※本記事は2026年10月6日時点の公表資料に基づきます。
国や独立行政法人から調査・研究開発などの委託事業を受けたり、補助金や雇用関係の助成金を受けたりすると、事業の後に「確定検査」や支給審査があります。ここで証憑が足りなかったり、人件費の根拠が説明できなかったりすると、精算額が減ったり、返還を求められたりします。
結論からいえば、確定検査への備えは「経費番号による証憑の一元管理」と「人件費の三点照合(業務日誌・勤怠記録・給与台帳)」が中心です。そのうえで、年度末や期中に合意された手続(AUP)で第三者が確かめておくと、検査の前に誤りを直せます。
この記事の見出し
委託事業・補助金・助成金は何が違うのか
経済産業省の「委託事業事務処理マニュアル」は、委託費を「委託契約に基づく対価的性格を有する経費」であり、補助金のような助成的性格のものとは異なると説明しています。委託事業では、国などの事業を契約で受託し、実際にかかった経費を確定検査で精算します。補助金は、自社の事業にかかる経費の一部を助成するもので、実績報告を経て額が確定します。補助金の実績報告については補助金の実績報告と公認会計士の確認で詳しく解説しています。
厚生労働省の雇用関係助成金は、雇用や労務に関する要件を満たした事業主に支給されます。経費の証憑よりも、雇用契約書、出勤簿、賃金台帳などの労務書類の整合性が確認の中心になります。
図1 経費の確認の観点は、資金の性格によって変わります。委託費は契約の対価、補助金は事業への助成、雇用関係の助成金は要件を満たした場合の支給です。
| 区分 | 性格 | 金額の決まり方 | 主に確認される書類 |
|---|---|---|---|
| 委託事業 | 契約の対価 | 確定検査で実際の経費を精算 | 証憑、業務日誌、契約書 |
| 補助金 | 事業への助成 | 実績報告・額の確定 | 証憑、交付決定通知 |
| 雇用関係助成金 | 要件充足による支給 | 支給審査 | 雇用契約書、出勤簿、賃金台帳 |
委託事業の確定検査で見られること
委託事業事務処理マニュアルでは、検査を二つに分けています。中間検査は、事業終了前に必要に応じて行い、経理処理手順や社内統制の体制を確認して、年度末の負荷を分散し、誤処理を速やかに是正することを目的とします。確定検査は、事業終了後に実績報告書に基づいて成果と経理処理の反映状況を確認するもので、この検査をもって委託費の額が確定します。
図2 経済産業省「委託事業事務処理マニュアル」の中間検査・確定検査の位置づけを簡略化したもの。
経費は、人件費、事業費(旅費、会議費、謝金、備品費、借料及び損料、消耗品費、印刷製本費、補助員人件費、その他諸経費)、再委託・外注費、一般管理費に区分されます。区分ごとに求められる証憑が異なるため、受託した時点で一覧にしておくと準備が楽になります。
| 経費区分 | 主な証憑 | 確定検査で問われやすい点 |
|---|---|---|
| 人件費 | 業務日誌、勤怠記録、給与台帳、単価計算書 | 従事時間の根拠、他事業との重複 |
| 旅費 | 出張命令・報告、領収書、旅費規程 | 用務と事業の関係、規程との整合 |
| 謝金・会議費 | 依頼文書、出席者名簿、支払記録 | 単価の根拠、会議の目的 |
| 備品費・消耗品費 | 見積書、発注書、納品書、請求書、支払記録 | 事業での使用、購入時期 |
| 再委託・外注費 | 契約書、成果物、再委託先の経費資料 | 再委託先の経費の確認 |
| 一般管理費 | 率の算定資料 | 率の上限と計算の正しさ |
人件費の確認が最も手間がかかる理由
委託事業の人件費は、時間単価に従事時間を掛けて計算するのが基本です。マニュアルは単価の算定方法として、健保等級単価計算、実績単価計算、コスト実績単価計算、受託単価計算の4つを示しています。健保等級単価を使う場合は、時間内、時間外、休日等の区分を問わず同一の単価を使います。
図3 時間単価に従事時間を掛けて人件費を計算する例。単価の算定方法(健保等級単価など)は委託元のマニュアルで定められた方法によります。
従事時間の根拠になるのが業務日誌です。マニュアルは「いつ、誰と、どこで、何をしたか」を含め、具体的な従事内容(出張、会議、研究等)がわかるように記載することを求めています。日誌を後からまとめて書くと、勤怠記録と合わなくなったり、他の事業と同じ時間に従事したことになったりしがちです。
図4 業務日誌の従事時間が、勤怠記録の勤務時間の範囲内で、他の事業と重複していないかを確かめます。
人件費の確認では、業務日誌の従事時間が勤怠記録の勤務時間を超えていないか、同じ時間帯に他の委託事業や補助事業の日誌がないか、単価の基礎が給与台帳と一致しているかを、三つの記録で突き合わせます。架空の例では、時間単価3,000円で400時間従事すれば人件費は120万円ですが、そのうち20時間が他事業と重複していれば、6万円が認められない可能性があります。
一般管理費と再委託費の確認
一般管理費は、直接経費(人件費+事業費)に一般管理費率を掛けて計算します。率は原則として10%か、マニュアルの算定式で計算した率のいずれか低い率です(大規模な事業では8%と算定式による率のいずれか低い率とされ、特殊な事情がある場合は協議で決めます)。架空の例で、人件費800万円と事業費1,200万円の直接経費2,000万円に10%を掛けると一般管理費は200万円、これに再委託・外注費500万円を加えて委託費の合計は2,700万円になります。
図5 直接経費(人件費+事業費)に一般管理費率10%を掛け、再委託・外注費を加えた架空の例。一般管理費率は10%または算定式による率のいずれか低い率とされています。
人件費や事業費が確定検査で減額されると、一般管理費も連動して減ります。再委託先については、受託者がマニュアルに基づいて帳票類を確認し、同等の経理処理を行うよう指導することが求められます。再委託先の証憑を受託者が見ていないと、確定検査で説明できません。
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雇用関係助成金の支給申請で確認されること
雇用関係助成金では、支給申請書の内容が、雇用契約書、出勤簿、賃金台帳、就業規則や計画書と一致しているかが確認されます。申請書類の作成や提出の代行は社会保険労務士の業務領域であり、公認会計士は、作成された書類の数値の整合を合意された手続で確かめる立場で関わります。
図6 助成金では、労務関係の書類どうしの整合が確認されます。申請書類の作成・提出代行は社会保険労務士の業務領域です。
厚生労働省は、偽りその他不正の行為で助成金の支給を受けた場合の措置を公表しています。故意でなくても、書類の不整合が続けば説明を求められます。
| 措置 | 内容(厚生労働省の公表内容の要旨) |
|---|---|
| 返還 | 不正に受給した助成金の全額を返還 |
| 違約金 | 返還額の2割に相当する額を納付 |
| 延滞金 | 返還までの期間に応じて納付 |
| 支給制限 | 不正受給の決定日から5年間は雇用関係助成金を受給できない |
| 公表 | 基準に該当する場合、事業主名・代表者名などを公表 |
確定検査に備える日常の証憑管理
マニュアルは関係書類を時系列に整理・保管するよう求めています。実務では、発注の時点で経費番号を付け、その番号を証憑、支払記録、電子ファイル名、経費明細に共通して記入する方法が有効です。番号が一つの鍵になり、検査官や公認会計士から「この経費の証憑を」と言われたとき、すぐに一式を出せます。
図7 経費明細の番号を、証憑・支払記録・電子ファイル名に共通して付けておくと、確定検査でも合意された手続でも確認が早く進みます。
複数の委託事業や補助事業を並行して受けている会社では、経費や人の従事時間がどの事業に属するかの区分が特に重要です。事業ごとに部門コードやプロジェクトコードを会計システムに設定し、日誌も事業ごとに分けて記録してください。
検査の当日は、検査官が経費明細から経費を選び、その場で証憑や支払記録を求めるのが一般的な進め方です。担当者が一人しか証憑の場所を知らないと、その人が不在のときに対応できません。保管場所と経費番号の付け方をルールとして文書にし、経理と事業担当の双方が分かるようにしておいてください。電子で受け取った請求書や見積書は、紙に印刷して保管するだけでなく、受け取った電子データも経費番号を付けて保存しておくと、日付や送信者の確認にも使えます。
合意された手続で事前に確かめる
委託元から求められていなくても、確定検査の前に公認会計士が合意された手続で確かめておけば、誤りを自社で直したうえで実績報告を出せます。手続は、経費明細と会計帳簿の一致、証憑の日付、業務日誌と勤怠記録の整合、単価計算の再計算、一般管理費率の再計算、再委託先の経費の確認状況などから、目的に合わせて選びます。
図8 委託事業・補助金・助成金に共通して使える手続の例。どの項目を対象にするかは依頼者と合意して決めます。
| 手続の例 | 確かめる内容 | 使う資料 |
|---|---|---|
| 帳簿との照合 | 経費明細の合計が会計帳簿の事業別集計と一致するか | 経費明細、総勘定元帳 |
| 証憑の照合 | 抽出した経費の証憑の日付・金額・相手先 | 証憑一式、支払記録 |
| 人件費の照合 | 日誌の従事時間が勤怠の範囲内か、他事業と重複しないか | 業務日誌、勤怠記録 |
| 単価の再計算 | 時間単価が所定の方法で計算されているか | 給与台帳、単価計算書 |
| 一般管理費の再計算 | 率と直接経費の掛け算が正しいか | 率の算定資料 |
事業期間が長い場合は、期中と年度末の2回に分けると、上期の誤りを下期の処理に反映できます。中間検査と同じ考え方です。
図9 事業期間が長い場合、期中に一度確認しておくと、年度末に誤りがまとめて見つかる事態を避けられます。
合意された手続は意見を表明しないため、「確定検査で減額されない」ことを保証するものではありません。それでも、どの手続をどの経費に行い、何が見つかったかが報告書に残るため、社内の点検記録としても使えます。業務の位置づけは合意された手続の実務指針(専門業務実務指針4400)の要点、他の業務との違いは監査・レビュー・合意された手続・財務DDの違いを参照してください。費用は範囲・件数に応じて個別にお見積りし、着手前に書面で提示します(相談無料)。全国対応・オンライン完結で、提出期限が迫っている場合の短納期にも対応しています。
人件費の三点照合は、派遣・職業紹介の許可申請で求められる月次の締めの考え方とも共通します。関連して派遣の中間決算と月次決算|監査証明を受ける準備、日程の逆算については派遣許可の更新|費用と日程を逆算するも参考になります。
- 受託した事業の事務処理マニュアルを入手し、経費区分と必要な証憑を一覧にした
- 発注時に経費番号を付け、証憑・支払記録・ファイル名に共通して記入している
- 業務日誌を日々記録し、勤怠記録と照合している
- 複数事業の人件費・経費が重複しないよう事業コードで区分している
- 再委託先の経費の証憑を受託者として確認している
- 期中と年度末に第三者の確認を受ける日程を決めた
よくある質問
委託元が求めていない限り必須ではありません。確定検査の前の自主点検として、合意された手続を利用できます。
従事の事実に基づいて作成する必要があります。後からまとめて作ると勤怠記録との不一致や他事業との重複が起きやすいため、日々の記録をおすすめします。
助成金の申請書類の作成や提出代行は社会保険労務士の業務領域です。公認会計士は、作成された書類の数値の整合を合意された手続で確かめる形で関わります。
一般管理費は直接経費に率を掛けて計算するため、人件費や事業費が減額されれば、一般管理費も連動して減ります。
最初の一歩は、受託事業の事務処理マニュアルを読み、経費区分ごとの証憑を一覧にすることです
一覧ができれば、何が足りないかが見え、合意された手続の範囲と見積りもすぐに決まります。
まとめ
委託事業は確定検査で、補助金は額の確定で、雇用関係助成金は支給審査で、それぞれ経費や書類の整合が確かめられます。日常は経費番号による一元管理と人件費の三点照合で備え、期中や年度末に合意された手続で第三者が確かめておくと、検査の前に誤りを直せます。合意された手続の全体像は合意された手続(AUP)とは?、依頼の流れは合意された手続の依頼の流れでまとめています。
許可申請・補助金の実績報告・ロイヤリティの確認・M&Aや融資の前の財務の確認まで、手続の設計から報告書の作成まで公認会計士が対応します。全国対応・オンライン完結、申請期限が迫っている場合もご相談ください。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 経済産業省大臣官房会計課「委託事業事務処理マニュアル」(令和3年1月、中小企業庁の公募資料に掲載)
- 厚生労働省「雇用関係助成金の不正受給について」
- e-Gov法令検索「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」
- 日本公認会計士協会 専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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