親会社やオーナー企業が過半数を握ったまま上場を目指す。あるいは事業会社が大株主として残る。この形は珍しくありません。そして必ず、少数株主の保護をどう説明するのかという論点になります。
ここで押さえておきたいのが、コーポレートガバナンス・コードの2026年7月版で条項の構成が変わったことです。以前この論点の根拠として引かれてきた補充原則4-8の3という番号は、現在のコードにはありません。
この記事では、支配株主の定義、求められる独立社外取締役の人数、特別委員会という選択肢、そしてコーポレート・ガバナンス報告書に何を書くのかまでを、条文と原則の番号で確認します。
- 支配株主の定義は有価証券上場規程第2条第42号の2と施行規則第3条の2にあること
- 独立社外取締役の人数は、プライム市場で過半数、その他の市場で3分の1以上とされていること
- その根拠は2026年7月版コードの原則4-10であり、補充原則4-8の3ではないこと
- 特別委員会は義務ではなく、人数要件に代わる選択肢であること
- 支配的な株主という概念は東証の資料上のもので、規程の定義語ではないこと
- コーポレート・ガバナンス報告書の記載欄と根拠条文
この記事の見出し
📌 結論 支配株主がいても上場はできる。人数か委員会かを決める
支配株主がいることそのものが上場の障害になるわけではありません。求められているのは、少数株主の利益が損なわれない仕組みを作り、それを説明することです。
コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)の原則4-10「独立社外取締役の数の確保」が、支配株主を有するプライム市場の上場会社について、支配株主からの独立性を有する独立社外取締役を少なくとも過半数選任すべきものとし、支配株主を有するその他の市場の上場会社については3分の1以上としています。
そして同原則の解釈指針が、この人数に代えて、支配株主と少数株主の利益が相反する重要な取引や行為を審議し検討する、独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会を設置することも考えられる、としています。
つまり、人数を揃えるか、特別委員会を作るか。どちらかを選んで説明する、という設計です。特別委員会の設置は義務ではありません。
🔢 原則の番号が変わっている
ここは社内資料の点検が必要なところです。コーポレートガバナンス・コードは2026年7月21日に改訂され、2026年7月版になりました。従前の補充原則を再整理し、中核となる部分を原則に格上げし、重複箇所を削除する、という趣旨の改訂です。その結果、補充原則という区分そのものがなくなっています。
支配株主を有する会社の独立社外取締役については、以前は補充原則4-8の3という番号で語られてきました。2026年7月版にその番号はありません。内容は原則4-10とその解釈指針に移っています。
番号のずれにも注意してください。2026年7月版の原則4-10の見出しは「独立社外取締役の数の確保」です。以前の版の4-10とは中身が異なります。旧版の番号をそのまま当てはめると誤った引用になります。
なお、東京証券取引所が2023年12月26日に公表した資料は、当時の版にもとづき補充原則4-8の3を引用しています。古い資料を読むときは、その資料がどの版を前提にしているかを確認してください。
独立社外取締役の人数を揃えるか特別委員会を置くか、支配株主との取引をどう整理するか、少数株主保護の方策をどう書くか。審査で説明できる形に組み立てます。関連当事者取引の洗い出しから、コーポレート・ガバナンス報告書の記載内容の準備まで対応します。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
🧭 自社に支配株主がいるのか
支配的な株主という言葉は、東証の資料で使われている概念であって、規程の定義語ではありません。議決権の水準についても例示であり、何パーセント以上という基準値が定められているわけではありません。
支配株主の定義は、有価証券上場規程第2条第42号の2と、同施行規則第3条の2にあります。コーポレート・ガバナンス報告書記載要領(2026年7月版)が、この条文を支配株主の定義として明示しています。
類型は2つです。ひとつが親会社、もうひとつが一定の議決権要件を満たす主要株主です。まずここで自社が該当するかを判定してください。
支配的な株主という言い方
実務では「支配的な株主」という表現も使われます。これは東京証券取引所が2023年12月26日に公表した資料での整理です。過半数に満たなくても、実質的な支配力を有し得るという考え方で、過去の総会における議決権行使の実態や、契約等の特段の事情を踏まえて判断されるとされています。同資料では20パーセントから30パーセント程度という水準にも言及がありますが、これは例示であって基準値ではありません。
規程上の定義語ではないので、社内資料で条文を引くときには使い分けが必要です。定義があるのは支配株主のほうです。
2026年7月版コードの原則4-10の解釈指針にも、支配株主には該当しないが実質的な支配力を持つ株主を有する上場会社について、本原則の趣旨に沿った対応が望ましい旨の記述があります。該当しないから何もしなくてよい、という整理にはなりません。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
いまの状況と、判断に迷っている点をお送りいただければ、公認会計士がどこから手をつけるべきかを整理してお返しします。営業のご連絡を重ねて差し上げることはありません。
初回のご相談は無料です。お問い合わせはこちら
🛠️ 何を準備するか
上場後にコーポレート・ガバナンス報告書へ記載することになる内容は、上場審査の段階で先に固めておくのが実務です。
特別委員会の設置は義務ではありません。人数要件に代わる選択肢という位置づけです。どちらを選ぶかは会社の判断になります。
実務としては、独立社外取締役の人数を揃えるほうが説明は簡単です。ただし、支配株主からの独立性を有する社外取締役を過半数集めるのは、人材の面で容易ではありません。
特別委員会を選ぶ場合は、設置しただけでは足りません。東京証券取引所が2025年2月4日に公表した「親子上場等に関する投資者の目線」は、特別委員会について、設置の有無だけでなく審議内容の開示と実質的な関与が求められるという投資家の目線を整理しています。
どの取引を委員会にかけるのか
先に決めておくべきなのは、どの取引を特別委員会の審議対象にするかです。親会社への商品の販売、親会社からの仕入、業務委託、資金の貸借、人材の出向。金額の基準と取引の種類で線を引き、規程に書いておきます。
この線引きがないまま委員会だけを作ると、実際には何も審議しない委員会になります。上場審査でも、投資家の目線でも、そこが見られます。
関連当事者との取引の開示範囲については関連当事者との取引はどこまで開示するかで扱っています。あわせて確認してください。
📑 コーポレート・ガバナンス報告書に何を書くか
指針の欄は、書式を埋めるだけになりがちです。実際にどの取引をどの機関で審議しているのかまで書けているかが、投資家の見るところです。
上場すると、コーポレート・ガバナンス報告書を提出します。支配株主等に関する事項の開示については、有価証券上場規程第411条と同施行規則第412条が根拠です。
報告書には「支配株主との取引等を行う際における少数株主の保護の方策に関する指針」を記載する欄があります。記載要領は、この欄をコードの原則4-10と関連付けて説明しています。
この欄は、書式を埋めるだけの記載になりがちです。どのような取引を対象とし、どの機関がどのような手続で審議し、その結果をどう記録するのか。ここまで書けているかどうかが、投資家が読むところです。
親会社の有無を記載する欄もあります。記載要領では、財務諸表等規則第8条第3項に依拠する形で説明されています。
📰 この2年の動き
この2年で公表物が続いています。上場審査で説明を求められる水準も、これに沿って上がっていると考えたほうが安全です。
親子上場と少数株主保護をめぐる公表物は、この2年で続いています。
東京証券取引所は2023年12月26日に、少数株主保護及びグループ経営に関する情報開示の充実を公表し、コーポレート・ガバナンス報告書での開示充実を要請しました。ここでの切り口は支配株主の有無ではなく、親会社を有する会社、上場子会社を有する会社、上場関連会社を有する会社、その他の関係会社を有する会社の4つです。同日に開示例も公表されています。
2025年2月4日には「親子上場等に関する投資者の目線」、2025年12月26日には「親子上場等に関する事例集」が公表されました。事例集は、投資家が評価する開示事例を集めたもので、独立社外取締役の比率を過半数とした事例なども収録されています。
金融庁側では、2025年6月30日に「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」が公表され、親子上場が明示的に取り上げられています。MBOや支配株主による完全子会社化の増加を踏まえ、特別委員会の更なる機能発揮と、一般株主の投資判断に必要な情報開示の充実を促す内容です。
企業行動規範の側にも定めがあります。有価証券上場規程の第432条から第451条に遵守事項が置かれ、その中にMBO等に係る遵守事項と、支配株主との重要な取引等に係る遵守事項が含まれています。
❓ よくある質問
A. できます。ただし少数株主の利益が損なわれない仕組みを作り、説明することが求められます。
A. 2026年7月版のコードに補充原則という区分はありません。現在の根拠は原則4-10とその解釈指針です。
A. 支配株主を有するプライム市場の上場会社は少なくとも過半数、その他の市場の上場会社は3分の1以上とされています。いずれも支配株主からの独立性を有する者です。
A. 義務ではありません。解釈指針では、人数要件に代わる選択肢として位置づけられています。
A. 規程第2条第42号の2と施行規則第3条の2の要件で判定します。該当しない場合でも、東証の資料が整理する支配的な株主に当たるかどうかは別途検討が必要です。
A. 東証の資料に20パーセントから30パーセント程度という言及がありますが、これは例示です。基準値として断定できるものではありません。
A. 2025年2月4日公表の投資者の目線は、設置の有無だけでなく審議内容の開示と実質的な関与が求められるとしています。
A. 支配株主等に関する事項の欄(規程第411条、施行規則第412条)と、少数株主の保護の方策に関する指針の欄です。
A. 支配株主との取引の洗い出しと取引条件の妥当性の説明、審議対象とする取引の線引き、少数株主保護の方策の文書化です。上場後に書く内容を先に固めておいてください。
📄 まとめ
支配株主がいる会社の上場では、独立社外取締役の人数を揃えるか、特別委員会を設置するかを選び、それを説明することになります。根拠はコーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)の原則4-10とその解釈指針です。プライム市場は過半数、その他の市場は3分の1以上です。
支配株主の定義は有価証券上場規程第2条第42号の2と施行規則第3条の2にあります。支配的な株主という言葉は東証の資料上の概念で、規程の定義語ではありません。
コーポレート・ガバナンス報告書には、支配株主等に関する事項(規程第411条、施行規則第412条)と、少数株主の保護の方策に関する指針を記載します。この内容は上場審査の段階で固めておいてください。
補充原則4-8の3という番号は現在のコードにありません。古い資料を引き写さないよう、参照先を点検してください。
📚 参考(公的な一次情報)
- コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版、2026年7月21日)原則4-10およびその解釈指針
- 金融庁・東京証券取引所「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」2026年7月21日
- 東京証券取引所 コーポレート・ガバナンス報告書記載要領(2026年7月版)
- 有価証券上場規程第2条第42号の2、同施行規則第3条の2、規程第411条、同施行規則第412条、規程第432条から第451条
- 東京証券取引所「少数株主保護及びグループ経営に関する情報開示の充実」「支配株主・支配的な株主を有する上場会社において独立社外取締役に期待される役割」2023年12月26日
- 東京証券取引所「親子上場等に関する投資者の目線」2025年2月4日、「親子上場等に関する事例集」2025年12月26日
- 金融庁「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」2025年6月30日
あわせて読みたい