J-KISSで受け取った払込金額は、純資産の部の新株予約権に計上します。負債ではありません。
そしてストック・オプション会計基準の対象にはなりません。企業会計基準第8号の第2項(2)は、ストック・オプションを自社株式オプションのうち特に企業がその従業員等に報酬として付与するものと定義しています。J-KISSは投資家に対して金銭の払込みと引換えに発行するものです。
ですから公正な評価単価を算定して費用に落とす、という話にはなりません。処理そのものは単純です。
- 払込金額をどこに計上するか
- ストック・オプション会計基準の対象にならない理由
- 転換したときの振替
- 権利が消滅したときの処理
- 監査や上場準備で確かめられること
📌 結論 純資産の部の新株予約権に計上する
損益計算書には、発行のときも決算のときも何も出ません。動くのは純資産の部です。
会社計算規則第76条第1項第1号は、株式会社の貸借対照表の純資産の部を、株主資本、評価・換算差額等、株式引受権、新株予約権に区分するとしています。J-KISSの払込金額は、この新株予約権の区分に入ります。
企業会計基準第8号の第4項も、新株予約権を貸借対照表の純資産の部に新株予約権として計上するとしています。
負債ではありません。将来の返済義務ではなく、株式を取得する権利の対価だからです。ここを取り違えると自己資本比率が変わってしまいます。
🧭 ストック・オプションとは扱いが違う
企業会計基準第8号です。報酬として付与するものではないため、公正な評価単価を算定して費用計上する話にはなりません。
企業会計基準第8号の第2項(1)は、自社株式オプションを、自社の株式を原資産とするコール・オプションと定義しています。J-KISSはこれにあたります。
ただし第2項(2)は、ストック・オプションを、自社株式オプションのうち特に企業がその従業員等に報酬として付与するものと限定しています。J-KISSは投資家に対する発行で、報酬ではありません。
第3項が定める適用範囲は、従業員等にストック・オプションを付与する取引と、財貨またはサービスの取得の対価として自社株式オプションを付与する取引などです。金銭の払込みを受けて発行するJ-KISSは、ここに入りません。
結果として、公正な評価単価を算定して各期に費用配分するという処理は生じません。払込金額をそのまま新株予約権として計上して残しておきます。
J-KISSの処理そのものは単純ですが、上場準備に入ると発行時にさかのぼって根拠を求められます。稟議、登記、会計、注記の4つを揃えておけば、あとで作り直さずに済みます。公認会計士が発行時の整理から監査対応までお手伝いします。初回のご相談は無料です。
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🧾 転換したときと消滅したとき
会社法第236条第1項第5号が、行使により株式を発行する場合の資本金および資本準備金に関する事項を定めることを求めています。
転換のときは、純資産の部に置いていた新株予約権を払込資本に振り替えます。行使に際して追加の払込みがあるなら、その金額を加えたうえで資本金と資本準備金に振り分けます。
資本金にいくら入れるかは、新株予約権の内容として定めた事項にしたがいます。会社法第236条第1項第5号が、行使により株式を発行する場合の資本金および資本準備金に関する事項を定めることを求めているためです。
行使されずに権利が消滅したときは、新株予約権の残高を利益として処理します。新株予約権戻入益という科目が使われます。ここは損益に出ますので、決算の説明で必ず触れられる項目になります。
📅 監査と上場準備で見られるところ
上場準備に入ると、発行時にさかのぼって処理の根拠を求められます。稟議と登記と会計の3つが揃っているか確かめてください。
上場準備に入ると、過去の資金調達の処理をさかのぼって確かめられます。J-KISSの発行が数年前でも、そのときの稟議、登記、会計処理が揃っているかを見られます。
意外につまずくのが注記と1株当たり情報です。潜在株式が存在する以上、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の計算に織り込む必要があります。
そして転換後の資本政策との整合も見られます。会計処理だけが正しくても、資本政策表と食い違っていれば説明を求められます。
❓ よくある質問
A. 純資産の部の新株予約権です。負債ではありません。
A. されません。従業員等に報酬として付与するものではないためです。
A. 報酬としての付与ではないため、公正な評価単価を算定して費用配分する処理は生じません。
A. しません。払込金額のまま残ります。
A. 新株予約権を払込資本に振り替え、資本金と資本準備金に振り分けます。
A. 新株予約権の内容として定めた事項にしたがいます。会社法第236条第1項第5号です。
A. 新株予約権戻入益として利益に計上します。
A. 潜在株式にあたるため、潜在株式調整後の計算で検討が必要です。
📄 まとめ
払込金額は純資産の部の新株予約権に計上します。負債ではありません。
ストック・オプション会計基準の対象外です。従業員等への報酬ではないためです。
転換時は払込資本へ振り替え、消滅時は戻入益として利益に出ます。
処理は単純ですが、上場準備でさかのぼって聞かれます。発行のたびに、稟議と登記と会計と注記を1セットで残してください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の処理にあたっては、監査法人および顧問税理士にご確認ください。
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(企業会計基準委員会) 第2項、第3項、第4項
- 会社計算規則(e-Gov法令検索) 第76条第1項
- 会社法(e-Gov法令検索) 第236条第1項第5号