※本記事は2026年10月13日時点の公表資料に基づきます。
自社株評価の見直しで何が変わり、いつからか
国税庁の有識者会議では、会社の規模で評価方法を分ける今の仕組みをやめ、簿価純資産に超過収益を加減する「残余利益方式」を中心にする案が議論されています。2026年10月13日時点で、適用時期・還元率などの数値・経過措置は決まっていません。今は現行方式で株価を試算し、見直し後に評価額が上がりやすい会社かどうかを見極めることが先決です。
- 類似業種比準方式は存置が困難、純資産価額方式は特定の評価会社向け、配当還元方式は範囲を見直して存置とする方向が示された(いずれも案)
- 第6回(9月16日)の国税庁の試算では、大会社は評価額が上がる会社が多く、小会社は下がる会社が多い傾向
- 役員退職金やオペレーティング・リースで一時的に利益を下げる対策は、効かなくなる案が出ている
2026年10月13日更新
「自社株の評価方法が変わるらしいが、後継者への贈与は今のうちに済ませたほうがよいのか」「事業承継税制の期限も近いと聞くが、どう組み合わせればよいのか」。2026年の夏以降、オーナー経営者の方からこうしたご相談が増えています。国税庁が2026年4月から開いている有識者会議で、取引相場のない株式(非上場の自社株)の評価方法を大きく見直す案が示されたためです。
結論からいえば、見直しの方向は見えてきたものの、いつから・どの数値で計算するかは決まっていません。決まっていないことを前提に株式を動かすのは危険ですが、何もしないで待つのも得策とはいえません。この記事では、2026年10月13日時点の国税庁の公表資料をもとに、会社のタイプ別に評価額がどちらへ動きやすいか、贈与・事業承継税制・自己株式の取得・持株会社化などを「今やるか、待つか」の考え方、効かなくなるかもしれない株価対策、今すぐできる準備を整理します。残余利益方式の算式は残余利益方式の算式を分解する|還元率と加算期間が非上場株式の評価を動かす、上場準備への影響は非上場株式の評価見直し案|残余利益方式と資本政策への影響で扱っています。
※本記事の計算例・事例は、説明のために作成した架空のものです(国税庁資料の数値を引用した部分を除きます)。
この記事の見出し
自社株評価の見直しはどこまで進んでいるか(2026年10月時点)
非上場会社の株式は、相続や贈与のとき、国税庁の財産評価基本通達に沿って評価します。今は、株式を取得した人が同族株主かどうか、会社が大会社・中会社・小会社のどれに当たるかによって、類似業種比準方式、純資産価額方式、その併用、配当還元方式を使い分けています。今の判定の順番は自社株評価は類似業種比準と純資産価額のどちらになるか|判定の順番で解説しています。
見直しのきっかけは、会計検査院が令和6年11月の令和5年度決算検査報告で、評価方式の間で評価額に開きがあることや、配当還元方式の還元率が近年の金利水準と比べて高いおそれがあることを指摘したことです。これを受けて国税庁は2026年4月20日に「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を始め、10月13日までに6回の会合を開いています。
図1 第5回で方向性、第6回で各論の案が示されました。第7回の日程と取りまとめの時期は公表されていません
方向性がはっきり示されたのは8月20日の第5回です。会社の規模による区分をやめて広い範囲の会社を共通の方式で評価すること、収益力を重視する評価(インカムアプローチ)を主軸にすること、その中心として残余利益方式を置くことが示されました。類似業種比準方式は理論的な根拠や実証的な裏付けが乏しいとして存置は困難ではないか、純資産価額方式は特定の評価会社の評価方式に位置付けてはどうか、配当還元方式は適用範囲などを見直したうえで特別の例外として存置してはどうか、という問いかけの形で示されています。
図2 第5回・第6回の資料で示された方向性です。いずれも案の段階で、決定したものではありません
第6回(9月16日)で示された各論
9月16日の第6回では、残余利益方式の具体的な組み立てが「〜としてはどうか」という案の形で示されました。主な点は三つです。一つ目は、会計基準の違いで評価額に差が出ないよう、法人税申告書(別表四・別表五(一))を基礎にすること。二つ目は、超過収益を加える期間を5年程度とし、課税時期前5年の正常利益(経常的に生じない損益を除いた利益)の実績から予測すること。三つ目は、6年目以降の価値(ターミナルバリュー)は加えないことです。
あわせて、残余利益方式で評価しにくい会社などを「特定の評価会社」として整理する案も示されました。資産管理会社、組織再編の直後や開業後5年未満・開業前の会社、休業中の会社、清算中の会社という類型です。資産管理会社は、有価証券や遊休不動産、現預金などの特定資産が帳簿価額で総資産の70%以上、または特定資産の運用収入が総収入の75%以上かどうかで判定する案です。さらに、一定の要件を満たす従業員持株会の株式は固定価格で評価する案も出ています。
図3 算式の詳細と数値の振れ幅は別記事で分解しています。還元率としんしゃく率は未定です
まだ決まっていないこと
一方で、税負担を大きく左右する部分の多くは決まっていません。還元率と、評価額に掛ける「しんしゃく率」は第7回以降の論点とされ、純資産価額方式の各論や配当還元方式の範囲もこれからの議論です。適用時期と経過措置は、第5回・第6回の資料や第5回の議事要旨に記載がありません。
| 論点 | 2026年10月13日時点の状況 |
|---|---|
| 適用時期 | 未定(公表資料に記載なし) |
| 還元率・しんしゃく率 | 未定(第7回以降の論点とされている) |
| 超過収益を加える期間 | 5年程度とする案(第6回) |
| 利益の算定期間 | 課税時期前5年の正常利益の実績から予測する案(第6回) |
| 経過措置 | 未定(公表資料に記載なし) |
| 特定の評価会社の判定 | 4つの類型と資産管理会社の判定基準の案(第6回)。純資産価額方式の各論は今後 |
| 配当還元方式 | 存置の方向。適用する株主の範囲や算式は今後 |
| 令和9年度税制改正での扱い | 税制改正大綱は10月13日時点で未公表 |
経済産業省は令和9年度税制改正要望に「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し」を掲げ、見直しが企業の成長や事業承継を妨げないよう慎重に検討することを求めています。第6回には中小企業庁などが意見書を出し、影響の分析が規模別の中央値だけでは不十分であること、拙速な結論を避けるべきことを述べています。評価方法は財産評価基本通達で定められているため、いつ、どのような形で改正されるかは、今後の税制改正の議論とあわせて見ていく必要があります。
図4 評価方法は財産評価基本通達で定められています。改正の時期は公表資料に示されていません
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会社のタイプ別に見た評価額の方向性
見直し後の評価額が上がるか下がるかは、「今どの方式の比重が大きいか」と「簿価純資産に対して利益がどれだけ出ているか」の二つでおおむね見当がつきます。残余利益方式は簿価純資産を出発点に、期待される利益(簿価純資産×還元率)を上回る利益が出ていればその分を上乗せし、下回れば差し引く考え方だからです。
第6回の資料には、令和2年分から5年分の申告から1,378社を選んで試算した結果が載っています。還元率8%・加算期間5年と仮定し、純資産価額に対する評価額の割合(中央値)を比べると、大会社は現行の38.2%に対して、しんしゃく率0.8の場合は63.8%でした。中会社は53.4%に対して59.2%、小会社は63.8%に対して50.5%です。現行の申告評価額以下になる会社の割合も、しんしゃく率0.8で大会社24.2%、小会社67.9%と大きく違います。しんしゃく率は0.7〜1.0の4通りで試算されており、率が変わればこれらの水準も変わります。
図5 令和2年分〜5年分の申告から1,378社。還元率8%・加算期間5年と仮定した国税庁の試算です
大会社は今、原則として類似業種比準方式で評価でき(純資産価額のほうが低ければ純資産価額)、その価額が純資産価額を大きく下回ることが多いため、見直し後は上がりやすいといえます。反対に小会社は今でも純資産価額の比重が大きく、しかも純資産価額方式では土地などを相続税評価額に洗い替えます。見直し案は時価への洗替えをしない簿価純資産が出発点なので、昔から持っている土地の含み益が大きい会社などは、下がる方向に働く可能性があります。
資料の計算例も見ておきます。簿価純資産1億円の会社で、年利益1,000万円・配当200万円の例1は約8,261万円、年利益500万円・配当100万円の例2は約6,853万円と示されています(還元率8%・しんしゃく率0.8の仮置き)。しんしゃく率を掛ける前の金額で比べると、例1は約1億327万円で簿価純資産を上回り、例2は約8,566万円で下回ります。利益が「簿価純資産×還元率」に届かない会社は簿価純資産より低く評価される、という仕組みが読み取れます。
図6 利益が「簿価純資産×還元率」に届かない会社は、簿価純資産を下回って評価されます
これらを踏まえて、会社のタイプごとの方向性を整理すると次のようになります。還元率・しんしゃく率が決まっていないため、数値ではなく「どちらに動きやすいか」の目安です。会社名はいずれも架空です。
| 会社のタイプ(架空の例) | いま評価で効いている要素 | 見直し案で効く要素 | 方向性の目安 |
|---|---|---|---|
| 高収益の大会社(製造業A社) | 類似業種比準方式。純資産価額を大きく下回ることが多い | 簿価純資産+超過収益 | 上がりやすい |
| 簿価純資産が大きく、利益は平均的な中会社(卸売業B社) | 類似業種比準方式と純資産価額方式の併用 | 簿価純資産と利益の大小 | 会社による(還元率しだい) |
| 赤字・低収益の会社(C社) | 純資産価額の比重が大きくなりやすい | 簿価純資産から差し引かれる | 下がりやすい |
| 昔から持つ本社土地の含み益が大きい小会社(D社) | 純資産価額方式で含み益が評価に入る | 簿価が出発点で含み益は入らない | 下がりやすい |
| 不動産・有価証券が中心の資産管理会社(E社) | 土地保有特定会社などとして純資産価額方式 | 特定の評価会社として純資産価額方式(案) | 未定(純資産価額方式の各論しだい) |
| 事業子会社を100%持つ持株会社(F社) | 株式等保有特定会社として純資産価額方式になることが多い | 完全子会社の株式を適正な価額に修正する案 | 子会社の収益力しだい |
| 開業後3〜5年の会社(G社) | 開業後3年以上なら原則的評価方式 | 開業後5年未満は特定の評価会社とする案 | 未定 |
図7 還元率・しんしゃく率が決まっていないため、方向の目安にとどまります
自社がどこに当たるかは、現行方式での株価と、簿価純資産・過去5年の利益の水準を並べてみると見当がつきます。還元率や加算期間の置き方で評価額がどれだけ振れるかは残余利益方式の算式を分解する|還元率と加算期間が非上場株式の評価を動かすで詳しく分解しています。
見直しで効かなくなる可能性が議論されている株価対策
第5回の資料では、評価額を大きく下げるスキームが問題として取り上げられ、配当還元方式だけを適用して評価額を90%以上圧縮するスキームも可能であり、株主構成の操作で企業価値の総額から最大で約98%圧縮した事例もあると示されています。第5回は対応が必要なスキームを、会社規模等の操作、利益等の恣意的な操作、グループ法人税制を使った移転、株主構成の操作による配当還元方式の濫用の四つに整理し、第6回ではそのうちいくつかについて具体的な対応案が示されました。
| 株価対策 | いまの効き方 | 資料で示された対応案 | 状況 |
|---|---|---|---|
| 従業員数や取引金額を増やして会社規模を上げる | 大会社ほど類似業種比準方式の比重が大きく、評価が下がりやすい | 規模によらず単一の評価方式に | 第5回で方向性 |
| 役員退職金の支給で直前期の利益を下げる | 類似業種比準方式の利益が下がる | 一時的な支出として正常利益の計算で損金から除く案(純資産は修正しない) | 第6回で案。反対意見もある |
| 親族役員に高い報酬を払う | 利益が下がる | 経営の対価を超える部分の一定割合を正常利益の計算で除く案 | 第6回で案 |
| オペレーティング・リースで損失を出す | 利益と純資産が下がる | 課税時期にあるリースがなかったものとして利益と純資産を修正する案 | 第6回で案。法人税の側で対応すべきとの意見もある |
| グループ内で子会社へ利益や資産を移す | 親会社単体の評価が下がる | 完全支配関係にある子会社株式を適正な価額に修正する案 | 第6回で案 |
| 株主構成を操作して配当還元方式を使う | 評価額を大きく下げられる | 適用する株主の範囲を整理する方向 | 具体案は今後 |
| 従業員持株会など固定価格の株式を使う | 支配株主の株価が下がる | 持株会の株式を固定価格で評価し、残りの株式に企業価値を配分する案 | 第6回で案 |
役員退職金そのものが否定されるわけではありません。退職金が法人税で損金になるかどうかは別の問題として残り(役員退職金の過大部分を指摘されたら|功績倍率の反論材料)、評価のうえでは「一時的な支出として利益から除くかどうか」が論点です。第5回の議事要旨には、制限を強めることに反対する委員の意見も記録されており、結論は出ていません。
図8 第6回資料の案です。第5回の議事要旨には、制限の強化に反対する委員の意見も記録されています
持株会社化も影響を受けます。今は、持株会社が株式等保有特定会社に当たると、原則として純資産価額方式(S1+S2方式も選べます)で評価し、持っている子会社株式もその中で評価します。見直し案では、完全支配関係にある子会社の株式は簿価によらず適正な価額に修正して、親会社の評価に反映するとされています。グループ内の移転で親会社の評価だけを下げる設計は、効果が薄れる方向です。
図9 修正の範囲はグループ法人税制の「完全支配関係」に限る案です。より広くすべきとの委員意見もあります
どれも案の段階で、確定していません。ただ、これから新たに株価を下げるための取引を考えている場合は、その効果が見直し後も続く前提で計画を立てないことをおすすめします。すでに実行した対策についても、移転の時期が見直しの適用時期より後になれば、新しい方式で評価されることになります。
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事業承継の手段ごとに「今やるか、待つか」を考える
評価方法の見直しは、承継の手段ごとに影響の受け方が違います。見るべき点は二つです。一つは、その手段が「いつの評価額」を使うか。もう一つは、評価額が上がったときの負担を和らげる仕組みがあるかです。主な手段を一覧にすると次のようになります。
| 手段 | 見直しの影響の受け方 | 今やる理由 | 待つ理由 |
|---|---|---|---|
| 暦年贈与 | 贈与した年の評価額で課税。相続前の一定期間の贈与は相続財産に加算 | 上がりやすい会社は、現行方式のうちに少しずつ移せる | 下がりやすい会社は、見直し後のほうが同じ株数を少ない税で移せる可能性 |
| 相続時精算課税 | 相続時に加算されるのは贈与時の価額 | 評価額を現行方式の水準で固められる | 一度選ぶと暦年課税に戻れない。下がる会社では不利に |
| 事業承継税制(特例措置) | 評価額が上がっても猶予の対象(特例措置は猶予割合100%) | 特例承継計画は2027年9月30日、贈与・相続は2027年12月31日が期限 | 猶予の打切りのリスクと長期の管理。要件を満たし続けられるか |
| 自己株式の取得(金庫株) | 会社が買い取る価額や売主の課税にかかわる | 分散した株式を集め、議決権を整理できる | 買取価額の考え方が変わる可能性。分配可能額の制約もある |
| 持株会社化 | 子会社株式の評価の仕方を見直す案 | 組織としての必要性があれば進めてよい | 評価を下げる目的なら効果が薄れる可能性 |
| 従業員持株会 | 固定価格の株式の評価を見直す案 | 福利厚生や安定株主として必要なら | 株価対策が主な目的なら結論を待つ |
| 種類株式(無議決権株式など) | 無議決権株式を使った世代間の譲渡が濫用例に挙げられた | 議決権を後継者に集める目的なら有効 | 評価上の効果を狙う設計は慎重に |
暦年贈与と相続時精算課税
暦年課税の贈与は、年110万円の基礎控除があり、その年の評価額で贈与税がかかります。令和6年1月1日以後の贈与は、相続開始前7年以内のものが相続財産に加算されます。ただし段階的に延びる仕組みで、令和8年12月31日までの相続は3年以内、令和9年1月1日から令和12年12月31日までの相続は令和6年1月1日以後の贈与が加算の対象です。延びた4年分の贈与は、合計100万円までは加算されません。
相続時精算課税は、贈与の年の1月1日に60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫が受ける贈与で選べる制度です。令和6年1月1日以後の贈与から年110万円の基礎控除が設けられ、それを引いた残りから特別控除(累計2,500万円まで)を差し引き、超えた部分に20%で贈与税がかかります。相続のときは、基礎控除を引いた後の贈与時の価額が相続財産に加算されます。
このため、見直し後に評価額が上がりやすい会社では、現行方式の価額で固められる点に意味があります。反対に、評価額が下がりやすい会社では、高い価額で固めることになりかねません。一度選ぶとその贈与者からの贈与は暦年課税に戻せないため、慎重な判断が必要です。二つの制度の比べ方は生前贈与は暦年課税と相続時精算課税どちらを選ぶ?7年加算と110万円基礎控除を比較をご覧ください。
図10 見直し後に上がりやすい会社では価額を固める意味があり、下がりやすい会社では不利に働くことがあります
事業承継税制(特例措置)
特例措置は、都道府県に特例承継計画を提出したうえで、2027年12月31日までの贈与・相続で後継者が取得した株式について、贈与税・相続税の全額の納税を猶予する制度です。対象となる株式数の上限はなく、後継者は最大3人まで認められます。特例承継計画の提出期限は2027年9月30日です。評価額が上がっても猶予の対象になるため、見直し後に上がりやすい会社にとっては有力な選択肢です。
ただし猶予は要件を守り続けることが前提です。贈与・相続後の経営承継期間(原則5年)内に後継者が代表者でなくなる、株式を譲渡するなどの事由に当たると猶予が打ち切られ、猶予された税を利子税とあわせて納めることになります。期間の経過後も、株式を譲渡すればその部分の猶予は打ち切られます。中小企業庁などは第6回への意見書で、事業承継税制は中堅企業が対象外であり、中小企業でも管理の負担などから活用できる者が限られていると述べています。使うかどうかの判断は事業承継税制は使うべきか|猶予が打ち切られる場合と、使わない選択、打切りの事由と提出書類の期限は事業承継税制の納税猶予が打ち切られるのはどんなとき?取消事由と年次報告書・継続届出書の期限を解説で整理しています。
図11 見直しの適用時期は未定のため、特例措置の期限との前後関係は現時点で分かりません
自己株式の取得・従業員持株会・種類株式
分散した株式を会社が買い取る自己株式の取得は、評価方法が変わっても「議決権を整理する」という目的は変わりません。個人株主が発行会社に株式を売ると、原則として受け取った金額のうち資本金等の額に対応する部分を超える金額がみなし配当として課税されます。相続税を納める人が、相続で取得した自社株を相続税の申告期限の翌日以後3年以内に発行会社へ売る場合は、みなし配当とせず譲渡所得として課税する特例(いわゆる金庫株特例)があります。詳しくは金庫株特例とは?自社株の相続税が払えないときのみなし配当特例と取得費加算で解説しています。買取価額は売主と会社の双方の税務にかかわるため、見直し後の評価方法との関係にも注意が必要です。
従業員持株会は、第6回で固定価格の株式の評価を見直す案が示されました。福利厚生や安定株主の確保という目的で運営しているなら、結論を待たずに続けてかまいません。種類株式は、議決権を後継者に集めるための設計としては今後も有効ですが、無議決権株式を使った世代間の譲渡が配当還元方式の濫用例として挙げられています。種類株式の使い分けは事業承継で議決権を守る種類株式とは?黄金株・無議決権株式・属人的株式の使い分けをご覧ください。
図12 目安の流れです。家族の事情や会社の資金繰りもあわせて判断します
判断の流れを図にまとめました。数年以内に株式を移す予定があり、見直し後に上がりやすい会社なら、相続時精算課税や事業承継税制の期限を意識して早めに検討します。方向が読めない会社や下がりやすい会社は、急いで移すよりも、試算と資料の準備を先に進めるのが無難です。
今すぐできる準備
見直しの結論を待つ間にも、やっておけることがあります。第6回の案どおりなら、評価の基礎は過去5年の法人税申告書と、一時的な損益を除いた正常利益になります。どちらも、承継の手段を選ぶときに必ず使う資料です。まず現行方式で株価を出し、そのうえで簿価純資産と過去5年の利益の水準を並べておけば、見直しの数値が公表されたときにすぐ当てはめられます。
図13 どの承継の手段を選ぶにしても使う資料です。見直しの結論を待つ間に進められます
もう一つの柱が株主構成の整理です。名義だけ他人の名前になっている株式(名義株)や、親族・元役員に分散した株式があると、どの手段を使うにしても手続が進みません。後継者が特別決議に必要な議決権を確保できるか、遺留分をめぐる争いが起きないかも、この段階で確認しておきます。名義株の整理は名義株とは?事業承継で問題になる理由と株主名簿の整理手順を解説、遺留分の民法特例は事業承継で自社株が分散するのはなぜ?遺留分の民法特例(除外合意・固定合意)を解説で解説しています。
図14 名義株や分散した株式があると、贈与・事業承継税制・自己株式の取得のどれも進めにくくなります
準備の状況は、次のチェックリストで確かめてください。
- 現行の財産評価基本通達で、直近の決算にもとづく株価を試算した
- 過去5期分の法人税申告書(別表四・別表五(一))と決算書をそろえた
- 役員退職金、保険の解約益、固定資産の売却損益など、一時的な損益を年度ごとに一覧にした
- 株主名簿と実際の出資者を照らし合わせ、名義株や所在の分からない株主がいないか確認した
- 後継者が特別決議に必要な議決権を確保できるか確認した
- 事業承継税制(特例措置)を使うなら、2027年9月30日の特例承継計画の提出期限から逆算した日程を作った
- 資産管理会社・持株会社・開業後5年未満など、特定の評価会社の案に当たりそうか確認した
よくある質問
2026年10月13日時点で、国税庁の有識者会議の資料・議事要旨のいずれにも適用時期の記載はありません。経過措置も示されておらず、令和9年度税制改正での扱いも公表されていません。
会社によります。見直し後に評価額が上がりやすい会社では現行方式のうちに移す意味がありますが、下がりやすい会社では待ったほうが有利になる可能性もあります。還元率などが決まっていないため、現行方式での試算と、見直し案の考え方による方向の目安を並べてから判断してください。
現時点では現行の財産評価基本通達が有効で、相続・贈与では類似業種比準方式を含む今の方式で評価します。「存置は困難ではないか」というのは、見直しの議論の中で示された案です。
猶予を受けている税額は、贈与・相続のときの評価額で計算されています。見直しがすでに受けた猶予の税額にどう関係するかを示した公表資料はありません。まずは猶予の継続要件と、年次報告書などの提出期限を守ることが大切です。
最初の一歩は、現行方式での株価試算です
直近の決算書と過去5期分の法人税申告書を用意し、現行方式で株価を出したうえで、簿価純資産と利益の水準から見直し後の方向を当てはめてみてください。数値が手元にあれば、どの手段を急ぐべきか、どれは待ってよいかの話し合いが具体的になります。
まとめ
国税庁の有識者会議では、会社の規模による区分をやめ、簿価純資産に超過収益を加減する残余利益方式を中心にする案が議論されています。第6回では、法人税申告書を基礎にすること、5年程度の超過収益を加えること、一時的な損益を除いた正常利益を使うことなどの各論が示されましたが、還元率・しんしゃく率・適用時期・経過措置は決まっていません。
国税庁の試算では、大会社は評価額が上がる会社が多く、小会社は下がる会社が多い傾向が示されています。役員退職金やオペレーティング・リースで利益を下げる対策、グループ内の移転、配当還元方式を使う株主構成などは、効果が薄れる方向の案が出ています。
事業承継の判断では、各手段が「いつの評価額」を使うか、評価額が上がったときの負担を和らげる仕組みがあるかを見比べます。特例承継計画の提出期限(2027年9月30日)のように動かない期限もあるため、現行方式での試算と株主構成の整理から始めてください。
現行方式での株価試算、見直し後の影響の見通し、贈与・事業承継税制・持株会社化の比較まで、公認会計士・税理士が対応します。相続・贈与の申告まで見据えたご相談は相続税申告サポート、株式の買取りや組織再編に伴う株価の算定は株価算定のページをご覧ください。初回のご相談は無料で、オンラインにも対応しています。
公認会計士としての実務歴は13年以上、独立後は20社を超える支援に関与しています。労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可申請にかかる監査証明と合意された手続業務に対応しています。優成監査法人(現・太陽有限責任監査法人)で上場企業および上場準備企業の監査に従事し、太陽グラントソントン・アドバイザーズで財務デューデリジェンスと企業価値評価に携わりました。プロフィールを見る
本記事の根拠
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」
- 国税庁 第5回会合資料(2026年8月20日)
- 国税庁 第6回会合資料(2026年9月16日)
- 財務省掲載 経済産業省「令和9年度税制改正要望事項(取引相場のない株式の評価方式に関する見直し)」
- 国税庁 タックスアンサーNo.4103 相続時精算課税の選択
- 中小企業庁 法人版事業承継税制(特例措置)
免責:本記事は一般的な情報提供を目的とし、個別案件に対する法務、会計、税務その他の専門的助言を構成するものではありません。実際の対応は、最新の法令・取引所規則・公表資料を確認し、必要に応じて専門家へご相談ください。
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