※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
2026年9月18日、会計ソフト「大蔵大臣」をはじめとする基幹業務パッケージ『大臣シリーズ』を開発・販売する応研株式会社(本社:福岡市中央区)が、東京証券取引所のTOKYO PRO Market(以下「TPM」)に上場しました。上場に際して特定投資家向け取得勧誘等(一般市場の公募・売出しに当たる勧誘)は行わず、「発行者情報」を公表しての上場です。本記事では、JPXの新規上場会社情報に掲載された同社の発行者情報を読み、上場準備の実務で参考になる点を公認会計士の視点で整理します。
結論からいえば、応研のケースは「売上高60億円超・経常利益19億円の無借金のソフトウェア会社が、創業者と資産管理会社で議決権の99.6%を持つ株主構成のまま、直前1期の監査を経て資金調達なしでTPMへ上場した例」です。販売代理店を通じた間接販売モデルと特定取引先への依存、クラウド・保守の前受収益による契約負債の積み上がり、監査役会設置会社としての機関設計、内部監査委員2名による内部監査、ストック・オプションや株式移動がない「シンプルな資本政策」など、成熟した高収益の非上場会社がTPMを使うときの論点が具体的に記載されています。
この記事の見出し
応研はどんな会社で、いつTPMに上場したのか
応研は、創業者である代表取締役の原田明治氏が1980年11月に福岡市内で「大名マイコン学院」を個人創業したことに始まり、1985年4月に応用電算技研株式会社として設立されました。1986年1月に財務会計システム「大蔵大臣」を発売し、1994年11月に現在の商号に変更しています。発行者情報の沿革には、安価なパソコンで動く汎用業務ソフトへのニーズが高まるなか、学院の受講生である企業経営者等の要望から、あらゆる企業の共通業務である「会計」分野のパッケージ化を決意した経緯が記されています。決算期は12月で、直前事業年度は第42期(2025年12月期)です。
上場の手続面では、2026年8月14日に新規上場の申請が受け付けられ(同日に発行者情報を公表)、8月28日に上場承認、9月18日に上場しました。担当J-Adviserはフィリップ証券株式会社です。申請受付から上場承認までは10営業日で、TPMで「原則として上場申請から10営業日後に上場を承認」とされている流れどおりの日程です。申請に先立つ2026年5月18日には、1株を10,000株とする株式分割と、1単元を100株とする単元株制度の採用を行っています。
図1 発行者情報の記載とJPXの新規上場会社情報(申請受付日・上場承認日・上場日)をもとに作成
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 応研株式会社(OHKEN Corporation)、証券コード620A |
| 市場 | 東京証券取引所 TOKYO PRO Market |
| 上場日 | 2026年9月18日 |
| 上場承認日 | 2026年8月28日 |
| 申請受付日 | 2026年8月14日(発行者情報の公表日) |
| 担当J-Adviser | フィリップ証券株式会社 |
| 上場時の開示書類 | 発行者情報(特例110条3項。特定投資家向け取得勧誘等なし) |
| 本店 | 福岡市中央区天神(福岡本社・東京本社の2本社体制) |
| 設立 | 1985年4月(応用電算技研株式会社として設立、1994年11月に現商号) |
| 決算期 | 12月(第42期=2025年12月期) |
| 事業 | ソフトウェア事業の単一セグメント(クラウドサービス、オンプレミス製品その他、保守サービス) |
| 関係会社 | なし(連結財務諸表は作成していない) |
| 従業員 | 372名(臨時1名)、平均年齢33.3歳、平均勤続年数9.9年(2026年7月31日現在) |
| 監査 | 有限責任監査法人トーマツ(第42期の財務諸表を監査) |
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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか
応研の発行者情報には、「上場目的」や「TPMを選んだ理由」を説明する記載はありません。株式分割と単元株制度の採用については「当社株式の流動性の向上と投資家層の拡大を図ることを目的として」と記載されていますが、これは株式分割等の目的であり、TPMを選んだ理由として説明されたものではありません。本記事では、同社の選択理由を推測することは控えます。
一般論として、TPMには一般市場と異なる特徴があります。株主数・流通株式・利益の額などの形式基準(数値基準)がなく、上場時に資金調達を行わない上場も可能です。東証は2026年4月から、新規上場時に「なぜTPMに上場するのか・どう活用するのか」という上場目的を検討・開示するよう要請しています(規程上の義務ではなく「お願い」です)。東証が公表した2026年6月15日時点の集計では、上場目的の上位は社内体制強化・営業力強化・採用力強化で、「増資」を挙げた会社は1割程度にとどまります。上場準備の全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考にしてください。
TPMの上場の仕組みは一般市場とどう違うのか
TPMは、2008年の金融商品取引法改正で導入された「プロ向け市場制度」に基づく市場で、法令上は「特定取引所金融商品市場」に当たります。株式を買い付けられるのは特定投資家(適格機関投資家など)や一定の要件を満たして特定投資家に移行した個人等で、一般投資家は取引所で買付けができません(保有株式の売却は可能です)。応研の発行者情報の冒頭にも、TPMは特定投資家等を対象とした市場であり、上場会社は高い投資リスクを含んでいる場合がある、という注意事項が置かれています。
上場審査の中心になるのが担当J-Adviserです。TPMには数値の形式基準がない代わりに、担当J-Adviserが5つの上場適格性要件を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成します。東証も意向表明の後に面談を行うため、「審査がない市場」ではありません。応研の発行者情報には、上場予定日(2026年9月18日)から12か月間の運転資本は「自己資本による資金調達が可能であることから十分である」という記載があります。
図2 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する
開示書類の名称にも注意が必要です。上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行う会社は「特定証券情報」を公表しますが、応研は勧誘を行わないため、特例110条3項により「発行者情報に相当する情報」を公表しています。上場後は、年次と中間の発行者情報を各期末後3か月以内に公表します。これらは一般市場の有価証券報告書・半期報告書とは別の書類です。
図3 金融商品取引法27条の31と、発行者情報表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成
監査について、TPMの新規上場で求められる監査期間は「最近1年間」です。応研は第42期(2025年12月期)の財務諸表について有限責任監査法人トーマツの監査を受けており、主要な経営指標の注記で「第40期から第41期の財務諸表については、当該監査を受けておりません」と明記しています。監査報告書の「その他の事項」にも、前事業年度の財務諸表は監査されていない旨が記載されています。一般市場の新規上場では直前2期の監査が求められるため、監査法人と契約する時期の考え方が変わります(監査法人はいつまでに決めるか)。
一般市場(グロース・スタンダード)との比較
| 項目 | TOKYO PRO Market | 一般市場(グロース・スタンダード) |
|---|---|---|
| 買付けができる投資家 | 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、売却は可能) | 一般投資家を含む |
| 形式基準 | なし(数値基準がない) | 株主数・流通株式等の形式基準あり |
| 上場適格性の調査 | 担当J-Adviserが調査・確認、東証が面談 | 東証の上場審査 |
| 申請から承認まで | 原則として申請から10営業日後に承認 | 一般市場の審査日程による |
| 新規上場時の監査期間 | 最近1年間 | 直前2期 |
| 開示書類 | 特定証券情報・発行者情報 | 有価証券届出書・有価証券報告書等 |
| 四半期開示 | 任意 | 四半期決算短信(取引所規則) |
| 内部統制報告書 | 任意 | 提出が必要 |
| 会計基準 | 日本基準・米国基準・IFRS等 | 日本基準・米国基準・IFRS等 |
| 上場維持の前提 | 担当J-Adviserとの契約の維持 | J-Adviser制度なし |
表のTPM欄は、JPXのTPM概要ページと上場ガイドブック(TPM編)の記載に基づいています。一般市場の会社を前提にしたルール(実質審査基準など)を、そのままTPMの会社に当てはめて考えないよう注意が必要です(IPOの実質審査基準とは)。
事業内容と収益モデル:代理店網を通じた『大臣シリーズ』
応研は、「お客様と共に喜びを追求し続ける創造企業(ソフトハウス)」を企業使命として、財務会計・人事労務管理・販売管理・顧客管理などの基幹業務向けパッケージソフトとクラウドサービスを『大臣シリーズ』として提供しています。発行者情報は、同社の経営上の最大の特徴を、自社による直接販売に依存せず、全国の販売代理店網を通じて製品・サービスを提供する「間接販売モデル」を主軸としている点だと説明しています。代理店には、システムインテグレーター、大手OA機器販売会社、文具・事務用品ディーラー、会計事務所や社会保険労務士事務所等が含まれます。
契約形態は、販売代理店と当社が取引基本契約を締結し、代理店は当社から卸価格で仕入れて標準価格等でエンドユーザーに販売するというものです。エンドユーザーは代理店の顧客で、システム導入時にはエンドユーザーと代理店が売買契約を締結します。事業系統図では、エンドユーザーとの間にソフトウェア使用許諾契約・保守サービス契約が示されています。また、福岡本社と東京本社の2本社体制により、開発・サポート機能の連携と災害時の事業継続(BCP)を確保しているとしています。
図4 発行者情報「事業の内容」の説明と事業系統図をもとに作成
収益構造は、新規顧客の獲得やシステムリプレイス時のライセンス売上・導入指導料等の「フロー収入」で顧客基盤を広げ、導入後のクラウド利用料や年間保守サービス料の「ストック収入」で安定したキャッシュ・フローを積み上げる「リカーリング・ビジネスモデル」と説明されています。クラウドサービス(「スマート大臣」「大臣クラウド」)は年額のサブスクリプション方式で、中長期の成長を支える戦略セクターと位置づけられています。保守サービスは法改正対応プログラムの無償提供や専門ヘルプデスクを内容とし、保守サービスの加入率は79.2%(全ユーザー数に対する加入ユーザー数の割合)と記載されています。
図5 発行者情報「事業の内容」の収益構造図と販売実績をもとに作成(第42期、百万円)
第42期の売上高6,089百万円をサービス区分別に見ると、クラウドサービスが2,214百万円(前期比122.9%)、オンプレミス製品その他が2,130百万円(同110.4%)、保守サービスが1,744百万円(同101.5%)です。発行者情報は、クラウドサービスが大きく伸びた一方、オンプレミス製品ユーザーの保守サービス加入はほぼ前期並みにとどまったと説明しています。同社はソフトウェア事業の単一セグメントのため、セグメント情報の代わりにサービス区分別の情報を開示しています。
| サービス区分(百万円) | 第41期 2024年12月期 | 第42期 2025年12月期 | 前期比 |
|---|---|---|---|
| クラウドサービス | 1,801 | 2,214 | 122.9% |
| オンプレミス製品その他 | 1,929 | 2,130 | 110.4% |
| 保守サービス | 1,718 | 1,744 | 101.5% |
| 合計 | 5,450 | 6,089 | 111.7% |
図6 発行者情報 収益認識関係注記・販売実績より(百万円)。伸び率は会社の記載
特定の取引先への依存も開示
販売実績では、株式会社リコーへの売上高が第41期1,228百万円(22.5%)、第42期1,396百万円(22.9%)と開示されています。事業等のリスクでは、リコー社とは20年以上取引を続けて良好な関係にあるものの、同社の経営判断等によって取引が減少する恐れがあり、新規取引先の開拓で依存度の低下に取り組むと記載されています。仕入側でも、日本ビジネスシステムズ株式会社とダイワボウ情報システム株式会社からの仕入が仕入全体のそれぞれ約56%、約34%を占め、両社は日本マイクロソフト株式会社の特約店であるとされています。経営上の重要な契約にも、Microsoft Ireland Operations Limitedとのクラウド基盤のライセンス購入契約などが挙げられています。
特定の取引先への依存は、上場準備で必ず確認される論点です。依存度の数値、取引の経緯、契約条件、依存度を下げる施策を、リスク情報として具体的に説明できるようにしておくことが求められます。
図7 発行者情報「販売実績」「事業等のリスク」より
沿革と上場までの道のり
沿革によると、同社は設立と同じ1985年4月に東京支店(現 東京本社)を開設し、1989年12月の大阪支店、1997年12月の名古屋・仙台・四国の各営業所、1998年12月の広島営業所、2004年5月の金沢営業所と拠点を広げてきました。2002年4月には福岡市中央区天神に応研ビルを完成させて本社を移転し、2011年12月には渋谷区代々木のオフィスビルを取得して東京本社を移転しています。2016年2月に「福祉大臣NXクラウド」(大臣NXシリーズのクラウド運用サービス)を開始し、2025年8月には福岡市中央区に新本社ビルが竣工し、福岡本社を移転しました。
資本面では、2023年3月14日に会社法450条1項に基づきその他利益剰余金510百万円を資本金に振り替え、資本金を1,000百万円としています。
図8 発行者情報「沿革」より主要な出来事を抜粋
業績はどう推移しているか
| 項目(百万円) | 第40期 2023年12月期 | 第41期 2024年12月期 | 第42期 2025年12月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 5,150 | 5,450 | 6,089 |
| 経常利益 | 1,522 | 1,641 | 1,944 |
| 当期純利益 | 1,053 | 1,117 | 1,329 |
| 純資産額 | 9,184 | 9,984 | 10,980 |
| 総資産額 | 15,890 | 17,412 | 18,798 |
| 自己資本比率(%) | 57.8 | 57.3 | 58.4 |
| 自己資本利益率(%) | 12.0 | 11.7 | 12.7 |
| 配当性向(%) | 30.1 | 29.8 | 30.3 |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | ― | 1,798 | 1,513 |
| 現金及び現金同等物の期末残高 | ― | 10,908 | 10,710 |
| 従業員数(臨時)(人) | 335(1) | 339(1) | 355(1) |
主要な経営指標は単体の3期分が記載されています。第40期・第41期は監査を受けていない数値で、第40期はキャッシュ・フロー計算書を作成していません。1株当たりの数値は2026年5月18日の株式分割が第40期の期首に行われたと仮定して算定されていますが、1株当たり配当額は分割前の株式数に基づく金額(第42期876,000円)が記載されています。
第42期は売上高が前期比11.7%増、営業利益1,940百万円(同20.2%増)、経常利益1,944百万円(同18.5%増)、当期純利益1,329百万円(同19.0%増)でした。売上総利益率は約70%(本記事の計算)で、販売費及び一般管理費2,344百万円には研究開発費433百万円が含まれます。製造原価の内訳は労務費が56.5%を占めており、開発人員の人件費が原価の中心であることが分かります。
図9 発行者情報「主要な経営指標等の推移」より(単位:百万円)。第40期・第41期は監査を受けていない
図10 発行者情報 損益計算書より(単位:百万円)。営業外は収益6・費用1の純額
前受収益が積み上がる財務構造
貸借対照表の特徴は、流動負債の大半を占める契約負債です。第42期末の契約負債は5,490百万円(前期末5,179百万円)で、内訳はクラウド前受収益3,140百万円、保守前受収益1,776百万円、ユースウェア(導入指導)前受収益545百万円などです。収益認識の注記によると、クラウドサービスと保守サービスは多くの場合、契約期間にわたる対価をサービス開始時点までに一括で受領しています。残存履行義務に配分した取引価格は、1年以内が3,588百万円、1年超が1,901百万円です。
この前受けの仕組みにより、営業活動によるキャッシュ・フロー1,513百万円のうち310百万円は契約負債の増加によるものです。第42期は福岡本社ビルの建築工事代金1,368百万円の支出があり、配当金333百万円を支払っても、現金及び現金同等物は10,710百万円と前期末から197百万円の減少にとどまりました。借入金はありません(借入金等明細表は該当なし)。前受型のビジネスでは、契約負債の残高管理と収益の期間按分の正確性が、決算の信頼性を左右します。
図11 発行者情報 収益認識関係注記・主な資産及び負債の内容・キャッシュ・フロー計算書より(百万円)
資本政策と株主構成:創業者と資産管理会社で議決権の99.6%
発行者情報の公表日現在の発行済株式数は4,830,000株で、このうち230,000株は自己株式です。種類株式、新株予約権(ストック・オプション)はありません。第四部「株主の状況」に記載された株主は4名で、代表取締役社長の原田明治氏が2,600,000株(56.52%)、同氏の二親等以内の血族が議決権の過半数を所有する株式会社HARADAが1,980,000株(43.04%)、監査役と取締役が各10,000株(各0.22%)を所有しています(割合は自己株式を除く4,600,000株に対するもの)。事業等のリスクでは、代表取締役が資産管理会社の所有分を含めて議決権の99.6%を所有していると記載され、支配株主として少数株主の利益にも配慮する方針が示されています。
| 株主(属性) | 所有株式数(株) | 割合(%) |
|---|---|---|
| 原田明治氏(代表取締役社長) | 2,600,000 | 56.52 |
| 株式会社HARADA(社長の二親等以内の血族が議決権の過半数を所有する会社) | 1,980,000 | 43.04 |
| 監査役(1名) | 10,000 | 0.22 |
| 取締役(1名) | 10,000 | 0.22 |
| 計 | 4,600,000 | 100.00 |
図12 発行者情報 第四部「株主の状況」より。自己株式230,000株を除く4,600,000株に対する割合
第四部の「特別利害関係者等の株式等の移動状況」と「第三者割当等の概況」は、いずれも「該当事項はありません」です。上場前の資本政策としては、2023年3月の利益剰余金の資本組入れと、2026年5月18日の株式分割(1株→10,000株)・単元株制度の採用・発行可能株式総数の変更(19,320,000株)が中心で、きわめてシンプルな構成です。配当は年1回の期末配当を基本とし、第42期は配当性向30.0%程度を目安に、2026年3月16日の定時株主総会で配当金総額402百万円を決議しています。
TPMには流通株式比率などの形式基準がないため、このように株主がごく少数で、オーナーがほぼすべての議決権を持つ状態でも上場が可能です。一方、一般市場では流通株式に関する基準を満たす必要があり、資本政策の組み立て方が大きく変わります(流通株式比率の計算式と調べ方)。
図13 発行者情報「発行済株式総数、資本金等の推移」「配当政策」「重要な後発事象」等より
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
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コーポレート・ガバナンス:監査役会設置会社、社外取締役1名
役員は男性8名で、取締役5名(うち社外取締役1名)、監査役3名(うち常勤監査役1名、社外監査役2名)の監査役会設置会社です。社外取締役は元裁判官の弁護士、社外監査役は監査法人勤務を経た公認会計士と税理士です。常勤監査役は当社の取締役(開発部長・総務部長)を経て2024年3月に監査役に就任した人物です。取締役会は毎月1回の定時取締役会と臨時取締役会で運営され、法令・定款・株主総会の委任事項以外の業務執行の意思決定は社内規程により代表取締役と各担当取締役に委任し、その結果を取締役会に報告する仕組みです。執行役員制度も導入しており、執行役員は1名です。
社外取締役・社外監査役の独立性については「特段の定めはありませんが」、取引関係等を考慮したうえで選任していると記載されています。TPMには一般市場のような機関設計の形式要件はなく、企業の規模や成熟度等に応じた体制が求められますが、応研は監査役会と社外取締役を備えた体制を選んでいます。機関設計の選び方はIPO審査の「機関設計」とはで解説しています。
図14 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」の記載と模式図をもとに作成
2025年12月期の役員報酬の総額は94,000千円と記載されています。定款では、取締役7名以内、取締役の選任決議の定足数3分の1・累積投票によらないこと、取締役会決議による自己株式の取得と中間配当(6月30日基準)、取締役会決議による役員の責任免除(会社法426条1項)を定めています。関連当事者との取引は前期・当期とも「該当事項はありません」です。オーナー企業では役員や親族との取引の整理が論点になりがちですが(IPO審査の「企業経営の健全性」(関連当事者取引))、同社の開示では該当がないことが確認できます。
内部監査と内部統制:内部監査委員2名と三様監査
内部監査は、会社組織・制度・業務が経営方針や社内規程等に沿って適切に行われているかを検証・評価し、助言して業務改善を進めるため、代表取締役の指示により「内部監査委員2名」が各部門の内部監査を実施しています。監査の実施にあたっては監査役と監査法人と連携し、効果的・効率的な監査となるよう留意していると記載されています。ガバナンスの模式図では、内部監査室が各業務執行部門を監査し、監査役会・会計監査人と連携する関係が示され、取締役会の下にはコンプライアンス委員会と経営危機対策本部が置かれています。
内部統制システムについては、会社法上の内部統制はもとより金融商品取引法における内部統制の整備・運用の充実を目指し、現状でも企業規模に対応した適切で有効な内部統制機能を確保していると説明しています。リスク管理は「リスク管理規程」に基づき、必要に応じて弁護士等の専門家の助言を受ける体制です。事業等のリスクには、管理部門が比較的少数で構成されているため、急な要員の退職や業務負荷の急増があった場合に開示の遅延や内部管理の機能不全が生じる可能性があることも挙げられています。少人数の内部監査体制の組み方は内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)で整理しています。
図15 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」の記載と模式図をもとに作成
会計・開示の論点:期間按分の収益認識と退職給付
収益認識では、クラウドサービスと保守サービスは顧客との契約に基づき一定の期間にわたり収益を認識し、オンプレミス型のパッケージソフトウェア販売は商品を出荷した時点で収益を認識しています。商品の対価は引渡し後おおむね2か月以内に受領し、金利要素は含まれていません。当社が代理人となる取引は純額で計上しています。代理店経由の販売で、ライセンス・保守・クラウド・導入指導が組み合わさる取引では、履行義務の識別と期間按分のルールを明確にしておくことが重要です(上場審査で問われる収益認識)。
重要な会計上の見積りは「該当事項はありません」と記載されています。そのほかの注記では、非積立型の確定給付制度(退職一時金)による退職給付引当金612百万円(割引率2.19%)、役員退職慰労金規程に基づく役員退職慰労引当金613百万円、自社利用ソフトウェアの5年償却、敷金の償却による資産除去債務の簡便的な処理などが記載されています。法人税率の変更により法定実効税率を30.45%から31.36%に変更して繰延税金資産を計算したことも注記されています。
会計監査人は有限責任監査法人トーマツで、業務を執行した公認会計士は2名、補助者は公認会計士7名・その他9名です。監査証明業務に基づく報酬は16百万円で、非監査業務はありません。
図16 発行者情報 注記「重要な会計方針(収益及び費用の計上基準)」「収益認識関係」より
事業等のリスクとJ-Adviser契約
事業等のリスクは、事業環境・市場(クラウド市場へのシフトと競争激化、法制度改正への対応)、販売・流通(代理店網への依存、特定取引先への依存、既存顧客の解約)、組織・労務(専門人材の確保と労務管理、内部管理体制の構築・維持コスト、代表者への依存、配当)、開発・技術(知的財産権とOSS、外注先への依存と外注費の高騰)、財務・会計(ソフトウェアの減損)、インフラ・BCP(情報セキュリティ、データセンターへの依存)に分類して記載されています。法改正の施行時期までに開発が間に合わない場合や、アップデートに重大な不具合が生じた場合の影響に触れている点は、法令と連動する業務ソフトならではのリスクです。
J-Adviser契約については、当該契約がTPMにおける新規上場と上場維持の前提となる契約であり、契約を解除し、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合は上場廃止となることが明記されています。債務超過(上場後3年間に終了する事業年度に債務超過となった場合を除く等の定めあり)、銀行取引の停止、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見、反社会的勢力の関与など即日無催告で解除できる事由が具体的に列挙され、義務違反時の書面催告(特段の事情のない限り1か月)、合意又は1か月前の書面通知による解除、解除時の東証への事前通知も記載されています。公表日現在、解除条項に該当する事象は生じていないとされています。
図17 発行者情報「事業等のリスク(J-Adviserとの契約について)」をもとに作成。解除条項は①〜⑳だが、④は再建計画を開示した場合に原則として解除しない旨の定めで、解除事由は19項目
一般市場へのステップアップを考える会社への示唆
応研の発行者情報には、将来の一般市場への上場や市場変更に関する記載はありません。そのため、ここでは同社の方針には触れず、TPMから一般市場を目指す場合の一般的な留意点を整理します。
TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMを申請により上場廃止し、一般市場に新規上場する手続として扱われます。実例として、AlbaLinkは2025年12月14日にTPMを上場廃止し、翌15日にグロース市場に新規上場しています。東証は2025年11月の資料で、TPMから一般市場への上場審査は非上場企業と同様に一から確認が行われていると現状を整理し、2026年4月の資料では「26年秋めど」にTPM実績を勘案した一般市場上場審査の効率化と開示様式の共通化・簡素化を予定していると公表しています(本記事執筆時点で実施済みかどうかは確認できていません)。
一般市場を視野に入れる会社にとっては、直前2期の監査、株主数・流通株式の形式基準、内部統制報告書など、TPMで求められない項目への対応を別途計画する必要があります。特にオーナーが議決権のほぼすべてを持つ会社では、流通株式をどう確保するかが資本政策上の大きなテーマになります(グロース市場事前チェックリスト)。
上場準備会社が応研の事例から学べること
1. 資金調達なしでもTPMに上場できる:特定投資家向け取得勧誘等を行わず、発行者情報で上場しています。上場目的を自社で言語化しておくことが今後はより重視されます。
2. 監査は直前1期、未監査期は明記する:第42期の1期分について監査を受け、第40期・第41期は監査を受けていないことを明記しています。
3. オーナーがほぼすべての議決権を持っていても上場は可能:形式基準がないTPMの特徴です。支配株主としての方針の説明が求められます。
4. 前受型ビジネスは契約負債の管理が要:契約負債5,490百万円の内訳と残存履行義務まで開示しており、期間按分の仕組みが決算の信頼性を支えます。
5. 取引先への依存は数値と施策で説明する:販売先・仕入先とも依存度を数値で示し、取引の経緯と対応を記載しています。
6. 少人数の管理部門のリスクを自覚する:上場後の開示・内部管理の維持コストと要員リスクを、自らリスク情報として挙げています。
図18 本記事で取り上げた論点のまとめ
- 上場目的(なぜTPMか、上場をどう活用するか)を社内で言語化している
- 監査を受ける事業年度と、担当J-Adviser・監査法人の候補が決まっている
- クラウド・保守など前受取引の契約負債と収益の期間按分のルールを文書化している
- 主要な販売先・仕入先への依存度を数値で把握し、リスクと対応を説明できる
- 支配株主との関係(取引の有無、少数株主保護の方針)を整理している
- 上場後の開示・内部監査を担う管理部門の要員計画を立てている
よくある質問
上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないため、特例110条3項の規定により「発行者情報に相当する情報」を公表して上場したためです。
新規上場時に求められる監査期間は最近1年間です。応研は第42期(2025年12月期)の財務諸表について有限責任監査法人トーマツの監査を受けており、第40期・第41期は監査を受けていないことを明記しています。
TPMには株主数や流通株式比率などの形式基準がありません。応研の株主は4名で、代表取締役と資産管理会社で議決権の99.6%を所有していますが、担当J-Adviserの調査を経て上場しています。
最初の一歩は「監査対象期」と「上場目的」の整理から
TPMを検討する会社が最初に取り組みたいのは、上場目的を言語化したうえで、監査を受ける事業年度と担当J-Adviserの調査期間から上場時期を逆算することです。自社の現状を把握するには、まずショートレビューで課題を洗い出すのが近道です。
まとめ
応研は、2026年9月18日にTOKYO PRO Marketへ上場しました。特定投資家向け取得勧誘等を行わず、直前1期の監査を受けた発行者情報で上場しており、申請受付(8月14日)から上場承認(8月28日)までは10営業日、担当J-Adviserはフィリップ証券株式会社です。
発行者情報からは、代理店網を通じた間接販売モデルと取引先への依存、クラウド・保守の前受収益による契約負債と期間按分の収益認識、創業者と資産管理会社で議決権の99.6%を持つ株主構成と株式移動・第三者割当のない資本政策、監査役会と社外取締役を備えた機関設計、内部監査委員2名による内部監査など、成熟した高収益企業がTPMを使う際の論点を具体的に読み取ることができます。形式基準がないTPMだからこそ、「自社の体制を、どの水準で、どう説明できるか」を整えておくことが大切だといえます。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 東京証券取引所 TOKYO PRO Market 新規上場会社情報「応研 発行者情報」(2026年8月14日公表)
- 日本取引所グループ「新規上場会社情報(TOKYO PRO Market)」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 概要」
- 日本取引所グループ「特定投資家制度の概要」
- 日本取引所グループ「J-Adviser制度」
- 日本取引所グループ「TOKYO PRO Market 上場基準」
- 日本取引所グループ「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」
- 東京証券取引所「TOKYO PRO Marketの今後の方向性」(2026年4月3日)
- 東京証券取引所「上場目的の開示状況」(2026年6月15日時点)
- 東京証券取引所「プロマーケットの今後の方向性について」(2025年11月13日)
- 日本取引所グループ ニュース(2025年11月11日、AlbaLinkのTPM上場廃止とグロース市場への新規上場)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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