1株当たり情報の注記は、上場準備会社が必ずつまずくところです。理由は2つあります。株式分割をすると過去の期にさかのぼって計算し直す必要があること、そして新株予約権があると潜在株式調整後の計算が必要になることです。
条文も3つに分かれています。1株当たり純資産額が財規68条の4、1株当たり当期純利益金額が95条の5の2、潜在株式調整後が95条の5の3です。
この記事では、3つの条文を確かめたうえで、記載例と、上場会社の実際の開示事例を示します。
- 1株当たり情報の3つの条文と、それぞれが求めるもの
- 株式分割をしたときの追加記載
- 潜在株式調整後を書かない3つのパターンと、その書き方
- 算定上の基礎の表の作り方
- 上場会社の実際の開示事例と、その読み方
図 1株当たり情報の注記の判定
📌 結論 3つの条文に分かれている
3つとも別の条文です。算定上の基礎まで書くのは下の2つで、純資産額のほうは条文上は金額だけです。
財務諸表等規則68条の4第1項は、一株当たり純資産額は、注記しなければならない、としています。これだけです。
95条の5の2第1項は、一株当たり当期純利益金額又は当期純損失金額及びその算定上の基礎は、注記しなければならない、としています。算定上の基礎まで求められています。
95条の5の3第1項は、潜在株式調整後一株当たり当期純利益金額及びその算定上の基礎は、前条の規定による注記の次に記載しなければならない、としています。順番まで決まっています。
括弧書きで潜在株式が定義されています。普通株式を取得することができる権利又は普通株式への転換請求権その他これらに準ずる権利が付された証券又は契約をいう、とされています。新株予約権、転換社債型新株予約権付社債がこれにあたります。
🧭 株式分割をしたとき
3つの条文それぞれに同じ第2項が置かれています。当事業年度中だけでなく、貸借対照表日後に行われた場合も対象です。
3つの条文それぞれの第2項に、同じ規定が置かれています。当事業年度又は貸借対照表日後において株式併合又は株式分割が行われた場合には、次に掲げる事項を注記しなければならない、というものです。
第1号が株式併合又は株式分割が行われた旨、第2号が前事業年度の期首に株式併合又は株式分割が行われたと仮定して算定されている旨です。
貸借対照表日後も対象に入っているところが重要です。決算後に株式分割を決議した場合も、この注記が要ります。上場準備会社では申請前に投資単位を調整するため分割することが多く、まさにここに当たります。
なお、第3項により、これらの事項は財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には記載を要しません。連結の注記に書きます。
📄 記載例
(1株当たり情報)
| 項目 | 前連結会計年度 | 当連結会計年度 |
|---|---|---|
| 1株当たり純資産額 | ◯◯円 | ◯◯円 |
| 1株当たり当期純利益 | ◯◯円 | ◯◯円 |
(注)1 当社は、2026年◯月◯日付で普通株式1株につき2株の割合で株式分割を行っております。前連結会計年度の期首に当該株式分割が行われたと仮定して1株当たり純資産額及び1株当たり当期純利益を算定しております。
2 潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、希薄化効果を有している潜在株式が存在しないため記載しておりません。
3 1株当たり純資産額の算定上の基礎は、以下のとおりであります。
純資産の部の合計金額/純資産の部の合計額から控除する金額(うち非支配株主持分)/普通株式に係る期末の純資産額/算定に用いられた期末の普通株式の数
4 1株当たり当期純利益の算定上の基礎は、以下のとおりであります。
親会社株主に帰属する当期純利益/普通株主に帰属しない金額/普通株式に係る親会社株主に帰属する当期純利益/期中平均株式数
会社名と数値は架空です。注記の順序は、金額の表、株式分割の旨、潜在株式調整後を書かない理由、算定上の基礎の表という流れが定型です。
算定上の基礎は表で示します。純資産額のほうは条文上は求められていませんが、実務ではほぼ必ず添えられています。読み手が検算できるようにするためです。
上場準備では、株式分割の遡及計算と潜在株式調整後の算定が同時に発生します。分割比率の反映範囲、希薄化効果の判定、算定上の基礎の表づくり、監査法人への説明資料まで通してお受けします。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援を行っている公認会計士・税理士が直接対応します。初回のご相談は無料です。
📊 潜在株式調整後を書かないとき
書かない理由を必ず添えます。理由なしで空欄にすることはできません。
潜在株式調整後1株当たり当期純利益は、書かない場合のほうが多いくらいです。ただし、書かない理由を必ず添えます。
最も多いのが、希薄化効果を有している潜在株式が存在しない場合です。新株予約権はあるが、行使価額が期中平均株価を上回っているため、行使しても1株当たり利益が薄まらない。この場合がこれにあたります。
次に多いのが、当期純損失の場合です。損失のときは潜在株式が増えても1株当たり損失が小さくなるだけなので、希薄化を表しません。潜在株式は存在するものの、1株当たり当期純損失であるため記載しておりません、と書きます。
(1株当たり情報)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 1株当たり純資産額 | ◯◯円 |
| 1株当たり当期純損失 | ◯◯円 |
(注)1 潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、潜在株式は存在するものの、1株当たり当期純損失であるため記載しておりません。
2 1株当たり当期純損失の算定上の基礎は、以下のとおりであります。
親会社株主に帰属する当期純損失/普通株主に帰属しない金額/普通株式に係る親会社株主に帰属する当期純損失/期中平均株式数
会社名と数値は架空です。損失の期は当期純損失という表記に変わります。利益のままにしないよう気をつけてください。
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🏷 算定上の基礎の書き方
算定上の基礎の注記は、この手順をそのまま表にしたものです。分子と分母を示せば読み手が検算できます。
1株当たり当期純利益の算定上の基礎では、分子と分母を段階的に示します。親会社株主に帰属する当期純利益から、普通株主に帰属しない金額を引いて、普通株式に係る親会社株主に帰属する当期純利益を出す。これが分子です。
分母は期中平均株式数です。自己株式は除きます。株式分割があれば、前期の期首にさかのぼって調整した株式数を使います。
1株当たり純資産額のほうは、純資産の部の合計金額から控除する金額を引いて普通株式に係る期末の純資産額を出し、期末の普通株式数で割ります。控除するのは新株予約権、非支配株主持分、株式引受権です。
📁 実際の開示事例
株式分割を行い、潜在株式に希薄化効果がない例です。注記の順序が定型どおりです。
(1株当たり情報)
1株当たり情報 項目 前連結会計年度 当連結会計年度 1株当たり純資産額 955.85円 1,087.63円 1株当たり当期純利益 192.98円 200.34円 (注)1.当社は、2025年3月1日付で普通株式1株につき2株の割合で株式分割を行っております。前連結会計年度の期首に当該株式分割が行われたと仮定して1株当たり純資産額及び1株当たり当期純利益を算定しております。
2.潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、希薄化効果を有している潜在株式が存在しないため記載しておりません。
3.1株当たり純資産額の算定上の基礎は、以下のとおりであります。
1株当たり純資産額の算定上の基礎 項目 前連結会計年度 当連結会計年度 純資産の部の合計金額 10,168,769千円 11,559,730千円 純資産の部の合計額から控除する金額(いずれも非支配株主持分) 74,273千円 106,587千円 普通株式に係る期末の純資産額 10,094,495千円 11,453,142千円 算定に用いられた期末の普通株式の数 10,560,726株 10,530,276株 4.1株当たり当期純利益の算定上の基礎は、以下のとおりであります。
1株当たり当期純利益の算定上の基礎 項目 前連結会計年度 当連結会計年度 親会社株主に帰属する当期純利益 2,048,962千円 2,114,211千円 普通株主に帰属しない金額 なし なし
出典:株式会社構造計画研究所ホールディングス「有価証券報告書」(2026年6月期、2026年9月4日提出)連結財務諸表 注記事項(連結)(1株当たり情報) ※算定上の基礎の一部を抜粋しています
▶ 読み方 3つの点が参考になります。第1に、株式分割の日付と分割比率を明記し、前連結会計年度の期首にさかのぼって算定した旨を書いていること。第2に、潜在株式調整後を記載しない理由を、潜在株式がないのではなく希薄化効果を有している潜在株式が存在しないと正確に書いていること。第3に、純資産額の算定上の基礎で、控除する金額の内訳として非支配株主持分を括弧書きで示していることです。
⚖️ 上場準備での論点
上場準備で最も多い誤りは、株式分割の遡及範囲です。Ⅰの部には最近2期分の財務諸表を載せますから、分割の影響は両方の期に及びます。片方だけ調整して不整合を起こす例をよく見ます。
次に多いのが、主要な経営指標等の推移との不整合です。有価証券報告書の冒頭にある5期分の推移表にも1株当たり情報が載ります。こちらも分割を反映した数値に直す必要があります。注記だけ直して推移表を直し忘れる例が出ます。
新株予約権を発行している会社は、希薄化効果の判定を毎期行ってください。行使価額が期中平均株価を下回れば希薄化効果が生じ、潜在株式調整後の記載が必要になります。株価が上がった期に初めて記載が必要になることがあります。
❓ よくある質問
A. 1株当たり純資産額、1株当たり当期純利益金額または当期純損失金額、潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額の3つです。財規68条の4、95条の5の2、95条の5の3です。
A. 条文で求められているのは当期純利益と潜在株式調整後です。実務では純資産額にも添えるのが通例です。
A. 分割が行われた旨と、前事業年度の期首に行われたと仮定して算定している旨を書きます。貸借対照表日後の分割も対象です。
A. 理由を添えます。潜在株式が存在しない、希薄化効果を有する潜在株式が存在しない、当期純損失である、の3パターンです。
A. 普通株式を取得することができる権利や転換請求権が付された証券または契約です。新株予約権や転換社債型新株予約権付社債が該当します。
A. 含めません。自己株式を除いた株式数を使います。
A. 新株予約権、非支配株主持分、株式引受権です。内訳を括弧書きで示すのが通例です。
A. 連結財務諸表を作成している場合、個別では記載を要しません。各条文の第3項です。
📄 まとめ
1株当たり情報は3つの条文に分かれています。純資産額が68条の4、当期純利益が95条の5の2、潜在株式調整後が95条の5の3です。
株式分割をしたら、行われた旨と、前期の期首にさかのぼって算定した旨を書きます。決算日後の分割も対象です。
潜在株式調整後を書かないときは、必ず理由を添えてください。理由は3パターンあります。
上場準備では、注記と主要な経営指標等の推移の両方を分割後の数値に直すことを忘れないでください。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事に掲載した実際の開示事例は、各社が金融商品取引法にもとづき公衆縦覧に供している有価証券報告書からの引用です。設例として示した文例は、条文の記載事項を確認するために当事務所が作成したもので、会社名と数値は架空です。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の注記の作成にあたっては、監査法人にご確認ください。
📚 参考(公的な一次情報)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索) 68条の4、95条の5の2、95条の5の3
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索)
- 企業会計基準委員会(ASBJ) 1株当たり当期純利益に関する会計基準および適用指針
- EDINET(金融庁) 引用した有価証券報告書はここで閲覧できます
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