会計上の見積りの変更の注記は、変更の内容、当期に与えている影響額、そして翌期以降の影響額の3つを書きます。
会計方針の変更と違い、過去の期にさかのぼりません。累積的影響額も1株当たり情報への影響額も出てきません。
難しいのは、減価償却方法の変更のように、会計方針の変更と見積りの変更のどちらとも言える場合です。財規8条の3の6が別に用意されています。
- 財規8条の3の5が求める3つの号
- 会計方針の変更との見分け方
- 実務で起きる4つの型と、それぞれの記載例
- 区別することが困難な場合の書き方と、上場会社の実際の開示事例
- 翌期以降の影響額を書けないときの書き方
図 会計上の見積りの変更の記載例の選び方
この記事の見出し
📌 結論 書くのは3つだけ
当期の影響額(第2号)と翌期以降の影響額(第3号)は別ものです。ここを1つにまとめている注記をよく見かけます。
財務諸表等規則8条の3の5は、会計上の見積りの変更を行った場合には、次に掲げる事項を注記しなければならない、としています。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができます。
第1号が当該会計上の見積りの変更の内容、第2号が当該会計上の見積りの変更が財務諸表に与えている影響額です。
第3号は場合分けになっています。イは、当該会計上の見積りの変更が当事業年度の翌事業年度以降の財務諸表に影響を与える可能性があり、かつ、当該影響額を合理的に見積ることができる場合で、この場合は当該影響額を書きます。ロは、影響額を合理的に見積ることが困難な場合で、この場合はその旨を書きます。
🧭 会計方針の変更との見分け方
遡及するかどうかが決定的な違いです。見積りの変更は過去に戻りません。
決定的な違いは、過去の期にさかのぼるかどうかです。会計方針の変更は遡及適用して前期の数値を作り直します。会計上の見積りの変更は遡及しません。
ですから、見積りの変更では累積的影響額という概念が出てきません。前期の期首に戻って計算し直すことがないからです。
会計方針の変更の側は会計方針の変更の注記の記載例で整理しています。
📄 型1 耐用年数の変更
翌期以降を書けるかどうかは、変更の性質で決まります。耐用年数のように将来の減価償却費が計算できるものは書けます。
(会計上の見積りの変更)
当社は、本社の移転を決定したことにともない、移転後に利用見込みのない建物附属設備および構築物について、移転予定日までの期間で減価償却が完了するよう、当事業年度より耐用年数を変更しております。
この変更により、従来の方法によった場合に比べ、当事業年度の減価償却費は48百万円増加し、営業利益、経常利益および税引前当期純利益はそれぞれ同額減少しております。
なお、翌事業年度の減価償却費は、従来の方法によった場合に比べ62百万円増加する見込みであります。
会社名と数値は架空です。当期の影響額(第2号)と翌期の影響額(第3号イ)を段落を分けて書いています。ここを分けると読み手が迷いません。
耐用年数の変更は、翌期以降の減価償却費が計算できます。ですから第3号イにあたり、影響額を書けることが多いのが特徴です。
実務で最も多いのが、本社移転や設備の除却予定にともなう耐用年数の短縮です。移転の意思決定をした期に注記が発生します。
📊 型2 貸倒見積高の変更
(会計上の見積りの変更)
当社は、特定の債務者について、当事業年度において財政状態が悪化したことを示す情報を入手したため、当該債務者に対する債権の回収可能性を見直し、貸倒見積高を変更しております。
この変更により、当事業年度の貸倒引当金繰入額は135百万円増加し、営業利益、経常利益および税引前当期純利益はそれぞれ同額減少しております。
なお、当該変更が翌事業年度以降の財務諸表に与える影響額については、債務者の財政状態の推移によるため、合理的に見積ることが困難であります。
会社名と数値は架空です。最後の段落が第3号ロにあたります。困難である旨とあわせて、なぜ困難なのかを一言添えると説明になります。
貸倒見積高のように、将来の事象そのものが不確実なものは、翌期以降の影響額を合理的に見積ることができません。この場合が第3号ロです。
困難である旨だけを書いても条文は満たします。ただ、なぜ困難なのかを一言添えたほうが、読み手にも監査人にも伝わります。
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🏷 型3 引当金の見積りの変更
(会計上の見積りの変更)
当社は、製品保証引当金について、過去の保証費用の発生実績にもとづき見積っておりましたが、当事業年度において新たな不具合情報を入手したため、当該情報を織り込んで見積りを変更しております。
この変更により、当事業年度の製品保証引当金繰入額は27百万円増加し、営業利益、経常利益および税引前当期純利益はそれぞれ同額減少しております。
なお、当該変更が翌事業年度以降の財務諸表に与える影響額は、7百万円増加する見込みであります。
会社名と数値は架空です。見積りの前提が変わった経緯を書くと、変更が恣意的でないことが伝わります。
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🔀 型4 区別することが困難な場合
減価償却方法の変更が代表例です。方法を変えているので会計方針の変更ですが、遡及適用はしません。
財務諸表等規則8条の3の6は、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合には、次に掲げる事項を注記しなければならない、としています。
第1号が当該会計方針の変更の内容、第2号が当該会計方針の変更を行った正当な理由、第3号が当該会計方針の変更が財務諸表に与えている影響額です。
第4号は8条の3の5と同じ構造で、イが翌事業年度以降の影響額を合理的に見積ることができる場合の当該影響額、ロが困難な場合のその旨です。
代表例が減価償却方法の変更です。方法そのものを変えているので会計方針の変更ですが、その方法が将来の経済的便益の消費パターンの見積りに依存するため、見積りの変更と区別できません。ですから遡及適用はしません。
📁 実際の開示事例
減価償却の開始時期を見直した例を見てください。区別が困難な場合として開示されています。
(会計方針の変更)
(会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合の注記)
当社は、当連結会計年度の期首より生産設備の減価償却の開始時期について見直しを行い、従来の方法から変更しております。
従来は生産設備の検収日をもって量産開始とみなし、償却開始の基準としておりましたが、近年の市場環境の変化により、検収日から量産開始までに乖離が生じることが見込まれるため、より実態に即した量産開始時期をもって償却開始する方法に変更しております。
当該変更は、外部環境の変化や設備の使用実態を検討した結果、当社の状況に即しており適切であると判断しております。
以上の変更により、従来の方法によった場合に比べ、当連結会計年度の営業利益、経常利益及び税金等調整前当期純利益は210百万円増加しております。
出典:ダイト株式会社「有価証券報告書」(2026年5月期、2026年8月26日提出)連結財務諸表 注記事項(連結)(会計方針の変更)
▶ 読み方 見出しを2段構えにしているのが要点です。(会計方針の変更)の下に(会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合の注記)を置いています。従来どうだったか、なぜ変えたか、変更が適切だと判断した理由、影響額の順に並んでいます。遡及適用の記述がないのは、区別が困難な場合だからです。
⚖️ 影響額の書き方
第2号の影響額は、従来の方法によった場合と比べていくら変わったか、という書き方をします。当期の損益計算書のどの段階に効いたかまで書くのが実務の標準です。
営業利益に効いた変更なら、営業利益、経常利益、税引前当期純利益の3つが同額動きます。この3つを並べて書きます。
営業外や特別の項目に効いた変更なら、動く段階が変わります。どこから下が動くのかを確かめて書いてください。
🗒️ 翌期以降を書けないとき
第3号ロは、影響額を合理的に見積ることが困難な場合に、その旨を書くとしています。
困難というのは、変更の効果が将来の事象に左右されて計算できない場合です。貸倒見積高や訴訟損失引当金がこれにあたります。
逆に、耐用年数のように将来の償却費が機械的に計算できるものは、困難とは言えません。書けるのに書かないと注記の不備になります。
❓ よくある質問
A. 変更の内容、財務諸表に与えている影響額、翌事業年度以降の影響額または見積りが困難である旨の3つです。財規8条の3の5です。
A. しません。過去の期にさかのぼらず、当期以降で処理します。
A. 書きません。遡及しないため、その概念が出てきません。
A. 会計上の見積りの変更では求められていません。
A. 会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合として、財規8条の3の6により書きます。遡及適用はしません。
A. 合理的に見積ることが困難である旨を記載します。第3号ロです。
A. 変更が効いた段階から下をすべて書きます。営業利益に効いたなら営業利益、経常利益、税引前当期純利益の3つです。
A. 8条の3の5の但し書きにより省略できます。判断根拠は残してください。
📄 まとめ
会計上の見積りの変更で書くのは、変更の内容、当期の影響額、翌期以降の影響額または困難である旨の3つです。
会計方針の変更との違いは、遡及するかどうかです。見積りの変更は過去に戻りません。
減価償却方法の変更のように、どちらとも言える場合は財規8条の3の6です。会計方針の変更として書きますが、遡及適用はしません。
いま注記を書いているなら、当期の影響額と翌期以降の影響額を分けて書いたか確かめてください。ここが最も混ざります。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事に掲載した実際の開示事例は、各社が金融商品取引法にもとづき公衆縦覧に供している有価証券報告書からの引用です。設例として示した文例は、条文の記載事項を確認するために当事務所が作成したもので、会社名と数値は架空です。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する助言ではありません。実際の注記の作成にあたっては、監査法人にご確認ください。
📚 参考(公的な一次情報)
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索) 8条の3の5、8条の3の6
- 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(e-Gov法令検索) 14条の6、14条の7
- EDINET(金融庁) 引用した有価証券報告書はここで閲覧できます
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