税効果会計の注記は、上場準備で作り直しになることが最も多い注記です。金額そのものは会計システムから出ますが、注記に求められる区分の切り方が、税務申告書の別表とも管理会計とも違うためです。
条文は財務諸表等規則8条の12です。第1項で4つ、第2項で評価性引当額について2つ、第3項で繰越欠損金について2つの事項を求めています。合計8つです。
この記事では、その8つを条文で確かめたうえで、記載例と、上場会社の実際の開示事例を示します。
- 財規8条の12が求める8つの事項
- 評価性引当額をどう分けて書くか
- 繰越欠損金が重要なときに追加する表の作り方
- 法定実効税率と負担率の差異の内訳の書き方
- 上場会社の実際の開示事例と、その読み方
📌 結論 第1項の4つが土台になる
第1項の4つです。実務で毎期書くのは第1号と第2号で、第3号と第4号は税制改正があった期だけです。
財務諸表等規則8条の12第1項は、前条の規定により税効果会計を適用したときは、次の各号に掲げる事項を注記しなければならない、としています。前条とは8条の11で、法人税等について税効果会計を適用することを定めた条文です。
第1号が発生の主な原因別の内訳です。条文は括弧書きで、繰延税金資産とは税効果会計の適用により資産として計上される金額をいい、繰延税金負債とは負債として計上される金額をいう、と定義しています。
第2号が税率差異の内訳です。条文は、当該事業年度に係る法人税等の計算に用いられた税率を法定実効税率と呼び、法人税等を控除する前の当期純利益に対する法人税等の比率を税効果会計適用後の法人税等の負担率と呼んでいます。この2つに差異があるときに、その原因となった主な項目別の内訳を書きます。
第3号と第4号は税率変更があったときの規定です。第3号は当期中の税率変更により繰延税金資産と繰延税金負債が修正された場合、第4号は決算日後に税率変更があった場合です。前者は修正額まで、後者は内容及び影響を書きます。
🧭 評価性引当額の書き方
第1項第1号の内訳に併せて注記します。第2号は連結財務諸表を作成している場合には個別で記載を要しません。
第2項は、繰延税金資産の算定に当たり繰延税金資産から控除された額を評価性引当額と定義しています。回収可能性がないと判断して落とした部分のことです。
評価性引当額がある場合には、その金額と、重要な変動が生じた場合にはその主な内容を、第1項第1号の内訳に併せて注記します。併せてという言葉が入っているので、別立ての注記ではなく、発生原因別の内訳表のなかに小計として組み込む形になります。
実務では、評価性引当額を2つに分けて示すのが定着しています。税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額と、将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額です。合計だけを1行で書くより、読み手が回収可能性の判断を追いやすくなります。
なお第4項により、第2項第2号すなわち重要な変動の内容は、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には個別の注記では記載を要しません。連結の注記に書きます。
📄 記載例
(税効果会計関係)
1 繰延税金資産及び繰延税金負債の発生の主な原因別の内訳
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 繰延税金資産 税務上の繰越欠損金 | ◯◯百万円 |
| 繰延税金資産 賞与引当金 | ◯◯ |
| 繰延税金資産 退職給付に係る負債 | ◯◯ |
| 繰延税金資産 減損損失 | ◯◯ |
| 繰延税金資産 その他 | ◯◯ |
| 繰延税金資産小計 | ◯◯ |
| 税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額 | △◯◯ |
| 将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額 | △◯◯ |
| 評価性引当額小計 | △◯◯ |
| 繰延税金資産合計 | ◯◯ |
| 繰延税金負債 その他有価証券評価差額金 | △◯◯ |
| 繰延税金負債合計 | △◯◯ |
| 繰延税金資産の純額 | ◯◯ |
会社名と数値は架空です。小計を3段階(繰延税金資産小計、評価性引当額小計、繰延税金資産合計)で置くのが定型です。
金額の単位は百万円か千円で統一します。最初の行にだけ単位を付し、以降は数値だけを並べるのが通例です。
上場準備では、注記の区分の切り直しと、繰延税金資産の回収可能性を監査法人に説明する資料づくりが同時に発生します。企業分類の判定、スケジューリング表の作成、評価性引当額の区分、繰越期限別の表の作成まで通してお受けします。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
📊 繰越欠損金が重要なとき
第1項第1号に繰越欠損金を記載する場合で、その繰越欠損金が重要であるときに書きます。重要でなければ省略できます。
第3項は、第1項第1号に繰越欠損金を記載する場合であって、当該繰越欠損金が重要であるときの規定です。重要でなければ、この表は要りません。
条文は繰越欠損金を丁寧に定義しています。法人税等に係る法令の規定において繰越しが認められる期限まで繰り越すことができる欠損金額をいう、とされ、その期限を繰越期限と呼んでいます。
書くのは第1号の3つです。繰越期限別に、繰越欠損金に法定実効税率を乗じた額、繰越欠損金に係る評価性引当額、繰越欠損金に係る繰延税金資産の額を並べます。1年以内、1年超2年以内、というように期限で区切った表になります。
ここで注意すべきは、表に載せる繰越欠損金の額が、欠損金そのものではなく法定実効税率を乗じた額だという点です。条文が明示しています。税務申告書の別表七の数値をそのまま持ってくると誤りになります。
第2号は、繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合に、それを回収することが可能と判断した主な理由を書くものです。文章で書きます。
(注)税務上の繰越欠損金及びその繰延税金資産の繰越期限別の金額
当連結会計年度(2026年3月31日)
| 項目 | 1年以内から4年超5年以内 | 5年超 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 税務上の繰越欠損金(a) | 各◯◯ | ◯◯ | ◯◯百万円 |
| 評価性引当額 | △◯◯ | △◯◯ | △◯◯ |
| 繰延税金資産 | ◯◯ | ◯◯ | (b)◯◯ |
(a)税務上の繰越欠損金は、法定実効税率を乗じた額であります。
(b)税務上の繰越欠損金◯◯百万円(法定実効税率を乗じた額)について認識したものであります。当該繰延税金資産を計上した税務上の繰越欠損金は、当連結会計年度における課税所得計算の結果生じたものであり、将来の課税所得の見込みにより、回収可能と判断し評価性引当額を認識しておりません。
会社名と数値は架空です。(a)の注記で法定実効税率を乗じた額であることを明示し、(b)で回収可能と判断した理由を述べる形が定型です。
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🏷 税率差異の内訳
内訳表と差異の内訳表は別物です。前者は貸借対照表の側、後者は損益計算書の側を説明しています。
第1項第2号の税率差異の内訳は、法定実効税率から始めて、調整項目を加減し、最後に税効果会計適用後の法人税等の負担率で終わる表です。パーセント表示で書きます。
調整項目としてよく出るのは、交際費等永久に損金に算入されない項目、受取配当金等永久に益金に算入されない項目、住民税均等割、評価性引当額の増減、税額控除、過年度法人税等、連結子会社との税率差異などです。
上場準備会社でとくに大きく振れるのが評価性引当額の増減です。繰延税金資産を新たに認識した期は負担率が下がり、取り崩した期は上がります。表の1行が数十パーセント動くこともあります。
なお、この注記を書く実務上の順番は図4のとおりです。内訳表と差異の内訳表は別物である点に注意してください。前者は貸借対照表に載る繰延税金資産と繰延税金負債の説明、後者は損益計算書に載る法人税等の説明です。
📁 実際の開示事例
繰越欠損金の重要性が期によって変わり、前期は省略、当期は記載としている例です。第3項の重要性判断がそのまま表れています。
(税効果会計関係)
1.繰延税金資産及び繰延税金負債の発生の主な原因別の内訳
繰延税金資産及び繰延税金負債の発生の主な原因別の内訳(単位:百万円) 項目 前連結会計年度 当連結会計年度 繰延税金資産 税務上の繰越欠損金 104 375 退職給付に係る負債 871 814 賞与引当金 161 167 投資有価証券評価損 22 21 減損損失 212 8 未実現損益 682 500 その他 505 475 繰延税金資産小計 2,560 2,363 税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額 △66 △233 将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額 △739 △708 評価性引当額小計 △806 △942 繰延税金資産合計 1,754 1,420 (注)税務上の繰越欠損金及びその繰延税金資産の繰越期限別の金額
前連結会計年度(2025年3月31日) 税務上の繰越欠損金は重要性が乏しいため、繰越期限別の繰越欠損金に係る事項は記載を省略しております。
税務上の繰越欠損金及びその繰延税金資産の繰越期限別の金額(当連結会計年度、単位:百万円) 項目 4年超5年以内 5年超 合計 税務上の繰越欠損金(a) 28 347 375 評価性引当額 △28 △233 △262 繰延税金資産 - 113 (b)113 (a)税務上の繰越欠損金は、法定実効税率を乗じた額であります。
(b)税務上の繰越欠損金375百万円(法定実効税率を乗じた額)について認識したものであります。当該繰延税金資産を計上した税務上の繰越欠損金は、2026年3月期における課税所得計算の結果生じたものであり、将来の課税所得の見込みにより、回収可能と判断し評価性引当額を認識しておりません。
2.法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との間に重要な差異があるときの、当該差異の原因となった主要な項目別の内訳
法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との差異の内訳(単位:パーセント) 項目 前連結会計年度 当連結会計年度 法定実効税率 30.6 30.6 交際費等永久に損金に算入されない項目 0.8 3.0 住民税均等割 1.0 1.6 未実現利益の税効果未認識 △16.6 5.5 評価性引当額等の増減 △5.7 4.5 税効果会計適用後の法人税等の負担率 14.4 52.4
出典:株式会社ジャノメ「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月16日提出)連結財務諸表 注記事項(連結)(税効果会計関係) ※内訳の一部を抜粋し、前連結会計年度と当連結会計年度の順に並べています
▶ 読み方 3つの点が参考になります。第1に、評価性引当額を税務上の繰越欠損金に係るものと将来減算一時差異等の合計に係るものに分け、それぞれ小計を置いていること。第2に、繰越欠損金の重要性が前期と当期で異なるため、前期は省略した旨を明記し、当期だけ繰越期限別の表を載せていること。省略する場合も、省略した理由を書いています。第3に、回収可能と判断した理由を、いつの課税所得計算で生じた欠損金かという事実から説明していることです。
⚖️ 上場準備での論点
上場準備で最初に問題になるのは、繰延税金資産の回収可能性の判断そのものです。企業会計基準適用指針第26号が定める企業分類のどれに当たるかで、計上できる範囲が大きく変わります。分類の根拠資料が残っていない会社が多く、監査対応でつまずきます。
次に多いのが、注記の区分と申告書の区分がずれていることです。注記に求められるのは発生の主な原因別の内訳ですが、申告書の別表五(一)の区分をそのまま持ってくると、賞与引当金と未払社会保険料が一体になっているなど、粒度が合いません。注記用の集計表を別に作るのが確実です。
繰越欠損金の表では、法定実効税率を乗じた額で書くことを忘れないでください。乗じる前の欠損金額を書いてしまう誤りが、初回の申請書類でよく見つかります。
もうひとつ、税率差異の注記は数値が小さい会社ほど不安定です。法人税等を控除する前の当期純利益が小さいと、住民税均等割のような固定額の項目が大きなパーセントになります。上場準備会社では負担率が100パーセントを超えることも珍しくありません。
❓ よくある質問
A. 財規8条の12第1項の4つ、第2項の評価性引当額の2つ、第3項の繰越欠損金の2つで、合計8つの事項が定められています。
A. 繰延税金資産の算定に当たり繰延税金資産から控除された額のことです。条文が第2項で定義しています。
A. 別立てではなく、発生原因別の内訳に併せて注記します。実務では内訳表のなかに小計として組み込みます。
A. いいえ。第1項第1号に繰越欠損金を記載する場合で、その繰越欠損金が重要であるときだけです。重要でなければ、その旨を書いて省略できます。
A. 繰越欠損金に法定実効税率を乗じた額です。欠損金そのものではありません。条文が明示しています。
A. 当期中の変更で繰延税金資産と繰延税金負債が修正されたときは、その旨及び修正額を書きます。決算日後の変更なら、その内容及び影響を書きます。
A. 第2項第2号と第3項の各号は、連結財務諸表を作成している場合には個別で記載を要しません。第4項です。
A. 連結財務諸表規則15条の5です。11条の規定により税効果会計を適用したときの注記を定めています。
📄 まとめ
税効果会計の注記は財規8条の12です。第1項で発生原因別の内訳と税率差異の内訳、第2項で評価性引当額、第3項で繰越欠損金の繰越期限別の表と回収可能と判断した理由を求めています。
評価性引当額は、繰越欠損金に係るものと将来減算一時差異等に係るものに分けて示すのが定着した書き方です。
繰越期限別の表に書くのは、繰越欠損金に法定実効税率を乗じた額です。ここを間違えないでください。
上場準備では、回収可能性の判断根拠を残すことと、注記用の集計を申告書とは別に組むことが要点になります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事に掲載した実際の開示事例は、各社が金融商品取引法にもとづき公衆縦覧に供している有価証券報告書からの引用です。設例として示した文例は、条文の記載事項を確認するために当事務所が作成したもので、会社名と数値は架空です。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の注記の作成にあたっては、監査法人にご確認ください。
📚 参考(公的な一次情報)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索) 8条の11、8条の12
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索) 11条、15条の5
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 税効果会計に係る会計基準および繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針
- EDINET(金融庁) 引用した有価証券報告書はここで閲覧できます
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