資産除去債務に関する注記の記載例|3つの記載事項と上場会社の開示事例

資産除去債務に関する注記は、事務所を借りている会社ならほぼ必ず出てきます。賃貸借契約の原状回復義務が資産除去債務にあたるからです。

上場準備の過程で新たに計上を求められることが多い論点でもあります。それまで計上していなかった会社が、監査を受けて初めて認識するケースがよくあります。

この記事では、財規8条の28が求める事項を確かめたうえで、記載例と、上場会社の実際の開示事例を示します。

この記事でわかること

  • 財規8条の28が求める記載事項
  • 貸借対照表に計上していない場合も注記が要ること
  • 資産除去債務が生じる典型例
  • 概要、算定方法、総額の増減の書き方
  • 上場会社の実際の開示事例と、その読み方
記載事項がそろっているか資産除去債務に関する注記を作る債務の概要を書いているか記載事項の1つ目を満たすはいいいえ割引率と見込期間など算定の方法を書いているか記載事項の2つ目を満たすはいいいえ期中の増減の内訳を書いているか記載事項の3つ目を満たすはいいいえ見積りの変更があれば内容を追加する

図 資産除去債務の注記の記載事項

📌 結論 概要、算定方法、総額の増減

図1 財規8条の28が求める事項(貸借対照表に計上しているもの)記載事項第1号イ当該資産除去債務の概要第1号ロ当該資産除去債務の金額の算定方法第1号ハ当該事業年度における当該資産除去債務の総額の増減第1号ニ当該資産除去債務の金額の見積りを変更したときは、その旨、変更の内容及び影響額

イからハまでは毎期書きます。ニは見積りを変更した期だけです。

財務諸表等規則8条の28第1項は、資産除去債務については、次の各号に掲げる資産除去債務の区分に応じ、当該各号に定める事項を注記しなければならない、としています。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができます。

第1号は、資産除去債務のうち貸借対照表に計上しているものについてです。イが当該資産除去債務の概要、ロが当該資産除去債務の金額の算定方法、ハが当該事業年度における当該資産除去債務の総額の増減です。

ニは、当該資産除去債務の金額の見積りを変更したときに、その旨、変更の内容及び影響額を書くというものです。変更した期だけ書きます。

第2項により、前項各号に定める事項は、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、記載することを要しません。連結の注記に書きます。

🧭 計上していない場合も書く

図2 貸借対照表に計上していないものの記載事項記載事項第2号イ当該資産除去債務の金額を貸借対照表に計上していない旨第2号ロ当該資産除去債務の金額を貸借対照表に計上していない理由第2号ハ当該資産除去債務の概要

計上していないなら、計上していない旨と理由を書きます。計上しないから何も書かない、ではありません。

第2号は、第1号以外の資産除去債務、つまり貸借対照表に計上していないものについてです。

イが当該資産除去債務の金額を貸借対照表に計上していない旨、ロがその理由、ハが当該資産除去債務の概要です。

計上していないから何も書かない、ではありません。義務はあるが合理的に見積ることができないので計上していない、という説明が求められます。

合理的に見積ることができない理由としては、退去時期が明確でない、契約に原状回復義務の範囲が具体的に定められていない、といったものが実務で見られます。ただし、この整理は監査法人と詰めてください。安易に見積れないとするのは通りません。

📄 どんなときに生じるか

図3 資産除去債務が生じる典型例場面義務の内容事務所の賃借賃貸借契約にもとづく原状回復義務(内装の撤去、原状への復旧)工場や倉庫の賃借建物の原状回復義務、設備の撤去義務定期借地上の建物借地期間終了時の建物の取壊し義務有害物質を含む建物法令にもとづくアスベスト等の除去義務鉱山や採石場法令にもとづく土地の原状回復義務

上場準備会社で最も多いのは、オフィスの賃貸借契約にもとづく原状回復義務です。

上場準備会社で最も多いのは、オフィスの賃貸借契約にもとづく原状回復義務です。契約書に原状に復して返還する旨の条項があれば、資産除去債務が生じます。

敷金を差し入れている場合、敷金の回収が最終的に見込めない額を合理的に見積り、その額を費用配分する方法によることも認められています。オフィス賃借の実務ではこちらを選ぶ会社も多く見られます。

いずれの方法によるかで注記の書き方も変わりますので、方針を先に決めてください。

📊 記載例

設例1 事務所の原状回復義務を計上している場合

(資産除去債務関係)

資産除去債務のうち貸借対照表に計上しているもの

(1)当該資産除去債務の概要

当社は、本社事務所および営業所の不動産賃借契約に基づく原状回復義務を負っており、当該契約における賃借期間終了時の原状回復に関し資産除去債務を計上しております。

(2)当該資産除去債務の金額の算定方法

使用見込期間を取得から15年と見積り、割引率は0.5パーセントを使用して資産除去債務の金額を計算しております。

(3)当該資産除去債務の総額の増減

資産除去債務の総額の増減(単位:百万円)
項目 金額
期首残高 24
有形固定資産の取得に伴う増加額 3
時の経過による調整額 0
資産除去債務の履行による減少額 △1
期末残高 26

会社名と数値は架空です。概要では義務の発生原因(契約の種類)を、算定方法では使用見込期間と割引率を必ず示します。

算定方法では、使用見込期間と割引率の2つを書きます。この2つがないと、読み手は金額の妥当性を判断できません。

総額の増減は、期首残高から期末残高までを項目に分けて示します。有形固定資産の取得に伴う増加額、時の経過による調整額、履行による減少額の3つが基本の内訳です。

資産除去債務の初度計上からお手伝いします

上場準備の過程で新たに計上を求められることが多い論点です。契約書の洗い出し、見積額と使用見込期間と割引率の決定、遡及処理の要否、注記の文案、監査法人への説明資料まで通してお受けします。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。

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🏷 見積りを変更したとき

設例2 割引前将来キャッシュ・フローの見積りを変更した場合

(資産除去債務関係)

(4)当該資産除去債務の金額の見積りの変更

当社は、当事業年度において、本社事務所の原状回復に要する単価の上昇を踏まえ、割引前将来キャッシュ・フローの見積りを変更しております。

当該見積りの変更による増加額8百万円を、変更前の資産除去債務残高に加算しております。なお、割引率は変更時点の◯パーセントを使用しております。

この変更により、当事業年度の営業利益、経常利益及び税引前当期純利益はそれぞれ1百万円減少しております。

会社名と数値は架空です。見積りの変更では、変更の理由、増減額、適用した割引率、損益への影響額を書きます。

見積りを増額したときは変更時点の割引率を使い、減額したときは負債計上時の割引率を使うのが原則です。どちらの割引率を使ったかを書いてください。

🔀 計上していない場合の記載例

設例3 合理的に見積ることができない場合

(資産除去債務関係)

資産除去債務のうち貸借対照表に計上しているもの以外の資産除去債務

当社は、賃借している一部の営業所について、不動産賃借契約に基づく原状回復義務を負っております。

しかしながら、当該営業所については移転等の予定がなく、将来退去する時期を合理的に見積ることが困難であることから、資産除去債務を合理的に見積ることができません。

そのため、当該債務に見合う資産除去債務を貸借対照表に計上しておりません。

会社名は架空です。第2号イ(計上していない旨)、ロ(理由)、ハ(概要)の3つが入っています。

この整理を採るなら、なぜ退去時期を見積れないのかを説明できるようにしてください。定期借家契約なら期間が決まっているので、この理由は使えません。

📁 実際の開示事例

用途ごとに使用見込期間と割引率を分けている例です。

実際の開示事例 住石ホールディングス株式会社(証券コード1514)

(資産除去債務関係)

資産除去債務のうち連結貸借対照表に計上しているもの

(1) 当該資産除去債務の概要

当社グループは、事務所及び貯炭設備等の一部について不動産賃借契約に基づく原状回復義務を負っており、当該契約における賃借期間終了時の原状回復に関し資産除去債務を計上しております。

(2) 当該資産除去債務の金額の算定方法

事務所附属設備等は、使用見込期間を10年と見積り、割引率は0.022パーセントを使用して資産除去債務の金額を計算しております。

貯炭設備等は、使用見込期間を30年と見積り、割引率は3.0パーセントを使用して資産除去債務の金額を計算しております。

(3) 当該資産除去債務の総額の増減

資産除去債務の総額の増減(単位:百万円)
項目 前連結会計年度 当連結会計年度
期首残高 36 37
有形固定資産の取得に伴う増加額 なし なし
時の経過による調整額 1 0
資産除去債務の履行による減少額 なし なし
その他増減額 なし なし
期末残高 37 37

出典:住石ホールディングス株式会社「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月25日提出)連結財務諸表 注記事項(連結)(資産除去債務関係)

▶ 読み方 算定方法を2つに分けているところが要点です。事務所附属設備は10年で0.022パーセント、貯炭設備は30年で3.0パーセント。使用見込期間が違えば、対応する国債の利回りも違います。ひとつの割引率にまとめず、資産の種類ごとに分けて書くのが正確な書き方です。総額の増減は、該当がない行も残して項目を並べています。

⚖️ 上場準備での論点

図4 計上額を決めるまでの手順賃貸借契約や法令から、原状回復義務があるかを確かめる義務を履行するのに必要な支出額を見積る(坪単価の見積りなど)使用見込期間を見積る(賃借期間、耐用年数など)使用見込期間に対応する国債の利回りを割引率として使う割引後の金額を負債に計上し、同額を有形固定資産に加える

見積額と使用見込期間と割引率の3つが決まれば計算できます。根拠資料を必ず残してください。

上場準備で問題になるのは、それまで資産除去債務を計上していなかった会社が、監査を受けて初めて計上するケースです。

過去に遡って計上することになりますから、比較年度の数値が変わります。Ⅰの部に載せる財務諸表は2期分ですので、影響が及ぶ範囲を早めに確かめてください。

資料としては、賃貸借契約書の原状回復条項、原状回復費用の見積書または坪単価の根拠、使用見込期間の判断根拠、割引率に使った国債利回りの出典。この4つを揃えてください。

敷金の費用配分による方法を採る場合も、敷金のうち回収が見込めない額の見積根拠が必要です。方法が違うだけで、根拠が要る点は同じです。

❓ よくある質問

Q. 資産除去債務の注記には何を書きますか。

A. 概要、金額の算定方法、総額の増減の3つです。見積りを変更した期はその旨と内容と影響額も書きます。財規8条の28第1項第1号です。

Q. 計上していないときは書かなくてよいですか。

A. 書きます。計上していない旨、その理由、債務の概要の3つです。第1項第2号です。

Q. 算定方法には何を書きますか。

A. 使用見込期間と割引率です。資産の種類ごとに異なるなら、分けて書きます。

Q. 割引率は何を使いますか。

A. 使用見込期間に対応する国債の利回りを使うのが原則です。出典を残してください。

Q. 敷金の費用配分による方法とは。

A. 敷金のうち回収が見込めない額を合理的に見積り、費用配分する方法です。オフィス賃借の実務で用いられます。

Q. 連結と個別の両方に書きますか。

A. 連結財務諸表を作成している場合、個別では書きません。第2項です。

Q. 重要性が乏しいときは。

A. 第1項但し書きにより省略できます。判断根拠は残してください。

Q. 上場準備で初めて計上するときの注意点は。

A. 過去に遡って計上するため、比較年度の数値が変わります。Ⅰの部に載せる期の範囲を早めに確かめてください。

📄 まとめ

資産除去債務で書くのは、概要、算定方法、総額の増減の3つです。見積りを変更した期は4つ目も書きます。

算定方法では、使用見込期間と割引率を必ず示してください。資産の種類ごとに違うなら分けて書きます。

計上していない場合も注記します。計上していない旨と理由と概要の3つです。

上場準備で初めて計上する会社は、契約書、見積書、使用見込期間の根拠、割引率の出典の4つを揃えるところから始めてください。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事に掲載した実際の開示事例は、各社が金融商品取引法にもとづき公衆縦覧に供している有価証券報告書からの引用です。設例として示した文例は、条文の記載事項を確認するために当事務所が作成したもので、会社名と数値は架空です。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の注記の作成にあたっては、監査法人にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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