収益認識に関する会計基準を適用してから、貸借対照表に「契約資産」という科目が現れるようになりました。売掛金と何が違うのか。請求書を発行していないものが契約資産、という説明を見かけますが、基準の定義はそうではありません。
この記事では、企業会計基準第29号の項番号にあたって契約資産、契約負債、顧客との契約から生じた債権の3つを区別し、表示と注記のルールを整理します。財務諸表等規則の条文、税務との関係、中小企業の取扱いまで扱います。
- 3つの用語の定義と、分かれ目が「無条件かどうか」であること(第10項・第11項・第12項)
- 契約資産の会計処理は金融商品会計基準の債権の取扱いに準じること(第77項)
- 区分表示するか注記するかは選択できること(第79項)
- 前受金という科目名も使えること(適用指針第30号 第104-3項)
- 契約資産と契約負債に関する注記の4項目(第80-20項)
- 上場企業等以外は実現主義によることができること
この記事の見出し
📌 結論 分かれ目は「無条件かどうか」
先に結論を書きます。契約資産と債権を分ける基準は、対価に対する権利が無条件かどうかです。請求書を発行したかどうかではありません。
企業会計基準第29号の第12項は、顧客との契約から生じた債権を、企業が顧客に移転した財またはサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち無条件のもの、と定義しています。無条件とは、対価に対する法的な請求権があるということです。
第10項の契約資産は、同じ権利のうち、顧客との契約から生じた債権を除いたものです。つまり、財やサービスは移転したけれども、対価を受け取る権利にまだ条件が付いている状態を指します。
🔤 3つの用語を区別する
分かれ目は「無条件かどうか」です。請求書を発行したかどうかで決まるものではありません。
同じ工事でも、出来高部分の対価が引渡し時にしか請求できない契約なら契約資産、出来高ごとに請求できる契約なら債権になります。契約書の条件で変わります。
具体例で考えます。2つの機械を納入する契約で、代金は2台目を納入したときに全額を請求できる、という条件だったとします。1台目を納入した時点で、その分の収益は認識しますが、対価を請求する権利はまだありません。2台目の納入という条件が残っています。この状態が契約資産です。
2台目を納入すれば条件がなくなり、対価に対する法的な請求権が生じます。この時点で契約資産は債権に振り替わります。
逆に、1台ごとに請求できる契約であれば、1台目の納入時点で無条件の権利が生じるので、最初から債権です。同じ取引でも契約条件で扱いが変わる、というのがこの論点の特徴です。
契約負債
第11項の契約負債は、財またはサービスを顧客に移転する企業の義務に対して、企業が顧客から対価を受け取ったもの、または対価を受け取る期限が到来しているものです。第78項が、財またはサービスを移転する前に対価を受け取る場合、対価を受け取った時または受取期限が到来した時のいずれか早い時点で契約負債を計上するとしています。
受取期限が到来していれば、実際に入金がなくても契約負債を計上する点に注意してください。この場合、相手方に対する債権も同時に計上されることになります。
自社の契約類型ごとに、どの時点で収益を認識し、その対価の権利が無条件になるのはいつかを整理します。契約資産として表示するか注記で示すか、科目名をどうするか、第80-20項の注記に何を書くかまで、監査人に説明できる形でまとめてお返しします。公認会計士・税理士が直接お受けします。初回のご相談は無料です。
💰 契約資産の会計上の性質
契約資産は債権なのか、それとも別のものなのか。この点を定めているのが第77項です。
同項は、対価を受け取る前または受取期限が到来する前に財またはサービスを移転した場合には、収益を認識し、契約資産または顧客との契約から生じた債権を貸借対照表に計上するとしています。そのうえで、本会計基準に定めのない契約資産の会計処理は、金融商品会計基準における債権の取扱いに準じて処理する、としています。あわせて、外貨建ての契約資産の換算については、外貨建取引等会計処理基準の外貨建金銭債権債務の換算に準じるとしています。
「対象になる」ではなく「準じる」
ここは正確に理解しておく必要があります。契約資産が金融商品会計基準の適用対象になる、という書き方は正確ではありません。第3項(1)により、金融商品会計基準の範囲に含まれる金融商品に係る取引は収益認識基準の範囲から除かれています。契約資産は収益認識基準が定義する資産です。
そのうえで、本基準に定めのない部分については債権の取扱いに準じる、という規定です。したがって貸倒引当金の検討も必要になります。契約資産だから貸倒引当金は不要、という理解は誤りです。
📊 表示は選択できる
「契約資産」という科目を必ず立てなければならない、という定めではありません。注記で示す方法も認められています。
第79項は、契約資産、契約負債、顧客との契約から生じた債権について、適切な科目をもって貸借対照表に表示するとしています。そのうえで、なお書きで、契約資産と債権のそれぞれを他の資産と区分して表示しない場合はそれぞれの残高を注記し、契約負債を他の負債と区分して表示しない場合は契約負債の残高を注記するとしています。
つまり、区分表示するか、区分表示せず注記するかの選択制です。「契約資産」という科目を必ず貸借対照表に立てなければならないわけではありません。
科目名も例示
科目名を定めているのは基準ではなく適用指針です。企業会計基準適用指針第30号の第104-3項が、契約資産の科目例として契約資産、工事未収入金等を、契約負債の科目例として契約負債、前受金等を、債権の科目例として売掛金、営業債権等を挙げています。第104-2項は損益計算書の収益科目の例で、売上高、売上収益、営業収益等です。
前受金という科目が使えなくなったという説明を見かけますが、適用指針が例示に挙げています。従来の科目名を継続して使うことは可能です。
財務諸表等規則の条文
財務諸表等規則では、第15条第3号の2が流動資産の範囲に契約資産を、第17条第1項第3号の2が流動資産の区分表示に契約資産を掲げています。契約負債は第47条第2号の2と第49条第1項第7号の2です。第47条には第3号として前受金が別に置かれています。
第17条第4項は一括表示の定めです。顧客との契約から生じた債権と契約資産について、他の項目に属する資産と一括して表示することができ、その場合はそれぞれの科目および金額を注記しなければならないとしています。ただし、提出会社が連結財務諸表を作成しているときは当該注記を省略できます。
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📝 注記に何を書くか
(4)がいちばん書きにくいところです。自社の契約で、いつ引き渡していつ請求するのかを言語化することになります。
注記の枠組みは第80-2項以下です。第80-2項が重要な会計方針の注記で、企業の主要な事業における主な履行義務の内容と、企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)の2項目です。
第80-10項が収益の分解情報で、収益およびキャッシュ・フローの性質、金額、時期および不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解するとしています。
そして第80-20項が契約資産および契約負債の残高等に関する注記です。4つの号に加えて、過去の期間に充足(または部分的に充足)した履行義務から当期に認識した収益がある場合の注記が求められています。
(4)が書きにくい
実務で手間がかかるのが(4)です。履行義務の充足の時期が通常の支払時期にどのように関連するか、およびそれらの要因が契約資産・契約負債の残高に与える影響の説明を求めています。
要するに、いつ引き渡していつ請求しているのかを言葉で説明せよ、ということです。契約類型が複数ある会社では、それぞれについて整理する必要があります。契約書のレビューを伴う作業になるので、決算直前に始めると間に合いません。
なお、第80-25項から第80-27項に、連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における表示および注記の特例が置かれています。
⚠️ よくある誤解
とくに1つめと4つめは、実務で判断を誤ると監査で必ず論点になります。
この論点でいちばん多い誤解が、契約資産を「請求書未発行の売掛金」と理解してしまうことです。実務上の目安としてはそう見える場面もありますが、基準の定義とは別です。請求書を発行していなくても、契約上いつでも請求できる状態であれば無条件の権利があり、債権です。
逆に、請求書を発行していても、契約上の条件が未成就で法的な請求権が確立していない場合はあり得ます。判定は契約条件で行ってください。
🧾 税務との関係
法人税法第22条の2第1項は、資産の販売等に係る収益の額を、目的物の引渡しまたは役務の提供の日の属する事業年度の益金に算入するとしています。第2項は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って、契約の効力が生ずる日その他の引渡し等の日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合には、その事業年度の益金に算入するとしています。
国税庁は平成30年5月に「『収益認識に関する会計基準』への対応について~法人税関係~」を公表しています。益金算入額は引渡し時の価額または通常得べき対価の額に相当する金額とされ、貸倒れや買戻しの可能性がないものとした場合の価額とする旨、返品調整引当金制度が廃止された旨などが説明されています。
断定できないこと
契約資産を計上した時点で法人税の益金に算入されるのか、消費税の納税義務が成立するのか。この点について国税庁が明示した見解は、この記事の作成時点で確認できませんでした。法人税法第22条の2の枠組みに沿って、引渡しまたは役務の提供の日がいつかを判定することになります。
会計上の科目が契約資産か債権かということと、税務上の収益計上時期は、直接には連動しません。会計処理を変えたことで税務の取扱いが自動的に変わるわけではない、という点は押さえておいてください。
🏢 中小企業と上場準備会社
収益認識基準に中小企業向けの特則はありません。ただし、日本公認会計士協会が2023年5月17日に公表した改正「中小企業の会計に関する指針」(2023年5月10日改正)は、収益に関して、上場企業等においては企業会計基準第29号が適用される一方、上場企業等以外においては引き続き企業会計原則に基づく実現主義によることができる、としています。
2023年の改正では、個別注記表に収益の計上基準の注記に含める事項が追加され、別紙として収益の計上基準の注記例が追加されています。
上場準備での切替え
上場準備会社にとって重要なのは、この切替えが必ず発生することです。実現主義で処理していた会社が、収益認識基準に移行します。その過程で、契約資産や契約負債という科目が新たに登場します。
作業としては、契約類型の洗い出し、履行義務の識別、充足時点の判定、対価の権利が無条件になる時点の確定、という順序になります。契約書を読み込む作業なので、時間がかかります。N-2期に着手して、N-1期には新基準ベースで月次を回せる状態にしておくのが理想です。
関連する論点はIPO準備 完全ガイドで扱っています。
❓ よくある質問
A. 違います。第10項と第12項の分かれ目は、対価に対する権利が無条件かどうかです。請求書の発行の有無は基準上の判定基準ではありません。
A. 第79項なお書きと財務諸表等規則第17条第4項により、区分表示せず注記する方法も認められています。
A. 使えます。適用指針第30号 第104-3項が契約負債の科目例として前受金を挙げています。
A. 第77項が、本会計基準に定めのない契約資産の会計処理は金融商品会計基準における債権の取扱いに準じて処理するとしています。検討が必要です。
A. あります。第78項は、対価を受け取った時または受取期限が到来した時のいずれか早い時点で契約負債を計上するとしています。
A. 中小企業の会計に関する指針は、上場企業等以外においては引き続き企業会計原則に基づく実現主義によることができるとしています。
A. この点について国税庁が明示した見解は確認できませんでした。会計上の科目と税務上の時期は直接には連動しません。
A. 第77項が、外貨建取引等会計処理基準における外貨建金銭債権債務の換算に準じるとしています。
A. 適用指針第30号の設例集に、[設例27]履行により契約資産が認識される場合と、[設例28]履行により顧客との契約から生じた債権が認識される場合が置かれています。
📄 まとめ
契約資産と債権の分かれ目は、対価に対する権利が無条件かどうかです(第10項・第12項)。請求書の発行の有無ではありません。契約負債は、対価を受け取った時または受取期限が到来した時のいずれか早い時点で計上します(第11項・第78項)。
契約資産の会計処理は、本基準に定めのない部分について金融商品会計基準の債権の取扱いに準じます(第77項)。表示は、区分表示するか注記するかの選択制です(第79項)。科目名は適用指針第30号第104-3項が例示しており、前受金も使えます。
注記は第80-2項、第80-10項、第80-20項が中心です。とくに第80-20項(4)は、いつ引き渡していつ請求しているのかを言葉で説明するもので、契約書のレビューを伴う作業になります。上場準備会社は、実現主義からの切替えを含めて早めに着手してください。
📚 参考(公的な一次情報)
- 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」第3項・第10項・第11項・第12項・第77項・第78項・第79項・第80-2項・第80-10項・第80-20項
- 企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」第104-2項・第104-3項、設例27・設例28
- 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則 第15条・第17条・第47条・第49条
- 法人税法 第22条の2
- 国税庁「『収益認識に関する会計基準』への対応について~法人税関係~」(平成30年5月)
- 日本公認会計士協会「中小企業の会計に関する指針」(2023年5月10日改正)
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