「新リース会計基準って、結局いつから、何が変わるのか」──IPO準備会社や上場企業の経理・管理部門の方から、最近このご質問を受けない日はありません。オフィスの賃貸借や車両・コピー機のリースなど、これまで賃借料として費用処理してきた契約が貸借対照表に載ってくると聞いて、影響の大きさを測りかねている方も多いはずです。
本記事は連載「新リース会計基準 完全ガイド」の第1回として、基準公表の経緯と制度の全体像を、企業会計基準第34号・適用指針第33号の条項番号付きで整理します。
✅ 結論:借手は原則すべてのリースをオンバランス、2027年4月から強制適用
まず結論からお伝えします。2024年9月13日、企業会計基準委員会(ASBJ)から企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」と企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」が公表されました。この新しい基準の最大のポイントは、借手がファイナンス・リースかオペレーティング・リースかの区分にかかわらず、リース開始日に「使用権資産」と「リース負債」を計上する、つまり原則すべてのリースをオンバランスする点にあります(基準33項)。
適用時期は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの強制適用で、2025年4月1日以後開始する年度の期首からの早期適用も認められています(基準58項)。3月決算会社であれば、2028年3月期から強制適用ということになります。
📜 公表の経緯──なぜ今、リース会計が変わるのか
日本のリース会計の歩みを1本の年表で
- 1993年6月「リース取引に係る会計基準」公表
企業会計審議会による最初のリース会計基準(基準BC1項)。
- 2007年3月企業会計基準第13号を公表
賃貸借処理という例外処理の是正をめぐる約4年の審議を経て公表(基準BC6項)。ファイナンス・リースはオンバランス、オペレーティング・リースはオフバランスの「2つのモデル」に。
- 2016年IFRS第16号・Topic 842が公表
IASBが2016年1月にIFRS第16号を、FASBが同年2月にTopic 842を公表し、使用権モデルによりオペレーティング・リースを含むすべてのリースについて借手が資産及び負債を計上することに(基準BC7項)。
- 2024年9月企業会計基準第34号・適用指針第33号を公表
国際的な基準との負債認識の違いを解消すべく、日本でも借手のすべてのリースをオンバランスする新基準が誕生。
- 2027年4月強制適用スタート
2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用(基準58項)。
国際的な基準の公表により、日本基準との間で特に負債の認識に違いが生じ、国際的な比較可能性が課題となったことが、今回の基準開発の直接の出発点です(基準BC7項)。ASBJは開発にあたり、借手の費用配分の方法についてIFRS第16号との整合性を図りつつ、IFRS第16号のすべての定めではなく主要な定めのみを取り入れ、簡素で利便性が高い基準とする方針を採りました(基準BC13項)。国際的な比較可能性を大きく損なわない範囲で、実務に配慮した代替的な取扱いや経過的な措置を定める方針も併せて示されています(基準BC13項)。
🗺️ 新基準の全体像──5つのステップで捉える
新リース会計基準の構造は、実務の流れに沿って次の5ステップで捉えると理解しやすいと考えられます。ここは筆者なりの整理ですが、各ステップの内容はすべて基準・適用指針に定めがあります。
ステップ1:リースの識別
「リース」とは、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分をいいます(基準6項)。契約の締結時に、その契約が「特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する」ものかどうかでリースを含むか否かを判断します(基準25項、26項)。重要なのは、契約書のタイトルが「リース契約」かどうかではなく、契約の実態で判断される点です。不動産賃貸借や、一見サービス契約に見える契約にもリースが含まれ得ます。
ステップ2:リース期間の決定
借手のリース期間は、解約不能期間に、行使することが合理的に確実である延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間を加えて決定します(基準31項)。日本の実務で多い「2年契約・自動更新」のオフィス賃貸借などで、この判断は最も悩ましい論点の一つであり、本連載でも第3部で7回に分けて掘り下げます。
ステップ3:借手の会計処理(単一モデル)
借手は、リース開始日にリース負債を計上し、これにリース開始日までに支払ったリース料や付随費用等を加減算した額で使用権資産を計上します(基準33項)。リース負債は、原則として、未払のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定します(基準34項)。その後は、利息相当額を原則として利息法で各期に配分し(基準36項)、使用権資産については、所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリースでは、原則として借手のリース期間を耐用年数、残存価額をゼロとして減価償却します(基準38項)。
※ 図は筆者作成のイメージです。勘定科目の表示方法には選択肢があります(基準49項、50項)。
つまり損益計算書上は、従来の「賃借料」が「減価償却費+利息費用」に置き換わるイメージです。この結果、営業利益やEBITDAが変動し得る点は、経営指標への影響として第4回で詳しく扱います。
ステップ4:簡便的な取扱い
すべての契約を厳密にオンバランスするのは実務負担が大きいため、簡便的な取扱いが用意されています。借手のリース期間が12か月以内で購入オプションを含まない「短期リース」は、使用権資産及びリース負債を計上せず、リース料を原則として定額法により費用処理することができます(指針4項(2)、20項)。また、一定の要件を満たす少額リースについても同様の簡便的な取扱いが認められています(指針22項)。要件の詳細は第21回で解説しますが、この選択が導入負担を大きく左右します。
ステップ5:表示と注記
使用権資産は、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合の表示科目に含める方法か、原資産の表示区分において使用権資産として区分する方法のいずれかで表示します(基準49項)。リース負債は、区分表示するか、含まれる科目及び金額を注記します(基準50項)。注記については、リースが財政状態・経営成績・キャッシュ・フローに与える影響を財務諸表利用者が評価できる基礎を与える、という開示目的が置かれ(基準54項)、これを達成するための注記事項が定められています(基準55項)。
🔄 新旧基準はここが違う──比較表で整理
| 項目 | 現行(企業会計基準第13号) | 新基準(企業会計基準第34号) |
|---|---|---|
| 借手のモデル | ファイナンス・リースとオペレーティング・リースを区分する2つのモデル | 区分によらず使用権資産・リース負債を計上する単一モデル(基準33項) |
| オペレーティング・リース(借手) | 賃貸借処理(オフバランス) | 原則オンバランス(基準33項)。短期・少額リースは費用処理の選択可(指針20項、22項) |
| 借手の費用 | オペレーティング・リースは賃借料 | 減価償却費(基準38項)と利息費用(基準36項) |
| 貸手の会計処理 | ファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類 | 分類の枠組みを維持(基準43項)。基本的に従来を踏襲(基準BC13項) |
| 適用時期 | ─ | 2027年4月1日以後開始年度から強制適用、2025年4月1日以後開始年度から早期適用可(基準58項) |
※ 表は筆者作成。「現行」欄は企業会計基準第13号の下での一般的な取扱いの要約です。新基準の適用により、第13号及び同適用指針第16号等の適用は終了します(基準59項)。
📌 適用範囲と旧基準の廃止
新基準は、公共施設等運営権の取得、収益認識会計基準の範囲に含まれる貸手による知的財産のライセンスの供与、鉱物等の探査・使用の権利の取得を除き、リースに関する会計処理及び開示に適用されます(基準3項)。無形固定資産のリースについては、適用しないことができます(基準4項)。また、新基準の適用により、企業会計基準第13号及び同適用指針第16号等の適用は終了します(基準59項)。
⚠️ 実務上の留意点──「会計処理」より先に「体制づくり」が大変
ここからは、IPO支援・監査対応の実務に携わる立場からの示唆です(基準に直接の定めがある部分ではないため、条項番号は付していません)。
新基準対応の負担は、仕訳の切り方そのものよりも、その手前の作業に集中します。IPO準備会社であれば、上場審査で新基準への対応方針を問われることが想定されますし、監査法人からは適用初年度より前の段階で影響額の試算を求められるのが通常です。強制適用は2027年4月ですが、準備は「今から」始めるのが現実的と考えられます。
📋 【自作チェックリスト】新基準対応・最初の一歩
まずは現状把握です。次の項目を確認してみてください。
- 自社の適用開始年度を特定した(3月決算なら2028年3月期から強制適用)
- 賃貸借・レンタル等を含む契約の一覧(リース候補の棚卸し)が存在する
- オフィス・店舗・倉庫など不動産賃貸借の契約条件(期間・更新・解約条項)を把握している
- 短期リース・少額リースの簡便的な取扱いを使うかどうかの検討に着手している
- 監査法人と新基準対応のスケジュールを協議する場を設定した
- 影響額の試算(オンバランスされる資産・負債の概算)を行った
❓ よくある質問(FAQ)
2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から強制適用され、2025年4月1日以後開始する年度の期首からの早期適用も認められています(基準58項)。3月決算会社なら2028年3月期からです。
新基準は金融商品取引法監査や会社法の会計監査人監査の対象となる会社の会計実務に適用されるものであり、中小企業の多くが拠る中小企業の会計に関する指針等の取扱いは別途定められています。IPOを目指す会社は上場企業と同じ基準への対応が必要になると考えられます。
原則はオンバランスですが(基準33項)、リース期間12か月以内で購入オプションを含まない短期リース(指針4項(2)、20項)と、一定の要件を満たす少額リース(指針22項)には、費用処理による簡便的な取扱いが認められています。
貸手はファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類する枠組みが維持されており(基準43項)、基本的に従来の取扱いを踏襲しています(基準BC13項)。収益認識会計基準との整合等の限定的な見直しが中心です。
🎯 まとめ──連載で「使える知識」まで落とし込む
新リース会計基準は、借手の原則すべてのリースをオンバランスする使用権モデルへの転換であり(基準33項、BC7項)、2027年4月1日以後開始年度から強制適用されます(基準58項)。制度の骨格はシンプルですが、実務ではリースの識別、リース期間の見積り、体制整備といった「判断と段取り」が負担の中心になります。
本連載では全30回で、リースの識別からリース期間の事例研究、借手の会計処理、開示、移行対応までを順に解説していきます。連載全体の構成は連載目次「新リース会計基準 完全ガイド」をご覧ください。次回・第2回は「借手の単一モデルへの転換──現行基準との比較」を予定しています。
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参考:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」3項、4項、6項、25項、26項、31項、33項、34項、36項、38項、43項、49項、50項、54項、55項、58項、59項、BC1項、BC6項、BC7項、BC13項/企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」4項(2)、20項、22項
免責:本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の会計処理・投資判断についての助言ではありません。実際の会計処理の最終判断にあたっては、監査法人や専門家にご相談ください。