※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
前澤ホールディングス株式会社(証券コード575A)は、東京証券取引所スタンダード市場に上場していた前澤工業株式会社と、プライム市場に上場していた前澤化成工業株式会社が、共同株式移転によって設立した共同持株会社です。2026年5月1日に上場承認を受け、設立日である2026年6月1日に東証プライム市場へ上場しました。公募や売出しによって新たに株主を募る通常の新規上場ではなく、既存の上場会社の株主がそのまま新会社の株主になる「テクニカル上場」です。本記事では、東京証券取引所に提出された「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」(2026年5月1日提出)を読み、持株会社化を検討している上場会社や、組織再編を伴う上場準備を進める会社の経営者・CFO・管理部門の方が実務の参考にできるポイントを整理します。
結論からいえば、前澤ホールディングスのⅠの部は「上場会社どうしが持株会社をつくって統合するとき、何を、どの順番で、どこまで決めておく必要があるか」を具体的に学べる事例です。株式移転比率(前澤工業1:前澤化成工業1.11)の算定と公正性の担保、取締役会決議から臨時株主総会、上場廃止、設立・上場までの日程、監査等委員会設置会社としての機関設計、両社の株式報酬信託の承継、そして新設会社であるがゆえに「該当事項なし」となる開示項目の扱いなど、通常のIPOとは異なる論点が並んでいます。
この記事の見出し
前澤ホールディングスはどんな会社で、どのように上場したのか
まず基本情報です。前澤ホールディングスは、前澤工業と前澤化成工業が共同で行う株式移転(以下、本株式移転)によって、2026年6月1日に設立登記されることを前提に作られた会社です。Ⅰの部の表紙には、提出日の2026年5月1日時点では会社がまだ設立されておらず、設立予定日の2026年6月1日現在の状況を説明する「事前提出書類」である旨の注記があります。事業内容は「子会社等の経営管理及びこれらに附帯又は関連する一切の事業」で、本店は東京都中央区八重洲一丁目6番1号、代表者は代表取締役兼社長執行役員の宮川多正氏です。
上場市場は東証プライム市場で、上場承認日は2026年5月1日、上場日(設立日)は2026年6月1日です。Ⅰの部によれば、両社は2026年4月3日付で共同持株会社の普通株式について東京証券取引所に新規上場申請を行っています。発行済株式は普通株式38,252,768株(予定)、資本金は100百万円、資本準備金は25百万円、決算期は3月31日です。最初の事業年度は、成立の日から2027年3月31日までと定款附則に定められています。
持株会社自体の従業員数は「新設会社であるため、未定」と記載されています。参考までに、完全子会社となる両社の従業員数は、前澤工業が連結1,048名(2025年5月31日現在)、前澤化成工業が連結558名(2025年3月31日現在)です。なお、上場申請会社の親会社等はありません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 前澤ホールディングス株式会社(MAEZAWA Holdings CO., LTD.) |
| 証券コード | 575A |
| 市場 | 東京証券取引所 プライム市場(テクニカル上場) |
| 上場承認日/上場日 | 2026年5月1日/2026年6月1日(設立日と同日) |
| 設立の方法 | 前澤工業と前澤化成工業による共同株式移転 |
| 本店 | 東京都中央区八重洲一丁目6番1号 |
| 代表者 | 代表取締役兼社長執行役員 宮川 多正 |
| 決算期 | 3月31日(最初の事業年度は2027年3月31日まで) |
| 資本金/資本準備金 | 100百万円/25百万円 |
| 発行済株式数(予定) | 普通株式38,252,768株(単元株式数100株) |
| 機関設計 | 監査等委員会設置会社(取締役7名、うち社外取締役3名) |
| 会計監査人 | EY新日本有限責任監査法人(設立時会計監査人) |
| 完全子会社 | 前澤工業(スタンダード上場、5月決算)、前澤化成工業(プライム上場、3月決算) |
図1 2026年6月1日に共同持株会社を設立し、両社の株主には株式移転比率に応じて持株会社の株式が交付される(Ⅰの部「組織再編成の概要」をもとに作成)
統合後のグループはどう構成されるのか
持株会社の下には、前澤工業と前澤化成工業がそれぞれ議決権所有割合100.0%の子会社としてぶら下がります。両社はいずれも有価証券報告書の提出会社で、持株会社の特定子会社に該当する予定と記載されています。資本金は前澤工業が5,233百万円(2025年11月30日時点)、前澤化成工業が3,387百万円(2025年9月30日時点)です。
さらにその下に、前澤工業の連結子会社である㈱前澤エンジニアリングサービス(埼玉県川口市、メンテナンス事業、議決権100.0%)と、前澤化成工業の連結子会社である常陽水道工業㈱(茨城県土浦市、水・環境エンジニアリング、議決権91.93%)があります。前澤化成工業の子会社だった㈱新潟成型(各種プラスチック成型)は、2026年3月31日に全株式の譲渡が完了し、前澤化成工業の連結対象から除外されたと注記されています。統合の直前に子会社の整理も行われていることが読み取れます。
持株会社と両社の役員の兼任は、前澤工業が3名、前澤化成工業が4名(いずれも予定)とされています。一方、持株会社と両社の取引関係は「未定」です。持株会社化では、経営管理料や業務委託、資金の集中管理などグループ内取引の設計が必要になりますが、Ⅰの部の時点ではまだ決まっていないということです。
図2 子会社の資本金は前澤工業が2025年11月30日時点、前澤化成工業が2025年9月30日時点。㈱新潟成型は2026年3月31日に全株式を譲渡し前澤化成工業の連結から除外(Ⅰの部をもとに作成)
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両社は何で稼いでいて、統合で何を狙うのか
前澤工業は1937年の創業で、上下水道用水処理機械設備、産業用水処理機械設備、有機性廃棄物資源化設備などの製造・販売・修繕・維持管理・運営を行っています。セグメントは「環境事業」「バルブ事業(上下水道用弁・栓・門扉等)」「メンテナンス事業」の3つです。前澤工業グループは、前澤工業と連結子会社1社、非連結子会社1社、持分法非適用関連会社2社で構成され、非連結子会社の㈱ウォーテック北海道は事業を休止していると記載されています。
前澤化成工業は1954年の設立で、上水道・下水道関連製品の製造・販売、水処理関連施設の設計・施工・維持管理、各種プラスチック製品の製造・販売を行っています。セグメントは「管工機材(水道用・下水道用の硬質塩化ビニル管・継手、量水器ボックス、塩ビ製インバートマスなど)」「水・環境エンジニアリング(大型合併処理浄化槽、産業排水処理施設など)」「各種プラスチック成形」の3つです。
Ⅰの部の「経営統合の目的及び理由」では、前澤工業は官民連携案件への取り組み強化、提案力の強化、新規事業への取り組みを、前澤化成工業は管工機材事業での新たな市場の開拓・事業領域の拡大と、第2の柱である水・環境エンジニアリング事業の強化を、それぞれ課題として挙げています。そのうえで、両社のソリューションを融合することで、上下水道施設の更新需要の取り込みや、下水道・農業集落排水・浄化槽を組み合わせたワンストップの提案が可能になること、財務基盤の統合による戦略的投資の規模拡大、設備・ITシステム・資産の相互活用、共通する間接機能の再編成によるコスト削減などをシナジーとして期待していると説明しています。目指す姿は「水のマエザワ」として総合水ソリューション企業グループになることです。
図3 両社のセグメントは最終事業年度末時点。シナジーの内容はⅠの部「経営統合の目的及び理由」の記載を要約
上場準備会社の視点で見ると、統合の目的を「各社の課題」と「統合で解決できること」に分けて書いている点が参考になります。持株会社化は手段であって目的ではありません。審査や投資家への説明では、なぜ合併ではなく持株会社なのか、なぜ今なのか、統合後にどのような成長を目指すのかを、一貫したストーリーで語れることが重要です。
持株会社化はどんな手続で進んだのか
Ⅰの部の「沿革」は、通常のIPO会社と違ってわずか3行です。2025年12月16日に両社が共同持株会社の設立を決議して経営統合契約を締結し、株式移転計画書を共同作成したこと、2026年3月31日に両社の臨時株主総会で株式移転が承認されたこと、2026年6月1日に共同持株会社を設立し東京証券取引所に上場する予定であることだけが記載され、両社の沿革は各社の有価証券報告書を参照する形になっています。新設会社の沿革は、組織再編の手続そのものだということがよく分かります。
より詳しい日程は「組織再編成に関する手続」に記載されています。両社は2025年12月16日の取締役会で経営統合契約と株式移転計画を承認し、同日に臨時株主総会の基準日を公告しました。基準日は2025年12月31日、臨時株主総会は2026年3月31日です。その後、両社株式の最終売買日が2026年5月27日、上場廃止日が5月28日、共同持株会社の設立日(効力発生日)と上場日が6月1日という流れです。
図4 Ⅰの部「組織再編成に関する手続」の日程。2026年5月27日以降は提出日時点の予定
| 手続 | 日付 |
|---|---|
| 経営統合契約・株式移転計画の承認取締役会(両社) | 2025年12月16日 |
| 経営統合契約の締結・株式移転計画の作成(両社) | 2025年12月16日 |
| 臨時株主総会に係る基準日公告日(両社) | 2025年12月16日 |
| 臨時株主総会に係る基準日(両社) | 2025年12月31日 |
| 会社法803条等に基づく書類の備置開始(両社) | 2026年3月16日 |
| 株式移転計画承認臨時株主総会(両社) | 2026年3月31日 |
| 東京証券取引所への新規上場申請 | 2026年4月3日 |
| 最終売買日(両社) | 2026年5月27日(予定) |
| 上場廃止日(両社) | 2026年5月28日(予定) |
| 共同持株会社設立日(効力発生日)・上場日 | 2026年6月1日(予定) |
株式移転計画には何が書かれているのか
Ⅰの部には、株式移転計画書の写しがそのまま掲載されています。主な条項は、持株会社の目的・商号・本店所在地・発行可能株式総数(1億株)、設立時取締役と設立時監査等委員の氏名、設立時会計監査人(EY新日本有限責任監査法人)、株式の割当て、資本金及び準備金の額、成立の日、承認総会の開催日、株式上場と株主名簿管理人(みずほ信託銀行)、剰余金の配当、会社財産の管理、計画の効力、条件の変更と中止です。
実務上とくに参考になるのは、計画作成から成立日までの「待機期間」の行動ルールです。第9条では、配当できる上限が決められています。前澤工業は2025年11月30日を基準日とする1株24円、2026年5月31日を基準日とする1株28円、前澤化成工業は2026年3月31日を基準日とする1株40円をそれぞれ限度とし、それ以外の配当決議は行わないと定めています。第10条では、両社が善良なる管理者の注意をもって業務と財産を管理し、財産や権利義務に重大な影響を及ぼし得る行為はあらかじめ協議・合意して行うとしています。第12条では、財産状態や経営状態に重大な変更が生じた場合などに、協議のうえ条件を変更し、または株式移転を中止できるとしています。
また、資本金の額は100,000,000円、資本準備金の額は25,000,000円、利益準備金の額は0円とし、資本剰余金の額は会社計算規則第52条第1項に定める株主資本変動額から資本金と資本準備金の合計額を減じた額とされています。株式移転では、新設される持株会社の株主資本の額をどう配分するかを計画で定めますが、資本金を小さく設定し残りを資本剰余金とする設計は、持株会社の税負担や将来の資本政策の柔軟性を考えるうえで、一般によく検討されるポイントです。
会社法の手続で押さえるべき点は何か
株式移転計画の承認は、株主総会の特別決議事項です(会社法804条1項、309条2項12号)。前澤ホールディングスのケースでも、両社がそれぞれ2026年3月31日に臨時株主総会を開いて承認を得ています。Ⅰの部には、議決権の行使方法として、総会への出席、代理人による行使、郵送、インターネットが案内され、郵送とインターネットの期限は前澤工業が2026年3月30日午後5時30分、前澤化成工業が同日午後5時15分と記載されています。
総会に先立ち、両社は会社法803条1項と会社法施行規則206条に基づき、①株式移転計画、②株式移転比率などの定めの相当性に関する事項、③相手方の最終事業年度の計算書類等、④相手方の最終事業年度末日後に生じた重要な財産の処分等、⑤自社の最終事業年度末日後に生じた重要な財産の処分等を記載した書面を、2026年3月16日から本店に備え置いています。決算期の異なる2社が統合するため、前澤工業側では前澤化成工業の2025年3月期、前澤化成工業側では前澤工業の2025年5月期の計算書類等を備え置く形になっています。
反対株主には株式買取請求権(会社法806条)があります。Ⅰの部では、総会に先立って反対の旨を通知し、総会で反対したうえで、会社が総会決議の日から2週間以内に行う通知または公告の日から20日以内に、買取請求に係る株式数を明らかにして請求する必要があると説明されています。なお、両社とも新株予約権や新株予約権付社債を発行していないため、新株予約権の承継や買取請求の論点は生じていません。
旧会社の上場廃止と新会社の上場はどうつながるのか
テクニカル上場の特徴がよく表れているのが、旧会社の上場廃止と新会社の上場の関係です。両社は本株式移転によって持株会社の完全子会社になるため、持株会社の上場に先立って両社の普通株式は2026年5月28日付で上場廃止となります。持株会社の上場が承認された場合、効力発生日に両社の株主に割り当てられる持株会社株式は東京証券取引所に上場されているため、1単元(100株)以上の持株会社株式を受け取った株主は、引き続き東京証券取引所で取引できると説明されています。
一方で、5月28日の上場廃止から6月1日の上場までの数日間は、市場で売買できる株式がない期間になります。また、1単元未満の持株会社株式の割当てを受けた株主は、その株式を市場で売却できませんが、会社法192条1項に基づく単元未満株式の買取請求や、会社法194条1項と定款の規定に基づく買増請求ができると案内されています。株式移転比率が1.11のように整数でない場合は単元未満株式や1株未満の端数が生じやすく、端数は会社法234条に従って金銭で処理されます。
テクニカル上場は、上場会社が株式移転などの組織再編によって非上場会社となる場合に、新たに設立される会社の株式を速やかに上場させるための仕組みで、上場審査の取扱いも通常の新規上場とは異なります。とはいえ、上場後はプライム市場の上場維持基準やコーポレートガバナンス・コードが適用されることに変わりはありません。上場スケジュールが組織再編の日程と一体になるため、どこか1つの手続が遅れると全体が後ろにずれる点にも注意が必要です(上場スケジュールはどこで遅れるか)。
図5 両社株式の上場廃止(5月28日)と持株会社の上場(6月1日)の間は、市場で売買できる株式がない期間になる。1単元(100株)未満の割当てを受けた株主は買取請求・買増請求が可能
株式移転比率1.11はどのように決まったのか
持株会社化を伴う統合で、株主にとって最も重要なのが株式移転比率です。本株式移転では、前澤工業の普通株式1株に対して持株会社の普通株式1株を、前澤化成工業の普通株式1株に対して持株会社の普通株式1.11株を割り当てます。交付する株式数は、2025年11月30日時点の前澤工業の発行済株式総数20,790,248株と、2025年9月30日時点の前澤化成工業の発行済株式総数15,732,000株に1.11を乗じた17,462,520株を合計した38,252,768株(予定)です。比率は、算定の基礎となる諸条件に重大な変更が生じた場合などには、両社協議のうえ変更することがあるとされています。
比率の根拠として、両社はそれぞれ独立したフィナンシャル・アドバイザー兼第三者算定機関を選び、2025年12月15日付で株式移転比率算定書を受領しています。前澤工業はみずほ証券、前澤化成工業は大和証券です。両社は算定結果を参考に、相互に実施したデュー・ディリジェンスの結果を踏まえ、財務状況、株価状況、将来の見通しなどを総合的に勘案して協議を重ね、2025年12月16日の取締役会で比率を決定しました。
| 算定機関 | 採用手法 | 算定レンジ(前澤化成工業1株あたり) |
|---|---|---|
| みずほ証券(前澤工業側) | 市場株価基準法 | 0.99〜1.15 |
| みずほ証券(前澤工業側) | 類似企業比較法 | 0.92〜1.15 |
| みずほ証券(前澤工業側) | DCF法 | 0.92〜1.21 |
| 大和証券(前澤化成工業側) | 市場株価法 | 1.03〜1.11 |
| 大和証券(前澤化成工業側) | DCF法 | 0.97〜1.39 |
図6 前澤工業1株に対し持株会社1株を割り当てる場合の、前澤化成工業1株に割り当てる株式数のレンジ。算定基準日は2025年12月15日。合意比率は1.11(Ⅰの部「算定の概要」)
算定方法の選び方の説明も具体的です。みずほ証券は、前澤工業がスタンダード市場、前澤化成工業がプライム市場に上場し、両社とも市場株価が存在することから市場株価基準法を、比較可能な上場類似企業が複数存在することから類似企業比較法を、将来の事業活動の状況を評価に反映するためにDCF法を採用しています。大和証券は市場株価法とDCF法を採用しています。市場株価法では、いずれも2025年12月15日を算定基準日とし、基準日の終値と、過去1ヶ月間・3ヶ月間・6ヶ月間の終値単純平均値を用いています。
DCF法の前提となる財務予測についても、大幅な増減益を見込む事業年度は含まれていない一方、大幅なフリー・キャッシュ・フローの増減を見込む事業年度が含まれていることが開示されています。たとえばみずほ証券の算定では、前澤工業の2026年5月期はバルブ事業における設備投資額の一時的な増加などによりフリー・キャッシュ・フローの減少が見込まれ、2027年5月期はその影響の解消により増加が見込まれています。前澤化成工業についても、2027年3月期に管工機材事業での増収増益計画と前年度の投資増加の解消によりフリー・キャッシュ・フローの増加が見込まれていると記載されています。
未上場会社の株価算定でも、どの手法をなぜ採用したのか、前提となる事業計画にどのような特殊要因が含まれているのかの説明が求められます。考え方は未上場株式の株価算定はどの方法を使うかでも解説していますが、上場会社どうしの統合では市場株価という客観的な指標がある分、それを補う手法としてDCF法や類似企業比較法がどう使われているかを見ると参考になります。
公正性を担保するために何をしたのか
Ⅰの部では、株式移転比率の公正性その他の本株式移転の公正性を担保するための措置として、①独立した第三者算定機関からの株式移転比率算定書の取得、②独立した法律事務所からの助言、③独立した会計・税理士事務所からの助言の3つが挙げられています。各アドバイザーはいずれも両社の関連当事者に該当せず、本株式移転に関して記載すべき重要な利害関係を有していないと説明されています。
| 区分 | 前澤工業 | 前澤化成工業 |
|---|---|---|
| フィナンシャル・アドバイザー/第三者算定機関 | みずほ証券 | 大和証券 |
| リーガル・アドバイザー | 賢誠総合法律事務所 | 弁護士法人三宅法律事務所 |
| 会計・税務アドバイザー(DD) | 株式会社ストリーム | デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社(現、合同会社デロイトトーマツ) |
| フェアネス・オピニオン | 取得していない | 取得していない |
| 利益相反を回避する措置 | 特段の利益相反関係がないため講じていない | 同左 |
注目したいのは、両社ともいわゆるフェアネス・オピニオン(株式移転比率が株主にとって財務的見地から妥当である旨の意見書)を取得していないと明記している点と、両社の間に特段の利益相反関係が存在しないことから利益相反を回避するための特別な措置は講じていないと説明している点です。支配関係のない独立した上場会社どうしの統合であることが前提になっており、親子会社間の統合のように特別委員会を設ける必要がある場面とは事情が異なります。開示では「何をしたか」だけでなく「何をしなかったか、なぜ不要と判断したか」まで書くことが、読み手の理解を助けます。
新設会社の業績はⅠの部でどう示されているのか
通常のIPOであれば、Ⅰの部の「主要な経営指標等の推移」に上場申請会社自身の5期分の業績が並びます。しかし前澤ホールディングスは新設会社のため、本報告書提出日現在において財務情報はありません。そこでⅠの部の「統合財務情報」では、両社の最終連結会計年度の主要な経営指標である「売上高」「経常利益」「親会社株主に帰属する当期純利益」を単純に合算した数値と、両社それぞれの5期分の連結経営指標が示されています。
合算値は、売上高61,665百万円、経常利益7,275百万円、親会社株主に帰属する当期純利益4,791百万円です。ただし、前澤工業は2025年5月期、前澤化成工業は2025年3月期と決算期が異なる数値の合算であり、Ⅰの部では「単純な合算値に過ぎず、監査法人の監査証明を受けていない記載である」と注意書きがあります。さらに、これら以外の指標は単純な合算が困難で、合算するとかえって投資家の判断を誤らせるおそれがあるため合算していないと説明されています。
図7 前澤工業は2025年5月期、前澤化成工業は2025年3月期の連結売上高。単純な合算値であり、監査法人の監査証明を受けていない(Ⅰの部「統合財務情報」)
前澤工業の5期間の推移
前澤工業(5月決算)の連結売上高は、2021年5月期31,810百万円、2022年5月期30,903百万円、2023年5月期32,369百万円、2024年5月期36,511百万円、2025年5月期37,499百万円です。経常利益は3,378百万円、3,164百万円、3,345百万円、4,993百万円、4,768百万円と推移し、5期とも黒字です。自己資本比率は58.1%から70.1%へ上昇し、自己資本利益率は10.0%〜13.4%の範囲です。2025年5月期は営業活動によるキャッシュ・フローが5,546百万円、投資活動によるキャッシュ・フローが△4,565百万円となっています。
図8 第75期(2021年5月期)〜第79期(2025年5月期)。棒は売上高、線は経常利益(目盛りは共通)。Ⅰの部「統合財務情報」より
前澤工業の事業等のリスクには「業績の下期偏重による季節的な変動」があり、下半期に完成する工事や進捗度合が増す工事の割合が大きいため、上半期と下半期の売上高に著しい相違があると説明されています。2025年5月期の売上高は上半期13,982百万円(37.3%)、下半期23,516百万円(62.7%)、営業利益は上半期499百万円、下半期4,154百万円です。2024年5月期も上半期12,446百万円(34.1%)、下半期24,064百万円(65.9%)、営業利益は上半期390百万円、下半期4,485百万円でした。
図9 下半期に完成・進捗する工事の割合が大きく、売上高の6割超が下半期に計上されている(Ⅰの部「事業等のリスク」)
前澤化成工業の5期間の推移
前澤化成工業(3月決算)の連結売上高は、2021年3月期20,985百万円、2022年3月期21,879百万円、2023年3月期23,495百万円、2024年3月期23,925百万円、2025年3月期24,166百万円です。経常利益は1,232百万円、1,628百万円、2,226百万円、2,072百万円、2,507百万円で、こちらも5期とも黒字です。自己資本比率は81.7%〜83.2%と高い水準で推移し、自己資本利益率は2.0%〜4.2%です。
図10 第67期(2021年3月期)〜第71期(2025年3月期)。棒は売上高、線は経常利益(目盛りは共通)。Ⅰの部「統合財務情報」より
| 指標(最終年度・連結) | 前澤工業(2025年5月期) | 前澤化成工業(2025年3月期) |
|---|---|---|
| 売上高 | 37,499百万円 | 24,166百万円 |
| 経常利益 | 4,768百万円 | 2,507百万円 |
| 親会社株主に帰属する当期純利益 | 3,077百万円 | 1,714百万円 |
| 純資産額/総資産額 | 29,919百万円/42,661百万円 | 41,513百万円/49,901百万円 |
| 自己資本比率 | 70.1% | 83.0% |
| 自己資本利益率 | 10.6% | 4.2% |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 5,546百万円 | 1,874百万円 |
| 現金及び現金同等物の期末残高 | 10,305百万円 | 11,805百万円 |
| 従業員数(連結) | 1,048名 | 558名 |
両社とも、収益認識に関する会計基準を適用した期以降の指標はその適用後の数値である旨が注記されています(前澤工業は第76期、前澤化成工業は第68期の期首から適用)。また、前澤化成工業は2018年3月期から株式交付信託を導入しており、信託が保有する自社株式を純資産の部に自己株式として計上し、1株当たり純資産額や1株当たり当期純利益の算定上も自己株式として控除していると注記しています。統合後の連結財務諸表を読む際には、決算期の違いや、こうした会計方針の注記を前提に比較する必要があります。
株式と株主構成はどうなるのか
持株会社の発行済株式は普通株式38,252,768株(予定)で、完全議決権株式、単元株式数100株の振替株式です。種類株式はなく、ストックオプション制度、ライツプラン、その他の新株予約権等はいずれも「該当事項はありません」と記載されています。持株会社は本株式移転で設立されるため、2026年6月1日時点では自己株式を保有しないとされています。
持株会社の株主はまだ存在しないため、Ⅰの部の「大株主の状況」は、両社の株主データ(前澤工業は2025年5月31日、前澤化成工業は2025年3月31日時点)に基づいて、2026年6月1日時点で想定される大株主を示しています。上位は前澤給装㈱(2,134千株、6.57%)、公益財団法人前澤育英財団(1,687千株、5.20%)、日本マスタートラスト信託銀行㈱(信託口)(1,598千株、4.92%)、前澤工業取引先持株会(1,223千株、3.77%)で、上位10名の合計は10,749千株、33.11%です。比率は自己株式を除く発行済株式の総数に対する割合で、あくまで両社の基準日時点のデータから想定した数値です。
図11 前澤工業は2025年5月31日、前澤化成工業は2025年3月31日の株主データに基づく想定。比率は発行済株式(自己株式を除く)に対する割合で、上位10名の合計は33.11%(Ⅰの部「大株主の状況」)
完全子会社となる両社の所有者別状況を見ると、前澤工業(2025年5月31日現在)は株主数7,080人で、個人その他が50.41%、その他の法人が27.79%、金融機関が10.99%です。前澤化成工業(2025年3月31日現在)は株主数13,462人で、個人その他が50.7%、その他の法人が20.3%、金融機関が19.9%です。自己株式は前澤工業が2,702,100株(発行済株式総数の13.00%)、前澤化成工業が796,100株(5.1%)で、いずれも株式給付信託や株式交付信託が保有する株式(前澤工業487,516株、前澤化成工業96,611株)は含まれていないと注記されています。
上場準備会社にとっては、上場後の流通株式の状況も重要です。流通株式からは、上場株式数の10%以上を所有する主要株主、役員等、役員等が議決権の過半数を所有する会社、自己株式のほか、国内の普通銀行・保険会社・事業法人等が所有する株式(純投資目的のものを除く)などが除かれます。持株会社化の場合、統合前の各社の株主構成が合算されるため、主要株主や自己株式の扱いが変わることがあります。計算方法は流通株式数の数え方で詳しく解説しています。
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持株会社のガバナンスはどう設計されたのか
前澤ホールディングスは監査等委員会設置会社を選択しています。Ⅰの部では、その理由を「取締役及び取締役会の監督機能を強化し、経営の透明性・公正性の向上を図るため」と説明し、取締役会における議決権を持つ監査等委員である取締役による監査・監督の体制を構築するとしています。取締役会は、監査等委員でない取締役2名と監査等委員である取締役5名(うち社外取締役3名)の計7名で構成され、原則として月1回の定時開催に加え、必要に応じて臨時に開催する予定です。監査等委員会も5名で構成され、原則として月1回開催し、監査等基準や監査方針などを決定する予定とされています。
興味深いのは、統合前の両社の機関設計が異なっていたことです。前澤工業は監査役会設置会社で、前澤化成工業は2025年6月24日の定時株主総会で定款を変更し、同日付で監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行していました。持株会社は後者と同じ監査等委員会設置会社を採用したことになります。どちらの機関設計を選ぶかの考え方は監査役会設置会社と監査等委員会設置会社はどちらを選ぶ?やIPO審査の「機関設計」とはで整理しています。
図12 監査等委員会設置会社。取締役会は監査等委員でない取締役2名と監査等委員である取締役5名(うち社外3名)の7名。内部監査部門の体制は新設会社のため未定(Ⅰの部「コーポレート・ガバナンスの概要」)
取締役会の顔ぶれから何が読み取れるのか
就任予定の役員は男性6名・女性1名(女性比率14%)です。代表取締役は2名で、前澤工業の代表取締役社長である宮川多正氏が代表取締役兼社長執行役員に、前澤化成工業の代表取締役兼社長執行役員である田中理氏が代表取締役兼副社長執行役員に就任します。常勤監査等委員も、前澤工業の常勤監査役である井上照孝氏と、前澤化成工業の取締役常勤監査等委員である伊東正博氏の2名です。両社の出身者を、代表取締役と常勤監査等委員にそれぞれ1名ずつ配置した構成です。
社外取締役の3名は、いずれも統合前の両社で社外役員を務めていた人物です。細田隆氏は旧大蔵省出身で東京税関長、関東財務局長などを経て弁護士登録し、2021年8月から前澤工業の社外取締役を務めています。加藤真美氏は日本アイ・ビー・エム勤務を経た弁護士で、前澤化成工業の社外取締役(2025年6月から社外取締役監査等委員)です。加藤達也氏は公認会計士で、日本公認会計士協会副会長などを歴任し、前澤化成工業の社外監査役を経て2025年6月から同社の社外取締役監査等委員を務めています。3名とも持株会社との人的関係、資本的関係、取引関係その他の利害関係はないと記載されています。
図13 男性6名・女性1名(女性比率14%)。監査等委員でない取締役の任期は2027年3月期、監査等委員の任期は2028年3月期の定時株主総会終結時まで(Ⅰの部「役員の状況」)
| 役職(予定) | 氏名 | 主な経歴 | 割り当てられる持株会社株式 |
|---|---|---|---|
| 代表取締役兼社長執行役員 | 宮川 多正 | 1983年前澤工業入社、2021年8月同社代表取締役社長 | 32千株 |
| 代表取締役兼副社長執行役員 | 田中 理 | 1996年前澤化成工業入社、2025年4月同社代表取締役兼社長執行役員 | 4千株 |
| 常勤監査等委員 | 井上 照孝 | 1984年前澤工業入社、法務・監査部長を経て2023年8月同社常勤監査役 | 19千株 |
| 常勤監査等委員 | 伊東 正博 | 1984年前澤化成工業入社、管理本部長等を経て2025年6月同社取締役常勤監査等委員 | 15千株 |
| 監査等委員(社外取締役) | 細田 隆 | 旧大蔵省、関東財務局長、弁護士、前澤工業社外取締役 | 6千株 |
| 監査等委員(社外取締役) | 加藤 真美 | 弁護士、前澤化成工業社外取締役監査等委員 | ― |
| 監査等委員(社外取締役) | 加藤 達也 | 公認会計士、前澤化成工業社外取締役監査等委員 | ― |
割り当てられる持株会社株式の数は、前澤工業株式は2025年5月31日時点、前澤化成工業株式は2025年3月31日時点の所有状況に株式移転比率を勘案した数で、千株未満は切り捨てです。役員の任期は、監査等委員でない取締役が設立日から2027年3月期に係る定時株主総会終結の時まで、監査等委員である取締役が2028年3月期に係る定時株主総会終結の時までです。
プライム市場の上場会社にはコーポレートガバナンス・コードの全原則が適用され、プライム市場向けの原則として、独立社外取締役を少なくとも3分の1以上選任することが求められています(2026年7月改訂後のコードでは原則4-10。改訂前のコードでは原則4-8)。前澤ホールディングスの社外取締役は7名中3名です。なお、Ⅰの部では、新設会社であるため社外取締役を選任するための独立性に関する基準または方針は定めていないものの、選任にあたっては東京証券取引所の独立役員の独立性に関する判断基準を参考にする予定と記載されています。社外取締役の人数の考え方は社外取締役は何人必要かをご覧ください。
定款で定めたガバナンス上のルールは何か
Ⅰの部に掲載された持株会社の定款からは、上場会社として一般的なルールが読み取れます。取締役は12名以内(うち監査等委員である取締役は6名以内)、取締役の選任は議決権の3分の1以上を有する株主が出席しその過半数で行い、累積投票によらないこと、株主総会の特別決議の定足数を3分の1以上に緩和すること、剰余金の配当等を取締役会決議で行えること(会社法459条1項)、9月30日を基準日とする中間配当、市場取引等による自己株式の取得(会社法165条2項)などです。
監査等委員会設置会社ならではの規定として、会社法399条の13第6項に基づき、取締役会の決議によって重要な業務執行の決定の全部または一部を取締役に委任できる旨も定めています。また、業務執行取締役等でない取締役との責任限定契約を締結できる規定があり、社外取締役とは会社法425条1項に定める最低責任限度額を限度とする責任限定契約を締結する予定とされています。なお、株主総会の招集場所は東京都または埼玉県と定められています。
役員報酬と株式報酬はどう引き継がれるのか
役員の報酬等の額またはその算定方法の決定に関する方針は「今後策定する予定」とされています。報酬は株主総会の決議で限度額を定めたうえで、監査等委員でない取締役は取締役会で、監査等委員である取締役は監査等委員会の協議で具体的な額を決定する予定です。設立から最初の定時株主総会までの報酬枠は定款附則に置かれ、監査等委員でない取締役は年額2億円以内、監査等委員である取締役は年額8千万円以内です。
特徴的なのは、両社がそれぞれ導入していた業績連動型株式報酬制度を、持株会社が承継する仕組みです。持株会社は2026年6月1日をもって、前澤工業がみずほ信託銀行等と締結した2020年10月26日付の株式給付信託契約(本制度1)と、前澤化成工業が三井住友信託銀行等と締結した2017年11月8日付の株式取得管理交付信託契約(本制度2)について、契約上の地位と権利義務を承継します。本制度1は1事業年度当たりの付与ポイントの上限が89,000ポイント、本制度2は70,000ポイントで、いずれも1ポイントが普通株式1株に換算され、取締役は原則として退任時に株式等を受け取ります。これらの報酬は年額2億円の枠とは別枠です。
本制度1では、在任中の非違行為などがあった場合に、指名・報酬委員会の答申を経た取締役会の決定によって給付を受ける権利の全部または一部を取得できない場合があると定めています。持株会社化では、子会社側に残す報酬制度と親会社に移す報酬制度の線引き、信託契約の承継、新会社の株主総会決議の代わりとなる定款附則の整備など、法務と会計の両面での準備が必要になります。
図14 持株会社は2026年6月1日をもって両社の信託契約上の地位・権利義務を承継し、具体的な算定方法を定款附則に定める。取締役は原則として退任時に株式等を受け取る(Ⅰの部「定款」附則)
グループの内部監査と三様監査はどうなるのか
持株会社の「監査の状況」は、監査等委員会監査、内部監査、監査報酬のいずれも「新設会社であるため、該当事項はありません」とされ、完全子会社となる両社の状況が記載されています。持株会社自体の内部監査体制は、社外取締役が過半数を占める監査等委員会が、内部監査、会計監査、内部統制部門とそれぞれの監査計画や監査結果を報告・共有し、相互に連携する予定と書かれているものの、詳細は未定です。
前澤工業では、代表取締役社長の直結組織として、他の業務執行取締役からの独立性を確保した法務・監査部が内部監査を行っています。内部監査に関わる人員は3名です。法務・監査部は内部監査規程に基づいて監査基本計画書を作成し、代表取締役社長の承認を得て監査を実施します。監査後は被監査部署に結果と所見を講評し、改善が必要な事項や勧告事項を書面で通知して改善処置・方針の回答を求め、事後確認やフォローアップ監査も行います。結果は遅滞なく代表取締役社長へ報告するとともに、並行して取締役会と監査役会にも定期的に直接報告しており、Ⅰの部ではこれを「デュアルレポーティングライン」と表現しています。
前澤化成工業では、社長直結の内部監査室に専任3名を配置し、各部門の業務監査と社長特命による監査を行っています。内部統制部門である総務部や経理部などは、内部監査室、監査役、会計監査人に対して取締役会を通じて報告書や情報を提供しているほか、必要に応じて直接情報提供や意見交換をしています。監査等委員会設置会社への移行後は、監査等委員会が内部監査室や内部統制部門と緊密に連携しているとされています。
図15 前澤工業は2025年8月27日、前澤化成工業は2025年6月23日提出の有価証券報告書時点の体制。持株会社の内部監査は新設会社のため該当事項なし(Ⅰの部「監査の状況」)
三様監査については、前澤工業の記載が具体的です。内部監査部門であり内部統制評価委員会の事務局でもある法務・監査部、監査役会、会計監査人であるSK東京監査法人の三者が相互に情報交換・意見交換を行い、三様監査報告会を年2回開催して、各監査活動と財務報告に係る内部統制の評価活動の実効性を確保していると記載されています。前澤工業の監査役会は、2025年5月期に定時会と臨時会をあわせて14回開催され、1回当たりの平均所要時間は41分でした。期末時点の監査役4名は、いずれも在任期間中のすべての回に出席しています(期中に任期満了で退任した監査役1名は3回中2回の出席)。監査役会の議事項目を決議・同意・審議・協議・報告に分けて一覧にしている点や、常勤監査役が出席する会議(コンプライアンス委員会、リスクマネジメント委員会、内部統制評価委員会、経営会議など)を開催頻度とともに示している点も、監査役監査の見える化の例として参考になります。
前澤化成工業の監査役会は、最終事業年度に17回開催され、常勤監査役の伊東正博氏と社外監査役の加藤達也氏が17回すべてに、社外監査役の篠崎正巳氏が16回に出席しています。
持株会社化では、内部監査の対象が「自社」から「グループ全体」に広がります。持株会社に内部監査部門を置くのか、子会社の内部監査部門を残すのか、報告ラインをどこに引くのかを決めなければなりません。内部監査の人数や体制の考え方は内部監査の人数と体制、三様監査の連携は監査役監査・内部監査・会計監査(三様監査)で詳しく解説しています。
会計・開示で押さえるべき論点は何か
持株会社の「経理の状況」は、新設会社であり決算期を迎えていないため「該当事項はありません」とされ、両社の有価証券報告書と半期報告書を参照する形になっています。第四部の「上場申請会社の最近の財務諸表」も、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュ・フロー計算書のいずれも該当事項なしです。同様に、経営方針、MD&A、重要な契約、研究開発活動、設備の状況なども、新設会社であるため該当事項なしとしたうえで両社の開示書類を参照しています。テクニカル上場のⅠの部は、新会社自身の情報が少なく、組織再編の情報と子会社の情報で構成される点が通常のIPOと大きく異なります。
会計面で最初に押さえたいのは、統合後の連結財務諸表がどのように作られるかです。Ⅰの部には、本株式移転の会計処理(どちらの会社を取得企業とするかなど)に関する記載はありません。一般論として、独立した2社が共同株式移転で持株会社をつくる場合、企業結合に関する会計基準に従い、共同支配企業の形成に当たらなければ「取得」として、完全子会社となる会社のいずれかを取得企業として決定します。持株会社の個別財務諸表では、取得企業の株式は取得企業の株主資本の額を基礎に、被取得企業の株式は取得原価で計上されます。連結財務諸表では、被取得企業の資産・負債を時価で受け入れ、取得原価との差額をのれん(または負ののれん)として処理します。
図16 企業結合に関する会計基準・同適用指針の一般的な考え方を整理した図。前澤ホールディングスのⅠの部には、取得企業の決定などの会計処理に関する記載はない
のれんが生じれば、その後の減損の兆候の判定や償却が論点になります(IPO審査でのれんの減損リスクはどう見られるか)。また、前澤工業は5月決算、持株会社は3月決算です。Ⅰの部の「組織再編成対象会社の発行有価証券と組織再編成によって発行される有価証券との相違」では、持株会社の配当基準日が期末3月31日・中間9月30日であるのに対し、前澤工業は期末5月31日・中間11月30日である点が相違として挙げられています。決算期が異なる会社を連結する場合の扱いや、子会社の決算期を揃えるかどうかは、連結決算の実務と開示に影響します。
開示書類の面では、持株会社は2026年3月5日に有価証券届出書(組織再編成・上場)を関東財務局長に提出し、2026年4月6日に訂正届出書を提出しています。両社は2025年12月16日に、本株式移転に関する臨時報告書を提出しています。前澤工業は2025年8月27日付の有価証券報告書の訂正報告書を2026年2月に提出したことも記載されています。上場会社の組織再編では、適時開示、臨時報告書、有価証券届出書、Ⅰの部と、複数の開示を整合させながら進める必要があります(IPOの適時開示体制)。
前澤工業の事業等のリスクには「退職給付費用及び債務」があり、数理計算上の差異を発生した連結会計年度に一括費用処理しているため毎年業績に影響を与えると説明されています。対応として、経営企画・財務・人事部門で構成する「前澤グループ企業年金運営委員会」を設置し、四半期ごとに運用機関各社の運用状況を確認しているとのことです。統合後のグループで会計方針をどう揃えるかも、持株会社化の実務で検討すべき事項の一つです。
事業等のリスクは何が書かれ、審査では何が問われやすいのか
持株会社の事業等のリスクは、(1)経営統合に関するリスク、(2)前澤工業の事業等のリスク、(3)前澤化成工業の事業等のリスクの三層で構成されています。経営統合に関するリスクとしては、株主総会で承認が得られないリスク、株式移転計画の内容が変更になるリスク、経済情勢の急激な悪化や金融市場の混乱等により予定どおりに経営統合が進まないリスク、期待されるシナジー効果が十分に発揮されないリスクが挙げられています。
前澤工業のリスクは、公共事業の比率が高いことによる市場環境の変動、資機材価格の急激な変動、退職給付費用及び債務、業績の下期偏重、自然災害・感染症等の5項目です。前澤化成工業のリスクは、新設住宅着工戸数の動向、原材料市況、競合(規格の定められた汎用品で価格競争が激しくなる傾向)、大規模災害、パンデミック・地政学リスク、人材の確保、サステナブルな社会の実現に向けた対応、法的規制(水道法、下水道法、建設業法、住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく住宅性能表示制度)の8項目です。
図17 持株会社のリスクは「経営統合に関するリスク」と、完全子会社となる両社の事業等のリスクで構成されている(Ⅰの部「事業等のリスク」の見出しを整理)
プライム市場の審査では、「企業の継続性及び収益性」や「企業経営の健全性」「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」「企業内容等の開示の適正性」といった観点から確認が行われます。持株会社化を伴うケースでは、統合後のグループとしての経営管理体制が実際に機能するか、グループ内取引や子会社管理のルールが整っているか、統合固有のリスクがきちんと開示されているかが重要になります。審査基準の全体像はIPOの実質審査基準とはを参照してください。
上場準備会社はこのケースから何を学べるのか
前澤ホールディングスのⅠの部から、持株会社化や組織再編を伴う上場を検討している会社が学べるポイントを8つに整理します。
1つ目は、手続日程を逆算で固めることです。取締役会決議、基準日、書類の備置、臨時株主総会、上場申請、最終売買日、上場廃止、設立・上場が一本の線でつながっており、どこかが遅れると全体が動きます。2つ目は、株式移転比率の公正性を複数の手法と独立した第三者で説明することです。市場株価、類似企業比較、DCFの各レンジと合意比率の位置関係を示し、フェアネス・オピニオンを取得しなかったことや利益相反回避の措置が不要と判断した理由まで開示しています。
3つ目は、統合後の機関設計と設立時役員を株式移転計画に書き込むことです。監査等委員会設置会社の選択、設立時取締役・設立時監査等委員・設立時会計監査人が計画の段階で確定しています。4つ目は、報酬制度と株式報酬信託の承継を定款附則で手当てすることです。新会社にはまだ株主総会がないため、最初の報酬枠や株式報酬の内容を附則で定めています。
5つ目は、決算期や配当基準日の違いを把握して統一することです。6つ目は、新会社の財務情報がない中で、統合財務情報を単純合算かつ監査証明なしと明示して示すことです。7つ目は、内部監査と三様監査をグループ単位で再設計することです。両社には内部監査3名体制や三様監査報告会といった土台がありますが、持株会社としての体制は今後の整備事項です。8つ目は、統合固有のリスクを既存のリスクと分けて開示することです。
図18 前澤ホールディングスのⅠの部から読み取れる実務上のポイントを整理
持株会社体制は、上場準備中の会社でも、グループ会社が増えた段階や事業承継の局面で検討されることがあります。親会社と子会社の役割分担、グループ内取引の条件、子会社の管理規程など、ガバナンス上の論点は上場準備のガバナンスも参考にしてください。
- 組織再編の手続(取締役会決議、基準日、書類備置、株主総会、効力発生日)と上場スケジュールを一つの工程表にしている
- 株式移転比率などの算定について、採用手法とその理由、前提とした事業計画の特殊要因を説明できる
- アドバイザーの独立性、フェアネス・オピニオンの要否、利益相反回避措置の要否を検討し、判断理由を記録している
- 新会社の機関設計、設立時役員、会計監査人、報酬枠を計画段階で確定している
- 既存の株式報酬制度や信託契約の承継方法、決算期・配当基準日の統一方針を決めている
- グループ全体の内部監査・内部統制の体制と報告ライン、三様監査の連携方法を設計している
よくある質問
通常のIPOは公募や売出しで新たに株主を募って上場しますが、テクニカル上場は、上場会社が株式移転などの組織再編で非上場会社となる場合に、新たに設立される会社の株式を速やかに上場させるものです。前澤ホールディングスの場合、両社の株式が2026年5月28日に上場廃止となり、両社の株主に割り当てられる持株会社株式が2026年6月1日に上場しました。
前澤ホールディングスのⅠの部では、新設会社のため持株会社自身の財務情報はなく、両社の5期分の連結経営指標と、売上高・経常利益・親会社株主に帰属する当期純利益の単純合算値(監査証明なし)が示されています。経理の状況やMD&Aは両社の有価証券報告書等を参照する形です。
前澤工業と前澤化成工業は、いずれもフェアネス・オピニオンを取得していないとⅠの部に明記しています。そのうえで、独立した第三者算定機関の算定書、法律事務所と会計・税務アドバイザーの助言を公正性担保措置として挙げています。必要性は、当事会社の関係や利益相反の有無などを踏まえて個別に判断することになります。
内部監査の対象がグループ全体に広がるため、持株会社に内部監査部門を置くか、子会社の部門を活用するか、報告ラインをどう引くかを決める必要があります。前澤ホールディングスでは、両社にそれぞれ3名の内部監査体制がありますが、持株会社としての体制は新設会社のため未定とされています。
最初の一歩は、組織再編と上場の工程表を一本化することから
持株会社化を伴う上場では、会社法の手続、税務、会計、開示、上場審査が同時並行で進みます。まずは、取締役会決議から効力発生日・上場日までの日程を一つの工程表にまとめ、その中に、比率算定とデュー・ディリジェンス、機関設計と役員人事、報酬制度の承継、内部監査体制の再設計、開示書類の作成を落とし込んでみてください。全体像はIPO準備の全体像(N-3期〜N期)も参考になります。
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前澤ホールディングスのⅠの部と比べる 上場準備ギャップ診断シート(Excel)
前澤ホールディングスの機関設計・内部監査・会計・資本政策の25論点を、自社の状況と並べて点検できます。申請期の期末日を入れると上場までの逆算表も作れます。
まとめ
前澤ホールディングスは、スタンダード市場の前澤工業とプライム市場の前澤化成工業が共同株式移転により設立した共同持株会社で、2026年5月1日に上場承認を受け、2026年6月1日に東証プライム市場へテクニカル上場しました。Ⅰの部からは、株式移転比率1.11の算定と公正性担保措置、取締役会決議から臨時株主総会、上場廃止、設立・上場までの日程、監査等委員会設置会社としての機関設計と両社出身者による役員構成、株式報酬信託の承継、そして新設会社ゆえに多くの項目が「該当事項なし」となる開示の構造を具体的に読み取ることができます。
持株会社化は、上場会社の再編だけでなく、上場準備会社がグループ経営の形を考えるうえでも参考になるテーマです。本記事のチェックリストを使って、自社の手続とガバナンスの準備状況を確認してみてください。
ショートレビュー、資本政策、機関設計、内部監査・内部統制、会計方針と開示、Ⅰの部の作成、審査対応まで、上場準備の実務を公認会計士が支援します。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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