IFRS導入の論点検討で、収益の次に手間がかかるのがリースです。契約書が総務・各事業所・海外子会社に散らばっていて、そもそも何件あるのかが分からない。多くの会社が最初にぶつかるのはこの「数え上げ」の壁です。
会計処理そのものは、実はシンプルです。借手はすべてのリースについて使用権資産とリース負債を計上する。この一本の原則で説明できます。難しいのは、リース期間・リース料・割引率という3つの前提を、契約1本ごとに決めていく作業のほうです。
本記事では、IFRS第16号「リース」の計算を5ステップに分解したうえで、2027年4月から適用される日本の新リース会計基準との違いを、基準の原文にあたって整理します。
- IFRS第16号の借手単一モデル(使用権資産・リース負債)の全体像
- リース負債と使用権資産を計算する5つのステップ
- 短期リース・少額資産リースの認識免除をどこまで使えるか
- 企業会計基準第34号(新リース会計基準)との一致点と3つの相違点
- 連結IFRSと個別日本基準を並行管理するときの実務上の注意点
- リース論点を「誰が・いつまでに・何を作るか」に落とす進め方
📄 IFRS第16号「リース」とは|借手の単一モデル
IFRS第16号「リース」は2016年1月に公表され、2019年1月1日以後開始する事業年度から適用されています(IFRS第15号を同時に適用することを条件に早期適用が認められていました)。それまでのIAS第17号「リース」とIFRIC第4号・SIC第15号・SIC第27号を置き換えた基準です。
最大の変更点は、借手の会計処理からファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分がなくなったことです。借手は、原則としてすべてのリースについて、原資産(リースの対象となる資産)を使用する権利を表す「使用権資産」と、リース料を支払う義務を表す「リース負債」を計上します(第22項)。ただし、リース期間が12か月以内の短期リースと少額資産のリースについては、認識の免除を選択できます(第5項)。これを単一モデル、または使用権モデルと呼びます。
リースかどうかは「支配」で判定する
IFRS第16号は、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、その契約はリースを含むと定めています(第9項)。契約書の名称が「賃貸借契約」でも「業務委託契約」でも関係ありません。逆に、賃貸借と呼ばれていてもサービスの提供にすぎない契約はリースに該当しません。この判定を、契約の締結時に1本ずつ行う必要があります。
図1:借手のオンバランス化による貸借対照表の変化(IFRS第16号第22項をもとに作成)
損益計算書では費用が前倒しになる
賃貸借処理では、支払リース料が毎期同じ金額で費用計上されます。これに対して使用権モデルでは、使用権資産の減価償却費(定額)とリース負債の利息費用(残高逓減に応じて減少)に分かれます(第38項・第49項)。合計費用はリース期間の前半で大きく、後半で小さくなります。総額は変わりませんが、期間配分が変わる点が業績指標に影響します。
| 項目 | 従来の賃貸借処理 | 使用権モデル(IFRS第16号) |
|---|---|---|
| 貸借対照表 | 計上なし(注記で開示) | 使用権資産・リース負債を計上 |
| 損益計算書 | 支払リース料(毎期定額) | 減価償却費+利息費用に分解。利息費用は金融費用の区分(第49項) |
| 費用の期間配分 | 毎期同額 | 前半に厚く、後半に薄くなる |
| EBITDA | リース料が控除される | 減価償却費・利息費用は控除されないため増加する |
| キャッシュ・フロー | 全額が営業活動 | 元本部分は財務活動、利息部分はIAS第7号に従う(第50項) |
ここは経営層への説明で必ず質問が出るところです。営業利益・EBITDA・自己資本比率がどう動くかを、影響度調査の段階で概算しておくことをおすすめします。財務制限条項(コベナンツ)がある場合は、指標の定義がどちらの基準を前提にしているかの確認も必要です。
🧾 リース負債と使用権資産の計算|5つのステップ
計算そのものは定型作業です。契約1本ごとに、次の5ステップを順に決めていきます。
図2:リース負債・使用権資産の当初測定の手順(IFRS第16号第18項・第24項・第26項・第27項をもとに作成)
ステップ1:リース期間は契約年数と一致しない
リース期間は、解約不能期間に、行使することが合理的に確実な延長オプションの対象期間と、行使しないことが合理的に確実な解約オプションの対象期間を加えて決めます(第18項)。契約書に「2年」と書いてあっても、更新が事実上前提になっていれば、リース期間は2年ではありません。
判定は「経済的インセンティブがあるかどうか」で行い、賃借設備への大幅な改良の有無、解約に伴うコスト、事業における原資産の重要性などを考慮します。この判断は見積りであり、監査人と最も議論になるポイントです。オフィス・店舗・工場など主要拠点については、判断の根拠を文書として残しておくことをおすすめします。
ステップ2:リース料に含めるものを間違えない
リース負債の測定に含めるリース料は、次の5つです(第27項)。契約書の月額賃料だけを拾うと、必ず漏れが出ます。
- 固定リース料(実質的な固定リース料を含む)から未収のリース・インセンティブを控除した額
- 指数またはレートに応じて決まる変動リース料(開始日の指数・レートで測定)
- 残価保証に基づいて借手が支払うと見込まれる額
- 行使することが合理的に確実な購入オプションの行使価格
- 解約に対する違約金(リース期間に解約オプションの行使が反映されている場合)
逆に、売上高に連動する歩合賃料や、使用量に応じて変動するリース料はリース負債に含めず、発生時に費用処理します(第38項)。商業施設のテナント契約のように固定賃料と歩合賃料が混在する場合は、契約ごとの切り分けが必要です。
ステップ3:割引率は実務上ほぼ追加借入利子率になる
割引率は、リースの計算利子率を容易に算定できる場合はその利率、算定できない場合は借手の追加借入利子率を使います(第26項)。計算利子率は原資産の公正価値や見積残存価額の情報が必要で、貸手から開示されることは多くありません。したがって実務では、追加借入利子率を使うケースが大半です。
追加借入利子率は、同様の期間・同様の担保条件で同額の資金を借り入れる場合の利率です。通貨・リース期間・信用力の3つで区分してレートテーブルを作り、海外子会社を含めてグループで統一運用する設計にしておくと、毎期の運用が安定します。
ステップ4・5:数値で確認する
- リース負債=1,200万円×年金現価係数4.5797=約5,496万円
- 使用権資産=約5,496万円(前払リース料・当初直接コスト等がない前提)
- 初年度の費用=減価償却費1,099万円+利息費用165万円=約1,264万円
- 5年目の費用=減価償却費1,099万円+利息費用35万円=約1,134万円
- 5年間の費用合計は6,000万円で、賃貸借処理の場合と一致する
初年度は賃貸借処理より64万円ほど費用が増え、最終年度は66万円ほど減ります。1本ではわずかでも、店舗を多店舗展開している会社や車両を大量にリースしている会社では、初年度の営業利益に無視できない影響が出ます。影響度調査の段階で、主要な契約について概算を出しておくべき理由がここにあります。
⏰ 短期リースと少額資産リースの認識免除
すべてのリースをオンバランスすると実務が回らないため、IFRS第16号は2つの認識免除を置いています(第5項)。免除を選択した場合、リース料はリース期間にわたり定額法その他の規則的な基礎で費用計上します(第6項)。
| 免除の種類 | 要件 | 選択の単位 |
|---|---|---|
| 短期リース | リース開始日においてリース期間が12か月以内で、購入オプションを含まないリース | 原資産のクラス単位(第8項) |
| 少額資産リース | 原資産が新品であったときの価値が少額であるリース(B3項・B4項) | リース単位(第8項) |
少額かどうかの判定は、リースしている資産の使用年数にかかわらず新品時の価値で行い、絶対的な基準で判断します(B3項・B4項)。借手にとって重要かどうかや、借手の規模・性質・状況には影響されません。つまり、大企業でも中小企業でも同じ結論になるのが原則です。基準は具体的な金額を示していませんが、該当し得る例としてタブレット・パソコン、小型のオフィス家具、電話が挙げられています(B8項)。一方、自動車は新品時に通常少額ではないため該当しないと明記されています(B6項)。またサブリースする(または見込む)場合、そのヘッドリースは少額資産リースに該当しません(B7項)。
認識免除を適用する場合、その事実を注記する必要があります(第60項)。また短期リース・少額資産リースに係る費用の額は、それぞれ区分して開示が求められます(第53項(c)・(d))。
契約が何本あるか分からない段階からのご相談で構いません。リースの識別・リース期間の判断・割引率の設計といった論点整理から、GAAP差異分析、コンバージョンの数値作成、注記開示までお手伝いします。IPOに伴うIFRS導入もご相談ください。
⚖️ 日本の新リース会計基準との違い
日本では2024年9月13日に企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」と企業会計基準適用指針第33号が公表されました。2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する年度からの早期適用が認められています(会計基準第58項)。これにより企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」等は適用を終了します(同第59項)。
ASBJは開発にあたっての基本方針として、借手の費用配分の方法についてIFRS第16号との整合性を図ること、IFRS第16号のすべての定めではなく主要な定めの内容のみを取り入れること、そして「IFRSを任意適用して連結財務諸表を作成している企業がIFRS第16号の定めを個別財務諸表に用いても、基本的に修正が不要となる会計基準とする」ことを掲げています(会計基準BC13項)。IFRS導入企業にとっては、この設計方針が実務上の出発点になります。
図3:IFRS第16号と企業会計基準第34号の共通部分と固有部分(両基準および適用指針第33号をもとに作成)
一致しているところ
借手の会計処理の骨格は、ほぼそのまま一致しています。リースの定義(会計基準第6項)、リースの識別(同第25項〜第27項)、借手のリース期間(同第15項・第31項)、借手のリース料の5つの構成要素(同第35項)、リース負債を未払リース料の現在価値で測定すること(同第34項)、利息相当額を利息法で配分すること(同第36項)は、いずれもIFRS第16号と整合するよう設計されています。
割引率も同様で、貸手の計算利子率を知り得る場合はその利率、知り得ない場合は借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率を用います(適用指針第37項)。IFRS第16号第26項と実質的に同じ考え方です。
違い①:少額リースの免除範囲が日本のほうが広い
ここが最も大きな差異です。IFRS第16号の少額資産免除は「新品時の価値」による絶対的な基準1本ですが、日本の適用指針第22項は3つの選択肢を用意しています。
| 基準 | 免除の要件 | 特徴 |
|---|---|---|
| IFRS第16号 (B3項・B4項) |
原資産が新品であったときの価値が少額であること | 絶対的な基準で判定し、借手にとっての重要性や借手の規模・状況には影響されない |
| 企業会計基準第34号 適用指針第22項(1) |
重要性が乏しい減価償却資産を購入時に費用処理している場合の、その基準額以下のリース | 基準額は利息相当額だけ高めに設定できる。原資産の単位ごとに適用可能 |
| 同 適用指針第22項(2)① | 企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、かつリース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース | 企業ごとの重要性判断を反映する規定で、IFRSには対応する定めがない |
| 同 適用指針第22項(2)② | 新品時の原資産の価値が少額であるリース | IFRS第16号と同じ発想の規定。リース1件ごとに選択できる |
実務上の意味は明確です。日本基準側で適用指針第22項(2)①(事業内容に照らした重要性)を使うと、その分は個別財務諸表でオフバランスのままになります。一方、連結IFRSではその契約もオンバランスの対象になり得ます。つまり、日本独自の免除を広く使うほど、連結修正の作業量が増えます。IFRS導入企業は、個別側の免除の使い方を「連結でどこまで戻す必要があるか」から逆算して決めるべきです。
違い②:日本にだけある簡便的取扱い
日本の適用指針には、IFRS第16号に対応する定めのない簡便的取扱いがいくつかあります。代表的なものは次の3つです。
- 使用権資産総額に重要性が乏しい場合の簡便法(適用指針第40項・第41項)。未経過リース料の期末残高が、当該残高・有形固定資産・無形固定資産の期末残高の合計に占める割合が10%未満なら、利息相当額を区分しない方法や定額法で配分する方法を選べます
- 借地権の設定に係る権利金等の取扱い(適用指針第27項)。原則は使用権資産に含めてリース期間で償却しますが、旧借地権・普通借地権については償却しない扱いも認められます
- 建設協力金等の差入預託保証金・敷金の会計処理(適用指針第29項〜第36項)。日本の不動産賃貸借慣行を前提とした具体的な定めが置かれています
いずれも日本の商慣行に配慮した規定で、IFRS第16号には同じ定めがありません。とくに10%基準の簡便法を個別で採用している場合、連結IFRSでは利息法での再計算が必要になります。
違い③:貸手の分類に数値基準があるかどうか
貸手の会計処理は、日本基準・IFRSとも借手ほど大きく変わっていません。どちらもファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類します。ただし判定方法が異なります。
IFRS第16号は、原資産の所有に伴うリスクと経済価値のほとんどすべてを移転するかどうかで判定し(第62項)、通常ファイナンス・リースに分類される状況の例として、所有権の移転、割安購入オプション、リース期間が経済的耐用年数の大部分を占めること、リース料の現在価値が公正価値のほとんどすべてに相当すること、特別仕様であることの5つを挙げています(第63項)。数値基準は示されていません。
これに対して日本の適用指針第62項は、現在価値基準(貸手のリース料の現在価値が原資産の現金購入価額の概ね90%以上)と経済的耐用年数基準(貸手のリース期間が原資産の経済的耐用年数の概ね75%以上)という数値基準を維持しています。また日本基準は、ファイナンス・リースをさらに所有権移転と所有権移転外に分類し、リース債権とリース投資資産に分けて計上する点も特徴です(会計基準第44項・第46項)。
なお貸手のリース期間についても違いがあります。IFRS第16号は借手と共通の定義ですが、日本基準は借手のリース期間と同様に決定する方法と、解約不能期間に再リース期間を加える方法のいずれかを選択できます(会計基準第32項)。
日本基準側の詳細は、新リース会計基準とIFRS16の違いは?日本基準独自の取扱いを解説で個別に整理しています。新リース会計基準そのものの全体像は新リース会計基準 完全ガイドもあわせてご覧ください。
🏢 IFRS導入企業が実務で押さえるべきこと
IFRSを任意適用する場合、適用できるのは連結財務諸表です。個別財務諸表は日本基準で作成しますから、リースについては連結と個別で異なる基準が並走する期間が生じます。
図4:連結IFRSと個別日本基準の適用時期(会計基準第58項をもとに3月決算企業の例で作成)
並走期間は連結修正が毎期発生する
3月決算の会社であれば、企業会計基準第34号の原則適用は2028年3月期からです(2026年3月期からの早期適用も可能)。それまでは個別が企業会計基準第13号のままですから、オペレーティング・リースとして賃貸借処理している契約について、連結上は使用権資産・リース負債を認識する修正仕訳を毎期作り続けることになります。
逆に言えば、企業会計基準第34号を適用したあとは、ASBJの開発方針(会計基準BC13項)のとおり、IFRS第16号の定めを個別に用いても基本的に修正が不要な状態に近づきます。したがってIFRS導入を検討している会社は、個別側で第34号を早期適用し、日本独自の簡便的取扱いをあえて使わないという選択が有力になります。連結修正を作り続けるコストと、早期適用の初期コストを比較して判断してください。
誰が・いつまでに・何を作るか
| 時期 | 担当 | 成果物 |
|---|---|---|
| 影響度調査 (着手〜2か月) |
経理部+総務・各事業所・海外子会社 | リース契約一覧(契約先・原資産・契約期間・年額リース料・更新条項の有無)。まず件数と金額を把握する |
| 論点整理 (3〜4か月目) |
経理部+外部専門家 | リース該当性の判定資料、リース期間の判断メモ、認識免除の適用方針、割引率のレートテーブル |
| 会計方針決定 (4〜5か月目) |
経理部+監査人 | リースに関する会計方針書。監査人との協議記録。子会社への展開資料 |
| 数値作成 (6か月目〜) |
経理部(+システム担当) | 契約別の償却スケジュール、組替仕訳、リース負債の残高一覧。管理ツールの整備 |
| 開示準備 (決算期の3か月前) |
経理部+外部専門家 | 注記のドラフト(クラス別の減価償却費・利息費用・短期リース費用・少額リース費用・キャッシュ・アウトフロー総額・使用権資産の増加額など) |
最も時間がかかるのは、実は最初の契約一覧の作成です。リース契約は経理部が管理していないことが多く、総務・購買・各事業所・海外子会社に散在しています。ここを2か月で終えられるかどうかが、プロジェクト全体のスケジュールを左右します。着手初日に、各部門への依頼フォーマットを配ることをおすすめします。
- 契約先・原資産の種類(不動産/車両/機器/サーバー等)・所在地
- 契約開始日・契約終了日・解約不能期間
- 年額リース料と支払サイクル(前払/後払・月次/年次)
- 更新オプション・解約オプションの有無と条件(違約金の額を含む)
- 購入オプション・残価保証の有無と金額
- 変動リース料の有無(指数・レート連動か、売上・使用量連動か)
- 敷金・保証金・権利金の有無と金額
- サービス部分(保守・清掃・管理費等)の有無と金額
IPO準備企業の場合
IPOに伴ってIFRSを導入する場合、リースは移行日時点の残高から作り込む必要があります。IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」には移行時の負担を軽減する免除規定が置かれていますので、どこまで遡って作業するかは初期の段階で監査人と合意しておいてください。初度適用の考え方は第11回 IFRS初度適用で整理しています。
また、店舗・オフィス・車両を多く抱えるビジネスモデルの場合、リースのオンバランス化は資本政策の説明にも影響します。上場申請時の財務数値をどう見せるかは、主幹事証券会社とも早めに共有しておくべき論点です。プロジェクト全体の進め方は第8回 IFRS導入プロジェクトの進め方を、収益論点との優先順位づけは第15回 IFRS15収益認識の5ステップをあわせてご覧ください。
⚖️ よくある質問
A. 借手の会計処理の骨格はほぼ一致するため、作業量は大きく減ります。ただし完全にゼロにはなりません。日本の適用指針にだけある少額リースの免除(第22項(2)①)、使用権資産総額10%未満の簡便的取扱い(第40項・第41項)、借地権の権利金等の取扱い(第27項)を採用している場合は、連結IFRSで戻す必要があります。これらを個別でも使わない方針にすれば、差異はさらに小さくできます。
A. IFRS第16号は具体的な金額を定めていません。基準が示しているのは、新品時の価値で判定すること、絶対的な基準であり借手の規模や重要性には影響されないこと(B3項・B4項)、該当し得る例としてタブレット・パソコン、小型のオフィス家具、電話が挙げられていること(B8項)、自動車は該当しないこと(B6項)です。実務では社内の閾値を設定して運用しますが、その水準の妥当性は監査人と事前に合意しておいてください。
A. 会計処理を選ぶことで指標を操作する発想は取らないでください。実務的な対応は、(1)影響額を事前に試算し、財務制限条項の指標定義を金融機関と確認する、(2)投資家向けに、リース料は従来から支払っていたキャッシュ・アウトフローであり、経済実態は変わっていない旨を説明する、(3)実際にリース契約の要否を見直す、の3つです。オンバランス化は多くのIFRS適用会社が通ってきた道であり、説明の型はすでに市場にあります。
📊 まとめ
リースは、会計処理そのものは単純なのに、対象契約を漏れなく集めるところで最も時間を取られる論点です。基準の読み込みより先に、契約の棚卸しに人と時間を割り当ててください。
| 論点 | 押さえるポイント |
|---|---|
| 基本の枠組み | 借手は原則としてすべてのリースについて使用権資産とリース負債を計上する。短期リースと少額資産のリースは認識の免除を選択できる(第5項)。ファイナンス・オペレーティングの区分は借手にはない(IFRS第16号第22項) |
| 計算の3つの前提 | リース期間(第18項)・リース料の範囲(第27項)・割引率(第26項)。この3つの決め方をグループで統一する |
| 損益への影響 | 減価償却費+利息費用に分解され、費用が前半に厚くなる。EBITDAは増加する |
| 認識免除 | 短期リース(12か月以内・購入オプションなし)は原資産のクラス単位、少額資産リースはリース単位で選択(第5項・第8項) |
| 日本基準との差異 | 骨格は一致。差は少額リースの免除範囲、使用権資産総額10%未満の簡便法、借地権の権利金等、貸手の数値基準の4か所に集中する |
| 適用時期 | 企業会計基準第34号は2027年4月1日以後開始年度から原則適用、2025年4月1日以後開始年度から早期適用可(会計基準第58項) |
| 進め方 | 最初の2か月で契約一覧を完成させる。総務・各事業所・海外子会社を巻き込む工程を先に置く |
なお、IFRS任意適用会社は2026年7月末現在で適用済297社・適用決定22社の合計319社となっています(日本取引所グループ公表)。リースのオンバランス化はこれらの会社がすでに通過した論点であり、先行事例の開示を参照しながら進められる領域です。
公認会計士・税理士 鈴木佑也(鈴木佑也公認会計士税理士事務所/東京都台東区)。監査法人でのIPO監査・上場企業監査の経験をもとに、IPO準備企業・上場企業のIFRS導入支援(論点検討・GAAP差異分析・数値作成・注記開示支援・コンバージョン支援)を行っています。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の会計処理の判断は、監査人・専門家にご確認ください。
【参考】企業会計基準委員会「企業会計基準第34号 リースに関する会計基準」「企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針」2024年9月13日公表/IFRS財団「IFRS 16 Leases」/日本取引所グループ「IFRS適用済・適用決定会社一覧」2026年7月末現在=適用済297社・適用決定22社・合計319社