店舗の看板・厨房・居抜き造作は使用権資産か?多店舗展開の判定実例

多店舗展開の会社が新リース会計基準に対応するとき、オフィス1拠点の会社とは桁違いの作業量になります。1店舗あたりの出店コストは数千万円、それが数十店舗分あり、しかも店舗ごとに契約形態も設備の入り方も違うからです。

この記事では、飲食チェーンの1店舗を丸ごと分解して、支出項目ごとに使用権資産・建物附属設備・器具備品・構築物・費用のどれになるのかを決めていきます。とくに、居抜きで払った造作譲渡代金、看板、厨房設備、建設協力金、歩合賃料といった、店舗特有の項目に絞って掘り下げます。

オフィスの内装造作を工事区分表で切り分ける手順はオフィス内装のどこまでが使用権資産かで、原状回復に係る資産除去債務をどちらに加算するかは原状回復の資産除去債務は使用権資産か建物附属設備かで扱っています。本記事は、その考え方を店舗に当てはめた実践編です。多店舗を1拠点ずつ判定せずに方針で決める方法は資産除去債務は使用権資産と建物附属設備のどちらに寄せるかにまとめました。

🏪 事例|郊外ロードサイド店1店舗の出店コスト

当社(3月決算・IPO準備中の飲食チェーン、直営60店舗)は、X1年4月に郊外ロードサイド店を出店した。土地建物の賃貸借契約は定期借家10年(更新なし、造作買取請求権を排除する特約あり)。建物は貸主が当社の要望に沿って建築し、当社は建設協力金を差し入れた。前テナントの造作の一部を居抜きで引き継いでいる。原状回復義務は「スケルトン返し」と定められている。

支出項目 相手方 金額 備考
建設協力金 貸主 2,000万円 10年で分割返還
保証金 貸主 1,000万円 うち20%は返還されない
固定賃料 貸主 月180万円 10年分
歩合賃料 貸主 売上高の3% 固定賃料に上乗せ
共益費・販促分担金 貸主 月25万円 清掃・警備・共同販促
造作譲渡代金 前テナント 800万円 厨房区画の内装・排気設備
内装造作工事 工事業者 1,200万円 客席・カウンター・仕上げ
厨房機器 機器メーカー 900万円 購入
POS・券売機 リース会社 月8万円 5年リース
ポール看板 看板業者 350万円 敷地内に基礎を打って設置
壁面看板の掲出料 隣接ビル所有者 月3万円 賃貸借契約とは別契約
図1 1店舗の支出を5つの箱に振り分ける 使用権資産 固定賃料の現在価値 建設協力金の差額 返還されない保証金 除去費用(加算先の判定要) 壁面看板料(リース該当時) POS・券売機 建物附属設備 内装造作工事 居抜きの造作譲渡 排気・給排水設備 構築物 ポール看板 (土地に定着) 器具及び備品 厨房機器(購入) 可搬式の看板 費用 歩合賃料 共益費 販促分担金 同じ「店舗の開店費用」でも、行き先は5つに分かれる

壁面看板の掲出料と除去費用は判定次第で行き先が変わります(論点2・論点7)。この振り分けを店舗ごとに機械的に回せる状態にすることが、多店舗展開企業の対応の核心です。

🔍 論点1|居抜きで払った造作譲渡代金800万円

居抜き出店では、前テナントに造作譲渡代金を支払って、厨房設備や内装をそのまま引き継ぎます。この800万円は使用権資産でしょうか。

答えは明確に「いいえ」です。理由は取引の相手方が貸主ではないことにあります。使用権資産の取得原価を構成するのは、基準第33項が定めるリース負債、リース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用、資産除去債務に対応する除去費用であり、そこから受け取ったリース・インセンティブを控除したものです。前テナントへの支払は、貸主に対するリース料でもなければ、リース取引に付随して必然的に生じる費用でもありません。

これは、賃貸借契約とは別に、前テナントとの間で行われた資産の売買取引です。したがって、引き継いだ造作の内容に応じて、建物附属設備や器具備品として資産計上します。

図2 居抜き出店は2つの独立した取引でできている 当社(借手) 新規出店する会社 貸主 建物の所有者 前テナント 退去する会社 ① 賃貸借契約 → リース(使用権資産) ② 造作の売買 → 資産の取得(建物附属設備等)

相手方が違えば取引も違います。1枚の出店稟議に両方が載っていても、会計上は分けて考えます。

耐用年数は中古資産のルールが絡む

ここで税務上の論点が2つ重なります。ひとつは、他人の建物に対する造作であること。もうひとつは、前テナントが使用していた中古資産であることです。

他人の建物に対する造作については、国税庁のタックスアンサーNo.5406が耐用年数の適用等に関する取扱通達1-1-3を根拠として、原則としてその造作を一の資産とし、造作した建物の耐用年数および造作の種類・用途・使用材質等を勘案して合理的に耐用年数を見積もると説明しています。また、建物附属設備に造作した場合には、その建物附属設備の耐用年数によって償却します。したがって、電気設備・給排水設備・空調設備など建物附属設備に区分されるものは別表第一の法定耐用年数によることになり、合理的な見積りの対象になるのは建物本体に対する内部造作です。居抜きで引き継いだ造作も、この区分を先に行ってから耐用年数を決めます。

そのうえで例外として、賃借期間の定めがあり更新ができないもので、かつ有益費の請求または買取請求をすることができないものについては、賃借期間を耐用年数とすることができます。

事例の契約は定期借家10年・更新なし・造作買取請求権を排除する特約ありですから、この例外の入口には立っています。ただし要件は、更新ができないことに加えて「有益費の請求」と「買取請求」の両方ができないことです。有益費償還請求権の放棄が契約書上明示されていなければ要件を満たしませんので、造作買取請求権の排除条項だけで判断しないでください。要件を満たす場合には、造作を賃借期間10年で償却することができます。

例外を使うには、契約書の条項で「更新ができないこと」と「有益費の請求も買取請求もできないこと」の両方が確認できる必要があります。定期借家であっても、再契約に関する条項の書きぶりによっては「更新ができない」と言い切れない場合があります。

また、中古資産の簡便法(国税庁タックスアンサーNo.5404)は法定耐用年数を持つ資産を前提としています。他人の建物に対する造作は合理的な見積りによるため、簡便法をそのまま当てはめられるかには論点があります。実務では、造作の残存使用可能期間と契約期間の短いほうを基礎に見積もる整理が採られます。

さらに、中古資産を事業の用に供するために支出した資本的支出の額が、その中古資産の再取得価額の50%に相当する金額を超える場合には、そもそも簡便法を使うことができません(国税庁タックスアンサーNo.5404)。居抜きで取得した造作に、取得価額を上回る内装工事を追加投下する出店では、この制限に触れることが少なくありません。造作譲渡代金と追加工事の内訳を、資産単位で切り分けて把握してください。

🔍 論点2|看板は3つに分けて考える

店舗の看板は、設置場所と契約形態によって扱いが変わります。事例には性格の違う3種類が登場します。

看板の種類 会計上の扱い 考え方
店舗のファサード看板(建物に固定) 建物附属設備または器具及び備品 賃借建物に当社が付加した資産。契約時点の特定された資産には含まれない
敷地内のポール看板(基礎を打って設置) 構築物 土地に定着した独立の構造物として、当社が所有し支配する
隣接ビル壁面の掲出スペースを借りる リースに該当すればオンバランス(使用権資産) 他人の資産の一部分を対価を払って使用する契約。リースの識別が必要

3つめが実務で見落とされます。「広告宣伝費」で毎月落としていた掲出料が、実はリースかもしれないという論点です。

掲出スペースは「特定された資産」か

リースの識別は、特定された資産の使用を支配する権利が一定期間にわたり対価と交換に移転しているかで判断します。基準第26項は、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含むとしています。

ポイントは、看板を出す場所が特定されているかどうかです。適用指針第7項は、顧客が使用することができる資産が物理的に別個のものではなく資産の稼働能力の一部分である場合には、当該稼働能力部分は特定された資産に該当しないとしたうえで、ただし顧客が使用できる稼働能力が当該資産の稼働能力のほとんどすべてであることにより、顧客が当該資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している場合には、特定された資産に該当するとしています。

さらに適用指針第6項は、資産が契約に明記されている場合であっても、サプライヤーが当該資産を代替する実質的な権利を有しているときは特定された資産に該当しないと定めています。

図3 看板の掲出契約がリースになるかの判定 掲出する場所が、契約で特定されているか その場所は物理的に別個か、稼働能力のほとんどすべてか(適用指針第7項) 貸主に、場所を自由に差し替える実質的な代替権はないか(適用指針第6項) すべて満たす → リース 短期・少額の簡便的取扱いも検討 満たさない → サービス契約 広告宣伝費として費用処理

「壁面の特定の区画を10年間占有する」契約はリースに寄り、「ビルのどこかに広告を出す」契約はサービスに寄ります。

ビルの壁面のうち特定の区画を、期間を定めて占有し、ビル所有者に差し替える権利がないのであれば、リースに該当する可能性が高くなります。一方、掲出面をビル側の都合で変更できる契約や、広告掲出そのものをサービスとして提供する契約であれば、リースではありません。

リースに該当した場合でも、必ずしもすべてをオンバランスする必要はありません。適用指針第20項は短期リースについて、第22項は少額リースについて、基準第33項の定めにかかわらず借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上する簡便的な取扱いを認めています。短期リースとは、リース開始日において借手のリース期間が12か月以内であり購入オプションを含まないリースをいいます(適用指針第4項(2))。

ただし、月額が小さいからといって当然に少額リースになるわけではありません。少額リースの判定は、リース契約1件当たりの金額で行います(適用指針第22項、第23項)。月3万円でも10年契約なら総額360万円ですから、金額基準を超えれば簡便的な取扱いは使えません。契約期間が12か月を超えていれば短期リースにも当たりません。月額ではなく契約期間と総額で判定するという点を押さえてください。

重要なのは、簡便的な取扱いを使う場合でも「リースに該当するが簡便処理を選択した」という判断の記録を残すことです。「リースではないから費用処理した」との違いは、監査上も注記上も意味が異なります。

🔍 論点3|厨房設備は、誰が設置したかで変わる

厨房設備は、調達の経路によって3通りに分かれます。

調達の経路 会計上の扱い 理由
当社が購入した厨房機器 器具及び備品 当社が所有し支配する資産。リース取引ではない
当社がリース会社から借りたPOS・券売機 使用権資産 新基準では従来のオペレーティング・リースも原則オンバランス
貸主が設置し、賃料に含まれている設備 建物リースの一部として使用権資産に反映 賃借した資産そのものに付属している。別個の資産取得はない

3つめは、建物と設備を分けてリースの識別を行う必要があるかという論点につながります。貸主が設置した厨房設備が賃貸借の対象に含まれている場合、その設備は借りている資産の一部です。建物と設備を別々のリースとして識別するかどうかは、それぞれが独立して便益を提供するか、相互依存性が高いかによって判断します。実務上は、店舗用建物に固定された排気ダクトや給排水設備は建物と一体として扱われることが多くなります。

一方、当社が購入した厨房機器は、いつでも移設でき、退去時には持ち出します。これは建物に付加した造作ですらなく、独立した動産ですから、器具及び備品として計上します。

🔍 論点4|建設協力金と保証金は、使用権資産に入る部分がある

ロードサイド店で典型的なのが建設協力金です。貸主が当社の要望に沿って建物を建てる代わりに、当社が建築資金の一部を無利息または低利で預託し、賃料と相殺するなどして分割返還を受けます。

適用指針第33号は、この取扱いを次のように定めています。

項目 取扱い 根拠
将来返還される建設協力金等の差入預託保証金 当初認識時の時価は返済期日までのキャッシュ・フローの現在価値とし、支払額と時価との差額を使用権資産の取得価額に含める 適用指針第29項
割引率 借手が対象土地建物に抵当権を設定している場合、原則としてリスク・フリーの利子率を使用する 適用指針第30項
返済期日までの期間が短いもの等、影響額に重要性がない差入預託保証金(敷金を除く) 第29項の処理を行わず、債権に準じた処理も認められる 適用指針第31項
返還されないことが契約上定められている差入預託保証金 使用権資産の取得価額に含める 適用指針第32項
将来返還される差入敷金 取得原価で計上する 適用指針第33項
返還されないことが契約上定められている敷金 使用権資産の取得価額に含める 適用指針第34項
貸主の支払能力から回収不能と見込まれる金額 貸倒引当金を設定する 適用指針第36項

事例では、建設協力金2,000万円の支払額と時価との差額が使用権資産に加算され、保証金1,000万円のうち返還されない200万円も使用権資産に加算されます。

旧基準では、建設協力金の支払額と時価との差額は長期前払家賃として計上し、契約期間にわたって配分していました。新基準では原則として使用権資産の取得価額に含めることになるため、勘定科目そのものが変わります。

適用初年度には、移行時の測定について簡便的な取扱いを認める経過措置が用意されています。ただしこれは移行時点の測定を簡便にするものであって、旧基準の処理を将来にわたって続けてよいという趣旨ではありません。多店舗展開の会社は店舗数が多いぶん影響額も大きくなるため、移行方針を早めに決めて監査法人と共有してください。

🔍 論点5|共益費と販促分担金は非リース部分

月25万円の共益費・販促分担金は、建物を使用する権利の対価ではなく、清掃・警備・共同販促というサービスの対価です。

基準第28項は、借手および貸手はリースを含む契約について、原則としてリースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行うと定めています。したがって、共益費相当額はリース料から除いてリース負債を計算し、発生時に費用処理するのが原則です。

ただし基準第29項は例外を設けており、借手は、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごと、または性質および企業の営業における用途が類似する原資産のグループごとに、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成する部分として会計処理を行うことを選択できます。この選択をすると、共益費もリース負債に含まれ、負債と使用権資産が大きくなります。

図4 賃料明細をリース部分と非リース部分に分ける 毎月の請求書 固定賃料 180万円 共益費   20万円 販促分担金 5万円 歩合賃料 売上3% リース部分 固定賃料 → リース負債へ 非リース部分 共益費・販促分担金 → 費用 歩合賃料は別枠 売上高に応じて変動するため リース負債に含めない 発生時に損益へ計上 (適用指針第51項) 請求書の1行ごとに性格を決めておくと、店舗が増えても運用が崩れません

分けない選択(基準第29項)を採る場合も、選択したこと自体を方針として文書化しておきます。

🔍 論点6|歩合賃料はリース負債に入らない

売上高の3%という歩合賃料は、リース負債に含めません。

基準第21項は、借手の変動リース料を、借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払のうち、リース開始日後に発生する事象または状況の変化(時の経過を除く)により変動する部分と定義しています。そのうち基準第35項(2)は、指数またはレートに応じて決まる借手の変動リース料を借手のリース料に含めるとしています。

売上高に連動する歩合賃料は指数やレートによる変動ではないため、リース料には含まれません。適用指針第51項は、借手は、リース負債の計上額に含めなかった借手の変動リース料について、当該変動リース料の発生時に損益に計上すると定めています。

この区別は、多店舗展開の会社にとって大きな意味を持ちます。賃料の変動部分が大きい契約ほど、オンバランスされる負債は小さくなるからです。固定賃料を下げて歩合部分を厚くする契約設計は、財務指標への影響という観点でも検討対象になります。

🔍 論点7|スケルトン返しの原状回復債務はどちらに乗るか

事例の契約は原状回復義務がスケルトン返しです。撤去の対象は、当社が施工した内装造作と、居抜きで引き継いだ造作です。

資産除去債務に関する会計基準第7項は、資産除去債務に対応する除去費用を、負債計上時に同額を関連する有形固定資産の帳簿価額に加えると定めています。適用指針第33号第28項は、借手は、資産除去債務を負債として計上する場合の関連する有形固定資産が使用権資産であるとき、当該負債の計上額と同額を当該使用権資産の帳簿価額に加えるとしています。

ここで効いてくるのが「関連する有形固定資産が使用権資産であるとき」という条件です。撤去するのが借手の造作であるならば、関連する有形固定資産は借手の建物附属設備であり、加算先はそちらになる、という読み方が成り立ちます。この論点は原状回復の資産除去債務は使用権資産か建物附属設備かで詳しく整理していますので、そちらをご参照ください。

店舗特有の注意点として、スケルトン返しは撤去対象が広いということがあります。オフィスの原状回復が「借主が施工した造作の撤去」に限られるのに対し、店舗のスケルトン返しは、前テナントから引き継いだ造作まで含めて撤去する義務を負うことが少なくありません。居抜きで安く出店できた分、退去時のコストは前テナント分まで背負っている、という構図です。見積りの対象範囲を契約条項で確認してください。

⏱️ 償却期間の設計|10年契約でも10年で償却するとは限らない

資産の区分が決まったら、償却期間を決めます。事例では、定期借家10年・更新なしですから、借手のリース期間は10年と判断されるのが素直です。使用権資産は基準第38項により、所有権移転が認められないリースでは原則としてリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとします。

問題は造作です。飲食店は5年から7年で内装をリニューアルするのが一般的で、10年間まったく手を入れないケースは稀です。

適用指針の結論の背景には、この状況を想定した議論があります。EY新日本有限責任監査法人の解説は、適用指針BC34項(2)②として、リース物件に造作した附属設備のある店舗について5年ごとにリニューアルによる追加コストが発生する場合、リニューアルを行ってまで延長オプションを行使するかは店舗の損益の状況次第になり、借手のリース期間中の除去および借手のリース期間後の使用を見込んでいない場合には当該附属設備の耐用年数が借手のリース期間と整合し、リース期間後の使用を見込んでいる場合には整合しないと考えられる、と説明しています。

また適用指針第17項は、延長オプションを行使すること(または解約オプションを行使しないこと)が合理的に確実かどうかを判断するにあたり、オプションの対象期間に係る契約条件、大幅な賃借設備の改良の有無、リースの解約に関連して生じるコスト、企業の事業内容に照らした原資産の重要性、オプションの行使条件を考慮するとしています。

図5 リース期間10年、造作は5年で入れ替える店舗 開店 5年目 10年目 使用権資産(10年・残存ゼロ) 初期の内装造作(5年) リニューアル後の造作(5年) 除去して入れ替える見込みがあるなら、造作はリース期間より短い 造作の償却期間は「契約期間」ではなく「その造作を使い続ける期間」で決まる

リニューアル計画や店舗投資計画が、そのまま耐用年数の見積根拠になります。

つまり、リース期間が10年だからといって造作を10年で償却するのは、必ずしも正しくありません。5年でリニューアルして除去する見込みがあるなら、造作の耐用年数は5年です。逆に、リース期間を超えて造作を使い続ける見込みがあるなら、耐用年数がリース期間より長くなることもあります。

IFRSでも同じ構造です。IFRS解釈指針委員会は2019年11月のアジェンダ決定において、企業がリース期間を超えて造作を使用する見込みがない場合には、IAS第16号第57項を適用して撤去不能な造作の耐用年数はリース期間と同じであると結論づけると述べています。IAS第16号第56項(d)は、関連するリースの満了日のような資産の使用に対する法的またはこれに類する制限を考慮するよう求めています。

監査上は、償却期間の見積根拠として店舗投資計画・リニューアル実績・過去の退店実績のデータが求められます。多店舗展開の会社であれば、業態別・立地別の平均在店期間を集計しておくと、見積りの合理性を数字で示せます。

🗒️ 税務|店舗特有の耐用年数を押さえる

店舗の資産区分では、オフィスではあまり出てこない細目が登場します。減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一から、店舗で使う代表的なものを挙げます。

資産区分 細目 耐用年数
建物附属設備 店用簡易装備 3年
建物附属設備 電気設備(照明設備を含む)その他のもの 15年
建物附属設備 給排水又は衛生設備及びガス設備 15年
建物附属設備 冷暖房設備(冷凍機の出力が22キロワット以下のもの) 13年
建物附属設備 アーケード又は日よけ設備(主として金属製のもの) 15年
構築物 広告用のもの(金属造のもの) 20年
構築物 広告用のもの(その他のもの) 10年
器具及び備品(看板及び広告器具) 看板、ネオンサイン及び気球 3年
器具及び備品(看板及び広告器具) その他のもの(主として金属製のもの) 10年

「店用簡易装備」は、店舗の陳列棚や装飾など、比較的短期間で取り替えられる簡易な装備を指す区分で、耐用年数は3年です。飲食店の内装をすべてこの区分で処理してよいわけではありませんが、什器や装飾に類する部分については検討の余地があります。

看板も、器具及び備品としての「看板、ネオンサイン及び気球」(3年)と、構築物としての「広告用のもの」(金属造20年・その他10年)で大きく異なります。土地に基礎を打って定着させたポール看板は構築物、建物や壁面に取り付けた看板は器具備品または建物附属設備という整理が基本になります。

3年と20年では、年間の償却費が7倍近く違います。看板の資産区分は税務調査で見られやすい項目です。設置写真、施工図面、基礎工事の有無が分かる工事内訳書を保管しておいてください。

会計と税務のズレは3か所で生じる

店舗の場合、会計と税務の差異は次の3か所に集約されます。

差異が生じる場所 会計 税務
建物の賃借 使用権資産を計上し、減価償却費と利息相当額を計上 税務上のリース取引に該当しない賃貸借は、支払賃料のうち債務が確定した金額を損金算入
造作の耐用年数 造作を使い続ける期間で見積る 耐用年数の適用等に関する取扱通達1-1-3の考え方による
原状回復の資産除去債務 負債計上時に同額を関連する有形固定資産に加算し、償却と利息費用を計上 実際に工事を行い債務が確定した時点で損金算入(債務確定基準)

債務確定基準について、国税庁のタックスアンサーNo.5387は、法人税法第22条第3項および法人税基本通達2-2-12を根拠として、その事業年度終了の日までに債務が成立していること、その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること、その金額を合理的に算定することができることの3つを挙げています。原状回復債務を見積計上しただけでは2つめの要件を満たしませんので、資産除去債務に係る費用は税務上の損金になりません。

なお、国税庁が令和7年6月30日付で公表した法人税基本通達等の一部改正では、法人税基本通達7-5-3が新設され、法人税法第64条の2第1項に規定するリース資産について、確定決算において使用権資産の減価償却費として経理した金額は法人税法第31条第1項の「その償却費として損金経理をした金額」に含まれることが明らかにされました。POS・券売機のように税務上のリース取引に該当するものについては、この通達が効いてきます。

🧾 多店舗展開の会社が先に決めておくべきこと

60店舗を1件ずつ個別判断していては、決算に間に合いません。実務では、判断をルール化して台帳で回す設計が必要です。

決めておくこと 内容
契約類型の分類 普通借家・定期借家・サブリース・居抜き・建設協力金型など、自社に存在する類型を洗い出し、類型ごとの標準的な判断を定める
支出項目のマスタ 出店時の勘定科目マスタを、使用権資産・建物附属設備・構築物・器具備品・費用の5区分に紐付ける
リース期間の判断基準 更新条項の有無、業態別の平均在店期間、投資回収期間から、延長オプションの行使可能性を判断する基準を定める
造作の耐用年数の基準 リニューアルサイクルの実績データに基づく標準年数と、個別に外れる場合の判断手順
非リース部分の扱い 共益費等を区分するか、基準第29項の例外を使って区分しないかを、科目ごとに選択して文書化する
簡便的取扱いの方針 短期リース・少額リースの適用範囲と、判定に使う金額基準を定める

そして、判断の根拠となる証憑を店舗単位で揃えます。賃貸借契約書と覚書、工事区分表、請負契約書と工事内訳書、造作譲渡契約書、原状回復見積書、看板の施工図面。これらが店舗コードで固定資産台帳と紐付いていれば、監査対応は台帳の閲覧で済みます。

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鈴木佑也公認会計士税理士事務所では、IPO準備会社の店舗契約の棚卸し、契約類型別の判断基準の策定、資産区分マスタの設計、監査法人への説明資料の作成までを一貫して支援しています。初回のご相談は無料です。

❓ よくある質問

Q1.居抜きで払った造作譲渡代金は使用権資産になりますか。

なりません。支払の相手方は前テナントであり、貸主に対するリース料ではないためです。引き継いだ造作の内容に応じて、建物附属設備や器具及び備品として資産計上します。

Q2.看板の掲出料は広告宣伝費でよいですか。

掲出する場所が特定されており、貸主に実質的な代替権がなく、当社が一定期間にわたって使用を支配しているのであれば、リースに該当する可能性があります。該当する場合でも、契約期間が12か月以内であれば短期リース(適用指針第20項)、リース契約1件当たりの金額が少額であれば少額リース(適用指針第22項)の簡便的な取扱いを選択できます。いずれにも当たらない長期の掲出契約はオンバランスの対象になります。判断の記録は残してください。

Q3.歩合賃料はリース負債に含めますか。

含めません。基準第35項(2)がリース料に含めるとしているのは指数またはレートに応じて決まる変動リース料であり、売上高に連動する歩合賃料はこれに当たりません。適用指針第51項により、発生時に損益に計上します。

Q4.建設協力金の処理は旧基準から変わりますか。

変わります。旧基準では支払額と時価との差額を長期前払家賃として計上し契約期間にわたって配分していましたが、適用指針第29項により、原則として使用権資産の取得価額に含めることになります。適用初年度には経過措置があります。

Q5.共益費を区分せずにリース料に含めてしまってよいですか。

基準第29項により、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごと、または性質および企業の営業における用途が類似する原資産のグループごとに、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成する部分として会計処理を行うことを選択できます。ただし選択すると負債と使用権資産が大きくなりますので、財務指標への影響を確認したうえで方針を決めてください。

Q6.定期借家契約なら造作を契約期間で償却できますか。

税務上は、賃借期間の定めがあり更新ができないもので、かつ有益費の請求または買取請求をすることができないものについて、賃借期間を耐用年数とすることができます(国税庁タックスアンサーNo.5406)。定期借家であっても再契約に関する条項や造作買取請求権の扱いによっては要件を満たさないことがありますので、契約条項を確認してください。会計上の耐用年数は別途、造作を使い続ける期間で判断します。

Q7.店舗ごとに判断が違ってもよいのですか。

契約と実態が違えば結論が違うのは当然です。ただし、同じ契約類型・同じ業態で結論が分かれると、監査上は判断の一貫性を問われます。契約類型別の標準的な判断を先に定め、そこから外れる店舗だけ個別に理由を記録する運用が現実的です。

📄 まとめ

店舗の出店コストは、相手方と支配の所在で5つの箱に分かれます。貸主に払う固定賃料と、返還されない保証金、建設協力金の差額は使用権資産へ。自分で作った造作と居抜きで買った造作は建物附属設備へ。土地に定着した看板は構築物へ。持ち出せる機器は器具備品へ。共益費と歩合賃料は費用へ。

迷いやすいのは、居抜きの造作譲渡代金(前テナントとの売買であってリースではない)、壁面看板の掲出料(リースに該当しうるが簡便処理の余地がある)、歩合賃料(リース負債に含めない)の3つです。この3つの整理を先に固めておけば、店舗数が増えても運用は崩れません。

そして、多店舗展開の会社にとって本当に重要なのは、個別の結論よりも判断をルール化して回せる状態にすることです。契約類型の分類、支出項目マスタ、リース期間と耐用年数の判断基準。この3つを先に決めてから店舗データを流し込むと、決算期の負荷が大きく下がります。

🔗 参考(公的な一次情報)

  • 企業会計基準委員会「企業会計基準第34号 リースに関する会計基準」(2024年9月13日)
  • 企業会計基準委員会「企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針」(2024年9月13日)
  • 企業会計基準委員会「企業会計基準第18号 資産除去債務に関する会計基準」
  • EY新日本有限責任監査法人「不動産に係る新リース基準の実務ポイント 第1回 一般事業会社における借手の実務論点」(経営財務 寄稿記事)
  • IFRS解釈指針委員会 アジェンダ決定「Lease Term and Useful Life of Leasehold Improvements(IFRS 16 and IAS 16)」(2019年11月)
  • 国税庁 タックスアンサーNo.5406「他人の建物に対する造作の耐用年数」
  • 国税庁 タックスアンサーNo.5404「中古資産の耐用年数」
  • 国税庁 タックスアンサーNo.5387「販売費及び一般管理費の損金算入時期」
  • 国税庁「減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一」
  • 国税庁「法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」(令和7年6月30日付 課法2-7ほか1課共同)

本記事は公認会計士・税理士が、会計基準・適用指針および公表資料に基づいて作成しています。制度は今後の実務対応報告やQ&A等により補足される可能性があります。個別の会計処理・税務判断の最終決定にあたっては、専門家にご相談ください。

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