IFRSの数値は作れるようになった。けれども、注記の作成になると毎回スケジュールが押してしまう——IFRS導入企業の経理部門から、最もよく聞く悩みのひとつです。
日本基準では規則に列挙された注記項目を埋めれば足りていたのに、IFRSでは基準ごとに開示要求が置かれ、必要なデータも子会社から集めなければなりません。「どこまで書けば十分なのか」の基準が見えないまま、監査法人からの追加要請に追われる。そんな状態になっていないでしょうか。
この記事では、IFRSの注記作成を「誰が・いつまでに・何を作るか」に分解し、開示チェックリストの実務的な使い方、EDINETを使った他社開示例の研究方法、そして2027年から適用されるIFRS第18号による注記の変化までを整理します。
この記事でわかること
- IFRSの注記が日本基準より重くなる構造上の理由
- 注記量が増える主要領域と、根拠となる基準・項番
- 注記作成のワークフローと、担当・期限の切り方
- 開示チェックリストの作り方・使い方と、残すべき証跡
- EDINETで他社のIFRS開示例を効率よく探す方法
- IFRS第18号・IFRS第19号が注記に与える影響と適用時期

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この記事の見出し
📊 なぜIFRSの注記は「量が多い」と言われるのか
IFRSの注記が重い、という実感には公的な裏づけがあります。金融庁が2015年4月15日に公表した「IFRS適用レポート」では、任意適用企業へのヒアリング結果として、IFRSは注記の開示内容が多く、従来よりも膨大なデータを使用するため、当初は監査法人からの質問事項が多く対応に多くの時間を要した、という趣旨の記載があります。また、開示量が多いことから外部アドバイザーを活用したという企業の声や、移行のデメリットとして実務負担の増加を挙げた企業が27社にのぼったこと、継続的な負担として開示量の増加や日本基準との並行開示が挙げられたことも同レポートに記載されています。
「列挙型」の日本基準と「目的+要求型」のIFRS
この負担感の正体は、注記の定め方の違いにあります。日本の連結財務諸表規則は、注記事項を条文で個別に列挙する構造です。たとえば重要な会計方針は第13条、重要な会計上の見積りは第13条の2、未適用の会計基準等は第14条の4、リースは第15条の3、金融商品は第15条の5の2、税効果会計は第15条の5、退職給付は第15条の8、資産除去債務は第15条の23、収益認識は第15条の26、といった具合です(連結財務諸表規則ガイドラインで条番号を確認しています)。作成者は条文をたどれば「求められている注記の一覧」を作ることができます。
一方IFRSは、各基準の末尾に「開示(Disclosure)」の章が置かれ、多くの場合その冒頭に開示目的が示されます。たとえばIFRS第16号「リース」は第51項で、リースが財政状態・経営成績・キャッシュ・フローに与える影響を財務諸表利用者が評価できる情報を開示する、という目的を掲げたうえで、第53項以下に具体的な開示項目を並べています。目的が示されているということは、列挙された項目を機械的に埋めるだけでは足りない場合があり得る、ということでもあります。IFRS第16号第59項が、目的を達成するために必要な場合には追加の定性的・定量的情報を開示することを求めているのは、その典型です。
図1:注記の定め方の違い。日本基準は条文の列挙、IFRSは基準ごとの開示目的と要求項目の組み合わせで構成される。
データの粒度が変わることが本当の負担
もうひとつ見落とされがちなのが、注記に必要なデータの粒度です。日本基準で必要だった集計値では足りず、たとえば収益を財・サービスの種類や地域といった軸で分解した情報、リース資産を原資産のクラス別に集計した情報、金融資産を信用リスクの格付区分別に集計した情報などが求められます。これらは会計システムの残高からは自動で取れないことが多く、連結パッケージの様式そのものを作り替える必要が生じます。注記が重い、と感じる負担の相当部分は、実は文章を書く作業ではなくデータを集める作業なのです。連結パッケージの設計については第13回 連結パッケージのIFRS対応で詳しく扱っています。
🧾 注記量が増える主要領域と根拠となる規定
注記の負担は全領域に均等に分散するわけではありません。実務上、重量級になりやすい領域はおおむね決まっています。ここでは主要な6領域について、根拠となる基準の項番と、必要になるデータを整理します。
図2:注記量が増えやすい6領域と、根拠となる基準・項番のマップ。上段3領域は特にデータ収集の負荷が高い。
領域別に必要となるデータ
| 領域 | 主な開示要求(項番) | 集めるべきデータ |
|---|---|---|
| 金融商品 IFRS第7号 |
財政状態・業績に対する重要性(第7項)とリスクの性質・程度(第31項)の2本柱。定性的開示(第33項)、定量的開示(第34項)、信用リスクと予想信用損失(第35A項以降。引当金の調整表、格付区分別の総額、担保等)、流動性リスクの残存契約満期分析(第39項)、市場リスクの感応度分析(第40項・第41項) | 債権の格付・滞留区分別残高、貸倒引当金の増減内訳、借入金の契約上の満期別キャッシュ・フロー、為替・金利の変動が損益に与える影響の試算 |
| 収益 IFRS第15号 |
収益の分解(第114項・第115項)、契約残高=債権・契約資産・契約負債の期首末残高と期首契約負債から認識した収益(第116項〜第118項)、残存履行義務に配分した取引価格と認識時期(第120項。1年以内の契約等には第121項の便法) | 収益の分解軸(財・サービスの種類、地域、顧客区分、収益認識の時点/期間)、契約資産・契約負債の残高、受注残の金額と履行予定時期 |
| 減損 IAS第36号 |
クラス別の減損損失・戻入(第126項)、報告セグメント別(第129項)、重要な個別減損の事象・金額・回収可能価額の別・評価技法・割引率(第130項)、のれん等を配分したCGUの算定基礎・主要な仮定・予測期間・成長率・割引率・感応度(第134項)、複数CGUの合算開示(第135項) | CGUの区分とのれんの配分額、事業計画(予測期間・成長率)、割引率の算定根拠、主要な仮定を変動させた場合の回収可能価額の試算 |
| リース IFRS第16号 |
開示目的(第51項)、単一の注記への集約(第52項)、使用権資産の減価償却費など10項目(第53項)、表形式による表示(第54項)、リース負債の満期分析(第58項)、目的達成に必要な追加情報(第59項)、便法の適用の開示(第60項) | 原資産のクラス別の使用権資産残高と減価償却費、リース負債の利息費用、短期・少額リースの費用、変動リース料、サブリース収益、リース負債の年度別返済予定 |
| 公正価値 IFRS第13号 |
レベル1〜3の区分、レベル1・2間の振替、評価技法とインプット、レベル3の期首期末の調整表、レベル3の感応度、非金融資産の最有効使用(第93項) | 各金融商品のレベル判定の根拠、レベル3の評価に用いた観察不能インプットの定量情報、代替的な仮定を用いた場合の影響額 |
| キャッシュ・フロー IAS第7号 |
財務活動から生じた負債の変動(第44A項〜第44E項。財務CF・支配獲得喪失・為替・公正価値・その他の5区分の調整表)、サプライヤー・ファイナンス契約(第44F項〜第44H項) | 借入金・リース負債の期首から期末までの増減内訳、為替換算の影響額、サプライヤー・ファイナンス契約の対象負債の帳簿価額と支払期日のレンジ |
※ 上表の項番はIFRS財団が公表する基準の内容にもとづき、要旨を独自に整理したものです。基準書の原文は有料ライセンスのため転載していません。適用にあたっては最新の基準書と監査人の見解をご確認ください。
なお、IFRS第7号については2024年5月公表の「金融商品の分類及び測定の改訂」およびIFRS第9号・IFRS第7号を対象とする2024年12月公表の改訂により開示要求が追加されており、いずれも2026年1月1日以後開始する事業年度から適用されます(早期適用可)。IAS第7号のサプライヤー・ファイナンス契約に関する開示(第44F項〜第44H項)は2023年5月公表の改訂によるもので、2024年1月1日以後開始する事業年度から適用されています。導入プロジェクトの途中で新しい開示要求が発効することは珍しくないため、会計方針書と開示チェックリストは「その時点の版」を明記して管理することをおすすめします。
🗒️ 注記作成のワークフロー|誰が・いつまでに・何を作るか
注記作成が遅れる企業に共通するのは、「決算数値が固まってから注記に着手する」という進め方です。IFRSの注記は数値の集計そのものを含むため、この順序では物理的に間に合いません。数値作成と並行して注記のデータを集める設計に変える必要があります。
図3:注記作成の5ステップと担当・期限の目安。日数は3月決算・6月提出を前提とした例示です。
STEP1|データ収集(連結担当・期末+15日)
注記に必要なデータは、決算数値とは別の様式で集めます。連結パッケージに注記用シートを追加し、収益の分解軸、リースのクラス別内訳、債権の格付区分別残高、CGUごとの事業計画などを子会社に記入させます。ここで重要なのは、必要なデータの定義書を先に配ることです。「地域別」の地域が販売先所在地なのか出荷元なのかが子会社ごとに違えば、集計後に手戻りが発生します。
STEP2|注記ドラフト(各注記担当・期末+25日)
注記は一人で書くものではありません。金融商品は資金担当、収益は営業管理担当、減損は経営企画と連携する担当、というように注記単位で担当者を割り当てます。担当者は原稿だけでなく、金額の算定根拠となるワークシートと、参照した基準の項番をセットで残します。この「根拠のセット」があるかどうかで、監査対応の時間は大きく変わります。
STEP3|網羅性チェック(開示責任者・期末+30日)
開示チェックリストを用いて、全項目を照合します。ここは作成者本人ではなく、開示責任者など別の目で行うのが原則です。次の章で詳しく扱います。
STEP4・STEP5|監査人レビューと確定
監査人へは、注記ドラフトと根拠資料をまとめて提出します。初年度は特に、重要性の判断を要する箇所(開示を省略した項目、集約した項目)について事前に論点メモを作って早めに合意しておくことが有効です。監査人との役割分担については第7回 IFRS導入の体制づくりもあわせてご覧ください。
事業内容と直近の財務諸表をお送りいただければ、自社に関係する開示項目だけを抜き出したチェックリストを作ってお返しします。
「地域別」の地域が販売先所在地なのか出荷元なのかが子会社ごとに違えば、集計後に手戻りが発生します。定義書を先に配ることが要点です。
✅ 開示チェックリストの作り方と使い方
開示チェックリスト(ディスクロージャー・チェックリスト)とは、各基準が求める開示項目をすべて一覧化し、自社の注記がそれを満たしているかを一項目ずつ確認するための道具です。監査法人や出版社が提供するものを購入する方法と、自社で作成する方法があります。
自社で作る場合の出発点
自社で作成する場合は、次の2つを出発点にすると効率的です。
- 適用する各基準の「開示」の章を機械的に項目に分解する(IFRS第7号なら第7項以降、IFRS第15号なら第110項以降、というように章単位で洗い出す)
- 金融庁が2016年3月31日に公表した「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」を参照する。表形式の開示例と根拠となるIFRSの規定を結びつけて説明しており、注記の並べ方の参考になる
※ 金融庁の開示例は、同資料自身が明記しているとおり、あくまで例示であって様式・内容を拘束するものではなく、必須の開示を求めるものでもありません。同資料は平成28年3月期までのIFRSの改訂を反映したもので、その後の改訂版は確認できていません。したがって、開示例をそのまま使うのではなく、現行の基準に照らして項目を更新する作業が必ず必要です。
チェックリストの列構成
実務で機能するチェックリストは、少なくとも次の5列を持ちます。
| 列 | 記載内容 | ポイント |
|---|---|---|
| ① 根拠 | 基準番号と項番(例:IFRS第16号 第53項(a)) | 基準の版・年度を明記する。改訂で項番が変わることがある |
| ② 要求事項 | 求められている開示内容の要旨 | 原文を転載せず、自社で理解した表現に置き換える |
| ③ 該当有無 | 該当あり/該当なし/重要性なし | 「該当なし」の理由を必ず一言で書く。空欄にしない |
| ④ 記載場所 | 注記番号とページ、または該当ワークシート名 | 監査人が原稿と根拠をたどれる状態にする |
| ⑤ 確認者・日付 | 作成者と、別の目で確認した者、確認日 | 作成者と確認者を分ける。ここが内部統制上の証跡になる |
チェックリストの限界を理解する
チェックリストは網羅性を担保する道具であって、重要性の判断を代替するものではありません。IFRSでは、IAS第1号第117項が2021年2月公表の改訂により「重要性がある会計方針に関する情報(material accounting policy information)」を開示する要求へと変更され、2023年1月1日以後開始する事業年度から適用されています。定型的な会計方針を長々と並べるのではなく、自社にとって重要性がある情報に絞る、という方向です。
つまり、チェックリスト上の全項目に「記載済」のチェックが入っていても、重要でない情報が重要な情報を覆い隠していれば、開示目的は達成されていないことになります。逆に、機械的に省略した項目が実は重要だった、という失敗も起こり得ます。チェックリストの各行に「なぜそう判断したか」を残す運用にしておくことが、監査対応と翌年度の引き継ぎの両方で効いてきます。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
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🏢 EDINETで他社のIFRS開示例を研究する
注記の書きぶりに迷ったとき、最も実務的な参考資料は同業他社の有価証券報告書です。金融庁のEDINET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の電子開示システム)は届出なしで閲覧でき、書類簡易検索・書類詳細検索・書類全文検索の3つの方法が用意されています。
探し方の手順
| 手順 | やること | 備考 |
|---|---|---|
| ① 対象会社を決める | JPXが公表する「IFRS適用済・適用決定会社一覧」で、同業種・同規模のIFRS適用会社を絞り込む | 2026年7月末現在、IFRS適用済297社・適用決定22社の合計319社(JPX公表) |
| ② 有報を検索する | EDINETの書類簡易検索で提出者名から有価証券報告書を特定する | EDINETの検索機能には会計基準による絞り込み項目がないため、①で会社を特定してから検索するのが確実 |
| ③ 注記を読む | 「第一部【企業情報】第5【経理の状況】」の連結財務諸表注記を確認する | 「経理の状況」の記載は企業内容等の開示に関する内閣府令の第三号様式に定められている |
| ④ 論点で横断検索する | 書類全文検索でキーワード(最大5語のAND条件)と目次範囲を指定し、複数社の同じ注記を並べて読む | 「使用権資産」「予想信用損失」など自社の論点語で検索すると効率がよい |
有価証券報告書の縦覧期間は受理日から5年とされています(EDINETでは法定縦覧期間の満了後も、行政サービスとして一定期間閲覧できる区分が設けられています)。過去数年分をさかのぼれるため、IFRS移行初年度の有報とその翌年の有報を比較すると、初度適用時の開示がその後どう整理されていったかが見えて参考になります。
※ 他社の開示は、あくまで自社の事実関係にあてはめて考えるための参考資料です。文言をそのまま引き写すのではなく、自社の取引実態と基準の要求に照らして必要な情報を判断してください。
📅 初年度の年間スケジュールと社内分担
初年度の注記作成は、決算期に入ってから始めたのでは間に合いません。数値作成と並行して、前年度のうちに注記の設計を終えておくのが理想です。
図4:初年度における注記対応のタイムライン。比較年度のデータ収集が遅れると、初年度末に取り返しがつかなくなります。
初度適用の年度には、IFRS第1号が求める資本と包括利益の調整表も必要になります。これは通常の注記とは性質が異なる作業で、日本基準の数値からIFRSの数値への橋渡しを説明するものです。移行日・遡及適用の考え方については第11回 IFRS初度適用で扱っています。
⏰ IFRS第18号・IFRS第19号で注記はどう変わるか
いま注記の体制を作る企業にとって、避けて通れないのがIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」です。2024年4月に公表され、2027年1月1日以後開始する年次報告期間から適用されます(早期適用可)。IAS第1号を置き換える基準で、注記にも次の3つの大きな変化をもたらします。
| 変更点 | 内容 | 実務への影響 |
|---|---|---|
| 経営者が定義した業績指標(MPM)の注記 | 収益・費用の小計のうち、財務諸表外の公表用コミュニケーションで用いられ、企業全体の財務業績に関する経営者の見方を伝えるもの。定義は第117項、除外される小計は第118項、単一の注記への集約は第122項、各MPMの開示内容(経営者の見解の説明、算定方法、最も直接比較可能なIFRSの小計への調整表、調整項目ごとの税効果と非支配持分への影響)は第123項 | 決算説明資料で使っている「調整後営業利益」等が注記の対象になり得る。IR部門と経理部門の連携が必要になる |
| 集約・分解の要求事項 | 共通の特性をもつ項目は集約し、共通でない特性をもつ項目は分解する(第41項〜第45項)。重要な情報を覆い隠さないこと、忠実なラベル付けを行うこと(第43項。「その他」の使い方には別途の指針あり) | 従来「その他」に含めていた項目の内訳開示が求められる可能性がある。勘定科目体系の見直しにつながることがある |
| 機能別表示時の性質別費用の注記 | 損益計算書で費用を機能別に表示する場合、単一の注記で、機能別の各表示項目に含まれる減価償却費・償却費・従業員給付費用・減損損失(戻入を含む)・棚卸資産の評価減を開示する(第83項) | 費用を機能別(売上原価・販管費等)に集計するだけでなく、機能×性質のマトリクスでデータを持つ必要が生じる |
あわせて、IAS第8号は「財務諸表の作成基礎(Basis of Preparation of Financial Statements)」へ名称が変更され、会計方針の開示要求がIAS第1号第117項系からIAS第8号第27A項〜第27G項へ移管されます。会計方針書や開示チェックリストの参照先を、適用時に一斉に書き換える必要があります。会計方針書の整備については第10回 IFRS会計方針書の作り方をご覧ください。表示区分そのものの変化は第27回 IFRS財務諸表の表示で詳しく整理しています。
IFRS第19号(開示を簡素化できる子会社向けの基準)
2024年5月に公表されたIFRS第19号「Subsidiaries without Public Accountability: Disclosures」は、公的な説明責任を有しない子会社が、認識・測定・表示は他の基準どおりに行いつつ、注記だけを簡素化して作成することを認める開示専用の基準です。適用できるのは、公的な説明責任を有しない子会社で、かつ最終親会社または中間親会社がIFRS会計基準に準拠した一般公開用の連結財務諸表を作成している場合とされています。適用時期は2027年1月1日以後開始する年次報告期間で、早期適用が認められています。2025年8月には、IFRS第18号やIAS第12号のPillar Two関連の改訂などを反映するキャッチアップの改訂が行われています。
※ IFRS第19号については、IFRS財団による公式な日本語訳を確認できなかったため、原語の名称で記載しています。また、日本の連結財務諸表規則にもとづく連結財務諸表の作成に際してどのように取り扱われるかは、指定国際会計基準の告示の内容によります。
日本の告示の状況(2026年8月時点)
日本でIFRSにより連結財務諸表を作成できるのは、連結財務諸表規則第1条の2の要件(有価証券報告書等における「連結財務諸表の適正性を確保するための特段の取組」の記載と、指定国際会計基準に十分な知識を有する役員・使用人を置き適正に作成できる体制の整備)を満たす「指定国際会計基準特定会社」です。ここでいう指定国際会計基準は同規則第312条にもとづき金融庁長官が告示で指定します。
2026年8月時点の告示による指定範囲は「令和7年12月31日までにIASBが公表した国際会計基準」です。これを「令和8年6月30日まで」に更新する改正案が2026年7月10日にパブリックコメントに付されており、公布の日から施行される予定とされています。したがって、IFRS第18号・IFRS第19号のように公表済みで適用がこれからの基準については、日本の告示上の指定状況もあわせて確認する必要があります(IFRS第18号は2024年9月13日公布の告示改正で指定対象に追加されています)。
❓ よくある質問
初年度は、監査法人や出版社が提供する市販のチェックリストを起点にしつつ、自社が適用する基準に絞って再編集する方法が現実的です。市販品は網羅性が高い反面、自社に関係のない項目が大量に含まれ、確認作業が形骸化しやすいためです。2年目以降は、自社版に「該当なしの理由」や「前年からの変更点」を蓄積していくことで、引き継ぎ資料としても機能するようになります。いずれの場合も、基準の改訂に合わせて版を更新する担当者と時期をあらかじめ決めておいてください。
公的資料で定量的に比較した統計は確認できていません。金融庁の「IFRS適用レポート」(2015年4月15日公表)には、IFRSは注記の開示内容が多く従来よりも膨大なデータを使用する、開示量が多いことから外部アドバイザーを活用した、といった任意適用企業の声が記載されていますが、倍率のような数値は示されていません。分量は業種・取引の複雑性・金融商品の保有状況によって大きく変わるため、同業他社の有価証券報告書をEDINETで確認し、自社に近い会社の実例で見積もることをおすすめします。
優先度が高いのは3つです。第一に、決算説明資料やIR資料で使っている独自の業績指標を棚卸しし、MPMに該当し得るものを洗い出すこと。第二に、費用を機能別に表示している場合、機能×性質のマトリクスで費用データを取得できるかを確認すること。第三に、「その他」勘定に含まれている金額の内訳を把握しておくことです。いずれもシステムや勘定科目体系に関わるため、適用直前の対応では間に合わない可能性があります。適用時期は2027年1月1日以後開始する年次報告期間ですが、比較情報の作成が必要になる点にご留意ください。
🗒️ まとめ
- IFRSの注記が重いのは、基準ごとに開示目的と要求項目が置かれ、必要なデータの粒度が細かいため。負担の相当部分は文章作成ではなくデータ収集にある
- 重量級になりやすいのは金融商品(IFRS第7号)・収益(IFRS第15号)・減損(IAS第36号)・リース(IFRS第16号)・公正価値(IFRS第13号)・キャッシュ・フロー(IAS第7号)の6領域
- 注記作成は「データ収集→ドラフト→網羅性チェック→監査人レビュー→確定」の5ステップに分解し、注記単位で担当と期限を割り当てる
- 開示チェックリストは根拠・要求事項・該当有無・記載場所・確認者の5列で運用し、「該当なし」の理由を必ず残す。網羅性の道具であって重要性判断の代替ではない
- 他社開示例はEDINETの書類全文検索が有効。会計基準による絞り込み機能はないため、JPXの適用会社一覧で対象を特定してから検索する
- IFRS第18号(2027年1月1日以後開始年度から適用)により、MPMの注記・集約分解の要求・機能別表示時の性質別費用の注記が加わる。IAS第8号への会計方針開示の移管もあわせて確認する
注記は、IFRS導入プロジェクトの最後に現れる工程でありながら、必要なデータの設計は最初のフェーズで決まってしまいます。連載の全体像はIFRS導入 完全ガイドに、プロジェクトの進め方は第8回 IFRS導入プロジェクトの進め方に、IFRSの全体像は第1回 IFRSとはにまとめています。
📄 参考(公的な一次情報)
- 金融庁「IFRS適用レポート」(2015年4月15日公表)
- 金融庁「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」(2016年3月31日公表)
- 金融庁 EDINET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)
- 金融庁「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」および同ガイドライン、指定国際会計基準に関する告示およびその改正に係る報道発表
- 日本取引所グループ「IFRS適用済・適用決定会社一覧」(2026年7月末現在)、東京証券取引所「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2026年7月31日公表)
- IFRS財団 公表情報(IFRS第7号・第13号・第15号・第16号・第18号・第19号、IAS第1号・第7号・第8号・第36号の各基準ページ)
GAAP差異分析、会計方針書の作成、コンバージョンによる数値作成、注記・開示の作成支援、監査法人対応まで、公認会計士が一貫してお手伝いします。IPOに伴うIFRS導入のご相談もお気軽にどうぞ。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
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