事業承継税制の納税猶予が打ち切られるのはどんなとき?取消事由と年次報告書・継続届出書の期限を解説

事業承継税制(法人版・特例措置)は、自社株にかかる贈与税・相続税の全額を納税猶予できる制度です。ただし、申告書を出した時点で税負担が消えるわけではありません。猶予が続くかどうかは、その後何年にもわたって要件を満たし続け、決められた書類を期限内に出し続けられるかにかかっています。

実務で最も多いつまずきは、制度の入口ではなく出口側にあります。書類の提出を1回失念しただけで、猶予されていた税額の全額と利子税をまとめて納めることになる。この記事では、報告のサイクルと期限、そして納税猶予が打ち切られる事由を、公的な一次情報にもとづいて整理します。

  • 特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日、贈与・相続の期限は令和9年12月31日
  • 承継期間(5年)中は毎年、経過後は3年ごとに書類を提出し続ける必要がある
  • 年次報告書は基準日の翌日から3か月、継続届出書は5か月(経過後は3か月)が期限
  • 5年を過ぎると消える要件と、その後もずっと残る要件がある
  • 打ち切りの結末は「全額納付」「一部納付」「免除」の3通りに分かれる

事業承継税制は「申告して終わり」ではない

期限が近づいている2つの日付

法人版事業承継税制の特例措置は、平成30年度税制改正で創設された10年間限定の措置です。適用を受けるには、あらかじめ都道府県知事に特例承継計画を提出して確認を受け、そのうえで期限内に贈与または相続で株式を取得する必要があります。

特例承継計画の提出期限は、当初は令和8年3月31日とされていましたが、令和8年度税制改正により令和9年9月30日まで延長されました。一方で、贈与・相続そのものの適用期限は令和9年12月31日のままで、こちらは延長されていません。計画の提出には認定経営革新等支援機関の指導・助言が必要であり、そこから実際の株式移転までを逆算すると、検討に使える時間はそれほど残っていません。

猶予は「維持義務」とセットで与えられる

この制度は、担保の提供を条件に贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者の死亡など一定の事由が生じたときに初めて免除される仕組みです(租税特別措置法70条の7の5、70条の7の6)。免除にたどり着くまでの間、後継者と会社は要件を満たし続け、税務署と都道府県知事の双方に定期的な報告を続けなければなりません。

猶予されている間の義務は、大きく2系統に分かれます。都道府県知事への年次報告書(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律12条1項の認定に関する報告)と、所轄税務署への継続届出書です。提出先も期限も異なるため、どちらか一方だけを出していて他方を失念する、という事故が起こりやすいところです。

報告のサイクルは「5年間は毎年、その後は3年ごと」

報告の起点になるのは、最初に制度の適用を受けた贈与税または相続税の申告期限です。この申告期限の翌日から5年を経過する日までの期間を「(特例)経営(贈与)承継期間」といい、この5年間と、それ以降とで報告の頻度が変わります。

図1 納税猶予を続けるための報告サイクル (特例)経営(贈与)承継期間=5年 承継期間の経過後 申告期限 第1種基準日(1年ごと・5回) 第2種基準日(3年ごと) 5年間は毎年(第1種基準日) 基準日=申告期限の翌日から1年ごと ・年次報告書 → 都道府県知事 基準日の翌日から3か月以内 ・継続届出書 → 所轄税務署 基準日の翌日から5か月以内 経過後は3年ごと(第2種基準日) 基準日=承継期間の末日の翌日から 3年ごと ・継続届出書 → 所轄税務署 基準日の翌日から3か月以内 ・年次報告書の提出は不要

図1 申告期限を起点に、5年間は毎年、経過後は3年ごとに報告が続く

提出先も期限も違う2つの書類

年次報告書と継続届出書は、名前も提出先も期限も別物です。承継期間中は年次報告書を先に都道府県へ提出し、その写しと都道府県知事の確認書の写しを添えて税務署に継続届出書を出す、という順序になります。年次報告書が遅れると継続届出書も出せなくなるため、実質的には3か月の方が本当の締切です。

項目 年次報告書 継続届出書
提出先 都道府県知事 所轄税務署
承継期間中
(5年)
毎年、第1種基準日の翌日から3か月を経過する日まで 毎年、第1種基準日の翌日から5か月を経過する日まで
承継期間の
経過後
提出は不要 3年ごと、第2種基準日の翌日から3か月を経過する日まで
出さなかった場合 認定が取り消される 納税猶予の期限が確定し、提出期限の翌日から2か月以内に猶予税額の全額と利子税を納付

出典:国税庁「法人版事業承継税制の適用を受けられている方に~継続届出書の提出について~」、中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)申請マニュアル 第4章 認定の取消しについて」。

継続届出書については、期限までに提出できなかったことにやむを得ない事情があると認められる場合に、その事情の詳細を記載した継続届出書と添付書類を提出したときは、納税猶予が継続する取扱いがあります。ただしこれは例外的な救済であり、これを前提に運用すべきものではありません。

5年を過ぎると、消える義務と残る義務がある

承継期間の5年を無事に通過すると、要件はかなり軽くなります。後継者が代表者であり続けることや、同族で議決権の過半数を保ち後継者が筆頭であることといった「経営の座」に関する要件は、5年経過後は確定事由ではなくなります。

一方で、会社そのものの実態に関わる要件はその後もずっと残ります。解散、資産保有型会社・資産運用型会社への該当、総収入金額がゼロになること、欠損填補目的以外の資本金・準備金の減少、そして継続届出書の未提出は、5年経過後でも猶予税額の全額納付につながります。

要件・義務 承継期間(5年)中 5年経過後
後継者が代表者であること 必要 不要
同族で議決権の過半数・後継者が筆頭 必要 不要
上場・風俗営業に該当しないこと 必要 不要
黄金株を後継者以外が持たないこと 必要 不要
対象株式を継続して保有すること 必要(1株でも譲渡すれば全額) 必要(譲渡した部分に応じて一部納付)
資産保有型会社・資産運用型会社に該当しないこと 必要 必要
総収入金額がゼロでないこと 必要 必要
資本金・準備金を減少させないこと 必要 必要
年次報告書(都道府県) 毎年提出 不要
継続届出書(税務署) 毎年提出 3年ごとに提出

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打ち切られたときの結末は3通りに分かれる

「猶予が打ち切られる」と一括りにされがちですが、実際には事由ごとに、猶予税額の全額を納めるもの、一部を納めるもの、そして免除されるものに分かれます。会社を売る・たたむといった判断をする前に、自社の状況がどこに当たるのかを確認しておく必要があります。

図2 確定事由に該当したときの3つの結末 納税猶予の期限が確定する事由に該当 A 全額+利子税 ・後継者が代表者を退任 ・株式を1株でも譲渡 ・解散した ・資産保有型会社に該当 ・総収入金額がゼロ ・資本金や準備金の減少 ・年次報告書や継続届出 書を出さなかった B 一部+利子税 承継期間の経過後に 次の事由が生じた場合 ・株式の一部を譲渡 ・合併により消滅 ・株式交換や株式移転で 完全子会社になった C 猶予税額が免除 ・後継者が死亡した ・次の後継者へ免除対象 贈与をした ・贈与者(先代)が死亡 した(贈与税の場合) 免除届出書または免除申請 書の提出が必要

図2 同じ「打ち切り」でも、全額納付・一部納付・免除に分かれる

Aの事由のうち、代表者の退任、上場・風俗営業への該当、黄金株の保有、議決権の制限などは承継期間中に限って確定事由となります。Cのうち贈与者の死亡は、相続税の申告期限までに切替確認を受けることが前提です。

実務で足をすくわれやすい取消事由

1株でも譲渡すれば、承継期間中は全額納付

承継期間中に納税猶予の対象となっている株式を譲渡すると、たとえ1株でも認定が取り消されます。判定にあたっては、同じ会社の株式について適用を受けている株式と受けていない株式の両方を持っている場合、まず適用を受けていない株式から譲渡したものとみなされます。したがって、対象外の株式の範囲内で売却する限りは猶予が続きますが、その枠を1株でも超えた瞬間に全額納付となります。

黄金株が後継者以外の手に渡ったとき

拒否権付株式(会社法108条1項8号の種類株式、いわゆる黄金株)を後継者以外の者が持つことになった場合も、承継期間中は取消事由です。先代経営者が牽制目的で黄金株を残す設計は事業承継の場面でよく見られますが、事業承継税制と併用する場合は、その保有者が誰になるかを承継期間中ずっと管理しておく必要があります。

減資・準備金の取崩し

資本金の額の減少や準備金の額の減少も取消事由で、こちらは5年経過後も残ります。ただし、減少額の全額を準備金(または資本金)に振り替える場合と、欠損填補を目的とする場合は取消しになりません。外形標準課税や税務上の中小企業判定を意識した減資は実務でしばしば検討されますが、事業承継税制の適用を受けている会社では、その一手が猶予の打ち切りを招かないかを先に確認する必要があります。

資産保有型会社・資産運用型会社への該当

本業が細り、遊休不動産や有価証券の割合が高まると、資産保有型会社・資産運用型会社に該当して認定が取り消されます。これは5年経過後も残る要件です。ただし、事業活動上生じた偶発的な事由(事業資金の借入れや事業用資産の譲渡など)によって一時的に該当することとなった場合には、一定期間は該当しないものとみなす救済があります。

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打ち切られたときに払うもの ― 猶予税額と利子税

確定事由に該当すると、猶予されていた贈与税・相続税に加えて利子税を納付します。利子税は、贈与税・相続税の申告期限の翌日から納税猶予の期限までの日数に応じて、原則として年3.6%の割合で計算されます。

利子税の割合= 3.6% × 特例基準割合 ÷ 7.3%(0.1%未満の端数は切捨て)

各年の特例基準割合が7.3%に満たない場合は、上の算式で軽減されます。近年の特例基準割合は7.3%を大きく下回る水準で推移しているため、実際に適用される率は年3.6%より相当低くなります。適用される率は年によって変わるため、国税庁が公表している各年の割合を確認してください。

もう一つ押さえておきたいのが、承継期間を経過した後に猶予税額の全部または一部を納付する場合、承継期間(5年間)に対応する部分の利子税の割合は年0%に軽減されるという取扱いです。つまり、5年を通過してから確定事由が生じたケースでは、利子税の負担は5年経過後の期間分だけになります。逆に言えば、承継期間中に打ち切られると、猶予税額の全額に加えて申告期限からの利子税がまるごと乗ることになります。

雇用8割を下回っても、それだけでは取消しにならない

一般措置では、承継後5年間の平均で従業員数の8割を維持できないと納税猶予が打ち切られました。特例措置ではこの点が抜本的に見直され、8割を下回っても認定取消しにはなりません。

ただし無条件ではなく、その理由を都道府県に報告する義務があります。報告書(様式第27)には認定経営革新等支援機関が雇用減少の理由について所見を記載し、その理由が経営悪化あるいは正当ではない理由による場合には、あわせて経営改善のための指導及び助言を受ける必要があります。この報告書の提出期限は、承継期間の末日の翌日から4か月を経過する日です。

注意すべきは、報告そのものを怠った場合には猶予税額の全額を納付することになる点です。「8割を下回っても大丈夫」という理解だけが先行して報告を失念すると、緩和されたはずの要件が打ち切りの原因になります。5年目の年次報告と同じタイミングで、雇用の5年平均を必ず検算してください。

よくある質問

Q. 継続届出書を出し忘れたことに後から気づきました。どうすればよいですか。

提出期限を過ぎると、その翌日から2か月を経過する日までに猶予税額の全額と利子税を納付することになります。ただし、期限までに提出できなかったことにやむを得ない事情があると認められる場合に、その事情の詳細を記載した継続届出書と添付書類を提出したときは、納税猶予が継続する取扱いがあります。気づいた時点でただちに所轄税務署に相談してください。

Q. 複数の人から同じ会社の株式を承継した場合、報告の基準日はそれぞれ別になりますか。

別にはなりません。第1種基準日・第2種基準日は、その会社の株式等について制度の適用を受けるための最初の贈与税または相続税の申告期限を基準に決まります。後から相続で追加取得した分についても、同じ基準日で継続届出書を提出します。

Q. 後継者が病気で代表を続けられなくなった場合も打ち切りですか。

原則として承継期間中の代表者退任は取消事由ですが、精神障害者保健福祉手帳(1級)の交付、身体障害者手帳(1級または2級)の交付、要介護認定(要介護5)を受けたことなど、施行規則に定める「やむを得ない理由」に該当する場合は、退任しても取消事由に当たらないものとみなされます。

Q. 会社が成長して中小企業者に当たらなくなったら取消しですか。

認定後に事業の拡大や成長に伴って資本金や従業員数が増加し、中小企業者に該当しないこととなった場合であっても、それ自体は認定取消事由には該当しません。ただし上場会社等に該当した場合は、承継期間中であれば取消事由です。

まとめ

  • 特例承継計画は令和9年9月30日まで、贈与・相続は令和9年12月31日まで。計画の期限だけが延長され、適用期限は動いていない
  • 申告期限を起点に5年間は毎年、その後は3年ごとに報告が続く。年次報告書は3か月、継続届出書は5か月(経過後は3か月)
  • 5年経過後は代表者・議決権・黄金株などの要件は外れるが、解散・資産保有型会社・総収入金額ゼロ・減資・継続届出書はその後も残る
  • 確定事由は全額納付・一部納付・免除の3通り。承継期間を通過してから確定した場合、5年分の利子税は年0%に軽減される
  • 雇用8割未達は取消しにならないが、様式第27の報告を怠ると全額納付になる

事業承継税制は、選択した時点から次の世代に渡すまで走り続ける制度です。使うかどうかの判断と同じくらい、使った後に5年・10年と維持体制を回せるかどうかが重要になります。制度を使うかどうかの入口の判断については事業承継税制は使うべきか|猶予が打ち切られる場合と、使わない選択を、猶予を使わない場合の納税資金対策については自社株の相続税が払えないときは?金庫株とみなし配当課税の特例・取得費加算を解説をあわせてご覧ください。前提となる株価の水準は自社株評価は類似業種比準と純資産価額のどちらになるか|判定の順番で確認できます。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。相続税の申告と事業承継の支援を行っています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

参考:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」/同「申請マニュアル 第4章 認定の取消しについて」/国税庁「法人版事業承継税制」/同「法人版事業承継税制の適用を受けられている方に~継続届出書の提出について~」。根拠条文は租税特別措置法70条の7の5・70条の7の6、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律12条1項および同法施行規則。

本記事は令和8年(2026年)9月時点の法令・公表資料にもとづく一般的な解説です。個別の適用可否や手続きの詳細は、所轄税務署・都道府県の担当課または税理士にご確認ください。

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