FFFホールディングスのTOKYO PRO Market上場|A種類株式の転換と持株会社【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月7日時点の公表資料に基づきます。

※本記事は、FFFホールディングス株式会社が東京証券取引所に提出・公表した「発行者情報」(2026年4月9日公表)及び「訂正発行者情報」(2026年4月22日公表)の公開情報と、日本取引所グループ(JPX)が公表しているTOKYO PRO Marketの制度資料に基づき、上場準備の実務解説を目的として作成したものです。投資の勧誘を目的とするものではありません。

FFFホールディングス株式会社(証券コード565A)は、2026年4月9日に上場申請が受け付けられ、4月23日に上場承認を受けて、2026年5月1日に東京証券取引所のプロ向け市場であるTOKYO PRO Market(TPM)に上場しました。担当J-Adviserは株式会社日本M&Aセンターです。同社グループは、1948年3月に福岡市で管工事資材の卸販売業として創業し、TOTOの特約店として九州一円に拠点を広げてきた住宅設備機器の商社グループです。2020年4月に持株会社体制へ移行し、現在は持株会社の当社と連結子会社6社、非連結子会社1社で「住宅設備機器事業」と「リフォーム・建築事業」を営んでいます。本記事では、同社が上場時に公表した書類を読み、上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が参考にできるポイントを整理します。

結論からいえば、FFFホールディングスの事例は「創業78年の老舗企業が、公募・売出しを行わずに発行者情報の形で情報を公表し、投資育成会社が保有していたA種類株式を普通株式へ転換したうえでTPMに上場した事例」として、上場前の株式の整理、1期分の監査、持株会社グループの管理体制、M&Aの会計処理を具体的に学べるケースです。新興のベンチャー企業ではなく、売上高140億円規模の地方の中堅企業がTPMを使った例でもあり、管理体制の高度化を考えるオーナー企業にとっても参考になる点が多くあります。

FFFホールディングスとTOKYO PRO Market上場の概要

まず、会社と上場の基本情報を確認します。同社の決算期は9月で、上場時の書類には第74期(2024年10月1日〜2025年9月30日)の連結財務諸表が掲載されています。主要な経営指標は第72期から第74期までの3期分が示されていますが、監査を受けているのは第74期の連結財務諸表のみで、第72期・第73期は監査を受けていない旨が注記されています。

項目 内容
会社名 FFFホールディングス株式会社(FFF Holdings Co.Ltd)
証券コード 565A
市場 TOKYO PRO Market(東京証券取引所)
申請受付日 2026年4月9日(同日に発行者情報を公表)
上場承認日 2026年4月23日
上場日 2026年5月1日
担当J-Adviser 株式会社日本M&Aセンター
上場時の書類 発行者情報(特例110条3項による「発行者情報に相当する情報」)、訂正発行者情報(2026年4月22日)
公募・売出し なし(特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を実施しない)
本店所在地 福岡県福岡市中央区赤坂1丁目2番7号
代表者 代表取締役CEO 中村 克久
創業 1948年3月(1951年11月に株式会社へ改組)
決算期 9月(第74期:2024年10月〜2025年9月)
グループ 当社+連結子会社6社+非連結子会社1社
従業員数 連結179名(2026年3月31日現在、臨時雇用者は別に年間平均1名)、当社22名
第74期の業績(連結) 売上高14,073,467千円、経常利益99,134千円、親会社株主に帰属する当期純利益59,796千円
監査法人 協立監査法人(第74期の連結財務諸表を監査)

上場までの日程は次の図のとおりです。2026年4月9日に申請が受け付けられ、同日に発行者情報が公表されました。その後、4月22日に事業等のリスクの一部を訂正する訂正発行者情報が公表され、翌23日に上場承認、5月1日に上場という流れです。申請受付日から上場承認日までは暦日で14日で、TPMでは東証が「原則として上場申請から10営業日後に上場を承認」するとされていることと整合する日程です。

FFFホールディングスの上場までの日程(2026年)2026年4月9日申請受付・発行者情報公表2026年4月22日訂正発行者情報公表2026年4月23日上場承認2026年5月1日TPM上場申請受付から上場承認まで14日、上場承認から上場日まで8日(いずれも暦日)公募・売出し(特定投資家向け取得勧誘等)は行わずに上場

図1 発行者情報・訂正発行者情報の公表日と、JPXの新規上場会社情報の申請受付日・上場承認日・上場日をもとに作成

なお、同社は上場に際して公募による新株発行も売出しも行っていません。TPMへの上場は、それ自体が資金調達を意味するわけではないという点を、最初に押さえておくとよいでしょう。上場予定日から12か月間の運転資本については、「現状の自己資金及び金融機関からの借入による資金調達が可能であることから十分である」と記載されています。

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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか

上場準備を考える方が最も知りたいのは、「なぜグロース市場やスタンダード市場ではなくTPMなのか」という点だと思います。ただし、同社の発行者情報には、TPMを選んだ理由や上場の目的をまとめて説明した項目はありません。上場に関連する目的が書かれているのは、重要な後発事象に記載された株式分割と単元株制度の採用の目的(「当社株式の流動性向上と投資家層の拡大を図ること」)くらいです。したがって本記事では、同社がTPMを選んだ理由を推測することはせず、TPMという市場の一般的な特徴を整理するにとどめます。

東京証券取引所は2026年4月3日、TPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ直し、新規上場時に「なぜTPMに上場するのか、どう活用するのか」という上場目的を検討・開示するよう要請しています(「上場目的の開示のお願い」)。これは東証の要請であり、規程上の義務ではありません。東証が2026年6月15日時点で集計した上場目的の内訳では、社内体制強化・営業力強化・採用力強化が上位で、「増資」を挙げた会社は11社(10%)にとどまっています。TPM上場を、管理体制の整備や営業・採用の後押しの契機として使う会社が多いことがうかがえます。上場目的の開示はTDnetで行うものとされており、本記事は発行者情報の記載の範囲で読むため、同社の上場目的の開示の内容は扱いません。

TPMの特徴として押さえておきたいのは、次の4点です。第一に、株主数・流通株式・利益の額などの形式基準(数値基準)がないこと。第二に、上場適格性の調査・確認を担当J-Adviserが行うこと。第三に、上場前の監査期間が「最近1年間」であること。第四に、市場の参加者が特定投資家等に限られ、一般投資家は買付けができない(保有株式の売却は可能)ことです。同社のように公募・売出しをせずに上場する場合、上場時の開示書類も一般市場とは異なります。

上場時に公表する書類はどう決まるか(同社のケース)上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行うか行う場合特定証券情報を提供・公表(金融商品取引法27条の31)同社:行わない特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表上場後は年次・中間の発行者情報を、各期末後3か月以内に公表(年2回)財務諸表には監査証明、中間は中間監査意見又はレビューの結論が必要行う行わない

図2 金融商品取引法27条の31と、発行者情報の表紙「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成

同社の発行者情報の表紙には、「上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないことから、特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例第110条第3項の規定により、発行者情報に相当する情報を公表いたします」と書かれています。金融商品取引法27条の31では、特定投資家向けの取得勧誘・売付け勧誘等を行う発行者は、勧誘時までに特定証券情報を提供・公表しなければならないとされています。同社は勧誘自体を行わないため、上場時の書類は「特定証券情報」ではなく「発行者情報」という名称になっているわけです。

TOKYO PRO Marketの上場の仕組みを同社の記載で確認する

TPMには、一般市場のような形式基準はありません。その代わりに、東証から資格認証を受けたJ-Adviserが、上場申請会社の上場適格性を調査・確認します。JPXの「上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」では、上場適格性要件として、企業としての相応性、事業の公正・忠実な遂行、企業の規模や成熟度等に応じたコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制、適正な開示を行える体制、反社会的勢力との関係がないことその他公益又は投資者保護の観点から必要な事項、の5項目が示されています。

TOKYO PRO Marketの上場手続と上場適格性要件J-Adviser契約・調査意向表明申請の約30営業日前まで上場申請特定証券情報等を公表上場承認原則申請から10営業日後上場日担当J-Adviser(J-QS)が上場適格性を調査・確認し「上場適格性に係る宣誓書」を作成東証も意向表明後に面談を行う(「審査がない市場」ではない)上場適格性要件(5項目)企業としての相応性事業の公正・忠実な遂行ガバナンス・内部管理体制適正な開示を行える体制反社会的勢力との関係なし等

図3 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する

「形式基準がない」ことは「審査がない」ことを意味しません。担当J-Adviserの調査・確認(ガイドブックの図では約30営業日)を経て、上場申請日の30営業日程度前までに意向表明を行い、東証による担当J-QSとの面談などを経て上場申請に至ります。同社の発行者情報に運転資本が上場予定日から12か月間十分である旨が記載されているのも、上場適格性要件の「企業としての相応性」で上場予定日から12か月間の運転資金の確保が確認項目とされていることと対応しています。

J-Adviserの役割は上場前に限りません。上場後も、適時開示についての助言・指導や、上場維持要件への適合状況の調査を担います。JPXは、J-Adviser制度は上場会社やその取締役の義務を減免するものではないと説明しています。同社の発行者情報の冒頭にある「投資者に対する注意事項」でも、TPMの上場会社は特例に従って各上場会社のために行動するJ-Adviserを選任する必要があり、その役割には上場適格性要件に関する助言・指導と上場申請手続のマネジメントが含まれると説明されています。J-Adviserは一般市場でいう主幹事証券とは別の概念で、同社の担当J-AdviserもM&A仲介会社である日本M&Aセンターです。

担当J-Adviser契約の解除と上場廃止の関係担当J-Adviser契約(日本M&Aセンター)即日無催告解除債務超過・銀行取引停止・破産手続等・虚偽記載など事前催告による解除義務違反に対し1ヵ月の期間を定めて書面で催告合意解除・通知解除合意でいつでも解除可1ヵ月前の書面通知でも可解除する場合、J-Adviserは予め東証に通知する他のJ-Adviserを確保できない場合TOKYO PRO Marketから上場廃止同社は、公表日現在で解除条項に該当する事象は生じていないと記載しています

図4 発行者情報「事業等のリスク(10)担当J-Adviserとの契約の解除に関するリスクについて」をもとに作成

同社の「事業等のリスク」には、担当J-Adviser契約の解除条項が詳しく転記されています。債務超過、銀行取引の停止、破産手続等、事業活動の停止、不適当な合併等、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、反社会的勢力の関与など、即日無催告で解除できる事由が①から⑱まで列挙されています。さらに、義務違反に対して1ヵ月の期間を定めて書面で催告する解除、合意による解除、1ヵ月前の書面通知による解除の定めもあります。J-Adviser契約は上場維持の前提であり、契約が解除されて他のJ-Adviserを確保できない場合、株式はTPMから上場廃止になります。一般市場の上場会社にはない、TPM特有のリスクです。なお、同社は公表日現在で解除条項に該当する事象は生じていないと記載しています。

一般市場(グロース・スタンダード)との違い

TPMと一般市場の違いを、JPXの公表資料をもとに表にまとめます。同社の事例を読むときは、「一般市場ならこうなる」という感覚で読まないことが大切です。たとえば、同社は監査を受けた財務諸表が直前1期分だけですが、TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」であり、制度に沿った姿です。

項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード)
市場の性格 特定投資家等向けの市場(法令上は特定取引所金融商品市場)。一般投資家は買付け不可、保有株式の売却は可能 投資家の制限なし
形式基準 なし(株主数・流通株式・利益の額等の数値基準なし) 株主数・流通株式等の形式基準あり
上場適格性の確認 担当J-Adviserが調査・確認し宣誓書を提出。東証も面談を実施 東証の上場審査(主幹事証券の引受審査も)
上場承認までの期間 上場申請から原則10営業日後に承認 東証の上場審査を経て承認
上場前の監査期間 最近1年間 直前2期
上場時の開示書類 特定証券情報(勧誘をしない場合は発行者情報に相当する情報) 有価証券届出書・新規上場申請のための有価証券報告書等
上場後の法定開示 発行者情報(年次・中間、各期末後3か月以内) 有価証券報告書・半期報告書
四半期開示 任意 四半期決算短信(取引所規則)
内部統制報告書 任意 提出が必要
会計基準(開示言語) 日本基準・米国基準・IFRS及び同等と認められた基準(英語又は日本語) 日本基準・米国基準・IFRS等
J-Adviser 契約の維持が上場維持の前提 制度なし
コーポレートガバナンス・コード JPXのCGコードのページはTPMへの適用に言及していない グロース:基本原則/スタンダード:全原則

表のとおり、TPMは「開示や監査の負担を一般市場より軽くしたプロ向け市場」です。ただし、上場適格性要件には「企業の規模や成熟度等に応じた」ガバナンス・内部管理体制の整備・運用が含まれ、上場後も適時開示や年2回の発行者情報の公表が必要です。決算情報の適時開示も求められます。「上場会社としての規律」がかかる点は一般市場と同じだと考えておくべきでしょう。

事業内容と収益モデル

同社グループの事業は、工事業者向けに住宅設備機器を販売するBtoBの「住宅設備機器事業」と、エンドユーザー向けにリフォームや戸建住宅を提供するBtoCの「リフォーム・建築事業」の2つです。発行者情報では、BtoCについて「一般的な個人向けを意味するものの、当社では企業を含んだエンドユーザーを指して」いると定義しています。当社(FFFホールディングス)は持株会社として、グループ各社への経営指導と不動産の賃貸を行い、外部のテナントにも不動産を賃貸しています。

FFFホールディングスのグループ構成FFFホールディングス持株会社:経営指導・不動産賃貸住宅設備機器事業(BtoB)リフォーム・建築事業(BtoC)冨治商会(100%)福岡市・中核子会社大牟田バルブ(100%)大牟田市・管材姉川商会(100%)福岡市東区・管材東洋商会(100%)那覇市・2024年10月取得TOTO水彩プラザふじ(85.7%)福岡市友建設(100%)熊本市・戸建住宅子育ての家(100%・非連結)長崎市その他:当社が外部テナントへ不動産を賃貸(本社ビル上層部のマンション等)

図5 発行者情報「事業の内容」「関係会社の状況」をもとに作成。括弧内は議決権の所有割合

中核子会社は株式会社冨治商会です。2020年4月の吸収分割で、グループ経営管理事業と不動産賃貸事業を除く一切の事業を承継した会社で、特定子会社に該当します。最近連結年度の冨治商会の売上高は10,714,407千円で、連結売上高14,073,467千円の大半を占めます。冨治商会はトイレ・キッチン・バスルームなどの水回り、内装、空調、照明などの住宅設備機器を国内外のメーカー等から調達し、建設工事の元請業者などに提供しています。ゼネコン向けには据え付け工事も行い、特約代理店として二次店卸販売店向けにも販売しています。大牟田バルブと姉川商会はバルブや配管機器などの管材を給排水工事店などに販売し、2024年10月に取得した沖縄県の東洋商会は住宅設備機器の販売から施工までを手がけています。

住宅設備機器事業の商流と特約代理店会メーカー500社以上TOTO・LIXIL等当社グループ冨治商会ほか販売先二次店卸販売店ゼネコン(据え付け工事も)給排水設備工事店住宅会社・設計事務所 等冨治商会特約代理店会:正会員(九州一円の二次店卸販売店25社)賛助会員(TOTO・LIXIL等の仕入先メーカー)・特別会員(冨治商会)商品及び材料仕入額の48.23%(2025年9月期、連結)がTOTO株式会社からの仕入仕入販売

図6 発行者情報「事業の内容」「事業等のリスク」をもとに作成

住宅設備機器事業の特徴は、メーカーと販売店をつなぐネットワークです。冨治商会は「冨治商会特約代理店会」として、九州一円の二次店卸販売店25社(正会員)と、TOTO、パナソニックリビング九州、ノーリツ、ダイキンHVACソリューション九州、コロナ、日本イトミック、クリナップ、LIXIL、タカラスタンダード、リンナイなどの主要メーカー(賛助会員)によるネットワークを構築しています。取り扱うメーカーは500社以上です。一方で、連結の商品及び材料仕入額の48.23%(2025年9月期)がTOTOからの仕入であり、TOTOとの特約代理店契約は「重要な契約等」にも記載されています。

リフォーム・建築事業は、TOTO水彩プラザふじ(議決権の所有割合85.7%)、友建設、子育ての家の3社が担います。TOTO水彩プラザふじは2000年8月に東洋陶器(現TOTO)との共同出資で設立された会社で、TOTOの正規代理店として水回りのリフォームや修理・取替を行っています。友建設は熊本で戸建住宅の企画・施工販売を、子育ての家は長崎で土地探しや住宅ローンのシミュレーションなどのコンサルティングと企画住宅の設計プランの販売を行っています。子育ての家は施工には関与せず、施工業者が施主と直接契約する形です。第74期の販売実績は、住宅設備機器事業13,109,954千円、リフォーム・建築事業856,344千円、その他(賃貸不動産収入)107,168千円です。売上高の10%以上を占める顧客はなく、海外売上もありません。

沿革と上場までの道のり

同社グループは、1948年3月に中村冨久治氏が「中村冨商会」の商号で管工事資材の卸販売業を始めたことに始まります。発行者情報には、戦後の復興のなかで住宅事業が将来伸びると考えて創業した経緯が記されています。1951年11月に株式会社冨治商会に改組し、1953年12月に東洋陶器(現TOTO)と特約店契約を締結しました。その後、鹿児島・宮崎・都城・熊本・佐賀・大分・長崎と九州各地に営業所を開設し、1964年4月には松下電器産業(現パナソニック)と代理店契約を結んでいます。

創業から上場までの主な沿革1948年3月中村冨商会として創業1951年11月株式会社冨治商会設立1953年12月東洋陶器と特約店契約2000年8月TOTO水彩プラザふじ設立2006〜07年管材卸2社を子会社化2017年9月A種類株式を投資育成へ割当2020年4月持株会社体制へ移行2022年9月友建設を子会社化2024年10月東洋商会を子会社化2026年5月1日TOKYO PROMarket上場創業から78年で上場。持株会社化の前後からM&Aでグループを広げてきた

図7 発行者情報「沿革」「発行済株式総数、資本金等の推移」をもとに作成

2000年代以降は、子会社の設立や買収でグループを広げてきました。2000年にTOTO水彩プラザふじを設立し、2006年に大牟田バルブ、2007年に姉川商会を完全子会社化しています。2017年9月には大阪中小企業投資育成株式会社にA種類株式を割り当て、2019年7月に冨治商会分割準備株式会社を設立したうえで、2020年4月に吸収分割で事業を承継させ、商号をFFFホールディングス株式会社に変更して持株会社体制へ移行しました。持株会社化の後も、2021年12月に小川の家(現 子育ての家)、2022年9月に友建設、2024年10月に東洋商会を取得しています。創業から78年目の2026年5月にTPMへ上場したことになります。

上場準備の観点では、持株会社体制への移行やM&Aを重ねた会社は、子会社管理の体制、グループ内取引の整理、連結決算の早期化といった論点を上場前に整えておく必要があります。同社の「対処すべき課題」にも、内部管理体制及びコーポレート・ガバナンスの強化、事業グループ間のDX環境整備、グループ内に分散した在庫のバックヤードの集約が挙げられています。

業績の推移と読み方

主要な経営指標の推移は次のとおりです。繰り返しになりますが、第72期・第73期の連結財務諸表は監査を受けておらず、監査を受けているのは第74期のみです。

項目(連結) 第72期(2023年9月) 第73期(2024年9月) 第74期(2025年9月)
売上高(千円) 13,558,558 13,399,197 14,073,467
経常利益(千円) 100,988 135,854 99,134
親会社株主に帰属する当期純利益(千円) 51,566 121,057 59,796
包括利益(千円) △117,204 329,551 △47,890
純資産額(千円) 1,449,402 1,772,054 1,716,549
総資産額(千円) 8,889,711 9,098,331 9,359,788
自己資本比率(%) 16.2 19.3 18.2
自己資本利益率(%) 3.6 6.9 3.5
営業活動によるCF(千円) 316,751 △139,244 △204,462
投資活動によるCF(千円) △166,569 △168,917 △565,436
財務活動によるCF(千円) 510,086 24,879 551,963
従業員数(名) 164〔1〕 165〔1〕 180〔2〕
連結業績の推移(第72期〜第74期)売上高(百万円)04,0008,00012,00016,000第72期第73期第74期経常利益・当期純利益(百万円)04080120160第72期第73期第74期経常利益親会社株主に帰属する当期純利益

図8 発行者情報「主要な経営指標等の推移」をもとに作成(百万円未満四捨五入)。第72期・第73期は監査を受けていない

第74期は、連結対象会社の増加(東洋商会の連結)と販売価格への転嫁により、売上高が前期比5.0%増の14,073,467千円、売上総利益が21.2%増の2,077,398千円となりました。営業利益は75,002千円(前期6,584千円)に増えた一方、経常利益は99,134千円(前期比27.0%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は59,796千円(同50.6%減)でした。営業利益が増えたのに経常利益が減った理由は、営業外損益を見ると分かります。

第74期:営業利益から経常利益まで(百万円)営業利益75受取配当金+37仕入割引+42その他収益+15支払利息-54その他費用-16経常利益99

図9 発行者情報の連結損益計算書をもとに作成(百万円未満四捨五入)。仕入割引と受取配当金が営業外収益の中心

第73期は受取配当金が126,205千円あり、そのうち100,000千円は関係会社(非連結子会社)からの受取配当金でした。第74期は受取配当金が36,512千円(うち関係会社3,100千円)に減り、支払利息は32,211千円から53,985千円に増えています。卸売業らしい項目として、仕入割引が41,989千円計上されている点も目を引きます。本業の利益が小さい会社では、営業外損益の動きで経常利益が大きく振れることがあり、業績を説明するときには「どの段階の利益が、何によって動いたか」を分けて示すことが大切です。

第74期:セグメント利益から営業利益まで(百万円)住宅設備機器497リフォーム・建築+25その他(賃貸)+50全社費用-497営業利益75

図10 発行者情報「セグメント情報」をもとに作成(百万円未満四捨五入)。全社費用は各報告セグメントに配分していない費用

セグメント別に見ると、第74期のセグメント利益は住宅設備機器事業497,195千円、リフォーム・建築事業25,156千円、その他(不動産賃貸)50,059千円で、合計572,410千円です。ここから各セグメントに配分していない全社費用497,408千円を差し引いた額が、連結の営業利益75,002千円になります。持株会社の本社機能のコストが全社費用として大きく計上される構造で、持株会社体制の会社では、全社費用の中身と配分の考え方を説明できるようにしておくことが求められます。

キャッシュ・フローでは、営業活動によるキャッシュ・フローが2期連続でマイナスです。第74期は売上債権の減少480,069千円があった一方、仕入債務の減少835,827千円が大きく影響しています。投資活動では、東洋商会の取得による支出846,718千円と定期預金の純増366,800千円を、有形固定資産の売却による収入708,489千円で一部まかない、財務活動では長期借入れ700,000千円と短期借入金の純増290,000千円で資金を調達しています。取引銀行6行と当座貸越契約(限度額2,355,000千円、実行残高1,483,000千円)を結んでおり、金融機関からの借入が主な資金調達手段です。

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資本政策と株主構成:A種類株式の転換と株式分割

同社の資本政策で最も特徴的なのは、上場前の2025年12月に行われた株式の整理です。同社は2017年9月、臨時株主総会での定款変更を経て、大阪中小企業投資育成株式会社にA種類株式13,114株を有償で第三者割当し、同時に自己株式であった普通株式1,114株を消却しました。発行価格は16,392,500円、資本組入額は12,000,000円(発行価格から自己株式消却額を控除した額)と記載されており、この結果、資本金は92,000千円になっています。その後、2017年12月と2022年2月にそれぞれ普通株式2,000株がA種類株式に転換され、A種類株式は17,114株になりました。

A種類株式の発行から普通株式への転換・株式分割まで2017年9月A種類13,114株投資育成へ割当2017年12月普通2,000株をA種類へ2022年2月普通2,000株をA種類へ2025年12月25日A種類17,114株を普通株式へ2025年12月26日1株→10株920,000株にA種類株式の主な内容(定款)普通株式に先立つ1株75円の優先配当(参加型・非累積)取得請求権:A種類株式1株につき普通株式1株を交付/議決権は会社法の定めどおり大阪中小企業投資育成の現在の持株171,140株は、A種類株式17,114株の10倍の株数

図11 発行者情報「株式の総数等」「発行済株式総数、資本金等の推移」「株主の状況」をもとに作成

A種類株式は、期末配当で普通株式に先立って1株につき75円の優先配当を受け、普通株式の配当がこれを超える場合は超過額が上乗せされる参加型で、不足額を翌期以降に補填しない非累積型の株式です。株主はいつでも、A種類株式1株と引換えに普通株式1株の交付を請求できる取得請求権を持ち、議決権は会社法の定めどおりとされています。株式分割・併合や募集株式の割当ては、普通株式とA種類株式に同時に同一割合で行う旨の定めもありました。

2025年12月25日の定時株主総会、普通株式の種類株主総会及びA種類株式の種類株主総会で、A種類株式を廃止して普通株式に転換すること、発行可能株式総数を368,000株にすること、翌26日付で単元株制度(1単元100株)を採用することが決議され、A種類株式17,114株は普通株式17,114株に転換されました。続いて2025年11月20日の取締役会決議に基づき、2025年12月26日付で普通株式1株を10株に分割し、発行済株式総数は92,000株から920,000株に、発行可能株式総数は3,680,000株になっています。TPMには流通株式の基準はありませんが、上場株式を普通株式に一本化し、市場で売買できる単位に整えるという作業は、どの市場に上場する場合でも上場前に必要になります。種類株式の整理の進め方は、種類株式は上場前に普通株式へ戻すのかでも解説しています。

株主 所有株式数(株) 割合
中村 克久(代表取締役CEO) 248,930 27.05%
大阪中小企業投資育成株式会社 171,140 18.60%
中村 勇治(代表取締役COO) 156,540 17.02%
中村 尊政 132,530 14.41%
中村 賀亮 132,530 14.41%
松岡 利奈 38,330 4.17%
高岡 博(専務取締役) 20,000 2.17%
土持 仁克(常務取締役) 20,000 2.17%
計 920,000 100.00%
株主の状況(全8名・920,000株)中村 克久(代表取締役CEO)27.05%大阪中小企業投資育成18.60%中村 勇治(代表取締役COO)17.02%中村 尊政14.41%中村 賀亮14.41%松岡 利奈4.17%高岡 博(専務取締役)2.17%土持 仁克(常務取締役)2.17%濃い青:取締役/橙:投資育成会社/白:その他の個人株主

図12 発行者情報「第三部 株式公開情報 第3 株主の状況」をもとに作成。割合は株式総数に対する所有株式数の割合

株主は8名で、所有者別状況では「その他の法人」1名(18.6%)と「個人その他」7名(81.4%)です。大阪中小企業投資育成の持株171,140株は、転換前のA種類株式17,114株を10倍した株数と一致します。役員の所有株式数の合計は445,470株で、代表取締役CEOの中村克久氏と代表取締役COOの中村勇治氏は兄弟であると記載されています。ストックオプション、新株予約権、従業員持株会、自己株式はいずれもありません。一般市場への上場であれば株主数や流通株式比率が論点になりますが、TPMには形式基準がないため、株主8名のままでも上場できています。

第三部「株式公開情報」には、特別利害関係者等の株式移動が記載されています。2024年1月26日に代表取締役COOの中村勇治氏から常務取締役の坂本崇能氏、取締役の赤沢輝道氏・熊迫正氏へ各2,000株(株式分割前)が移動し、同年9月2日・3日に3名から中村勇治氏へ各2,000株が戻っています。価格はいずれも1株1,200円(1回あたり2,400,000円)で、「純資産価額方式を参考として、当事者間での協議の上決定した価格」とされ、移動理由は「所有者の事情による」と記載されています。

特別利害関係者等の株式移動(2024年)移動前中村 勇治(代表取締役COO)2024年1月26日取締役3名が各2,000株を取得2024年9月2日・3日3名から中村勇治へ各2,000株を譲渡価格はいずれも1株1,200円(株式分割前)、1回あたり2,400,000円純資産価額方式を参考に当事者間で協議して決定/移動理由は「所有者の事情による」取締役3名:坂本崇能(常務取締役)・赤沢輝道(取締役)・熊迫正(取締役)

図13 発行者情報「第三部 株式公開情報 第1 特別利害関係者等の株式等の移動状況」をもとに作成。株数・単価は2025年12月の株式分割前の数値

この株式移動の注記には、特例115条及び同施行規則106条の規定により、上場日から5年間、2021年10月1日から上場日の前日までの期間に特別利害関係者等が行った株式等の譲受け・譲渡の状況について記録を保存するものとされている旨も書かれています。上場前の株式移動は、価格の決め方と理由を後から説明できるように記録を残しておく必要があります。株価算定の方法は未上場株式の株価算定はどの方法を使うか、上場前の株式移動の注意点は上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約)も参考にしてください。なお、同社の第三者割当等の概況は「該当事項はありません」とされています。

配当は年1回の期末配当を基本方針とし、配当の決定機関は株主総会です。第72期から第74期まで1株75円(分割後換算7.5円)の配当を継続しており、2025年12月25日の定時株主総会では配当総額6,900,000円を決議しています。A種類株式の優先配当も1株75円で、普通株式とA種類株式に同額の配当が行われてきたことが株主資本等変動計算書の注記から分かります。

コーポレート・ガバナンス:取締役会と監査役の体制

同社は監査役制度を採用しており、取締役会は7名の取締役、監査役は2名で構成されています。取締役7名はいずれも社内取締役で、社外取締役はいません。監査役のうち1名(三嶋良英氏)が社外監査役で、公認会計士の資格を持ち、財務及び会計に関する相当程度の知見を有すると記載されています。もう1名の監査役(油布清勝氏)は、執行役員福岡支店長、執行役員内部監査室室長を経て2025年12月に監査役に就任しています。役員は男性9名で、女性はいません。

役名 氏名 主な経歴(発行者情報の記載から)
代表取締役CEO 社長 中村 克久 ユアサ商事を経て1996年入社、2003年11月から代表取締役CEO
代表取締役COO 副社長 中村 勇治 TOTOを経て1998年入社、2013年10月から代表取締役COO
専務取締役 営業本部長 高岡 博 1983年入社、2021年11月から専務取締役
常務取締役 人財戦略本部長 土持 仁克 1988年入社、2021年11月から常務取締役
常務取締役 経営管理本部長 坂本 崇能 福岡銀行から2022年4月に出向、2023年4月入社、2023年12月から常務取締役
取締役 営業副本部長/福岡支店長 赤沢 輝道 1992年入社、執行役員を経て2023年12月から取締役
取締役 営業副本部長/鹿児島支店長 熊迫 正 1988年入社、執行役員を経て2023年12月から取締役
監査役 油布 清勝 1987年入社、執行役員内部監査室室長を経て2025年12月から監査役
社外監査役 三嶋 良英 公認会計士・税理士。監査法人・税理士法人等を経て2024年5月から監査役
FFFホールディングスの機関設計株主総会取締役会取締役7名(全員社内)定例 毎月1回監査役 2名うち社外監査役1名(公認会計士)選任・解任代表取締役社長(CEO)内部監査室当社・子会社の各部門協立監査法人特例110条5項に基づく監査連携外部専門家(弁護士等)経営判断上の助言・指導監査選定・解職・監督指示内部監査連携

図14 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」の模式図と記載をもとに作成

取締役会は定例で毎月1回開催され、決裁権限規程や取締役会規程などのグループ諸規程を整備して、取締役の職務執行の適正性と効率性を確保するとされています。取締役の任期は2年(2025年12月の定時株主総会から2027年9月期に係る定時株主総会終結まで)、監査役の任期は4年です。定款では取締役9名以内、監査役3名以内と定め、取締役の選任決議の定足数を3分の1以上、特別決議の定足数を3分の1以上に緩和しています。社外取締役・社外監査役との責任限定契約、取締役会決議による責任免除、取締役会決議による自己株式の取得や中間配当の定めもあります。

TPMでは、一般市場のような機関設計の形式要件は示されておらず、JPXは「柔軟なガバナンス設計による上場も可能」と説明しています。そのうえで、上場適格性要件として「企業の規模や成熟度等に応じた」ガバナンス・内部管理体制の整備・運用が求められ、J-Adviserが取締役の員数・役割・適格性や取締役会・監査役の活動状況を調査します。同社は取締役会と監査役(社外1名)という構成で上場しており、TPMの柔軟な設計の一例といえます。一般市場を目指す場合の機関設計の考え方はIPO審査の「機関設計」とはで整理しています。

役員報酬は、2025年9月期で取締役(社外取締役を除く)7名に158,248千円(基本報酬144,960千円、賞与13,288千円)、監査役(社外監査役を除く)1名に3,144千円、社外監査役1名に2,571千円が支払われ、総額は163,963千円です。連結の販管費には役員報酬230,158千円、役員退職慰労引当金繰入額19,461千円が計上されており、役員退職慰労金規程に基づく役員退職慰労引当金184,060千円が負債に計上されています。

関連当事者取引について、連結財務諸表の関連当事者情報では、役員及び主要株主(個人)等との取引は両年度とも「該当事項はありません」とされ、非連結子会社等との取引は重要性が乏しいため記載が省略されています。支配株主との取引については、一般の取引条件と同等の条件で決定し、関連当事者取引は取引の際に取締役の承認を必要とすることで取締役会が適時に把握し、少数株主の利益を損なう取引を排除する体制とする方針が示されています。オーナー一族が株式の過半を持つ会社では、上場前に一族との取引を棚卸しておくことが重要です(IPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引))。

内部監査・内部統制:持株会社グループの監査体制

同社の内部監査は、内部監査室長を内部監査責任者として実施されます。内部監査は代表取締役社長の承認を経た内部監査計画書に基づいて行われ、監査終了後遅滞なく内部監査報告書を作成して代表取締役社長に報告します。改善指摘事項がある場合は、代表取締役社長が内部監査責任者に指示し、内部監査責任者が改善指示書で被監査部門に改善を求める流れです。ガバナンス体制の模式図では、内部監査室が子会社の各部門も監査対象としていることが示されています。

内部監査の流れと自己監査の回避内部監査計画書代表取締役社長が承認内部監査の実施責任者=内部監査室長内部監査報告書監査終了後遅滞なく社長へ報告改善指示書社長の指示を受け被監査部門へ自己監査の回避内部監査室の監査は、当該部門以外から代表取締役社長が指名する担当者が実施三様監査の連携内部監査責任者は監査役・監査法人と密接に連携し監査の効率向上に努める監査役の1名は、執行役員内部監査室室長(2022年4月〜)を経て2025年12月に監査役に就任

図15 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」「役員の状況」をもとに作成

上場準備で必ず問われるのが、内部監査部門自身の監査をどうするか(自己監査の回避)です。同社は、内部監査責任者が所属している部門の監査については、当該部門以外から代表取締役社長が指名する内部監査担当者が実施すると定めています。小規模な内部監査部門で一般的に採られる方法で、詳しくは内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)で解説しています。また、内部監査責任者は監査役及び監査法人と密接に連携を保ち、監査の効率の向上を図るとされています(監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査))。

内部統制システムについては、業務分掌規程及び職務権限規程の遵守により業務を合理的に分担し、特定の組織や担当者に業務や権限が集中することを避けて内部牽制を働かせるとしています。リスク管理は経営管理本部が主管部署として情報を一元化し、必要に応じて弁護士等の複数の専門家から助言を受ける体制です。TPMでは内部統制報告書の提出は任意であり、同社の発行者情報にも内部統制報告書に関する記載はありません。ただし、規程に基づく権限の分担や内部監査の運用は、上場適格性要件の「内部管理体制」としてJ-Adviserが確認する事項であり、仕組みを書面で整えるだけでなく運用の記録を残しておくことが大切です。

会計・開示の論点

1期分の監査と監査報酬

同社の連結財務諸表は、特例110条6項で認められた会計基準のうち日本の会計基準に準拠して作成され、特例110条5項の規定に基づき、第74期の連結財務諸表について協立監査法人の監査を受けています。2025年9月期に監査を執行した公認会計士は2名で、いずれも継続監査年数は7年以内、補助者は公認会計士6名と記載されています。TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」であり、主要な経営指標のうち第72期・第73期が監査を受けていないことも、この制度に沿ったものです。

項目 記載内容
監査法人 協立監査法人
監査の根拠 特例110条5項(第74期 連結財務諸表)
監査を受けていない期 第72期・第73期の連結財務諸表
業務を執行した公認会計士 2名(継続監査年数はいずれも7年以内)
補助者 公認会計士6名
監査報酬(最近連結会計年度) 提出会社:監査証明業務6,000千円、非監査業務なし(連結子会社に係る報酬なし)
監査報酬の決定方針 グループの事業規模等を勘案して決定
会計基準 日本の会計基準(特例110条6項で認められた基準のうち)

一般市場では直前2期の監査が必要なため、監査法人との契約は上場の2〜3年前には必要になります。TPMでは監査期間は短いものの、監査を受ける期の期首から会計処理と内部管理を監査に耐える水準にしておく必要がある点は同じです。監査法人の選定時期の考え方は監査法人はいつまでに決めるかをご覧ください。上場後は、中間の発行者情報の財務諸表にも中間監査意見又はレビューの結論が必要になります。

収益認識:出荷基準と工事の進捗度

収益を認識する時点(取引の種類別)取引履行義務の充足収益を認識する時点住宅設備機器事業商品の販売顧客への商品の引渡し時点で充足代替的な取扱いにより原則として出荷時点住宅設備機器事業請負工事一定の期間にわたり充足履行義務の充足に係る進捗度に基づくリフォーム・建築事業請負工事一定の期間にわたり充足進捗度に基づく(見積れない場合は原価回収基準)リフォーム・建築事業工期が短い一部の工事代替的な取扱いを適用完全に履行義務を充足した時点

図16 発行者情報「重要な収益及び費用の計上基準」をもとに作成

収益認識では、住宅設備機器事業の商品販売について、顧客への商品の引渡し時点で履行義務が充足されると判断しつつ、代替的な取扱いを適用して原則として出荷時点で収益を認識しています。住宅設備機器事業の請負工事とリフォーム・建築事業の請負工事は、一定の期間にわたり充足される履行義務として進捗度に基づいて収益を認識し、進捗度を合理的に見積もれない工事には原価回収基準を、工期がごく短い一部の工事には代替的な取扱いを適用して完全に履行義務を充足した時点で収益を認識しています。

卸売と工事を両方営む会社では、取引の種類ごとに履行義務と認識時点を整理し、出荷基準を使う場合は出荷から引渡しまでの期間が通常の期間であることを説明できるようにしておく必要があります。同社の第74期末の契約資産は36,609千円(前期末151,929千円)、契約負債は2,453千円で、残存履行義務に配分した取引価格は360,556千円(1年以内279,956千円、1年超3年以内80,600千円)と開示されています。上場審査での収益認識の論点は上場審査で問われる収益認識で詳しく解説しています。

東洋商会の取得とのれん

東洋商会の取得:取得原価とのれんの関係受け入れた資産1,593,883千円引き受けた負債728,370千円差額(純資産)865,513千円取得関連費用財務・税務DD3,000千円のれん 34,487千円間接業務の効率化による超過収益力・3年償却取得原価900,000千円(現金)企業結合日:2024年10月1日。議決権100%(6,700株)を現金で取得取得による支出846,718千円=取得価額900,000千円−取得時の現金及び現金同等物53,281千円

図17 発行者情報「企業結合等関係」「連結キャッシュ・フロー計算書関係」をもとに作成。差額(純資産)は資産合計と負債合計からの計算値

2024年10月1日、同社は沖縄県で1962年から住宅設備機器の販売・施工を行ってきた有限会社東洋商会(現 株式会社東洋商会)の議決権100%(6,700株)を、現金900,000千円で取得しました。取得の理由は、九州エリアで事業を展開してきた同社が沖縄エリアへ事業を拡大し、シナジーを創出するためと記載されています。取得関連費用は財務・税務デューデリジェンス費用3,000千円です。受け入れた資産は1,593,883千円、引き受けた負債は728,370千円で、発生したのれんは34,487千円、発生原因は「主として住宅設備機器の販売の事業を展開する地域における間接業務の効率化によって期待される超過収益力」とされ、3年間で均等償却されます。

のれんの償却方針は「20年以内の年数で均等償却」で、第74期末ののれん残高は61,860千円(住宅設備機器22,991千円、リフォーム・建築38,869千円)です。重要な会計上の見積りとしては固定資産の減損が挙げられ、経営管理上の事業区分を基準に資産をグルーピングし、兆候があれば割引前将来キャッシュ・フローで認識の要否を判定する方法が説明されています。両年度とも減損損失はありません。M&Aで成長する会社のIPO準備では、のれんと固定資産の減損判定の根拠となる事業計画の合理性が問われます(IPO審査でのれんの減損リスクはどう見られるか)。

その他の特徴的な注記

そのほか、上場準備会社の参考になる注記を挙げます。退職給付は退職一時金制度と中小企業退職金共済制度で、期末自己都合要支給額を退職給付債務とする簡便法を適用しています。政策保有株式として、TOTO株式会社771,397千円、三機工業128,180千円、積水化学工業71,630千円、熊谷組62,700千円などを保有し、有価証券評価差額金は403,787千円です。発行者情報には、取引先との関係維持・強化等に資すると判断した場合に限り保有し、定期的に保有の合理性を検証する方針が記載されています。担保に供している資産は土地856,440千円と投資有価証券137,534千円で、受取手形割引高164,989千円、電子記録債権割引高293,503千円の注記もあります。また、未適用の会計基準として「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)が2028年9月期の期首から適用予定で、影響額は評価中とされています。

事業等のリスクと上場適格性の観点

事業等のリスク(10項目)(1) 景気動向民間住宅設備投資(2) 仕入価格の変動及び製品供給体制(訂正で追記)(3) 信用供与与信枠・貸倒引当金(4) 特定取引先TOTOから仕入の48.23%(5) 金利変動借入による資金調達(6) 情報セキュリティ(7) 企業買収想定した効果が得られない可能性(8) 法的規制建設業法・独禁法等(9) 自然災害・感染症(10) J-Adviser契約の解除→上場廃止も訂正発行者情報で(2)の見出しを変更し、サプライチェーン混乱による製品供給制限のリスクを追記

図18 発行者情報「事業等のリスク」及び訂正発行者情報(2026年4月22日)をもとに作成。橙は特に事業構造に関わるもの、赤はTPM特有のもの

事業等のリスクは10項目です。景気動向、仕入価格、信用供与、特定取引先(TOTOからの仕入が48.23%)、金利変動、情報セキュリティ、企業買収、法的規制(会社法、税法、独占禁止法、建設業法等)、自然災害及び感染症、そしてTPM特有の担当J-Adviserとの契約の解除です。2026年4月22日の訂正発行者情報では、(2)の見出しが「仕入価格の変動及び製品供給体制に関するリスクについて」に変更され、製造企業におけるサプライチェーンの混乱等により製品供給が制限されるリスク(主要仕入先の受注停止や納期遅延による工期の遅延・受注機会の損失)が追記されました。数値の訂正ではなく、リスク情報の追記のための訂正です。

上場準備では、事業等のリスクを「書けば終わり」にせず、リスクごとの対応策と社内の管理体制をセットで説明できるようにしておくことが重要です。同社も、信用供与のリスクには取引先ごとの与信枠の設定と貸倒引当金、企業買収のリスクには買収前の事業・財務・法務の詳細な調査、法的規制のリスクにはコンプライアンス規程の整備・教育・顧問弁護士への照会、といった対応を併記しています。

一般市場へのステップアップを考える会社にとっての示唆

同社の発行者情報には、将来グロース市場やスタンダード市場へ移ることについての記載はありません。そのため本記事では同社の今後には触れず、TPMから一般市場を目指す会社一般について、JPXの公表資料から分かる事実を整理します。

論点 JPXの公表資料から分かること
移行の手続 「市場区分の変更」ではなく、TPMを申請により上場廃止し、一般市場に新規上場する(例:AlbaLinkはTPM上場廃止日2025年12月14日、グロース市場新規上場2025年12月15日)
審査の扱い 2025年11月の東証資料では、TPMからの一般市場上場の審査は非上場企業と同様に一から確認が行われ相応の負担がある、と現状を認識
今後の見直し 2026年4月の東証資料で、TPM実績を勘案した一般市場上場審査の効率化と開示様式の共通化・簡素化を「26年秋めど」に予定と公表(実施状況は本記事では確認していない)
実績 TPMから一般市場へ上場した企業は2025年11月時点で15社
準備の差 一般市場では直前2期の監査、形式基準(株主数・流通株式等)、CGコードの適用、内部統制報告書の提出などが加わる

TPMで上場会社としての開示や内部管理を経験しておくことは、一般市場を目指す場合の準備にもなります。ただし、監査期間、株主構成、機関設計など、一般市場で求められる水準とTPMの水準には差があります。一般市場を将来の選択肢に入れるなら、TPM上場の段階から「一般市場で問われる項目」とのギャップを把握しておくとよいでしょう。

上場準備会社が学べること

最後に、FFFホールディングスの事例から上場準備会社が学べるポイントを整理します。

ポイント 同社の事例から
上場目的と資金調達を切り分ける 公募・売出しを行わず、発行者情報の形でTPMに上場。運転資本は自己資金と借入で十分と説明
種類株式は上場前に整理する 投資育成会社のA種類株式を2025年12月に普通株式へ転換し、翌日に1:10の株式分割と単元株制度を導入
株式移動は価格と理由を記録する 2024年の役員間の株式移動を、純資産価額方式を参考にした価格と理由とともに開示
監査を受ける1期を早めに決める 第74期のみ監査(協立監査法人)。TPMの「最近1年間」の監査期間に沿った構成
持株会社グループの管理を設計する 全社費用497,408千円の構造、子会社まで及ぶ内部監査、経営管理本部によるリスク情報の一元化
M&Aの会計処理を説明できるようにする 東洋商会の取得原価900,000千円、のれん34,487千円(3年償却)、DD費用3,000千円を開示
自己監査の回避を規程で定める 内部監査室の監査は他部門から社長が指名する担当者が実施
TPM特有のリスクを理解する J-Adviser契約の解除条項を事業等のリスクに詳しく記載
  • 上場の目的(資金調達か、管理体制や信用力の向上か)を言葉にし、市場選択の理由を説明できるか
  • 種類株式・優先株式がある場合、普通株式への転換の時期と株主の合意形成の段取りを決めているか
  • 上場前の株式移動について、価格の算定根拠と移動理由を記録しているか
  • 監査を受ける期を決め、その期首から監査に耐える会計処理と証憑管理ができているか
  • 持株会社・子会社を含めた内部監査の範囲と自己監査の回避策を規程に定めているか
  • J-Adviserの役割と契約解除の条件を理解し、上場後の開示スケジュール(年2回の発行者情報)を組んでいるか

よくある質問

Q1. FFFホールディングスは上場時に資金調達をしましたか?

いいえ。発行者情報の表紙に、上場に際して特定投資家向け取得勧誘・売付け勧誘等を実施しないと記載されており、公募・売出しは行っていません。上場予定日から12か月間の運転資本は、自己資金と金融機関からの借入で十分と説明されています。

Q2. 監査を受けていない期の数値が載っていても問題ないのですか?

TPMの上場前の監査期間は「最近1年間」です。同社は第74期の連結財務諸表について協立監査法人の監査を受けており、第72期・第73期の連結財務諸表は監査を受けていない旨を注記しています。

Q3. 社外取締役がいなくてもTPMに上場できますか?

TPMでは一般市場のような機関設計の形式要件は示されておらず、JPXは柔軟なガバナンス設計による上場も可能と説明しています。同社は社内取締役7名と監査役2名(うち社外監査役1名)の体制で上場しています。ただし、企業の規模や成熟度等に応じたガバナンス・内部管理体制の整備は上場適格性要件であり、J-Adviserが確認します。

Q4. 種類株式は上場前に必ず普通株式へ転換する必要がありますか?

同社は2025年12月25日にA種類株式を廃止して普通株式に転換し、普通株式のみで上場しています。種類株式の扱いは市場や株式の内容によって検討事項が異なるため、J-Adviserや専門家と早めに方針を決めておくことをおすすめします。

最初の一歩は「株式と監査の棚卸し」から

TPMへの上場を検討するなら、まず現在の株主構成と株式の種類、過去の株式移動の記録、そして監査を受ける期の候補を一覧にしてみてください。同社のように投資育成会社などの外部株主が種類株式を持っている場合は、転換の条件や株主総会・種類株主総会の手続も含めて、上場の1年以上前から段取りを考えておくと安心です。IPO準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)で確認できます。

まとめ

FFFホールディングスは、1948年創業の住宅設備機器の商社グループが、公募・売出しを行わずに発行者情報を公表し、2026年5月1日にTOKYO PRO Marketへ上場した事例です。上場前に投資育成会社のA種類株式を普通株式へ転換し、1:10の株式分割と単元株制度を導入して株式を整えました。監査は直前1期分で、取締役会と監査役の体制のもと、内部監査室が子会社まで含めて監査する仕組みをとっています。東洋商会の取得によるのれんや、TOTOへの仕入依存、J-Adviser契約の解除条項など、M&Aで成長するオーナー企業ならではの論点とTPM特有の論点がそろった、上場準備の教材として読みやすい事例です。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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