山八商事のTOKYO PRO Market上場|子会社売却モデルと有利子負債【発行者情報から読む上場準備】

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

2026年8月19日、愛知県蒲郡市に登記上の本店を置く不動産会社の山八商事株式会社(英文社名 Yamahachi Corporation)が、東京証券取引所のTOKYO PRO Market(以下「TPM」)に上場しました。上場に際して特定投資家向け取得勧誘等(一般市場の公募・売出しに当たる勧誘)は行わず、「発行者情報」を公表しての上場です。本記事では、JPXの新規上場会社情報に掲載された同社の発行者情報を読み、上場準備の実務で参考になる点を公認会計士の視点で整理します。

結論からいえば、山八商事のケースは「1922年創業の老舗が不動産事業へ業態を変え、物件ごとに子会社を設けて保有・売却するモデルのまま、直前1期の監査と担当J-Adviserの調査を経てTPMへ上場した例」です。売却方法によって売上高にも特別利益にもなる収益の表示、総資産の約7割に達する有利子負債と財務制限条項、代表者と資産管理会社で議決権の8割超を持つ株主構成、代表者による借入金の債務保証など、不動産会社が上場を考えるときに論点になりやすい項目がそろっています。

山八商事はどんな会社で、いつTPMに上場したのか

山八商事の前身は、1922年に綿布販売業として創業した鈴権商店です。1955年に山八毛織株式会社として法人化し、1967年12月に寝具商品の製造・卸売機能を分社化する形で山八商事が設立されました。1981年に山八毛織が蒲郡市の毛織物工場跡地をショッピングセンターとして共同開発したことから不動産事業が始まり、2005年に山八毛織を吸収合併、2024年8月に繊維事業を事業譲渡して、現在は不動産事業を主たる事業としています。

事業は不動産事業の単一セグメントで、商業不動産を中心とした投資・開発・賃貸・売却を行い、附帯業務として自社物件内でフィットネスジムを運営しています。登記上の本店は蒲郡市ですが、実際の業務は名古屋市中区の名古屋本社で行っていると表紙に記載されています。決算期は8月で、上場時点の直前事業年度は第58期(2025年8月期)、直近は第59期の中間期(2026年2月)です。

上場の手続面では、2026年7月15日に新規上場の申請が受け付けられ(同日に発行者情報を公表)、7月30日に上場承認、8月19日に上場しました。担当J-Adviserは株式会社SBI証券で、J-Adviser契約は2024年12月1日に締結されています。申請受付から上場承認までは10営業日で、TPMで「原則として上場申請から10営業日後に上場承認」とされている流れどおりの日程です。

山八商事の上場までの日程2024年12月1日J-Adviser契約(SBI証券)2026年3月26日株式分割1:50単元株100株2026年7月15日申請受付・発行者情報公表2026年7月30日上場承認2026年8月19日TPM上場申請受付から上場承認まで10営業日、上場承認から上場日まで20日(暦日、本記事の計算)上場に際して特定投資家向け取得勧誘等(公募・売出しに当たる勧誘)は行わない

図1 発行者情報の記載とJPXの新規上場会社情報(申請受付日・上場承認日・上場日)をもとに作成

項目 内容
会社名 山八商事株式会社(Yamahachi Corporation)、証券コード614A
市場 東京証券取引所 TOKYO PRO Market
上場日 2026年8月19日
上場承認日 2026年7月30日
申請受付日 2026年7月15日(発行者情報の公表日)
担当J-Adviser 株式会社SBI証券(契約締結 2024年12月1日)
上場時の開示書類 発行者情報(特例110条3項。特定投資家向け取得勧誘等なし)
本店 愛知県蒲郡市(登記上)。業務は名古屋本社(名古屋市中区)
設立 1967年12月(前身の創業は1922年)
決算期 8月(直前期は第58期・2025年8月期)
事業 不動産事業の単一セグメント(商業不動産の投資・開発・賃貸・売却、附帯業務として店舗運営)
グループ 連結子会社17社(関係会社の状況に記載)
従業員 連結28名(臨時6名)、単体22名(臨時1名)、2026年6月30日現在
監査法人 仰星監査法人(第58期の連結財務諸表を監査、第59期中間は期中レビュー)

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なぜTOKYO PRO Marketを選んだのか

発行者情報には、TPMを上場先として選んだ理由や上場目的を正面から説明した項目はありません。上場に関連する目的として読み取れるのは、上場前に行った株式分割(1株→50株)と単元株制度の採用について「当社株式の流動性の向上と投資家層の拡大を図ること」と記載されている点です。本記事では、この記載を超えて同社がTPMを選んだ理由を推測することはしません。

なお、東京証券取引所は2026年4月から、TPMへの新規上場時に「なぜTPMに上場するのか」「どう活用するのか」という上場目的を検討・開示するよう要請しています。これは東証の「お願い」であり、規程上の義務ではありません。これからTPMを検討する会社は、自社の上場目的を言葉にしておくことが求められる流れにあるといえます。

TPMの上場の仕組みは一般市場とどう違うのか

TPMは、プライム・スタンダード・グロースの一般市場とは別の、金融商品取引法上の「特定取引所金融商品市場」です。形式基準がない代わりに、担当J-Adviserが「企業としての相応性」「事業の公正・忠実な遂行」「コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制」「適正な開示を行える体制」「反社会的勢力との関係なし等」の5つの上場適格性要件を調査・確認し、「上場適格性に係る宣誓書」を作成します。東証も意向表明の後に面談を行うため、「審査がない市場」ではありません。

TOKYO PRO Marketの上場手続と上場適格性要件J-Adviser契約・調査意向表明申請の約30営業日前まで上場申請特定証券情報等を公表上場承認原則申請から10営業日後上場日担当J-Adviser(J-QS)が上場適格性を調査・確認し「上場適格性に係る宣誓書」を作成東証も意向表明後に面談を行う(「審査がない市場」ではない)上場適格性要件(5項目)企業としての相応性事業の公正・忠実な遂行ガバナンス・内部管理体制適正な開示を行える体制反社会的勢力との関係なし等

図2 JPX「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」等をもとに一般的な流れを整理したもの。形式基準(数値基準)はなく、担当J-Adviserが上場適格性を調査・確認する

開示書類の名称にも注意が必要です。TPMでは、上場時に特定投資家向け取得勧誘等を行う会社は「特定証券情報」を提供・公表します。山八商事のように勧誘を行わない会社は、特例110条3項に基づき「発行者情報に相当する情報」を公表して上場します。上場後は、年次と中間の「発行者情報」を、それぞれ期末後3か月以内に公表します。TPMの書類を「有価証券届出書」「有価証券報告書」と呼ばないようにしましょう。

上場時の開示書類はどう決まるか(山八商事のケース)上場に際して特定投資家向け取得勧誘等を行うか行う場合特定証券情報を提供・公表行わない場合(山八商事)発行者情報に相当する情報を公表(特例110条3項)上場後は、年次と中間の発行者情報をそれぞれ期末後3か月以内に公表する行う行わない

図3 金融商品取引法27条の31と、発行者情報表紙の「取引所金融商品市場等に関する事項」の記載をもとに作成

財務書類の監査について、山八商事は第58期(2025年8月期)の連結財務諸表について仰星監査法人の監査を受け、第56期・第57期の連結財務諸表は監査を受けていないと明記しています。第59期中間の中間連結財務諸表は期中レビューを受けています。TPMの新規上場で求められる監査期間が「最近1年間」であることが、そのまま書類に表れています。監査法人の選び方や時期の考え方は、監査法人はいつまでに決めるかも参考にしてください。

一般市場(グロース・スタンダード)との比較

項目 TOKYO PRO Market 一般市場(グロース・スタンダード)
買付けができる投資家 特定投資家等(一般投資家は買付け不可、売却は可能) 一般投資家を含む
形式基準 なし(数値基準がない) 株主数・流通株式等の形式基準あり
上場適格性の調査 担当J-Adviserが調査・確認、東証が面談 東証の上場審査
申請から承認まで 原則として申請から10営業日後に承認 一般市場の審査日程による
新規上場時の監査期間 最近1年間 直前2期
開示書類 特定証券情報・発行者情報 有価証券届出書・有価証券報告書等
四半期開示 任意 四半期決算短信(取引所規則)
内部統制報告書 任意 提出が必要
会計基準 日本基準・米国基準・IFRS等 日本基準・米国基準・IFRS等
上場維持の前提 担当J-Adviserとの契約の維持 J-Adviser制度なし

表のTPM欄は、JPXのTPM概要ページと上場ガイドブック(TPM編)の記載に基づいています。一般市場の会社に適用されるコーポレートガバナンス・コードや実質審査基準を、そのままTPMの会社に当てはめて考えないよう注意が必要です。一般市場の審査の考え方はIPOの実質審査基準とはで整理しています。

事業内容と収益モデル:物件ごとに子会社で保有する仕組み

山八商事グループは「社会に、不動産に、透明性を。」という経営理念のもと、商業不動産を中心に投資と開発を手がけています。工場跡地を商業施設として開発したことが不動産事業の出発点で、テナントの店舗網拡大や不動産のオフバランス化のニーズに応えて物件を取得し、長期の賃貸借契約を通じてテナント企業との関係を築いてきたと説明されています。

特徴的なのは、物件の保有形態です。商業用不動産を取得する場合、当社が直接保有する形態と、事業採算を明確にするため子会社を設立して個別の不動産を保有させる形態の2つがあり、直近は子会社で保有する形態が中心です。「合同会社ワイズワン旭川」「合同会社ワイズワン三重松阪」のように地域名を冠した合同会社が、それぞれ個別に事業用不動産を保有する目的で設立されています。関係会社の状況を見ると、これらの子会社はいずれも出資金5,000千円・議決権100%で、職務執行者の兼任1名、当社による債務保証ありと記載されています。

山八商事グループの事業の仕組み山八商事(当社)商業不動産の投資・開発・賃貸当社が直接保有例:クラスポ蒲郡物件ごとに子会社で保有合同会社ワイズワン各社不動産附帯業務ジム運営(FC契約)テナント(商業施設・店舗など)長期の賃貸借契約 → 賃料収入ジムの会員会費収入賃料収入を基盤に、物件売却・子会社売却(M&A形式)で収益拡大をめざす

図4 発行者情報「事業の内容」「関係会社の状況」をもとに作成。不動産事業の単一セグメント

主要な販売先は、2025年8月期で株式会社ラウンドワンジャパン(477,948千円、総販売実績の26.5%)と株式会社ネクステージ(280,789千円、15.6%)です。2026年2月の中間期は、フジグラン北島の信託受益権の売却に伴い株式会社サウスヒルへの販売が2,260,258千円(70.9%)となっています。賃貸の相手先が特定のテナントに集中しやすい一方で、物件を売却した期は売却先が大きな割合を占める、という不動産会社らしい販売実績の表れ方です。

附帯業務として、2025年3月からクラスポ蒲郡内でフランチャイズ契約に基づくフィットネスジムを運営しています。対処すべき課題では、テナントの業種・業態の分散と、従来の商業施設に加えたオフィスやレジデンスへの投資拡大が掲げられています。

売却の方法で「売上高」にも「特別利益」にもなる

この会社を読むうえで最も重要なのが、物件の出口の違いによる損益計算書の表示です。当社が保有する不動産や、子会社が保有する不動産を現物で売却した場合は、売却価格が連結財務諸表上の売上高に計上されます。一方、不動産を保有する子会社そのものをM&A形式で売却した場合は、売上高ではなく関係会社株式売却益として、損益の純額が特別損益に計上されます。会社はこの売り方を「M&A形式」と呼び、事業採算を明確に把握したうえで、会計・運営が独立し物件価格の算定も比較的容易になるモデルとして構築したと説明しています。

同じ「物件の売却」でも損益計算書の表示が変わる物件を保有する子会社(ワイズワン)① 現物売却子会社が不動産そのものを売る→ 売上高に売却価格(総額)② M&A形式(子会社自体の売却)当社が子会社の持分を売る→ 関係会社株式売却益(特別利益・純額)例:2024年8月期子会社2社の2物件 → 売上高2,951,505千円例:2025年8月期 ワイズワン浜松浜北売却価額344,085千円 → 売却益228,453千円会社は「いずれの方法でも実質的な利益に大きな違いが出ないよう売却する」方針と記載

図5 発行者情報「事業の内容」「事業等のリスク」「主要な経営指標等の推移」の注記、連結キャッシュ・フロー計算書関係注記をもとに作成

会社自身も、この点を事業等のリスク「ビジネスモデルによる収益計上について」(顕在化可能性:中、影響度:大)として開示しています。当初想定した売却方法が変わると財務諸表の収益計上に影響があるため、投資判断に影響を与える可能性がある、という内容です。対応策としては、いずれの手段でも実質的な利益に大きな違いが出ないよう売却していること、M&Aの仲介手数料を宅地建物取引業法上の上限(売買価格×3%+6万円)とほぼ同等になるよう仲介業者と協議していること、物件売却を前提とした事業計画を策定し、子会社売却に変わった場合は状況を開示し、必要に応じて予算を修正する方針であることが記載されています。

上場準備の観点では、「同じ経済実態の取引が、形式によって売上にも特別利益にもなる」場合、予算と実績の比較、業績予想の修正、KPIの設計に直接影響します。売上高だけで業績を説明すると振れ幅が大きく見えるため、どの指標で事業の成果を説明するかを決めておくことが大切です。収益認識の考え方は上場審査で問われる収益認識も参考になります。

沿革と上場までの道のり

沿革を見ると、繊維業から不動産業への転換と、子会社を使った物件保有の積み上げが上場前の10年間で進んだことが分かります。2016年4月の旭川を皮切りに、2024年4月の名古屋天白、2025年12月の名古屋丸の内(2026年6月にワイズレジデンス名古屋金山へ商号変更)まで、物件ごとの子会社が次々に設立されました。2022年11月には株式会社ツノダの全株式を取得して子会社化し、同月に資本金を100,000千円としています。

2024年8月には三河精麦株式会社を子会社化し(同社の完全子会社ナゴヤ土地開発株式会社も含む)、同じ月に繊維事業を音部株式会社に事業譲渡しました。ナゴヤ土地開発は保有物件(YS天神ビル)を当社が取得したうえで2025年1月末に清算結了、三河精麦は2025年6月1日に当社が吸収合併しています。上場直前の数年間に、取得・合併・清算・事業譲渡というグループ再編が集中している点は、上場準備会社にとって参考になるポイントです。

山八商事の沿革(主な出来事)1922年鈴権商店創業(綿布販売)1955年山八毛織として法人化1967年12月山八商事設立1981年工場跡地のSC開発不動産事業開始2005年12月山八毛織を吸収合併2016〜2025年物件ごとの子会社を設立2022年11月ツノダ子会社化資本金1億円2024年8月三河精麦子会社化繊維事業を譲渡2024年12月J-Adviser契約ジム子会社設立2026年8月19日TPM上場

図6 発行者情報「沿革」から主な項目を抜粋。子会社は現存する会社のみ記載されている

業績はどう推移しているか

主要な経営指標等の推移は次のとおりです(連結、千円)。第56期・第57期は監査を受けていない数値です。

項目 2023年8月期(第56期) 2024年8月期(第57期) 2025年8月期(第58期) 2026年2月中間(第59期)
売上高 3,518,554 4,494,058 1,800,436 3,188,448
経常利益 324,702 954,051 110,952 304,801
親会社株主に帰属する当期(中間)純利益 824,331 1,144,963 195,647 268,217
純資産額 3,409,111 4,662,421 4,799,999 5,055,793
総資産額 18,790,078 22,677,150 23,564,334 22,504,708
自己資本比率(%) 17.7 20.1 20.3 22.5
営業活動によるCF 3,216,810 3,269,640 351,771 2,712,219
投資活動によるCF △4,112,263 △2,350,873 △2,720,061 △761,144
従業員数(臨時) 22(3) 24(3) 24(8) 24(6)
業績の推移(連結、百万円)01,5003,0004,5006,0002023年8月期2024年8月期2025年8月期2026年2月中間3,5194,4941,8003,188経常利益 325経常利益 954経常利益 111経常利益 305売上高経常利益

図7 発行者情報「主要な経営指標等の推移」より。百万円未満四捨五入。2023年8月期・2024年8月期は監査を受けていない数値、2026年2月は中間期(6か月)で期中レビュー済み

売上高と利益は期によって大きく振れています。発行者情報の注記によると、第56期は子会社保有の不動産2件の現物売却(1,755,947千円を売上高に計上)、子会社持分の売却(関係会社株式売却益168,542千円)、開発用地の売却(固定資産売却益236,108千円)に加え、テナントの違約金未払いをめぐる訴訟に勝訴して違約金収入417,088千円を特別利益に計上しています。第57期は子会社2社の2物件の売却(2,951,505千円を売上高に計上)と、三河精麦の子会社化に伴う負ののれん発生益947,222千円がありました。

第58期(2025年8月期)はその反動で、売上高1,800,436千円(前年比59.9%減)、営業利益301,192千円(同70.8%減)、経常利益110,952千円(同88.4%減)、親会社株主に帰属する当期純利益195,647千円(同82.9%減)となりました。会社は、休止していた温浴施設の自主運営の準備・立ち上げに必要な資金の確保を重視し、予算の段階から物件売却方針と翌期以降の物件購入計画を絞り込んだと説明しています。第59期中間はフジグラン北島の信託受益権の売却が寄与し、売上高3,188,448千円、経常利益304,801千円です。

2025年8月期の損益の流れ(連結、百万円)売上総利益787販管費-486営業利益301営業外収支-190経常利益111特別損益+236法人税等-148当期純利益199

図8 連結損益計算書より。百万円未満四捨五入。営業外収支は支払利息219百万円等、特別損益は関係会社株式売却益228百万円等を含む

2025年8月期の損益を分解すると、営業利益301百万円に対して支払利息219百万円などの営業外費用が重く、経常利益は111百万円にとどまります。そこに関係会社株式売却益228百万円などの特別利益が加わり、税引前当期純利益は347百万円になっています。法人税等の負担率は42.62%で、税率差異の内訳には評価性引当額の増減(23.26%)や子会社株式売却益の連結修正(10.76%)が並びます。借入金で物件を取得するビジネスでは、営業利益と経常利益の差、つまり金利負担の大きさを意識して業績を読む必要があります。

売上高の中身:不動産売却と賃貸収益等

収益認識関係の注記では、売上高が「顧客との契約から生じる収益」(不動産売却とその他)と「その他の収益」(リース会計基準に基づく賃貸収益等)に分けて示されています。不動産売却は2024年8月期2,951,504千円、2025年8月期20,027千円、2026年2月中間2,260,258千円と大きく変動する一方、賃貸収益等は2025年8月期で1,659,554千円(その他120,854千円を含めると1,780,408千円)と、相対的に安定した基盤になっています。

売上高の内訳:不動産売却と賃貸収益等(連結、百万円)01,0002,0003,0004,0002024年8月期2025年8月期2026年2月中間2,952202,2601,5431,780928不動産売却賃貸収益・その他

図9 収益認識関係注記の「顧客との契約から生じる収益を分解した情報」より。賃貸収益等は「その他」と「その他の収益(リース会計基準に基づく賃貸収益等)」の合計

不動産売却の収益は、顧客との売買契約に基づき物件を引き渡す一時点で認識し、賃貸収益はリース会計基準に基づき賃貸借期間にわたって認識すると記載されています。売却の時期が期末の前後どちらになるかで、その期の売上高が大きく変わるため、会社は事業等のリスクで「売却時期につきましても、許認可や建築工期等の影響により当初の計画から変更される可能性」があると説明しています。

有利子負債と財務制限条項をどう開示しているか

物件の取得資金は、主として個別案件ごとの金融機関からの借入で調達されています。事業等のリスクに掲げられた表によると、有利子負債残高は2024年8月期15,294,390千円、2025年8月期16,265,152千円、2026年2月中間15,020,348千円で、総資産に対する有利子負債依存度は67.4%、69.0%、66.7%です。2025年8月期末の担保資産は建物及び構築物7,413,219千円、土地13,232,495千円の計20,645,714千円、担保付債務(長期借入金)は15,403,838千円と注記されています。

総資産と有利子負債の推移(連結、百万円)06,00012,00018,00024,0002024年8月期2025年8月期2026年2月中間22,67723,56422,50515,29416,26515,020依存度 67.4%依存度 69.0%依存度 66.7%総資産有利子負債

図10 発行者情報「事業等のリスク(有利子負債への依存度について)」の表より。有利子負債依存度=有利子負債残高÷総資産

さらに、一部の借入金には財務制限条項が付されています。注記に記載された内容を整理すると次のとおりです。

対象借入金(千円) 主な財務制限条項
1,168,485 当社の純資産を2020年8月期末又は前期末の高い方の75%以上に維持/経常損益を2期連続でマイナスとしない/EBITDA純有利子負債倍率を2期連続で20倍以上としない
1,869,734 連結の純資産をマイナスとしない/連結の経常損益を2期連続でマイナスとしない
503,274 当社の純資産を2017年11月期末の80%以上に維持/経常損益を2期連続でマイナスとしない
525,000 当社の純資産を2011年11月期末又は前期末の大きい方の80%以上に維持/経常損益を2期連続でマイナスとしない
1,319,616 連結子会社(ワイズワン和歌山小雑賀)の純資産をマイナスとしない/同社の経常損益を2期連続でマイナスとしない
540,187 当社及び連結子会社(ワイズワン名古屋東)の償却前営業損益を2期連続でマイナスとしない

財務制限条項は、事業等のリスク(顕在化可能性:中、影響度:中)と「重要な契約等」の両方で触れられ、詳細は連結貸借対照表関係の注記を参照する形になっています。抵触した場合には期限の利益の喪失や金利の引上げにつながり得るため、上場準備では、どの借入にどの条項が付いているかを一覧にし、予算や業績予想の段階で抵触の可能性を確認できるようにしておくことが重要です。山八商事の注記は、条項ごとに対象借入金の額を示している点で、読み手にとって分かりやすい書き方といえます。

資本政策と株主構成

発行済株式総数は2,240,000株(2026年7月15日現在)です。2026年3月26日付で普通株式1株を50株に分割し(44,800株→2,240,000株)、同日に100株を1単元とする単元株制度を導入しました。資本金は、2022年11月に資本準備金及び利益剰余金の資本組入れにより100,000千円としています。上場に際しての公募・売出しはなく、第四部の「第三者割当等の概況」も該当事項なしです。

株主は2026年6月30日現在で11名(金融機関2、その他の法人2、個人その他7)です。株主の状況(自己株式を除く株式総数1,825,500株に対する割合)を見ると、代表取締役の資産管理会社である株式会社ラフダイヤモンドが61.88%、鈴木俊介氏個人が23.51%を保有し、事業等のリスクでは、同氏が資産管理会社分を含めて自己株式を除く発行済株式総数の85.4%の議決権を所有する支配株主であると記載されています。このほか、蒲郡信用金庫と豊川信用金庫が各4.11%を保有しています。

株主構成(自己株式を除く株式総数に対する割合)ラフダイヤモンド代表者の資産管理会社61.88%鈴木俊介(代表取締役)23.51%蒲郡・豊川信用金庫8.22%(各4.11%)代表者の親族2名2.80%杉浦・小池・保母の3氏1.81%(SO含む)その他(LIB・SO保有者)1.80%自己株式を除く株式総数1,825,500株(新株予約権の潜在株式53,000株を含む)に対する割合このほか自己株式467,500株(発行済株式総数の20.87%)を保有

図11 発行者情報 第四部「株主の状況」より作成。株式分割後の株式数ベース

会社は自己株式467,500株(発行済株式総数の20.87%)を保有しており、最近事業年度・最近期間に取得や処分はありません。議決権の数は17,724個です。支配株主がいる会社では、少数株主の利益への配慮が論点になります。山八商事は「支配株主として引き続き一定の議決権を保有し、その議決権行使にあたっては、株主共同の利益を追求すると共に、少数株主の利益にも配慮する方針」と記載し、インサイダー取引防止規程により株式の売買に事前の承認を要する体制であることも説明しています。創業家の持株比率の考え方は創業者の持株比率はどこまで下げてよいかで詳しく扱っています。

上場前2年間の株式移動と価格の決め方

第四部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」には、2025年3月から2026年2月までの8件の移動が記載されています(株数・単価は株式分割前)。

移動日 移動前 移動後 株数 単価(円) 理由
2025/3/31 ラフダイヤモンド 内山明子氏(代表者の二親等内の血族) 100 163,498 所有者の事情
2025/5/30 原田利幸氏(取締役) 豊川信用金庫 450 163,498 取締役退任
2025/5/30 ラフダイヤモンド 豊川信用金庫 50 163,498 取引関係の強化等
2025/6/10 原田利幸氏 小池卓也氏(取締役) 50 1,500 取締役退任
2025/6/30 ラフダイヤモンド 蒲郡信用金庫 500 163,498 取引関係の強化等
2025/7/17 ラフダイヤモンド 内山英介氏(同上) 370 163,498 所有者の事情
2025/7/17 ラフダイヤモンド 鈴木悠介氏(同上) 550 163,498 所有者の事情
2026/2/13 内山明子氏 内山英介氏 100 163,498 所有者の事情
上場前2年間の特別利害関係者等の株式移動ラフダイヤモンド(代表者の資産管理会社)原田利幸氏(2024年11月に取締役退任)蒲郡信用金庫 500株取引関係の強化等豊川信用金庫 500株原田氏450株+同社50株代表者の二親等内の血族計1,020株・所有者の事情小池卓也氏(取締役)50株・単価1,500円単価は小池氏への移動を除き163,498円。純資産方式・DCF法等の算定価格を基礎に当事者が協議

図12 発行者情報 第四部「特別利害関係者等の株式等の移動状況」より作成。株数は株式分割前

移動価格は「純資産方式、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法等により算定された価格を基礎として、譲渡人と譲受人が協議の上決定」したと注記されています。取引先である地元の信用金庫2社への譲渡は「取引関係の強化等」、親族への譲渡は「所有者の事情」と、移動ごとに理由が記載されています。上場準備会社では、上場前の株式移動について、価格の算定方法と理由を説明できるよう記録を残しておくことが大切です。株価算定の方法は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかで解説しています。

また、発行者情報の注記では、特例115条及び同施行規則106条により、上場日から5年間、2023年9月1日から上場日の前日までの期間の特別利害関係者等による株式等の譲受け・譲渡の状況の記録を保存することとされている、と説明されています。一般市場で求められる継続所有の確約やロックアップとは別の話ですが、上場前の株式の動きが後から確認される点は共通です(一般市場の考え方は上場前に株式を動かすとどうなるか(継続所有の確約))。

ストック・オプションと資本政策の時系列

新株予約権(ストック・オプション)は2回発行されています。いずれも上場(国内の金融商品取引所への上場)後でなければ行使できない条件が付いています。

項目 第1回 第2回
決議・割当 2020年6月19日決議、2020年7月1日割当 2023年8月30日決議・割当
付与対象者 当社取締役2名(現在1名) 当社取締役3名・従業員22名(現在取締役2名・従業員20名)
未行使の株式数(分割後) 5,000株 48,000株
行使価額(分割後) 1,418円 1,032円
行使期間 2022年6月27日〜2030年6月18日 2025年9月1日〜2033年7月31日
主な行使条件 上場後に行使可、在任要件、相続人の行使不可 上場後に行使可、在職要件、一部行使不可、相続人の行使不可
上場までの資本政策の時系列2020年7月第1回SO(取締役2名)2022年11月資本組入れ資本金1億円2023年8月第2回SO役員・従業員25名2025年3〜7月株式移動(信金・親族)2026年3月26日1:50株式分割単元株100株上場時の公募・売出しや上場前の第三者割当はなし(第三者割当等の概況:該当事項なし)新株予約権の潜在株式53,000株=自己株式を除く株式総数の2.90%

図13 発行者情報「株式等の状況」「ストック・オプション等関係」「重要な後発事象」等より作成

読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか

いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。

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コーポレート・ガバナンスの体制

山八商事は監査役会設置会社で、取締役3名(うち社外取締役1名)、監査役3名(うち社外監査役2名)の構成です。役員は男性5名・女性1名と記載されています。取締役会は代表取締役が議長を務め、月1回の定例に加えて必要に応じて臨時に開催され、2025年8月期は16回開催、在任中の取締役・監査役は全員が100%出席しています。会社は、設立以来の監査役設置会社として、取締役会による監督と監査役による独立した適法性監査の「二重のチェック機能」を持つ体制を選択したと説明しています。

山八商事の機関設計と主な会議体株主総会取締役会(3名)うち社外取締役1名・月1回定例2025年8月期16回・全員出席監査役会(3名)常勤1名・社外2名(公認会計士)原則月1回代表取締役鈴木俊介リスク・コンプライアンス委員会会計監査人仰星監査法人内部監査委員会(3名)代表取締役直属グループ経営会議月次の成果発表等監査役会・内部監査部門・会計監査人は、計画の協議や結果の報告で連携する体制と記載監査連携

図14 発行者情報「コーポレート・ガバナンスの状況」より作成。人数・回数は2025年8月期の記載

役職 氏名 主な経歴(要点)
代表取締役 鈴木俊介 1997年当社入社・取締役、2001年から代表取締役。ラフダイヤモンド、ツノダの代表取締役
取締役 不動産事業本部長 小池卓也 東海旅客鉄道、GEリアルエステート等を経て2021年入社。ワイズウェルネス代表取締役
社外取締役 清水寿成 愛知県庁、監査法人トーマツ、トーマツコンサルティング、医療機器商社の取締役等
常勤監査役 保母将克 2015年に子会社入社、2018年から常勤監査役
社外監査役 皆見幸 公認会計士・税理士。監査法人勤務、他社の社外取締役(監査等委員)等
社外監査役 冨永淳志 公認会計士。監査法人・証券会社勤務、他社の社外監査役等

社外監査役2名がいずれも公認会計士である点は、会計・監査の知見を監査役会に取り込む構成です。社外役員の独立性に関する基準を規程で定め、人的関係・資本的関係・取引関係その他の利害関係を総合的に勘案するとしています。このほか、取締役会直属のリスク・コンプライアンス委員会、事業計画の推進・管理と月次の成果発表を行うグループ経営会議、顧問弁護士、外部弁護士等に直接通報できる内部通報制度が整備されています。機関設計の選び方はIPO審査の「機関設計」とはや監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?で解説しています。

代表者による借入金の債務保証

関連当事者情報には、代表取締役の鈴木俊介氏が当社と連結子会社の銀行借入について債務保証をしていることが記載されています。2025年8月期末の被保証残高は、当社の借入に係るものが1,297,468千円、連結子会社の借入に係るものが1,145,000千円で、保証料の支払いは行っていません。発行者情報には、この債務保証を解消する予定についての記載はありません。

代表取締役による借入金の債務保証(関連当事者取引)鈴木俊介氏代表取締役・支配株主当社の銀行借入1,297,468千円連結子会社の銀行借入1,145,000千円金融機関保証料の支払いは行っていない(取引条件の注記)。解消の予定についての記載はない債務保証債務保証

図15 関連当事者情報の注記より。金額は2025年8月期末の被保証残高

一般市場の上場審査では、代表者による債務保証は関連当事者取引として解消の方針や時期を問われることが多い論点です。TPMで同じ扱いになるかは担当J-Adviserの判断によりますが、上場を検討する会社は、金融機関との交渉に時間がかかることを前提に、早めに方針を決めておくのが実務的です。詳しくは社長個人と会社の取引はどう解消するかと関連当事者との取引の注記の記載例を参照してください。

内部監査・内部統制はどのような体制か

内部監査は、通常の業務執行から独立した代表取締役直属の内部監査委員会(3名)が名古屋本社に置かれ、内部監査委員長と、必要に応じて代表取締役に任命された者が、内部監査規程と内部監査計画に基づいて監査しています。対処すべき課題にも「内部管理体制の構築」として内部監査委員会の設置が挙げられています。内部監査を行う者が自部門を監査しないための手当て(自己監査の回避)について、発行者情報に具体的な記載はありません。

内部統制システムの基本方針は2020年10月16日の取締役会で決議されています。職務権限規程、予算管理規程に基づく中期経営計画の策定と四半期の業績管理、関係会社管理規程によるグループ会社の事前協議・報告、文書管理規程、リスク・コンプライアンス規程、反社会的勢力との関係遮断などが記載されています。監査役の職務を補助する使用人は置いていませんが、監査役の求めに応じて置くこととし、その場合は取締役の指揮命令を受けないとしています。

内部監査・監査役監査・会計監査の連携内部監査委員会3名・代表取締役直属監査役会常勤1名・社外2名会計監査人仰星監査法人社外監査役は監査役監査・会計監査・内部監査の状況を把握し、取締役の職務執行を監査する体制と記載計画の協議・結果の報告監査内容・結果の説明

図16 発行者情報「内部統制システムの整備の状況」「社外役員の状況」等より作成

物件ごとに子会社を設ける会社では子会社の数が多くなるため、子会社ごとの資金の動き、借入・社債(子会社の私募債は連結上は内部取引として消去されています)、職務執行者の決裁を、内部監査の対象範囲として明確にしておくことがポイントになります。内部監査の体制づくりは内部監査の担当者と兼務(自己監査の回避)、三様監査の連携は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で解説しています。

会計・開示の論点

連結財務諸表は、特例110条6項で認められた会計基準のうち日本の会計基準に準拠し、連結財務諸表規則に基づいて作成されています。重要な会計上の見積りとして挙げられているのは「固定資産の減損」です。賃貸用不動産と太陽光発電設備は継続して収支を把握している単位で、遊休資産と売却予定資産は資産単独でグルーピングし、減損の兆候があれば割引前将来キャッシュ・フローと帳簿価額を比べて認識の要否を判定します。主要な仮定は賃貸収入、賃貸原価及び割引率で、正味売却価額には不動産鑑定士による鑑定評価額等を使っていると記載されています。

固定資産の減損の判定の流れ(重要な会計上の見積り)資産グループ(物件・発電設備ごと)減損の兆候があるか(営業損益の継続的マイナス等)割引前将来CFの総額< 帳簿価額か回収可能価額まで減額差額を減損損失(特別損失)減損なし減損なし主要な仮定賃貸収入・賃貸原価割引率正味売却価額=不動産鑑定評価額等2024年8月期に温浴施設・賃貸用不動産・太陽光発電設備で減損損失417,248千円を計上ありはいなしいいえ

図17 「重要な会計上の見積り」「連結損益計算書関係(減損損失)」注記をもとに一般的な流れとして整理

2024年8月期には、営業活動から生じる損益が継続してマイナスの資産グループについて、減損損失417,248千円を計上しました。内訳はクラスポ蒲郡の温浴施設279,808千円、ワイズワン豊川国府の賃貸用不動産27,083千円、太陽光発電設備3件(27,784千円、71,398千円、11,172千円)です。温浴施設は現在休止中の設備と注記されています。2025年8月期の減損損失はありません。

そのほか、上場準備の観点で目にとまる注記は次のとおりです。

  • 三河精麦の子会社化に伴う負ののれん発生益947,222千円(三河精麦909,558千円、ナゴヤ土地開発37,664千円)。その後の吸収合併は共通支配下の取引として帳簿価額で受け入れ
  • 非支配株主からの持分の追加取得により資本剰余金が65,136千円増加
  • ワイズワン浜松浜北の売却(売却価額344,085千円、売却益228,453千円)を連結キャッシュ・フロー計算書関係注記で開示
  • 保有目的の変更による有形固定資産から販売用不動産への振替(2024年8月期1,965,121千円、2025年8月期18,019千円)
  • 税効果会計で評価性引当額517,769千円、防衛特別法人税の創設に伴う法定実効税率の変更(33.76%→34.6%)
  • 新しいリース会計基準(企業会計基準第34号)は2028年8月期の期首から適用予定で、影響額は評価中

事業等のリスクとJ-Adviser契約

事業等のリスクは「事業環境に関するリスク」10項目、「事業運営に関するリスク」14項目、「上場廃止について」1項目に分かれ、各項目に顕在化可能性・影響度・発生時期が付されています。顕在化可能性が「高」とされているのは「不動産事業における投資判断について」の1項目で、新規不動産の取得やM&Aによる調達は社内の各種会議体に諮ったうえで取締役会で判断し、購入後も事業計画との乖離をモニタリングする体制と説明されています。法的規制では、宅地建物取引業の免許(愛知県知事(1)第25247号、有効期限2027年9月26日)と取消条項が表で示されています。

TPM特有の項目が「J-Adviserとの契約の解除に関するリスク」です。当該契約はTPMにおける新規上場と上場維持の前提となる契約であり、契約を解除し、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合は上場廃止となると記載されています。発行者情報には、債務超過(上場後3年間に終了する事業年度を除き、1年以内に解消できない場合)、銀行取引の停止、破産手続等、事業活動の停止、不適当な合併等、支配株主との取引の健全性の毀損、発行者情報等の提出遅延、虚偽記載又は不適正意見等、反社会的勢力の関与など、即日無催告解除の事由が具体的に列挙されています。

J-Adviser契約の解除と上場廃止の関係J-Adviser契約2024年12月1日締結解除事由の発生(解除条項・催告等)契約の解除他のJ-Adviserを確保できるか上場を維持上場廃止催告による解除:相当の期間(特段の事情なき限り1か月)合意解除はいつでも可、1か月前の書面通知でも解除可解除時はSBI証券があらかじめ東証へ通知できるできない

図18 発行者情報「事業等のリスク(上場廃止について)」のJ-Adviser契約の解除条項・事前催告条項の記載をもとに作成

事前催告に関する事項として、契約違反の場合は相当の期間(特段の事情のない限り1か月)を定めて書面で催告し、是正されなければ解除できること、合意によりいつでも解除できること、いずれの当事者からも1か月前の書面通知で解除できること、解除する場合はSBI証券があらかじめ東証に通知することが定められています。担当J-Adviserとの契約維持が上場の前提になる点は、主幹事証券との関係とは性質が異なるため、TPMを検討する会社は契約条項を事前によく確認しておく必要があります。

一般市場へのステップアップを考える会社への示唆

山八商事の発行者情報には、将来の一般市場への上場や市場変更についての記載はありません。そのため、本記事でも同社の今後の方針は推測しません。一般論として、TPMから一般市場へ移る場合は「市場区分の変更」ではなく、TPMの申請による上場廃止と一般市場への新規上場として扱われます(2025年12月にTPMからグロース市場へ移ったAlbaLinkの例)。東証は2026年4月の資料で、TPMでの実績を勘案した一般市場上場審査の効率化と開示様式の共通化・簡素化を「26年秋めど」に予定すると公表していますが、本記事執筆時点で実施済みかどうかは確認できていません。

一般市場を視野に入れる会社にとって、山八商事の事例から読み取れる準備項目は、監査期間(一般市場は直前2期)、四半期の決算短信、内部統制報告書への対応、代表者保証などの関連当事者取引の整理、そして売却方法によって振れる業績をどの指標で説明するかの設計です。TPMで上場会社としての開示と内部管理を経験しておくことは、そのまま一般市場の準備の土台になります。

上場準備会社が山八商事の事例から学べること

  1. 資金調達をしない上場もある:特定投資家向け取得勧誘等を行わず、発行者情報を公表して上場する方法がある
  2. 監査は直前1期から逆算する:第58期のみ監査、第56・57期は未監査と明記し、中間は期中レビューを受けている
  3. 取引の形式で収益の表示が変わるなら、先に開示する:現物売却と子会社売却の違いを事業の内容・リスク・注記で一貫して説明している
  4. 借入依存のビジネスは条項まで一覧にする:財務制限条項を対象借入金ごとに注記し、リスクにも掲げている
  5. グループ再編は上場前に済ませる:子会社化・合併・清算・事業譲渡を上場前の数年間で実施している
  6. 株式移動は理由と価格の根拠を残す:移動ごとに理由と算定方法を記載し、記録保存の義務も説明している
  7. 支配株主がいるなら少数株主への配慮を言葉にする:議決権行使の方針とインサイダー取引防止の体制を示している
  8. 代表者保証は早めに方針を決める:関連当事者取引として金額と条件が開示される

上場準備のチェックリスト

  • 上場目的(なぜTPMか、どう活用するか)を言葉にしているか
  • 監査法人の監査を受ける「最近1年間」の事業年度を決め、逆算した計画があるか
  • 売却方法や取引形式で売上・利益の表示が変わる取引を洗い出し、説明の指標を決めているか
  • 財務制限条項を借入ごとに一覧にし、予算段階で抵触リスクを確認できるか
  • 上場前の株式移動について、理由と価格の算定根拠を記録しているか
  • 代表者による債務保証など関連当事者取引の扱いを金融機関と協議しているか

よくある質問

Q1. 山八商事は上場時に資金調達をしたのですか?

していません。発行者情報の表紙に、上場に際して特定投資家向け取得勧誘又は特定投資家向け売付け勧誘等を実施しないため、特例110条3項により発行者情報に相当する情報を公表すると記載されています。第三者割当等の概況も該当事項なしです。

Q2. 子会社を売却した利益が売上高に入らないのはなぜですか?

子会社そのものを売る場合は、不動産を売ったのではなく子会社株式(持分)を売ったことになるため、連結上は関係会社株式売却益として損益の純額が特別損益に計上されます。会社はこの違いを事業等のリスクで説明しています。

Q3. 直前期以外の財務諸表は監査を受けていないのですか?

受けていません。第58期(2025年8月期)の連結財務諸表は仰星監査法人の監査を受け、第56期・第57期は監査を受けていないと明記されています。TPMの新規上場で求められる監査期間は最近1年間です。

Q4. J-Adviser契約が解除されるとすぐに上場廃止になりますか?

発行者情報では、契約を解除し、かつ他の担当J-Adviserを確保できない場合に上場廃止となると説明されています。解除の事由と事前催告の手続は契約で具体的に定められています。

最初の一歩は「収益の見せ方」と「直前1期」の逆算から

TPMには形式基準がない一方、発行者情報では事業・リスク・会計のつながりを一貫して説明することが求められます。山八商事のように取引の形式で業績の見え方が変わる会社は、まず自社の主要な取引を洗い出し、どの指標で成果を説明するかを決めたうえで、監査を受ける事業年度から逆算して準備計画を立てることをおすすめします。

まとめ

山八商事は、1922年創業の繊維業から不動産業へ転換し、物件ごとに子会社で保有・売却するモデルで成長してきた会社です。発行者情報からは、資金調達を伴わないTPM上場、直前1期の監査、売却方法による収益表示の違い、有利子負債と財務制限条項、支配株主と自己株式、代表者による債務保証、J-Adviser契約の解除条項など、不動産会社が上場を考える際の論点を具体的に読み取ることができます。形式基準がないTPMだからこそ、「何を、どの水準で説明できるか」を自社で整えておくことが大切だといえます。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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