オフィス内装のどこまでが使用権資産か?A工事・B工事・C工事で切り分ける

本社を移転すると、内装工事の請求書が何十枚も出てきます。間仕切り、電気配線、空調の増設、OAフロア、サインボード、什器。合計すると1億円を超えることも珍しくありません。新リース会計基準(企業会計基準第34号)を適用した年度に、経理が最初にぶつかるのが「この1億円は使用権資産なのか、建物附属設備なのか」という問いです。新リース会計基準の全体の流れは新リース会計基準(企業会計基準第34号)完全ガイドで整理しています。

結論を先に書くと、内装工事の大半は使用権資産ではなく、借手自身の有形固定資産(建物附属設備・器具備品)です。使用権資産に入るのは、リース負債と、貸主に払った前払リース料、付随費用、資産除去債務に対応する除去費用だけで、自分で発注して自分が使う造作の工事代金はそこに含まれません。

ただし実務が難しいのは、この原則がきれいに当てはまらない支出が必ず混ざるからです。とくにB工事の負担金と貸主から受け取る工事費負担金は、監査法人と見解が割れやすい二大論点です。この記事では、実際の工事区分表を模した事例を使って、1件ずつ行き先を決めていきます。

なお、原状回復義務に係る資産除去債務をどちらに加算するかという論点は、原状回復の資産除去債務は使用権資産か建物附属設備かで扱っています。本記事は、その前段にあたる「そもそも何が使用権資産で、何が建物附属設備なのか」を整理するものです。また、拠点ごとに判定せず方針で決めるための根拠は資産除去債務は使用権資産と建物附属設備のどちらに寄せるかで整理しています。

内装工事はどの資産になるか工事の区分と発注者を確かめる貸主が発注し貸主が所有する工事か使用権資産に含まれるはいいいえ借主が発注し借主が所有する工事か自社の有形固定資産として計上はいいいえ費用の負担と所有が一致しないか契約の内容から判断するはいいいえ工事の契約書で区分の根拠を確かめる

図 内装工事の資産の区分の判定

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🏢 事例|本社移転プロジェクトの工事区分表

次のような事例で考えます。数値は説明のために設定した架空のものです。

当社(3月決算・IPO準備会社)は、X1年4月に本社を移転した。賃貸借契約は普通借家、契約期間5年、更新可。賃借面積は800坪。原状回復義務は「借主が施工した造作の撤去およびスケルトン返し」と定められている。移転に伴う支出は、工事費が総額1億1,100万円、これに敷金5,000万円の差入れと貸主からの援助金900万円の受領を伴う。内訳は工事区分表のとおりである。

工事区分 内容 発注者 費用負担 金額
A工事 ビル共用部の消防設備・外壁改修 貸主 貸主 ―(賃料に内包)
B工事 専有部の空調増設、分電盤増設、防災設備の移設 貸主(施工は指定業者) 当社 3,400万円
C工事 間仕切り、造作壁、内装仕上げ、OAフロア、電源二次側配線 当社 当社 5,800万円
C工事 執務用デスク・チェア・会議室モニター 当社 当社 1,900万円
― 敷金(うち20%は契約上返還されない) ― 当社 5,000万円
― 貸主からの移転費用援助金 ― 貸主から受領 △900万円

A工事・B工事・C工事という区分は、不動産・オフィス移転の商慣習上の区分であり、法令や会計基準に定義があるわけではありません。契約書に添付される工事区分表が唯一の一次資料になります。

図1 工事区分と資産の行き先 A工事 貸主が発注・負担 B工事 貸主が発注・当社が負担 C工事 当社が発注・負担 借手に支出が生じない 工事費は賃料水準に織り込まれる 最大の論点 自社資産か、前払リース料か 当社が支配する資産 迷いは少ない 借手側の資産計上なし 建物附属設備 または使用権資産 建物附属設備・器具備品 判定の起点は「誰が発注し、誰が負担し、誰がその資産を支配するか」

A工事とC工事は結論が動きにくい一方、B工事だけが会計上の見解が分かれます。

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📄 出発点|使用権資産の中身は、基準第33項が決めている

切り分けの議論は、印象論ではなく条文から始めます。企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」第33項は、使用権資産の当初測定を次のように定めています。

借手は、リース開始日に、第34項に従い算定された額によりリース負債を計上する。また、当該リース負債にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用及び資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により使用権資産を計上する。

企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」第18項も、同じ内容を繰り返しています。つまり基準第33項が定める当初測定の構成要素は、次の5つです。

図2 使用権資産の当初測定を構成する5要素(基準第33項) リース負債 未払リース料の現在価値 + 既払リース料 開始日までに支払った分 + 付随費用 仲介手数料など + 除去費用 資産除去債務に 対応する部分 − リース・ インセンティブ 受け取った額 この5つのどこにも「自分で発注した内装造作の工事代金」は入っていない = 借手が支配する造作は、借手自身の有形固定資産として別に計上する

条文の構造を押さえると、内装造作が使用権資産に入らない理由は形式的に説明できます。

これに加えて、適用指針第33号は、返還されないことが契約上定められている敷金や差入預託保証金、建設協力金等に係る一定の金額を使用権資産の取得価額に含めると定めています(第29項、第32項、第34項)。ただしこれらはいずれも貸主に対する支払に係るものであり、借手が第三者に発注した内装造作の工事代金は、どこにも登場しません。

ここで注意したいのは、「付随費用」の解釈です。付随費用はリース取引そのものに付随して生じるコスト、たとえば仲介手数料や契約に係る事務費用を指すものであって、借手が第三者に発注した内装工事の請負代金を付随費用として使用権資産に取り込む、という読み方はできません。内装造作は、リースされた建物とは別に借手が新たに取得した資産だからです。

裏づけ|基準は造作の耐用年数を、リース期間とは別物として扱っている

この整理は、基準の体系からも確認できます。基準第38項は、所有権移転が認められないリースの使用権資産について、原則として借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして減価償却すると定めています。もし内装造作が使用権資産の一部なら、造作の償却期間は自動的にリース期間と一致するはずです。

ところが適用指針の結論の背景は、造作した附属設備の耐用年数と借手のリース期間が「整合する場合」と「整合しない場合」の両方がありうるという前提で議論を組み立てています。EY新日本有限責任監査法人の解説は、この箇所を適用指針BC34項(2)②として引用し、リース期間中の除去とリース期間後の使用を見込んでいない場合には附属設備の耐用年数が借手のリース期間と整合し、リース期間後の使用を見込んでいる場合には整合しないと考えられる、と説明しています。

耐用年数が「整合しない」ケースが観念されているということは、造作が使用権資産とは別個の資産として認識されていることの裏返しです。監査法人に説明する際、条文の直接的な根拠に加えてこの体系的な整合性を示せると、議論が早く収束します。

🔍 判定の3つの問い|監査法人が実際に聞いてくること

個別の支出を1件ずつ振り分けるとき、次の3つを順に確認すると判断がぶれません。

図3 支出の行き先を決める3つの問い 問1 その支出の相手方は、貸主か。それとも第三者(工事業者・前テナント)か。 第三者への支払 リース取引の対価ではない 貸主への支払 リース料・敷金・保証金の可能性 問2 完成した資産を支配しているのは、当社か、貸主か。 問3 その資産は、賃借した建物そのものか。それとも当社が新たに付加したものか。

3つとも「当社・第三者・付加したもの」に寄れば自社資産、「貸主・貸主・建物そのもの」に寄れば使用権資産です。

問1|支出の相手方は誰か

使用権資産に含まれる「借手のリース料」は、原資産を使用する権利に関して貸主に対して行う支払です。基準第20項は借手の固定リース料を「借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払」であり借手の変動リース料以外のものと定義し、第21項も同じ書き出しで借手の変動リース料を定義しています。いずれも貸手に対する支払を前提としており、リース料の概念が貸主向けの支払を想定していることが読み取れます。したがって、内装業者に払う請負代金は、そもそもリース料の構成要素になりません。

問2|完成した資産を支配しているのは誰か

会計上の資産計上は、法的所有権ではなく経済的資源に対する支配で判断します。自社の業務のためだけに設計された造作を、自社の負担で作り、リース期間を通じて排他的に使い、退去時に自社の費用で撤去する。この状態であれば、その造作を支配しているのは借手です。造作の所有権が民法上どちらに帰属するかは、賃借権という権原に基づく付属といえるか、造作が建物から独立性を有するかによって判断が分かれますが、仮に所有権が貸主に帰属すると整理される場合であっても、会計上の結論は変わりません。

問3|賃借した建物そのものか、付加したものか

リースの対象は「特定された資産」です。適用指針第6項はサプライヤーの実質的な代替権について定め、第7項は資産の稼働能力の一部分について、物理的に別個のものでない場合には原則として特定された資産に該当しないが、当該資産の稼働能力のほとんどすべてを使用でき経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している場合には特定された資産に該当すると定めています。

賃貸借契約が特定しているのは「ビルの◯階の専有部分」であって、その後に借手が付加した間仕切りや配線は、契約締結時点の特定された資産には含まれていません。あとから自分で足したものは、借りているものではない。これが最も直感的で、監査の場でも通りやすい説明です。

📊 工事区分ごとの結論

3つの問いを事例に当てはめると、次のようになります。

区分 発注・負担・所有 会計上の取扱い 理由
A工事 貸主が発注・負担し、貸主が所有 借手は資産計上しない 借手に支出がないため、借手側で認識すべき資産は生じない。工事費が賃料水準に織り込まれている場合は、その賃料が借手のリース料としてリース負債と使用権資産の測定に含まれる
B工事 貸主が発注し借手が負担。所有権は貸主に帰属することが多い 建物附属設備(自社資産)とする実務が一般的。ただし前払リース料と整理する余地もある 下記のとおり見解が分かれる。契約と工事の実態で決める
C工事(造作) 借手が発注・負担し、借手が支配 建物・建物附属設備 賃借建物に借手が付加した資産であり、リースの対象ではない
C工事(什器) 借手が発注・負担し、借手が所有 器具及び備品 建物への付合がなく、移設・持ち出しが可能
敷金 貸主に差し入れ 返還される部分は取得原価で資産計上、返還されない部分は使用権資産に算入 適用指針第33項・第34項
移転費用援助金 貸主から受領 リース・インセンティブとして使用権資産から控除 基準第33項

工事区分表は手元にありますか

これが無いと判断が始まりません。無い場合は貸主か施工会社から取り寄せることになります。状況をお聞かせいただければ、何を依頼すればよいかをお伝えします。

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🔎 掘り下げ|B工事の負担金3,400万円は、どちらなのか

B工事は、貸主が施工業者を選定して発注し、費用はテナントが負担する工事です。防災設備や空調・電気の一次側など、ビル全体の性能に影響する部分が対象になります。完成した設備の所有権は、商慣習上、貸主に帰属するものとして扱われることが一般的です。

ここに難しさがあります。お金を出したのは借手なのに、モノは貸主のものになる。この状態をどう会計に落とすかで、次の2つの見解が成り立ちます。

  見解A|借手の建物附属設備とする 見解B|前払リース料として使用権資産に含める
理屈 借手固有の仕様で施工され、借手がリース期間にわたり排他的に便益を受け、退去時に借手が撤去義務を負う。法的所有権にかかわらず借手が支配している 支払先が貸主であり、その支出が建物を使用する権利を得るための対価の一部といえる場合には、基準第33項の「リース開始日までに支払った借手のリース料」に該当する余地がある。貸主指定の業者に直接支払う形式のときは、実質的に貸主に対する対価と評価できるかを契約関係に即して検討する
償却 造作としての耐用年数(リース期間を超えることもある) 使用権資産としてリース期間で償却(基準第38項)
説得力が増す事実 工事内容が当社専用の仕様である/原状回復対象に含まれている/請負契約の当事者に当社が入っている/当社が仕様を決めている 賃貸借契約書の中で負担が定められている/原状回復対象から外れている/貸主が仕様を決め当社は関与していない/退去後も貸主が継続使用する
留意 撤去義務があるなら資産除去債務の計上対象になる 使用権資産に含めると、リース期間の見直し時に再測定の影響を受ける

実務でどちらが多いかといえば、見解Aが一般的です。B工事は多くの場合、テナントの業務要件から発生し、テナントが仕様を決め、退去時にはテナントが撤去します。そうであれば経済的な支配は借手にあり、借手の資産として計上するのが実態に合います。

ただし、たとえば「ビルの防災基準を満たすために貸主が指定した設備で、テナントは仕様に一切関与せず、退去時も撤去せずそのまま残す」といった工事は、性質としては貸主の建物への投資に近く、見解Bの説明のほうが自然になります。B工事という呼び名で一括りにせず、工事項目ごとに実態を見ることが必要です。

B工事の負担金は、金額が大きく、償却期間が変わると各期の費用も変わるため、監査上の指摘を受けやすい項目です。工事区分表と請負契約書、賃貸借契約の原状回復条項をセットで確認し、判断の根拠を文書化しておいてください。

とくに、契約書に「B工事の対象範囲」と「原状回復の対象範囲」が両方書かれていて、両者がずれている場合は要注意です。撤去義務の有無は支配の所在を示す有力な証拠になります。

💰 貸主から受け取る工事費負担金・移転費用援助金

事例では、貸主から移転費用の援助として900万円を受け取っています。基準第33項は「受け取ったリース・インセンティブを控除した額により使用権資産を計上する」と定めていますから、これがリース・インセンティブに当たるなら、使用権資産を900万円減らすことになります。

日本基準にはリース・インセンティブの定義がない

ここで実務家が戸惑うのが、企業会計基準第34号にも適用指針第33号にも、リース・インセンティブの定義規定が置かれていないことです。基準の用語の定義は第5項から第24項まで並んでいますが、リース・インセンティブはそこに含まれていません。EY新日本有限責任監査法人の解説も、リース・インセンティブについて明確な定義はないと明言しています。

定義がない以上、実務ではIFRS第16号の考え方を参照して判断することになります。IFRS第16号付録Aは、リース・インセンティブを、貸手が借手にリースに関連して行う支払、または貸手による借手のコストの弁済もしくは引受けと定義しています。移転費用の援助金は、リース契約を締結させるための実質的な値引きですから、この定義に素直に当てはまります。

図4 貸主からの工事費負担金をどう扱うか 貸主が、借手の工事費用の一部を負担した 完成した造作を支配しているのは、借手か、貸主か 借手が支配(借手の資産に計上) → リース・インセンティブに該当 使用権資産から控除(造作からではない) 貸主が支配(貸主の資産) → リース・インセンティブではない 貸主のための支出の補償として処理

IFRS第16号の考え方に基づく判定枠組みを、日本基準の実務に当てはめたものです。

実務上の落とし穴は、受け取った負担金を、造作の取得原価から控除してしまう処理です。基準第33項が控除先として指定しているのは使用権資産であり、借手の建物附属設備ではありません。造作から控除すると、造作の帳簿価額と償却費が過小になり、使用権資産が過大になります。金額が大きいと注記の数値にも影響します。

逆に、貸主が自らのビルの資産価値を高めるために行った工事の費用を借手が立て替え、あとで精算しただけであれば、それはリース・インセンティブではなく単なる立替金の回収です。その工事で作られた資産が誰の帳簿に乗るのかを先に決めてから、負担金の処理を決める。この順番を守ると混乱しません。

📅 敷金・保証金・建設協力金は、一部が使用権資産に入る

内装造作が使用権資産に入らない一方で、従来は別の科目で処理していたものが使用権資産に取り込まれます。適用指針第33号は、敷金と建設協力金等の差入預託保証金について次のように定めています。

項目 取扱い 根拠
将来返還される敷金 取得原価で計上する(第29項・第30項に準じた処理も可能) 適用指針第33項
返還されないことが契約上定められている敷金 使用権資産の取得価額に含める 適用指針第34項
将来返還される建設協力金等 支払額と時価(返済期日までのキャッシュ・フローの現在価値)との差額を使用権資産の取得価額に含める 適用指針第29項
返還されない差入預託保証金 使用権資産の取得価額に含める 適用指針第32項

事例では敷金5,000万円のうち20%、すなわち1,000万円が契約上返還されません。この1,000万円は使用権資産に加算し、リース期間にわたって償却されます。旧基準では長期前払家賃や長期前払費用として賃借予定期間で償却していた部分が、使用権資産に統合されるイメージです。

建設協力金については、旧基準では支払額と時価との差額を長期前払家賃として計上し契約期間にわたり配分していましたが、新基準では原則として使用権資産の取得価額に含めることになります。適用初年度の取扱いは基準および適用指針の経過措置の定めによりますので、移行方針の中であわせて整理してください。

⏱️ 償却期間|造作の耐用年数とリース期間は、双方向に影響し合う

資産の区分が決まると、次は償却期間です。使用権資産は基準第38項により、所有権移転が認められないリースでは原則としてリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとします。ここでいうリース期間は契約期間ではなく借手のリース期間ですから、事例の契約期間5年がそのままリース期間になるとは限りません。この点は後述します。

では、C工事で作った造作5,800万円は何年で償却するのか。ここで多くの会社が「賃貸借期間が5年だから5年」と即断しますが、実はもう少し丁寧な議論が必要です。

造作の存在が、リース期間を延ばすことがある

適用指針第17項は、借手のリース期間を決定する際に延長オプションの行使可能性を判断するうえで考慮する要因として、延長・解約オプションの契約条件、大幅な賃借設備の改良の有無、リースの解約に関連して生じるコスト、企業の事業内容に照らした原資産の重要性、オプションの行使条件を挙げています。

5,800万円をかけて内装を作り込んだ会社が、5年で捨てて出ていくでしょうか。撤去費用と再構築費用を考えると、更新するほうが経済合理的です。この経済的インセンティブが、リース期間を5年ではなく10年と判断させる方向に働きます。

IFRS第16号でも同じ構造が採られています。IFRS解釈指針委員会は2019年11月のアジェンダ決定「Lease Term and Useful Life of Leasehold Improvements」で、契約が強制可能かどうかは契約上の解約金だけでなく契約全体の経済性を踏まえて判断すべきであり、いずれかの当事者が解約すれば重要性が乏しいとはいえないペナルティを負うことになる場合には、契約は解約可能日を超えて強制可能となるとしています。解約可能日を超えて撤去不能な造作を使用すると見込んでいることは、そのようなペナルティの存在を示す要素になりえます。IFRS第16号B37項は、契約期間にわたって行われた(または行われると見込まれる)重要な賃借設備の改良で重要な経済的便益が見込まれるものを、経済的インセンティブを生じさせる要因として考慮するよう求めています。

そして、決まったリース期間が造作の耐用年数の上限になる

同じアジェンダ決定は、IAS第16号第56項(d)が関連するリースの満了日のような資産の使用に対する法的またはこれに類する制限を考慮すべきとしていること、第57項が耐用年数は企業にとっての予想される有用性を反映することを踏まえ、リース期間を超えて造作を使用する見込みがない場合には、撤去不能な造作の耐用年数はリース期間と同じになると結論づけました。

図5 造作とリース期間は一方通行ではない 大幅な内装造作の存在 撤去・再構築のコストが大きい 借手のリース期間 延長オプションを行使するか ① 経済的インセンティブとして働き、期間を延ばす ② 決まった期間が、造作の耐用年数の上限になる 先に造作の耐用年数を決め、それに合わせてリース期間を決めるのは順序が逆 まずリース期間を判断し、そのうえで造作を使い続ける見込みがあるかを問う

監査法人が最も丁寧に見るのがこの順序です。結論だけでなく検討の順番を残しておくと説明が通ります。

逆に、リース期間を超えて造作を使用する見込みがあるとき、たとえば更新後も同じ内装を使い続ける前提であれば、造作の耐用年数がリース期間より長くなることもありえます。「造作の耐用年数=リース期間」は結論であって、前提ではありません。

🗒️ 税務|会計の区分がそのまま税務の区分になるわけではない

会計で建物附属設備に区分したものは、税務でも減価償却資産として償却します。ただし耐用年数の決め方は税務独自のルールに従います。

他人の建物に対する造作の耐用年数

国税庁のタックスアンサーNo.5406は、耐用年数の適用等に関する取扱通達1-1-3を根拠として、他人の建物に対する造作の耐用年数を次のように説明しています。原則として、その造作を一の資産として、造作した建物の耐用年数および造作の種類・用途・使用材質等を勘案して合理的に耐用年数を見積もります。ただし、建物附属設備に造作した場合には、その建物附属設備の耐用年数によって償却します。また、同一の建物についてされた造作は、その全部を一の資産として総合して耐用年数を見積もるものとされ、造作の種類別に見積もるのではありません。

例外として、賃借期間の定めがあり、その賃借期間の更新ができないもので、かつ有益費の請求または買取請求をすることができないものについては、賃借期間を耐用年数として償却できます。

事例の契約は普通借家で更新が可能です。この場合は例外に当てはまらないため、賃借期間5年での償却はできず、合理的な見積りによることになります。「契約期間で落とせる」と思い込んで申告し、後から否認されるケースがあります。

定期借家契約であっても、有益費請求権や造作買取請求権を排除する特約がなければ例外の要件を満たしません。契約書の条項まで確認してください。

建物附属設備の法定耐用年数

建物本体と切り離して償却する場合、減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一の建物附属設備の区分に当てはめます。オフィスで登場しやすいものを挙げます。

区分 細目 耐用年数
電気設備(照明設備を含む) 蓄電池電源設備 6年
電気設備(照明設備を含む) その他のもの 15年
給排水又は衛生設備及びガス設備 ― 15年
冷房、暖房、通風又はボイラー設備 冷暖房設備(冷凍機の出力が22kW以下のもの) 13年
冷房、暖房、通風又はボイラー設備 その他のもの 15年
可動間仕切り 簡易なもの 3年
可動間仕切り その他のもの 15年
消火、排煙又は災害報知設備及び格納式避難設備 ― 8年
店用簡易装備 ― 3年

オフィス内装工事は、電気設備・空調設備・給排水設備・可動間仕切りなど建物附属設備に区分されるものが金額の大半を占めることが多く、その部分は上表の法定耐用年数によることになります。合理的な見積りの対象になるのは、建物本体に対する内部造作です。工事内訳書を金額ベースで建物・建物附属設備・器具備品に分解した資料を残しておくと、税務調査での説明が容易になります。

使用権資産の減価償却費は損金になるのか

ここは令和7年度に整理が進んだ論点です。国税庁が令和7年6月30日付で公表した法人税基本通達等の一部改正では、法人税基本通達7-5-3が新設され、法人税法第64条の2第1項に規定するリース資産について、確定決算において使用権資産の減価償却費として経理した金額は、法人税法第31条第1項の「その償却費として損金経理をした金額」に含まれることが明らかにされました。

ただしこれは、税務上のリース取引に該当する場合の話です。通常のオフィスの賃貸借は税務上のリース取引には当たらず、引き続き賃貸借として扱われます。したがって税務上の損金は支払賃料のうち債務が確定した金額であり、会計上の使用権資産の減価償却費とリース負債に係る利息相当額は、いったん加算したうえで支払賃料を減算する申告調整が必要になります。この差異は将来解消するため、税効果会計の対象になります。

新リース会計基準は2027年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する事業年度の期首からの早期適用が認められています。税務側の対応は令和7年度改正で手当てされていますので、早期適用を検討する場合は会計と税務をセットで確認してください。

🧾 監査法人に説明するための証憑と論点整理

この論点は、結論そのものより結論に至る証拠が揃っているかで心証が決まります。監査対応で実際に求められる資料は、おおむね次のとおりです。

資料 何を立証するか
賃貸借契約書・覚書 契約期間、更新条項、原状回復の対象範囲、B工事の費用負担、貸主からの負担金の有無
工事区分表 A・B・C工事の範囲と発注者。会計上の区分の出発点になる
請負契約書・見積書・工事内訳書 発注者が誰か。工事項目ごとの金額。耐用年数の見積根拠
固定資産台帳 工事内訳と資産計上の紐付け。1本の請求書を複数資産に分けた根拠
原状回復見積書 資産除去債務の見積根拠。撤去対象と支配の所在の裏づけ
リース期間の判断メモ 延長オプションの行使可能性、賃借設備の改良の程度、移転コストの試算

ポジションペーパーを作る場合は、次の順序で書くと論理が飛びません。第一に、支出の一覧と相手方を示す。第二に、基準第33項の5要素に照らして、その支出が使用権資産の構成要素に当たるかを検討する。第三に、当たらないものについて、誰が支配しているかを事実で示す。第四に、区分した結果の償却期間を、適用指針第17項とIFRS解釈指針委員会の考え方に沿って説明する。第五に、税務上の耐用年数との差異と税効果を示す。

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鈴木佑也公認会計士税理士事務所では、IPO準備会社の新リース会計基準対応として、契約書と工事区分表の読み込みから資産区分の方針決定、監査法人への説明資料の作成までを支援しています。

❓ よくある質問

Q1.内装工事費を使用権資産に含めてはいけないのですか。

借手が自ら発注し支配している造作については、使用権資産に含めません。基準第33項が定める使用権資産の構成要素は、リース負債、リース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用、資産除去債務に対応する除去費用であり、そこからリース・インセンティブを控除したものです。第三者に支払う内装工事の請負代金は、このいずれにも該当しません。

Q2.B工事の負担金は必ず建物附属設備になりますか。

いいえ。実務では借手の建物附属設備とする例が多いのですが、貸主が仕様を決め、借手が原状回復義務を負わず、退去後も貸主が使い続ける工事であれば、貸主に対する前払リース料として使用権資産に含める整理も成り立ちます。B工事という区分名ではなく、工事項目ごとに支配の所在を確認してください。

Q3.貸主から受け取った工事費負担金は、造作の取得原価から引けばよいですか。

造作から引くのは適切ではありません。基準第33項は、受け取ったリース・インセンティブを使用権資産から控除すると定めています。造作から控除すると、造作の帳簿価額と減価償却費が過小になり、使用権資産が過大になります。

Q4.造作の耐用年数は賃貸借期間に合わせればよいですか。

会計上は、まず借手のリース期間を判断し、そのリース期間を超えて造作を使用する見込みがあるかを検討します。見込みがなければ耐用年数はリース期間と同じになり、見込みがあれば長くなることもあります。税務上は別途、耐用年数の適用等に関する取扱通達1-1-3の考え方によります。

Q5.敷金はすべて資産のまま残るのですか。

将来返還される部分は取得原価で計上しますが(適用指針第33項)、返還されないことが契約上定められている金額は使用権資産の取得価額に含めます(適用指針第34項)。償却20%といった条件がある契約では、その部分が使用権資産に移ります。

Q6.少額のリースや短期のリースも同じように処理するのですか。

適用指針第20項は短期リースについて、第22項は少額リースについて、基準第33項の定めにかかわらず借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用計上する簡便的な取扱いを認めています。短期リースは、リース開始日において借手のリース期間が12か月以内であり購入オプションを含まないリースをいいます(適用指針第4項(2))。

Q7.旧基準で長期前払費用に計上していた敷金の償却部分はどうなりますか。

新基準では使用権資産の取得価額に含めることになります。適用初年度の取扱いは基準および適用指針に置かれた経過措置の定めによりますので、既存契約に係る使用権資産とリース負債の算定方法の選択とあわせて、移行方針の中で整理してください。

内装のどこまでを使用権資産に含めるか決まっていますか

工事区分表と賃貸借契約をお送りいただければ、A工事・B工事・C工事のどこで線を引くかの判断と、その根拠をお返しします。オンライン面談にも対応しており、お問い合わせから2営業日以内にご返信します。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

📄 まとめ

オフィス内装の資産区分は、次の順で考えると迷いません。まず、支出の相手方が貸主か第三者かを分ける。次に、完成した資産を支配しているのが借手か貸主かを、仕様の決定権・排他的使用・原状回復義務の3点で確認する。そして、支配しているものは借手自身の建物附属設備・器具備品とし、貸主に対する支払と貸主から受け取った援助は使用権資産の測定に反映する。

A工事とC工事はこの手順でほぼ自動的に決まります。争点はB工事の負担金と貸主からの工事費負担金の2つに絞られますから、この2つについて契約条項と工事の実態を裏づける資料を先に揃えておけば、監査対応の大半は終わります。

そのうえで、造作の耐用年数とリース期間が双方向に影響し合うという構造を理解しておくことが重要です。大幅な内装造作はリース期間を延ばす方向に働き、決まったリース期間は造作の耐用年数の上限として機能します。結論だけでなく、この検討の順序を文書に残してください。

🔗 参考(公的な一次情報)

  • 企業会計基準委員会「企業会計基準第34号 リースに関する会計基準」(2024年9月13日)
  • 企業会計基準委員会「企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針」(2024年9月13日)
  • EY新日本有限責任監査法人「不動産に係る新リース基準の実務ポイント 第1回 一般事業会社における借手の実務論点」(経営財務 寄稿記事)
  • IFRS解釈指針委員会 アジェンダ決定「Lease Term and Useful Life of Leasehold Improvements(IFRS 16 and IAS 16)」(2019年11月)
  • 国税庁 タックスアンサーNo.5406「他人の建物に対する造作の耐用年数」
  • 国税庁「減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一」
  • 国税庁「法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」(令和7年6月30日付 課法2-7ほか1課共同)
  • 国税庁「令和7年度 法人税関係法令の改正の概要」

本記事は公認会計士・税理士が、会計基準・適用指針および公表資料に基づいて作成しています。制度は今後の実務対応報告やQ&A等により補足される可能性があります。個別の会計処理・税務判断の最終決定にあたっては、専門家にご相談ください。

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