生前贈与は暦年課税と相続時精算課税どちらを選ぶ?7年加算と110万円基礎控除を比較

自社株や不動産を次の世代へ渡す準備として、まず検討されるのが生前贈与です。ところが令和5年度税制改正によって、贈与税の2つの課税方式(暦年課税と相続時精算課税)の損得は、それ以前とは考え方が変わりました。暦年課税は相続開始前の贈与を持ち戻す期間が3年から7年へ延長され、相続時精算課税には年110万円の基礎控除が新設されたためです。

この記事では、暦年課税の生前贈与加算(相法19)と相続時精算課税の基礎控除(相法21の11の2)の仕組みを、経過措置の年表とあわせて整理します。そのうえで、非上場株式の承継という場面で、どちらの方式を検討することになるのかという判断の軸を示します。

生前贈与には2つの課税方式がある

個人から個人へ財産を無償で移転すると、受け取った側に贈与税がかかります。その計算方法には、暦年課税と相続時精算課税の2つがあり、受贈者が贈与者ごとに選ぶ形になっています。何も手続をしなければ暦年課税が適用され、相続時精算課税を使う場合にだけ届出書の提出が必要です。

暦年課税

その年の1月1日から12月31日までに受けた贈与の合計額から基礎控除額110万円(相法21の5、措法70の2の4)を差し引き、残額に累進税率を適用して贈与税額を計算する方式です。贈与者と受贈者の組み合わせに制限はなく、親子でも兄弟でも第三者でも使えます。年110万円以内であれば贈与税はかからず、申告も不要です。

相続時精算課税

贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母などから、贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の直系卑属である推定相続人または孫への贈与について選択できる方式です(相法21の9)。選択した贈与者(特定贈与者)からの贈与は、その年分以後すべてこの方式で計算され、暦年課税に戻すことはできません。

贈与時には比較的軽い負担にとどめ、贈与者が亡くなったときに相続税で精算するという設計であるため、贈与税と相続税を通じた課税が行われる制度と位置づけられています。

図1 暦年課税と相続時精算課税の基本構造暦年課税・届出は不要(何もしなければこちら)・贈与者と受贈者の関係に制限なし・毎年110万円の基礎控除・超えた額に累進税率相続開始時の取扱い加算対象期間内の贈与を相続税の課税価格に加算する(110万円以下の贈与も加算)相続時精算課税・選択届出書の提出が必要・贈与者60歳以上/受贈者18歳以上・毎年110万円の基礎控除・特別控除2,500万円、超過分は20%相続開始時の取扱い贈与時の価額から基礎控除を控除した残額を相続財産に加算(期間の制限なく全期間が対象)

どちらの方式も年110万円の控除がありますが、相続開始時にその控除部分をどう扱うかが異なります。

比較項目 暦年課税 相続時精算課税
手続 不要(原則としてこちらが適用される) 最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに相続時精算課税選択届出書を提出
贈与者・受贈者の要件 制限なし 贈与年の1月1日時点で贈与者60歳以上、受贈者18歳以上の直系卑属である推定相続人または孫
年間の控除 基礎控除110万円(相法21の5、措法70の2の4) 基礎控除110万円(相法21の11の2)に加え、累計2,500万円の特別控除(相法21の12)
税率 10%から55%の累進税率 特別控除を超えた部分に一律20%(相法21の13)
相続時の持ち戻し 加算対象期間内の贈与のみ、贈与時の価額で加算(相法19) 選択後の全期間の贈与について、贈与時の価額から基礎控除を控除した残額を加算(相法21の15)
方式の変更 相続時精算課税へ変更できる 暦年課税へは戻せない

暦年課税の生前贈与加算は7年へ延長された

暦年課税で贈与した財産であっても、贈与者の相続が開始したときには、一定期間内の贈与を相続税の課税価格に加算します。これが生前贈与加算(相法19)です。令和5年度税制改正により、この加算対象期間が相続開始前3年以内から7年以内へと延長されました。

いつから7年になるのか

7年への延長は、令和6年1月1日以後の贈与から適用されます。ただし、いきなり7年分が加算されるわけではなく、相続開始日に応じて次のように段階的に伸びていきます(令5改正法附則19)。

被相続人の相続開始日 加算対象期間
令和8年12月31日まで 相続開始前3年以内(死亡の日から遡って3年前の日から死亡の日までの間)
令和9年1月1日から令和12年12月31日まで 令和6年1月1日から死亡の日までの間
令和13年1月1日以後 相続開始前7年以内(死亡の日から遡って7年前の日から死亡の日までの間)

令和8年中に相続が開始する場合は従来どおり3年以内であり、令和9年以降の相続から徐々に対象が広がって、令和13年以降の相続で完全に7年となる形です。

延長された4年分には100万円の控除がある

相続開始の日が令和9年1月2日以後である場合、加算対象期間内の贈与のうち相続開始前3年以内に取得した財産以外の部分については、贈与時の価額の合計額から総額100万円までは相続税の課税価格に加算されません。年100万円ではなく、延長された期間を通じて総額100万円である点に注意が必要です。

図2 暦年課税の生前贈与加算のイメージ(完全移行後)7年前3年前相続開始相続開始前3年超7年以内合計額から総額100万円を控除して加算相続開始前3年以内全額をそのまま加算・加算されるのは、相続や遺贈により財産を取得した人が受けた贈与です。・基礎控除110万円以下の贈与も、死亡した年の贈与も加算の対象になります。・加算された財産に対応する贈与税額は、相続税額から控除されます。※100万円の控除は、相続開始の日が令和9年1月2日以後の場合に適用されます。

図は加算対象期間が7年となる令和13年1月1日以後の相続を前提としたイメージです。

加算される人・されない財産

加算の対象となるのは、相続、遺贈または相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人です。したがって、相続で何も取得しない孫や子の配偶者への暦年贈与は、原則として加算されません。一方で、次の点は誤解されやすいところです。

  • 基礎控除額110万円以下で贈与税がかからなかった贈与も加算する
  • 被相続人が死亡した年に行われた贈与も加算する
  • 加算する価額は相続時の時価ではなく贈与時の価額である

反対に、贈与税の配偶者控除の適用を受けた金額、直系尊属からの住宅取得等資金・教育資金・結婚子育て資金の贈与のうち非課税の適用を受けた金額は、加算する必要がありません。ただし教育資金・結婚子育て資金については、贈与者死亡時の管理残額が相続等により取得したものとみなされて課税価格に加算される場合があります。

相続で財産を取得しない孫への贈与は加算対象外ですが、遺言で孫に財産を渡した場合や、孫が生命保険金の受取人になっている場合には「相続等により財産を取得した人」に該当し、加算の対象になり得ます。誰が何を取得するかによって結論が変わるため、贈与の設計段階で相続の姿を想定しておくことが重要です。

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相続時精算課税に年110万円の基礎控除が新設された

令和6年1月1日以後の贈与から、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられました(相法21の11の2)。改正前は、相続時精算課税を選択すると少額の贈与でもすべて申告が必要で、その全額が相続財産に加算されていました。この基礎控除の新設によって、選択のハードルは大きく下がっています。

贈与税額の計算

特定贈与者ごとに、その年に贈与を受けた財産の価額の合計額から基礎控除額110万円を控除し、さらに特別控除額(限度額2,500万円、前年以前に控除済みの場合はその残額)を控除した後の金額に、一律20%の税率を乗じて計算します。なお同一年中に2人以上の特定贈与者から贈与を受けた場合、110万円は特定贈与者ごとの課税価格であん分します。

図3 相続時精算課税の計算の流れ贈与のとき(贈与税)その年の贈与額の合計額基礎控除110万円特別控除の残額(累計2,500万円)×20%贈与税額相続のとき(相続税)選択後の贈与について贈与時の価額の合計額各年分の基礎控除(年110万円)相続財産に加算する額(贈与時の価額ベース)特別控除2,500万円は、贈与税の期限内申告書を提出した場合に限り控除できます。申告期限を過ぎると、その年分は控除を受けられません。

基礎控除110万円を控除した後の残額が、相続時に持ち戻される金額になります。

基礎控除部分は持ち戻されない

相続税の計算では、相続時精算課税を選択した後の贈与について、贈与を受けた年分ごとに贈与時の価額の合計額から基礎控除額を控除した残額を相続財産に加算します。つまり年110万円の基礎控除に収まる範囲の贈与は、相続税の課税価格に加算されません。暦年課税では110万円以下の贈与でも加算対象期間内であれば加算されるのと、正反対の結論になります。

また、相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額については、相続税の申告をすることにより還付を受けることができます。

手続を忘れないこと

相続時精算課税を使うには、その選択に係る最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、受贈者の戸籍の謄本などの一定の書類とともに相続時精算課税選択届出書を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。基礎控除以下の贈与で贈与税の申告書の提出を要しない場合であっても、選択の初年度には届出書の提出が必要です。

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事業承継の場面ではどう考えるか

将来の値上がりが見込まれる自社株

相続時精算課税で加算されるのは贈与時の価額です。したがって、業績の拡大にともなって株価の上昇が見込まれる非上場株式を早い段階で贈与しておけば、相続時に加算される金額は贈与時の低い評価額で固定されます。逆に、贈与後に業績が悪化して株価が下がっても、加算されるのは贈与時の高い価額のままです。値上がりと値下がりのどちらの可能性も、そのまま自社株の税負担に跳ね返る点が、この方式の本質的な性格です。

事業承継税制と組み合わせる場合の緩和

相続時精算課税の受贈者は、原則として贈与者の直系卑属である推定相続人または孫に限られます。ただし、非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例(措法70の7の5)の適用に係る非上場株式等を贈与により取得する場合や、個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除(措法70の6の8)の適用に係る事業用資産を取得する場合には、贈与者が贈与をした年の1月1日において60歳以上であれば、推定相続人以外の者(贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者に限ります)でも適用できます。親族外への承継を検討する場面では、押さえておきたい取扱いです。

検討の順序

  • 誰に、どの財産を、いつまでに移すのかという承継の全体像を先に決める
  • 非上場株式であれば、まず現時点の相続税評価額を把握する
  • 受贈者が相続で財産を取得する立場かどうかを確認する(加算対象者かどうかが変わる)
  • 暦年課税を続ける場合、加算対象期間の延長を織り込んだうえで期間を見積もる
  • 相続時精算課税は撤回できないため、贈与者ごとに慎重に選択する

贈与の方式選択は、財産の内容と相続開始までの期間の見通しによって結論が変わります。定型的な有利不利の比較だけで決めず、相続財産の調べ方を参考に財産の全体像を押さえ、法定相続人の範囲を確認したうえで検討することをおすすめします。相続手続の流れ全体は相続税 完全ガイドにまとめています。

よくある質問

Q. 毎年110万円ずつ贈与していれば、相続税はかからないのですか。

暦年課税の場合、110万円以下で贈与税がかからなかった贈与であっても、加算対象期間内のものは相続税の課税価格に加算されます。贈与税の非課税と相続税の非加算は別の話です。

Q. 相続時精算課税を選ぶと、必ず毎年申告が必要ですか。

令和6年1月1日以後の贈与については、特定贈与者からの贈与が基礎控除額110万円以下であれば贈与税の申告書の提出は不要です。ただし選択の初年度には、相続時精算課税選択届出書の提出が必要です。

Q. 一度相続時精算課税を選んだ贈与者について、暦年課税に戻せますか。

戻せません。特定贈与者からの贈与は、選択した年分以後すべて相続時精算課税が適用されます。ただし、選択は贈与者ごとに行うため、父からの贈与は相続時精算課税、母からの贈与は暦年課税とすることは可能です。

Q. 加算対象期間が7年になるのは今からですか。

令和6年1月1日以後の贈与が対象ですが、相続開始日に応じて段階的に伸びます。令和8年12月31日までの相続開始であれば従来どおり3年以内、完全に7年となるのは令和13年1月1日以後の相続開始からです。

Q. 納めた贈与税が相続税より多かった場合はどうなりますか。

相続時精算課税の場合、相続税額から控除しきれない贈与税相当額は、相続税の申告をすることにより還付を受けることができます。

まとめ

令和5年度税制改正は、暦年課税の加算対象期間を7年へ延長する一方で、相続時精算課税に年110万円の基礎控除を新設しました。その結果、少額の贈与を長く続ける手法は暦年課税では効きにくくなり、相続時精算課税は使いやすい制度へと性格を変えています。

もっとも、相続時精算課税は選択後に撤回できず、贈与時の価額で固定されるという性格を持ちます。自社株のように評価額が動く財産では、その固定が有利にも不利にも働きます。承継の全体像と財産の見通しを整理したうえで、贈与者ごとに方式を決めることが実務上の出発点になります。

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出典:国税庁タックスアンサーNo.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)(令和7年4月1日現在法令等)、No.4103 相続時精算課税の選択(令和7年4月1日現在法令等)、国税庁令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし。根拠法令等:相法19、21の2から21の6、21の9から21の16、措法70の2の4、70の6の8、70の7の5、令5改正法附則19。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の適用にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。記載内容は2026年8月時点の法令等に基づいています。

👤 監修者

公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区入谷)。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンス、企業価値評価、IFRS影響度調査、不正調査、フォレンジックに携わりました。現在は上場申請書類(Ⅰの部・Ⅱの部)の作成支援、内部統制の導入と内部監査対応、新収益認識基準やIFRSの導入支援、社内諸規程の整備を行っています。

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