IFRS導入支援の選び方|会計士に依頼できる業務と費用対効果

「IFRSを入れることは決まった。でも、どこまでを自社でやって、どこからを外に頼めばよいのか分からない」——IFRS導入の意思決定が終わった直後の経理責任者から、最も多くいただくご相談です。

見積書を3社から取ったものの、金額が数倍違う。監査法人に相談したら「それは我々ではできません」と言われた。社内には経験者がいない。そんな状況で、外部支援の要否と範囲を決めなければならない場面は少なくありません。

本記事では、監査人に依頼できる業務とできない業務の法令上の線引き、支援者の類型ごとの特徴、依頼範囲の決め方、見積り時の確認ポイントを、公的な一次情報を根拠に整理します。全30回のIFRS導入連載の最終回として、これまでの各回への道案内も兼ねています。

この記事でわかること

  • 監査人(会計監査人・監査法人)に依頼できない業務が法令でどう定められているか
  • IFRS導入支援を提供する事業者の類型と、それぞれが得意とする領域
  • 差異分析・会計方針書・数値作成・注記のうち、どこを外部に出すべきかの判断軸
  • 見積書を比較するときに必ず確認したい6つの項目
  • IPO準備企業がIFRS導入支援を選ぶときの追加の留意点

🏢 なぜIFRS導入では外部支援を使う会社が多いのか

制度上、自社に「適正に作成できる体制」が求められる

IFRSの任意適用は、連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下「連結財務諸表規則」といいます)第1条の2に定める「指定国際会計基準特定会社」に該当することが前提となります。同条第1号は、次の2つの要件をいずれも満たすことを求めています。

指定国際会計基準特定会社の要件(連結財務諸表規則第1条の2第1号)

イ 有価証券届出書または有価証券報告書において、連結財務諸表の適正性を確保するための特段の取組に係る記載を行っていること。

ロ 指定国際会計基準に関する十分な知識を有する役員又は使用人を置いており、指定国際会計基準に基づいて連結財務諸表を適正に作成することができる体制を整備していること。

ここで押さえておきたいのは、ロの要件が求めているのは「十分な知識を有する役員又は使用人を置くこと」と「適正に作成できる体制を整備すること」であって、外部の専門家を使うことを禁じているわけではない、という点です。もっとも、条文が「役員又は使用人」と書いている以上、社内にIFRSを理解している人がまったくいない状態のまま外部に丸投げする形は、この要件の趣旨に合いません。外部支援は「自社の体制を立ち上げるための助走」として使い、最終的には自走できる状態を目指す——これが、支援の範囲を考えるときの出発点になります。

実際、任意適用企業の多くが外部アドバイザーを使っている

金融庁が2015年4月15日に公表した「IFRS適用レポート」には、任意適用企業に対する調査結果が収録されています。同レポートによれば、外部アドバイザーの利用状況について回答した65社のうち59社が、IFRS移行にあたって外部アドバイザーを利用したと回答しています。利用領域として挙げられているのは、プロジェクト管理、日本基準とIFRSの差異分析、グループ会計方針書の作成支援、システム導入支援などです。

同レポートでは、移行に要した期間についても、キックオフから有価証券報告書での開示までの全体期間が61社の回答で平均3年8か月、そのうちシステム対応期間が58社の回答で平均1年4か月と報告されています。移行の総コストについては48社が回答し、うち13社が5,000万円未満と回答しています。これらはいずれも2015年公表時点の調査であり、その後の改訂版は確認できていませんが、IFRS移行が数年単位のプロジェクトであり、多くの企業が外部の手を借りて進めてきた事実を示す公的なデータとして参考になります。

自社(経理部・管理部)外部の支援者監査人(監査法人)会計方針の決定と最終的な意思決定基礎データの収集と提供子会社への展開監査人への説明社内規程・体制の整備導入後の自走(運用)決算スケジュールの管理GAAP差異分析論点の洗い出し会計方針書のドラフト基準の解釈の整理組替仕訳・数値作成の支援注記・開示のドラフト監査人対応への同席経理担当者への教育監査の計画と実施監査意見の表明会計方針の妥当性の検証(作成ではなく検証)会計基準の一般的な説明質問への回答財務書類の調製に当たる業務は提供を受けられない

図1:IFRS導入プロジェクトにおける自社・外部支援者・監査人の役割分担のイメージ

⚖️ 監査人に依頼できる業務・できない業務の法令上の線引き

公認会計士法が定める同時提供の禁止

「監査法人にIFRS導入も手伝ってもらえばよいのでは」と考える方は多いのですが、ここには法令上の制約があります。公認会計士法第24条の2は、公認会計士が「大会社等」から同法第2条第2項の業務(内閣府令で定めるものに限ります)により継続的な報酬を受けている場合には、当該大会社等の財務書類について監査証明業務を行ってはならない、と定めています。監査法人については、同法第34条の11の2に同旨の規定が置かれています。なお、「大会社等」の定義は第24条の2第1項の中で与えられており、会計監査人設置会社(一定の小規模会社を除きます)や金融商品取引法第193条の2の監査証明を受ける会社などが該当します。

ここでいう「内閣府令で定めるもの」を列挙しているのが、公認会計士法施行規則第5条です。同条は次の6号を掲げています。

同時提供が禁止される非監査証明業務(公認会計士法施行規則第5条)

一 会計帳簿の記帳の代行その他の財務書類の調製に関する業務
二 財務又は会計に係る情報システムの整備又は管理に関する業務
三 現物出資財産その他これに準ずる財産の証明又は鑑定評価に関する業務
四 保険数理に関する業務
五 内部監査の外部委託に関する業務
六 前各号に掲げるもののほか、監査又は証明をしようとする財務書類を自らが作成していると認められる業務又は被監査会社等の経営判断に関与すると認められる業務

実務上とくに効いてくるのが第1号と第6号です。IFRS導入で外部に依頼したい業務の中心は、組替仕訳による数値作成と注記のドラフト作成ですが、これらは「財務書類の調製」あるいは「監査又は証明をしようとする財務書類を自らが作成していると認められる業務」に当たり得るため、自社の監査人に依頼することは想定されていません。会計方針の決定に踏み込む助言も、第6号後段の「経営判断に関与すると認められる業務」との関係で慎重な整理が必要になります。

同時提供が禁止される非監査証明業務(公認会計士法施行規則第5条)一 会計帳簿の記帳の代行その他の財務書類の調製に関する業務二 財務又は会計に係る情報システムの整備又は管理に関する業務三 現物出資財産その他これに準ずる財産の証明又は鑑定評価に関する業務四 保険数理に関する業務五 内部監査の外部委託に関する業務六 監査又は証明をしようとする財務書類を自らが作成していると認められる業務、又は被監査会社等の経営判断に関与すると認められる業務実務上とくに効いてくるのは第1号と第6号組替仕訳による数値作成と注記のドラフト作成は、これらに当たり得るため自社の監査人には依頼できません

公認会計士法第24条の2(監査法人は第34条の11の2)が、大会社等から継続的な報酬を受けている場合の監査証明業務を禁じています。

職業倫理の側からも自己レビューの脅威が問題になる

法令に加えて、日本公認会計士協会(JICPA)の倫理規則も制約になります。改正倫理規則は2022年7月の定期総会で承認され、2023年4月1日から施行されています(早期適用が認められていました)。これに伴い、従前の「独立性に関する法改正対応解釈指針第4号」など複数の指針は2023年3月31日付で廃止されています。

倫理規則は、基本原則の遵守を阻害する要因として自己利益・自己レビュー・擁護・馴れ合い・不当なプレッシャーの5つを掲げています。自分が作成した数値を自分で監査する状態は典型的な自己レビューの脅威にあたり、社会的影響度の高い事業体については、自己レビューの脅威を生じさせ得る非保証業務の提供は原則として認められないものとされています。会計記録・財務諸表の作成に関する業務は、この観点からも監査人には依頼できない領域です。

では監査人には何を相談すればよいのか

依頼できないのは「作ること」であって、「話すこと」ではありません。会計方針の案を自社(または監査人以外の支援者)が作り、その考え方について監査人と早い段階で協議すること自体は、むしろ推奨される進め方です。企業会計審議会の監査基準も、適正な財務諸表を作成する責任は経営者にあることを前提に、経営者が採用した会計方針等について経営者から書面をもって確認しなければならない旨を定めており、会計方針を決めるのは会社であって監査人ではないという役割分担が制度の前提になっています。

監査人に相談できること監査人から提供を受けられない業務会計基準の一般的な解釈の説明会社が作成した方針案への指摘監査上の重要な論点の早期共有監査スケジュールの調整記帳代行その他の財務書類の調製財務・会計の情報システムの整備・管理現物出資財産等の証明・鑑定評価内部監査の外部委託・経営判断への関与※公認会計士法第24条の2・第34条の11の2および同法施行規則第5条にもとづく整理

図2:監査人に相談できることと、提供を受けられない業務の線引き

場面 自社の監査人に依頼できるか 実務上の進め方
日本基準とIFRSの差異分析 分析結果への意見交換は可能。分析そのものの受託は施行規則第5条第6号との関係で想定されない 自社または監査人以外の支援者が一覧表を作り、監査人と論点を突き合わせる
グループ会計方針書の作成 作成の受託は不可。ドラフトへの指摘を受けることは可能 ドラフトを早期に共有し、解釈が分かれる論点を先に潰す
組替仕訳・IFRS数値の作成 不可(第1号「財務書類の調製」に該当し得る) 自社または監査人以外の支援者が作成し、監査人は監査手続として検証
注記・開示のドラフト作成 不可(同上) 開示チェックリストにもとづき自社で作成し、監査人のレビューを受ける
会計システムの設定・導入 不可(第2号「情報システムの整備又は管理」に該当) ベンダーおよび監査人以外の支援者と進め、監査人には内部統制の観点で説明

注:上表は公認会計士法および同法施行規則の条文にもとづく一般的な整理です。個別の業務が禁止対象に当たるかは契約内容と関与の程度によって判断が分かれます。実際の依頼にあたっては、監査人および依頼先とあらかじめ独立性の確認を行ってください。

📊 IFRS導入支援を提供する事業者の3つの類型

監査人以外の支援者は、大きく3つの類型に分けて考えると整理しやすくなります。いずれが優れているという話ではなく、自社のプロジェクトの規模と、必要としている関与の深さによって適した相手が変わるという理解が実務的です。

支援者側の体制の規模(人数・拠点) → 大きい1社あたりの関与の密度 → 高い独立の公認会計士・小規模事務所中堅の会計コンサルティング会社大手FAS・総合系ファーム※一般的な傾向のイメージであり、個々の支援者の体制・関与方針により異なります

図3:IFRS導入支援を提供する事業者の類型(体制の規模と関与の密度のイメージ)

類型 特徴 向いているケース
大手FAS・総合系ファーム 多人数のチームを組成でき、海外拠点を含む同時展開や大量の子会社対応に強い。方法論・ツールが標準化されている。担当者の入替えが生じることがある 連結子会社が多数あり海外子会社も含む/短期間に大量の作業を並行させる必要がある/社内にプロジェクト管理の人員を割ける
中堅の会計コンサルティング会社 特定の業種や基準に強みを持つ場合が多い。体制と機動力のバランスが取りやすい 業種特有の論点(収益認識・リース等)が中心/一定の規模のプロジェクトを費用を抑えて進めたい
独立の公認会計士・小規模事務所 公認会計士本人が最初から最後まで担当する形が取りやすく、経理責任者との距離が近い。同時に受けられる案件数には限りがある 経理部が少人数で伴走型の支援が必要/論点ごとに深く議論したい/IPO準備と並行して柔軟に動きたい

なお、監査法人系のアドバイザリー会社に依頼する場合、自社の監査を担当している監査法人と同じグループかどうかを必ず確認してください。同じグループの場合、前章で見た独立性の観点から受託できる業務の範囲が限定されることがあります。見積り依頼の段階で「当社の監査人は○○監査法人ですが、独立性の観点で問題はありませんか」と一言確認しておくと、後戻りを防げます。

🗒️ IFRS導入で外部に依頼できる主な業務と成果物

「支援を依頼する」といっても、実際には工程ごとに切り出せます。誰が・いつまでに・何を作るかを契約書と作業計画に落とし込むことが、費用対効果を確保するうえで最も重要です。連載第8回(IFRS導入プロジェクトの進め方)で整理した3フェーズに沿って、依頼できる業務と成果物を整理します。

工程 成果物 主担当と外部の関与
①GAAP差異分析 差異一覧表(論点・影響額の概算・対応方針) 外部が一覧をドラフトし、自社が事業実態と突き合わせて確定。第9回参照
②会計方針の決定 グループ会計方針書、勘定科目定義書 外部が選択肢と論点を提示し、決定は自社。第10回参照
③初度適用の設計 免除規定の適用方針、移行日の開始残高 外部が免除規定の適用可否を整理、自社が採否を決定。第11回参照
④数値作成(コンバージョン) 組替仕訳一覧、IFRS試算表、比較期間の数値 外部が仕訳を作成し、自社がレビュー・承認。第12回参照
⑤注記・開示の作成 開示チェックリスト、注記ドラフト 外部がドラフト、自社が事実関係を確認。第28回参照
⑥移行時の開示 資本・包括利益の調整表と説明文 外部が調整表を組成、自社が説明文を確定。第29回参照
⑦監査人対応 質問への回答資料、根拠メモ(ポジションペーパー) 外部が論点整理に同席、説明の主体は自社
⑧教育・引継ぎ 研修資料、業務マニュアル、運用手順書 外部が作成・実施、自社が運用を引き継ぐ

このうち、⑦監査人対応と⑧教育・引継ぎを契約に含めているかどうかが、支援の実効性を大きく左右します。数値と注記のドラフトだけを納品されても、監査人からの質問に自社で答えられなければプロジェクトは前に進みません。逆に、論点ごとの根拠メモが整備され、経理担当者が説明できる状態になっていれば、2年目以降の内製化が現実的になります。

どこまで自社でやり、どこから外に出すかを決めませんか

経理部の人数と決算の繁忙状況をお聞かせいただければ、内製できる範囲と外部に出したほうがよい工程を切り分け、費用の見当とあわせてお返しします。

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読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。

初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら

📅 依頼範囲の決め方|社内の経験値と時間的余裕で切り分ける

依頼範囲は、①社内にIFRSの実務経験を持つ人材がいるか、②移行日・適用開始までに時間的な余裕があるか、という2軸で整理すると決めやすくなります。

移行日・適用開始までの時間的余裕余裕がある切迫している社内のIFRS実務経験な しあ り教育型方針書までを外部に委託し数値作成は社内で経験を積むフル伴走型差異分析から数値作成・注記監査人対応まで一括で依頼スポット型論点ごとに意見を求め方針書のレビューを中心に実務代行型数値作成と注記ドラフトを委託し社内はレビューに集中※いずれの型でも、会計方針の決定と監査人への説明の主体は自社に残ります

図4:社内の実務経験と時間的余裕による依頼範囲の切り分け

期限から逆算して「いつまでに何を決めるか」を固定する

依頼範囲を決めるときは、成果物ごとに期限を先に置くことをおすすめします。IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」が求める比較情報の関係で、移行日は最初のIFRS財務諸表で比較情報を表示する最も早い期間の期首になります。つまり、適用初年度の期首より1年前の時点の開始残高を作り直す必要があるため、実務上は適用初年度が始まる前に会計方針が固まっていなければなりません。

逆算で決めておきたい期限の例

  • 移行日の18か月前まで:差異分析を完了し、影響が大きい論点を特定する
  • 移行日の12か月前まで:グループ会計方針書を確定し、監査人と共有する
  • 移行日の6か月前まで:子会社への展開(連結パッケージの改訂)を完了する
  • 移行日:開始IFRS財政状態計算書の数値を作成する
  • 適用初年度の各四半期:比較期間の数値と注記のドラフトを並行して作る

注:上記は一般的な逆算の目安であり、公的機関が定めた基準ではありません。子会社数・システム対応の要否・監査人との協議状況により前後します。

💰 見積書で必ず確認したい6つの項目

金額の総額だけを比較すると、後から追加費用が発生して結果的に高くつくことがあります。次の6点は、見積書を受け取った段階で必ず確認してください。

確認項目 確認の観点
①作業範囲(スコープ) 差異分析・方針書・数値作成・注記・監査人対応・教育のうち、どこまでが含まれるか。含まれない工程が明記されているか
②対象範囲 連結子会社のうち何社が対象か。海外子会社を含むか。除外される会社がある場合の追加費用の考え方
③成果物の形式 報告書だけか、実際に使える仕訳データ・方針書・チェックリストが納品されるか
④体制と担当者 公認会計士が何名関与し、誰が実際の作業を担当するか。担当者の交代の可能性
⑤期間と稼働の前提 何か月・何時間を前提とした金額か。前提を超えた場合の精算方法(時間単価か固定か)
⑥独立性の確認 自社の監査人と資本関係・提携関係がないか。監査人側の了解を得る必要がないか

費用対効果は「作業量の削減」と「手戻りの防止」で見る

外部支援の費用対効果を測るとき、時給換算だけで比較すると判断を誤ります。IFRS導入で費用が膨らむ典型的な原因は、会計方針の決定が遅れて数値作成をやり直すことと、監査人との論点整理が後倒しになって決算直前に大量の修正が発生することの2つです。金融庁のIFRS適用レポートでも、移行の実務負担の増加をデメリットとして挙げた企業があること、開示量の多さから外部アドバイザーを活用した企業があることが報告されています。

したがって、見積りを比較する際は「その支援によって、社内の何人分の工数がどれだけ減るか」「監査人との論点が前倒しで潰れるか」という観点で評価することをおすすめします。導入コストの内訳と考え方は、連載第6回(IFRS導入の費用はいくら?)で詳しく整理しています。あわせて、社内の体制づくりについては第7回(IFRS導入の体制づくり)をご覧ください。

費用が膨らむ典型的な2つの原因原因1 会計方針の決定が遅れる方針が固まらないまま数値を作り後から数値作成をやり直すことになる見積りを比較するときは「社内の何人分の工数がどれだけ減るか」で評価する原因2 監査人との論点整理が後倒しになる決算直前に大量の修正が発生する見積りを比較するときは「監査人との論点が前倒しで潰れるか」で評価する金融庁のIFRS適用レポートでも、移行の実務負担の増加をデメリットとして挙げた企業や、開示量の多さから外部アドバイザーを活用した企業が報告されています。

外部支援の費用対効果を時給換算だけで比較すると判断を誤ります。

🌍 IPO準備企業がIFRS導入支援を選ぶときの追加の留意点

IPO準備と並行してIFRSを導入する場合、上場審査・監査対応・IFRS移行という3つの作業が同じ時期に重なります。この局面では、支援者の選び方にいくつか固有の観点が加わります。

上場申請の監査証明との関係を先に整理する

東京証券取引所の有価証券上場規程施行規則は、新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)に、直前々期を含む直近2期間の財務諸表・連結財務諸表および監査報告書を添付することを求めています。IFRSでの申請を選ぶ場合、この2期間をどの基準で作るのかという設計が最初の分岐点になります。IFRS任意適用を上場前に行うか、上場後に行うかの判断軸は、連載第4回(IPO準備企業のIFRS導入)で整理しています。

IFRS適用会社は増え続けている

日本取引所グループ(JPX)が公表する「IFRS適用済・適用決定会社一覧」によれば、2026年7月末現在で、IFRS適用済会社が297社、適用決定会社が22社、合計319社となっています(同ページの更新日は2026年8月3日)。また、東京証券取引所が2026年7月31日に公表した「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2026年3月決算会社まで)では、IFRS適用済・適用決定・適用予定の合計が318社、その時価総額合計708兆円が東証上場会社の時価総額(1,384兆円)に占める割合は51.2%(2026年6月末時点)と報告されています。

注:JPXの一覧(319社)と東証の分析(318社)は集計時点と対象が異なるため、単純比較はできません。

IPO準備企業が支援者に確認しておきたいこと

  • 上場審査の実務(Ⅰの部・Ⅱの部の記載)とIFRSの両方に対応できるか
  • 主幹事証券・監査法人との協議の場に同席してもらえるか
  • 上場後の四半期開示・有価証券報告書の作成まで見据えた設計になっているか
  • 導入後、社内で運用を回せる状態まで引き継いでもらえるか

🧾 よくある質問

Q. 自社の監査を担当している監査法人に、IFRS導入支援もあわせて依頼できますか。

A. 公認会計士法第24条の2および第34条の11の2は、大会社等から同法施行規則第5条各号に掲げる業務により継続的な報酬を受けている場合には、当該会社の財務書類について監査証明業務を行ってはならないと定めています。同条第1号は「会計帳簿の記帳の代行その他の財務書類の調製に関する業務」、第6号は「監査又は証明をしようとする財務書類を自らが作成していると認められる業務又は被監査会社等の経営判断に関与すると認められる業務」を掲げており、IFRSの数値作成や注記の作成を監査人に依頼することは想定されていません。一方で、会社が作成した会計方針の案について監査人と協議し、指摘を受けることは通常の監査プロセスの一部です。個別の業務が制限に当たるかは契約内容と関与の程度により判断が分かれますので、依頼前に監査人にご確認ください。

Q. IFRS導入支援の費用の相場を教えてください。

A. 公的機関が「相場」を示した資料は確認できていません。参考になるのは、金融庁「IFRS適用レポート」(2015年4月15日公表)の調査で、移行の総コストについて48社が回答し、うち13社が5,000万円未満と回答している点です。同レポートでは、企業規模(売上高)が大きいほどコスト・期間とも増加する傾向も報告されています。これは2015年時点の調査であり、また支援費用のみを取り出した数値ではありませんので、目安としてご覧ください。実際の見積りは、連結子会社数・海外子会社の有無・システム対応の要否・依頼する工程の範囲で大きく変わります。

Q. 外部に依頼すると、社内にノウハウが残らないのではありませんか。

A. 連結財務諸表規則第1条の2第1号ロは「指定国際会計基準に関する十分な知識を有する役員又は使用人を置いており、指定国際会計基準に基づいて連結財務諸表を適正に作成することができる体制を整備していること」を任意適用の要件としています。外部支援を使うこと自体は禁じられていませんが、社内に知識を持つ人材を置き、適正に作成できる体制を整えることが求められています。したがって、契約に「論点ごとの根拠メモの納品」「経理担当者への研修」「運用手順書の作成」を含め、2年目以降に自社で回せる状態を目標に設定することをおすすめします。

Q. どの工程から外部に依頼するのが効率的ですか。

A. 社内にIFRSの実務経験者がいない場合は、最初のGAAP差異分析から依頼する方が結果的に手戻りが少なくなります。差異分析の精度が低いと、後工程の会計方針・数値作成・注記のすべてがやり直しになるためです。逆に、経験者がいて論点の見当がついている場合は、判断が分かれやすい論点(収益認識・リース・のれん・減損・従業員給付など)に絞ってセカンドオピニオンを求める形が効率的です。

📄 まとめ|連載全30回のおわりに

IFRS導入支援の選び方について、本記事で整理した要点は次のとおりです。

  • 自社の監査人には、公認会計士法および同法施行規則第5条により、財務書類の調製に当たる業務を依頼できない。数値作成と注記のドラフトは監査人以外が担う
  • 会計方針を決めるのは会社であり、監査人でも支援者でもない。監査基準も経営者に財務諸表の作成責任があることを前提としている
  • 支援者は「体制の規模」と「1社あたりの関与の密度」で類型が分かれる。プロジェクトの規模と必要な関与の深さで選ぶ
  • 依頼範囲は「社内のIFRS実務経験」×「時間的余裕」の2軸で切り分けると決めやすい
  • 見積りは総額ではなく、スコープ・対象範囲・成果物・体制・稼働の前提・独立性の6項目で比較する
  • 連結財務諸表規則第1条の2第1号ロが体制整備を求めている以上、最終的には自社で運用できる状態を目標に置く

本記事をもって、IFRS導入の全30回の連載は完結です。制度の全体像は第1回(IFRSとは?日本基準との違いと導入の全体像)、プロジェクトの進め方は第8回(IFRS導入プロジェクトの進め方)にまとめています。基準別の論点や開示の実務を含む全30回の一覧は、IFRS導入 完全ガイドからご覧いただけます。導入の検討段階から実際の数値作成・開示まで、必要な回を辞書のようにお使いください。

🗒️ 参考(公的な一次情報)

本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の会計処理の判断は、監査人・専門家にご確認ください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

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