重要な後発事象の注記の記載例|4つの類型と上場会社の開示事例

重要な後発事象の注記は、決算日の後に起きたできごとのうち、翌期以降に重要な影響を及ぼすものを書くものです。

財規8条の4はひと言で終わっています。書く項目が号で列挙されていません。だから何をどこまで書くかで迷います。

この記事では、修正後発事象との違いを整理したうえで、類型ごとの記載例と、上場会社の実際の開示事例を示します。

この記事でわかること

  • 修正後発事象と開示後発事象の違い
  • 有報と計算書類で対象が少し違うこと
  • 資本、組織再編、資金、損失の4つの類型と記載例
  • 上場会社の実際の開示事例と、その読み方
  • いつまでの事象を拾うか
どの類型に当たるか決算日の後に生じた事象を特定する企業結合や事業の譲渡か組織再編の類型はいいいえ資金の調達や多額の借入れか資金調達の類型はいいいえ災害や訴訟による損失か損失の発生の類型はいいいえ類型に応じた記載例を選んで書く

図 重要な後発事象の記載例の選び方

📌 結論 いつ、なぜ、何を、いくら

図4 書くときの順番何を決めた事象か、見出しで示す(自己株式の取得、株式分割など)いつ、どの機関が決めたかを書く(取締役会決議の日付)なぜ行うのかを書く(目的)内容を項目に分けて書く(対象、数量、金額、期間、方法)決算日後に進捗があればその実績を書く

いつ、なぜ、何を、いくら。この4つが入っていれば形になります。日付は必ず入れてください。

財務諸表等規則8条の4は、貸借対照表日後、財務諸表提出会社の翌事業年度以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす事象が発生したときは、当該事象を注記しなければならない、としています。

号による列挙がありません。ですから、何を書くかは実務の慣行で決まっています。決議した日付、目的、内容の項目、そして決算日後の進捗です。

日付を落とさないでください。読み手が最初に知りたいのは、それがいつ起きたことかです。

🧭 修正後発事象との違い

図1 修正後発事象と開示後発事象区分内容扱い修正後発事象決算日にすでに存在していた状況について、決算日後に新たな証拠が得られたもの財務諸表の数値を修正する開示後発事象決算日後に新たに発生した事象で、翌期以降に重要な影響を及ぼすもの注記する

注記に書くのは開示後発事象です。修正後発事象は数値を直すので、注記の対象にはなりません。

後発事象には2種類あります。決算日にすでに存在していた状況について新たな証拠が得られた修正後発事象と、決算日後に新たに発生した開示後発事象です。

取引先が決算日後に倒産した場合を考えてください。決算日の時点ですでに財政状態が悪化していたのなら、それは決算日に存在していた状況の証拠です。貸倒引当金を積み増して数値を直します。修正後発事象です。

一方、決算日後に起きた災害で取引先が倒産したのなら、決算日後に発生した事象です。注記します。開示後発事象です。

この注記に書くのは開示後発事象のほうです。修正後発事象は数値を直すので、注記は不要です。

⚖️ 有報と計算書類で対象が違う

図2 根拠条文書類条文対象有価証券報告書(個別)財規8条の4翌事業年度以降の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす事象有価証券報告書(連結)連結規則14条の9翌連結会計年度以降の同様の事象計算書類(個別注記表)会社計算規則114条第1項翌事業年度以降の財産または損益に重要な影響を及ぼす事象計算書類(連結注記表)会社計算規則114条第2項連結会社等の翌事業年度以降の同様の事象

有報はキャッシュ・フローまで含みます。計算書類は財産または損益です。対象の広さが少し違います。

連結財務諸表規則14条の9は、連結決算日後、連結会社ならびに持分法が適用される非連結子会社および関連会社の翌連結会計年度以降の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす事象が発生したときは、当該事象を注記しなければならない、としています。

但し書きがあります。その事業年度の末日が連結決算日と異なる子会社および関連会社については、当該子会社および関連会社の貸借対照表日後に発生した事象を注記します。決算期がずれている子会社は、その子会社の決算日を起点にします。

会社計算規則114条第1項は、個別注記表における重要な後発事象に関する注記は、当該株式会社の事業年度の末日後、当該株式会社の翌事業年度以降の財産又は損益に重要な影響を及ぼす事象が発生した場合における当該事象とする、としています。

有報が財政状態、経営成績、キャッシュ・フローの3つを挙げるのに対し、計算書類は財産または損益です。キャッシュ・フローだけに効く事象は、有報では拾い、計算書類では拾わないという整理になります。

📄 類型1 資本に関する事象

図3 実務で多い後発事象類型具体例資本自己株式の取得、株式分割、新株発行、新株予約権の発行組織再編子会社の取得、事業譲渡、合併、会社分割資金多額の借入、社債の発行、シンジケートローンの契約損失災害による損失、訴訟の提起、取引先の倒産その他重要な設備投資の決定、主要な事業からの撤退

上場準備会社で多いのは、株式分割と新株予約権の発行です。申請期の直前期の決算で出てきます。

設例1 株式分割

(重要な後発事象)

(株式分割)

当社は、2026年◯月◯日開催の取締役会において、株式分割を行うことを決議いたしました。

1 株式分割の目的

投資単位当たりの金額を引き下げることにより、株式の流動性を高め、投資家層の拡大を図ることを目的としております。

2 株式分割の概要

(1)分割の方法 2026年◯月◯日を基準日として、同日の最終の株主名簿に記載された株主の所有普通株式1株につき2株の割合をもって分割いたします。

(2)分割により増加する株式数 普通株式 ◯◯株

(3)効力発生日 2026年◯月◯日

3 1株当たり情報に及ぼす影響

当該株式分割が前事業年度の期首に行われたと仮定した場合の1株当たり情報は、次のとおりであります。

会社名と数値は架空です。株式分割では1株当たり情報への影響を必ず添えます。読み手が前期比較をできなくなるためです。

上場準備会社でいちばん多い後発事象がこれです。上場申請の前に投資単位を調整するため、直前期の決算後に株式分割を決議するケースが多く見られます。

1株当たり情報への影響を書き忘れないでください。分割の効力が発生すると、過去の1株当たり当期純利益と比較できなくなります。

📊 類型2 組織再編に関する事象

設例2 株式の取得による子会社化

(重要な後発事象)

(株式の取得による会社等の買収)

当社は、2026年◯月◯日開催の取締役会において、株式会社◯◯の株式を取得し、子会社化することを決議し、同日付で株式譲渡契約を締結いたしました。

1 企業結合の概要

(1)被取得企業の名称及び事業の内容 株式会社◯◯ ◯◯の製造及び販売

(2)企業結合を行った主な理由 当社の販売網と被取得企業の製造技術を組み合わせ、事業領域を拡大するためであります。

(3)企業結合日 2026年◯月◯日

(4)企業結合の法的形式 現金を対価とする株式の取得

(5)取得した議決権比率 100パーセント

2 被取得企業の取得原価及び対価の種類ごとの内訳

取得の対価 現金 ◯◯百万円

会社名と数値は架空です。企業結合の後発事象は、企業結合等関係注記に準じた項目立てで書きます。

決算日後の事象の拾い方からご相談ください

後発事象は、拾い漏れると監査で必ず指摘されます。取締役会議事録と稟議の確認手順づくり、事象の該当性の判定、注記の文案作成、監査法人への説明資料まで通してお受けします。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。

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🏷 類型3 資金調達に関する事象

設例3 多額の資金の借入

(重要な後発事象)

(多額の資金の借入)

当社は、2026年◯月◯日開催の取締役会において、金融機関からの借入を行うことを決議し、同日付で金銭消費貸借契約を締結いたしました。

1 借入の目的 新工場の建設資金に充当するためであります。

2 借入の内容

(1)借入先 株式会社◯◯銀行

(2)借入金額 1,500百万円

(3)借入実行日 2026年◯月◯日

(4)返済期限 2033年◯月◯日

(5)利率 基準金利に◯パーセントを上乗せした利率

(6)担保の有無 当社所有の土地及び建物に抵当権を設定しております。

会社名と数値は架空です。担保の有無と財務制限条項の有無は、読み手が知りたい情報なので書き添えます。

財務制限条項が付いている場合は、その内容も書いてください。純資産維持条項や利益維持条項は、翌期以降の財政状態に影響します。

🔀 類型4 損失に関する事象

設例4 災害による損失

(重要な後発事象)

(災害による損失)

2026年◯月◯日に発生した◯◯により、当社の◯◯工場の建物及び機械装置に被害が生じました。

1 被害の状況 建物の一部が損壊し、機械装置の一部が使用不能となりました。

2 翌事業年度の財務諸表に与える影響

当該被害による損失額は、現時点で◯◯百万円と見込んでおります。当該損失は、翌事業年度において特別損失に計上する予定であります。

なお、保険による補填が見込まれますが、その金額は現時点で確定しておりません。

会社名と数値は架空です。損失の後発事象では、金額が固まっていない旨と、その理由を書くのが実務です。

損失の事象は、金額が確定していないことが多いものです。見込額である旨を書き、確定していない理由を添えてください。

保険による補填が見込まれる場合は、その旨も書きます。損失額だけを書くと、読み手が過大に評価します。

📁 実際の開示事例

自己株式の取得を決議した例です。決議の内容だけでなく、決算日後の取得実績まで書いています。

実際の開示事例 株式会社構造計画研究所ホールディングス(証券コード208A)

(重要な後発事象)

(自己株式の取得)

当社は、2026年8月10日に、会社法第165条第3項の規定により読み替えて適用される同法第156条の規定に基づき、自己株式取得に係る事項について、取締役会決議を行いました。

1.自己株式の取得を行う理由

経営環境の変化に対応した機動的な資本政策の遂行を可能とし、利益の一部を株主に還元するため。

2.取得に係る事項の内容

(1)取得対象株式の種類 当社普通株式

(2)取得し得る株式の総数 190,000株(上限) ※発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合 1.74パーセント

(3)株式の取得価額の総額 500,000,000円(上限)

(4)取得期間 2026年8月17日から2026年12月31日

(5)取得方法 東京証券取引所における市場買付(自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)を含む)

3.上記取締役会決議に基づき取得した自己株式の累計(2026年8月31日現在)

(1)取得した株式の総数 47,100株

(2)株式の取得価額の総額 142,426,700円

出典:株式会社構造計画研究所ホールディングス「有価証券報告書」(2026年6月期、2026年9月4日提出)連結財務諸表 注記事項(連結)(重要な後発事象)

▶ 読み方 3つの点が参考になります。第1に、根拠となる会社法の条文を挙げていること。第2に、上限株数を発行済株式総数に対する割合で示していること。第3に、決議の内容で終わらせず、有価証券報告書の提出日に近い時点までの取得実績を第3項として追加していることです。読み手が知りたいのは、決めたことではなく、実際にどこまで進んだかです。

🗒️ いつまでの事象を拾うか

後発事象として拾う期間は、決算日の翌日から有価証券報告書の提出日までです。監査報告書の日付までではありません。

実務では、決算日後に開かれた取締役会の議事録と、稟議書、契約書の締結記録を確認します。この3つを見れば、重要な意思決定はほぼ拾えます。

拾い漏れが起きるのは、決算作業が終わったあとに起きた事象です。財務諸表の作成が終わっても、提出日までは確認を続けてください。

連結の場合、決算期がずれている子会社は、その子会社の決算日を起点にします。連結規則14条の9但し書きです。

❓ よくある質問

Q. 重要な後発事象には何を書きますか。

A. 事象の内容です。実務では、決議の日付、目的、内容の項目、決算日後の進捗を書きます。財規8条の4です。

Q. 修正後発事象は注記しますか。

A. 注記しません。財務諸表の数値を修正します。

Q. いつまでの事象を拾いますか。

A. 決算日の翌日から有価証券報告書の提出日までです。

Q. 株式分割のときは何を添えますか。

A. 1株当たり情報への影響を書きます。過去との比較ができなくなるためです。

Q. 金額が確定していないときは。

A. 見込額である旨と、確定していない理由を書きます。

Q. 決算期がずれている子会社は。

A. その子会社の貸借対照表日を起点にします。連結規則14条の9但し書きです。

Q. 計算書類でも同じ内容を書きますか。

A. 会社計算規則114条により注記します。ただし対象は財産または損益に重要な影響を及ぼす事象で、有報より少し狭くなります。

Q. 該当がないときは。

A. 該当事項はありませんと書きます。項目ごと落とす例もありますが、書いておくほうが親切です。

📄 まとめ

重要な後発事象で書くのは、いつ、なぜ、何を、いくらの4つです。日付を落とさないでください。

注記の対象は開示後発事象です。修正後発事象は数値を直すので、注記しません。

実務で多いのは、株式分割、自己株式の取得、子会社の取得、多額の借入です。上場準備会社では株式分割が最も多く出てきます。

拾う期間は決算日の翌日から提出日までです。取締役会議事録、稟議書、契約書の3つを確認する手順を作ってください。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

本記事に掲載した実際の開示事例は、各社が金融商品取引法にもとづき公衆縦覧に供している有価証券報告書からの引用です。設例として示した文例は、条文の記載事項を確認するために当事務所が作成したもので、会社名と数値は架空です。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の注記の作成にあたっては、監査法人にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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