「日本基準で計上してきた修繕引当金や事業構造改善引当金は、IFRSではどうなるのでしょうか」——IFRS導入の差異分析を進めると、引当金は必ず論点として浮上します。
引当金は、日本基準では企業会計原則注解【注18】という短い規定だけが拠り所であるのに対し、IFRSではIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」という独立した基準が細かく定めています。この「規定の密度の差」が、そのまま実務の差になって表れます。
本記事では、IAS第37号の認識3要件、日本基準の4要件との違い、訴訟引当金・偶発負債の開示、割引計算の実務までを、一次情報にあたりながら整理します。
この記事でわかること
- IAS第37号の引当金の認識3要件と、「可能性が高い」の意味(50%超)
- 日本基準(注解18)の4要件との違いと、差異が出やすい引当金項目
- 訴訟引当金・偶発負債・偶発資産の判定と注記の考え方
- 引当金の割引計算(税引前・負債固有のリスク)と資産除去債務との関係
- 不利な契約・リストラクチャリング引当金で押さえるべき要件
- IFRS導入プロジェクトで、誰が・いつまでに・何を作るか
📄 IFRSの引当金(IAS第37号)とは?対象範囲と全体像
引当金は「時期又は金額が不確実な負債」
IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」(IAS 37 Provisions, Contingent Liabilities and Contingent Assets)は、引当金を「時期又は金額が不確実な負債」と定義しています。ここで重要なのは、引当金があくまで負債の一類型として位置づけられている点です。負債である以上、出発点は「現在の債務が存在するか」になります。
日本の実務では、引当金を「将来の費用・損失を当期に見越して計上するもの」と、費用配分の観点から捉える発想が根強く残っています。IFRSではこの発想が通用しない場面があり、そこが差異の主な発生源になります。
IAS第37号が扱わない領域に注意
IAS第37号は「引当金全般の基準」ですが、他の基準が個別に定めている領域は対象外です。実務では、まず適用すべき基準を仕分けるところから始めます。
| 項目 | 適用する基準 | 実務上の留意点 |
|---|---|---|
| 賞与・役員賞与・退職給付・割増退職金 | IAS第19号「従業員給付」 | IAS第37号ではなくIAS第19号で判断します。未消化有給休暇の負債計上も同基準の論点です。 |
| リースに係る債務 | IFRS第16号「リース」 | 原状回復義務そのものはIAS第37号の範囲で、使用権資産の取得原価に含めます。 |
| 法人所得税 | IAS第12号「法人所得税」 | 不確実な税務ポジションはIFRIC第23号で扱います。 |
| 顧客との契約から生じる負債 | IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 | ポイント制度や返品権は収益の測定の問題として処理します。 |
| 金融保証契約・貸倒引当金 | IFRS第9号「金融商品」 | 予想信用損失モデルで測定します。 |
※上記は代表的な仕分けを整理したものです。実際の適用範囲は、IAS第37号および関連基準の原文で必ずご確認ください。
図1:IAS第37号における引当金・偶発負債・開示不要の判定フロー
⚖️ 引当金の認識3要件|「可能性が高い」は50%超
第14項が定める3つの要件
IAS第37号第14項は、引当金を認識するのは次の3つがすべて満たされる場合であり、満たされない場合には引当金を認識してはならない、と定めています。
| 認識要件 | 基準の定め | 実務でのチェックポイント |
|---|---|---|
| ①現在の債務 | 過去の事象の結果として、法的債務または推定的債務としての現在の債務を有していること(第14項(a)) | 債務の相手方は誰か、その支出を回避する手段が本当にないかを確認します。 |
| ②流出の可能性 | 債務の決済のために経済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高いこと(第14項(b)) | 第23項が「50%超」と明示しています。社内の感覚的な「高い」と一致しているか要確認です。 |
| ③信頼性ある見積り | 債務の金額について信頼性のある見積りができること(第14項(c)) | 第25項は、信頼性のある見積りができないケースは極めてまれとしています。「見積れないから計上しない」は通りにくい論理です。 |
「法的債務」だけでなく「推定的債務」も対象
IAS第37号は、現在の債務に推定的債務(constructive obligation)を含めています。推定的債務とは、企業の過去の実務慣行、公表した方針、十分に具体的な現在の言明によって、企業が一定の責任を引き受けることを他者に表明し、その結果、その責任を果たすであろうという妥当な期待を他者に惹起させている場合に生じる債務です。
たとえば、法令上の回収義務がない自主的なリコールであっても、回収する旨を影響を受ける人々に十分かつ詳細な方法で伝達していれば、推定的債務を負っていると判断される余地があります。日本基準では「法律上の債務でないと引当金にできないのではないか」と議論になりがちな論点が、IFRSでは正面から要件化されている点は押さえておきたいところです。
現在の債務があるかどうかが不明確な場合
訴訟のように、現在の債務が存在するかどうか自体が争われる場合があります。第15項は、専門家の意見を含むすべての利用可能な証拠を考慮したうえで、報告期間の末日において現在の債務が存在する可能性の方が存在しない可能性より高い(more likely than not)と判断されるときは、過去の事象が現在の債務を生じさせたものとみなす、と定めています。ここでも判断の分岐点は50%です。
🧾 日本基準(注解18)の4要件との違い
日本には引当金の包括的な会計基準がない
日本基準における引当金の一般的な計上基準は、企業会計原則注解【注18】です。「将来の特定の費用又は損失であつて、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ」ると定めており、あわせて「発生の可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については、引当金を計上することはできない」としています。
この一文から、実務では①将来の特定の費用又は損失であること、②発生が当期以前の事象に起因すること、③発生の可能性が高いこと、④金額を合理的に見積ることができること、という4要件が読み取られています。
日本公認会計士協会の会計制度委員会研究資料第3号「我が国の引当金に関する研究資料」(平成25年6月24日)も、日本では注解18に計上基準が示されているものの、引当金に関する包括的な会計基準は設定されていない旨を指摘しています。企業会計基準委員会(ASBJ)が2026年7月7日に公表した「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」を確認しても、引当金に関する包括的な会計基準の開発は、開発中・開発予定の項目として掲げられていません。つまり、この状況は当面続く見込みです。
図2:日本基準(注解18)の4要件とIAS第37号の3要件の対応関係
差異が出やすい引当金項目
実務で差異が生じやすい代表例を整理します。ここは差異分析(GAAP差異分析)で必ず論点になる部分です。
| 引当金の種類 | 日本基準での一般的な実務 | IAS第37号での考え方 |
|---|---|---|
| 修繕引当金・特別修繕引当金 | 将来の定期修繕に備えて、過去の経験等に基づき計上する実務が石油・鉄鋼・海運等で見られます。 | 操業停止や対象設備の廃棄をすれば修繕は不要になるため、現在の債務を負っていないとされ、引当金は認識されないのが一般的です。IAS第16号の定期的な大規模検査の資産計上・償却で対応します。 |
| 将来の営業損失 | 撤退の意思決定後に見込まれる営業損失を、リストラクチャリング関連の引当金に含める例が見られます。 | 第63項が「将来の営業損失に対して引当金を認識してはならない」と明確に禁じています。 |
| 訴訟損失引当金 | 敗訴の可能性が高まり、支払総額を合理的に見積れる場合に計上します。 | 考え方は近いものの、現在の債務の存否を全証拠に基づき判断し、要件を満たさない場合は偶発負債として注記します。 |
| 事業構造改善引当金等 | リストラクチャリング目的で、減損損失や未払退職金等を一括して引当計上する例が見られます。 | 第72項の要件(詳細な公式計画+影響を受ける人々への公表等)を満たして初めて推定的債務が生じます。内容ごとに他基準を適用します。 |
| 資産除去債務 | 企業会計基準第18号により、無リスクの税引前割引率で算定し、当初の割引率に固定します。 | 第47項により、貨幣の時間価値と負債固有のリスクを反映した税引前割引率を用います。日本基準のような固定の定めはありません。 |
※上記は一般的な傾向の整理です。個別の事実関係により結論は変わりますので、必ず監査人と協議のうえご判断ください。
🏢 訴訟引当金と偶発負債・偶発資産の開示
発生可能性で3つのゾーンに分かれる
IAS第37号は、資源の流出の可能性に応じて処理を3段階に分けています。この整理を社内で共有できているかどうかで、決算時の議論の効率が大きく変わります。
図3:資源の流出の可能性による3ゾーンと、偶発資産の非対称な取扱い
訴訟引当金はどの段階で計上するか
訴訟については、第15項に従い、専門家の意見を含むすべての利用可能な証拠を考慮して、報告期間の末日に現在の債務が存在するかどうかを判断します。日本の実務でも、いずれかの審級で敗訴した場合には損失の発生可能性が高まっていると考え、期末日において引当金を認識することが多いとされていますが、IFRSでは「敗訴したか」という形式ではなく、証拠に基づく確率評価が判断軸になります。
実務上のポイントは、顧問弁護士からの意見書(レター)を、決算スケジュールの中に組み込んでおくことです。IFRS導入初年度に慌てないよう、遅くとも詳細差異分析のフェーズで、法務部門と入手手順を合意しておくことをおすすめします。
日本の開示規定との違い
日本では、財務諸表等規則第58条が、偶発債務(債務の保証、係争事件に係る賠償義務その他現実に発生していない債務で、将来において事業の負担となる可能性のあるもの)がある場合に、その内容及び金額の注記を求めています。一方、IAS第37号第86項は、流出の可能性がほとんどない場合を除き、偶発負債の種類ごとに、内容の簡潔な説明に加えて、実務上可能な場合には財務的影響の見積り、金額・時期の不確実性、補填の可能性まで開示することを求めます。注記のボリュームと粒度が増えるのがIFRSの特徴です。
ポイント:引当金の注記(第84項・第85項)
IFRSでは、引当金の種類ごとに期首・期末残高の調整表(増減内容)に加え、債務の内容・支出時期の不確実性・割引の影響などの記載が求められます。日本基準では資産除去債務など個別の基準が注記を求めているのに対し、IFRSはすべての引当金について同水準の注記を要求する点が大きな違いです。注記パッケージの設計段階で、引当金の増減明細を作れる仕組みを用意しておく必要があります。
修繕引当金の取扱い、訴訟の推定的債務の判断、注記パッケージの設計まで、公認会計士が一次情報にあたりながら伴走支援します。
日本基準では資産除去債務など個別の基準が注記を求めるのに対し、IFRSはすべての引当金について同水準の注記を要求します。
💰 引当金の割引計算と資産除去債務
貨幣の時間価値が重要なら割引く(第45項・第47項)
IAS第37号第45項は、貨幣の時間価値の影響が重要な場合、引当金の金額は債務の決済に必要と見込まれる支出の現在価値としなければならない、と定めています。第47項は、用いる割引率について「貨幣の時間価値と当該負債固有のリスクに関する現在の市場の評価を反映した税引前の利率」とし、将来キャッシュ・フローの見積りで既に調整済みのリスクを割引率で二重に反映してはならない、としています。
日本基準では、資産除去債務のように個別の基準が割引計算を定めている場合を除き、引当金を割り引く実務は一般的ではありません。IFRSでは支出時期が数年先に及ぶ引当金について、割引計算と、その後の時の経過に応じた利息費用(アンワインディング)の計上が必要になります。
数値例:3年後に100百万円の原状回復支出が見込まれる場合
見積支出100百万円、支出時期は3年後、税引前割引率2.0%と仮定した場合の推移は次のとおりです(数値はすべて仮定値です)。
図4:割引計算と時の経過による利息費用(見積支出100・3年後・税引前2.0%と仮定)
3年間の利息費用は1.88/1.92/1.96(合計5.77)となり、当初認識額94.23と合計して支出額100.00に一致します。上記の図では小数第1位に丸めて表示しています。
資産除去債務との関係
原状回復義務などの資産除去債務は、IFRSではIAS第37号の引当金として認識し、対応する除去費用をIAS第16号に従って関連資産の取得原価に含めます。日本基準では企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」が個別に定めており、次の点で発想が異なります。
| 論点 | 日本基準(企業会計基準第18号) | IFRS(IAS第37号ほか) |
|---|---|---|
| 割引率の性質 | 貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率(第6項(2)) | 貨幣の時間価値と負債固有のリスクに関する現在の市場の評価を反映した税引前の利率(第47項) |
| 割引率の見直し | 負債計上時の割引率に固定。キャッシュ・フローが増加する場合のみ、その時点の割引率を適用(第11項) | 各報告期間末に現在の最善の見積りを反映するよう見直します(第59項)。除去債務等については、IFRIC第1号が見積りの変更の処理を定めています。 |
| 利息費用の区分 | 関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分(第14項) | 時の経過による帳簿価額の増加は借入コストとして認識します(第60項)。 |
| 対象範囲 | 法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの(第3項(1)) | 推定的債務も含む現在の債務(第14項(a)) |
敷金の簡便法や利息費用の表示区分など、資産除去債務に固有の論点は別記事で詳しく扱っています。あわせて資産除去債務とIFRS|割引率・利息費用の区分と敷金の簡便法の違いもご参照ください。
📊 不利な契約とリストラクチャリング引当金
不利な契約(第66項)
不利な契約とは、契約による債務を履行するための不可避的な費用が、その契約から受け取ると見込まれる経済的便益を超過している契約をいいます。第66項は、企業が不利な契約を有している場合、その契約による現在の債務を引当金として認識し測定しなければならない、と定めています。不可避的な費用は、契約を履行するための費用と、契約不履行により発生する補償金・違約金のいずれか低い方の額とされています。
2020年5月にIASBが公表した改正「不利な契約——契約履行のコスト」により、契約が不利かどうかを評価する目的では、契約履行のコストに、当該契約を履行するための増分コストに加えて、契約の履行に直接関連する他のコストの配分額も含まれることが明確化されました。転貸損失や受注損失の見積りに影響する論点で、この改正(第68A項)は2022年1月1日以後開始する年次報告期間から適用されています(第105項)。
リストラクチャリング引当金(第72項)
リストラクチャリングに係る推定的債務は、経営者が決定しただけでは発生しません。第72項は、次の2つがそろって初めて推定的債務が生じるとしています。
- (a) リストラクチャリングについて、対象事業、影響を受ける主要な拠点、補償を受ける従業員の勤務地・職能・概数、実施される支出、実施時期を少なくとも特定した詳細な公式計画を有していること
- (b) その計画の実施を開始するか、主要な特徴を影響を受ける人々に公表することにより、リストラクチャリングを実行するであろうという妥当な期待を惹起させていること
さらに第73項・第74項は、公表が妥当な期待を生じさせる程度に十分詳細であること、実施が可及的速やかに開始され、計画の重要な変更が起こりにくい期間で完了する予定であることを求めています。「取締役会で決議したので期末に引き当てる」という日本でありがちな運用は、要件を満たさない可能性があります。決議日・公表日・従業員への通知日をタイムラインで整理し、証跡を残しておくことが実務対応の要点です。
不利な契約(第66項)については、2020年5月の改正により、契約履行のコストに増分コストだけでなく直接関連する他のコストの配分額も含まれることが明確化されています(第68A項・2022年1月1日以後開始年次報告期間から適用)。
📅 IFRS導入時に引当金で行う実務ステップ
引当金は、勘定科目の数こそ多くありませんが、「現在の債務があるか」という判断を1項目ずつ積み上げる必要があるため、着手が遅れると監査人との協議が決算直前に集中します。誰が・いつまでに・何を作るかを、あらかじめ決めておきます。
| 時期 | 担当 | 作成する成果物 |
|---|---|---|
| 差異分析フェーズ(移行日の12〜18か月前) | 経理部(引当金分科会) | 引当金一覧表。科目ごとに計上根拠・計算方法・金額・注解18のどの要件で計上しているかを棚卸しします。 |
| 差異分析フェーズ(同 10〜15か月前) | 経理部+外部専門家 | IAS第37号の3要件への当てはめメモ。特に修繕引当金・将来の営業損失・リストラ関連は結論と根拠を文書化します。 |
| 会計方針決定フェーズ(同 8〜12か月前) | 経理部長・CFO | 引当金に関する会計方針書。割引の要否の重要性基準、割引率の決定方法、推定的債務の判定手順を定めます。 |
| 会計方針決定フェーズ(同 6〜10か月前) | 法務部門・経理部 | 訴訟・偶発事象の一覧と、弁護士意見書の入手手順。四半期ごとの更新ルールを決めます。 |
| 数値作成フェーズ(移行日以降) | 経理部 | 組替仕訳と引当金の増減明細(期首・繰入・取崩・戻入・割引の影響・期末)。注記の元データになります。 |
| 開示フェーズ(初度適用の決算期) | 経理部+外部専門家 | 引当金・偶発負債の注記ドラフトと、開示チェックリストとの突合結果。 |
差異分析でまず確認したいチェックリスト
- 計上している引当金ごとに、債務の相手方を特定できるか
- その支出を回避する実際的な手段がないと言えるか(修繕引当金は特に要注意)
- 「発生の可能性が高い」の社内判断が、50%超という基準と整合しているか
- 支出時期が数年先に及ぶ引当金について、割引の要否を検討したか
- 計上していない偶発事象について、注記の要否(remoteかどうか)を評価したか
- 訴訟・独占禁止法違反等について、弁護士等の外部専門家の意見を入手する手順があるか
- 引当金の増減明細を科目ごとに作成できるデータ基盤があるか
引当金の論点は、GAAP差異分析のやり方|日本基準とIFRSの主要差異一覧で作成する差異分析表の中でも、判断を要する項目として上位に来ます。プロジェクト全体の進め方はIFRS導入プロジェクトの進め方|3フェーズの手順と成果物をご確認ください。
⏰ IAS第37号の改正動向|Provisions—Targeted Improvements
IASBは2024年11月12日に公開草案「Provisions—Targeted Improvements(引当金——的を絞った改善)」を公表しました。IAS第37号に対する3つの改善を提案するもので、コメント期限は2025年3月12日でした。IFRS財団のプロジェクトページによれば、IASBは2026年6月22日の会議でプロジェクトを完了させる計画を議論しており(決定事項はなし)、次のマイルストーンは「最終改正」とされています。
提案の主な内容は、①現在の債務の認識要件を支える要求事項の明確化(2018年に概念フレームワークへ追加された考え方の反映)、②引当金の測定に含める費用の範囲、③割引率の取扱いです。あわせて、賦課金に関するIFRIC第21号を廃止する提案も含まれています。
あわせて、賦課金に関するIFRIC第21号を廃止する提案も含まれています。
※本記事の執筆時点(2026年8月)で最終改正は公表されていません。適用時期や最終的な内容は、IFRS財団の公表資料で最新の状況をご確認ください。
IFRS財団のプロジェクトページによる。適用時期や最終的な内容は最新の公表資料でご確認ください。
🗒️ よくあるご質問
操業を停止したり対象設備を廃棄したりすれば修繕は不要になるため、報告期間末に現在の債務を負っていないと判断されることが多く、引当金は取り崩されるのが一般的です。ただし、法令上の検査義務と設備の使用状況によっては判断が分かれます。あわせて、定期的な大規模検査の費用をIAS第16号第14項に従って資産計上し、次回検査までの期間で償却する処理を検討することになります。移行日の資本への影響が大きくなりやすい論点ですので、早めに監査人と協議されることをおすすめします。
IAS第37号第92項は、第84項から第89項が求める情報の一部または全部の開示が、その引当金・偶発負債・偶発資産の対象事項に関する他者との紛争において企業の立場を著しく害すると予想される極めてまれな場合には、当該情報を開示しないことができるとしています。ただしこの場合でも、紛争の一般的な性質と、当該情報を開示していない事実およびその理由の開示が求められます。安易な非開示は認められませんので、必ず原文と監査人の判断を確認してください。
第59項は、引当金を各報告期間末に見直し、現在の最善の見積りを反映するよう修正することを求めています。債務の決済のための資源の流出の可能性が高くなくなった場合には、引当金を戻し入れます。日本基準では過年度の引当金の過不足修正額が特別損益として扱われてきた経緯がありますが、IFRSでは当初計上したのと同じ区分で処理するのが一般的です。表示区分の考え方は、IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(2027年1月1日以後開始する年次報告期間から適用、早期適用可)の枠組みもあわせて整理してください。
🌍 まとめ
IAS第37号の引当金は、「将来の費用を当期に見越す」という日本の発想から、「報告期間末に現在の債務があるか」という発想への転換を求めます。この転換を理解すれば、修繕引当金が計上できない理由も、リストラクチャリング引当金に詳細な公式計画が必要な理由も、一本の筋で説明できます。
実務では、①引当金の棚卸し、②3要件への当てはめの文書化、③割引の要否と割引率の決定、④偶発負債・偶発資産の注記体制、⑤引当金の増減明細を作れるデータ基盤、という5点を押さえておけば、監査人との協議は格段にスムーズになります。判断を要する論点が多いだけに、早い段階で結論と根拠を書き残しておくことが、初度適用の負担を大きく減らします。
連載の他の回もあわせてご覧ください。前回はIAS19従業員給付|IFRS退職給付の違いと有給休暇の引当金、IFRS全体像はIFRSとは?日本基準との違いと導入の全体像、固定資産の論点は有形固定資産のIFRS論点|耐用年数・残存価額とコンポーネント会計で解説しています。連載全30回の目次はIFRS導入 完全ガイドからご覧いただけます。
監修者
公認会計士・税理士 鈴木佑也/鈴木佑也公認会計士税理士事務所(東京都台東区)。IPO準備企業・上場企業のIFRS導入支援(論点検討・GAAP差異分析・数値作成・注記開示支援・コンバージョン支援)を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の会計処理の判断は、監査人・専門家にご確認ください。
参考(公的一次情報)
・IFRS財団「IAS 37 Provisions, Contingent Liabilities and Contingent Assets」および「Provisions—Targeted Improvements」プロジェクトページ(ifrs.org)
・企業会計審議会「企業会計原則注解【注18】」(ASBJ 会計基準検索システム ASSET-ASBJ)
・企業会計基準委員会 企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」(2024年9月13日改正)
・企業会計基準委員会「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」(2026年7月7日)
・日本公認会計士協会 会計制度委員会研究資料第3号「我が国の引当金に関する研究資料」(平成25年6月24日)
・財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 第58条
・日本取引所グループ「IFRS適用済・適用決定会社一覧」(2026年7月末現在:適用済297社・適用決定22社・合計319社)
引当金・偶発負債の判断は、結論よりも「根拠の書き残し方」で監査対応の負担が変わります。IPOに伴うIFRS導入も含め、公認会計士がご支援します。お問い合わせフォームからご相談ください。