のIPOと何が違うのですか?

テクニカル上場は、上場会社が株式移転などで新設会社の完全子会社となって上場廃止になる場合に、その新設会社の株式を上場させるものです。GMSグループのように公募・売出しを行わないため、ブックビルディングによる価格決定はありません。Ⅰの部も、組織再編成に関する情報が冒頭に置かれ、新設会社の財務情報の代わりに両社の経営指標が掲載されるなど、構成が異なります。

Q2. 株式移転比率はどのように決めるのですか?

GMSグループの場合、両社がそれぞれ独立した第三者算定機関を選定し、市場株価法とDCF法による算定書を取得したうえで、デュー・ディリジェンスの結果、財務の状況、将来の見通し、株価の動向等を総合的に勘案して交渉し、両社の取締役会で決定しています。比率は日精樹脂工業1株に2株、TOYOイノベックス1株に1.51株です。

Q3. 持株会社化で既存のストック・オプションはどうなりますか?

株式移転計画で、旧会社の新株予約権に代えて新会社の新株予約権を交付する定めを置くのが一般的です。GMSグループでは、日精樹脂工業の新株予約権1個につき新会社の新株予約権2個を交付し、行使条件を「当社又はグループ会社のいずれにおいても取締役の地位を喪失した日」から判定する形に改めています。

Q4. 株式移転で生じるのれんは、どちらの会社に計上されるのですか?

一般に、独立した会社どうしの共同株式移転は企業結合会計上の「取得」に該当し、完全子会社となる会社のいずれかを取得企業と決定します。持株会社の連結財務諸表では、被取得企業の資産・負債を時価を基礎に受け入れ、取得原価との差額をのれんとして計上します。なお、GMSグループのⅠの部には、取得企業の判定やのれんの金額の記載はありません。

最初の一歩は、グループ再編の「論点表」をつくることから

将来のホールディングス化やグループ再編を視野に入れている上場準備会社は、まず、再編の目的、手続の日程、株主・新株予約権者への影響、機関設計、内部監査と内部統制の範囲、会計処理と開示の論点を1枚の表に整理してみてください。GMSグループのⅠの部に掲載された株式移転計画書や定款附則は、その論点表の項目を洗い出す材料になります。上場準備全体の流れはIPO準備の全体像(N-3期〜N期)で確認できます。

無料ダウンロード

GMSグループのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)

GMSグループの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。

まとめ

GMSグループ株式会社は、日精樹脂工業とTOYOイノベックスが共同株式移転によって設立した共同持株会社で、設立登記日の2026年4月1日に東証プライム市場にテクニカル上場しました。Ⅰの部からは、2025年11月14日の株式移転計画の作成から臨時株主総会、上場廃止、設立・上場までの手続と日程、2対1.51の株式移転比率の算定と公正性担保措置、資本金・準備金の設計と自己株式の消却、新株予約権と譲渡制限付株式の引継ぎ、監査等委員会設置会社と指名報酬委員会によるガバナンス設計、子会社2社の監査体制などを具体的に読み取ることができます。

新設会社のⅠの部は、財務情報がなく、多くの項目が「未定」「今後設置していく予定」となる一方で、組織再編の契約や手続が詳細に開示されます。グループ再編を検討している会社の方は、本記事のチェックリストを使って、自社の論点の整理状況を確認してみてください。

上場準備の体制づくりを相談したい方へ

ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。

相談内容を送る料金・支援内容を見る

公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

IPO支援に強い、公認会計士 IPO支援に強い、公認会計士

ベンチャー・スタートアップ企業の
経営管理支援・IPO支援

お問い合わせ

書くより話すほうが早いときは、お電話でも承ります TEL 03-6820-0406