「使用権資産とリース負債を計上するのは分かったが、現在価値を出すときの割引率は何を使えばよいのか」——新リース会計基準の導入準備を進めるIPO準備会社・上場会社の経理部門から、最も多く寄せられる論点のひとつです。リース期間の判断と違い、割引率は数字を1つ決めるだけに見えますが、その1つで使用権資産とリース負債の金額が数千万円単位で動きます。
本記事では、公認会計士・税理士が、割引率に関する定めを条項ベースで整理し、自作の数値例で「率の違いが財務数値をどう動かすか」を可視化します。監査対応で必ず説明を求められる追加借入利子率の見積り根拠まで踏み込みます。
図 割引率の決め方の判定
契約の棚卸しから、A工事・B工事・C工事の判定、資産除去債務と使用権資産の切り分け、リース期間と除去義務の履行時期をそろえる6手順までを、基準と適用指針の項番つきで1冊にまとめました。メールアドレスだけで受け取れます。資料を受け取る(無料)
この記事の見出し
結論:割引率は「貸手の計算利子率」か「追加借入利子率」の二択
借手がリース負債の現在価値の算定に用いる割引率は、貸手の計算利子率を知り得る場合には当該利率により、知り得ない場合には借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率によります(指針37項(1)(2))。前提として、リース負債の計上額は、原則として、リース開始日において未払である借手のリース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定する方法によります(基準34項)。
実務では、不動産の賃貸借をはじめ、貸手の計算利子率を借手が把握できないケースが大半です。そのため、多くの会社にとって割引率の論点は、実質的に「追加借入利子率をどう見積り、どう説明するか」に収れんします。
割引率は二択で、判断の入口は「貸手の計算利子率を知り得るか」です。
「貸手の計算利子率」とは何か
貸手の計算利子率は、貸手のリース料の現在価値と貸手のリース期間終了時に見積られる残存価額で残価保証額以外の額(見積残存価額)の現在価値の合計額が、当該原資産の現金購入価額又は借手に対する現金販売価額と等しくなるような利率をいいます(指針66項)。
この利率を計算するには、貸手側の情報である原資産の現金購入価額(または現金販売価額)と見積残存価額が必要です。リース会社との取引で見積書に物件価額の内訳が示されていれば算定できることもありますが、オフィスや店舗の賃貸借では、貸手が建物をいくらで取得したかを借手が知ることはまずありません。「知り得るかどうか」は、手元の資料から実際に逆算できるかで判断することになります。
| 比較の視点 | 貸手の計算利子率 | 借手の追加借入利子率 |
|---|---|---|
| 根拠条項 | 指針37項(1)、66項 | 指針37項(2)、BC66項 |
| 性質 | 貸手のリース料と見積残存価額の現在価値の合計が現金購入価額等と等しくなる利率(指針66項) | 借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率(指針37項(2)) |
| 必要な情報 | 原資産の現金購入価額または現金販売価額、見積残存価額 | 借手自身の信用力・借入条件、市場金利 |
| 典型的な場面 | 物件価額が明示されたリース会社との契約 | 不動産賃貸借など、貸手側の情報が得られない契約 |
| 監査で問われる点 | 逆算の前提となった価額の根拠 | 見積方法の選択理由と期間・通貨の整合 |
追加借入利子率は何を使えばよいか
貸手の計算利子率を知り得ないときは借手が割引率を見積ることになり、借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率には、例えば、借手のリース期間と同一の期間におけるスワップレートに借手の信用スプレッドを加味した利率、および新規長期借入金等の利率が含まれます(指針BC66項)。後者については、契約時点の利率、契約が行われた月の月初又は月末の利率、契約が行われた月の平均利率、契約が行われた半期の平均利率が挙げられており、この場合には、借手のリース期間と同一の期間の借入れを行う場合に適用される利率を用いるとされています(指針BC66項)。
例示は複数あり、どれを社内ルールとして選ぶかを先に決めておくと運用が安定します。
実務で押さえたい3点
第一に、複数の方法が示されている点です。どれを採るかを会計方針レベルで整理しておかないと、契約ごとに担当者の判断がぶれます。
第二に、期間の一致です。リース期間と同一の期間の借入れに適用される利率を用いることが求められている以上(指針BC66項)、期間別の金利テーブルを一度作ってしまうのが実務的です。
第三に、信用スプレッドです。実際に長期借入をしていない会社ほど自社の調達金利データが乏しく、算定に時間がかかる傾向があります。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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割引率が1%違うと、いくら違うのか(数値例)
割引率の議論が抽象的になりがちなので、自作の数値例で確認します。前提は、年額リース料15,000千円・リース期間8年・期末年1回払い、リース料総額120,000千円です。指数・レート連動や残価保証、購入オプションは考慮していません。
| 項目 | 割引率1.0% | 割引率2.5% | 割引率4.0% |
|---|---|---|---|
| リース負債(=使用権資産) | 114,775千円 | 107,552千円 | 100,991千円 |
| 年間の減価償却費(定額8年) | 14,347千円 | 13,444千円 | 12,624千円 |
| 初年度の支払利息 | 1,148千円 | 2,689千円 | 4,040千円 |
| 初年度の費用合計 | 15,495千円 | 16,133千円 | 16,664千円 |
読み取れることは2つあります。1つ目は、割引率が1.0%と4.0%で計上額に13,784千円(約12%)の差が出ることです。自己資本比率やネット有利子負債の説明に直結します。
2つ目は、割引率が高いほど資産・負債は小さくなる一方、初年度の費用は大きくなるという逆方向の動きです。利息法により利息相当額を配分する(基準36項、指針39項)以上、率が高いほど費用の前傾化が強まるためで、「割引率を高めに置けば影響は小さい」という直感は損益では成り立ちません。
自社だけで進めると負担が大きいところ
条件変更・見直し時の割引率は定めが置かれていない
借手は、リースの契約条件の変更が生じた場合、変更前のリースとは独立したリースとして会計処理を行うか、又はリース負債の計上額の見直しを行います(指針44項、45項)。また、契約条件の変更が生じていない場合でも、借手のリース期間に変更がある場合等にはリース負債の計上額の見直しを行います(基準40項、指針46項)。
このとき、IFRS第16号は状況ごとに使用する割引率(変更前の割引率又は変更後の割引率)を定めていますが、本適用指針では、簡素で利便性が高い会計基準を開発するという方針等を理由に定めないこととされました(指針BC76項)。契約条件の変更を伴わないリース負債の見直しについても同様の理由から定めていません(指針BC79項)。
つまり、条件変更や再評価が起きたときに変更前後どちらの率を使うかは、会社が自ら方針を決めて継続適用し、監査人に説明する領域として残されていると考えられます。契約数が多い会社ほど、方針が定まらないまま個別対応を重ねると、期末に整合性の説明が難しくなります。
簡便的な取扱いが使えるかどうかの判定
使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合は、借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法、または利息相当額の総額をリース期間中の各期に定額法により配分する方法を適用することができます(指針40項(1)(2))。そして、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合とは、未経過の借手のリース料の期末残高が、当該期末残高、有形固定資産及び無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10パーセント未満である場合をいいます(指針41項)。
この10パーセントの判定は、リース契約を洗い出して未経過リース料を集計しなければ計算できません。判定の結果いかんで割引計算そのものが不要になり得るため、対応方針を決める前提として早期に試算しておく価値があります。
移行時の便法と注記
経過措置として一定の方法を選択する借手は、特性が合理的に類似した複数のリースに単一の割引率を適用することができます(指針124項(1))。また、当該方法を選択する借手は、適用初年度の期首の貸借対照表に計上されているリース負債に適用している借手の追加借入利子率の加重平均を注記します(指針125項(1))。
「加重平均を注記する」ということは、個々の契約に適用した率とその根拠が後から追える形で残っている必要があることを意味します。監査の現場では割引率のサンプルを抽出して算定根拠の提示を求める手続が想定され、契約単位で率と出所を管理する台帳が実質的に不可欠になります。IPO準備会社では期首時点にさかのぼって数値を作り直す局面もあり、着手の遅れがそのままスケジュールのリスクになります。
割引率の実務チェックリスト
- 契約ごとに、貸手の計算利子率を知り得るか(物件価額と見積残存価額が入手可能か)を確認したか
- 追加借入利子率として、スワップレート方式と新規長期借入金等の利率のどちらを採用するかを社内方針として決めたか
- 新規長期借入金等の利率を使う場合、契約時点・月初月末・月平均・半期平均のいずれによるかを固定したか
- リース期間と同一の期間に対応する金利テーブル(期間別)を整備したか
- 信用スプレッドの算定根拠(実際の借入条件、格付、金融機関の提示条件等)を文書化したか
- 条件変更・再評価が生じた場合に用いる割引率の方針を、あらかじめ定めて文書化したか
- 未経過リース料を集計し、10パーセント基準による簡便的取扱いの可否を試算したか
- 契約単位で適用した割引率とその根拠を記録する台帳を用意したか
- 移行時に単一割引率の便法を使う場合、「特性が合理的に類似した」グルーピングの考え方を整理したか
金利テーブルの整備、追加借入利子率の見積方法の選定、監査対応を見据えた根拠資料の作り方まで、公認会計士がご支援します。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
よくある質問
実務上、開示に応じてもらえる場合もありますが、必ず入手できるとは限りません。貸手の計算利子率は、貸手のリース料の現在価値と見積残存価額の現在価値の合計額が原資産の現金購入価額又は借手に対する現金販売価額と等しくなる利率と定義されており(指針66項)、これらの情報が入手できなければ知り得ないものとして扱い、追加借入利子率によることになると考えられます(指針37項(2))。
経過措置として一定の方法を選択する借手は、特性が合理的に類似した複数のリースに単一の割引率を適用することができるとされています(指針124項(1))。もっとも、これは移行時の取扱いとして示されたものであり、期間や通貨が大きく異なる契約まで一律にまとめることは、期間の一致を求める考え方(指針BC66項)と整合しにくいと考えられます。
リースの識別、リース期間の判定、リース料の集計は割引率と独立して進められます。むしろ、未経過リース料を集計しなければ10パーセント基準の判定(指針41項)もできないため、契約の棚卸しを先行させ、割引率は並行して方針を固めるのが現実的です。
資産・負債は小さくなりますが、利息法による配分(基準36項、指針39項)の結果、初年度の費用は大きくなります。本記事の数値例でも、割引率4.0%は1.0%より初年度費用が1,169千円多くなっています。安全側という発想ではなく、合理的に見積られる利率(指針37項(2))を説明できるかで判断すべき論点です。
まとめ
割引率は、貸手の計算利子率を知り得るか否かで二択となり(指針37項)、多くの会社は追加借入利子率の見積りに向き合うことになります。例示された方法から何を選ぶか、期間をどう合わせるか、条件変更時にどの率を使うかは、いずれも会社が方針として決め、根拠を残して説明する必要がある領域です。数字を1つ決めるだけの作業に見えて、金利テーブルの整備と契約単位の記録という地道な準備が土台になります。
連載の全体像は新リース会計基準の連載目次にまとめています。前回はリース料に含める5要素と変動リース料を、リース期間の判断が難しい契約については期間の定めが曖昧な契約の考え方を解説しています。次回は「使用権資産の当初測定」を取り上げます。
参考
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」34項、36項、40項
企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」37項、39項、40項、41項、44項、45項、46項、66項、124項、125項、BC66項、BC76項、BC79項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の会計処理の判断を保証するものではありません。最終的な会計処理および投資判断にあたっては、監査人その他の専門家にご相談ください。
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