重要な会計上の見積りの注記の記載例|3つの記載事項と上場会社の開示事例

重要な会計上の見積りに関する注記は、翌期の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある見積りについて、項目、計上額、算出方法と主要な仮定を書くものです。

会計上の見積りの変更とは別ものです。変更がなくても毎期書きます。読み手が見たいのは、その金額がどんな仮定で作られているかです。

この記事では、財規8条の2の4の号を確かめたうえで、項目別の記載例と、上場会社の実際の開示事例を示します。

この記事でわかること

  • 財規8条の2の4が求める3つの号
  • 会計上の見積りの変更との違い
  • 実務で挙がる項目と、主要な仮定の書き方
  • 繰延税金資産と減損の記載例
  • 上場会社の実際の開示事例と、その読み方
記載事項がそろっているか重要な会計上の見積りの注記を作る当年度の財務諸表に計上した金額を書いているか記載事項の1つ目を満たすはいいいえ理解に資する情報を書いているか記載事項の2つ目を満たすはいいいえ翌年度への影響を書いているか記載事項の3つ目を満たすはいいいえ項目を識別したうえで3つの事項を記載する

図 重要な会計上の見積りの注記の記載事項

📌 結論 書くのは3つだけ

図1 財規8条の2の4が求める3つの号記載事項第1号重要な会計上の見積りを示す項目第2号前号に掲げる項目のそれぞれに係る当事業年度の財務諸表に計上した金額第3号前号に掲げる金額の算出方法、重要な会計上の見積りに用いた主要な仮定、重要な会計上の見積りが当事業年度の翌事業年度の財務諸表に与える影響その他の重要な会計上の見積りの内容に関する情報

第3号が本体です。算出方法、主要な仮定、翌期への影響。この3点が読み手の求めるものです。

財務諸表等規則8条の2の4第1項は、当事業年度の財務諸表の作成に当たって行った会計上の見積りのうち、当該会計上の見積りが当事業年度の翌事業年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあるものを識別した場合には、次に掲げる事項であって、投資者その他の財務諸表の利用者の理解に資するものを注記しなければならない、としています。

第1号が重要な会計上の見積りを示す項目、第2号がそれぞれに係る当事業年度の財務諸表に計上した金額です。

第3号は長い規定です。前号に掲げる金額の算出方法、重要な会計上の見積りに用いた主要な仮定、重要な会計上の見積りが当事業年度の翌事業年度の財務諸表に与える影響その他の重要な会計上の見積りの内容に関する情報、とされています。

つまり、算出方法と主要な仮定と翌期への影響です。この3点が第3号の中身です。

🧭 会計上の見積りの変更との違い

図2 会計上の見積りの変更との違い論点重要な会計上の見積り会計上の見積りの変更いつ書くか毎期(リスクを識別したとき)変更した期だけ何を書くか項目、計上額、算出方法と主要な仮定変更の内容と影響額向いている先翌期に重要な影響を及ぼすリスク当期と翌期以降の影響額根拠財規8条の2の4財規8条の3の5

名前が似ていますが別ものです。重要な会計上の見積りは毎期書きます。変更がなくても書きます。

名前が似ているので混同されますが、まったく別の注記です。重要な会計上の見積りは、変更があってもなくても毎期書きます。

会計上の見積りの変更は、変更した期にだけ書きます。書くのも変更の内容と影響額です。

変更のほうは会計上の見積りの変更の注記の記載例で整理しています。

🗒️ 書くときの順番

図4 書くときの順番翌期の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある見積りを識別する識別した項目を示す(第1号)当期の財務諸表に計上した金額を示す(第2号)金額の算出方法を書く(第3号)用いた主要な仮定を書く(第3号)翌期の財務諸表に与える影響を書く(第3号)

実際の開示では(1)計上した金額 (2)理解に資する情報 (3)翌期への影響 の三部構成が定着しています。

まず識別です。翌期の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあるかどうかで決めます。金額が大きいというだけでは足りません。

識別したら、項目名を立て、金額を示し、算出方法と主要な仮定を説明し、翌期への影響で締めます。

📄 記載例1 繰延税金資産の回収可能性

図3 実務で挙がる項目の例項目主要な仮定の例繰延税金資産の回収可能性将来の課税所得の見積り、企業分類の判定のれんおよび固定資産の減損事業計画の前提、割引率、成長率棚卸資産の評価滞留期間の区分、正味売却価額の見積り貸倒引当金債務者区分、担保の処分見込額工事契約の進捗度見積総原価、原価総額の見直し

上場準備会社で最も多いのは繰延税金資産の回収可能性です。企業分類の判定が仮定の中心になります。

設例1 繰延税金資産の回収可能性

(重要な会計上の見積り)

繰延税金資産の回収可能性

当事業年度の財務諸表に計上した金額
項目 前事業年度 当事業年度
繰延税金資産 420百万円 385百万円

繰延税金資産 前事業年度 420百万円 当事業年度 385百万円

(2) 識別した項目に係る重要な会計上の見積りの内容に関する情報

当社は、将来減算一時差異等に係る繰延税金資産について、将来の課税所得の見積りにもとづき回収可能性を判断しております。将来の課税所得は、取締役会で承認された事業計画を基礎として見積っており、当該事業計画には、主要製品の販売数量および販売単価の見通しを主要な仮定として用いております。

(3) 翌事業年度の財務諸表に与える影響

主要な仮定である販売数量および販売単価が事業計画を下回った場合、将来の課税所得の見積りが減少し、繰延税金資産の取崩しが生じる可能性があります。

会社名と数値は架空です。(1)金額 (2)理解に資する情報 (3)翌期への影響という三部構成が実務の標準です。

上場準備会社で最も多いのがこの項目です。企業分類の判定と、将来の課税所得の見積りが仮定の中心になります。

主要な仮定は、できるだけ具体的に書いてください。事業計画にもとづくとだけ書いても、読み手は何も得られません。

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。

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📊 記載例2 固定資産およびのれんの減損

設例2 のれんの評価

(重要な会計上の見積り)

のれんの評価

当事業年度の財務諸表に計上した金額
項目 前事業年度 当事業年度
のれん 1,240百万円 1,050百万円

のれん 前事業年度 1,240百万円 当事業年度 1,050百万円

(2) 識別した項目に係る重要な会計上の見積りの内容に関する情報

当社は、企業結合により取得したのれんについて、減損の兆候の有無を判定し、兆候がある場合には割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較して減損損失の認識の要否を判定しております。将来キャッシュ・フローは、取締役会で承認された事業計画を基礎として見積っており、当該事業計画には、対象事業の売上高成長率を主要な仮定として用いております。

(3) 翌事業年度の財務諸表に与える影響

主要な仮定である売上高成長率が事業計画を下回った場合、減損損失を計上する可能性があります。

会社名と数値は架空です。減損は、どの単位でグルーピングしているかを書き添えると、読み手の理解が進みます。

主要な仮定の書き方からご相談ください

重要な会計上の見積りの注記は、どこまで具体的に書くかで監査法人と議論になります。項目の識別、主要な仮定の特定、文案の作成、監査法人への説明資料まで通してお受けします。上場準備の段階からご一緒できます。公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。

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📁 実際の開示事例

2つの項目を並べて開示している例です。金額を前期と当期で並べているところに注目してください。

実際の開示事例 Sansan株式会社(証券コード4443)

(重要な会計上の見積り)

繰延税金資産の回収可能性

当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額(繰延税金資産の回収可能性)
項目 前連結会計年度 当連結会計年度
繰延税金資産(相殺前) 2,046百万円 1,709百万円

繰延税金資産(相殺前) 前連結会計年度 2,046百万円 当連結会計年度 1,709百万円

のれんの評価

当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額(のれんの評価)
項目 前連結会計年度 当連結会計年度
のれん 951百万円 866百万円
減損損失 43百万円 226百万円

減損損失 前連結会計年度 43百万円 当連結会計年度 226百万円

出典:Sansan株式会社「有価証券報告書」(2026年5月期、2026年8月19日提出)連結財務諸表 注記事項(連結)(重要な会計上の見積り) ※金額を示した(1)の部分のみを抜粋しています

▶ 読み方 項目ごとに(1)当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額、(2)その他見積りの内容に関する理解に資する情報、(3)翌連結会計年度の連結財務諸表に与える影響という三部構成を繰り返しています。金額を前期と当期で並べているので、読み手は増減を見てから(2)の説明に進めます。のれんの評価では、のれんの残高だけでなく当期に計上した減損損失も並べています。

この構成が定型です。項目を立て、金額を示し、内容の説明を書き、翌期への影響で締める。項目が複数あれば、この単位を繰り返します。

⚖️ 連結と個別のどちらに書くか

連結財務諸表規則13条の2は、財務諸表等規則8条の2の4(第3項及び第4項を除く。)の規定を、重要な会計上の見積りについて準用するとし、同条第1項中の「事業年度」を「連結会計年度」と、「財務諸表」を「連結財務諸表」と読み替えるとしています。

個別のほうは、財規8条の2の4第3項により、第1項第3号に掲げる事項は、連結財務諸表において同一の内容が記載される場合には、その旨を記載して省略できます。

また第4項により、第1項第3号に掲げる事項は、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、同項第2号に掲げる金額の算出方法の記載をもって代えることができます。

そして第2項により、この編の規定により注記すべき事項において同一の内容が記載される場合には、その旨を記載して第2号と第3号の記載を省略できます。

🗒️ 会社法の計算書類では

会社計算規則102条の3の2は、会計上の見積りに関する注記として3つを掲げています。

第1号が、会計上の見積りにより当該事業年度に係る計算書類又は連結計算書類にその額を計上した項目であって、翌事業年度に係る計算書類又は連結計算書類に重要な影響を及ぼす可能性があるものです。

第2号が当該項目に計上した額、第3号が第1号に掲げる項目に係る会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報です。

有価証券報告書の注記より簡素ですが、考え方は同じです。上場後は両方を作ることになります。

❓ よくある質問

Q. 重要な会計上の見積りには何を書きますか。

A. 項目、当期に計上した金額、算出方法と主要な仮定と翌期への影響の3つです。財規8条の2の4第1項です。

Q. 会計上の見積りの変更とは違いますか。

A. 別の注記です。重要な会計上の見積りは変更がなくても毎期書きます。

Q. 何項目挙げればよいですか。

A. 決まりはありません。翌期に重要な影響を及ぼすリスクがあるものを識別した結果です。1つのこともあれば複数のこともあります。

Q. 主要な仮定はどこまで書きますか。

A. 事業計画にもとづくとだけ書くのでは足りません。何を仮定として置いたかを具体的に書きます。

Q. 金額は前期も書きますか。

A. 条文は当事業年度の金額を求めています。実務では前期と並べる例が多く見られます。

Q. 連結と個別の両方に書きますか。

A. 個別は財規8条の2の4第3項と第4項により、記載を省略したり簡略化したりできます。

Q. 上場準備中から作りますか。

A. Ⅰの部に載せる財務諸表で必要になります。申請期の前から準備してください。

Q. 会社法の計算書類でも書きますか。

A. 会社計算規則102条の3の2により、会計上の見積りに関する注記が求められます。

📄 まとめ

重要な会計上の見積りで書くのは、項目、当期の計上額、そして算出方法と主要な仮定と翌期への影響です。

実務の定型は、(1)金額 (2)理解に資する情報 (3)翌期への影響という三部構成です。項目が複数あればこれを繰り返します。

会計上の見積りの変更とは別ものです。変更がなくても毎期書きます。

いま注記を書いているなら、主要な仮定を具体的に書いたか確かめてください。ここが最も薄くなります。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事に掲載した実際の開示事例は、各社が金融商品取引法にもとづき公衆縦覧に供している有価証券報告書からの引用です。設例として示した文例は、条文の記載事項を確認するために当事務所が作成したもので、会社名と数値は架空です。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の注記の作成にあたっては、監査法人にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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