※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
合意された手続(AUP)を依頼するとき、公認会計士から「実務指針に従って手続を決めましょう」「この表現は手続として使えません」と言われることがあります。その根拠になっているのが、日本公認会計士協会の専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」です。
結論からいえば、実務指針4400のポイントは「受嘱の条件」「契約条件の書面化」「手続と結果の客観的な記述」「保証を提供しないことの明示」の4つです。依頼者は手続が目的に足りるかに責任を持ち、公認会計士は合意した手続を正しく実施して事実を報告する、という責任の分担を押さえておけば、業務の流れと報告書の意味が理解しやすくなります。
この記事の見出し
実務指針4400とは|合意された手続の共通ルール
専門業務実務指針4400は、公認会計士が合意された手続業務を行うときに従う実務上の指針です。2016年4月に公表され、その後、国際的な基準の改訂や品質管理の基準の改正などに合わせて改正されてきました。2023年3月16日の改正は、2023年7月1日以後に契約を締結する業務から適用され(大規模監査法人以外は2024年7月1日以後に契約を締結する業務から)、早期適用も認められています。
合意された手続の一般的なルールを定めたのが4400で、その中で労働者派遣事業等の許可審査に使う中間・月次決算書の手続に特化したものが、専門業務実務指針4450です。
図1 合意された手続の共通ルールが4400、派遣等の許可審査に特化したものが4450です。
合意された手続全体の概要は合意された手続(AUP)とは?監査・レビューとの違いと使われる場面で解説しています。本記事では、依頼する側が知っておくと役立つ部分に絞って、指針の要点を整理します。
押さえておきたい用語の定義
実務指針4400では、業務の登場人物と成果物が定義されています。依頼する側にとって特に重要なのは、「手続実施結果」の定義です。指針は手続実施結果を、合意された手続を実施して得られた「事実に即した客観的に検証可能な結果」としています。
| 用語 | 意味(要旨) | 実務での受け止め方 |
|---|---|---|
| 業務依頼者 | 業務実施者と契約を締結し、手続の決定を行う者 | 多くの場合、報告書を必要とする会社自身 |
| 業務実施者 | 業務を実施する者(業務執行責任者や業務チームのメンバー) | 手続を実施し報告書を作る公認会計士 |
| 実施結果の利用者 | 実施結果報告書を利用する者 | 行政、取引先、親会社、金融機関など |
| 合意された手続 | 業務実施者、業務依頼者及び実施結果の利用者が合意した手続 | 契約書に具体的に書かれた手続 |
| 手続実施結果 | 手続の事実に即した客観的に検証可能な結果 | 一致・不一致、件数、金額などの事実 |
「客観的に検証可能」とは、別の人が同じ手続を実施しても同じ結果になる、という意味に近いものです。そのため、「適切だった」「おおむね正しい」のような評価を含む書き方は、手続実施結果としては使えません。
図2 手続実施結果は「事実に即した、客観的に検証可能な結果」として書きます(例は架空)。
受嘱の条件|引き受けられない業務もある
実務指針4400は、一定の条件を満たす場合でなければ業務を引き受けてはならないとしています。依頼者の立場からみると、条件の多くは「手続が具体的に決まっているか」「必要な資料が出せるか」に関係します。
図3 条件を満たさないと判断した場合、業務実施者は契約を締結しません。
| 受嘱の条件(要旨) | 依頼者が準備しておくこと |
|---|---|
| 依頼者が手続の適切性を認識している | 提出先の要求事項を確認し、手続が目的に足りるかを自社で判断する |
| 必要な情報が入手できる | 帳簿、証憑、残高証明書などを提出できるようにする |
| 手続と結果を客観的に記述できる | 「確認する」「分析する」ではなく、照合・再計算など具体的な作業で手続を表す |
| 職業倫理に反しない | 利益相反がないかなど、公認会計士側で確認する事項に協力する |
| 独立性の要求を満たせる | 提出先が独立性を求めていないかを確認して伝える |
| その他の拒否理由がない | 依頼の目的や背景を正直に伝える |
とくに「依頼者が手続の適切性を認識している」という条件は重要です。合意された手続では、手続が目的に足りるかどうかの判断は依頼者(と利用者)側にあり、公認会計士は手続の適切性について表明しません。提出先の要求を十分に確かめずに手続を決めると、報告書を出しても受け付けてもらえない、ということが起こりえます。
責任の範囲|依頼者と公認会計士は何に責任を負うか
合意された手続では、責任の分担がはっきりしています。依頼者は、手続が目的に適切であることと、業務の対象となる情報(試算表、売上報告書など)について責任を負います。公認会計士は、合意した手続を実施し、結果を正確に報告することに責任を負います。
図4 手続が目的に足りるかは依頼者側、手続を正しく実施し報告するのは業務実施者の責任です。
公認会計士は、手続実施結果について意見や結論を述べません。また、合意した手続以外に追加で調べた結果で何かを保証することもしません。報告書にもこの点が明記されます。報告書の記載事項は合意された手続の報告書|記載事項・手続実施結果の書き方・利用の制限で詳しく解説しています。
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契約条件の書面化|何を契約書に書くのか
実務指針4400は、合意した契約条件を業務契約書などの書面に記載することを求めています。記載事項には、手続の内容だけでなく、業務の目的や利用者、業務が保証業務ではないこと、報告書の宛先や想定される様式・内容などが含まれます。
図5 受嘱の判断から報告書の日付まで、各段階に指針の要求があります。
図6 手続の内容だけでなく、業務の性質や報告書の宛先・様式まで書面で合意します。
依頼者以外に報告書の利用者がいて、報告書の配布を制限する場合には、その利用者の名称や、手続に合意していることなども契約書に記載します。差異を報告する閾値(たとえば「1万円以上の差異を報告する」)を決めた場合も、手続の記述に含めます。契約までの具体的な進め方は合意された手続の依頼の流れ|手続の合意から報告書の受領までを参照してください。
職業的専門家としての判断はどこで使うのか
合意された手続は「決められたとおりに作業するだけ」と思われがちですが、実務指針4400は、業務の各段階で職業的専門家としての判断を用いるとしています。たとえば、受嘱するかどうかの判断、手続の表現をより明確にする提案、例外事項の記述の仕方などです。
図7 判断は業務の進め方に使い、手続実施結果を意見や結論に置き換えることはしません。
一方で、判断を使って手続実施結果を「適正」「問題なし」といった結論に置き換えることはしません。判断はあくまで、業務を適切に進め、事実を誤解なく伝えるために使われます。
独立性と専門家の利用
実務指針4400では、法令や契約条件で求められる場合を除き、合意された手続業務に独立性は要求されないとされています。ただし、客観性などの職業倫理の原則は守る必要があり、報告書には独立性に関する事項を記載します。派遣の許可申請のように、提出先の運用上、独立した公認会計士による報告書が前提とされる場面もあるため、契約前に確認します。
図8 法令や契約で求められない限り独立性は要件ではありませんが、報告書でその扱いを明らかにします。
業務実施者が、ITや評価などの専門家の作業を利用する場合のルールもあります。2026年7月17日には、日本公認会計士協会から4400の改正案(公開草案)が公表され、専門家が必要な適性・能力を備えていない場合や、客観性に対する阻害要因を除去できない場合には、その専門家の作業を利用してはならない旨を明確にすることが提案されています。改正案では、2027年4月1日以後に契約を締結する業務から適用することが示されています。
図9 2016年に公表され、改正を重ねてきました。2026年7月には改正案(公開草案)が公表されています。
派遣・職業紹介の許可で使う実務指針4450との関係
労働者派遣事業等の許可の更新などで、年度決算書では資産要件を満たさない場合に、中間決算書や月次決算書に対する合意された手続を使える場面があります。この場面に特化した指針が専門業務実務指針4450で、年度決算から中間・月次決算への連続性の確認や、現金預金の過大計上・負債の過小計上を示す事実の有無を確かめる手続などが示されています。
| 比較項目 | 実務指針4400 | 実務指針4450 |
|---|---|---|
| 対象 | 合意された手続業務全般 | 労働者派遣事業等の許可審査に係る中間・月次決算書 |
| 手続の決め方 | 依頼者・利用者と個別に合意 | 指針が想定する手続を基礎に合意 |
| 主な手続の例 | 照合、再計算、閲覧など目的に応じて設計 | 年度決算からの連続性の確認、現金預金や負債に関する手続など |
| 使える場面 | 行政・契約・社内など幅広い | 許可の更新や事業所新設などで、決算書では要件を満たさない場合など限定的 |
| 報告の形 | 手続と手続実施結果を事実として報告 | 同左(結論や保証は提供しない) |
このように、4450は4400の考え方を土台にしながら、許可審査という特定の目的のために手続の枠組みを示したものと理解すると整理しやすいでしょう。どちらの場合も、公認会計士は結論や保証を示さず、手続実施結果を事実として報告します。
4450を使える条件は限定されていますので、詳しくは派遣許可の更新で合意された手続を使える条件|実務指針4450の3つの限定をご覧ください。監査証明との違いは監査証明と合意された手続の違い|派遣の許可申請、中間・月次決算の準備は派遣の中間決算と月次決算|監査証明を受ける準備で解説しています。
- 提出先が求める手続の内容と、報告書の宛先を確認した
- 手続が目的に足りるかの判断は自社側にあることを理解した
- 手続を「照合」「再計算」など具体的な作業で表現した
- 差異を報告する閾値を数字で決めた
- 独立性が求められるかを提出先に確認した
- 契約書に業務の目的・利用者・報告書の様式が書かれているかを確認した
よくある質問
手続の案を提案してもらうことはできます。ただし、実務指針4400では手続の適切性を依頼者が認識していることが受嘱の条件とされ、公認会計士は手続の適切性について表明しません。最終的に「この手続で目的に足りる」と判断するのは依頼者(と利用者)です。
できますが、依頼者(必要に応じて利用者)と改めて合意し、契約条件を変更します。当初合意した手続を実施できなかった場合や変更した場合は、その事実と理由を報告書に書くことがあります。
法令や契約で独立性が求められない場合、指針上は独立性は要件ではありません。ただし、提出先が独立性を求めていることも多いため、まず提出先の要求を確認してください。
手続の数、サンプル数、資料の整い方などで変わります。合意された手続の費用と期間|見積りが変わる要因と準備する資料で詳しく解説しています。
最初の一歩は、提出先の要求事項を手続の形に書き直すことです
提出先の様式や指示書に書かれた要求を、「何を・何と・どう照合するか」の形に一つずつ書き直してみてください。書き直せない項目があれば、そこが公認会計士と相談すべき論点です。下書きの段階でご相談いただければ、指針に沿った表現に整えるお手伝いをします。
まとめ
実務指針4400は、合意された手続の受嘱の条件、契約条件の書面化、手続と結果の客観的な記述、保証を提供しないことの明示などを定めています。依頼者は手続の適切性に、公認会計士は手続の実施と正確な報告に責任を負う、という分担を理解しておくと、手続の決め方や報告書の読み方で迷わなくなります。
許可申請・補助金の実績報告・ロイヤリティの確認・M&Aや融資の前の財務の確認まで、手続の設計から報告書の作成まで公認会計士が対応します。全国対応・オンライン完結、申請期限が迫っている場合もご相談ください。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 日本公認会計士協会 専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」
- 日本公認会計士協会 専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」の改正(公開草案)
- 日本公認会計士協会 専門業務実務指針4450「労働者派遣事業等の許可審査に係る中間又は月次決算書に対する合意された手続業務に関する実務指針」
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。