金融商品の注記の記載例|時価のレベル1から3と上場会社の開示事例

金融商品の注記は、上場準備会社がはじめて作るときにもっとも時間がかかる注記のひとつです。文章と表が入り混じり、しかも時価の算定という会計以外の作業がはさまるためです。

条文は財務諸表等規則8条の6の2です。第1項で3つの事項を求めています。金融商品の状況、金融商品の時価、そして時価のレベルごとの内訳です。

この記事では、その3つを条文で確かめたうえで、記載例と、上場会社の実際の開示事例を示します。

この記事でわかること

  • 金融商品の注記が3階建てになっている理由
  • 時価のレベル1からレベル3の分け方
  • 非上場株式の時価を書かなくてよい根拠と、代わりに書くこと
  • レベル3がある場合に追加で求められる5つの事項
  • 上場会社の実際の開示事例と、その読み方

📌 結論 状況、時価、レベル別内訳の3階建て

図1 金融商品の注記は3階建て(財規8条の6の2第1項)記載事項第1号金融商品の状況に関する事項(イ 取組方針、ロ 内容及びリスク、ハ リスク管理体制)第2号金融商品の時価に関する事項(イ 科目ごとの貸借対照表計上額、ロ 科目ごとの時価、ハ その差額、ニ これらに関する説明)第3号時価をレベル1からレベル3に分類した内訳と、その説明

第1号が文章、第2号が金額の表、第3号がレベル別の表です。柱書きに、重要性の乏しいものは省略できるという但し書きがあります。

財務諸表等規則8条の6の2第1項は、金融商品については、次に掲げる事項を注記しなければならない、としています。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる、という但し書きが付いています。

第1号は文章で書く部分です。金融商品に対する取組方針、金融商品の内容及び当該金融商品に係るリスク、金融商品に係るリスク管理体制の3つです。会社の資金調達と運用の考え方、どんなリスクを負っているか、それをどう管理しているかを述べます。

第2号は金額の表です。貸借対照表日における科目ごとの貸借対照表計上額、科目ごとの時価、その差額、そしてこれらに関する説明を書きます。なお括弧書きでリース負債は除かれています。

第3号がレベル別の内訳です。時価を、当該時価の算定に重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて分類し、その内訳を示します。時価で貸借対照表に計上しているものと、そうでないものを分けて表を作ります。

🧭 レベル1、レベル2、レベル3

図2 時価の3つのレベルレベル定義レベル1同一の資産又は負債の活発な市場における無調整の相場価格上場株式、公募投資信託レベル2レベル1のインプット以外の、直接又は間接的に観察可能なインプットを用いて算定した時価市場金利で割り引いた長期借入金レベル3重要な観察できないインプットを使用して算定した時価非上場会社の転換社債、新株予約権

複数のインプットを使う場合は、優先順位がもっとも低いレベルに分類します。ひとつでもレベル3のインプットが重要なら全体がレベル3です。

レベルは時価の算定に使ったインプットの観察可能性で決まります。市場でそのまま値段が見えるならレベル1、市場のデータを加工して出すならレベル2、市場では見えないデータを使うならレベル3です。

条文は第3号イとロで、時価で貸借対照表に計上している金融商品と、そうでない金融商品を分けています。前者は投資有価証券などで、後者は借入金などです。どちらも適切な項目に区分して、項目ごとにレベル1、レベル2、レベル3の時価の合計額を示します。

第3号ハは、レベル2またはレベル3に分類したものについて、時価の算定に用いた評価技法および時価の算定に係るインプットの説明と、評価技法またはその適用を変更した場合にはその旨および理由を求めています。

第3号ニは、レベル3に分類したものについて5つの追加事項を求めています。重要な観察できないインプットに関する定量的情報、期首残高から期末残高への調整表、評価の過程に関する説明、インプットの変化によって時価が著しく変動する場合のその影響に関する説明、インプット間に相関関係がある場合のその内容と影響に関する説明です。レベル3があると注記が一気に重くなります。

📄 記載例

設例1 金融商品の状況に関する事項

(金融商品関係)

1 金融商品の状況に関する事項

(1)金融商品に対する取組方針

当社は、事業計画に照らして必要な資金を、自己資金及び銀行借入により調達しております。一時的な余資は安全性の高い金融資産で運用し、投機的な取引は行わない方針であります。

(2)金融商品の内容及び当該金融商品に係るリスク

営業債権である売掛金は、顧客の信用リスクに晒されております。投資有価証券は、業務上の関係を有する企業の株式であり、市場価格の変動リスクに晒されております。借入金は運転資金及び設備投資資金の調達を目的としたもので、変動金利のものは金利変動リスクに晒されております。

(3)金融商品に係るリスク管理体制

① 信用リスクの管理 当社は、与信管理規程に従い、営業部門が主要な取引先の状況を定期的にモニタリングし、取引先ごとに期日及び残高を管理しております。

② 市場リスクの管理 投資有価証券については、定期的に時価及び発行体の財務状況を把握し、保有状況を継続的に見直しております。

③ 資金調達に係る流動性リスクの管理 経理部門が適時に資金繰計画を作成及び更新するとともに、手許流動性の維持により流動性リスクを管理しております。

会社名と数値は架空です。3つの見出しは条文のイ、ロ、ハに対応します。リスク管理体制は、実際に運用している規程の名前を挙げると説得力が出ます。

ここは会社ごとに中身が変わる部分です。他社の文章をそのまま持ってくると、実在しない規程の名前が残るなどの事故が起きます。自社の実態に合わせて書いてください。

金融商品の注記づくりと時価算定をお引き受けします

上場準備では、金融商品の洗い出し、時価の算定方法の決定、レベル分類の根拠づくり、そして監査法人への説明資料の作成が一度に必要になります。非上場株式や新株予約権のようにレベル3となるものがある会社は、算定の過程まで書面に残す必要があります。企業価値評価の実務経験のある公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。

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📊 書かなくてよいもの

図3 時価の注記を書かなくてよいもの対象書かないもの代わりに書くこと市場価格のない株式、出資金な第2号の時価に関する事項その旨、金融商品の概要、貸借対照表計上額持分相当額を純額で計上する組合等への出資第2号の時価に関する事項その旨、貸借対照表計上額の合計額基準価額を時価とみなす投資信託等第3号のレベル別内訳その旨、計上額の合計額、期首から期末への調整表、解約制限の内訳

非上場株式は時価を書きません。ただし黙って落とすのではなく、書かない旨と貸借対照表計上額を示します。

第2項は、市場価格のない株式、出資金その他これらに準ずる金融商品については、第1項第2号に掲げる事項の記載を要しない、としています。非上場株式のことです。ただし、この場合には、その旨並びに当該金融商品の概要及び貸借対照表計上額を注記しなければならない、と続きます。

第3項は、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合その他これに準ずる事業体への出資についても同じ扱いです。その旨と貸借対照表計上額の合計額を書きます。投資事業有限責任組合への出資がこれにあたります。

投資信託等については別の扱いがあります。基準価額を時価とみなす場合、第3号のレベル別内訳の記載は要りません。その代わりに、記載していない旨、貸借対照表計上額の合計額、期首残高から期末残高への調整表、解約または買戻請求に関する制限の内容ごとの内訳を書きます。

いずれも、書かなくてよいというより、書き方が変わると理解してください。黙って表から落とすと、貸借対照表との整合が取れなくなります。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。

初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら

🏷 レベル分類は算定方法から決まる

図4 金融商品の注記をつくる順番貸借対照表の金融商品を科目ごとに洗い出す時価を出すもの、出さないものを仕分ける時価の算定方法とインプットを決めるインプットの観察可能性でレベル1から3に分類する状況の文章、時価の表、レベル別の表の順に組む

レベルの分類は時価の算定方法から自動的に決まります。先に方法を固めてから分類してください。

実務でつまずくのは、レベルを先に決めようとするときです。レベルは時価の算定方法とインプットから自動的に決まりますから、順番が逆になります。まず何をどう評価するかを固め、そのとき使ったデータが市場で観察できるかどうかを見て分類します。

上場株式は市場の終値をそのまま使いますからレベル1です。長期借入金は、元利金の合計を新規に同様の借入を行った場合に想定される利率で割り引いて時価を出すのが一般的で、この利率が観察可能ならレベル2になります。

非上場会社が発行した転換社債型新株予約権付社債や新株予約権は、市場では値段が見えません。会社の事業計画や類似会社の指標を使って評価しますから、重要な観察できないインプットを使うことになり、レベル3です。

条文の第2項が定める市場価格のない株式は、そもそも時価の注記の対象外ですから、レベル分類の表にも載りません。似ているようで扱いが違います。

📁 実際の開示事例

レベル1とレベル3の両方があり、レベル3の中身が非上場会社に係る証券である例です。

実際の開示事例 シグマ光機株式会社(証券コード7713)

(金融商品関係)

3.金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項

金融商品の時価を、時価の算定に用いたインプットの観察可能性及び重要性に応じて、以下の3つのレベルに分類しております。

レベル1の時価:同一の資産又は負債の活発な市場における(無調整の)相場価格により算定した時価

レベル2の時価:レベル1のインプット以外の直接又は間接的に観察可能なインプットを用いて算定した時価

レベル3の時価:重要な観察できないインプットを使用して算定した時価

時価の算定に重要な影響を与えるインプットを複数使用している場合には、それらのインプットがそれぞれ属するレベルのうち、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに時価を分類しております。

(1)時価で連結貸借対照表に計上している金融商品 当連結会計年度(2026年5月31日)

時価で連結貸借対照表に計上している金融商品(当連結会計年度、単位:千円)
区分 レベル1 レベル2 レベル3 合計
投資有価証券 その他有価証券 株式 338,602 338,602
投資信託 600,791 600,791
転換社債型新株予約権付社債 14,971 14,971
新株予約権 575 575
資産計 939,393 15,546 954,940

(2)時価で連結貸借対照表に計上している金融商品以外の金融商品 当連結会計年度(2026年5月31日)

時価で連結貸借対照表に計上している金融商品以外の金融商品(当連結会計年度、単位:千円)
区分 レベル1 レベル2 レベル3 合計
長期借入金 4,673 4,673
負債計 4,673 4,673

(注)時価の算定に用いた評価技法及び時価の算定に係るインプットの説明

投資有価証券 上場株式及び投資信託は相場価格を用いて評価しております。上場株式及び投資信託は活発な市場で取引されているため、その時価をレベル1の時価に分類しております。

出典:シグマ光機株式会社「有価証券報告書」(2026年5月期、2026年8月24日提出)連結財務諸表 注記事項(連結)(金融商品関係) ※内訳の一部を抜粋しています

▶ 読み方 3つの点が参考になります。第1に、3つのレベルの定義を毎期そのまま掲げていること。定型文ですが省略できません。第2に、複数のインプットを使う場合はもっとも低いレベルに分類する旨をあらかじめ書いていること。これがあると読み手が分類の考え方を追えます。第3に、時価で計上しているものと、そうでないものを表として分けていること。前者に投資有価証券、後者に長期借入金が入ります。長期借入金は前期にレベル2、当期にレベル3と分類が変わっており、算定方法の変更があったことがうかがえます。

⚖️ 上場準備での論点

上場準備で最初に問題になるのは、金融商品の洗い出しそのものです。貸借対照表の科目を眺めるだけでは足りません。差入保証金、長期未収入金、役員に対する貸付金なども金融商品です。網羅性を確保するために、勘定科目内訳明細書から拾うのが確実です。

次に多いのが、非上場株式の扱いです。市場価格のない株式は時価の注記の対象外ですが、その旨と貸借対照表計上額は書かなければなりません。ここを落とすと、時価の表の合計が貸借対照表と合わなくなります。

ベンチャーキャピタルから調達している会社が、逆に投資する側になっている場合も注意が要ります。他社の転換社債型新株予約権付社債や新株予約権を持っていると、レベル3の追加5事項が発生します。定量的情報や調整表まで求められますので、期中から評価の記録を残してください。

投資事業有限責任組合への出資も見落としがちです。持分相当額を純額で計上している場合は、時価の注記は不要ですが、その旨と貸借対照表計上額の合計額を書きます。

なお、この注記も連結財務諸表を作成している場合は個別で記載を要しません。連結の条文は連結財務諸表規則15条の5の2です。

❓ よくある質問

Q. 金融商品の注記には何を書きますか。

A. 金融商品の状況に関する事項、金融商品の時価に関する事項、時価のレベルごとの内訳等に関する事項の3つです。財規8条の6の2第1項です。

Q. レベルはどう決まりますか。

A. 時価の算定に使ったインプットの観察可能性で決まります。複数使う場合は、もっとも優先順位が低いレベルに分類します。

Q. 非上場株式の時価は書きますか。

A. 書きません。市場価格のない株式等は時価の注記の対象外です。ただし、その旨と概要、貸借対照表計上額を注記します。

Q. レベル3があると何が増えますか。

A. 定量的情報、期首から期末への調整表、評価の過程の説明、インプットの変化による影響の説明、インプット間の相関関係の説明の5つです。

Q. 借入金も時価を書きますか。

A. 書きます。時価で貸借対照表に計上している金融商品以外の金融商品として、別の表に載せます。

Q. リース負債はどうなりますか。

A. 第1項第2号の括弧書きで除かれています。時価の表には載せません。

Q. 投資事業有限責任組合への出資は。

A. 持分相当額を純額で計上している場合、時価の注記は要りません。その旨と貸借対照表計上額の合計額を書きます。

Q. 連結と個別の両方に書きますか。

A. 連結財務諸表を作成している場合、個別では記載を要しません。連結財規15条の5の2に同じ規定があります。

📄 まとめ

金融商品の注記は財規8条の6の2です。状況の文章、時価の表、レベル別内訳の表という3階建てになっています。

レベルは時価の算定方法から決まります。先にレベルを決めるのではなく、評価方法とインプットを固めてから分類してください。

非上場株式と組合出資は時価の注記の対象外ですが、その旨と貸借対照表計上額は書きます。黙って落とさないでください。

レベル3があると追加で5つの事項が求められます。上場準備では期中から評価の記録を残すことが要点になります。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事に掲載した実際の開示事例は、各社が金融商品取引法にもとづき公衆縦覧に供している有価証券報告書からの引用です。設例として示した文例は、条文の記載事項を確認するために当事務所が作成したもので、会社名と数値は架空です。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の注記の作成にあたっては、監査法人にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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