「IFRSに移行したら、損益計算書はどんな形になるのか」。IFRS導入プロジェクトが会計方針の検討を終え、いよいよ数値作成に入る段階で、経理責任者の方から最も多くいただく質問です。
日本基準に慣れた実務では、売上高から始まり営業利益・経常利益・特別損益を経て当期純利益に至る様式が体に染みついています。ところがIFRSには、その「経常利益」も「特別損益」もありません。
本記事では、IFRS財務諸表がどの計算書で構成され、どの表示科目を並べるのか、そして日本基準の各科目をどう組み替えるのかを、公的な一次情報にもとづいて整理します。あわせて、2027年1月1日以後開始する事業年度から適用されるIFRS第18号による損益計算書の構造変更も取り上げます。
この記事でわかること
- IFRSの「完全な1組の財務諸表」が何で構成されるか(IAS第1号第10項)
- 連結財政状態計算書の最低限の表示項目と、流動・非流動区分のルール
- 日本基準の損益計算書からIFRSの損益計算書へ組み替える対応関係
- 経常利益・特別損益が存在しない理由と、旧・特別損益項目の行き先
- IFRS第18号で導入される5つの区分と2つの必須小計、MPMの注記
- 表示科目マッピングを「誰が・いつまでに・何を作るか」で進める手順
この記事の見出し
📄 IFRS財務諸表の構成|「完全な1組の財務諸表」とは
IFRSにおける財務諸表の表示は、IAS第1号「財務諸表の表示」が定めています。同基準の第10項は、完全な1組の財務諸表(a complete set of financial statements)が次の計算書等で構成されると定めています。
5つの計算書と比較情報
第10項が挙げるのは、(a)期末日現在の財政状態計算書、(b)当期の純損益及びその他の包括利益計算書、(c)当期の持分変動計算書、(d)当期のキャッシュ・フロー計算書、(e)重要な会計方針及びその他の説明的情報からなる注記、(ea)前期に関する比較情報、(f)会計方針を遡及適用した場合や項目を遡及的に修正再表示・組替えた場合の前期首(=当期の期首より1年前)の財政状態計算書、の7つです。
※「財政状態計算書」という名称は、2007年9月のIAS第1号改訂により「貸借対照表」から変更されたものです。金融庁「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」(2016年3月31日公表)も、この名称を用いています。なお同基準は、意味が明確である限り他の名称を用いることも認めています。
図1:IFRSの完全な1組の財務諸表(IAS第1号第10項をもとに作成)
1計算書方式と2計算書方式
純損益とその他の包括利益(OCI)の表示については、IAS第1号第10A項が2つの方法を認めています。1つの計算書に純損益の区分とOCIの区分を続けて表示する「1計算書方式」と、独立の純損益計算書を作り、その直後に包括利益計算書を置く「2計算書方式」です。2計算書方式を採る場合、包括利益計算書は当期純損益から始まります。
日本のIFRS適用企業では2計算書方式が広く用いられており、金融庁の開示例も2計算書方式を前提に「連結損益計算書」「連結包括利益計算書」の2表を示しています。日本基準でも連結損益計算書と連結包括利益計算書を分ける実務が一般的なため、移行時の違和感が小さいことが理由の1つと考えられます。
なお第11項は、完全な1組の財務諸表に含まれるすべての計算書を「同等の重要性をもって」表示しなければならないとしています。注記が長いからといって本表を軽く扱ってよい、という考え方は採られていません。
日本のIFRS適用企業では2計算書方式が広く用いられている。金融庁の開示例も2計算書方式を前提に「連結損益計算書」「連結包括利益計算書」の2表を示している。
🏢 連結財政状態計算書の表示|最低限の表示項目と流動・非流動区分
第54項が挙げる18の表示項目
IAS第1号第54項は、財政状態計算書に少なくとも掲記しなければならない項目を(a)から(r)まで列挙しています。有形固定資産、投資不動産、無形資産、金融資産、持分法で会計処理されている投資、生物資産、棚卸資産、営業債権及びその他の債権、現金及び現金同等物、売却目的保有に分類される資産等の合計、営業債務及びその他の債務、引当金、(それ以外の)金融負債、当期税金に係る負債及び資産、繰延税金負債及び繰延税金資産、売却目的保有の処分グループに含まれる負債、資本に表示される非支配持分、親会社の所有者に帰属する発行済資本金及び剰余金、の18項目です。
重要なのは、第57項が「項目を表示する順序や様式は定めていない」と明言している点です。第54項は、性質または機能の違いが大きく区分表示が必要な項目を列挙したものにすぎません。したがって、日本基準の様式のように科目名と配列が細かく規定されているわけではなく、企業が自社の事業内容に応じて設計する余地があります。第55項は、財政状態の理解に関連性がある場合には追加の表示項目・見出し・小計を表示しなければならないと定めています。
| 区分 | 第54項が掲記を求める項目((a)〜(r)の18項目) |
|---|---|
| 資産に関する項目(10) | 有形固定資産/投資不動産/無形資産/金融資産/持分法で会計処理されている投資/生物資産/棚卸資産/営業債権及びその他の債権/現金及び現金同等物/売却目的保有に分類される資産等の合計 |
| 負債に関する項目(6) | 営業債務及びその他の債務/引当金/(それ以外の)金融負債/当期税金に係る負債及び資産/繰延税金負債及び繰延税金資産/売却目的保有の処分グループに含まれる負債 |
| 資本に関する項目(2) | 資本に表示される非支配持分/親会社の所有者に帰属する発行済資本金及び剰余金 |
※第57項は「項目を表示する順序や様式は定めていない」と明言しています。第54項は、性質または機能の違いが大きく区分表示が必要な項目を列挙したものにすぎません。第55項は、財政状態の理解に関連性がある場合には追加の表示項目・見出し・小計を表示しなければならないと定めています。なお当期税金に係る負債及び資産、繰延税金負債及び繰延税金資産は、資産・負債の双方にまたがる項目として列挙されています。
流動・非流動区分と繰延税金の扱い
第60項は、原則として流動資産と非流動資産、流動負債と非流動負債を別々の区分として表示することを求めています。ただし、流動性の順序による表示のほうが信頼性が高くより目的適合的な情報を提供する場合(金融機関などが典型例です)には、すべての資産・負債を流動性の順に表示します。いずれの方法による場合でも、第61項により、12か月以内と12か月超の回収・決済額が混在する表示項目については、12か月超で回収・決済されると見込まれる金額を開示する必要があります。
実務で見落とされやすいのが第56項です。流動・非流動区分による表示を行う場合、繰延税金資産(負債)を流動に分類してはならないと定められています。日本基準でも企業会計基準第28号により非流動区分(投資その他の資産・固定負債)に表示することとされているため結論は同じですが、根拠条文が異なる点は押さえておきたいところです。
流動資産の分類要件は第66項が、流動負債の分類要件は第69項が定めています。いずれも「正常営業循環過程で実現・決済されるか」「主として売買目的で保有しているか」「報告期間後12か月以内か」を軸としており、負債についてはさらに「報告期間の末日現在で少なくとも12か月間決済を延期する権利を有していないか」が加わります。第68項は、正常営業循環期間が明確に識別できない場合には12か月と推定すると定めています。
日本基準の貸借対照表からの主な読み替え
金融庁「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」に示された表示科目を手がかりに、日本基準の連結貸借対照表との対応を整理すると次のとおりです。
| 区分 | 日本基準(連結貸借対照表) | IFRS(連結財政状態計算書) |
|---|---|---|
| 債権 | 受取手形及び売掛金/未収入金 | 営業債権及びその他の債権 |
| 債務 | 支払手形及び買掛金/未払金 | 営業債務及びその他の債務 |
| 有価証券 | 有価証券/投資有価証券 | その他の金融資産(流動・非流動に区分) |
| リース | リース資産/リース債務 | 使用権資産(有形固定資産に含める例が多い)/その他の金融負債 |
| 退職給付 | 退職給付に係る資産・負債 | 退職給付に係る資産・負債(同名だが測定は異なる) |
| 繰延税金 | 繰延税金資産(投資その他の資産) | 繰延税金資産(非流動区分・第56項) |
| 純資産・資本 | 純資産の部(株主資本/その他の包括利益累計額/新株予約権/非支配株主持分) | 資本(資本金/資本剰余金/利益剰余金/自己株式/その他の資本の構成要素/非支配持分) |
※上表は代表的な対応を示したもので、企業の事業内容や重要性の判断により表示科目は異なります。新株予約権のように日本基準では純資産の部に独立表示される項目が、IFRSでは資本の構成要素に含まれるなど、区分の考え方そのものが異なる項目もあります。
📊 連結損益計算書の表示|経常利益と特別損益がないという最大の違い
第82項が求める表示項目
損益計算書について、IAS第1号第82項は、他の基準が要求する項目に加えて次の金額を表す表示項目を含めなければならないとしています。収益、償却原価で測定する金融資産の認識の中止により生じた利得・損失、財務費用、IFRS第9号に従って算定した減損損失(戻入れを含む)、持分法で会計処理されている関連会社及び共同支配企業の純損益に対する持分、税金費用、そして非継続事業の合計に関する単一の金額です。
ここに「営業利益」がない点にお気づきでしょうか。金融庁の開示例も、「IAS第1号では、営業利益を表示することは求められていない」と明記したうえで、実例を参考に営業利益を小計項目として記載する例を示しています。つまり現行のIAS第1号のもとでは、営業利益は第85項にもとづく任意の追加小計という位置づけです。
「異常項目」の表示は禁止されている
日本基準からの移行で最も影響が大きいのが第87項です。「収益又は費用のいずれの項目も、純損益及びその他の包括利益計算書又は注記において異常項目(extraordinary items)として表示してはならない」と定めています。
日本基準の連結損益計算書には、営業外損益の区分と特別損益の区分があり、その結果として「経常利益」という段階損益が生まれます。IFRSにはこれに対応する区分がないため、経常利益も特別損益も表示されません。固定資産売却損益、減損損失、災害による損失、事業構造改善費用といった、日本基準で特別損益に計上していた項目は、その性質に応じて営業損益の中(多くの企業は「その他の収益」「その他の費用」という表示科目を設けています)または金融損益に配分することになります。
ただし、これは「重要な項目を目立たせなくてよい」という意味ではありません。第97項は、収益または費用の項目に重要性がある場合には、その内容と金額を区分して開示しなければならないと定めており、第98項は、棚卸資産や有形固定資産の評価減とその戻入れ、リストラクチャリング、有形固定資産の処分、投資の処分、非継続事業、訴訟の解決、その他の引当金の戻入れを例示しています。日本基準で特別損失に計上していた項目の多くは、IFRSでは注記または追加の表示項目として情報が提供されることになります。
図2:日本基準の損益計算書からIFRSの損益計算書への組替対応(表示科目は金融庁「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」を参考に作成)
費用の分析は「性質別」か「機能別」か
第99項は、純損益に認識した費用の分析を、費用の性質にもとづく分類(性質別)または企業内における機能にもとづく分類(機能別)のうち、信頼性が高く目的適合性がより高い情報を提供する方法で表示しなければならないと定めています。第100項は、この分析を損益計算書上で表示することを推奨しています。
性質別とは、原材料費、従業員給付費用、減価償却費及び償却費といった発生形態別に費用を集計する方法です。機能別とは、売上原価、販売費、一般管理費のように機能ごとに集計する方法で、日本基準の様式に近いのはこちらです。
ここで実務上の負担になるのが第104項です。機能別分類を採用する企業は、費用の性質に関する追加情報を開示しなければならず、その中には減価償却費及び償却費、従業員給付費用が含まれます。日本基準では販売費及び一般管理費の主要な費目を注記する程度でしたが、IFRSでは製造原価に含まれる減価償却費や人件費まで含めて集計する必要があるため、原価計算システムからのデータ抽出方法を移行プロジェクトの早い段階で設計しておくことをおすすめします。
| 観点 | 性質別分類 | 機能別分類 |
|---|---|---|
| 表示科目の例 | 原材料費、従業員給付費用、減価償却費及び償却費、その他の費用 | 売上原価、販売費、一般管理費 |
| 日本基準との近さ | 遠い(製造業では組替の負担が大きい) | 近い(日本基準の様式に類似) |
| 追加の注記 | 不要 | 必要(第104項=減価償却費及び償却費、従業員給付費用を含む性質別情報) |
| 主な論点 | 売上原価が表示されないため、粗利分析を注記等で補う必要がある | 機能への配賦に判断が入る。性質別情報の集計体制が必要 |
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🧾 その他の包括利益(OCI)の表示とリサイクリング
IAS第1号第81A項は、純損益及びその他の包括利益計算書において、純損益、その他の包括利益合計、当期の包括利益(純損益とOCIの合計)を表示することを求めています。さらに第81B項は、当期の純損益と包括利益のそれぞれについて、非支配持分に帰属する部分と親会社の所有者に帰属する部分を区分して表示することを求めています。
第82A項は、OCIの項目を性質別に分類したうえで、(a)その後に純損益に振り替えられることのないもの、(b)特定の要件を満たしたときにその後純損益に振り替えられるもの、の2つにグループ分けして表示することを求めています。前者の代表例は確定給付制度の再測定とその他の包括利益を通じて公正価値で測定すると指定した資本性金融商品の公正価値変動、後者の代表例は在外営業活動体の換算差額とキャッシュ・フロー・ヘッジの有効部分です。
この「振り替えられることのない項目」は、日本基準との差異が特に大きい領域です。日本基準では数理計算上の差異等を退職給付に係る調整額としてOCIに計上したうえで、その後純損益に組み替えます(リサイクリング)。IFRSでは、確定給付制度の再測定はOCIに認識したまま純損益には組み替えられません。詳細は第9回 GAAP差異分析のやり方で整理していますので、あわせてご覧ください。
税効果の表示については、第90項がOCIの各項目(組替調整額を含む)に関連する法人所得税の金額を計算書または注記のいずれかで開示することを求め、第91項が税効果考慮後の純額で表示する方法と、税効果考慮前の金額に税金合計額を単一表示する方法のいずれかを認めています。後者を選ぶ場合は、税金を「振り替えられる可能性のある項目」と「振り替えられることのない項目」に配分する必要があります。
現在の勘定科目一覧をお送りいただければ、IFRSの表示に沿った組替案と、その根拠を科目ごとにお返しします。
日本基準では数理計算上の差異等をOCIに計上したうえで純損益に組み替えますが、IFRSでは確定給付制度の再測定は組み替えられません。
⏰ IFRS第18号で損益計算書はこう変わる(2027年1月1日以後開始事業年度)
IAS第1号はIFRS第18号に置き換わる
IASB(国際会計基準審議会)は2024年4月にIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」を公表しました。IFRS財団の公表情報によれば、同基準は2027年1月1日以後開始する年次報告期間から適用され、早期適用が認められています。IFRS第18号はIAS第1号を置き換えるものですが、IASBはIAS第1号のすべてを見直したわけではなく、純損益計算書に焦点を当てています。IAS第1号の一部の規定はそのままIFRS第18号に引き継がれ、一部はIAS第8号(「財務諸表の作成基礎」に改称)とIFRS第7号「金融商品:開示」へ移されました。
日本での取扱いも確認しておきましょう。金融庁は2024年7月18日、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則に規定する金融庁長官が定める企業会計の基準を指定する件」(平成21年金融庁告示第69号)の一部改正について公表し、IASBが2024年6月30日までに公表した国際会計基準を連結財務諸表規則第312条に規定する指定国際会計基準とすることとしました。この改正で更新された基準として、IFRS第18号の新設、IFRS第19号「公的説明責任のない子会社:開示」の新設、IFRS第7号およびIFRS第9号の改訂が挙げられています。したがって、日本のIFRS任意適用会社もIFRS第18号の適用対象となります。
※金融庁の当該公表資料では、基準名が「財務諸表における表示と開示」と表記されています。本記事では実務で広く用いられている「財務諸表における表示及び開示」の表記を使用しています。なお指定国際会計基準の告示はその後も更新が続いており、直近では2026年7月8日にも改正告示の公布とパブリックコメントの結果が公表されています。
5つの区分と2つの必須小計
IFRS第18号の中核は、収益及び費用を「営業」「投資」「財務」「法人所得税」「非継続事業」の5つの区分に分類したうえで、「営業損益」と「財務及び法人所得税前損益」という2つの小計を必ず表示させる点にあります。IFRS財団が公表した効果分析(Effects Analysis、2024年4月)は、これを新たに定義された3つの区分(営業・投資・財務)と2つの必須小計として整理しています。必ず表示される合計・小計は、営業損益、財務及び法人所得税前損益、当期損益の3つです。
各区分の内容は次のとおりです。営業区分は、投資・財務・法人所得税・非継続事業のいずれにも分類されない収益費用がすべて入る既定(デフォルト)の区分です。効果分析は、営業損益は「継続的」や「反復的」な業績を表す指標ではなく、その期の企業活動の結果の全体像を示すものだと説明しています。投資区分には、関連会社・共同支配企業・非連結子会社への投資、現金及び現金同等物、そして企業の他の資源から概ね独立して個別にリターンを生み出す資産から生じる収益費用が入ります。持分法による投資損益、負債性金融商品からの受取利息、資本性金融商品からの受取配当金、投資不動産の賃貸収益や公正価値変動が例です。財務区分には、資金調達のみを目的とする取引から生じた負債(社債・借入金等)に係る収益費用と、それ以外の負債(営業債務、リース負債、確定給付制度に係る負債など)から生じる利息収益費用および金利変動の影響が入ります。
図3:IFRS第18号の5区分と必須の小計(IFRS財団「Effects Analysis: IFRS 18」2024年4月をもとに作成)
「営業利益」の中身が変わる可能性がある
効果分析が指摘しているとおり、IAS第1号は営業利益の表示を要求も定義もしていません。そのため現在の実務では、営業利益に何を含めるかが企業ごとに異なります。たとえば持分法による投資損益を営業利益に含めている企業もあれば、含めていない企業もあります。IFRS第18号のもとでは、持分法による投資損益は投資区分に分類されるため、営業損益には含まれません。すでにIFRSを適用している企業でも、営業損益の金額そのものが変わる可能性がある点に注意が必要です。
また、EBIT(利払前税引前利益)という指標を用いている企業も多いと思いますが、これもIAS第1号で定義されたものではなく、IFRS第18号の「財務及び法人所得税前損益」とは定義が異なる可能性が高いと効果分析は述べています。
経営者が定義した業績指標(MPM)の注記
IFRS第18号のもう1つの柱が、経営者が定義した業績指標(management-defined performance measures、MPM)の注記です。MPMとは、(1)収益及び費用の小計であり、(2)財務諸表の外部での公表用コミュニケーションで使用され、(3)企業全体の財務業績の一側面に関する経営者の見方を投資家に伝えるために使用され、かつ(4)IFRS第18号に列挙されておらず、IFRS会計基準が明示的に要求するものでもない指標をいいます。調整後営業利益、調整後EBITDAなどが典型例です。
MPMに該当する場合、単一の注記において、それが経営者の見方を示すものであり他社の類似指標と必ずしも比較可能ではない旨の記載、伝えようとしている業績の側面と有用と考える理由、算定方法、IFRSが定める最も直接的に比較可能な小計または合計との調整表(各調整項目の税効果と非支配持分への影響を含む)、税効果の算定方法の説明が求められます。効果分析は、フリー・キャッシュ・フロー、自己資本利益率、ネット・デットのような指標は収益費用の小計ではないためMPMに該当しないとしています。売上総利益や税引前損益もMPMではないと例示されています。
| 項目 | IAS第1号(現行) | IFRS第18号(2027年1月1日以後開始事業年度) |
|---|---|---|
| 区分 | 定めなし | 営業・投資・財務・法人所得税・非継続事業の5区分 |
| 営業損益 | 表示は求められていない(任意の小計) | 必ず表示する(定義が基準で示される) |
| 財務及び法人所得税前損益 | 規定なし | 必ず表示する(一部の金融業を除く) |
| 経営者の業績指標 | 財務諸表外での開示にとどまる | MPMとして単一の注記で開示・調整表を要求 |
| 機能別表示の場合の性質別情報 | 第104項(減価償却費及び償却費、従業員給付費用を含む) | 営業区分の各表示項目について5項目(減価償却費、償却費、従業員給付費用、減損損失、棚卸資産の評価減)を注記 |
| 集約・分解 | 限定的な規定 | 集約・分解の原則を新設。「その他」とラベル付けした項目の開示も要求 |
🗒️ 表示科目マッピングの進め方|誰が・いつまでに・何を作るか
ここからは実務の話です。IFRS移行プロジェクトにおいて、表示科目の設計と組替マッピングは、会計方針の決定(第10回 IFRS会計方針書の作り方)と数値作成(第12回 IFRSコンバージョン実務)の橋渡しにあたる作業です。以下の4ステップで進めるのが一般的です。
図4:表示科目マッピング作成の手順(記載の時期は標準的な進め方の目安であり、実際のスケジュールは案件により異なります)
STEP 1|勘定科目の棚卸(経理部・移行日の6か月前まで)
まず、現行の勘定科目一覧と直近の残高試算表を用意し、勘定科目ごとの残高と発生額を洗い出します。ここで確認したいのは、その勘定科目が「性質の異なる取引の寄せ集めになっていないか」です。たとえば「雑収入」「雑損失」には、営業に関するものと金融に関するものが混在しがちで、IFRSの表示科目に振り分けようとすると分解が必要になります。子会社の勘定科目体系が親会社と異なる場合は、その差異も棚卸の対象です。
STEP 2|表示科目の設計(経理部+外部専門家・4か月前まで)
次に、IAS第1号第54項・第82項の要求項目を出発点として、自社の財政状態計算書・損益計算書に並べる表示科目を決めます。ここで決めるべき論点は、費用の分析を性質別と機能別のどちらにするか、営業利益を小計として表示するか、流動性配列法と固定性配列法のどちらを採るか、といった点です。あわせて、各表示科目に「何を含めて何を含めないか」を文章で定義した科目定義書を作成します。この文書がないと、決算のたびに判断がぶれ、期間比較可能性を損ないます。
STEP 3|マッピング表の作成(経理部・3か月前まで)
勘定科目とIFRS表示科目の対応表を作成します。1対1で対応しない科目(1つの勘定科目を複数の表示科目に分解するもの、複数の勘定科目を1つに集約するもの)には、分解・集約のルールと按分根拠を明記します。ここで作った対応表は、そのまま連結パッケージの設計に反映させます。連結パッケージの詳細は第13回 連結パッケージのIFRS対応で解説しています。
STEP 4|監査人との協議(CFO・経理部長・2か月前まで)
表示は、会計処理そのものより主観の入る余地が大きい領域です。特に、旧・特別損益項目をどの表示科目に含めるか、営業損益に何を含めるかについては、監査人と早期に認識をそろえておかないと、決算直前の手戻りが発生します。本表のドラフトと科目定義書をセットで提示し、書面で合意しておくことをおすすめします。
表示・組替のチェックリスト
- IAS第1号第54項・第82項の要求項目がすべて表示または注記に反映されているか
- 繰延税金資産・負債を流動区分に含めていないか(第56項)
- 異常項目・特別損益に相当する区分を残していないか(第87項)
- 機能別分類の場合、減価償却費及び償却費、従業員給付費用の性質別情報を集計できるか(第104項)
- OCIを「振替なし」「振替あり」の2グループに区分しているか(第82A項)
- 比較情報(前期)と、必要な場合の前期首の財政状態計算書を作成しているか(第10項)
- IFRS第18号適用に向けて、営業損益の定義変更による影響を試算したか
- 投資家向け説明資料で使っている調整後利益がMPMに該当しないか確認したか
科目定義書がないと決算のたびに判断がぶれ、期間比較可能性を損ないます。監査人とは書面で合意しておくことをおすすめします。
⚖️ よくある質問
現行のIAS第1号では、営業利益の表示は求められていません(金融庁「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」も同旨を明記しています)。実務上は第85項にもとづく任意の小計として表示している企業が多い状況です。ただしIFRS第18号が適用される2027年1月1日以後開始する事業年度からは、営業損益が必須の小計となり、その定義も基準で示されます。
IFRSには特別損益の区分がないため(第87項)、減損損失は原則として営業損益の中に含めて表示されます。多くの企業は「その他の費用」という表示科目を設けています。ただし、金額に重要性がある場合には、第97項により内容と金額を区分して開示する必要があります。減損の会計処理そのものについては第18回 IAS36減損会計をご覧ください。
日本取引所グループ(JPX)が公表する「IFRS適用済・適用決定会社一覧」によれば、2026年7月末現在で適用済297社、適用決定22社の合計319社です。なお東京証券取引所が2026年7月31日に公表した「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析(2026年3月決算会社まで)では、適用済・適用決定・適用予定を合わせて318社とされています。集計時点と集計対象が異なるため、引用の際は出典と時点を明記することをおすすめします。
💰 まとめ
IFRSの財務諸表は、財政状態計算書・純損益及びその他の包括利益計算書・持分変動計算書・キャッシュ・フロー計算書・注記の5つに、比較情報と(必要な場合の)前期首の財政状態計算書を加えた「完全な1組」で構成されます。財政状態計算書には第54項の18項目、損益計算書には第82項の項目を最低限表示する必要がありますが、順序や様式は基準では定められておらず、企業が設計します。
日本基準との最大の違いは、経常利益と特別損益に相当する区分がないことです。第87項が異常項目としての表示を禁じているため、従来の特別損益項目は性質に応じて営業損益または金融損益へ配分されます。そのうえで、重要性がある項目は第97項により区分開示されます。
さらに2027年1月1日以後開始する事業年度からはIFRS第18号が適用され、営業・投資・財務・法人所得税・非継続事業の5区分と、営業損益および財務及び法人所得税前損益という2つの必須小計が導入されます。これから移行する企業は、現行のIAS第1号に沿った表示科目を設計しつつ、IFRS第18号への対応も見据えて連結パッケージやシステムの設計を行うのが効率的です。連載の全体像はIFRS導入 完全ガイドから、導入プロジェクトの進め方は第8回 IFRS導入プロジェクトの進め方から、IFRSの全体像は第1回 IFRSとはからご確認ください。次回は、注記・開示の作成実務を取り上げます。
🗒️ 参考(公的な一次情報)
・IFRS財団「IFRS 18 Presentation and Disclosure in Financial Statements」/同「IAS 1 Presentation of Financial Statements」/同「Primary Financial Statements(完了プロジェクト)」
・金融庁「指定国際会計基準を指定する件の改正について」(令和6年7月18日)/同「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」(2016年3月31日)
・日本取引所グループ「IFRS適用済・適用決定会社一覧」/同「『会計基準の選択に関する基本的な考え方』の開示内容の分析について」(2026年7月31日)
※IFRS会計基準の原文は有料ライセンスの対象であるため、本記事では基準番号・正式名称・項番と要旨のみを独自の表現で記載しています。
表示科目の設計、GAAP差異分析、コンバージョンによる数値作成、注記開示のドラフト作成、監査人対応まで、公認会計士が伴走支援します。IPO準備と並行したIFRS導入のご相談も承っています。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
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