「父の死亡保険金を受け取ったけれど、これにも相続税がかかるのだろうか」「保険金は遺産分割の話し合いに入れないといけないのか」——生命保険は、相続で必ずと言っていいほど登場するのに、税金の扱いがいちばん誤解されやすいものです。
死亡保険金は、一定の金額までは相続税がかかりません。その枠が「500万円×法定相続人の数」です。ただし、この枠を使える人と使えない人がはっきり分かれており、そもそも相続税ではなく所得税や贈与税がかかる契約の形もあります。国税庁の資料と条文にあたりながら、知識ゼロの方にもわかるように整理します。
- 死亡保険金の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」であること(相法12条・No.4114)
- 誰が保険料を負担していたかで、相続税・所得税・贈与税のどれになるかが変わること
- 相続放棄した人や相続人以外の人は、非課税枠を使えないこと
- 死亡退職金にも同じ「500万円×法定相続人の数」の枠があること(No.4117)
- 保険金は受取人固有の財産で、遺産分割の対象にならないこと
この記事の見出し
💰 まず確認:その保険金は本当に相続税の対象か
死亡保険金と聞くと当然に相続税がかかると思われがちですが、そうとは限りません。国税庁のタックスアンサーNo.1750「死亡保険金を受け取ったとき」は、被保険者(保険がかけられていた人)・保険料の負担者・保険金受取人がそれぞれ誰であるかによって、所得税・相続税・贈与税のいずれかの課税対象になると整理しています。
相続税の対象になるのは、被保険者と保険料の負担者が同じ人である場合です。相続税法3条1項1号は、被相続人の死亡により生命保険契約の保険金を取得した場合で、その保険料の全部または一部を被相続人が負担していたものは、相続または遺贈により取得したものとみなすと定めています(No.4114)。「亡くなった人が自分に保険をかけ、自分で保険料を払っていた」という、いちばん多い形です。
死亡保険金の課税関係(国税庁タックスアンサーNo.1750の区分にもとづく)
②のように保険料の負担者と受取人が同じ人であれば、所得税の対象です。一時金で受け取った場合は一時所得となり、保険金の総額から払い込んだ保険料と特別控除額50万円を差し引いた金額の2分の1が課税の対象になります(No.1750)。③のように3者が全員異なる場合は、保険料を負担した人からの贈与とされ、贈与税の対象です(No.4417)。
| 契約の形 | 被保険者/保険料の負担者/受取人 | かかる税金 |
|---|---|---|
| ① 本人が自分にかけていた | 父/父/母 | 相続税(相法3条1項1号) |
| ② 受取人が保険料を払っていた | 父/母/母 | 所得税(一時所得または雑所得) |
| ③ 3人が全員別々 | 父/母/子 | 贈与税(相法5条) |
※保険料を一部だけ被相続人が負担していた場合は、その負担部分に対応する保険金が相続税の対象になります。契約者の名義と実際に保険料を払っていた人が違うケースは判断が分かれやすいため、保険証券と口座の引落し履歴を必ず確認してください。
🧾 非課税枠は「500万円×法定相続人の数」
ここからは、①のように相続税の対象になる死亡保険金の話です。相続税法12条1項6号は、相続人が取得した保険金について、500万円に相続税法15条2項に規定する相続人の数を乗じて算出した金額を非課税限度額とし、その部分は相続税の課税価格に算入しないと定めています。国税庁No.4114も同じ算式を示しています。
500万円 × 法定相続人の数 = 死亡保険金の非課税限度額
相続人全員が受け取った保険金の合計額がこの金額以下であれば、保険金には相続税がかかりません。超えたときは、超える部分だけが相続税の課税対象になります。
法定相続人の数の数え方
ここでいう「法定相続人の数」には、2つの決まりがあります。No.4114の注記のとおり、相続を放棄した人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数で数えます。また、養子は、実子がいるときは1人まで、実子がいないときは2人までしか数に含められません(No.4170)。この数え方は、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の計算と同じ考え方です。
複数の人が受け取ったときの按分
相続人が2人以上いてそれぞれが保険金を受け取った場合は、非課税限度額を受け取った金額の割合で按分します。No.4114が示す算式は「その相続人が受け取った保険金の金額 - 非課税限度額 × (その相続人が受け取った保険金の金額 ÷ すべての相続人が受け取った保険金の合計額)」です。
非課税限度額の計算と按分の例(長女は保険金を受け取っていないケース)
相続人が配偶者・長男・長女の3人で、保険金を配偶者が1,200万円、長男が800万円受け取ったとします。非課税限度額は500万円×3人=1,500万円です。合計2,000万円は限度額を超えるので、配偶者は1,500万円×(1,200万円÷2,000万円)=900万円、長男は1,500万円×(800万円÷2,000万円)=600万円が非課税になります。課税対象になるのは、配偶者300万円と長男200万円の合計500万円だけです。
※この計算は、相続税の申告書第9表「生命保険金などの明細書」を使うと整理しやすくなります(No.4114)。
👤 非課税枠が使える人・使えない人
非課税枠は、保険金を受け取った人なら誰でも使えるわけではありません。No.4114は、非課税の対象になる受取人を「相続人(相続を放棄した人や相続権を失った人は含まれません)」と限定し、相続人以外の人が取得した死亡保険金には非課税の適用はないと明記しています。
| 保険金を受け取った人 | 受取り自体 | 非課税枠(500万円×法定相続人の数) |
|---|---|---|
| 相続人(配偶者・子など) | できる | 使える |
| 相続を放棄した人 | できる | 使えない(受け取った全額が課税対象) |
| 相続権を失った人 | できる | 使えない |
| 相続人以外の人(孫・内縁の配偶者など) | できる | 使えない(遺贈により取得したものとみなされる) |
混乱しやすいのが相続放棄をした人の扱いです。放棄した人は非課税枠を使えませんが、「法定相続人の数」を数えるときは放棄がなかったものとして頭数に入れます(No.4114 注1)。放棄した人がいても枠そのものは小さくならず、その人だけが枠を使えない、という関係です。手続きや期限は第8回「相続放棄の期限は3か月!手続き・費用・限定承認との違いを解説」をご覧ください。
たとえば孫を受取人に指定していた場合、孫は(代襲相続人でない限り)相続人ではないため、非課税枠は使えず、受け取った全額が相続税の課税対象になります。相続税法3条1項の柱書は、受け取った人が相続人以外であるときは、その財産を遺贈により取得したものとみなすと定めています。
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⚖️ 保険金は受取人固有の財産で、遺産分割の対象にならない
「保険金も遺産だから相続人全員で分け方を話し合うのでは」と考える方がいますが、扱いは異なります。国税庁の質疑応答(No.4114のQ&A「契約上の受取人以外の人が受け取った場合」)は、被相続人が保険料を支払っていた保険金について、税法上みなし相続財産であり、本来の相続財産ではないため、遺産分割の対象とはならず、契約上の受取人が相続または遺贈により取得したものとみなされると説明しています。
したがって、受取人に指定された人が単独で保険金を請求できます。遺産分割協議がまとまっていなくても受け取れますし、相続放棄をした人でも(非課税枠は使えないものの)保険金そのものは受け取れます。逆に、受取人以外の人が保険金を分けてもらうと、受取人からの贈与として贈与税の対象になる点に注意が必要です(同Q&A、相法3・相基通3-11)。
死亡保険金の判定フロー(相続を放棄した人は「相続人」に含まれません)
保険金の受取人が複数いる場合や、相続人以外が受取人になっている場合は、非課税枠の按分や申告書の書き方が複雑になります。お問い合わせフォームからご連絡ください。
📄 死亡退職金にも同じ非課税枠がある
会社員や役員が亡くなったとき、勤務先から遺族に支払われる死亡退職金にも、生命保険金と同じ「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。相続税法12条1項7号が退職手当金等の非課税限度額を同じ算式で定めており、国税庁No.4117も同様に説明しています。
ただし、対象になるのは被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものに限られます(No.4117)。死亡退職で支給額が3年以内に確定したもののほか、生前に退職していて支給額が死亡後3年以内に確定したものも含まれます。
弔慰金は原則として相続税の対象外
勤務先から弔慰金や花輪代、葬祭料を受け取ることもあります。No.4120は、これらは通常、相続税の対象になることはないとしたうえで、実質的に退職手当金等に該当すると認められる部分は相続税の対象になるとしています。それ以外の部分についても、次の金額を超える部分は退職手当金等として相続税の対象です。
| 区分 | 弔慰金等として扱われる金額 | 超えた部分の扱い |
|---|---|---|
| 業務上の死亡であるとき | 死亡当時の普通給与の3年分に相当する額 | 退職手当金等として相続税の対象(非課税枠の対象にはなる) |
| 業務上の死亡でないとき | 死亡当時の普通給与の半年分に相当する額 | 同上 |
| 名目が弔慰金でも実質が退職金の部分 | — | 金額にかかわらず退職手当金等として相続税の対象 |
※普通給与とは、俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当などの合計額をいいます(No.4120 注2)。弔慰金が実質上退職手当金に該当するかどうかは、退職給与規程等の定めがある場合はその規定により判定されます。
📍 どこで:保険金の請求は契約している保険会社へ。相続税の申告は、亡くなった人の住所地を所轄する税務署へ(所轄は国税庁のページでご確認ください)。
⏰ いつまでに:相続税の申告・納付は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内(相法27条・33条)。
🧾 何を持って:保険証券、保険会社の支払明細(受取額・保険料負担者がわかるもの)、受取人の本人確認書類と印鑑証明書、戸籍謄本または法定相続情報一覧図の写しなど。
なお、保険金の非課税枠は、相続税がかかるかどうかを判定する前段階の話です。遺産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下であれば、そもそも相続税はかかりません。全体の流れは第1回「親が亡くなったらやることは?相続手続きの流れと期限一覧」と、連載の目次である相続税 完全ガイドをご覧ください。次回の第15回では、配偶者の税額軽減と二次相続を取り上げます。
❓ よくある質問
A. 受け取れます。国税庁No.4114は、相続を放棄した人が受け取った死亡保険金について「非課税の適用はない」と説明しており、受取り自体を否定していません。保険金は本来の相続財産ではなく受取人が取得するものだからです。ただし非課税枠は使えないため、受け取った全額が相続税の課税対象になります。
A. 保険会社の約款や契約内容によって取扱いが異なります。まず保険会社に受取割合の定めを確認してください。そのうえで、相続人が受け取った合計額に対して500万円×法定相続人の数の非課税枠を適用し、各人の受取額の割合で按分します(No.4114)。
📌 まとめ
- 被相続人が保険料を負担していた死亡保険金は、相続税の対象(相法3条1項1号)
- 非課税枠は500万円×法定相続人の数(相法12条1項6号・No.4114)
- 法定相続人の数は、放棄がなかったものとして数え、養子は実子ありで1人・なしで2人まで
- 相続放棄した人・相続人以外の人は、非課税枠を使えない
- 保険金は本来の相続財産ではなく、遺産分割の対象にならない
- 死亡退職金にも同じ枠があり、死亡後3年以内に支給が確定したものが対象(No.4117)
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🔗 参考
- 国税庁タックスアンサー No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- 国税庁タックスアンサー No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
- 国税庁タックスアンサー No.4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い
- 国税庁タックスアンサー No.1750 死亡保険金を受け取ったとき
- 国税庁タックスアンサー No.4417 贈与税の対象になる生命保険金
- e-Gov法令検索 相続税法(3条・12条・15条)
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷1丁目)。上場準備支援・会計監査の実務経験をもとに、相続税の申告と生前の準備をサポートしています。
優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。
本記事は2026年9月時点の法令等にもとづく一般的な解説です。個別の判断は税理士等の専門家にご相談ください。
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