会計方針の変更の注記の記載例|5つの場面と上場会社の開示事例

会計方針を変えたときの注記は、文章の型を覚えるより先に、どの条を根拠にするかを決めるのが早道です。

財務諸表等規則は場面ごとに条を分けており、条が決まれば書くべき項目は号として並んでいるからです。逆に条を決めずに書き出すと、必ずどれかの号が抜けます。

この記事では5つの場面に分けて、条文が求める記載事項と、それに対応する記載例を並べます。あわせて、実際に上場会社が提出した有価証券報告書の注記を2件引用し、条文のどこに対応しているかを読み解きます。

この記事でわかること

  • 5つの場面と、それぞれの根拠条文
  • 財規8条の3第1項が求める5つの号
  • 場面ごとの記載例(設例)
  • 上場会社の実際の開示事例と、その読み方
  • 会社法の計算書類では書くことが違うこと

📌 結論 先に根拠条文を決める

図1 5つのパターンと根拠条文場面根拠書くこと基準改正に伴う変更で遡及適用する財規8条の3第1項基準の名称、変更の内容、主な科目への影響額、1株当たり情報への影響額、期首純資産への累積的影響額経過措置に従って遡及適用しない財規8条の3第3項上の2つに加えて、経過措置に従った旨と概要、翌事業年度以降への影響遡及適用が実務上不可能財規8条の3第2項算定可能な影響額、不可能な理由、適用方法と適用開始日自社の判断で変えた財規8条の3の2第1項変更の内容、正当な理由、影響額、累積的影響額見積りの変更と区別が困難財規8条の3の6変更の内容、正当な理由、財務諸表に与えている影響額、翌事業年度以降への影響

先に条を決めてください。条が決まれば、書くべき項目は号として並んでいます。

会計方針の変更の注記は、5つの場面に分かれます。基準の改正に伴う変更で遡及適用するとき、経過措置に従って遡及適用しないとき、遡及適用が実務上不可能なとき、自社の判断で変えたとき、そして会計上の見積りの変更と区別することが困難なときです。

それぞれ根拠条文が違い、書くべき項目も違います。まず自社がどこに当たるかを決めてください。ここが決まれば、あとは号を順に埋めるだけの作業になります。

📋 財規8条の3第1項が求める5つの号

図2 財規8条の3第1項が求める5つの号記載事項第1号当該会計基準等の名称第2号当該会計方針の変更の内容第3号財務諸表の主な科目に対する前事業年度における影響額第4号前事業年度に係る1株当たり情報に対する影響額第5号前事業年度の期首における純資産額に対する累積的影響額

この順番どおりに書く必要はありませんが、条文の順に並べておくと監査法人のレビューで抜けを指摘されにくくなります。

財務諸表等規則8条の3第1項は、会計基準その他の規則の改正および廃止ならびに新たな会計基準等の作成に伴い会計方針の変更を行った場合に、5つの事項を注記しなければならないとしています。

第1号が当該会計基準等の名称、第2号が当該会計方針の変更の内容、第3号が財務諸表の主な科目に対する前事業年度における影響額、第4号が前事業年度に係る1株当たり情報に対する影響額、第5号が前事業年度の期首における純資産額に対する累積的影響額です。

なお同条4項は、注記すべき事項に重要性が乏しい場合には注記を省略することができるとしています。

📄 パターン1 基準改正に伴う変更で遡及適用する

設例1 会計基準等の改正に伴う変更(遡及適用する場合)

(会計方針の変更)

「◯◯に関する会計基準」(企業会計基準第◯号 20◯◯年◯月◯日。以下「◯◯会計基準」といいます。)を当事業年度の期首から適用しております。これにより、従来は出荷時に収益を認識していた国内の製品販売について、顧客が検収した時点で収益を認識する方法に変更しております。

当該会計方針の変更は遡及適用し、前事業年度については遡及適用後の財務諸表となっております。この結果、前事業年度の貸借対照表において、売掛金が218百万円減少し、商品及び製品が96百万円増加しております。前事業年度の損益計算書において、売上高が240百万円減少し、売上原価が151百万円減少し、営業利益、経常利益および税引前当期純利益がそれぞれ89百万円減少しております。

また、前事業年度の期首の純資産額に累積的影響額が反映されたことにより、利益剰余金の前期首残高は63百万円減少しております。前事業年度の1株当たり純資産額は12円40銭減少し、1株当たり当期純利益は3円80銭減少しております。

会社名と数値は架空です。基準の名称(1号)、変更の内容(2号)、主な科目への影響額(3号)、累積的影響額(5号)、1株当たり情報(4号)の順に並べています。

この型がいちばん多く使われます。書き出しで基準の名称を挙げ、次に何をどう変えたかを1文で述べ、その後に金額の話に移ります。

金額を書くときは、貸借対照表、損益計算書、純資産、1株当たり情報の順に段落を分けてください。1つの段落に詰め込むと、どの号に対応するのかが読み手にも監査法人にも分からなくなります。

🗓 パターン2 経過措置に従って遡及適用しない

設例2 経過的な取扱いに従い遡及適用しない場合

(会計方針の変更)

「◯◯に関する会計基準」(企業会計基準第◯号 20◯◯年◯月◯日)等を当事業年度の期首から適用しております。これにより、◯◯について、従来の◯◯による方法から◯◯による方法に変更しております。

当該会計基準等の適用にあたっては、◯◯会計基準に定める経過的な取扱いに従っており、適用初年度の期首時点で新たな会計方針を適用した場合の累積的影響額を、当事業年度の期首の利益剰余金に加減しております。

この結果、当事業年度の期首の利益剰余金が28百万円減少しております。なお、当事業年度の損益に与える影響は軽微であります。

経過措置に従う場合は、財規8条の3第3項が根拠になります。経過措置に従って会計処理を行った旨と、その経過措置の概要を書くことが求められます。

ここで実際の開示を見てください。基準を早期適用し、経過的な取扱いに従った例です。

実際の開示事例1 SWCC株式会社(証券コード5805)

(会計方針の変更)

「金融商品会計に関する実務指針」(移管指針第9号 2025年3月11日。以下「改正金融商品実務指針」という。)を当連結会計年度から早期適用しております。これにより、改正金融商品実務指針の第132-2項を適用し、同項に規定する要件を満たす組合等の構成資産に含まれる市場価格のない株式(当社の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、組合等への出資の会計処理の基礎としております。

また、改正金融商品実務指針の適用については、第205-2項に定める経過的な取扱いに従っており、適用初年度の期首時点での評価差額の持分相当額を当連結会計年度の期首のその他有価証券評価差額金に加減しております。

なお、当該変更が連結財務諸表に与える影響は軽微であります。

出典:SWCC株式会社「有価証券報告書」(2026年3月期、2026年6月18日提出)連結財務諸表 注記事項(連結)(会計方針の変更)

▶ 読み方 第1段落で基準の名称と早期適用である旨、変更の内容を述べ、第2段落で経過的な取扱いに従ったことと累積的影響額の処理先を明示し、第3段落で影響額に触れています。影響が軽微なため金額の列挙はしていませんが、どこに加減したのかは具体的に書いています。

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🧭 パターン3 自社の判断で変えた

設例3 正当な理由による会計方針の変更

(会計方針の変更)

従来、製品の評価方法について総平均法による原価法(貸借対照表価額は収益性の低下に基づく簿価切下げの方法により算定)を採用しておりましたが、当事業年度より移動平均法による原価法(貸借対照表価額は同じ方法により算定)に変更しております。

この変更は、基幹システムの刷新により製品の受払いを個別に把握することが可能となったことを機に、期中の原価変動をより適時に損益へ反映させ、期間損益計算をより適正に行うために実施したものであります。

当該会計方針の変更は遡及適用し、前事業年度については遡及適用後の財務諸表となっております。この結果、前事業年度の貸借対照表において、商品及び製品が34百万円増加しております。前事業年度の損益計算書において、売上原価が34百万円減少し、営業利益、経常利益および税引前当期純利益がそれぞれ34百万円増加しております。前事業年度の期首の純資産額に累積的影響額が反映されたことにより、利益剰余金の前期首残高は17百万円増加しております。

会社名と数値は架空です。財規8条の3の2第1項が根拠です。パターン1との違いは冒頭の2項目で、基準の名称ではなく、変更の内容と正当な理由を書きます。

自社の判断で変える場合、条文が求めるのは正当な理由です。ここが最も書きにくいところです。

使えるのは、事業の内容や取引の形態が変わったこと、システムの刷新で把握できる情報が増えたこと、同業他社との比較可能性を高める必要が生じたこと、といった外形的な事実です。単に費用の期間配分を変えたい、という理由は通りません。

そして変更のタイミングも問われます。期首から適用するのが原則です。期中に変えると、なぜその時点なのかを別に説明する必要が生じます。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

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⚖️ パターン4 遡及適用が実務上不可能

図3 遡及適用が実務上不可能なときの2つの分岐どちらに当たるか書くこと当事業年度の期首の累積的影響額は算定できるが、前事業年度の期首は算定できない基準名、変更の内容、算定可能な影響額、当事業年度に係る1株当たり情報への影響額、当事業年度の期首の累積的影響額、不可能な理由、適用方法と適用開始日当事業年度の期首の累積的影響額も算定できない基準名、変更の内容、算定可能な影響額、1株当たり情報への影響額、算定が実務上不可能である旨、不可能な理由、適用方法と適用開始日

財規8条の3第2項です。どちらに当たるかで書く項目が変わります。まず当事業年度の期首の数字が作れるかどうかを確かめてください。

設例4 前事業年度の期首の累積的影響額が算定できない場合

(会計方針の変更)

従来、◯◯について◯◯による方法を採用しておりましたが、当事業年度より◯◯による方法に変更しております。この変更は、◯◯を機に、◯◯をより適正に反映させるために実施したものであります。

なお、前事業年度の期首における累積的影響額を算定するために必要な◯◯に関する記録は、合理的な努力を尽くしても入手することができないため、前事業年度の期首における累積的影響額を算定することは実務上不可能であります。

このため、当事業年度の期首における累積的影響額を利益剰余金に加減し、当事業年度の期首から新たな会計方針を適用しております。この結果、当事業年度の期首の利益剰余金が◯◯百万円減少しております。

会社名と数値は架空です。財規8条の3第2項第1号にあたる場合の例です。不可能な理由を、抽象的にではなく、どの記録が入手できないのかまで書くのが要点です。

実務上不可能という言葉は強い言葉です。手間がかかるという意味ではありません。合理的な努力を尽くしても情報が入手できないという意味です。

ですから注記でも、なぜ入手できないのかを具体的に書く必要があります。監査法人は必ずここを確かめます。使えるのは、保存期間を経過して記録が廃棄されている、被買収会社の過去の資料が引き継がれていない、といった事実です。

🔧 パターン5 見積りの変更と区別することが困難

設例5 会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合

(会計方針の変更と区別することが困難な会計上の見積りの変更)

当社は、従来、機械装置の減価償却方法について定率法を採用しておりましたが、当事業年度より定額法に変更しております。

この変更は、当事業年度において実施した生産設備の増強を機に、当該設備の使用実態を検討した結果、稼働状況が安定的に推移する見込みとなったため、費用を耐用年数にわたり均等に配分する方法がより実態に即していると判断したものであります。

これにより、従来の方法によった場合に比べて、当事業年度の減価償却費が48百万円減少し、営業利益、経常利益および税引前当期純利益がそれぞれ48百万円増加しております。

会社名と数値は架空です。財規8条の3の6が根拠です。減価償却方法の変更はこの型になります。遡及適用はせず、当事業年度以降の損益で処理します。

減価償却方法の変更が代表例です。方法の選択という会計方針の側面と、資産の消費パターンの見積りという側面が一体になっているため、区別できないという扱いになります。

実際の開示を見てください。減価償却の開始時期を見直した例です。

実際の開示事例2 ダイト株式会社(証券コード4577)

(会計方針の変更)

(会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合の注記)

当社は、当連結会計年度の期首より生産設備の減価償却の開始時期について見直しを行い、従来の方法から変更しております。

従来は生産設備の検収日をもって量産開始とみなし、償却開始の基準としておりましたが、近年の市場環境の変化により、検収日から量産開始までに乖離が生じることが見込まれるため、より実態に即した量産開始時期をもって償却開始する方法に変更しております。当該変更は、外部環境の変化や設備の使用実態を検討した結果、当社の状況に即しており適切であると判断しております。

以上の変更により、従来の方法によった場合に比べ、当連結会計年度の営業利益、経常利益及び税金等調整前当期純利益は210百万円増加しております。

出典:ダイト株式会社「有価証券報告書」(2026年5月期、2026年8月26日提出)連結財務諸表 注記事項(連結)(会計方針の変更)

▶ 読み方 変更の内容(何を、いつから)、正当な理由(従来の方法では実態と乖離すること)、そして影響額の3点が順に並んでいます。理由の部分で、検収日と量産開始日が離れてきたという外形的な事実を挙げているのが参考になります。単に適正化のためとだけ書くと、なぜ当期なのかの説明になりません。

🏢 会社法の計算書類では書くことが違う

図4 金融商品取引法と会社法で書くことが違う論点財務諸表等規則会社計算規則根拠8条の3、8条の3の2、8条の3の6102条の2場面ごとの条の分かれ方基準改正、自発的変更、見積りと区別困難で条が分かれる1つの条にまとまっている1株当たり情報への影響額記載事項に入っている入っていない連結と個別の関係同一内容なら省略できる定めがある連結注記表と同一なら個別注記表で省略できる

同じ変更でも、有価証券報告書と計算書類で書く分量が変わります。片方をコピーして貼ると過不足が出ます。

会社計算規則102条の2は、会計方針の変更に関する注記として、変更の内容、変更の理由、遡及適用した場合の純資産への影響額などを求めています。

財務諸表等規則と違い、場面ごとに条が分かれていません。また、1株当たり情報への影響額は記載事項に入っていません。

有価証券報告書の注記をそのまま計算書類に貼ると、書かなくてよいことが入り、逆に会社法固有の項目が抜けることがあります。両方を作る会社では、それぞれ条文に当てて確かめてください。

🗒️ よくある書き間違い

1つめは、基準改正に伴う変更なのに正当な理由を書いてしまうことです。基準が変わったから適用したのであって、自社に理由はありません。財規8条の3第1項には正当な理由という号がありません。

2つめは、影響額を書き忘れることです。重要性が乏しければ省略できますが、その判断をした記録は残してください。

3つめは、減価償却方法の変更を遡及適用してしまうことです。見積りの変更と区別することが困難な場合は遡及適用しません。当事業年度以降の損益で処理します。

4つめは、連結と個別で同じ内容なのに両方に全文を書くことです。省略できる定めがあります。

❓ よくある質問

Q. どの条を見ればよいですか。

A. 基準改正に伴う変更は財規8条の3、自社の判断で変えたときは8条の3の2、見積りの変更と区別することが困難な場合は8条の3の6です。

Q. 影響額は必ず書きますか。

A. 重要性が乏しい場合は省略できます。財規8条の3第4項です。

Q. 減価償却方法を変えたときは遡及適用しますか。

A. しません。見積りの変更と区別することが困難な場合として、当事業年度以降の損益で処理します。

Q. 実務上不可能とはどの程度ですか。

A. 手間がかかるという意味ではなく、合理的な努力を尽くしても情報を入手できないという意味です。

Q. 経過措置に従うときは何を書きますか。

A. 基準の名称、変更の内容に加えて、経過措置に従った旨とその概要、翌事業年度以降への影響を書きます。財規8条の3第3項です。

Q. 正当な理由は何を書けばよいですか。

A. 事業や取引の形態の変化、システムの刷新など、外形的な事実を挙げてください。期間損益を適正にするためという一般論だけでは足りません。

Q. 会社法の計算書類にも同じ文章を使えますか。

A. 記載事項が違います。会社計算規則102条の2に当てて確かめてください。

Q. 連結と個別の両方に書きますか。

A. 同一の内容であれば省略できる定めがあります。

📄 まとめ

会計方針の変更の注記は、先に根拠条文を決めてから書きます。条が決まれば書くべき項目は号として並んでいます。

基準改正に伴う変更、経過措置で遡及適用しない場合、実務上不可能な場合、自社の判断による変更、見積りの変更と区別できない場合の5つに分かれます。

実際の開示を見ると、変更の内容、理由、影響額の3点が順に並んでいます。理由の部分に外形的な事実を書けているかどうかが、説明力の差になります。

いま注記を書いているなら、まず自社がどのパターンかを1行で書き出してください。そこから先は号を埋める作業です。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事に掲載した実際の開示事例は、各社が金融商品取引法にもとづき公衆縦覧に供している有価証券報告書からの引用です。設例として示した文例は、条文の記載事項を確認するために当事務所が作成したもので、会社名と数値は架空です。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の注記の作成にあたっては、監査法人にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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