2027年1月1日以後に提出すべき源泉徴収票から、市区町村に給与支払報告書を提出すれば、税務署にも提出したものとみなされます。国税庁が源泉徴収票のみなし提出の特例と呼んでいるものです。
ただ、これを提出が減る話として受け取ると読み違えます。同じ改正で、税務署に提出すべき源泉徴収票の範囲そのものが大きく広がっているからです。500万円超といった金額の区分はなくなり、原則として全員分が提出対象になります。
この記事では、広がった範囲とみなし提出がどう対になっているのか、何が対象で何が対象外なのか、そして本人への交付義務がどうなるのかを、条文と国税庁の資料にあたって整理します。
- みなし提出の特例の根拠条文と、2027年1月1日という起算
- 税務署への提出範囲が、4つの金額区分から全員分に広がること
- みなしが働くのは給与所得と公的年金等だけで、退職所得には及ばないこと
- 提出方法が書面でもみなしは働くこと、ただし別に提出方法の義務があること
- 本人への交付義務は残ること

源泉徴収票のみなし提出 特例適用チェックリスト
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この記事の見出し
📌 二つの改正が対になっている
まず全体像です。この改正は二つで一組になっています。ひとつは、税務署に提出すべき源泉徴収票の範囲を広げること。もうひとつが、市区町村に給与支払報告書を提出すれば税務署にも提出したものとみなすことです。
範囲だけが広がれば、会社の手間は増えます。そこに、市区町村に出す分で足りるという仕組みを重ねることで、実質の負担を増やさずに税務署側が受け取る情報を増やす。そういう組み立てになっています。
図 提出が楽になるという一面だけを見ると、範囲が広がっていることを見落とします。二つはセットです。
📌 税務署に出す範囲が、ほぼ全員分になる
いまの所得税法施行規則第93条第2項は、税務署への提出を要しない場合を4つ並べています。年末調整をした人で給与が500万円以下、法人の役員で150万円以下、扶養控除等申告書を提出した人で250万円以下、それ以外で50万円以下です。裏を返すと、この金額を超える人の分だけを提出していたことになります。
2027年1月1日以後に提出すべきものについては、この条文が次のように変わります。提出を要しないのは、年の中途において退職した者に限り、その年中の給与等の支払金額が30万円以下であるとき。それだけです。
図 金額で切っていた4つの区分が、まるごとなくなります。残るのは中途退職者の30万円以下という一つの除外だけです。
この30万円という基準は、地方税法第317条の6第3項ただし書が定める給与支払報告書の除外と同じです。つまり、税務署に出す範囲を市区町村に出す範囲にそろえた、ということになります。そろえたからこそ、次のみなし提出が成り立ちます。
| 区分 | 2026年12月31日までに提出すべきもの | 2027年1月1日以後に提出すべきもの |
|---|---|---|
| 年末調整をした人 | 500万円超の分を提出 | 提出する |
| 法人の役員 | 150万円超の分を提出 | 提出する |
| 扶養控除等申告書を提出した人 | 250万円超の分を提出 | 提出する |
| それ以外 | 50万円超の分を提出 | 提出する |
| 年の中途で退職した人 | 上記の区分に従う | 30万円以下なら提出しなくてよい |
表 税務署への提出範囲の新旧。根拠は所得税法施行規則第93条第2項です。
📌 みなし提出の仕組み
所得税法第226条に第6項が加わりました。給与等または公的年金等の支払をする者が、源泉徴収票に記載すべきものとして財務省令で定める事項の記載のある給与支払報告書または公的年金等支払報告書を市町村長に提出した場合には、これらの報告書に記載された給与等または公的年金等については、源泉徴収票の提出をしたものとみなす、という内容です。
財務省令で定める事項は、あわせて新設された所得税法施行規則第95条の3が定めています。国税庁のQ&Aは、これらの事項は給与支払報告書に記載すべき事項のなかにすべて含まれている、という趣旨を述べています。特別な欄を作ったり、摘要欄に何かを書き足したりする必要があるという記述は、法令にも国税庁の資料にも見当たりませんでした。
図 給与支払報告書の提出先は、1月1日現在の住所所在地の市町村長です。期限は1月31日で、これは従来から変わりません。
📌 退職所得の源泉徴収票には及ばない
見落としやすいのがここです。第226条第6項が引いているのは、第1項の給与等と第3項の公的年金等だけです。退職手当等を定める第2項は引かれていません。
つまり、退職所得の源泉徴収票については、みなし提出は働きません。従来どおり税務署に提出することになります。
図 給与所得と公的年金等の源泉徴収票だけが対象です。退職所得の源泉徴収票は、みなしの外にあります。
しかも退職所得の源泉徴収票は、令和7年度税制改正で提出範囲が広がっています。これまでは法人の役員に対して支払う退職手当等についてだけ提出すればよかったものが、全ての居住者に係るものへと拡大しました。令和8年分からの取扱いです。みなしが効かず、範囲だけが広がる。ここは純粋に手間が増えます。
📌 提出方法で、みなしの成否は変わらない
給与支払報告書の提出方法は、eLTAX、光ディスク等、書面の3つです。国税庁のQ&Aは、いずれの提出方法であっても税務署に源泉徴収票を提出したものとみなされる、としています。みなしの要件としてeLTAXが求められているわけではありません。
図 みなしの要件と、提出方法そのものの義務は別の話です。混ぜて理解すると、書面では特例が使えないという誤解になります。
ただし、これとは別に提出方法の義務があります。地方税法第317条の6第5項は、所得税法第228条の4第1項の適用を受ける者、つまり法定調書のe-Tax等による提出義務がかかる会社について、給与支払報告書をeLTAXまたは光ディスク等で提出しなければならないと定めています。この会社は書面を選べません。
義務化の基準は今後下がる見込みが示されており、実務上はeLTAXを前提に考えておくほうが安全です。
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📌 本人への交付義務は残る
第226条第1項は、源泉徴収票を2通作成し、1通を税務署長に提出し、他の1通を給与等の支払を受ける者に交付しなければならない、と定めています。新しい第6項がみなすのは、このうち提出のほうだけです。交付には一切触れていません。
国税庁も、受給者へ交付する源泉徴収票は引き続きすべての受給者に対して作成し交付を行う必要がある、と明記しています。税務署に出さなくてよくなることと、作らなくてよくなることは別です。
図 2通作るところは変わりません。税務署に出す1通が、市区町村への提出で代替されるという構造です。
なお本人への交付は、電磁的方法によることもできます。第226条第4項と第5項の定めによるもので、本人の承諾が必要になり、本人から請求があれば書面で交付することになります。
📌 いつの分から対象になるか
起算は提出すべき時期です。2027年1月1日以後に提出すべき源泉徴収票から適用されます。令和8年分という言い方もされますが、これは結果として最初に対象になる年分を指しているだけで、条文の起算ではありません。
給与所得の源泉徴収票の提出期限は翌年1月31日です。令和8年分は2027年1月31日が期限になるので、2027年1月1日以後に提出すべきものに当たります。ここで二つの言い方が一致します。
図 起算は提出すべき時期です。令和8年分が最初の対象になりますが、中途退職者の分は期限の来方が違います。
ひとつ例外があります。年の中途で退職した人の源泉徴収票は、退職の日以後1か月以内が提出期限です。2026年中に退職した人の分は、2026年のうちに期限が来るものがあります。それは2027年1月1日より前に提出すべきものなので、特例の対象になりません。
📌 令和8年分で、あわせて変わるもの
同じ年末調整のなかで動くものが、ほかにもあります。
ひとつは、先に触れた退職所得の源泉徴収票の提出範囲の拡大です。もうひとつが、租税特別措置法第41条の15の5の生命保険料控除の特例です。23歳未満の扶養親族がいる居住者について、新契約に係る一般生命保険料控除の上限が4万円から6万円になります。判定は令和8年12月31日の現況によります。当初は令和8年分限りでしたが、令和8年度税制改正で令和9年分まで延長されました。
三つめは、令和7年度改正で入った特定親族特別控除です。源泉徴収票の記載事項を定める所得税法施行規則第93条第1項に、特定親族の氏名や特定親族特別控除の額が並んでいます。
図 みなし提出だけを見ていると足りません。年末調整の入力項目と源泉徴収票の記載事項が、同じ年に複数変わります。
📌 年末調整の前に確かめること
実務として効いてくるのは、市区町村側の精度がそのまま税務署側の精度になる、という点です。給与支払報告書を出していない人がいれば、税務署への提出もそのぶん漏れます。これまでは源泉徴収票を別に作って出していたので、どちらかで気づく余地がありました。
1月1日現在の住所の把握も、これまで以上に効いてきます。提出先の市区町村はここで決まります。退職者については、退職日現在の住所所在地の市町村長が提出先です。
図 出し先が市区町村に寄るぶん、市区町村側の作業の精度が問われます。年末調整の前に体制を確かめておくと安心です。
国税庁は、令和8年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引を2026年8月に公表しています。みなし提出の特例に関するQ&Aと、特設ページもあわせて出ています。自社の当てはめで迷う点は、そちらで確かめるのが確実です。
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❓ よくある質問
A. なりません。所得税法第226条第1項は2通作成すると定めており、新しい第6項がみなすのは税務署への提出だけです。本人への交付は、すべての受給者に対して従来どおり必要です。
A. 使えます。国税庁のQ&Aは、eLTAX、光ディスク等、書面のいずれの提出方法であっても税務署に提出したものとみなされる、としています。ただし法定調書のe-Tax等による提出義務がかかる会社は、地方税法第317条の6第5項により給与支払報告書を書面で出すことができません。
A. なりません。所得税法第226条第6項が引いているのは第1項の給与等と第3項の公的年金等だけで、退職手当等を定める第2項は引かれていません。しかも退職所得の源泉徴収票は、令和7年度税制改正で提出範囲が法人の役員から全ての居住者へ拡大しています。
A. 年の中途で退職した人の源泉徴収票は、退職の日以後1か月以内が提出期限です。2026年のうちに期限が来るものは2027年1月1日より前に提出すべきものになるため、特例の対象になりません。
A. そうした要件は、法令にも国税庁の資料にも見当たりませんでした。条文上の要件は、所得税法施行規則第95条の3が定める事項の記載があることです。国税庁のQ&Aは、それらの事項が給与支払報告書に記載すべき事項のなかにすべて含まれているという趣旨を述べています。
📄 まとめ
2027年1月1日以後に提出すべき源泉徴収票から、市区町村に給与支払報告書を提出すれば税務署にも提出したものとみなされます。根拠は所得税法第226条第6項と、同施行規則第95条の3です。
同時に、税務署への提出範囲が広がります。500万円超、役員150万円超といった4つの金額区分はなくなり、提出しなくてよいのは年の中途で退職した人のうち給与が30万円以下の人だけになります。範囲を給与支払報告書にそろえたうえで、出し先を一本化した改正です。
みなしが働くのは給与所得と公的年金等の源泉徴収票だけです。退職所得の源泉徴収票は対象外で、しかもこちらは令和7年度改正で提出範囲が全ての居住者に広がっています。提出方法は書面でもみなしは働きますが、法定調書のe-Tax等による提出義務がかかる会社は給与支払報告書を書面で出せません。
そして、本人への交付義務は残ります。作らなくてよくなるわけではありません。市区町村への提出の精度がそのまま税務署側の精度になるので、年末調整の前に、給与支払報告書を全員分出せているか、1月1日現在の住所を把握できているかを確かめておくことをおすすめします。
⚖ 本記事の根拠
- 所得税法 第226条第1項・第2項・第3項・第4項・第5項・第6項
- 所得税法施行規則 第93条・第94条・第95条の3
- 地方税法 第317条の6第1項・第3項・第5項
- 租税特別措置法 第41条の15の5(年齢23歳未満の扶養親族を有する場合の生命保険料控除の特例)
- 国税庁「源泉徴収票のみなし提出の特例」特設ページ
- 国税庁「源泉徴収票(給与所得・公的年金等)のみなし提出の特例に関するQ&A」(2026年4月 課税総括課)
- 国税庁「令和8年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」(2026年8月公表 令和8年8月1日現在の法令による)
- 財務省「令和7年度税制改正の大綱」および「令和8年度税制改正の大綱」
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の会計処理および税務上の判断は、監査人および顧問税理士にご確認ください。
📚 参考(公的な一次情報)
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