ハイネスコーポレーションのTOKYO PRO Market上場|SPCと持分法、代表者保証【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

2026年10月2日、シニア向け分譲マンション「中楽坊」を展開するハイネスコーポレーション株式会社(本社:大阪市中央区)が、東京証券取引所のTOKYO PRO Market(以下「TPM」)に上場しました。上場に際して特定投資家向け取得勧誘等(一般市場の公募・売出しに当たる勧誘)は行わず、「発行者情報」を公表しての上場です。本記事では、JPXの新規上場会社情報に掲載された同社の発行者情報を読み、上場準備の実務で参考になる点を公認会計士の視点で整理します。

結論からいえば、ハイネスコーポレーションのケースは「物件ごとの事業目的会社(SPC)を使う不動産グループが、連結初年度の翌期1期分の監査と担当J-Adviserの調査を経て、資金調達を伴わずにTPMへ上場した例」です。連結子会社と持分法適用会社の区分で売上高が大きく変わる事業構造、引渡基準の収益認識と棚卸資産の評価、自己資本比率11.9%の借入依存と財務制限条項、代表者による債務保証、創業家で8割超を持つ株主10名の株主構成、社外取締役を置かず非常勤の社外監査役2名で牽制する機関設計など、不動産開発型の非上場会社がTPMを使うときに論点になりやすい項目が具体的に記載されています。

ハイネスコーポレーションはどんな会社で、いつTPMに上場したのか

ハイネスコーポレーションは、1993年3月にハイネス恒産株式会社の大阪支社を母体としてMBO(経営陣による買収)で独立し、「株式会社大阪ハイネス」として設立されました。2003年6月に現在の商号に変更しています。分譲マンションの販売受託から始まり、2008年に高齢者向け分譲マンションの第1号を販売、2015年にはシニア向け分譲マンション「中楽坊」シリーズの第1号を販売開始しました。決算期は2月で、上場時点の直前連結会計年度は第33期(2026年2月期)です。

上場の手続面では、2026年8月28日に新規上場の申請が受け付けられ(同日に発行者情報を公表)、9月11日に上場承認、10月2日に上場しました。担当J-Adviserは株式会社ジャパンインベストメントアドバイザーです。申請受付から上場承認までは10営業日で、TPMで「原則として上場申請から10営業日後に上場を承認」とされている流れどおりの日程です。申請に先立ち、2026年5月27日に1株を400株とする株式分割を行い、7月21日の臨時株主総会で1単元を100株とする単元株制度を採用しています。

ハイネスコーポレーションのTOKYO PRO Market上場までの日程2026年2月28日直前連結会計年度末(第33期)2026年5月27日株式分割(1株→400株)2026年8月28日申請受付・発行者情報公表2026年9月11日上場承認2026年10月2日TPM上場申請受付から上場承認まで10営業日、上場承認から上場日まで21日(暦日、本記事の計算)2026年7月21日の臨時株主総会で単元株制度(1単元100株)を採用特定投資家向け取得勧誘等(公募・売出しに当たる勧誘)は行わずに上場

図1 発行者情報の記載とJPXの新規上場会社情報(申請受付日・上場承認日・上場日)をもとに作成

項目 内容
会社名 ハイネスコーポレーション株式会社、証券コード638A
市場 東京証券取引所 TOKYO PRO Market
上場日 2026年10月2日
上場承認日 2026年9月11日
申請受付日 2026年8月28日(発行者情報の公表日)
担当J-Adviser 株式会社ジャパンインベストメントアドバイザー
上場時の開示書類 発行者情報(特例110条3項。特定投資家向け取得勧誘等なし)
本店 大阪市中央区伏見町
設立 1993年3月(株式会社大阪ハイネスとして設立、2003年6月に現商号)
決算期 2月(第33期=2026年2月期)
事業 中楽坊分譲事業、中楽坊流通事業、中楽坊管理事業、その他(不動産賃貸)
グループ 当社、連結子会社6社、持分法適用関連会社6社、非連結子会社1社の計14社
従業員 連結96名(臨時278名)、単体56名・平均年齢47.7歳・平均勤続年数8.2年(2026年7月31日現在)
監査 監査法人アヴァンティア(第33期の連結財務諸表を監査)

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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか

ハイネスコーポレーションの発行者情報には、「上場目的」や「TPMを選んだ理由」を説明する記載はありません。対処すべき課題として、自社グループ一体運営による独自価値の追求、中古流通を含めた事業サイクルの確立、コミュニティ価値の向上、案件ソーシング、営業力の強化、精緻な経営管理などが挙げられていますが、これらを上場と結びつけた説明はなく、本記事では同社の選択理由を推測することは控えます。

一般論として、TPMには一般市場と異なる特徴があります。株主数・流通株式・利益の額などの形式基準(数値基準)がなく、上場時に資金調達を行わない上場も可能です。東証は2026年4月から、新規上場時に「なぜTPMに上場するのか・どう活用するのか」という上場目的を検討・開示するよう要請しています(規程上の義務ではなく「お願い」です)。東証が公表した2026年6月15日時点の集計では、上場目的の上位は社内体制強化・営業力強化・採用力強化で、「増資」を挙げた会社は1割程度にとどまります。

TPMの上場の仕組みは一般市場とどう違うのか

TPMは、2008年の金融商品取引法改正で導入された「プロ向け市場制度」に基づく市場で、法令上は「特定取引所金融商品市場」に当たります。株式を買い付けられるのは特定投資家(適格機関投資家など)や一定の要件を満たして特定投資家に移行した個人等で、一般投資家は取引所で買付けができません(保有株式の売却は可能です)。ハイネスコーポレーションの発行者情報の冒頭にも、TPMは特定投資家等を対象とした市場であり、上場会社は高い投資リスクを含んでいる場合がある、という注意事項が置かれています。

上場審査の中心になるのが担当J-Adviserです。TPMには数値の形式基準がない代わりに、担当J-Adviserが「企業としての相応性」「事業の公正・忠実な遂行」「ガバナンス・内部管理体制」「適正な開示を行える体制」「反社会的勢力との関係がないこと等」の5つの上場適格性要件を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成します。東証も意向表明の後に面談を行うため、「審査がない市場」ではありません。

TOKYO PRO Marketの上場手続と上場適格性要件J-Adviser契約・調査意向表明申請の約30営業日前まで上場申請発行者情報等を公表上場承認原則申請から10営業日後上場日担当J-Adviser(J-QS)が上場適格性を調査・確認し「上場適格性に係る宣誓書」を作成東証も意向表明後に面談を行う(「審査がない市場」ではない)上場適格性要件(5項目)企業としての相応性事業の公正・忠実な遂行ガバナンス・内部管理体制適正な開示を行える体制反社会的勢力との関係なし等

図2 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する

ハイネスコーポレーションの発行者情報には、「企業としての相応性」に関わる記載として、上場予定日(2026年10月2日)から12か月間の運転資本は「自己資金及び借入による資金調達が可能であることから十分である」という一文があります。不動産開発のように借入で事業資金を回す会社では、上場時に資金調達をしない場合でも、上場後1年間の資金繰りを借入計画も含めて説明できるようにしておく必要があります。

開示書類の名称にも注意が必要です。上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行う会社は「特定証券情報」を公表しますが、ハイネスコーポレーションは勧誘を行わないため、特例110条3項により「発行者情報に相当する情報」を公表しています。表紙の書類名が「発行者情報」になっているのはこのためです。上場後は、年次と中間の発行者情報を各期末後3か月以内に公表します。これらは一般市場の有価証券報告書・半期報告書とは別の書類です。

上場時の開示書類はどう決まるか(ハイネスコーポレーションのケース)上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行うか行う場合特定証券情報を提供・公表(金融商品取引法27条の31)当社:行わない特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表上場後はいずれも年次・中間の「発行者情報」を各期末後3か月以内に公表(一般市場の有価証券報告書・半期報告書とは別の書類)行う行わない

図3 金融商品取引法27条の31と、発行者情報表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成

監査についても一般市場と違いがあります。TPMの新規上場で求められる監査期間は「最近1年間」です。ハイネスコーポレーションは第33期(2026年2月期)の連結財務諸表について監査法人アヴァンティアの監査を受けており、主要な経営指標の注記で「第32期の連結財務諸表については当該監査を受けておりません」と明記しています。監査報告書の「その他の事項」にも、前連結会計年度の連結財務諸表は監査されていない旨が記載されています。同社は第32期から連結財務諸表を作成しており、連結決算を始めた翌期に監査を受けて上場したことになります。一般市場の新規上場では直前2期の監査が求められるため、監査法人と契約する時期の考え方が変わります(監査法人はいつまでに決めるか)。

一般市場(グロース・スタンダード)との比較

項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード)
買付けができる投資家 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、売却は可能) 一般投資家を含む
形式基準 なし(数値基準がない) 株主数・流通株式等の形式基準あり
上場適格性の調査 担当J-Adviserが調査・確認、東証が面談 東証の上場審査
申請から承認まで 原則として申請から10営業日後に承認 一般市場の審査日程による
新規上場時の監査期間 最近1年間 直前2期
開示書類 特定証券情報・発行者情報 有価証券届出書・有価証券報告書等
四半期開示 任意 四半期決算短信(取引所規則)
内部統制報告書 任意 提出が必要
会計基準 日本基準・米国基準・IFRS等 日本基準・米国基準・IFRS等
上場維持の前提 担当J-Adviserとの契約の維持 J-Adviser制度なし

表のTPM欄は、JPXのTPM概要ページと上場ガイドブック(TPM編)の記載に基づいています。一般市場の会社を前提にしたルール(実質審査基準など)を、そのままTPMの会社に当てはめて考えないよう注意が必要です。一般市場の審査の考え方はIPOの実質審査基準とはで整理しています。

事業内容と収益モデル:「中楽坊」の分譲・流通・管理

同社グループの中核は、シニア向け分譲マンション「中楽坊」です。発行者情報では、用地取得から企画・開発・販売までを自社単独又はパートナー企業と共同で一気通貫で手がけ、企画手数料、販売手数料、事業利益配当等を得る「中楽坊分譲事業」、マンション購入者の従前の自宅や中古「中楽坊」の売買仲介、事業用地や中古物件の買取・リフォーム・再販を行う「中楽坊流通事業」、管理組合から管理業務を受託し、アテンダントによる生活支援サービスやマンション内レストランの運営まで提供する「中楽坊管理事業」の3つを主要事業としています。このほか「その他」として不動産賃貸があります。

第33期の外部顧客への売上高は、分譲事業が3,664,009千円、流通事業が146,299千円、管理事業が1,097,353千円、その他が9,833千円で、合計4,917,494千円です。売上高の10%以上を占める相手先はないと記載されています。対処すべき課題では、企画・販売から管理、生活支援、レストラン運営までを自社グループで一体提供する体制を「ファミリー向けマンションやサービス付高齢者向け住宅・老人ホームとの違い」として位置づけています。

「中楽坊」を軸にした3つの事業ハイネスコーポレーショングループ(計14社)中楽坊分譲事業企画・開発・販売3,664,009千円中楽坊流通事業従前住居の売却支援・仲介・買取再販 146,299千円中楽坊管理事業管理受託・生活支援・レストラン 1,097,353千円シニア層の購入者・入居者(マンション購入→従前住居の売却→入居後の管理・生活支援)その他:不動産賃貸 9,833千円。売上高の10%以上を占める相手先はない(会社の記載)

図4 発行者情報「事業の内容」「事業の系統図」をもとに作成。金額は第33期(2026年2月期)の外部顧客への売上高

事業目的会社の区分で売上高が変わる構造

この会社の決算を読むうえで最も重要なのが、事業目的会社(SPC)の扱いです。同社グループは、中楽坊の開発を行う際に物件ごとに事業目的会社を設立し、各事業目的会社が必要な資金を調達してマンションの建設・販売を行います。グループが全額出資する場合は「連結子会社」、パートナー企業から出資を受ける場合は「持分法適用会社」となります。

連結子会社である事業目的会社は、完成物件を顧客へ引き渡す時点で売上高や売上原価を計上しますが、持分法適用会社の損益は出資割合に応じて「持分法による投資損益」として営業外損益に計上されます。発行者情報も「事業目的会社の会計上の区分(連結子会社か持分法適用会社か)によって、売上高等が変動する場合があります」と明記しています。なお、マンションの販売自体は当社が行っており、持分法適用会社の物件からは販売手数料や企画手数料が当社の売上高になります。

物件ごとの事業目的会社と連結・持分法の区分中楽坊の開発プロジェクト(物件ごとに事業目的会社を設立)パートナー企業から出資を受けるか受けない(全額出資)連結子会社引渡時に売上高・売上原価を計上受ける持分法適用会社出資割合に応じた損益を持分法投資損益に第33期末:連結子会社6社、持分法適用関連会社6社、非連結子会社1社受けない受ける

図5 発行者情報「事業の系統図」の注記と連結の範囲の注記をもとに作成

上場準備の観点では、SPCを使う会社は「どの会社を連結し、どの会社を持分法とするか」の判断根拠と、その結果として売上高・利益の見え方がどう変わるかを、J-Adviserや監査法人、投資者に説明できる状態にしておく必要があります。決算期の異なるSPCがある場合の取扱いも論点です。同社では、マスターズプロパティの事業年度を変更し、連結決算日で実施した仮決算に基づく財務諸表で連結しています。

沿革と上場までの道のり

沿革によると、同社は2001年1月にマンション管理の株式会社ライフ・ワン・サポートを設立し、2008年4月に高齢者向け分譲マンション事業の第1号「マスターズステージ泉ヶ丘」(270戸)を販売開始しました。2014年7月にはレストラン事業のマスターズライフサポート株式会社を設立しています。

2015年2月に中楽坊シリーズ第1号「マスターズマンション宝塚中山 中楽坊」(147戸)の販売を始め、その後も兵庫・大阪・東京・奈良などで供給を続け、2026年5月には第11号「大宮 中楽坊」(95戸)の販売を開始しました。沿革の2026年2月の欄には、マンション契約戸数17,000件(内高齢者向けマンション企画販売数2,400件)と記載されています。上場前の資本面の動きとしては、2025年2月28日に株式交換でライフ・ワン・サポートを完全子会社化しています。

MBOによる独立から「中楽坊」へ(沿革)1993年3月大阪ハイネスを創業(MBO)2003年6月現商号に変更2008年4月高齢者向け分譲第1号2015年2月中楽坊シリーズ第1号2026年5月中楽坊第11号「大宮」販売開始2001年1月 マンション管理の㈱ライフ・ワン・サポートを設立2014年7月 マスターズライフサポート㈱を設立(レストラン事業)2025年2月 株式交換によりライフ・ワン・サポートを完全子会社化2026年2月 マンション契約戸数17,000件(内高齢者向け企画販売2,400件)2026年10月2日 TOKYO PRO Marketに上場

図6 発行者情報「沿革」より主要な出来事を抜粋

業績はどう推移しているか

項目(千円) 第32期 2025年2月期 第33期 2026年2月期
売上高 1,493,115 4,917,494
営業利益又は営業損失 △342,286 156,325
経常利益又は経常損失 △78,465 448,169
親会社株主に帰属する当期純利益 19,360 209,793
純資産額 612,169 822,042
総資産額 6,344,436 6,913,648
1株当たり純資産額(円) 463.76 622.75
1株当たり当期純利益(円) 20.14 158.93
自己資本比率(%) 9.6 11.9
自己資本利益率(%) 3.1 29.3
営業活動によるキャッシュ・フロー △1,498,891 △1,065,191
現金及び現金同等物の期末残高 2,491,533 1,649,393
従業員数〔臨時〕(名) 82〔242〕 92〔265〕

主要な経営指標は連結の2期分が記載されています(同社は第32期から連結財務諸表を作成)。1株当たりの数値は2026年5月27日の株式分割(1株→400株)が前連結会計年度の期首に行われたと仮定して算定されています。配当は行っておらず、第32期は監査を受けていない数値です。

第33期は売上高が前期比229.3%増の4,917,494千円となり、営業損益・経常損益とも黒字に転換しました。発行者情報によると、中楽坊マンション2棟(神戸ジェームス山中楽坊、ちさと村中楽坊)の竣工・引渡しを行い、分譲事業では「神戸ジェームス山中楽坊」の販売手数料と、2つのプロジェクトの企画監修業務に係る売上を計上しています。売上は売買契約の成立時ではなく顧客への引渡時に計上されるため、引渡時期により売上高に偏りが生じる傾向があると説明されています。

売上高と利益の推移(連結)売上高01,5003,0004,5006,000第32期第33期1,4934,917利益(第32期→第33期)営業利益△342 → 156経常利益△78 → 448親会社株主に帰属する当期純利益19 → 209第33期は中楽坊マンション2棟の竣工・引渡しで売上高が前期比229.3%増売上は引渡時に計上されるため、引渡時期により業績に偏りが生じる(会社の記載)

図7 発行者情報「主要な経営指標等の推移」より(単位:百万円、百万円未満切捨て)。第32期は監査を受けていない

損益の構造で目を引くのは、営業外収益に計上される持分法による投資利益の大きさです。第33期の営業利益156,325千円に対し、持分法による投資利益は328,837千円で、経常利益448,169千円の大半を占めます。第32期も、営業損失342,286千円を持分法による投資利益292,160千円が埋め合わせる形で、経常損失は78,465千円にとどまっています。共同事業として持分法適用会社で開発した物件の利益が、営業利益ではなく営業外の区分に表れているためです。

第33期 営業利益から当期純利益まで営業利益156,325営業外収益+345,020営業外費用-53,176経常利益448,169特別利益+15,360税引前463,530法人税等-253,737純利益209,793営業外収益345,020千円のうち持分法による投資利益が328,837千円

図8 発行者情報 連結損益計算書より(単位:千円)

セグメント別に見ると、第33期は分譲事業のセグメント利益が406,061千円、管理事業が92,954千円と黒字になった一方、流通事業(△9,683千円)とその他事業(△9,583千円)は損失です。第32期はすべてのセグメントが損失でした。セグメント利益の合計479,748千円から、セグメント間取引の消去106,961千円と各セグメントに配分していない全社費用216,461千円を合わせた調整額△323,423千円を差し引いた金額が、連結の営業利益156,325千円になります。受注実績(不動産売買の契約実績)は分譲事業で5,222,490千円と記載されています。

セグメント別の売上高と利益(第33期)セグメント売上高利益(第33期)利益(第32期)中楽坊分譲事業3,664,009406,061△70,889中楽坊流通事業146,299△9,683△39,924中楽坊管理事業1,097,35392,954△16,967その他事業9,833△9,583△7,771合計/営業利益4,917,494156,325△342,286第33期のセグメント利益合計479,748千円から調整額△323,423千円を差し引いて営業利益

図9 発行者情報 セグメント情報より(単位:千円)。売上高は外部顧客への売上高。調整額は全社費用等

財政状態と借入の構造

第33期末の総資産は6,913,648千円で、その中心は仕掛販売用不動産2,506,363千円と販売用不動産1,429,785千円です。負債は6,091,606千円で、長期借入金3,716,355千円、1年内返済予定の長期借入金546,553千円、短期借入金504,416千円などが計上され、自己資本比率は11.9%です。担保に供している資産は3,857,488千円、担保付債務は4,086,416千円と記載されています。

営業活動によるキャッシュ・フローは2期続けてマイナスで、第33期は△1,065,191千円でした。税金等調整前当期純利益463,530千円があった一方、中楽坊マンション1棟の竣工と建築中の2棟により棚卸資産が1,173,265千円増加したためです。財務活動では長期借入金1,123,000千円の借入れ、短期借入金の純増467,416千円、社債の発行100,000千円があり、長期借入金の返済1,228,203千円を差し引いて454,242千円の収入となっています。開発型の不動産会社では、物件の竣工・引渡しまで営業キャッシュ・フローがマイナスになるのは事業の構造上起こりうることで、借入で資金を回していることが数字にも表れています。

開発資金の流れとキャッシュ・フロー(第33期)金融機関長期借入 1,123,000短期借入 純増467,416当社グループ用地取得・建築棚卸資産の増加1,173,265営業CF△1,065,191投資CF△213,644財務CF454,242現金及び現金同等物:2,491,533 → 1,649,393(期末)。長期借入金の返済1,228,203、社債発行100,000担保に供している資産3,857,488、担保付債務4,086,416。借入の一部に財務制限条項(純資産維持・経常損益等)

図10 発行者情報 連結キャッシュ・フロー計算書・注記より(単位:千円)

「重要な契約等」には、財務制限条項付きの借入として、関西みらい銀行からの2件の借入(2023年9月29日と2025年11月28日にそれぞれ1億円、期間3年、変動金利)が記載されています。条項には純資産の維持(基準となる期の80%以上)、経常損益の2期連続赤字を不可とする条件などが含まれ、2件目にはEBITDA純有利子負債倍率10倍以下の条件もあります。第33期末の残高は22,216千円と94,466千円です。財務制限条項に抵触すると期限の利益を失うおそれがあるため、上場準備では借入契約の条項を一覧にし、予算・資金繰り計画に組み込んで管理しておくことが求められます。

資本政策と株主構成:創業家で8割超、株主10名

発行者情報の公表日現在の発行済株式数は1,320,000株(発行可能株式総数5,280,000株)で、種類株式や自己株式はありません。2026年7月31日現在の株主数は10名(その他の法人1名、個人その他9名)です。第四部「株主の状況」では、代表取締役社長の配偶者の資産管理会社が528,000株(38.26%)、社長の配偶者が360,000株(26.09%)、社長本人が258,000株(18.70%)を所有しており、社長の二親等内の血族(1.36%)を含めた創業家の合計は84.41%(本記事の計算)です。割合は、新株予約権による潜在株式60,000株を含む1,380,000株に対するものです。

株主(属性) 所有株式数(株) 割合(%)
代表取締役社長の配偶者の資産管理会社 528,000 38.26
代表取締役社長の配偶者 360,000 26.09
代表取締役社長 258,000(10,000) 18.70
取締役 徳永豊氏 44,800(10,000) 3.25
取締役 岩永周也氏 44,800(10,000) 3.25
重盛政幸氏 40,000 2.90
取締役 川口雅裕氏 28,400(10,000) 2.06
元取締役 三輪高嗣氏 18,800 1.36
社長の二親等内の血族 18,800 1.36
元取締役 西澤一二氏 18,400 1.33
取締役 河野靖司氏 10,000(10,000) 0.72
取締役 森定浩士氏 10,000(10,000) 0.72
計 1,380,000(60,000) 100.00
株主の状況(発行者情報記載時点)代表取締役社長の配偶者の資産管理会社38.26%代表取締役社長の配偶者26.09%代表取締役社長18.70%取締役・元取締役(7名)12.69%その他の個人(1名)2.90%社長の二親等内の血族1.36%株主数は10名(その他の法人1、個人9)。社長・配偶者・資産管理会社・血族で計84.41%

図11 発行者情報 第四部「株主の状況」より。新株予約権による潜在株式60,000株を含む1,380,000株に対する割合。区分の集計は本記事による

上場前の株式移動と株式交換

第四部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には3件の移動が記載されています(株数・価格は株式分割前)。1件目は2025年2月28日の株式交換による新株発行で、ライフ・ワン・サポートの株主であった社長の配偶者に当社株式900株が交付されました。価格は株式交換で増加した資本準備金の額(173,078,393円)を交付株数で除した単価192,309円として記載されています。2件目は2025年5月27日、当社を退職した所有者から当時の取締役への46株の譲渡(単価500円)、3件目は2026年2月17日、社長から資産管理会社への1,320株の譲渡(単価19,000円)です。2件目と3件目の価格は、財産評価基本通達に定める評価方式により算定した価格を参考に当事者間で協議して決定したと注記されています。

TPMでも、特例115条と同施行規則106条により、直前事業年度末の2年前の日(同社では2024年3月1日)から上場日の前日までの特別利害関係者等の株式移動について、上場日から5年間、記録を保存することとされています。同じ時期の移動でも、株式交換の交換比率から算定した単価と、相続税評価を参考にした譲渡価格では水準が大きく異なります。価格の決め方とその根拠を説明できるよう資料を残しておくことが重要です(上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約))。

上場前の主な資本政策(時系列)2025年2月28日株式交換900株発行2026年2月17日社長→資産管理会社 1,320株2026年5月26日新株予約権600個(SO)2026年5月27日株式分割1株→400株2026年7月21日単元株制度1単元100株株式交換:ライフ・ワン・サポートを完全子会社化(交換比率1:90、資本準備金173,078千円増加)分割後の発行済株式数は1,320,000株(分割前3,300株)上場に際しての公募・売出し(特定投資家向け取得勧誘等)はなし2025年5月27日には退職者から元取締役への46株の譲渡もある

図12 発行者情報「発行済株式総数、資本金等の推移」「特別利害関係者等の株式等の移動状況」等より。株数は各時点のもの

ストック・オプションの行使条件に「TPM以外の取引所への上場」

2026年5月26日の定時株主総会で、取締役6名に対する第1回新株予約権(ストック・オプション)600個(目的株式60,000株、各取締役100個)の発行が決議されました。行使価額は1,100円、行使期間は2028年5月27日から2036年5月26日までです。発行価格は類似上場会社法により算出した価格を総合的に勘案して決定したと記載されています。

特徴的なのは行使の条件で、「当社普通株式がいずれかの金融商品取引所(TOKYO PRO Marketその他のプロ投資家向け市場を除く)に上場すること」が条件とされています。つまり、TPMに上場しただけでは行使できない設計です。また、割当てを受けた者は、特例115条・同施行規則107条に基づき、割当日から上場日以後6か月間を経過する日(割当日以後1年間を経過していない場合は割当日から1年間を経過する日)まで所有する等の確約をしています。ストック・オプションの会計処理と注記の考え方はストック・オプションの注記の記載例も参考になります。

第1回新株予約権(ストック・オプション)の設計2026年5月26日 定時株主総会で決議 取締役6名に600個(目的株式60,000株)行使価額1,100円(資本組入額550円) 行使期間 2028年5月27日〜2036年5月26日主な行使の条件行使時に当社・子会社の取締役・従業員等の地位にあることいずれかの金融商品取引所に上場すること(TPM等プロ向け市場を除く)相続人による行使は不可(取締役会が認めた場合を除く)発行価格は類似上場会社法により算出した価格を総合的に勘案して決定(会社の記載)割当てを受けた者は、上場日以後6か月間(又は割当日から1年間)の継続所有等を確約

図13 発行者情報「新株予約権等の状況」「第三者割当等の概況」より。株式分割反映後の数値

項目 内容
決議・発行日 2026年5月26日(定時株主総会)
付与対象者 当社取締役6名
個数・目的株式数 600個・普通株式60,000株(1個100株)
行使価額(発行価格) 1株につき1,100円(資本組入額550円)
行使期間 2028年5月27日〜2036年5月26日
主な行使条件 在籍要件、相続人の行使不可、TPM等を除く金融商品取引所への上場
発行価格の算定 類似上場会社法により算出した価格を総合的に勘案

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コーポレート・ガバナンス:社外取締役なし、非常勤の社外監査役2名

役員は男性8名で、取締役6名はすべて社内取締役、監査役2名はいずれも社外監査役(非常勤)です。発行者情報には監査役会ではなく、監査役間の意見交換・情報共有のための任意の「監査役協議会」を設置していると記載されています。取締役会は毎月の定時取締役会と臨時取締役会で運営され、取締役会事務局を置いています。監査役の三村淳司氏は監査法人勤務を経て公認会計士事務所を開設しており、谷木祐介氏も監査法人での勤務経験があります。

取締役会の下には、すべての取締役で構成する「経営会議」と、事業用地の事業化を検討する「タイムリー会議」があり、リスク・コンプライアンス委員会も設置されています。用地情報を得てから事業化を判断する会議体を独立して設けている点は、不動産開発の意思決定プロセスを可視化する工夫といえます。

TPMには一般市場のような機関設計の形式要件はなく、「企業の規模や成熟度等に応じて」ガバナンス・内部管理体制が整備・機能していることが求められます。社外取締役の要否や監査役会との比較は社外取締役は何人必要かや監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で整理しています。

ハイネスコーポレーションの機関設計株主総会取締役会(6名)社外取締役なし毎月の定時+臨時監査役(2名)いずれも社外・非常勤任意の監査役協議会代表取締役社長会計監査監査法人アヴァンティア内部監査室代表取締役直轄・専任担当経営会議・タイムリー会議リスク・コンプライアンス委員会経営会議・タイムリー会議はすべての取締役で構成(会社の記載)選任・解任選任・解任監査選定・監督連携指示・報告

図14 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」の記載をもとに作成

役員報酬と定款の定め

2026年2月期の役員報酬は、取締役(社外取締役を除く)8名に193,551千円、社外役員3名に3,900千円の計197,451千円で、すべて固定報酬です。株主総会で決議した報酬限度額の範囲内で、各取締役の報酬は職務内容や財務状況等を勘案して取締役会が、各監査役の報酬は監査役協議会が決定します。報酬等の総額が1億円以上の役員はいません。

代表者による債務保証と関連会社との取引

関連当事者情報では、代表取締役社長が当社・連結子会社・持分法適用会社の銀行借入について債務保証を行っており、第33期末の保証残高は1,656,487千円(第32期末2,247,563千円)と記載されています。保証料の支払いは行っていません。また、持分法適用会社との間では、販売手数料・企画手数料の受取、債務保証、工事代金の立替、長期貸付が開示されています。マスターズライフへの長期貸付金124,324千円は「回収計画の進捗と妥当性を検証の上、総合的な経営判断により無利息」としています。

関連当事者との主な取引(第33期)代表取締役社長(主要株主)当社金融機関(当社・連結子会社・持分法適用会社の借入)銀行借入に対する債務被保証 1,656,487(保証料の支払いなし)マスターズライフ㈱販売手数料収入 207,432債務保証 678,709工事代金立替 500,000マスターズスタイル㈱企画手数料収入 61,067債務保証 1,020,000マスターズプライド㈱債務保証 965,000マスターズシーズン㈱債務保証 570,000マスターズライフ㈱への長期貸付金124,324は、回収計画の進捗と妥当性を検証のうえ無利息(会社の記載)マスターズフォレスト㈱から企画手数料収入81,291。手数料は業務委託契約に基づき決定

図15 発行者情報 注記「関連当事者情報」より(単位:千円)。代表取締役社長の債務被保証の取引金額は期末の保証残高

内部監査と内部統制:代表取締役直轄の内部監査室

内部監査は、他の業務執行部門から独立した代表取締役直轄の内部監査室が担当しています。「内部監査規程」に基づいて監査計画を立案し、代表取締役の承認を得て監査を実施し、結果を代表取締役に報告します。監査計画では監査テーマを選定し、専任の監査担当者が監査にあたると記載されています。指摘事項については、監査対象部門に改善指示と改善期間を設け、フォローアップ監査で改善状況を確認しています。

三様監査の連携としては、非常勤監査役2名、内部監査室長、監査法人が出席する意見交換会を年2回定期的に開催し、監査の実施状況の共有と意見交換を行っています。重要な課題が生じた場合には臨時の会合を開催できる体制とされています。監査役が非常勤のみの会社では、日常的な情報が監査役に届きにくくなりがちなため、意見交換会のような定例の場を決めておくことは実務上の工夫です(監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査))。

内部監査と三様監査の連携代表取締役内部監査室専任の監査担当者監査対象部門(グループ会社を含む)監査役(非常勤2名)内部監査室長監査法人意見交換会を年2回定期開催。重要な課題が生じた場合は臨時の会合もフォローアップ監査で改善状況を確認承認・指示報告改善指示

図16 発行者情報「内部監査及び監査役監査の状況」の記載をもとに作成

内部統制システムについての記載も率直です。同社は「会社法上の大会社に該当していないため、法令上要請される内部統制システムの整備に関する取締役会決議は行っておりません」としたうえで、内部統制の構築を重要な経営課題と認識し、金融商品取引法における内部統制の整備・運用の充実を目指すと説明しています。TPMでは内部統制報告書の提出は任意ですが、上場適格性要件として、企業の規模や成熟度等に応じた内部管理体制の整備・運用が求められます。リスク管理は「リスク管理規程」に基づき、事案の重要性に応じて取締役会又は経営会議に報告し、必要に応じて弁護士・公認会計士等の助言を受ける体制です。

内部監査の立ち上げ方や人員の考え方は内部監査の始め方、内部監査の人数と体制で詳しく解説しています。

会計・開示の論点:引渡基準の収益認識と販売用不動産の評価

収益認識では、中楽坊分譲事業は新築分譲マンションの引渡しを履行義務とし、引渡時点で収益を認識しています。中楽坊流通事業は、媒介により成立させた売買契約の締結時点で仲介の主要な履行義務が充足されるとみなして収益を計上するものと、対象不動産の引渡完了時点で計上するものがあり、取引の特性や契約条件に応じて区分されています。中楽坊管理事業は、時の経過により履行義務が充足されるため契約期間にわたって収益を認識します。

注目したいのは、第32期の会計方針の変更です。分譲事業と流通事業では、それまで主に顧客との「売買契約締結の日」をもって売上高を認識していましたが、履行義務が充足された段階で売上計上する方法に変更しています(同社は収益認識に関する会計基準等を第32期の期首から適用)。上場準備で初めて会計基準への準拠を本格的に点検した結果、収益の計上時期が大きく変わる例は珍しくありません(上場審査で問われる収益認識)。

収益認識の時点と棚卸資産の評価中楽坊分譲事業中楽坊流通事業中楽坊管理事業物件の引渡時点(一時点)媒介した売買契約の締結時点又は対象不動産の引渡完了時点契約期間にわたり(時の経過)販売用不動産 1,429,785・仕掛販売用不動産 2,506,363:個別法による原価法正味売却価額=予定販売価格−予定工事価格−予定販売諸経費(下回れば簿価切下げ)広告宣伝費は引渡しまで資産計上し、引渡しに応じて費用化開発期間中の正常な支払利息を取得原価に算入(第33期 144,191)第32期に「売買契約締結の日」基準から履行義務充足時の基準へ会計方針を変更

図17 発行者情報 注記「重要な収益及び費用の計上基準」「重要な会計上の見積り」より。金額は第33期末(千円)

重要な会計上の見積りとしては、販売用不動産(1,429,785千円)と仕掛販売用不動産(2,506,363千円)の評価が挙げられています。収益性の低下により正味売却価額が帳簿価額を下回る場合に正味売却価額まで切り下げる処理で、正味売却価額は予定販売価格から予定工事価格と予定販売諸経費を控除して算定し、物件ごとの事業計画に基づいています。不動産市況や建築費の変化で前提が変われば、評価損の計上が必要になる可能性があると説明されています。

事業等のリスクとJ-Adviser契約

事業等のリスクには、宅地建物取引業免許・マンション管理業者登録などの法的規制、引渡時期による経営成績の変動、金利変動、人材の確保、個人情報管理・システム障害、建築コストの上昇、食品衛生管理(マンション内レストラン)、分譲物件の販売の長期化と在庫の滞留、配当方針、自然災害・感染症、J-Adviserとの契約の11項目が挙げられています。引渡時期が事業年度末を越えて遅延した場合に業績に大きく影響する可能性がある点は、引渡基準で売上を計上する不動産開発会社に共通する論点です。

J-Adviser契約については、特例102条によりTPM上場企業は担当J-Adviserと契約を締結する義務があること、義務の不履行や契約違反の場合は相当の期間(特段の事情のない限り1か月)を定めた書面催告の後に解除されうること、合意又は1か月前の書面通知でも解除できること、債務超過、銀行取引の停止、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見、反社会的勢力の関与など即日無催告で解除できる事由が具体的に記載されています。代わりの担当J-Adviserを確保できない場合は上場廃止につながる可能性があり、J-Adviser契約の維持がTPM上場の前提であることがよく分かります。公表日時点で解除条項に該当する事象は生じていないと記載されています。

一般市場へのステップアップを考える会社への示唆

ハイネスコーポレーションの発行者情報には、将来の一般市場への上場や市場変更の方針についての記載はありません。前述のとおり、ストック・オプションの行使条件に「TOKYO PRO Marketその他のプロ投資家向け市場を除く」金融商品取引所への上場が含まれているという事実はありますが、本記事ではこれをもとに同社の方針を推測することは控え、一般的な留意点を整理します。

TPMから一般市場への移行は「市場区分の変更」ではなく、TPMを申請により上場廃止し、一般市場に新規上場する手続として扱われます。実例として、AlbaLinkは2025年12月14日にTPMを上場廃止し、翌15日にグロース市場に新規上場しています。東証は2025年11月の資料で、TPMから一般市場への上場審査は非上場企業と同様に一から確認が行われていると現状を整理し、2026年4月の資料では「26年秋めど」にTPM実績を勘案した一般市場上場審査の効率化と開示様式の共通化・簡素化を予定していると公表しています(本記事執筆時点で実施済みかどうかは確認できていません)。

一般市場を視野に入れる会社にとっては、TPMで求められない項目、たとえば直前2期の監査、株主数・流通株式の形式基準、内部統制報告書などへの対応を別途計画する必要があります。準備の全体像はグロース市場事前チェックリストで確認できます。

上場準備会社がハイネスコーポレーションの事例から学べること

1. 資金調達なしでもTPMに上場できる:特定投資家向け取得勧誘等を行わず、発行者情報で上場しています。上場の目的を自社で整理しておくことが、今後はより重視されます。

2. 連結決算は早めに始め、監査対象期を明確にする:第32期から連結財務諸表を作成し、第33期の1期分について監査を受けています。未監査の期があることも明記されています。

3. SPCの連結・持分法の区分は「見え方」を左右する:区分により売上高や営業利益が大きく変わるため、判断根拠と影響を説明できるようにしておく必要があります。

4. 借入・担保・保証・財務制限条項を一体で管理する:自己資本比率11.9%の開発型ビジネスでは、資金繰りと財務制限条項の管理がそのまま上場後12か月の運転資本の説明につながります。

5. 株式移動の価格は根拠ごとに記録する:株式交換と資産管理会社への譲渡で単価の算定方法が異なり、その根拠が注記されています。

6. 少人数の監査体制は「連携の仕組み」で補う:社外取締役を置かず、非常勤の社外監査役2名と代表取締役直轄の内部監査室、年2回の意見交換会で牽制を組み立てています。

ハイネスコーポレーションの事例から学べること公募なしでも上場発行者情報で上場連結初年度から1期監査未監査期は明記SPCの連結・持分法区分を説明借入・保証・担保の全体像を開示創業家84%の株主構成株式移動の記録社外取締役なし監査役2名で牽制

図18 本記事で取り上げた論点のまとめ

  • 上場目的(なぜTPMか、上場をどう活用するか)を社内で言語化している
  • 監査を受ける事業年度と、担当J-Adviser・監査法人の候補が決まっている
  • SPCや関係会社の連結範囲・持分法の判断根拠を文書化している
  • 借入契約の財務制限条項・担保・保証を一覧化し、上場後12か月の資金計画に反映している
  • 直前事業年度末の2年前の日以降の特別利害関係者等の株式移動と価格の根拠を記録している
  • 代表者保証などの関連当事者取引を一覧化し、開示と今後の方針を整理している

よくある質問

Q1. ハイネスコーポレーションの上場時の書類が「特定証券情報」ではなく「発行者情報」なのはなぜですか?

上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないため、特例110条3項の規定により「発行者情報に相当する情報」を公表して上場したためです。

Q2. TPMの上場に必要な監査は何期分ですか?

新規上場時に求められる監査期間は最近1年間です。ハイネスコーポレーションは第33期(2026年2月期)の連結財務諸表について監査法人アヴァンティアの監査を受けており、第32期は監査を受けていないことを明記しています。

Q3. 持分法による投資利益が大きいのはなぜですか?

中楽坊の開発を物件ごとの事業目的会社で行い、パートナー企業から出資を受ける会社は持分法適用会社となるためです。持分法適用会社の損益は売上高ではなく、出資割合に応じて営業外の持分法投資損益に計上されます。

最初の一歩は「監査対象期」と「関係会社の整理」から

TPMを検討する会社が最初に取り組みたいのは、上場目的を言語化したうえで、監査を受ける事業年度と担当J-Adviserの調査期間から上場時期を逆算し、あわせて関係会社の連結範囲や代表者保証などの論点を洗い出すことです。自社の現状を把握するには、まずショートレビューで課題を洗い出すのが近道です。

まとめ

ハイネスコーポレーションは、2026年10月2日にTOKYO PRO Marketへ上場しました。特定投資家向け取得勧誘等を行わず、直前1期の監査を受けた発行者情報で上場しており、申請受付(8月28日)から上場承認(9月11日)までは10営業日、担当J-Adviserは株式会社ジャパンインベストメントアドバイザーです。

発行者情報からは、物件ごとのSPCと連結・持分法の区分、引渡基準の収益認識と販売用不動産の評価、借入と財務制限条項、代表者による債務保証、創業家で8割超の株主構成と上場前の株式移動、社外取締役を置かずに社外監査役2名と内部監査室で牽制する体制など、不動産開発型の会社がTPMを使う際の論点を具体的に読み取ることができます。形式基準がないTPMだからこそ、「自社の体制を、どの水準で、どう説明できるか」を整えておくことが大切だといえます。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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