関連当事者との取引の注記の記載例|4つの型と上場会社の開示事例

関連当事者との取引の注記は、上場審査でいちばん最初に見られる注記です。オーナーや役員の身内との取引が、会社の利益を外に流していないかを見るためのものだからです。

書くことは財規8条の10第1項に10の号として並んでいます。相手が会社か個人か、取引の内容、金額、取引条件の決定方針、期末残高。この順に書きます。

この記事では、条文の号を確かめたうえで、型ごとの記載例と、上場会社の実際の開示事例を示します。

この記事でわかること

  • 財規8条の10第1項が求める10の号
  • 誰が関連当事者にあたるか
  • 注記が要らない取引(役員報酬はここに書かない)
  • 賃借、外注、資金貸借、債務保証の4つの型の記載例
  • 上場会社の実際の開示事例と、その読み方
  • 上場準備で取引を整理する手順
どの型の記載例を使うか取引の相手方の区分を特定する親会社や法人の主要株主との取引か会社等を相手とする型はいいいえ役員や個人の主要株主との取引か個人を相手とする型はいいいえ役員の近親者が支配する会社との取引か近親者が支配する会社の型はいいいえ型に応じた記載例を選んで書く

図 関連当事者との取引の記載例の選び方

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📌 結論 関連当事者ごとに10の号を書く

図1 財規8条の10第1項が求める10の号号記載事項第1号関連当事者が会社等の場合 名称、所在地、資本金または出資金、事業の内容、議決権の所有割合または被所有割合第2号関連当事者が個人の場合 氏名、職業、議決権の所有割合第3号当社と当該関連当事者との関係第4号取引の内容第5号取引の種類別の取引金額第6号取引条件および取引条件の決定方針第7号取引により発生した債権債務に係る主な科目別の期末残高第8号取引条件の変更があった場合 その旨、変更の内容、財務諸表に与えている影響の内容第9号債権が貸倒懸念債権または破産更生債権等に区分されている場合 貸倒引当金残高、繰入額等、貸倒損失等第10号貸倒引当金以外の引当金が設定されている場合 前号に準ずる事項

第1号から第7号までが基本です。第8号以降は該当する場合だけ書きます。関連当事者ごとに書きます。

財務諸表等規則8条の10第1項は、財務諸表提出会社が関連当事者との取引を行っている場合には、その重要なものについて、次の各号に掲げる事項を関連当事者ごとに注記しなければならない、としています。

括弧書きが重要です。関連当事者が第三者のために当社との間で行う取引、および当社と第三者との間の取引で関連当事者が当社に重要な影響を及ぼしているものも含まれます。名義が第三者でも実質で判定します。

そして但し書きにより、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合は、個別では書きません。連結の注記に書きます。

第4項により、第1項に掲げる事項は様式第一号により注記します。実務で見かける表形式は、この様式にもとづくものです。

自社に当てはめるとどうなるか、個別にお答えします

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🧭 誰が関連当事者か

図3 関連当事者の主な種類(財規8条17項)種類具体例親会社当社の議決権の過半数を持つ会社子会社当社が議決権の過半数を持つ会社同一の親会社をもつ会社等いわゆる兄弟会社その他の関係会社とその親会社および子会社当社を持分法適用にしている会社の系列関連会社およびその子会社持分法適用会社の系列主要株主およびその近親者10%以上を持つ株主とその近親者役員およびその近親者取締役、監査役とその近親者親会社の役員およびその近親者親会社の取締役、監査役とその近親者上記の者が議決権の過半数を持つ会社等とその子会社オーナーの資産管理会社など従業員のための企業年金厚生年金基金、企業年金基金など

上場準備でとくに問題になるのは、下の3つです。役員とその近親者、そして役員の資産管理会社です。

関連当事者の範囲は財規8条第17項に列挙されています。親会社、子会社、兄弟会社、関連会社といった資本関係のほか、主要株主とその近親者、役員とその近親者が入ります。

上場準備でつまずくのは、役員の近親者が議決権の過半数を持つ会社です。オーナーの資産管理会社、配偶者が代表を務める会社、実家が営む会社。これらはすべて関連当事者です。

近親者とは、二親等内の親族を指すのが実務の理解です。配偶者、親、子、兄弟姉妹、祖父母、孫が入ります。

🚫 注記が要らない取引

図2 注記が要らない取引(第3項)号要らない取引第1号一般競争入札による取引、預金利息および配当の受取り、その他取引の性質からみて取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引第2号役員に対する報酬、賞与および退職慰労金の支払い

役員報酬はここでは書きません。役員報酬は別の注記と有価証券報告書のコーポレート・ガバナンスの状況で開示します。

財規8条の10第3項は、2つの取引について第1項の注記を要しないとしています。

第1号が、一般競争入札による取引ならびに預金利息および配当の受取りその他取引の性質からみて取引条件が一般の取引と同様であることが明白な取引です。

第2号が、役員に対する報酬、賞与および退職慰労金の支払いです。役員報酬をこの注記に書いている例をときどき見ますが、条文上は不要です。

📄 型1 役員の近親者の会社から不動産を借りている

設例1 オーナーの資産管理会社からの本社賃借

(関連当事者情報)

関連当事者との取引

財務諸表提出会社と関連当事者との取引

財務諸表提出会社の役員及び主要株主(個人の場合に限る。)等

関連当事者情報 役員及びその近親者が議決権の過半数を所有している会社
項目 内容
種類 役員及びその近親者が議決権の過半数を所有している会社
会社等の名称 株式会社◯◯(東京都◯◯区、資本金10百万円、不動産の賃貸)
議決権等の所有(被所有)割合 なし
関連当事者との関係 本社建物の賃借
取引の内容 本社建物の賃借料の支払
取引金額 24百万円
科目 前払費用
期末残高 2百万円

(注)取引条件及び取引条件の決定方針等

1 当社代表取締役◯◯が議決権の100パーセントを直接所有しております。

2 賃借料については、近隣の同種物件の賃料水準を参考に、双方協議のうえ決定しております。

会社名と数値は架空です。取引金額と期末残高を分けて書き、注記で決定方針を示すのが様式第一号の形です。

最も多い型です。オーナーが個人で持つ不動産、あるいは資産管理会社が持つ不動産を会社が借りているケースです。

ここで問われるのは賃料の水準です。近隣相場より高ければ利益の社外流出、安ければ役員に対する経済的利益の供与になります。不動産鑑定や近隣事例の資料を残してください。

📊 型2 役員の近親者の会社に外注している

設例2 役員の近親者が経営する会社への業務委託

(関連当事者情報)

関連当事者情報 役員の近親者が議決権の過半数を所有している会社
項目 内容
種類 役員の近親者が議決権の過半数を所有している会社
会社等の名称 株式会社◯◯(東京都◯◯区、資本金5百万円、システム開発)
議決権等の所有(被所有)割合 なし
関連当事者との関係 システム開発の外注
取引の内容 システム開発の委託
取引金額 18百万円
科目 買掛金
期末残高 3百万円

(注)取引条件及び取引条件の決定方針等

1 当社取締役◯◯の近親者が議決権の100パーセントを直接所有しております。

2 取引条件については、他の外注先への発注条件を参考に、市場価格を勘案して決定しております。

会社名と数値は架空です。取引条件の決定方針には、何と比べて決めたかを書きます。相見積りの有無が問われます。

外注の場合、価格の妥当性は相見積りで示すのが最も分かりやすい方法です。相見積りを取っていないなら、なぜその会社でなければならないのかを説明できるようにしてください。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援と内部統制の整備支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

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🏷 型3 役員に資金を貸している、借りている

設例3 役員貸付金

(関連当事者情報)

関連当事者情報 役員(資金の貸付)
項目 内容
種類 役員
氏名 ◯◯ ◯◯
職業 当社代表取締役
議決権等の所有(被所有)割合 被所有 直接62.0パーセント
関連当事者との関係 当社代表取締役
取引の内容 資金の貸付 取引金額10百万円 科目 短期貸付金 期末残高8百万円
取引の内容 利息の受取 取引金額0百万円 科目 未収入金 期末残高0百万円

(注)取引条件及び取引条件の決定方針等

1 資金の貸付については、市場金利を勘案して利率を合理的に決定しております。

2 取引金額には消費税等を含めておりません。

氏名と数値は架空です。個人が相手のときは第2号により、氏名、職業、議決権の所有割合を書きます。所在地や資本金は書きません。

役員貸付金は、上場審査では原則として解消を求められます。申請期の前に返済を完了させておくのが定石です。

解消できていない期の注記では、利率の決定根拠を必ず書いてください。無利息だと役員に対する経済的利益の供与になり、税務上も源泉徴収の論点が出ます。

🔀 型4 役員が会社の債務を保証している

設例4 代表取締役による債務保証

(関連当事者情報)

関連当事者情報 役員(債務被保証)
項目 内容
種類 役員
氏名 ◯◯ ◯◯
職業 当社代表取締役
議決権等の所有(被所有)割合 被所有 直接62.0パーセント
関連当事者との関係 当社代表取締役
取引の内容 当社の銀行借入に対する債務被保証
取引金額 200百万円

(注)取引条件及び取引条件の決定方針等

1 当社は、金融機関からの借入に対して、当社代表取締役◯◯より債務保証を受けております。

2 保証料の支払は行っておりません。

氏名と数値は架空です。債務被保証は取引金額だけを書き、科目と期末残高の欄は空欄になります。

オーナーによる債務保証も、上場までに解除するのが原則です。金融機関との交渉が必要になるため、早めに着手してください。

保証料を支払っていない場合はその旨を書きます。逆に支払っている場合は、料率の決定根拠が問われます。

📁 実際の開示事例

まず、役員の近親者の会社から店舗を借りている例です。

実際の開示事例1 株式会社コスモス薬品(証券コード3349)

【関連当事者情報】

関連当事者との取引 連結財務諸表提出会社と関連当事者との取引 連結財務諸表提出会社の役員及び主要株主等

関連当事者情報 役員の近親者が議決権の過半数を所有している会社
項目 内容
種類 役員の近親者が議決権の過半数を所有している会社
会社等の名称 合同会社クロード(福岡市博多区、資本金3百万円、不動産の売買、賃貸及びその仲介、斡旋、管理)
議決権等の所有(被所有)割合 -
関連当事者との関係 不動産の賃借
取引の内容 店舗賃借料の支払
取引金額 138百万円
科目 前払費用
期末残高 12百万円

(注)1 取引条件及び取引条件の決定方針等

当社取締役の近親者が議決権の100パーセントを直接所有しております。

賃借料については、所在地付近の平均的な賃料を参考に決定しております。

価格その他の取引条件は、市場価格を勘案し、双方協議の上決定しております。

出典:株式会社コスモス薬品「有価証券報告書」(2026年5月期、2026年8月26日提出)連結財務諸表 注記事項(連結)【関連当事者情報】 ※取締役の氏名は省略しています

▶ 読み方 賃借料の決定方針を2段構えで書いているのが要点です。所在地付近の平均的な賃料を参考にした、そのうえで市場価格を勘案して双方協議で決めた。この2つを書くと、社内で恣意的に決めた金額ではないことが伝わります。前連結会計年度と当連結会計年度の両方を並べて開示しています。

次に、取引を解消した例です。前期に取引があり、当期は該当なしになっています。

実際の開示事例2 株式会社インターアクション(証券コード7725)

【関連当事者情報】

前連結会計年度(自 2024年6月1日 至 2025年5月31日)

1.連結財務諸表提出会社と関連当事者との取引 連結財務諸表提出会社の役員及び主要株主(個人の場合に限る。)等

関連当事者との取引(前連結会計年度)
項目 内容
種類 役員の近親者が議決権の過半数を所有している会社
会社等の名称 P2GM株式会社(東京都千代田区、資本金10,000千円、情報提供サービス業)
議決権等の所有(被所有)割合 なし
関連当事者との関係 営業支援サービス
取引の内容 マーケティング支援業務
取引金額 13,802千円
科目 流動負債(その他)
期末残高 38千円

(注)1 上記の金額のうち、取引金額には消費税等が含まれておらず、期末残高には消費税が含まれております。

2 取引条件及び取引条件の決定方針等

当社代表取締役社長の近親者が議決権の59.5パーセント(間接保有14.45パーセントを含む)を保有しております。

取引条件は第三者との取引条件に準じて決定しております。

当連結会計年度(自 2025年6月1日 至 2026年5月31日)

該当事項はありません。

出典:株式会社インターアクション「有価証券報告書」(2026年5月期、2026年8月27日提出)連結財務諸表 注記事項(連結)【関連当事者情報】

▶ 読み方 議決権の割合に間接保有分を含めて書き、その内訳まで示しているのが要点です。過半数かどうかは間接保有を含めて判定します。当連結会計年度が該当事項はありませんとなっているのは、取引を解消したためです。上場準備会社が目指すのはこの形です。

⚖️ 上場準備での整理手順

図4 上場準備での関連当事者取引の整理手順役員、主要株主、その近親者の一覧を作る近親者が議決権の過半数を持つ会社を洗い出す(資産管理会社、実家の会社など)その相手との取引を洗い出す(賃借、外注、資金貸借、債務保証)取引の必要性と取引条件の妥当性を検証する必要性がなければ解消する。残すなら条件の根拠資料を整える

審査で最初に見られるところです。解消できるものは申請期の前に終わらせておくのが定石です。

審査で見られるのは、注記の書き方そのものより、取引が残っている理由です。会社にとって必要な取引か、条件は妥当か、この2点に答えられるかどうかです。

答えられないなら解消してください。オーナーの資産管理会社からの賃借は、本社が本当にその物件でなければならないかを問われます。

洗い出しの範囲を狭くしないでください。役員の近親者が持つ会社は、会社名からは分かりません。役員に確認票を配って申告してもらう運用を作ってください。

❓ よくある質問

Q. 関連当事者との取引には何を書きますか。

A. 相手の属性、当社との関係、取引の内容、取引金額、取引条件の決定方針、期末残高などです。財規8条の10第1項の10の号です。

Q. 役員報酬は書きますか。

A. 書きません。財規8条の10第3項第2号により、役員に対する報酬、賞与および退職慰労金の支払いは注記を要しません。

Q. 近親者はどこまでですか。

A. 二親等内の親族を指すのが実務の理解です。配偶者、親、子、兄弟姉妹、祖父母、孫が入ります。

Q. 議決権の割合は間接保有を含めますか。

A. 含めて判定します。開示事例でも間接保有分を含めた割合と、その内訳を書いている例があります。

Q. 連結と個別の両方に書きますか。

A. 連結財務諸表を作成している場合、個別では書きません。第1項但し書きです。

Q. 債務保証はどう書きますか。

A. 取引の内容に債務被保証と書き、取引金額に保証されている債務の額を書きます。科目と期末残高は空欄になります。

Q. 取引がなくなったときは。

A. 該当事項はありませんと書きます。前期に取引があれば前期の分は残して開示します。

Q. 重要性はどう判定しますか。

A. 条文は重要なものについて注記するとしています。金額基準は会社の規模で変わるため、監査法人と合意しておいてください。

📄 まとめ

関連当事者との取引で書くのは、相手の属性、関係、取引の内容と金額、取引条件の決定方針、期末残高です。関連当事者ごとに書きます。

役員報酬は書きません。第3項第2号で除かれています。

上場準備でつまずくのは、役員の近親者が議決権の過半数を持つ会社との取引です。資産管理会社、配偶者の会社、実家の会社。ここを漏らさず洗い出してください。

取引が残っているなら、必要性と条件の妥当性を説明できる資料を作ってください。説明できないものは、申請期の前に解消するのが定石です。

本記事に掲載した実際の開示事例は、各社が金融商品取引法にもとづき公衆縦覧に供している有価証券報告書からの引用です。設例として示した文例は、条文の記載事項を確認するために当事務所が作成したもので、会社名と数値は架空です。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の注記の作成にあたっては、監査法人にご確認ください。

📚 参考(公的な一次情報)

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