種類株式・優先株式の価値評価|残余財産の優先分配とウォーターフォール

※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。

スタートアップがベンチャーキャピタルから資金調達するとき、多くは普通株式ではなく優先株式(種類株式)が発行されます。優先株式は、会社が売却されたり清算されたりしたときに、普通株式より先に投資額を回収できるといった権利を持っています。そのため、同じ「1株」でも優先株式と普通株式では価値が違います。

結論からいえば、種類株式の価値は、定款と投資契約に書かれた分配の順序と条件(優先分配の倍率、参加型か非参加型か、転換の条件)をウォーターフォールとして計算し、売却価格のシナリオごとに誰がいくら受け取るかを見て評価します。優先株式の価格をそのまま普通株式の価格とみなすと、ストックオプションの行使価額や株式の移動価格を誤ることになります。

種類株式で1株の価値が変わるのはなぜか

会社法108条1項は、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権の制限、譲渡制限、取得請求権、取得条項、全部取得条項、拒否権(種類株主総会の決議)、取締役・監査役の選任について、内容の異なる種類株式を発行できると定めています。このうち価値評価に大きく影響するのは、残余財産の優先分配、取得請求権(普通株式への転換)、優先配当です。

ベンチャー投資の実務でよく使われる条件は、経済産業省「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」(2022年3月改訂)でも整理されています。みなし清算条項の考え方は既存記事のみなし清算条項は誰の手取りを変えるかもあわせてご覧ください。

種類株式で「1株の価値」が変わる主な権利剰余金の配当優先配当・累積型残余財産の分配優先分配・参加型取得請求権普通株式への転換議決権制限無議決権株式拒否権(種類株主総会)取得条項(上場時の一斉転換)

図1 会社法108条1項の種類株式のうち評価に影響しやすいもの

優先配当にも種類があります。決められた優先配当が支払われなかったとき、未払分を翌期以降に繰り越して支払うのが累積型、繰り越さないのが非累積型です。スタートアップは成長投資を優先して配当をしないことが多いため、ベンチャー投資の優先株式では優先配当の価値は小さく、評価への影響の中心は残余財産の優先分配と転換の権利になるのが一般的です。一方、事業承継や事業再生で使われる優先株式では、優先配当の利回りが価値の大部分を占めることもあり、配当の条件を中心に評価します。

また、残余財産の優先分配は、会社法上は会社が解散・清算するときの分配の定めです。M&Aで株式が売却される場合にも同じ順序で分配するために、株主間契約などで「みなし清算条項」を定めておくのが一般的です。本記事のウォーターフォールは、このみなし清算条項が定められていることを前提にしています。

条件 内容 価値への影響
残余財産の優先分配(1倍) 投資額までは普通株式より先に受け取る 売却価格が低いときに優先株式の価値を守る
非参加型 優先分配か、転換して按分かのどちらか多いほう 売却価格が高いと普通株式と同じ価値になる
参加型 優先分配を受けたうえで残りの按分にも参加 普通株式の取り分が減る
取得請求権(転換) 普通株式への転換を請求できる 上場時は普通株式に転換されるのが一般的
みなし清算条項 M&Aを清算とみなし優先分配を適用 売却時の分配順序を決める

ウォーターフォールで分配を計算する

ウォーターフォール(分配の滝)は、売却代金や残余財産を、優先順位の高い株式から順に分配していく計算です。架空のX社で考えます。普通株式700万株(創業者など)、A種優先株式100万株(投資額3億円)、B種優先株式200万株(投資額10億円)、発行済株式数は合計1,000万株です。優先分配はいずれも投資額の1倍、B種がA種より先順位、どちらも非参加型とします。

売却代金が8億円なら、全額がB種に分配され、A種と普通株式は何も受け取れません。20億円なら、B種10億円、A種3億円、残り7億円が普通株式に分配され、普通株式は1株100円です。このとき優先株式の1株当たりの受取額は、B種が500円、A種が300円で、普通株式の3倍から5倍になっています。

ウォーターフォールの基本構造売却代金(エグジット価額)① B種優先株式に優先分配(10億円)② A種優先株式に優先分配(3億円)③ 残りを普通株式(と転換した優先株式)で按分

図2 売却代金や残余財産を上から順に分配する(架空の設例)

非参加型:エグジット価額ごとの分配011.623.134.746.28億円20億円40億円60億円普通株式A種優先B種優先

図3 普通700万株、A種100万株(3億円)、B種200万株(10億円)の例(架空、単位:億円)

非参加型優先株式の転換の判断

非参加型の優先株主は、優先分配を受けるか、普通株式に転換して按分を受けるかのうち、多いほうを選びます。X社の例では、売却代金が34億円を超えるとA種が転換を選び、50億円を超えるとB種も転換を選びます。たとえば40億円ならB種10億円、残り30億円をA種と普通株式で按分して、A種3.75億円、普通株式26.25億円。60億円なら全員が転換し、1,000万株で按分して1株600円になります。

このように、売却価格が十分に高ければ、優先株式も普通株式も1株当たりの価値は同じになります。逆に売却価格が低いほど、優先株式と普通株式の価値の差は大きくなります。上場前の会社の普通株式の価値を考えるときに、優先株式の価格をそのまま使えないのはこのためです。

優先株主が転換を選ぶ分岐点(非参加型)34億円以下A・Bとも優先分配34億円超A種が転換50億円超B種も転換転換後は普通株式と同じ1株当たりの分配になる

図4 優先分配額より転換後の按分額が大きくなると転換する(架空)

エグジット価額 B種(200万株) A種(100万株) 普通株式(700万株) 普通株式1株
8億円 8.0億円 0円 0円 0円
20億円 10.0億円 3.0億円 7.0億円 100円
40億円 10.0億円 3.75億円(転換) 26.25億円 375円
60億円 12.0億円(転換) 6.0億円(転換) 42.0億円 600円

参加型優先株式で普通株式の取り分はどう変わるか

参加型の優先株式は、優先分配を受けたうえで、残りの按分にも転換後の株数で参加します。X社の優先株式がいずれも参加型だったとすると、売却代金20億円では、B種10億円・A種3億円の優先分配の後、残り7億円を1,000万株で按分するため、B種は合計11.4億円、A種3.7億円、普通株式4.9億円(1株70円)となります。非参加型(1株100円)より普通株式の取り分が3割減ります。

売却代金60億円でも、参加型では普通株式は32.9億円(1株470円)にとどまり、非参加型の42億円(1株600円)との差は9億円以上になります。参加型かどうかは、創業者や従業員(ストックオプション保有者)の手取りを大きく左右する条件です。

参加型と非参加型の違い種類非参加型参加型B種優先10.011.4A種優先3.03.7普通株式7.0(1株100円)4.9(1株70円)参加型は優先分配を受けたうえで残りの按分にも参加する

図5 エグジット価額20億円のときの分配(架空、単位:億円)

普通株式1株当たりの受取額の比較01653304956608億円20億円40億円60億円非参加型参加型

図6 非参加型と参加型(架空、単位:円)

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種類株式の価値をどう評価するか

種類株式の評価では、まず会社全体の株式価値(エクイティ・バリュー)を求め、それを種類ごとに配分します。会社全体の価値の求め方は企業価値・事業価値・株式価値の違い|ネットデットと非事業資産の調整やDCF法の基本|フリー・キャッシュ・フローの作り方と計算例をご覧ください。配分の方法としては、いくつかの売却・上場シナリオを置いて確率で重み付けする方法(シナリオ分析)、株式価値を原資産とみなしてオプション理論で各種類の価値を求める方法(オプション価格法)、上場時の一斉転換を前提に普通株式と同等とみなす方法などがあります。

どの方法でも、定款と投資契約に書かれた条件を正確に読み取ることが出発点です。転換価額の調整条項(希薄化防止条項)や、みなし清算条項の対象となる取引の範囲など、細かな条件が分配額を変えるからです。複数の方法の結果をどう重み付けるかは評価手法の併用と重み付け|評価結果をレンジで示す考え方で解説しています。

種類株式の評価の手順定款・投資契約を読む分配順位を整理シナリオ別に分配計算確率・手法で重み付け種類ごとの1株価値

図7 条件を読み、分配を計算し、確率や手法で重み付ける

シナリオ分析の簡単な例を示します。X社(非参加型)について、将来の売却代金が20億円になるシナリオの確率を40%、60億円になるシナリオの確率を60%と置きます(割引計算は省略)。1株当たりの受取額は、20億円のときB種500円・A種300円・普通株式100円、60億円のときはいずれも600円です。確率で加重平均すると、B種は500円×40%+600円×60%=560円、A種は300円×40%+600円×60%=480円、普通株式は100円×40%+600円×60%=400円となります。同じ会社の株式でも、種類によって1株の価値が4割近く違うことが分かります。

種類 20億円(確率40%) 60億円(確率60%) 加重平均(1株)
B種優先 500円 600円 560円
A種優先 300円 600円 480円
普通株式 100円 600円 400円

税務上の種類株式の評価

相続税・贈与税の分野では、国税庁の文書回答事例「相続等により取得した種類株式の評価について」(平成19年、中小企業庁からの照会に対する回答)で、事業承継で使われることが多い3類型の評価方法が示されています。配当優先の無議決権株式は、類似業種比準方式では1株当たりの配当金額を株式の種類ごとに計算し、無議決権株式は一定の条件の下で5%の評価減を選択できます。社債類似株式は、経済的実質が社債に類似するとして、社債に準じて発行価額により評価します。拒否権付株式は、拒否権を考慮せず普通株式と同様に評価します。

ただし、スタートアップの残余財産優先分配・転換権付きの優先株式は、この3類型のいずれかにそのまま当てはまらないことが多く、条件に応じて個別に考える必要があります。

税務上の種類株式の評価(文書回答事例)配当優先の無議決権株式配当は種類ごとに計算(5%評価減の選択あり)社債類似株式社債に準じて発行価額で評価拒否権付株式拒否権を考慮せず普通株式と同様に評価ベンチャー型の優先株式は3類型に当てはまらないことが多い

図8 国税庁 文書回答事例「相続等により取得した種類株式の評価について」(平成19年)の要旨

類型(文書回答事例) 評価方法の要旨
配当優先の無議決権株式 配当優先:類似業種比準方式で配当金額を種類ごとに計算。無議決権:条件付きで5%評価減を選択可能
社債類似株式 財産評価基本通達197-2(3)に準じて発行価額で評価(既経過利息に相当する配当金の加算は行わない)
拒否権付株式 拒否権を考慮せず普通株式と同様に評価

ストックオプションの株価算定で優先株式を考慮する

種類株式の評価が実務で特に問題になるのが、税制適格ストックオプションの行使価額です。国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」(問9)は、財産評価基本通達の例による特例方式で株価を算定する際、種類株式を発行している場合は、その内容を勘案して個別に普通株式の価額を算定するとし、計算過程として、純資産価額から優先株式の優先分配額を控除し、その残額を優先株式を含む発行済株式総数で割って普通株式の1株当たりの価額を求める手順を示しています。

X社の純資産価額が20億円だったとすると、全株式で単純に割れば1株200円です。Q&A(問9)の計算過程に沿ってB種10億円とA種3億円の優先分配額を控除すると残りは7億円で、これを優先株式を含む発行済株式総数1,000万株で割ると、普通株式の1株当たりの価額は70円になります。行使価額の詳しい決め方はストックオプションの評価|行使価額の決め方と公正な評価単価をご覧ください。

SOの株価算定で優先株式への分配を控除する純資産20B種優先-10A種優先-3普通株式分7普通株式1株:7億円÷1,000万株=70円(単純平均なら200円)

図9 純資産20億円、優先分配13億円の例(架空)

この計算は普通株式の価値を算定する一つの方法であり、税制適格の要件を判定するための株価の算定方法として示されたものです。M&Aの価格交渉や、会計上の評価で種類ごとの価値を求める場合には、前に述べたシナリオ分析やオプション価格法など、目的に合った方法を選びます。株価算定の方法の選び方は既存記事の未上場株式の株価算定はどの方法を使うか、税制適格ストックオプションの制度は税制適格ストックオプションをご覧ください。

上場が近づくと優先株式と普通株式の差は縮む

優先株式と普通株式の価値の差は、会社の段階によって変わります。シード・アーリー期は、会社が低い価格で売却される可能性や、うまくいかずに清算される可能性が相応にあるため、優先分配の権利の価値が大きく、普通株式の価値は優先株式の価格をかなり下回ります。

一方、上場が現実的になると、優先株式は上場前に普通株式へ転換されることが見込まれ、優先分配が意味を持つ場面(低い価格での売却)の可能性が小さくなります。そのため、上場直前の段階では優先株式と普通株式の価値の差は小さくなり、上場時にはすべて普通株式として同じ価格になります。シナリオ分析で、上場シナリオの確率を高く置くほど普通株式の価値が優先株式に近づくのはこのためです。

評価の実務では、ラウンドのたびに、直近の優先株式の価格、優先分配の総額、上場やM&Aの見込みを踏まえて普通株式の価値を見直すことが大切です。上場前の株価の全体像は上場前の株価の決め方|第三者割当増資の発行価格と税務上の時価、ラウンドの評価額と株式数の関係は資金調達ラウンドのバリュエーション|プレマネー・ポストマネーとJ-KISSで解説しています。

会社の段階 低い価格での売却・清算の可能性 優先株式と普通株式の価値の差
シード・アーリー期 相応にある 大きい(優先分配の価値が大きい)
ミドル・レイター期 事業の進捗により小さくなる 縮小していく
上場直前 小さい 小さい(上場前に普通株式へ転換見込み)
上場後 — なし(すべて普通株式)
  • 定款と投資契約から、優先分配の倍率・順位・参加型かどうかを一覧にしたか
  • みなし清算条項の対象となる取引の範囲を確認したか
  • 複数のエグジット価額でウォーターフォールを計算したか
  • 優先株主が転換を選ぶ分岐点を把握したか
  • 普通株式の価値を優先株式の価格と区別して算定したか
  • ストックオプションの株価算定で優先株式への分配を考慮したか

よくある質問

Q1. 優先株式の発行価格を、普通株式の時価として使ってよいですか?

そのまま使うのは適切ではありません。優先株式は残余財産の優先分配などの権利があるため、普通株式より価値が高いのが通常です。権利内容の差を考慮して普通株式の価値を算定します。

Q2. 上場すると優先株式はどうなりますか?

一般に、上場前に取得条項などにより普通株式に一斉に転換されます。上場時には全株式が普通株式となるため、上場が確実に近づくほど優先株式と普通株式の価値の差は小さくなります。

Q3. ウォーターフォールの計算は表計算ソフトでできますか?

できます。ただし非参加型の転換判断は、他の株主が転換するかどうかにも影響されるため、売却価格を細かく刻んで確認するか、分岐点を計算して検証することをおすすめします。

Q4. 税務上の種類株式の評価は文書回答事例の方法だけですか?

文書回答事例は事業承継で使われる3類型についての回答です。それ以外の種類株式は、権利内容に応じて個別に評価を考える必要があります。

最初の一歩は、資本政策表に種類ごとの条件を書き込むことから

資本政策表(キャップテーブル)の株主ごとの株数の横に、株式の種類、1株当たりの払込金額、優先分配の倍率、順位、参加型かどうか、転換比率を書き加えてください。それだけで、ウォーターフォールの計算に必要な情報がそろいます。

まとめ

優先株式と普通株式は、残余財産の優先分配や転換の権利によって1株の価値が異なります。ウォーターフォールで売却価格ごとの分配を計算すると、売却価格が低いほど優先株式が有利になり、参加型では普通株式の取り分がさらに減ることが分かります。税務上の種類株式の評価やストックオプションの行使価額の算定でも、優先株式への分配を考慮して普通株式の価値を求めることが重要です。

種類株式の条件は、資金調達のたびに追加・変更されていきます。新しいラウンドの条件を決める前に、既存の優先株式の分配順位や参加型かどうかを含めて全体のウォーターフォールを計算し直し、創業者・従業員・各投資家の取り分がどう変わるかを確かめてから合意することをおすすめします。

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公認会計士・税理士 鈴木佑也

この記事を書いた人鈴木 佑也(公認会計士・税理士)

公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る

本記事の根拠

免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。

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