※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
株式会社トランヴィア(証券コード545A)は、東証プライム市場に上場していた株式会社東邦システムサイエンス(以下「TSS」)と株式会社ランドコンピュータ(以下「R&D」)が、共同株式移転によって両社の完全親会社として設立した持株会社です。2026年3月2日に上場承認を受け、設立登記日である2026年4月1日に東証プライム市場に上場しました。公募や売出しによって新たに株主を募る通常の新規上場とは異なり、既存の上場会社の株主が、旧会社の株式に代えて新会社の株式を受け取る「テクニカル上場」です。本記事では、東京証券取引所に提出された「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」(2026年3月2日提出、全87ページ)を読み、持株会社化を検討している会社や上場準備会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできるポイントを整理します。
結論からいえば、トランヴィアのⅠの部は「上場会社同士が共同株式移転で持株会社をつくるとき、どの手続を、どの順番で、どう開示するか」を学ぶのに適した事例です。株式移転計画と定款の全文、株式移転比率の算定方法と公正性担保措置、旧会社の上場廃止と新会社の上場の日程、そして設立前の会社として「予定」で書かれたガバナンス体制が、ひとつの書類にまとまっています。財務情報が単純合算だけで、経理の状況や経営分析は両社の有価証券報告書を参照する構成になっている点も、通常のⅠの部との大きな違いです。
この記事の見出し
- トランヴィアとはどんな会社で、どのように上場したのか
- なぜ持株会社化を選んだのか――経営統合の背景と目的
- 両社の事業と収益モデル――何で稼ぐグループなのか
- 共同株式移転の手続はどう進んだのか
- 株式移転比率はどう決めたのか――算定方法と公正性担保措置
- 業績の推移と統合財務情報はどう読むか
- 株主構成と資本政策――公募も売出しもない上場
- コーポレート・ガバナンス――設立前の会社はどう書くのか
- 内部監査・内部統制――持株会社の体制は「同水準又はそれ以上」を予定
- 会計・開示の論点――持株会社化で何が変わるのか
- 事業等のリスクと審査で問われやすい点
- 持株会社化を検討する会社・上場準備会社が学べること
- よくある質問
- まとめ
- 本記事の根拠
トランヴィアとはどんな会社で、どのように上場したのか
トランヴィアは、本店を東京都文京区小石川一丁目(TSSの本店と同じ所在地)に置き、事業内容を「子会社等の経営管理及びこれらに附帯又は関連する一切の事業」とする純粋持株会社です。資本金は2,000百万円、資本準備金は500百万円、決算期は3月31日です。代表者は、TSSの代表取締役社長である小坂友康氏が代表取締役会長に、R&Dの代表取締役社長である福島嘉章氏が代表取締役社長に就く体制です。
Ⅰの部の表紙には、提出日の2026年3月2日時点で当社はまだ設立されておらず、設立予定日である2026年4月1日現在の状況を説明する「事前提出書類」であるため、特に必要な場合を除き予定・見込みである旨の表現を使っていない、という注記があります。提出会社もトランヴィア自身ではなく、TSSとR&Dの2社です。設立前の会社がⅠの部を出すという、テクニカル上場ならではの形式です。
| 項目 | 内容(Ⅰの部の記載) |
|---|---|
| 正式社名 | 株式会社トランヴィア(Toranvia Co.,Ltd.) |
| 証券コード・市場 | 545A・東京証券取引所プライム市場 |
| 上場承認日/上場日 | 2026年3月2日/2026年4月1日(設立登記日と同日) |
| 上場の形態 | 共同株式移転によるテクニカル上場(公募・売出しなし) |
| 完全子会社 | 株式会社東邦システムサイエンス(TSS)、株式会社ランドコンピュータ(R&D) |
| 株式移転比率 | TSS 1株に対し1.27株、R&D 1株に対し1株 |
| 発行済株式数(予定) | 普通株式39,954,430株(単元株式数100株) |
| 資本金・資本準備金 | 2,000百万円・500百万円 |
| 機関設計 | 監査役会設置会社(取締役12名うち社外4名、監査役3名うち社外2名) |
| 会計監査人 | 有限責任監査法人トーマツ(設立時会計監査人) |
| 従業員(2025年3月31日) | TSS 633名(単体)、R&D 563名(連結) |
| Ⅰの部の提出日 | 2026年3月2日(事前提出書類) |
新会社の上場までの流れを一枚にすると、次の図のようになります。統合前は、TSSとR&Dがそれぞれ東証プライム市場に上場していました。共同株式移転の効力発生日に、両社の株主が持っていた株式はすべて新会社が取得し、両社の株主には新会社の株式が割り当てられます。その結果、両社は新会社の完全子会社となり、新会社の株式が上場します。
図1 上場会社2社が共同株式移転で完全親会社を新設し、新会社の株式がテクニカル上場する。Ⅰの部「組織再編成の概要」をもとに作成
Ⅰの部とⅡの部の役割の違いや、Ⅰの部が公衆縦覧される書類であることについてはⅠの部とⅡの部は何が違うかで整理しています。テクニカル上場であっても、上場申請の書類としてⅠの部が作成され、東京証券取引所のウェブサイトで公開される点は通常の新規上場と同じです。
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なぜ持株会社化を選んだのか――経営統合の背景と目的
Ⅰの部の第一部「組織再編成に関する情報」は、本株式移転の背景から書き始めています。TSSは1971年6月に東邦生命保険相互会社の情報子会社として設立され、生命保険・損害保険・銀行・証券などの金融系システムを基軸に、通信・放送分野にも事業を広げてきました。R&Dは1971年1月に設立された独立系システムインテグレータで、金融、製造、流通、公共などの幅広い分野でシステム開発を中心としたITソリューションを提供してきました。
両社とも成長を続けてきた一方で、AI等の新技術による代替リスクや、大企業の規模拡大による競争激化が「持続的な企業価値の向上への懸念材料」になっていたと記載されています。そこでTSSが2024年8月にR&Dへ業務提携の協議を提案し、2024年9月30日に業務提携契約を締結しました。共同営業・共同開発を進めるなかで一定の効果は確認できたものの、さらなる企業価値の向上には事業・技術・人的資源の統合が必要だと考え、TSSは2025年5月にR&Dへ株式移転による経営統合を提案しました。そして2025年11月13日に、両社が「対等の精神に則り」、株式移転の方法で完全親会社を設立することを決定しています。
図2 Ⅰの部「本株式移転の背景」「本株式移転の目的及び見込まれるシナジー」をもとに作成
見込まれるシナジーとしては、(ア)顧客基盤と事業ポートフォリオの拡充(クロスセル・アップセル)、(イ)新規サービスの創出・プロジェクトの効率化(生成AI等の技術共有、プロジェクト監視手法やソフトウェア品質管理手法の共有)、(ウ)人財・組織体制の強化、(エ)コスト効率化と経営基盤の強化、の4つが挙げられています。業務提携の段階を経て、提携で確認できた効果と課題をもとに経営統合へ進んだ経緯が時系列で説明されている点は、組織再編の「必然性」を説明するうえで参考になる書き方です。
持株会社の形を選ぶ意味
2つの上場会社が統合する方法には、一方が他方を吸収合併する方法や、株式交換で一方が他方を完全子会社にする方法もあります。共同株式移転は、両社がそろって新設の持株会社の完全子会社になる方法で、どちらか一方が「存続会社」や「親会社」にならないため、対等の統合を形の上でも示しやすいという特徴があります。トランヴィアの場合も、代表取締役会長と代表取締役社長を両社のトップが分け合い、社外取締役も両社から2名ずつ就任する体制になっています。
一方で、持株会社の傘下に事業会社が並ぶ形は、グループ経営のための管理機能(経営企画、子会社管理、内部監査、グループ全体の内部統制など)を持株会社に新たに持たせる必要があります。後半で見るとおり、Ⅰの部では持株会社自体の体制の多くが「予定」または「未定」として書かれており、上場後に整備を進める項目が明示されています。
両社の事業と収益モデル――何で稼ぐグループなのか
トランヴィア自体は子会社の経営管理を行う会社で、事業はTSSとR&Dが担います。Ⅰの部の「事業の内容」は、両社の2025年3月31日時点の事業内容をそのまま並べる構成です。
TSSは「ソフトウェア開発」と「情報システムサービス等」の2つのセグメントで、保険・証券・銀行など金融系ユーザーと通信業向けを中心にソフトウェア開発を行い、あわせてユーザーのコンピュータの運用管理業務などを行っています。事業等のリスクの項には、2025年3月期の金融ソリューションの売上高が総売上高の70%超であること、株式会社野村総合研究所向けの販売実績が総販売実績の27%で長年顧客別の1位を続けていることが書かれています。
R&Dは「システムソリューションサービス」の単一セグメントで、サービスラインとして、中核の「システムインテグレーション・サービス」(金融、産業・流通、公共、医療などの受託開発)、「パッケージベースSI・サービス」(Salesforce、SuperStream、SAP、COMPANYなどの導入支援・カスタマイズ・アドオン開発)、「インフラソリューション・サービス」(サーバ・ネットワーク・データベース等の構築と運用・保守)の3つを展開しています。パッケージベースSIは2010年以降に立ち上げ、現在では売上高の30%以上に成長したと記載されています。大口顧客である富士通株式会社からの売上高は2025年3月期に25.8%(富士通グループ全体では31.6%)です。
| 項目 | TSS | R&D |
|---|---|---|
| 設立 | 1971年6月(東邦生命保険相互会社の情報子会社として) | 1971年1月(独立系SIer) |
| 本店 | 東京都文京区 | 東京都港区 |
| 資本金 | 526百万円 | 460百万円 |
| セグメント | ソフトウェア開発/情報システムサービス等 | システムソリューションサービス(単一) |
| 強み・主な分野 | 生命保険・損害保険を中心とする金融、通信 | 金融・製造・流通・公共、パッケージベースSI |
| 主要顧客 | 野村総合研究所(販売実績の27%) | 富士通(25.8%、グループ全体31.6%) |
| 子会社 | なし(その他の関係会社:光通信) | インフリー(100%)、テクニゲート(95.7%) |
| 従業員(2025年3月31日) | 633名(平均36.9歳) | 連結563名(単体514名・平均40.7歳) |
図3 子会社の状況は両社の2025年3月31日時点。光通信はTSSの議決権を間接所有(20.6%)しており、TSSのその他の関係会社とされている(Ⅰの部をもとに作成)
TSSには、株式会社光通信が「その他の関係会社」として記載されています。光通信はTSSの議決権を直接は所有していませんが、共同保有者である株式会社UH Partners 3、株式会社UH Partners 2などの親会社であり、実質的な影響力を有していると認められるため、その他の関係会社としているという説明です(被所有割合20.6%、すべて間接所有)。R&Dには連結子会社が2社あり、SAP導入コンサルティング等の株式会社インフリーと、会計パッケージシステムの開発・販売を行う株式会社テクニゲートです。
両社の事業は、いずれも人と時間を投入してシステムを開発する受託型が中心で、協力会社(外注先)との連携も欠かせません。R&Dの事業等のリスクには、2024年3月期の製造費用に占める外注費の割合が63.8%と記載されており、協力会社のシステムエンジニアと一体で大型案件に参入するための「コアパートナー制度」も紹介されています。
共同株式移転の手続はどう進んだのか
ここからが、持株会社化の実務の中心です。Ⅰの部は、株式移転計画の内容、株主総会の日程、反対株主の株式買取請求の方法、会社法に基づく事前備置書類まで、手続を具体的に記載しています。日程を整理すると次のとおりです。
図4 Ⅰの部「組織再編成に関する手続」「株式等の状況」「その他の参考情報」をもとに作成。上場承認日は東京証券取引所の公表による
2025年11月13日に、両社の取締役会で株式移転計画の作成と経営統合契約の締結を決議しました。翌11月14日に臨時株主総会の基準日を公告し、基準日は11月28日です。12月26日からは、会社法第803条第1項と会社法施行規則第206条に基づき、株式移転計画、株式移転比率と新会社の資本金・準備金の額の相当性に関する事項、相手方の計算書類等の内容、最終事業年度の末日後に会社財産の状況に重要な影響を与える事象の内容などを記載した書面を両社の本店に備え置いています。同じ12月26日には、新会社が有価証券届出書(組織再編成・上場)を関東財務局長に提出し、2026年1月19日と2月2日に訂正届出書を提出しています。
2026年1月16日の両社の臨時株主総会で、株式移転計画が承認可決されました。その後、両社は2026年2月2日付で新会社の普通株式について東証プライム市場への新規上場申請を行い、3月2日にⅠの部を提出、同日に上場承認を受けています。両社の株式は3月30日に上場廃止となり、4月1日に新会社の設立登記と上場が行われる日程です。
株式移転計画には何が書かれているか
Ⅰの部には株式移転計画書の写しが全文掲載されています。主な規定は、新会社の目的・商号・本店所在地・発行可能株式総数(120,000,000株)、設立時取締役・設立時監査役・設立時会計監査人の氏名と名称、交付する株式と割当て、資本金と準備金の額、成立日、株主総会の開催日、上場と株主名簿管理人、剰余金の配当、自己株式の取扱い、会社財産の管理、計画の効力と中止の条件です。
特徴的なのは、計画作成後から効力発生日までの「つなぎ期間」のルールです。第9条では、両社が支払える剰余金の配当の上限を、基準日ごとに1株あたりの金額で定めています(TSSは2025年9月30日基準で20円、2026年3月31日基準で25円が上限、R&Dはいずれも19円が上限)。それ以外の配当決議は、両社の合意がない限り行わないこととされています。第11条では、重大な影響を及ぼし得る行為は事前に協議・合意すること、株式移転比率の合理性に重大な悪影響を与えるおそれのある事象が判明したら書面で通知することが定められています。株式移転比率は計画作成時点の企業価値を前提にしているため、効力発生日までに価値を動かす行為を制限する仕組みです。
| 定款・計画の主な定め | 内容 |
|---|---|
| 発行可能株式総数 | 120,000,000株(単元株式数100株) |
| 取締役 | 16名以内、任期1年、選任決議は議決権の3分の1以上の出席で過半数、累積投票によらない |
| 監査役 | 6名以内、任期4年、監査役会・常勤監査役を置く |
| 剰余金の配当等 | 会社法第459条第1項の事項を取締役会決議で定めることができる(TSSの定款には同様の定めなし) |
| 株主総会の特別決議 | 議決権の3分の1以上の出席で、その3分の2以上 |
| 責任限定契約 | 業務執行取締役等でない取締役、監査役、会計監査人と締結できる |
| 設立当初の報酬枠(附則) | 取締役 年額500百万円以内、別枠で譲渡制限付株式 年額100百万円以内、監査役 年額50百万円以内 |
| 株主名簿管理人 | 三井住友信託銀行株式会社 |
Ⅰの部の第一部には「組織再編成対象会社の発行有価証券と組織再編成によって発行される有価証券との相違」という項目もあります。トランヴィアでは、新会社の定款に剰余金の配当等を取締役会決議で定められる旨の規定を置く一方、TSSの定款には同様の定めがないことが相違点として記載されています。株主の権利の内容が変わる点は、旧会社の株主にとって重要な情報であるため、比較して開示することが求められます。
株主総会の決議と反対株主の株式買取請求
株式移転計画は、両社それぞれの株主総会の特別決議による承認が必要です。Ⅰの部には、議決権の行使方法(出席、郵送、インターネット、機関投資家向けの議決権電子行使プラットフォーム)と行使期限、議決権の不統一行使の手続まで記載されています。
あわせて、会社法第806条に基づく反対株主の株式買取請求の手続も説明されています。株主総会に先立って反対の意思を通知し、総会で反対し、そのうえで所定の期間内に買取請求に係る株式数を明らかにして請求する必要があります。株式移転計画の第10条では、反対株主の買取請求に応じて取得する自己株式も含めて、両社が基準時に保有する自己株式の全部を、新会社の成立日の前日までに取締役会決議で消却すると定めています。
旧会社の上場廃止と新会社の上場の関係
テクニカル上場で最も特徴的なのが、旧会社の上場廃止と新会社の上場のタイミングです。両社は株式移転により新会社の完全子会社になるため、新会社の上場に先立ち、2026年3月30日に両社の株式は上場廃止となります。一方、新会社の株式は設立登記日である4月1日に上場します。Ⅰの部では、上場が承認された場合には、両社の株主は引き続き東京証券取引所で、本株式移転に際して交付された新会社の株式を取引できると説明しています。なお、上場日と上場廃止日は東京証券取引所の規則に従って決定されるとされています。両社株式の最終売買日は上場廃止日の前営業日(2026年3月27日)となるため、3月30日・31日は両社株式も新会社株式も市場で売買できない期間となります。
図5 両社の株式は2026年3月27日が最終売買日で3月30日に上場廃止となり(3月30日・31日は売買できない期間)、新会社の株式は設立登記日の4月1日に上場する(いずれもⅠの部では予定として記載)
テクニカル上場は、上場会社が組織再編によって非上場会社の子会社になる場合などに、株主が受け取る新会社の株式の流動性を確保するため、新規上場の審査について特例的な取扱いが設けられている手続です。通常の新規上場では、実質審査基準として「企業の継続性及び収益性」などが審査されますが、テクニカル上場には通常の新規上場とは異なる取扱いが設けられています。Ⅰの部でも、新会社の財務情報や経営分析は、上場会社である両社の有価証券報告書等を参照する形で記載されています。通常の新規上場の審査項目はIPOの実質審査基準とは、プライム・スタンダード市場の審査で中心になる収益性の考え方はIPO審査の「企業の継続性及び収益性」で解説しています。
株式移転比率はどう決めたのか――算定方法と公正性担保措置
株式移転比率は、TSSの普通株式1株に対して新会社の普通株式1.27株、R&Dの普通株式1株に対して新会社の普通株式1株です。新会社が交付する株式数は、2025年3月31日時点の発行済株式総数(TSS 20,798,988株、R&D 17,967,900株)を基礎に、両社が同日時点で保有する自己株式(TSS 3,474,370株、R&D 15,734株)を除外して計算した普通株式39,954,430株と記載されています。両社は効力発生日までに、保有する自己株式や今後取得する自己株式のうち実務上消却可能な範囲を消却する予定であるため、実際に発行される株式数は変動することがあると注記されています。
図6 2025年3月31日の発行済株式総数と自己株式数を基礎にした予定数。実際に消却される自己株式数により変動する(Ⅰの部をもとに作成)
TSSの自己株式は2025年9月30日現在で3,457,300株、発行済株式総数に対する割合は16.62%です。自己株式に新会社の株式を割り当てると、完全子会社が親会社株式を持つことになってしまいます。株式移転計画で自己株式の全部消却を定めているのは、こうした状態を避けるためで、上場会社同士の株式移転では欠かせない論点です。
また、Ⅰの部は単元未満株式の扱いにも触れています。新会社の単元株式数は100株で、TSSの株式を79株以上、又はR&Dの株式を100株以上保有していれば、新会社の株式を1単元以上受け取れます。100株未満の割当てを受ける株主は、市場で売却することはできませんが、会社法第192条第1項に基づき単元未満株式の買取りを請求できると説明されています。1株未満の端数については、会社法第234条などに従って端数に応じた金額が支払われます。
2つの算定機関と3つの算定手法
株式移転比率の公正性・妥当性を確保するため、TSSはSMBC日興証券株式会社を、R&Dは野村證券株式会社を、それぞれ両社から独立したファイナンシャル・アドバイザー(FA)兼第三者算定機関として選定しました。両社とも上場していて市場株価があるため市場株価法(野村證券は市場株価平均法)、類似する上場会社が複数あるため類似上場会社比較法(類似会社比較法)、将来の事業活動に基づく価値を評価するためDCF法を採用しています。算定基準日は2025年11月12日です。
図7 R&D株式1株に対し新会社株式1株を割り当てる場合に、TSS株式1株に割り当てる新会社株式数の算定レンジ。算定基準日は2025年11月12日(Ⅰの部をもとに作成)
算定レンジは、SMBC日興証券が市場株価法1.17~1.43、類似上場会社比較法1.03~1.35、DCF法0.83~1.43、野村證券が市場株価平均法1.16~1.43、類似会社比較法0.84~1.27、DCF法1.18~1.34です。最終的な比率1.27は、それぞれの算定レンジの中に収まっています。
DCF法の前提となった事業計画について、両算定機関とも本株式移転によるシナジー効果は織り込んでいないと記載されています。また、R&Dの事業計画には大幅な増減益を見込む事業年度が含まれており、2024年3月期末から2025年3月期第1四半期に発生した大規模不採算プロジェクトが2025年3月末で終了し、損失発生要因が解消されたことを主因として、2026年3月期は営業利益39%増、EBITDA36%増を見込んでいると説明されています。算定の前提となった事業計画の特徴は、比率の妥当性を株主が判断するうえで重要な情報です。未上場会社の株価算定で使う手法の考え方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかで整理しています。
公正性担保措置とフェアネス・オピニオン
図8 Ⅰの部「公正性を担保するための措置」「利益相反を回避するための措置」をもとに作成
公正性を担保するための措置として、Ⅰの部は(ア)独立した第三者算定機関からの株式移転比率算定書の取得、(イ)独立した法律事務所からの助言の2つを挙げています。法務アドバイザーは、TSSが中村・角田・松本法律事務所、R&Dが森・濱田松本法律事務所です。両社は相手方に対するデュー・ディリジェンスも実施し、その結果も踏まえて比率を判断しています。
一方で、両社とも算定機関から「フェアネス・オピニオン」(比率が財務的見地から妥当又は公正である旨の意見書)は取得していないと明記されています。また、両社の間に特段の利益相反関係は生じないため、利益相反を回避するための特別な措置は講じていないとしています。算定機関の報酬には、本株式移転の成否にかかわらず支払われる固定報酬のほか、完了を条件に支払われる成功報酬が含まれていることも記載されています。どの措置を講じ、どの措置を講じなかったのかを、その理由とともに書き分けている点が、この種の開示の読みどころです。
業績の推移と統合財務情報はどう読むか
トランヴィアは新設会社のため、Ⅰの部の「主要な経営指標等の推移」は「統合財務情報に記載のとおり」とされ、統合財務情報には新会社自体の財務情報はないと書かれています。そのかわりに、TSSの最近事業年度(単体)とR&Dの最近連結会計年度の売上高・経常利益・当期純利益を単純に合算した数値と、両社それぞれの主要な経営指標等の推移が掲載されています。
図9 TSSの2025年3月期(単体)とR&Dの2025年3月期(連結)の単純合算で、監査証明を受けていない。百万円未満四捨五入のため合計が一致しない場合がある(Ⅰの部「統合財務情報」より)
単純合算は、売上高31,073百万円、経常利益3,090百万円、当期純利益(R&Dは親会社株主に帰属する当期純利益)2,218百万円です。Ⅰの部は、これが単純な合算値にすぎず、監査法人の監査証明を受けていない記載であることに注意を促しています。また、それ以外の指標は単純な合算が困難で、合算するとかえって投資家の判断を誤らせるおそれがあるため、合算していないと説明しています。合算できる項目とできない項目を区別し、その理由を書いている点は、連結決算を伴う組織再編の開示として参考になります。
図10 TSSは単体、R&Dは連結(R&Dは2022年3月期から連結財務諸表を作成)。千円単位の数値を百万円未満四捨五入(Ⅰの部「統合財務情報」をもとに作成)
図11 TSSは単体、R&Dは連結。R&Dの2025年3月期の減益について、算定機関の前提では2024年3月期末から2025年3月期第1四半期に発生した大規模不採算プロジェクトに言及している(Ⅰの部をもとに作成)
| 指標(2025年3月期) | TSS(単体) | R&D(連結) |
|---|---|---|
| 売上高 | 17,342,598千円 | 13,730,729千円 |
| 経常利益 | 1,627,234千円 | 1,463,371千円 |
| 当期純利益 | 1,194,944千円 | 1,023,309千円(親会社株主帰属) |
| 純資産額 | 8,820,852千円 | 5,994,685千円 |
| 総資産額 | 12,975,071千円 | 8,348,284千円 |
| 自己資本比率 | 68.0% | 71.55% |
| 自己資本利益率 | 13.1% | 17.45% |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 1,361,035千円 | 829,675千円 |
| 現金及び現金同等物の期末残高 | 9,156,161千円 | 3,616,429千円 |
| 従業員数 | 633名 | 563名 |
TSSの売上高は2021年3月期の12,189,086千円から2025年3月期の17,342,598千円まで毎期増加し、経常利益も1,085,671千円から1,627,234千円へ増えています。R&Dは2022年3月期から連結財務諸表を作成しており、売上高は9,596,440千円から2024年3月期に13,732,744千円まで増え、2025年3月期は13,730,729千円とほぼ横ばいでした。経常利益は2024年3月期の1,743,967千円から2025年3月期は1,463,371千円に減少しています。
R&Dの事業等のリスクには、業績の季節変動として、第2四半期と第4四半期に売上計上が集中し営業利益が偏重する傾向があることが記載され、四半期ごとの数値も示されています。2025年3月期の営業利益は、第1四半期109,079千円、第2四半期370,188千円、第3四半期386,244千円、第4四半期568,294千円で、通期1,433,806千円のうち第4四半期が39.6%を占めています。期末月の検収が翌期にずれると業績に影響が出るため、検収時期の管理は受託開発型の会社にとって重要な論点です。
両社の財務体質は、自己資本比率がTSS 68.0%、R&D 71.55%と高い水準にあります。TSSの財務活動によるキャッシュ・フローは2025年3月期に△1,918,621千円と、前期の△615,904千円から支出が大きく増えています。Ⅰの部の主要な経営指標等には増加の内訳は記載されていませんが、TSSは同期に純資産額も9,365,684千円から8,820,852千円に減少しています。
新会社の経営方針、経営者による財政状態・経営成績の分析(MD&A)、経理の状況、設備の状況、研究開発活動などは、いずれも「新設会社であるため該当事項なし」とされ、両社の有価証券報告書(TSSは2025年6月24日、R&Dは2025年6月25日提出)と半期報告書(TSSは2025年11月14日、R&Dは2025年11月13日提出)を参照するよう記載されています。第四部の財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)も、決算期を迎えていないため該当事項なしです。テクニカル上場のⅠの部は、新会社の情報と完全子会社の既存の開示書類を組み合わせて読む書類だといえます。
読みながら、自社の場合はどうなるかが気になっていませんか
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株主構成と資本政策――公募も売出しもない上場
通常の新規上場では、公募増資や売出しによって株主数を増やし、流通株式の要件を満たします。トランヴィアは株式移転で両社の株主に新会社の株式を交付するため、上場時の株主は両社の株主そのものです。2025年9月30日現在の株主数はTSSが19,878人、R&Dが11,982人で、両社とも所有株式数の8割以上を「個人その他」が占めています(TSSは自己株式を含めて81.091%、R&Dは83.82%)。
Ⅰの部の「大株主の状況」は、両社の2025年3月31日現在の株主の状況に株式移転比率を勘案した、2026年4月1日時点で想定される大株主を示しています。
図12 両社の2025年3月31日の株主状況に株式移転比率を勘案した想定値。割合は発行済株式(自己株式を除く)に対するもの。青は法人等、橙は個人、緑は従業員持株会(Ⅰの部「大株主の状況」より)
上位10名の合計は15,907千株で、発行済株式(自己株式を除く)に対する割合は39.81%です。筆頭株主は株式会社UH Partners 3(5.44%)で、株式会社UH Partners 2(4.02%)も上位に入っています。代表取締役社長の福島嘉章氏が5.19%、東邦システムサイエンス従業員持株会が5.08%を保有する想定です。これらの比率は、あくまで2025年3月31日の株主の状況をもとにした「想定」であり、上場後の実際の株主構成とは異なる場合があります。
なお、Ⅰの部の数値から単純計算すると、TSSの株主に交付される株式は約22,002千株(自己株式控除後のTSS株式17,324,618株×1.27)、R&Dの株主に交付される株式は17,952,166株で、新会社の株式のおおむね55%をTSSの株主が、45%をR&Dの株主が持つことになります。ただし、実際の株式数は効力発生日までに消却される自己株式数によって変わります。
新株予約権・自己株式・配当政策
両社とも、本報告書提出日現在において新株予約権と新株予約権付社債を発行しておらず、新会社のストックオプション制度、ライツプラン、その他の新株予約権もすべて「該当事項はありません」です。通常の上場準備会社では潜在株式の整理が大きなテーマになりますが、本件では株式移転で承継すべき新株予約権がない、シンプルな株式構成です。新会社は設立時に自己株式を保有せず、自己株式の取得等の状況も新設会社のため該当なしです。
配当政策については、基本的な方針や内部留保資金の使途は新設会社のため「未定」です。剰余金の配当の基準日は期末3月31日・中間9月30日とし、配当を取締役会決議で行える旨を定款に定めるとしています(株主総会決議による配当を排除するものではないと付記)。また、最初の事業年度は2026年9月30日を基準日として取締役会決議で中間配当をすることができると定款附則に定めています。上場直後の配当方針は投資家の関心が高いため、方針が未定の場合はその旨と、決定機関・基準日といった決まっている事項を明確に分けて書くことになります。
流通株式の考え方は、上場後もプライム市場の上場維持基準との関係で重要です。流通株式からは、上場株式数の10%以上を所有する者(主要株主)、役員等、自己株式などが除かれます。大株主の想定では10%以上を保有する株主はいませんが、役員等の持株は除かれます。計算方法は流通株式比率の計算式と調べ方で解説しています。
コーポレート・ガバナンス――設立前の会社はどう書くのか
Ⅰの部のコーポレート・ガバナンスの項は、「当社は、いわゆるテクニカル上場により2026年4月1日より東京証券取引所プライム市場に上場する予定であり、本株式移転により当社の完全子会社となるTSS及びR&Dと同水準又はそれ以上のコーポレート・ガバナンスを構築していく予定」という一文から始まります。そのうえで、本報告書提出日現在で予定されている事項を記載し、それ以外は「新設会社であるため、未定」としています。
機関設計――監査役会設置会社を選んだ理由
新会社は監査役会設置会社を採用します。その理由として、経営の適法性を確保することが中長期的な企業価値向上の重要な前提であり、取締役会から独立した監査役と社外監査役が独任制に基づいて監査する形態が、経営の適法性を確保するうえで最適だと判断したと記載されています。両社とも監査役会設置会社であり(R&Dは非常勤監査役を含む4名体制)、その体制を引き継いだ形です。
図13 取締役会12名(うち社外4名)、監査役会3名(うち社外2名)。指名・報酬諮問委員会は設置予定で構成員は提出日時点で未定。持株会社自体の内部監査部門はⅠの部に記載がない(Ⅰの部をもとに作成)
取締役会は12名で構成され、定時取締役会を毎月1回開催し、必要に応じて臨時取締役会を開催します。すべての監査役が取締役会に出席する仕組みを整備する予定です。監査役会は3名で原則として毎月1回開催し、年度監査計画に沿って監査を行い、会計監査人と内部監査部門と連携します。会計監査人は、株式移転計画で設立時会計監査人と定めた有限責任監査法人トーマツです。
任意の機関として、指名・報酬諮問委員会を設置する予定です。取締役会の諮問機関として、取締役の選任・解任に関する方針や役員報酬の決定方針等を審議して答申します。構成員は本報告書提出日時点で未定ですが、委員長は社外取締役が務め、委員の過半数を社外取締役で構成するとしています。監査役会設置会社と監査等委員会設置会社の比較は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?、機関設計の審査上の考え方はIPO審査の「機関設計」とはをご覧ください。
取締役・監査役の構成と社外役員
役員は男性13名・女性2名の15名(女性比率13.3%)で、取締役12名のうち4名が社外取締役、監査役3名のうち2名が社外監査役です。4名の社外取締役は東京証券取引所の定めに基づく独立役員として指定し、届け出る予定とされています。プライム市場の上場会社には、コーポレートガバナンス・コードの全原則(プライム市場向けの原則を含む)が適用され、原則4-10(2026年7月改訂前は原則4-8)ではプライム市場上場会社に独立社外取締役を少なくとも3分の1以上選任することを求めています。トランヴィアの取締役会は12名中4名で、ちょうど3分の1にあたります。
図14 各氏が本報告書提出日現在に役員を務める会社で区分。代表取締役会長はTSSの代表取締役社長、代表取締役社長はR&Dの代表取締役社長(Ⅰの部「役員の状況」をもとに作成)
| 役職 | 氏名 | 主な経歴(Ⅰの部の要約) | 割り当てられる当社株式 |
|---|---|---|---|
| 代表取締役会長 | 小坂 友康 | 1989年TSS入社、2018年4月からTSS代表取締役社長執行役員 | 203,629株 |
| 代表取締役社長 | 福島 嘉章 | 三井東圧化学(現三井化学)を経て2014年R&D入社、2018年6月からR&D代表取締役社長 | 2,073,100株 |
| 取締役 | 笹沼 一寿 | TSS取締役・常務執行役員人財開発本部長 | 52,912株 |
| 取締役 | 砂賀 昌代 | TSS取締役・常務執行役員経営管理本部長 | 29,245株 |
| 取締役 | 石井 孝典 | TSS常務執行役員営業開発本部長兼第五事業部長 | 28,928株 |
| 取締役 | 山村 敬一 | 富士通出身、R&D取締役常務執行役員、インフリー代表取締役社長 | 5,800株 |
| 取締役 | 弘長 勇 | R&D取締役執行役員、テクニゲート代表取締役社長 | 79,590株 |
| 取締役 | 奥野 文俊 | R&D取締役執行役員経営管理本部長、子会社2社の監査役 | 6,242株 |
| 社外取締役 | 森田 宏之 | 日鉄ソリューションズ代表取締役社長等を歴任、TSS取締役 | 139株 |
| 社外取締役 | 植村 明 | 日立ソフトウェアエンジニアリング出身、日本証券テクノロジー代表取締役社長、TSS取締役 | ― |
| 社外取締役 | 秋田 一郎 | 東京都議会議員、R&D取締役 | ― |
| 社外取締役 | 木村 ひろみ | 情報サービス業界での経営経験、R&D取締役 | 300株 |
| 監査役(常勤) | 田邊 直樹 | TSS取締役を経て2023年6月からTSS常勤監査役 | 145,129株 |
| 社外監査役 | 工藤 克彦 | 三井住友トラスト・ホールディングス専務執行役員等、TSS監査役 | ― |
| 社外監査役 | 廣瀬 利彦 | 富士通出身、2023年6月からR&D監査役 | ― |
表の「割り当てられる当社株式」は、2025年3月31日現在の両社株式の所有状況に株式移転比率を掛けた数で、実際の割当数は設立日直前までの所有株式数によって変動すると注記されています。役員の任期は、取締役が設立日から2027年3月期に係る定時株主総会終結時まで、監査役が2030年3月期に係る定時株主総会終結時までです。
社外役員については、それぞれ当社との利害関係と、企業統治で果たす機能・役割が記載されています。森田氏と木村氏は株式移転で割り当てられる当社株式(139株、300株)以外に利害関係が生じる予定はなく、その他の4名は利害関係が生じる予定はないとされています。独立性の基準については、新会社は新設会社で独立性に関する基準を定めていないものの、両社はそれぞれ独立性基準を定めており、新会社も東京証券取引所の独立性に関する判断基準を踏まえて独立役員を選任・確保していく方針と記載されています。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要かで解説しています。
役員報酬――定款附則で上限を定める
新会社は、設立日から最初の定時株主総会終結時までの役員報酬の上限を、定款の附則で定めています。取締役の金銭報酬は年額500百万円以内、これとは別枠で社外取締役を除く取締役に対する譲渡制限付株式(RS)に関する金銭報酬債権は年額100百万円以内(各事業年度に割り当てるRSの総数は200,000株が上限)、監査役の報酬は年額50百万円以内です。
図15 設立日から2027年3月期に係る定時株主総会終結時までの報酬等の上限を定款附則で定める。報酬等の決定方針は今後策定予定(Ⅰの部「役員の報酬等」をもとに作成)
RSには、譲渡制限期間が20年から30年の「Ⅰ型」と、3年から5年の「Ⅱ型」の2種類があります。払込金額は、取締役会決議日の前営業日の終値を基礎に、特に有利な金額とならない範囲で決定します。最初の定時株主総会の前日までに退任した場合は、正当な理由がある場合を除き会社が無償で取得し、組織再編等が承認された場合には期間に応じた数の譲渡制限を解除する仕組みです。
一方、役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針は「今後策定する予定」とされ、役員区分ごとの報酬総額や、方針の決定権限を有する者の記載は新設会社のため該当なしです。報酬の具体的な額は、取締役は取締役会で、監査役は監査役会の協議で決定する予定です。報酬の決定方針や決定権限の開示は、有価証券報告書の記載事項(企業内容等の開示に関する内閣府令)に基づくもので、上場後最初の有価証券報告書までに方針を固めることになります。
関連当事者との取引については、新会社は新設会社であり、Ⅰの部には新会社としての記載はありません。完全子会社となる両社の関連当事者取引は、それぞれの有価証券報告書で開示されています。
内部監査・内部統制――持株会社の体制は「同水準又はそれ以上」を予定
内部統制システム、リスク管理体制、グループの業務の適正を確保する体制についても、Ⅰの部は「予定」で書かれています。両社では、会社法と会社法施行規則に基づく内部統制システムの基本方針を取締役会で決議し、整備を進めています。また「リスク管理規程」を定めて、ビジネス上のリスクを識別し総合的にコントロールしています。新会社は、両社と同水準又はそれ以上の内部統制システムを整備して業務の適正を確保していく予定とされ、グループ会社の取締役等が事業運営に関わる事項を適宜新会社の取締役と監査役に報告する体制を整える予定です。
完全子会社2社の内部監査体制
新会社自体の内部監査の状況は「新設会社であるため、該当事項はありません」です。そのかわりに、完全子会社となる両社の内部監査の状況が記載されています。2社の体制は、規模も報告経路も異なります。
図16 Ⅰの部提出日現在の両社の体制。新設の持株会社自体の内部監査体制は記載がない(Ⅰの部「内部監査の状況」をもとに作成)
TSSでは、業務執行部門から独立した社長直属の内部監査担当を2名配置しています。内部監査規程と監査計画に従って業務全般を監査し、社長に内部監査報告書を提出し、その写しを常勤監査役と監査対象部門に連携します。指摘事項への回答や是正を求め、実施状況を確認するところまでが内部監査担当の役割です。金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制の評価と報告も内部監査担当が実施し、その結果は内部統制委員会と取締役会に年4回の定期報告と年度総括報告として報告しています。
TSSの記載で注目したいのは、レポーティングラインです。内部監査担当は業務執行部門から独立し、「社長及び取締役会の2つの報告経路」を保持していると記載されています。常勤監査役とは隔月で意見交換会を行い、コンプライアンス委員会、ビジネスリスク評価検討会、内部通報制度の活動にも加わって、直接課題を提起しているとされています。
R&Dでは、代表取締役直轄の内部監査室を設置し、監査責任者1名(内部監査室長)を任命しています。全部門を対象に計画的に監査を行い、代表取締役社長に報告するとともに被監査部門に助言・勧告し、改善状況を確認しています。内部監査結果の概要と是正状況は、毎年期末月の3月に開催する取締役会で報告され、取締役会には全監査役が出席しています。
持株会社化すると、内部監査は「持株会社がグループ全体をどう監査するか」という設計の問題になります。持株会社に内部監査部門を置いて子会社を監査するのか、子会社の内部監査部門を残して持株会社が統括するのか、財務報告に係る内部統制の評価をどこが担うのか、といった論点です。内部監査の人数の考え方は内部監査の人数と体制、社長だけでなく取締役会や監査役へ報告する経路の考え方は内部監査の報告先は社長だけでよいのかで解説しています。
監査役監査と三様監査の連携
監査役監査の状況も、両社の記載が掲載されています。TSSの監査役会は常勤監査役1名と社外監査役2名で、最近事業年度は監査役会を19回、取締役会を18回開催しました。常勤監査役の田邊直樹氏はいずれも全回出席です。TSSの監査役会は、監査の方針、重点監査事項、常勤と社外の活動分担を表で示しており、常勤監査役が経営会議や内部統制委員会などの重要会議への出席、稟議書類の確認、日次会計帳票の確認、内部監査担当との意見交換などを担っています。2021年3月期から毎年、全監査役へのアンケートによる監査役会の実効性評価を10項目で実施していることも特徴です。
R&Dの監査役会は、常勤監査役1名、非常勤社外監査役2名、非常勤監査役1名の4名で、最近事業年度は14回開催し、4名とも全回出席しています。常勤監査役は廣瀬利彦氏で、新会社では社外監査役に就任します。新会社の監査役会は、TSSの常勤監査役である田邊直樹氏、TSS監査役の工藤克彦氏、R&D常勤監査役の廣瀬氏の3名で構成され、工藤氏と廣瀬氏が社外監査役です。新会社の定款では、監査役会が監査役の中から常勤の監査役を選定すると定めています。
新会社では、監査役と内部監査担当者と会計監査人がそれぞれの監査計画・監査結果を報告して情報共有を図り、会計監査人による監査報告会や内部統制評価を通じて情報交換を行う予定と記載されています。三様監査の連携の考え方は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)をご覧ください。
会計・開示の論点――持株会社化で何が変わるのか
経理の状況は「当社は新設会社であり、本報告書提出日現在において決算期を迎えていないため、該当事項はありません」とされ、両社の有価証券報告書と半期報告書を参照する形です。したがって、トランヴィアのⅠの部からは、収益認識の方法や重要な会計上の見積りといった会計方針を新会社として読み取ることはできません。株式移転の会計処理(取得企業の決定、のれんの有無や金額など)についても記載はありません。そこで本節では、Ⅰの部に書かれている事実を確認したうえで、共同株式移転の一般的な会計の考え方を整理します。
共同株式移転の会計処理の一般的な考え方
図17 企業結合に関する会計基準及び関連する適用指針に基づく一般的な整理。トランヴィアの会計処理(取得企業の決定やのれんの額)はⅠの部に記載がない
企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」と企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」では、共通支配下にない会社同士が共同株式移転で持株会社を設立する場合、通常は「取得」として会計処理します。その際、完全子会社となる会社のうちいずれか一方を「取得企業」として決定します。取得企業の決定にあたっては、統合後の会社に対する各株主グループの相対的な議決権比率、取締役会等の構成、相対的な規模などの要素を総合的に考慮します。
新会社の個別財務諸表では、取得企業とされた子会社の株式は、株式移転日の前日における取得企業の適正な帳簿価額による株主資本の額にもとづいて計上し、被取得企業とされた子会社の株式は、取得の対価(時価が基礎)で計上します。連結財務諸表では、被取得企業の資産・負債を時価で受け入れ、取得原価との差額がのれん(又は負ののれん)になります。のれんは20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって規則的に償却し、減損の兆候があれば減損の判定を行います。また、算定機関や法律事務所への報酬などの取得関連費用は、連結財務諸表上は発生した事業年度の費用として処理します(持株会社の個別財務諸表では、被取得企業の株式の取得原価に付随費用として加算するのが基本です)。
トランヴィアの場合、Ⅰの部の数値から単純計算すると新会社株式のおおむね55%がTSSの株主、45%がR&Dの株主に交付されますが、どちらが取得企業とされたのか、のれんがいくら生じたのかはⅠの部には書かれていません。こうした情報は、新会社の上場後最初の決算書類で開示されることになります。のれんが生じる組織再編の審査上の論点はIPO審査でのれんの減損リスクはどう見られるかで解説しています。
開示の論点――「予定」と「参照」で組み立てるⅠの部
開示面でトランヴィアのⅠの部から読み取れるのは、新設会社として書けることと書けないことの切り分け方です。決まっている事項(定款、株式移転計画、役員の就任予定者、報酬の上限、会計監査人の予定)は具体的に記載し、決まっていない事項(配当方針、報酬の決定方針、指名・報酬諮問委員会の構成員、子会社との取引関係、従業員数など)は「未定」と明記し、完全子会社が既に開示している事項(事業の状況、経理の状況、設備、研究開発など)は提出済みの書類を日付まで特定して参照させています。
また、「その他の参考情報」には、新会社が提出した有価証券届出書(組織再編成・上場)と訂正届出書、両社が提出した有価証券報告書、半期報告書、臨時報告書(株主総会の決議と株式移転の決定に関するもの)が一覧になっています。組織再編による上場では、金融商品取引法の開示書類、会社法の事前備置書類、取引所への上場申請書類が並行して作られるため、記載内容と日付の整合性をとることが重要です。開示体制の整え方はIPOの適時開示体制も参考になります。
事業等のリスクと審査で問われやすい点
事業等のリスクは、(1)経営統合に関するリスク、(2)TSSの事業等のリスク、(3)R&Dの事業等のリスクの3層で構成されています。新会社の設立後は、両社の事業等のリスクが新会社の事業等のリスクとなり得るためと説明されています。
図18 経営統合に関するリスクに加え、完全子会社となる両社の事業等のリスクがグループのリスクとなり得るとして並べて記載されている(項目名は要約)
経営統合に関するリスクとしては、何らかの事情で株式移転計画の内容が変更になるリスク、経済情勢の急激な悪化や金融市場の混乱等で予定どおりに経営統合が進まないリスク、期待されるシナジー効果が十分に発揮されないリスクの3つが挙げられています。
TSSのリスクは11項目で、人財の採用・育成、情報セキュリティ、大規模災害、システム開発の品質確保と仕損防止、金融ソリューションへの依存(2025年3月期の売上高の70%超)、人月ビジネスからの脱却、情報管理、M&A・資本提携、知的財産権、退職給付費用及び債務、特定顧客への依存(野村総合研究所27%)です。仕損防止については、ISO9001に適合した品質管理システムに加え、プロジェクト革新室が商談検討会や見積検討会、週次・月次のモニタリングを行っていると記載されています。
R&Dのリスクは12項目で、景気変動、プロジェクト管理、顧客情報等の漏洩、クラウドコンピューティングへの取り組み、特定顧客依存(富士通25.8%)、人材確保、ビジネスパートナー依存(2024年3月期の製造費用に占める外注費63.8%)、低付加価値分野でのオフショア開発の浸透、業績の季節変動、法的規制(労働者派遣法)、知的財産権、自然災害等です。プロジェクト管理のリスクについては、品質改善推進部が商談発生時からプロジェクトの進行を監視していると記載されています。
受託開発型のシステム会社の上場審査では、一般に、特定顧客への依存度とその取引の継続性、不採算プロジェクトの管理体制と損失の見積り、外注先の管理(偽装請負の防止を含む)、労働時間の管理、情報セキュリティなどが確認されます。トランヴィアのⅠの部でも、これらのリスクと対応策が具体的に書かれています。上場準備会社が自社の事業等のリスクを書くときは、リスクの内容だけでなく、「どの部署が、どの会議体で、どの頻度でモニタリングしているか」まで書けるかどうかが、体制の整備状況を示す目安になります。審査の全体像は主幹事証券の引受審査では何を聞かれるかもご覧ください。
持株会社化を検討する会社・上場準備会社が学べること
トランヴィアの事例は、上場会社同士の経営統合という特殊なケースですが、持株会社化を検討する会社や、将来の組織再編を視野に入れる上場準備会社にとって、次のような示唆があります。
| 学べるポイント | トランヴィアのⅠの部の記載 | 実務上の示唆 |
|---|---|---|
| 統合の必然性を時系列で説明する | 業務提携(2024年9月)→経営統合の提案(2025年5月)→決定(2025年11月) | 提携段階の成果と課題を踏まえて再編に進んだ経緯は、目的とシナジーの説得力を高める |
| つなぎ期間のルールを計画に書く | 配当の上限、重要な行為の事前協議、重大事象の書面通知 | 比率決定後に企業価値を動かす行為を制限し、比率の前提を守る |
| 自己株式は再編前に整理する | 両社の自己株式を全部消却し、交付対象から除外 | 親子間の株式持ち合いを避ける。消却数で交付株式数が変わる点も開示する |
| 比率の根拠と措置を書き分ける | 2つの算定機関・3手法のレンジ、法律事務所の助言、FO不取得、成功報酬 | 講じた措置と講じなかった措置をその理由とともに示す |
| 日程は廃止と上場をセットで示す | 3月30日上場廃止、4月1日設立・上場 | 株主が売買できない期間を含め、株主への影響を明確にする |
| 決まっていない事項は「未定」と明記 | 配当方針、報酬方針、諮問委員会の構成員など | 未定事項は上場後の宿題として、いつまでに決めるかを社内で管理する |
| 持株会社の管理機能を設計する | 子会社と「同水準又はそれ以上」の体制を予定 | グループ内部監査、子会社管理、J-SOXの評価範囲を持株会社目線で組み直す |
| 役員構成で対等性を示す | 会長・社長を両社トップで分担、社外取締役も2名ずつ | 統合後の意思決定の公正性を、人選と取締役会の構成で示す |
特に、持株会社の管理機能の設計は、統合の発表から効力発生まで約4か月半という短い期間で進める必要があります。グループ全体の財務報告に係る内部統制をどこが評価するのか、子会社の内部監査部門をどう位置づけるのかは、統合準備の早い段階で決めておきたい論点です。J-SOXの進め方はJ-SOXの進め方で解説しています。
- 持株会社化の目的と見込まれるシナジーを、提携・協議の経緯とあわせて時系列で説明できるか
- 株式移転計画に、効力発生日までの配当の上限や重要な行為の事前協議などのルールを定めたか
- 自己株式の消却方針と、交付株式数が変動する可能性を開示しているか
- 株式移転比率の算定方法・算定レンジと、公正性担保措置(講じなかった措置を含む)を説明できるか
- 旧会社の上場廃止日と新会社の上場日、株主総会・買取請求・事前備置の日程を一覧にしたか
- 持株会社の内部監査、子会社管理、報酬方針など「未定」の項目について、決定時期と担当を決めたか
よくある質問
通常の新規上場は、公募や売出しによって新たな株主を募り、上場審査を経て株式を上場させます。テクニカル上場は、上場会社が株式移転などの組織再編を行う場合に、旧会社の株主が受け取る新会社の株式を上場させる手続で、公募・売出しは行われません。トランヴィアでは、両社の株式が2026年3月30日に上場廃止となり、新会社の株式が4月1日に上場する日程でした。
株式移転計画で定めた比率に従って、新会社の株式を受け取ります。トランヴィアでは、TSS株式1株につき1.27株、R&D株式1株につき1株です。1株未満の端数は会社法第234条などに従って金銭で処理され、100株未満の株式を受け取る株主は単元未満株式の買取請求ができます。株式移転に反対する株主には、会社法第806条に基づく株式買取請求の手続があります。
新会社は上場日に設立されるため、Ⅰの部の提出時点では決算期を迎えておらず、財務諸表がありません。トランヴィアのⅠの部では、両社の売上高・経常利益・当期純利益の単純合算(監査証明なし)と、両社の主要な経営指標等の推移を掲載し、経理の状況などは両社の有価証券報告書と半期報告書を参照する形になっています。
機関設計(監査役会設置会社か監査等委員会設置会社か)、取締役会の人数と社外取締役の比率、代表取締役の人選、会計監査人を最初に決める必要があります。トランヴィアではこれらを株式移転計画と定款で定め、指名・報酬諮問委員会の構成員や報酬の決定方針などは上場後に決める「未定」事項としていました。
最初の一歩は「誰が・いつ・何を決めるか」の一覧づくりから
持株会社化やグループ再編を検討し始めたら、まず、株主総会、取締役会、開示書類、取引所への申請、会社法上の備置書類、新会社の機関設計と役員、報酬、内部監査、会計処理といった項目を一覧にし、「誰が・いつまでに・何を決めるか」を整理することから始めましょう。トランヴィアのⅠの部の目次と日程表は、その一覧づくりのたたき台としてそのまま使えます。上場準備の全体像はIPO準備 完全ガイドで確認できます。
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まとめ
株式会社トランヴィアは、東証プライム市場に上場していた東邦システムサイエンスとランドコンピュータが、共同株式移転によって設立した持株会社で、2026年3月2日に上場承認を受け、2026年4月1日に東証プライム市場にテクニカル上場しました。Ⅰの部からは、業務提携から経営統合に進んだ経緯、株式移転計画と定款の内容、2つの算定機関による株式移転比率の算定と公正性担保措置、自己株式の消却、旧会社の上場廃止と新会社の上場の日程といった、持株会社化の手続の流れを具体的に読み取ることができます。
一方で、新設会社であるため、財務情報は単純合算にとどまり、配当方針、報酬の決定方針、指名・報酬諮問委員会の構成員、持株会社自体の内部監査体制などは「未定」又は記載なしとされています。持株会社化を検討する会社は、本記事のチェックリストを使って、手続・開示・グループ管理の準備状況を確認してみてください。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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